1:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:21:54.96 ID:+EtVRVLso
夏本番を控え、ピークはこれからだというのに連日猛暑が続き、蒸し暑くてなかなか寝付けない、とある夜。
目を閉じて身体を休ませ、まどろみの中に溶けていこうとする私の耳に、LINEの通知音が入ってきた。
鳴った瞬間は、確認する気はなかった。
時刻は夜11時を過ぎている。一般的には遅い時間だ。何が送られてきたのかはわからないが、送ってくる相手も「もしかしたらもう寝てるかもしれない」ということくらい考えているはず。それなら今は通知を聞かなかったことにして、明日の朝に確認すればいい。
じわり汗ばむ熱帯夜、やっと体温も下がり始めて睡眠に適した環境が整いつつあるのに、わざわざ身体を覚醒させることはない。まだギリギリ夏休みではないため、明日も学校があるのだ。早く寝ないと、ただでさえ低い寝起きのテンションが底値に達し、朝から櫻子に煙たがられてしまう。私にとって、この寝付くまでの時間というのは意外と大切な意味を持っていた。
……でも。
向日葵(…………)
なんとなく感じる、胸騒ぎ。
もしかして、あの子から? という直感。
私が寝ているかどうかなんてお構いなしな、あの子が送ってきたんじゃないかという予感。
目を閉じている私の胸の中で、いくつもの思考がぐるぐると渦巻く。考えれば考えるほど、あの子かも、たぶんあの子だ、あの子くらいなものだ、あの子で決まりでしょうと、予想が強く固まっていく。
一息ついて、閉じていた目を薄く開ける。身体はもう少しで眠ろうとしていたけど、心はどんどん物事を考えてしまって落ち着かなくなっていた。
せっかく寝付くところだったのに。つまらない用事だったら明日怒ってやる。楓を起こさないように静かにベッドを降りて、机の上のスマホを確認した。
向日葵「……?」
画面に表示されたのは私の予想通り、櫻子からのLINE通知。けれど私が思い浮かべていたような、明日の学校に持っていく荷物の確認などではなく、通知ダイアログからは内容がわからないよう改行が重ねられたメッセージだった。
トークルームを開かないと主要部分が読めないようになっている。通知だけで内容を知られてスルーされたら困るのだろう。もともと私はあまりメッセージを無視しない方なので、櫻子は私に対して滅多にこういうことをしない。
こうまでして私に見てほしい何かが、ここには書かれている?
一瞬の間を置いて、私は櫻子から送られてきたメッセージの全文を表示した。
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:23:41.61 ID:+EtVRVLso
「
。
。
。
3:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:24:27.17 ID:+EtVRVLso
向日葵(なんなんですのよ……話したいことって……)
こんなことを言われたら嫌でも気になってしまうのに、何も聞いちゃいけないなんてずるい話がありますか。私は心の中で櫻子に文句を言った。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:24:57.38 ID:+EtVRVLso
もしかして。
もしかしたら……私にとって、嫌な話かもしれない。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:25:33.87 ID:+EtVRVLso
〜
強い考えごとをしながら眠ると、身体は眠っていても脳は起きたままになってしまう。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:26:17.23 ID:+EtVRVLso
向日葵「…………」
櫻子「おっ、おはようっつってんじゃん! なんか言えよ!!」
向日葵「お…………はよ、ございます」
7:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:26:46.46 ID:+EtVRVLso
向日葵「あっ、おはようございますっ」
撫子「おはよ。こんなところでケンカしてないで、早く学校行きな」
櫻子「け、ケンカはしてないもん……!」
8:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:27:26.75 ID:+EtVRVLso
〜
学校に到着するまでの間、櫻子とはほとんど何も話さなかった。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:27:54.46 ID:+EtVRVLso
心の中では、いつかはそうなると思っていた。でも今じゃないと思い込んでいた。けど一方で、いつでもそうなってよかったと思う自分もいた。むしろ……そうなりたかった。
互いの気持ちが拮抗して、凝り固まってできた大きな壁。私はこの壁に身体を預けてもたれているときが、一番安心感を得られる時間だった。壁の向こうではきっと櫻子も、同じようにして壁に背を預けていた。
いつかはこの壁を壊すときがくる。いつかは必ず壊さなきゃいけない。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:28:28.59 ID:+EtVRVLso
〜
朝から控えていた体育を終え、気持ちのいい汗をかき、教室の冷房も効いてきて過ごしやすくなってきたところで迎えた理科の時間。今日の授業内容は期末テストの返却と試験内容の復習だった。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:28:56.00 ID:+EtVRVLso
安心感がじわじわと湧きあがってきて、昨晩まったく休めなかった頭が今になってとろけてきた。ほどよい暑さもあいまって、まどろみに包まれる。私は視界の端に櫻子を入れながら目を閉じた。
問題を解説する西垣先生の声が遠のく。まったりとした時間の流れを全身で感じる。その一秒一秒が心地よかった。
こうやって時間をすごせば、授業はすぐに終わる。学校もすぐに終わる。今日が終わって明日になる。明日の学校が終わったら、櫻子が私のところに来る。どんなことを話すのだろう。どんな顔で聞いてあげればいいのだろう。今はまだ何もわからない。でも何を言われたって、私たちはきっと前に進むことになる。歩みを揃えて、一緒に一歩ずつ未来へと踏み出していく。目の前には、大きな大きな夏休みが控えている。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:29:22.16 ID:+EtVRVLso
〜
放課後。今日は一学期最後の生徒会活動の日。本日の仕事はしばらく使わなくなるこの生徒会室の掃除だった。
13:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:30:01.33 ID:+EtVRVLso
向日葵「…………」さっさっ
櫻子「…………」しゅっ
向日葵「…………」
14:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:31:31.30 ID:+EtVRVLso
向日葵「明日話すことを、今話せって言ってるわけじゃありませんわ。ただ何も話さなくなるのはおかしいですわよ。私にとっては、今のあなたにはいつも以上に喋ってほしいところなのに」
櫻子「え……?」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:31:59.76 ID:+EtVRVLso
がららっ
千歳「帰ったで〜」
16:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:32:26.50 ID:+EtVRVLso
〜
いつもどおりの日常会話を望んだくせに、一緒に歩いた帰り道では、やっぱり何を話してもぎこちなくなってしまった。
17:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:32:54.20 ID:+EtVRVLso
〜
こんこん
18:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:33:46.79 ID:+EtVRVLso
向日葵「待ってますから……絶対に待ってますから。ちゃんと、来てちょうだいね」
櫻子「うん……絶対、いくよ」
19:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:34:22.25 ID:+EtVRVLso
向日葵「確か……昨日のこのくらいの時間でしたわね。あなたが送ってきたの」
櫻子「……うん」
向日葵「私、本当に寝ちゃう寸前だったんですのよ。よかったですわね、ギリギリ間に合って」
20:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:35:32.57 ID:+EtVRVLso
向日葵「……櫻子」
櫻子「……なに?」
向日葵「…………あ、また言っちゃいけないことを言いそうになりましたわ」
21:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:36:52.75 ID:+EtVRVLso
櫻子「……もうそろそろ寝よ。向日葵」
向日葵「…………」
櫻子「……疲れてたんでしょ? 明日も一応学校あるんだから……また授業中に寝て怒られちゃうよ」
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