9:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 00:26:50.96 ID:OBhwihw10
ようやく目が見えるようになった。樹々の隙間から差し込む暖かい光は、きっと朝陽のものだ。
俺は昨日の夕方から今朝までずっと眠りこけていたんだ。はあー、情けないったらありゃしねぇ。
身を起こすと、俺は皮張りのベッドから飛び降りた。よくもまぁ、動物の皮と骨だけでここまで立派な寝床が作れたモンだよ。
あの少女は一体何者なんだ?
勇者「さてと、命の恩人の尊顔を拝みに行くとするかね」
屈伸運動と背伸びをそれぞれ二回。駄々をこねるように両腕をブンブン振り回し、ジャンプをしながら川に向かう。
ん? 笛の音? 水の流れ落ちる音に紛れて、か細い煙のような笛の音が漂ってくる。
川の中州、大きく聳えた岩の上で、笛を吹いている黒髪の少女が一人。あいつか、俺を助けてくれた女は。
弓を背負ってやがんな。もしかして狩人かもしれない。獣を狩って自給自足する、隷属民だ。
王都では傭兵の次に低俗な職として、毛嫌いされている。くあー、隷属民に助けられた自分がますます恥ずかしい。
勇者「おーい!」
俺が手を振ると、女も笑顔で手を振り返してくれた。
少女「目は見えるようになった?」
勇者「ああ、おかげさまでな。恩人、お前の尊名を伺いたい。俺はユ・ウシャー。勇者の一族で知られたユ家の者だ」
アイシャ「アイシャ。アイシャ・ハジャル・ベギム。勇者様の一族と会えるなんて光栄だよ。さぞかし、実家は金持ちなんだろうね」
勇者「そりゃ金持ちっちゃ金持ちだ。金貨15枚の鮭オニギリと炒飯オニギリとタラコオニギリを毎日買える程度にはね」
アイシャ「オニ……ギリ……だって……?」
アイシャの目が丸くなった。
どうやら王都では一般食のオニギリ、狩人の間では年に一度ありつけるか否かの高級品らしい。
俺は一瞬、鼻で笑いそうになった。だってありえねぇだろ、オニギリすら買えないなんてさ(笑)
しかしアイシャは命の恩人。ゴホンと咳払いをして気を取り直す。
直球だが聞いてもいいだろう。
勇者「アイシャ、魔王の居場所を知らないか」
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