【ゆるゆりSS】ふたりの距離
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25:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:48:05.05 ID:I2AyKHWk0
 女子中学生がふたりだけで宿泊施設に泊まれるものなのか。
 内心疑問に思いながらチェックインの手続きをする向日葵を後ろから見ていたが、特に何かを聞かれることもなく普通に部屋まで通された。
 向日葵に大人っぽい落ち着きがあるからだろうか。櫻子は少しだけ唇を尖らせた。
 用意されていた部屋は驚くほどいい場所で、櫻子は思わずきょろきょろと見渡してしまい、「恥ずかしいですわ」と向日葵にたしなめられた。少し若めの女将がいそいそとお茶を淹れながら、館内や周辺施設の説明をする。
 夕食の時間などについて一通り決め、しずしずと女将が出ていくと、ようやく一息つけそうな時間が訪れた。

「あら、眺めもすごいですわ。ほら櫻子」
「うわ……」

 向日葵が窓辺の明かり障子をすっと開け、座っている櫻子に手招きする。温泉街の街並みがやや高所から一望できるロケーションに、思わず櫻子の口からも声が漏れた。
 値段のことはあまり気にしていなかったが、ひょっとしてすごく高いところなんじゃないだろうか。
 午後の落ち着いた雰囲気の温泉街を、浴衣姿の観光客たちがほどほどに行き交い、賑わいを見せている。
 少しだけ胸が高鳴る一方で、こんなことをしている場合じゃないと、櫻子は我に返った。

 部屋の中へと戻り、持ってきたバッグから勉強道具を取り出す。
 女将の淹れたまだ熱いお茶を急いで飲み干して片づけ、ちゃぶ台の上に問題集を広げた。
 向日葵の視線を感じる中、ややぎこちなく問題を解き始める。
 向日葵の前で勉強をするのには少しだけ抵抗があったが、かといって呑気に遊んでいる姿を見せるわけにはいかなかった。

「……」
「……」

 しばらくして向日葵の方を見ると、ローテーブルと一人用のソファが置いてある窓際の謎スペースに座り、お茶を飲みながら外を眺めていた。
 その横顔が綺麗で少しだけ見惚れてしまい、ぶんぶんと首を振って問題集に向き直る。
 向こうはこっちを気にしてなさそうなのに、こっちが向こうのことばかり気になってしまうのが、ちょっとだけ悔しかった。

「……外、行ってくれば」
「?」
「私のことはいいからさ。街の方行ってくればいいじゃん。もったいないよ」
「……いえ、いいですわ。私はここで」
「……」

 何がいいのかはわからないが、そう言われてしまうと言葉が続かない。櫻子はまた問題集に向き直る。



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