1:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 17:45:39.09 ID:pTAgI72RO
〜騎士学校・闘技場〜
教官「これより、騎士学校の卒業試験を始める。では、受験者はまずペアを作るように」
ユ「は?」
試験開始の銅鑼が高らかに鳴らされた。俺がポカンと口を開けている間に、周りの連中は半ば事務的にペアを完成させていく。
そんなのってありかよ。騎士学校の最終試験はドラゴン討伐じゃなかったのか。どうすればいいんだ。俺は騎士学校で友達なんか、いや知り合いの一人もできなかったのに。くそ。
教官「今年から実技よりもコミュニケーション能力を重視するようになった。これまでの勇者は己を磨き過ぎたばかりに、仲間との連携が取れずみな魔王城で朽ち果てていったのだ」
滔々と話し続ける教官。俺はとにかく走り回って、まだ誰ともペアを組めていない生徒を探した。ダメだ。受験者101名、俺を除いて100名。
全員ペアを組んで着席していやがる!
教官の叱責が飛んだ。
教官「ユ・ウシャー。規定時間内に二人組を作れなかったな。貴様は落第だ!」
ユ「うわ、マジかよ……」
代々、勇者を輩出してきたユ家。今この瞬間、俺は家の名に泥を塗りたくったのである。だいたい101名でペアを作れだなんて、教官も趣味が悪い。あぶれた人間を見て楽しいかハゲ。
闘技場から追い出された俺は、トボトボと帰路についた。騎士なんてクソ喰らえだ。
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2:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 17:46:45.35 ID:pTAgI72RO
〜ユ・ウシャーの家〜
J( 'ー`)し「あら、ウッちゃん。今日はヤケに早いわね。騎士学校の卒業試験じゃないの?」
庭でカーチャンが洗濯物を干していた。バッタリ会うなんて最悪だ。適当に受かったとか何とか誤魔化して、早く自分の部屋に行こう。そして、一刻も早くシコッて寝よう。
3:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 18:08:31.15 ID:pTAgI72RO
勇者の試験会場は街の外れにあった。迷路のように入り組んだ路地裏を抜けて、西の監視台を登る。最上階まで登ったところで、一人の老人が掲揚旗の下に座っているのが見えた。
夕陽が老人を照らし、彼の影法師が飴みたいに後ろへと伸びている。幻想的だ。
ユ「おい、てかなんで俺しかいないんだ」
4:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 18:35:47.05 ID:pTAgI72RO
ユ「分かったよ! 勇者の末裔でいいよ面倒くさいな! 勇者の末裔な! はいはい!」
だが、俺は老人以外の場所では勇者と名乗ることを決めた。だって勇者と言ったら、年収ガッポガッポなんだろう? 他の奴らからも尊敬の眼差しで眺められるんだろう? 名乗っておいて損はないはずだぜ。
勇者「魔王を倒すには、どこへ行けばいい」
5:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 21:35:32.02 ID:pTAgI72RO
老人を殺した俺は、ひのきの槍を背負ったままヒース咲き乱れる原野を駆けていった。なだらかな丘陵の端に、夕陽の欠片が消えていく。
待ってくれ、松明も無いんだぞ。真っ暗な夜を越せるわけがないじゃないか。俺は勇者だってのに、何てザマだ。先祖に顔向けできないぜ。
勇者「腹が減った……。くそッ! あのジジイ、鼠の尻尾しか持っていなかった。こんなの、どうやって食えばいいんだよ!」
6:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 22:32:26.39 ID:pTAgI72RO
跳び上がった騎士は剣を真っ直ぐ振り下ろしてきた。俺がスイカなら、きっとパックリ綺麗に割れてるんだろうな。だが俺は人間だ。人間には、回避行動という選択肢がある。
勇者「トロいんだよアホッ!」
三十六計逃げるに如かず。騎士の重い一撃を横っ飛びで避けた俺は、背中を見せてスタコラサッサのスタコラサッサ。足の速さだけには自信がある。騎士は重装備だから、そう俊敏な動きはできないはずだ。
7:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 23:17:55.82 ID:PrYnNBSy0
暗い。光も世界も今が昼だか夜だかもさっぱり分からない。
パチパチと火の爆ぜるような音が聞こえる。誰かが焚火をしてんのか?
指や足は全く動かない。磔の刑にされた感じだ。いや、磔はもっとキツイよな。
とにかく、どんな形にせよ俺は生きてる。流されて、偶然どっかの川岸に流れ着いたんだな。
これが幸運と取るべきか不運と取るべきか、まだ判断しかねるぜ。
8:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 23:40:54.89 ID:PrYnNBSy0
???「あんた、王都から来たんだろう? 王都から出る旅人はみんな、ホショ・ツァイダム川を渡河するんだ。必ずと言って差し支えないほどにね」
勇者「ホショだか何だか知らないけどな、俺は川を渡るつもりはなかった。鎧を着こんだ不審者に着け狙われて、川に落ちたんだ」
???「ハッ、バカだねぇ。あんた所持品は流されちまったみたいだけど、職業は何をしてたんだ?」
9:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 00:26:50.96 ID:OBhwihw10
ようやく目が見えるようになった。樹々の隙間から差し込む暖かい光は、きっと朝陽のものだ。
俺は昨日の夕方から今朝までずっと眠りこけていたんだ。はあー、情けないったらありゃしねぇ。
身を起こすと、俺は皮張りのベッドから飛び降りた。よくもまぁ、動物の皮と骨だけでここまで立派な寝床が作れたモンだよ。
あの少女は一体何者なんだ?
10:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 09:10:11.06 ID:z7qpNiwHO
アイシャ「魔王の居場所ねぇ……その前にひとつ、あたしの頼みを聞いちゃくれない? あんた、勇者様なんだろ?」
勇者「ああ、いかにも。ところで図々しいとは思うけどさ、腹が減ってるんで飲み食いできる物はあるかい?」
アイシャ「もちろんあるよ。依頼料と考えれば安いものさ。ついてきな!」
11:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 09:55:13.29 ID:z7qpNiwHO
アイシャ「あたしを金持ちにしてくれ。それはもう、豪邸が何件も立つ程の大富豪に」
勇者「はっ?」
両手を大きく振り上げて説明する女狩人を、俺はぼんやりとした目で見つめていた。こいつは何を言っているんだ? そんなランプの魔神にするような願いを俺に頼んでどうする。
12:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 12:59:05.20 ID:z7qpNiwHO
朝食を済ませた俺は、無性に小便がしたくなった。思えば昨日の朝から、一回も厠に行っていない。道理で股間の自己主張が激しくなったわけだ。俺はアイシャが笛を吹いていた岩に立ち、ズボンを下ろして用を足した。
小便の匂いにつられて、魚が集まってくる。イヤー、壮観壮観。仰げばパピプペポ山。
勇者「あれは山なのか? まるきり崖じゃん。急峻な断崖だよ! 滑り台としては0点だね!」
13:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 17:00:38.31 ID:z7qpNiwHO
武器が必要だった。獣を狩るにも、魔族を殺して金を奪うにも、族長のカワイイ娘を救うにも。全てにおいて、武器が大前提だ。特に片手剣がいい。ダンビラみたいな幅広の刀や、レイピアのような細剣ではいけない。適度な大きさのThe Swordが欲しいんだ。
武器の旨をアイシャに伝えたら、弓で思い切り殴られた。イテェな!
アイシャ「勇者はあらゆる武器をマスターせねばならない。幼児でも知っている基本事項よ。あんた、騎士学校で一体何を学んできたんだ」
14:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 17:46:08.94 ID:z7qpNiwHO
移動式の住居を畳んだアイシャは、俺を荷物係にして颯爽と前を歩き始めた。クソ重い。両肩が外れちまいそうだ。俺は勇者様だぞ。偉大なアブなんちゃらの子孫なんだぞ。隷属民の狩人如きが、良い気になりやがって。
自然の前では人間の法など、まるで無力。
あー、吐きそう。
勇者「オイ! 松林に入ったみてぇだが、道はこっちであってんの!? 闇雲に進むだけじゃ、道は開けないと思うぜ!」
15:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 18:20:08.36 ID:z7qpNiwHO
俺の名はユ・ウシャー。騎士学校からドロップアウトして勇者に転職。社会の鎖から解放され、意気揚々、魔王城へいざ行かんと故郷ジャララバードを出立した……はずだった。
それがヒースの原野で変態騎士に追いかけ回され、川に落ちて、暴力女の配下になっている。
朝から歩き続けて、もう日暮れ。脚が痛くて、これ以上進めそうにない。
勇者「ったく、嫌な世の中。勇者なんてクソ喰らえだ。やってられっか」
16:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 23:59:19.61 ID:OBhwihw10
老婆「こんばんは、旅の方。もうすぐ夜の帳が下ります。さぁさ、中にお入りください」
勇者「あの、お代は……」
老婆「久方ぶりのお客様じゃ。別にお代はいりませんよ」
17:名無しNIPPER[saga]
2017/07/05(水) 00:25:18.57 ID:Cvr2387M0
近づいてみると、そいつは人ではなかった。
顔かたちはまるっきり人間なのだが、白い猫の耳と尻尾が生えているのだ。いわゆる獣人? または亜人?
上半身が裸なせいか、ピンク色の乳首が露わになっている。エロい! って邪な考えを持ってはならん! 首を振って気を取り直す。
この猫娘も俺と同じく旅人で各地を巡っているんだろうか。俺は猫娘の耳をつねり上げた。
18:名無しNIPPER[saga]
2017/07/05(水) 00:42:08.06 ID:Cvr2387M0
その瞬間、猫娘の姿が煙と消えた。
猫娘だけでなく老婆も宿屋自体もゆらゆら陽炎の如く揺れて消え去った。
あとに残されたのは、下半身を露出させた俺だけだった。
なんだよこれ……露出狂なのは俺の方じゃないか!
19:名無しNIPPER[saga]
2017/07/05(水) 09:51:38.88 ID:RoJC38a7O
山の麓まで行くと、へんちくりんな建物があった。すべすべした透明な岩が螺旋階段のように渦を巻いており、その頂上に星型の(これは黄金色に輝いてんだけど)奇妙な家が見える。
なんじゃこれ。アイシャも首を傾げたままだ。
アイシャ「変な建物だねぇ……あたしはここら一帯をいつも散策しているけど、こんな建物初めて見たよ。建築者の目的は何だろうね?」
20:名無しNIPPER[saga]
2017/07/05(水) 12:52:59.05 ID:RoJC38a7O
アイシャ「ふむふむ、魔族変形実験室……所々かすれて読めないが、扉の前に立つ石碑には、そう書いてあるよ」
勇者「あ、あんだて? 魔族変形実験室? 魔族を変形させてどうするってんだ」
アイシャ「さぁね。対魔族用の生物兵器でも生み出すつもりなのかしら」
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