【ゆるゆりSS】ふたりの距離
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13:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:36:52.86 ID:I2AyKHWk0
 時間というものは、残酷だ。
 こんなにも結びつきの強かったふたりの関係が壊れてしまったこと。
 その状態を、「普通」にしてしまうなんて。

 三年生になってクラスも別々になり、向日葵と櫻子の距離感は、元に戻る余地すらも感じさせなくなってしまった。
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:38:36.22 ID:I2AyKHWk0
 夕暮れが痛々しいほどに赤い、翌日の放課後。
 いつもどおりひとりで帰ってきた向日葵は、ちらと目線を動かしながら周囲に誰もいないことを確認し、家に入ろうとした。
 しかし、

「きゃっ!?」
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:39:02.22 ID:I2AyKHWk0
――櫻子がばかなことをしたのは、本当に櫻子が悪いと思う。
 ひま姉がずっと手を差し伸べてたのに、ずっと素直になれなくて、ずっとずっとその気持ちを裏切ってきた。
 あんな風にふざけて0点の答案を見せびらかすような真似をして。
 本当に、本当にばかだった。

以下略 AAS



16:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:39:44.44 ID:I2AyKHWk0
 やっぱり、ふたりの関係はもう戻らないところまで壊れてしまったのだろうか。
 夜、やや腫れぼったい目を枕におしつけながら、花子はベッドに横になっていた。
 櫻子は今日も変わらずに勉強を続けている。それもこれも向日葵と一緒になるためのはずなのに、どうしてふたりは昔のような関係に戻ろうとしないのだろうか。
 櫻子のことも、向日葵のことも、もうわからない。
 これが大人になるということなのだろうかと、花子は小さくため息をついた。
以下略 AAS



17:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:40:24.80 ID:I2AyKHWk0
「花子ちゃんには、全部話しておかなきゃと思いまして」
「ひま姉……」

 明かりが小さく落とされた、薄暗い向日葵の部屋。そのベッドのへりに並んで座って、花子は向日葵の話を聞いた。
 パジャマ姿の向日葵はどこか昔よりも大人っぽい気がして、なんだかドキドキしてしまいそうなほど、綺麗だと思った。
以下略 AAS



18:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:41:32.48 ID:I2AyKHWk0
「あれは……2月の終わりくらいでしたか」

 問題集を広げて、授業中にとったノートを見返して、せっせとペンを動かしていた。
 私にとっては見慣れない姿。でも、ずっとずっと見ていたくなるような、そんな懐かしい背中。

以下略 AAS



19:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:42:09.04 ID:I2AyKHWk0
 花子は、今も薄暗い部屋で勉強を続ける櫻子のことを思いながら、向日葵の言葉に耳を傾けた。
 ずっと見えてこなかった向日葵の思惑が、ずっと不思議に思っていた櫻子のすべての行動が、腑に落ちていくような気がした。
 今のこの状況が、なるべくしてなったどうしようもない現実だということが、やっとわかった。

「だから私は決めましたわ。あの子のしたいようにさせてあげようって」
以下略 AAS



20:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:42:45.74 ID:I2AyKHWk0
「……花子ちゃんに、お願いがあるんです」
「おねがい?」
「櫻子のこと……これからも支えてあげてほしいんですわ」
「……!」
「あの子がここまで頑張れてるのは、どう考えても、花子ちゃんや撫子さんのサポートがあってのことでしょう。それをもう少しだけ、続けてあげてほしいんです」
以下略 AAS



21:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:43:58.04 ID:I2AyKHWk0
 春が過ぎ、一学期が終わり、中学生活最後の夏休み。
 姉妹の手厚いサポートもあり、そして何より固い決意で努力をし続け、櫻子の成績は着実に上がっていた。

 返ってきた答案用紙を、目を背けるようにバッグにしまう櫻子はもういない。
 代わりに、クラスの平均点を上回る点数が増えてきたテスト結果を、嬉々として花子に見せつける櫻子がそこにいた。
以下略 AAS



22:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:44:36.98 ID:I2AyKHWk0
 櫻子がひとりで怖がっているだけで、今の櫻子が向日葵を裏切るような真似をすることは、もうないだろう。
 向日葵にいくら期待されたって、それを飲み込んだ上で結果を出すことが、今の櫻子にだったらもうできるはずだ。
 こうして櫻子の努力を隣で見守る役目は、本当は向日葵がやるべきこと。
 誰よりも櫻子の考え方を理解していて、櫻子に適格なアドバイスを出せる向日葵が隣にいた方が、 “夢” が叶う確率も上がるはず。目指している道は同じなのだから、二人で手をとりあって頑張っていけばいい。
 また昔みたいに、一緒にいればいい。
以下略 AAS



23:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:45:44.52 ID:I2AyKHWk0
「ねー、どこにいるの!?」
『今飲み物買ってるから。すぐ行くよ』
「早くしなよ、もう電車来るよ!?」
『大丈夫だって。っていうか櫻子こそ、ホームの位置間違えてないよね』
「間違えてないし、もうとっくについてるんだけど!」
以下略 AAS



24:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:46:34.60 ID:I2AyKHWk0
 向日葵に事情を説明され、妹たちとLINEでメッセージを交わし、さすがの櫻子にもようやく事態が飲み込めてきた。

――自分と向日葵を、ふたりきりで温泉旅行に行かせる。
 そのために花子と撫子、そしてちなつとあかりが、グルになって動いていたのだ。

以下略 AAS



25:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:48:05.05 ID:I2AyKHWk0
 女子中学生がふたりだけで宿泊施設に泊まれるものなのか。
 内心疑問に思いながらチェックインの手続きをする向日葵を後ろから見ていたが、特に何かを聞かれることもなく普通に部屋まで通された。
 向日葵に大人っぽい落ち着きがあるからだろうか。櫻子は少しだけ唇を尖らせた。
 用意されていた部屋は驚くほどいい場所で、櫻子は思わずきょろきょろと見渡してしまい、「恥ずかしいですわ」と向日葵にたしなめられた。少し若めの女将がいそいそとお茶を淹れながら、館内や周辺施設の説明をする。
 夕食の時間などについて一通り決め、しずしずと女将が出ていくと、ようやく一息つけそうな時間が訪れた。
以下略 AAS



26:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:48:40.67 ID:I2AyKHWk0
 その後しばらく目の前の問題に打ち込んでいたが、いつもの三割ほども集中できておらず、言い様のないもどかしさを櫻子は感じていた。
 もともとこんな勉強は、ふたりきりの空間で静かにしていては気まずくて間が持たないから、逃げ場を作るために始めたようなものだった。
 けれど、窓際に座る向日葵だけはなぜか妙に落ち着き払っていて。
 部屋に置いてあった観光地情報の資料をゆっくり読み込んだり、また目を細めて外の景色を眺めたりしていた。

以下略 AAS



27:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:49:15.66 ID:I2AyKHWk0
 温泉街をしばらく散策して、部屋に戻り。
 びっくりするくらい豪華だった夕食を部屋で済ませ、ふたりは温泉へ向かった。

 少しずつ少しずつだけど、ふたりの間に言葉数が増えていく。
 必要に応じてする会話だけではない、雑談などが増えていく。
以下略 AAS



28:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:51:14.12 ID:I2AyKHWk0
 ふたりで使うには大きい和室の真ん中に、布団が並べて敷かれている。
 櫻子はその片方にぽすんと倒れ込み、向日葵は部屋の明かりを落とした。

「ほんとに今日はずっと勉強してましたわね。お疲れ様」
「……あんま集中できなかったよ」
以下略 AAS



29:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:51:50.64 ID:I2AyKHWk0
 向日葵はマッサージの体勢からそのまま櫻子の上にもふんと覆いかぶさり、浴衣の上からもぞりと手を忍ばせて、まるまると抱き込むように櫻子を包んだ。
 予想外の言葉と突然の深い抱擁に包まれ、櫻子はあわあわと動揺する。
 向日葵はそんな様子を気にも留めず、櫻子の耳元で淡々と続けた。

「今日一日、あなたのことを見てて……気が変わっちゃったんですわ」
以下略 AAS



30:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:52:42.96 ID:I2AyKHWk0
 しばらくして、さすがに暑すぎるといってギブアップした櫻子は、向日葵の下から這い出て、もう一度温泉で汗を流したくなるくらい火照ってしまった身体をぱたぱたと冷ました。
 向日葵はその様子を微笑ましく見ながら布団の上に座り直し、櫻子に向き直った。

「改めて、言わせてください。あなたのお手伝いがしたいって」
「向日葵……」
以下略 AAS



31:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:53:18.87 ID:I2AyKHWk0
「今日一日、ずっとそばにいて……やっぱり、わかったことがあります」
「……」
「私……あなたのこと、好きなんですわ」
「っ!」

以下略 AAS



32:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:54:02.65 ID:I2AyKHWk0
 翌日。

 櫻子と向日葵は早々にチェックアウトを済ませ、電車を乗り継いで一緒に帰宅した。
 櫻子は大室家へ、向日葵は古谷家へ。しかし向日葵は勉強道具を用意すると、すぐに大室家のリビングへ向かう。
 昔みたいな光景が、また大室家に戻ってくる。
以下略 AAS



33:名無しNIPPER
2023/09/08(金) 03:47:47.33 ID:+C83K3zX0
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