14:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:38:36.22 ID:I2AyKHWk0
夕暮れが痛々しいほどに赤い、翌日の放課後。
いつもどおりひとりで帰ってきた向日葵は、ちらと目線を動かしながら周囲に誰もいないことを確認し、家に入ろうとした。
しかし、
「きゃっ!?」
「……」
玄関の脇に隠れていた小さな人影を見つけ、思わず悲鳴をあげてしまった。
そこには……ランドセルを背負ってうつむく花子がいた。
「は、花子ちゃん……?」
「久しぶり……ひま姉」
「ど、どうしたんですのこんなところで……」
「……話したいことがあったから、待ってたんだし。櫻子のことで」
顔を伏せたまま、古谷家の玄関を塞ぐようにじりっと立ち尽くす花子。
その声は怒っているような、悲しんでいるような……複雑な心情を孕んでいた。
「よ、呼んでくれれば、いつでも伺いましたのに……」
「……うそつき」
「えっ」
「今のひま姉が、うちに来るわけないし。櫻子だけじゃなくて、花子のことまで避けてるんだから」
「っ……」
ぽつりと放たれたその言葉に、向日葵は胸を刺されるような思いがした。
櫻子に会わないように家を出て、櫻子に会わないように家に戻る日々。
その中で、できれば花子にも会わないようにと気を付けていたことを、向日葵はずっと後ろめたく思っていた。今もまさに、花子と偶然鉢合わせたりはしないかと気を付けていたところだった。
当の本人にそれを指摘され……申し訳なさでその顔が見られなくなる。
「別にいいんだし、花子のことは」
「っ……」
「ひま姉にそんなことされたら悲しいけど……花子だったらべつに、いくら無視されたって、いくら嫌われたっていいし」
「……」
「でも……櫻子のことだけは……」
ぽたり。
「櫻子のことを避けるのだけは……やめてあげてほしいし……」
「!」
ぽた、ぽたり。
「櫻子は……ひま姉のために、がんばってるんだから……」
「は、花子ちゃん……」
「ずっとずっと、がんばってるんだからぁ……!」
大きな目から、大粒の涙が地面に零れ落ちる。
花子は肩を震わせ、膝から崩れ落ちそうになるほどの悲しみに耐えながら、向日葵に訴えた。
向日葵は持っていたバッグを捨てて花子に駆け寄り、その小さな身体を抱きしめる。
「おねがいひま姉……櫻子のこと……嫌いにならないで……っ」
「っ……」
向日葵の胸に泣き顔をうずめ、花子は心からの想いを弱々しく訴えた。
櫻子だけでなく花子も、張り裂けそうになる胸の痛みに、ずっとずっと耐えてきたひとりだった。
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