20:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:42:45.74 ID:I2AyKHWk0
「……花子ちゃんに、お願いがあるんです」
「おねがい?」
「櫻子のこと……これからも支えてあげてほしいんですわ」
「……!」
「あの子がここまで頑張れてるのは、どう考えても、花子ちゃんや撫子さんのサポートがあってのことでしょう。それをもう少しだけ、続けてあげてほしいんです」
もう私では、できることは限られているから。
私が手を差し伸べることを、あの子は望んでいないから。
代わりに、 “今の櫻子” に一番近い人に。
「これからもずっと……見守ってあげてほしいんですわ。あの子のこと」
「ひま姉……」
「今日、花子ちゃんがうちに来てくれて……花子ちゃんが櫻子のためにここまでしてくれる子なんだってわかって、なんだか本当に嬉しかったんですわ」
「う……うぅっ……」
「だから、花子ちゃんにだけは私の気持ちを伝えなきゃって思って……思わずお呼びしてしまいました。ごめんなさい、とりとめもなく長話をしてしまって」
「いいし……いいんだし」
「ふふっ、櫻子は本当に幸せ者ですわね……こんなに可愛い妹さんをもって。こんなに素晴らしい家族に恵まれて」
向日葵は体重を預けてくる花子を抱きしめたまま、ぽすんとベッドに倒れた。
その目頭にきらきらとした雫が光っているのを、花子は指を伸ばして掬いとる。
こんなに温かい涙を流してくれる人が、櫻子にはいるんだ。
この人はきっといつまでも、櫻子のことを待ち続けてくれるんだ。
「……花子にどれだけのことができるか、わかんないけど」
「……」
「櫻子がしぼんじゃわないように……がんばってみる」
「……ありがとうございます、花子ちゃん」
櫻子のために、向日葵のために、今の自分にしかできない役目があるということが、花子には嬉しかった。
けれど、
(でも……やっぱり)
そんな気持ちとはべつに、ふたりに対して思うところがある。
(やっぱり……ふたりには、一緒にいてほしいし)
コツコツと努力を続ける櫻子もかっこいいけど。
やっぱり、ひま姉とツンツン突っぱね合ってる姿の方が、元気そうに見えるから――。
花子は柔らかい胸に抱かれながら、向日葵の成分を身体いっぱいに補充して、
そして家に帰って机に向かっている櫻子の背中を抱きしめ、その成分をいっぱい送り込んだ。
櫻子は突然の愛情深いハグに困惑したが、黙ってその温かみを受け入れる。
花子に心配をかけてしまっていることは、櫻子も重々承知していた。
それこそ、勝手に向日葵を待ち伏せて、勝手に思いの丈をぶつけてしまうくらい。
当人同士よりも気持ちが高ぶってしまうほど感受性が高すぎる妹が、可愛くて仕方なかった。
「もう……しょうがないなー花子は」
櫻子はペンを置き、そのまま花子を抱っこしてベッドに運び、自分も横になった。
撫子が家を出てからというもの、一緒のベッドで眠る回数が増えていることは、ふたりだけの秘密だった。
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