194:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:20:27.20 ID:yoGsi3kr0
「とにかく、今日は北上の昇進記念という事で夕飯を豪華にするぞ! 明石中佐もくるか?」
「私ですかい? 私は北上の新しい艤装の最終整備もありますし、申し訳ないですが、いつも通りということでお願いします」
「そうか……。たまには明石中佐と飯を一緒にできればいいのだが、そう言う事ならばよろしくお願いしたい。いつも艦娘のことを思ってくれてありがとう。今日は明石中佐にもいっぱい料理を作るよ」
195:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:21:48.68 ID:yoGsi3kr0
この日の夕飯は、佐伯の街中で買ってきたローストビーフに白ワイン、そして私と五月雨でつくったトマトバジルピザにミートドリア、サラダというメニューとなった。
なんか、お祝いとか良い事があると、いつもイタリアンになってしまってる気がするが、まあ皆好きだからいいのである。
そして三人で、テーブルを囲んで乾杯。相変わらず妹の飲みっぷりは豪快であった。五月雨はワインを一口飲むと、サラダをしゃりしゃりと食べはじめる。
196:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:22:59.15 ID:yoGsi3kr0
それから少しして、最初に会話を切り出したのは妹であった。
「そいえば、五月雨ちゃん。私が今日昇進したら、お願い一つ聞いてあげるって言ってくれたよね〜」
「う、うん。そうだよ」
197:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:23:48.09 ID:yoGsi3kr0
「いいじゃん、女の子同士なんだしさ。
――それに私は五月雨ちゃんのコトをもっと知りたい。そして私はどんな五月雨ちゃんでも受け入れられるから……。だって家族だもん。私には隠さなくていいんだよ?」
妹はグラスをテーブルに置くと、急に真面目な顔をして五月雨に視線を据えてそう言った。五月雨はその言葉にとても戸惑った表情をみせた。
198:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:24:51.84 ID:yoGsi3kr0
夕食が終わり風呂に入ったあと、私は久しぶりに明石中佐に夕食を届けにいくことにした。
ただ届けるだけじゃなく、中佐とお喋りしたいので、釣り道具を片手に桟橋で晩酌にしようと思ったのだ。
199:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:25:55.68 ID:yoGsi3kr0
「まぁ、猫が食べていけないものは拒否するようになっているだけですがね」
「それは、どういうこと……?」
「あれ、少佐にはまだ言ってませんでしたっけ? アカトゥルフの右目のこと」
200:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:26:49.10 ID:yoGsi3kr0
「この子、捨て猫だったんですよ。雨の日に呉鎮守府の裏口に捨ててあったのを、呉の明石少将が見つけたんです。かなり衰弱しており、しかも、右目が感染症にかかっていたのですよ。少将はすぐに海軍医大附属動物病院に連れていったそうですが、右目を摘出しなければ助からないと言われたそうです。命には代えられないと少将は子猫の右目の摘出手術を決断。その時に医者から、子猫を開発中であった眼球型AIコンピュータの被験体にさせてくれないかと頼まれたそうです」
中佐はそこで一旦言葉を切ると、持っていた朱霧島を二つのおちょぼに注いだ。中佐は一つを私に手渡す。私は小さく頭を下げて、それを飲んだ。
喉が熱い。隣の明石中佐は平気そうな顔で飲んでいる。整備士という仕事柄なのか、酒にはやはり強いようだ。
201:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:27:57.85 ID:yoGsi3kr0
「……アカトゥルフは手術後、リハビリを重ねながら、人間の眼球型AIコンピュータを開発するにあたって必要なデータを色々と採取されたようです。そして、それが終わると、漸く少将のもとへと返されたんですがね……」
そこで明石中佐はため息を吐いて、ワインを一口する。
「まぁ、命の恩人とはいえ、そんな危険な手術や開発実験に差し出した少将のことをアカトゥルフはよく思ってなかったらしく、なつかなかったんですよ。あと、そもそも、呉鎮守府は猫禁止ですし……」
202:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:29:07.15 ID:yoGsi3kr0
一年十カ月前……吹雪中佐が前任司令官とケッコンする一年前のことである。中佐に何かあったのだろうか。
「ちと辛いことって……?」
「まぁ、端的にいえば、大切な人を亡くしたんですよ」
「……それは艦娘……?」
203:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:30:31.95 ID:yoGsi3kr0
中佐は白波の少し立つ宇和の海を眺めながらそう言うと、吸っていた煙草を口から離した。その表情はすこし、不安そうにも見えた。
「中佐、本題というのは……」
「本題というほどのものじゃあないですよ。ただ、今夜は時化るかもしれないから、少佐は早く帰って中にいた方がいいと伝えたかっただけです」
204:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:31:12.78 ID:yoGsi3kr0
「――少佐、これからが少佐の手腕が試されるときです。色々あると思いますが、頑張ってください。私も応援してますから……」
明石中佐は私の背中をそっと押すように言う。私は振り返らずその場で小さく頷くと、その場をあとにしたのであった。
205:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:33:04.93 ID:yoGsi3kr0
司令室に帰ると時刻は既に二十一時五分前となっていた。
三階に昇るとき、二階の奥の部屋を見たが、五月雨や妹はいなかった。
206:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:33:55.41 ID:yoGsi3kr0
――と、その時だった。
机の上の簡易無線機がモールス信号を受信した。
これは…………救難信号ではないか!
207:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:34:41.07 ID:yoGsi3kr0
しかし、救難信号を受信している途中に、階下から悲鳴にもとれる五月雨の怒鳴り声が私の耳を突き刺した。
「だめええええええっっ!!! ぜったい、だめええええええっ!!!」
このタイミングで、明石中佐の懸念が的中してしまった……。最悪なタイミングだ。
208:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:35:32.45 ID:yoGsi3kr0
「司令、来たんですね。北上さんを止めてください」
「……北上との約束なんだろ?」
「……」
209:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:36:24.25 ID:yoGsi3kr0
「やっぱり、司令は私の味方じゃないんですね。大好きな妹さんの味方なんですね」
「そんなことない、五月雨の事も味方だ! 味方だから…………っ!」
私は必死の言葉でそう伝える。しかし、五月雨の焦点は後ろの妹にあっていた。
210:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:37:11.42 ID:yoGsi3kr0
「ごめんなさい。でも、私はこれだけは譲れません。これからも司令と北上さんと仲良くしたいから……。北上さんと司令にはこのことを分かってほしいです」
私はそう言われ何と返せばよいか戸惑った。
理由は分からないが五月雨もまた、明石中佐と同じように自分に心のバリアを二重三重に張っている。
211:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:38:05.25 ID:yoGsi3kr0
「――――豊後水道沖夜戦事件」
妹から発せられたその言葉に私は反射的に立ち止まる。な、なぜ妹がそのワードを!?
「五月雨ちゃん、その事件の生き残りなんだってね」
212:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:39:36.07 ID:yoGsi3kr0
「あの〜、北上さん、吹雪さんの指輪を借りたことと涼風に何の関係があるのかな?? あと、私のことを犯人にするのやめてください! 私はネックレスの事は知りませんから」
「……知らないフリをしないで! 私は五月雨ちゃんの事ぜんぶ聞いているの。五月雨ちゃんが部屋に入れてくれないことも何となく分かってるんだよ!」
語気を強めて問い詰める妹に、五月雨は黙る。
213:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:40:27.52 ID:yoGsi3kr0
「二カ月半前は八島にいるし、さっきから言ってますけど、私の妹は平群島泊地の所属なんですよ!! 変なこと吹聴されたんですよ。北上さんはっ!」
五月雨は紅潮して妹に反論する。妹はそれを聞いて小さくため息を吐いた。
「もう、妹の涼風ちゃんが今のを聞いたら悲しむよ? 私だって衝撃的だから、試合中は半信半疑でいたよ。で、試合後に涼風ちゃんの方から、さっきのこと色々教えたいなってラインのID教えてくれたの」
214:名無しNIPPER[sage]
2017/10/23(月) 10:18:12.31 ID:0rR/t9eDO
続きはよ
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