203:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:30:31.95 ID:yoGsi3kr0
中佐は白波の少し立つ宇和の海を眺めながらそう言うと、吸っていた煙草を口から離した。その表情はすこし、不安そうにも見えた。
「中佐、本題というのは……」
「本題というほどのものじゃあないですよ。ただ、今夜は時化るかもしれないから、少佐は早く帰って中にいた方がいいと伝えたかっただけです」
「時化るって……? 海は時化ない予報だが」
「そう言う意味じゃありませんよ」
明石中佐はそう言って、煙草の吸殻を携帯吸い殻入れに仕舞う。
「……つまり、どういうことなのか?」
「単に少し嫌な予感がするという事です。もう二十時四十分です。はやく帰られた方がいいですよ。まぁ、私の勘ですがね」
そう言うと、中佐は夕食が入ったタッパーの蓋を閉じて、紙袋に戻し、片づけをはじめる。嫌な予感、なにが嫌な予感なのだ?
「――嫌な予感って……?」
私もリールを巻きながら釣り道具を片付ける。明石中佐は何らかの根拠があって言っていることは間違いない。
「いや、少佐も分かってると思いますが、北上は昇進したら五月雨の部屋で一緒に泊まる約束を五月雨にしてたじゃないですか。でも五月雨は明らかに乗る気じゃありません。だから、喧嘩になるかもという事です。私の気のせいかもですが」
なるほど、そのことか……。
「たしかに、私もそれは気になってた。五月雨は、私はもちろん北上にもまだ自分の部屋にいれたことがない。今日も夕飯のときに五月雨は自分の部屋を見られるのが恥ずかしい恥ずかしいとか言ってたし……」
「うーん、なぜ恥ずかしいのかは私も知りませんが、そうなるとやはり嫌な予感がしますね」
「私が北上に諦めるよう言った方がいいのかな?」
「それは良くないと思いますよ。二人の約束にはなっているみたいですし、北上のフラストレーションが溜まるのもよくないと思います。まぁ、軍である以上、共同生活は当たり前ですし、この泊地はシングルルームじゃないので、艦娘が増えればいずれ五月雨の所も共同部屋になります。ですからここは二人をそのままにした方がいいですね。まぁ、喧嘩が加熱し過ぎているようでしたら止めに入ればよいと思います」
「中佐の言う通りだな。ありがとう。お礼に残りのワインは貰っていいよ」
私は桟橋から釣り道具を片手に立ち上がる。
「じゃあ、貰っときます。タッパーとかグラスは私が洗っておきますんで、少佐はこのまま帰って大丈夫ですよ」
「ああ、よろしくたのむ。明石中佐、今日は朝からありがとう」
私は中佐に礼を言って、背を向ける。さあ、司令部に帰ろう。
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