22:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:44:36.98 ID:I2AyKHWk0
櫻子がひとりで怖がっているだけで、今の櫻子が向日葵を裏切るような真似をすることは、もうないだろう。
向日葵にいくら期待されたって、それを飲み込んだ上で結果を出すことが、今の櫻子にだったらもうできるはずだ。
こうして櫻子の努力を隣で見守る役目は、本当は向日葵がやるべきこと。
誰よりも櫻子の考え方を理解していて、櫻子に適格なアドバイスを出せる向日葵が隣にいた方が、 “夢” が叶う確率も上がるはず。目指している道は同じなのだから、二人で手をとりあって頑張っていけばいい。
また昔みたいに、一緒にいればいい。
だってふたりは、本当は今すぐにでも一緒にいたいと思い合っているのだから。
今までで一番よかったという成績表を嬉しそうに見せてくる櫻子の笑顔を見るたび、それを独り占めしている自分の幸せさが、向日葵に対してなんだか申し訳ない。花子はそう思っていた。
(……)
どうにかして、櫻子と向日葵を元に戻せないだろうか。
お互いのことを想いながら過ごすこれからの半年は、あまりにも永すぎる。ふたりの胸の内を想像している花子の方が、思わず参ってしまいそうになるほど。
本当は今すぐにでも向日葵をひっぱって連れてきて、櫻子に押し付けてやりたいほどだ。
だが、ここまでこじれてしまった以上、半端なことではふたりは元に戻れない。
もっとふさわしい場所で、もっと時間をかけて、一度ふたりきりになったりして、この半年間の想いの「すり合わせ」をしなくては。
そんな舞台を作ることはできないものかと、夏休み前からずっと悩んでいた。
そんなとき、花子はある人たちと偶然街中で出会った。
その人たちは、今の花子と同じことをずっと思っていたという。
ふとした雑談からそんな話題になり、お互いに抱える悩みがあまりにも同じすぎて意気投合してしまい、思わず夕方まで話し込んでしまうほどだった。
もふもふ髪のおねえさんと、おだんご頭のおねえさん。
その日をきっかけに、花子がそのふたりと繋がっていることを、櫻子も向日葵もまだ知らない。
今もこうして目の前で、別のクラスになってしまったふたりからのメッセージが花子のスマホに届いていることを、櫻子は知らない。
花子のスマホが小さく震えて、またメッセージを受け取る。こっそりとロック画面を解除し、その文面を見つめる。
作戦を決行するときが、来たようだ。
「……櫻子」
「んー?」
「撫子おねえちゃん、明日帰ってくるって」
「へーそうなんだ。ちょっと久しぶりじゃん」
「それで……なんか、温泉でも行こうかってさ」
「え?」
「夏休みだし、久しぶりに旅行でもどうって。櫻子も根つめてずっとがんばってるから、一泊くらいいいんじゃないのって言ってるし」
「なんだ、ねーちゃんからメッセージ来てたの」
先ほどからスマホを震わせているメッセージの主は、べつに撫子ではない。
撫子はすでに作戦の内容を知っていて、そして協力を申し出てくれている。下宿先から明日帰ってくるというのは本当だし、旅行を計画する当事者であるというのも本当だが。
「どう?」
「えー……でも、勉強しなきゃ」
「わかってるって。空いてる時間は旅館の部屋で勉強しててもいいから行こうって、言ってくれてるし」
「……」
「櫻子のこと、心配してるんだよ撫子おねえちゃんは。本当に、ずっとがんばってるから……」
「んー……」
「たまにはどこか出かけて息抜きした方がいいって……花子も思うし」
「!」
花子は少しだけ目を伏せて、寂し気な雰囲気を出しながら、櫻子にそう伝えた。
櫻子が何かを感じ取ってくれたって、見なくてもわかる。
――ごめんね、櫻子。こんな演技までして。
花子が寂しそうにすれば、櫻子は付き合ってくれるって……わかってて、やってるんだよ。
「……一泊か」
「うん」
「それくらいなら……ま、いいか」
「!」
「確かに、夏休みだしね。撫子ねーちゃんも帰ってくるし、久しぶりに家族でどこか行くのもありだよね」
「そ、そうだし」
「よし、そうと決まったら気合入れてもっと宿題片づけなきゃねっ。いつ行くとか決まったらまた教えてよ」
「……うん、ありがと」
櫻子は「よーし」と姿勢を直してまた問題集に向き直り、いっそう集中してペンを走らせ始めた。
花子は下宿先の姉にメッセージを送るふりをして、こっそりと繋がっている「あの人たち」に報告する。
“こっち” も、うまくいきました。
あとは、その日が来るのを待つだけ。
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