15:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:39:02.22 ID:I2AyKHWk0
――櫻子がばかなことをしたのは、本当に櫻子が悪いと思う。
ひま姉がずっと手を差し伸べてたのに、ずっと素直になれなくて、ずっとずっとその気持ちを裏切ってきた。
あんな風にふざけて0点の答案を見せびらかすような真似をして。
本当に、本当にばかだった。
「でもね、櫻子はもう変わったんだよ……」
あの冬の日からずっと抱えてる、ひま姉に謝りたいって気持ち。
いくら声に出しても意味がないってわかって、その気持ちを伝えるには勉強するしかないんだってことにやっと気づいて。
信じられないかもしれないけど、櫻子は変わったんだよ。
ひま姉と一緒の高校に入るって目標を本気で目指して、毎日毎日、頑張ってるんだよ。
楓に聞いて、知ってるでしょ。
「それなのに……なんでひま姉、櫻子のこと許してくれないの……」
「花子ちゃん……」
「なんでいつもひとりで学校行っちゃうの。なんでいつも逃げるように家の中に入っちゃうの。なんで櫻子のこと、ちゃんと見てあげないの……」
たくさんの想いが詰まった熱い涙が、七森中の制服に染みこんでいく。
向日葵の腕をぎゅっと掴みながら、花子はこれまでの思いの丈を訴えた。
そこへ、
「何してるの、花子」
「っ!」
「どしたの……なんで泣いてるの、向日葵まで」
「さ、櫻子……」
学校からちょうど帰ってきたところらしい櫻子が、優し気な目をして立っていた。
「そっちは向日葵んちでしょ。花子の家はこっちだよ」
「櫻子っ、花子は……櫻子とひま姉に仲直りしてほしくて……っ」
「仲直りって……べつにケンカしてないよ。私たち」
「そういうのじゃなくて……! また昔みたいに戻ってほしくて……!」
櫻子は困ったように微笑みながら古谷家の門をくぐり、向日葵に抱かれている花子の手をするりととった。
「ほんとにケンカとかはしてないもん。ねえ?」
「え、ええ……」
「さ、ほら帰るよ。ごめんね向日葵も」
「櫻子……」
櫻子は目も合わせないままに向日葵にそう告げると、花子の手を引いて自分の家に帰ろうとした。
櫻子と向日葵が言葉を交わすところを見たのは何カ月ぶりだろう。花子はわけがわからないまま、やや強引に手を引かれていく。
昨日はあんなに泣きながら勉強していたのに。毎日毎日ひま姉のことを思って頑張ってるのに。
どうしてそんなに他人行儀に接するのか、花子にはわからなかった。
向日葵には、黙ってそれを見送ることしかできない。
楓もその様子を、家の中から心配そうに見つめていた。
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