19:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:42:09.04 ID:I2AyKHWk0
花子は、今も薄暗い部屋で勉強を続ける櫻子のことを思いながら、向日葵の言葉に耳を傾けた。
ずっと見えてこなかった向日葵の思惑が、ずっと不思議に思っていた櫻子のすべての行動が、腑に落ちていくような気がした。
今のこの状況が、なるべくしてなったどうしようもない現実だということが、やっとわかった。
「だから私は決めましたわ。あの子のしたいようにさせてあげようって」
「……」
「受験結果の出るそのときまで、あの子が自分を律するためにとる方法がそれなのだとしたら……そのとおりにしてあげたいって、思ったんです」
櫻子の気持ちを尊重する。
あの子のために、なるべく静かにしていよう。
あの子の邪魔にならないように、遠くから遠くから配慮してあげよう。
向日葵が今も櫻子から距離を取り続けている理由は、それだった。
「そうこうしていたら、いつの間にか三年生になって……とうとうクラスまで別になってしまって。でもよかったのかもしれませんわ。あの子の歩くスピードは落ちていないようですから……きっとそれが答えなんでしょう」
「……そうかもしれないし」
「ごめんなさいね……花子ちゃんからしてみれば……私のことはずっと、冷たく映っていましたわよね」
「っ……」
「櫻子になるべく関わらないようにしなきゃって……そのためには、花子ちゃんに会ったりするのも控えなきゃって、思ってました。本当にごめんなさい」
「……いいんだし、そんなことは」
「でも私は……本当は今もずっと、あの子のことばかり考えてしまっているんですわ」
「わかってる……」
「ふふっ。ばかみたいに思うかもしれませんけど……本当に、あの子のことばかり」
花子の髪を優しく撫でながら、向日葵は自虐気味に笑った。
やっぱり向日葵は、いつまでも自分の知っている向日葵だった。花子は向日葵の左肩にぽすんと体重を預けた。
――ああ、この人は本当に櫻子のことが好きなんだ。
櫻子のことが大切で仕方なくて、いつだって櫻子のことを想ってくれていて。
こんなに距離をとっているように見せかけても、本当は気になって気になって仕方ないんだ。
「退会届については、正式に受理してませんわ。だからあの子は今でも、うちの生徒会の一員です」
「えっ……」
「もともとあの子がいなくても、普通に回ってるような組織ですし。それにあの子のぶんの仕事をしていると、私もなんだか落ち着くんですわ。櫻子のためにしてあげられることが、まだあるんだって思えて」
放課後の生徒会室は、今は自分にとっての仕事部屋兼、勉強部屋兼、「櫻子との帰宅時間をずらすための待合室」。
そしてあの部屋が一番、櫻子のことをこっそりと感じていられる場所だった。
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