【ゆるゆりSS】ふたりの距離
1- 20
29:名無しNIPPER[sage saga]
2023/09/07(木) 21:51:50.64 ID:I2AyKHWk0
 向日葵はマッサージの体勢からそのまま櫻子の上にもふんと覆いかぶさり、浴衣の上からもぞりと手を忍ばせて、まるまると抱き込むように櫻子を包んだ。
 予想外の言葉と突然の深い抱擁に包まれ、櫻子はあわあわと動揺する。
 向日葵はそんな様子を気にも留めず、櫻子の耳元で淡々と続けた。

「今日一日、あなたのことを見てて……気が変わっちゃったんですわ」
「ちょっ……!」
「やっぱりあなたのこと……応援したい。わからないところとか、教えてあげたいって」
「な、なにそれ! 今まで私のこと避けてたくせに!」
「それはあなたの方が逃げていくから、あえて追いかけなかっただけですわよ。でも……今は違う」

 もぞもぞと身をよじって抵抗を続ける櫻子が逃げないように、深く優しく抑え込む。

「本当にあなたのこと……見直したんですわ。だから、応援したい。あなたの力に……なりたいの」

 櫻子はぴたりと動きをとめ、しばしの静寂が流れる。
 そして枕に顔をうずめながら、弱々しい声を漏らした。

「……ゃだよ……」
「え?」
「こわいよ……これで、向日葵と同じ高校受からなかったら……どうすんの……」
「……」
「またあのときみたいに泣かせちゃうくらいなら……私に期待なんて、しない方がいいよ……」
「櫻子……」
「私、まだまだバカなんだからさぁ……」

 思いつめたような泣き声を聞き、向日葵は櫻子の髪を撫でる。
 くしゅくしゅと手でもてあそびながら、その耳元に優しく語りかけた。

「失敗したときのことなんか……落ちちゃったときのことなんか、考えなくていいんですわ」
「……」
「もし仮に不合格だったとしても、私は絶対にあなたを責めたりしません。だって私はもう、櫻子がこんなに頑張ってるんだって知ってるんですもの」
「向日葵……」
「自分の力でこんなに頑張れるようになった櫻子が、もし全力でチャレンジして……それでもだめだったら、それはしょうがないじゃない。私はきっと、あなたを誇りに思いますわ」

 櫻子の首元に顔をうずめ、親が子に語り掛けるかのように、優しく話す向日葵。
 その温かさが、その重みが、櫻子にはたまらなく愛しかった。
 この半年間、本当はずっと、向日葵とこんな風に話したいと思っていた。
 いつの間にか、夢は夢じゃなくなっていた。

「それにきっとその時は、あなたを責めるより前に、私の方が後悔してますわよ。櫻子のために何もしなかったんだって」
「え……?」
「櫻子はこんなに頑張ったのに、私がそれを見捨てたってなったら……激しく後悔すると思いますわ。そうなったらたとえ高校浪人したって、あなたに付き合うと思います」
「……そんなこと、考えなくていいよ……」
「ふふっ、そうですわね。というか落ちませんって。絶対」
「もう、なんの根拠もなしに……」
「いいえ。私にはわかります。櫻子はやると決めたらやる子ですから」
「……」
「絶対、ぜったい、大丈夫ですわ」

 向日葵の料理にだけ、お酒でも入っていたのだろうか。
 あんまりにも大人っぽいから、女将さんが気を利かせてお酒を用意しちゃったのだろうか。
 もぞもぞと甘えながら密着してくる向日葵の色っぽさに、櫻子の胸の鼓動はピークに達していた。

 けれど一方の向日葵は、くすくすと微笑みながら、密着状態を崩すことはなくて。
 この半年の間に募った想いを、ずっとこんな風にしてみたいと思っていた気持ちを注ぎ込むかのように、触れ合う面積を少しずつ増やして。
 そうして伝わってくる体温を感じて、櫻子はなんだか勇気が湧いてくるような気がした。

 ごろごろ、ごろごろと、ふたりして布団の海に揺られる。
 こんなこと今までしたことなかったのに、一度距離が離れたせいか、お互いがお互いの温もりを求めてしまっていた。




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