【艦これ】「泊地を継ぐもの」
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200:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:26:49.10 ID:yoGsi3kr0
「この子、捨て猫だったんですよ。雨の日に呉鎮守府の裏口に捨ててあったのを、呉の明石少将が見つけたんです。かなり衰弱しており、しかも、右目が感染症にかかっていたのですよ。少将はすぐに海軍医大附属動物病院に連れていったそうですが、右目を摘出しなければ助からないと言われたそうです。命には代えられないと少将は子猫の右目の摘出手術を決断。その時に医者から、子猫を開発中であった眼球型AIコンピュータの被験体にさせてくれないかと頼まれたそうです」

 中佐はそこで一旦言葉を切ると、持っていた朱霧島を二つのおちょぼに注いだ。中佐は一つを私に手渡す。私は小さく頭を下げて、それを飲んだ。

 喉が熱い。隣の明石中佐は平気そうな顔で飲んでいる。整備士という仕事柄なのか、酒にはやはり強いようだ。

「――で、呉の明石少将は、アカトゥルフを被験体にしたわけか」

「まぁ、結論から言うとそうですね。この眼球型AIコンピュータは人間の失明者の視力回復を目的に開発されましたが、その前段階として動物実験が必要だったのです。そしてそのタイミングでこの子が病院に運ばれた訳ですよ」

 中佐はアカトゥルフを撫でながら説明する。アカトゥルフは気持ちよさそうに身体を伸ばして中佐の隣に伏せた。

「もちろん、手術が失敗しても亡くなってしまいますし、仮に成功しても眼球型AIコンピュータが猫の脳に大きな負荷となれば神経障害を起こして亡くなってしまいます。アカトゥルフの前に行った犬や猫での実験ではそれで全てが失敗して亡くなったそうですよ」

「そんな状況でよく、呉の明石少将は被験体として差し出したなぁ」

「ええ。でも、事前に設計図や手術の手法を見せてもらったそうで、少将は熟練の工作艦の立場から、手術は成功すると確信したそうです。事実、手術は成功してここにアカトゥルフがいるわけですから」

 さすが工作艦。艦娘の艤装を作れるだけあって、機械工学だけでなく生物工学の心得も十分にあるから、医学についても自然と知識が涵養されるのだろう。

「なるほど……。でも、まさかアカトゥルフがそんな生い立ちとは思わなかった。しかし、なぜ、そういう意味ではすごい猫がこんな所にいるのかい?」

 その問いに、中佐はローストビーフを箸でつまみ食べて、私が持ってきたワインを一口飲んでから答える。


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