16:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 01:32:26.50 ID:+EtVRVLso
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いつもどおりの日常会話を望んだくせに、一緒に歩いた帰り道では、やっぱり何を話してもぎこちなくなってしまった。
何を話そうとしても思考が明日のことに行きついてしまう。明日もこうやって一緒に帰るのだろうかとか、変なことばかりが気になってしまう。
ようやく家に到着して、自分の家に到着したときの安堵感がすごかった。昨日から休まっていない身体が思い出したように疲労を訴える。今はもう、やることをさっさと済ませてゆっくり休みたかった。
しかし実際はそうもいかない。ごはんを済ませて楓をお風呂にいれて、さあ一息つこうと思ってふとスマホを手に取る。私の手は自然と昨日の櫻子のメッセージを表示してしまう。一見おかしなその文章を、櫻子がこれを打ったんだと思いながら、何度も何度も読み返す。
そうしてふと我に返れば、自分の部屋の掃除をはじめないわけにはいかなかった。明日はここが「舞台」になるのだ。一大決心した櫻子が来てくれるというのに、いつも通りの部屋でいいわけがない。もともと散らかっているわけでもなかったが、すみずみまで綺麗にしなければ気が済まなかった。生徒会室を掃除した2倍の速度で部屋をてきぱきと片付ける。あまりにもせわしなく動く私に気を遣ってくれたのか、楓も一緒に掃除を手伝ってくれた。
やっとこさ掃除を終えると、もう夜もいい時間。早めに身体を休めたかったのに、結局いつもと同じような時間になっていた。
電気を消してベッドに横たわっても、まだ心がドキドキしている。思い浮かぶのは櫻子のことばかり。
生徒会室で櫻子を抱きしめたときの感触が忘れられない。私は再現するように毛布をまるめて抱きついた。あのときのうるんだ目。紅潮した頬。ふわふわした香り。私の心には、正直、魔が差していたと思う。櫻子のことが愛しくてたまらなくて、先輩たちの帰りがもう5分遅かったら、首筋にキスのひとつもしていたかもしれない。
考えないようにするのはもはや無理なので、とにかく目をつむって身体を落ち着けた。私はこんな状態だけれど、櫻子は今頃どうしているだろう。
黙って静かに目を閉じていると、今にもスマホからLINEの通知音が聞こえてきそうだった。昨日は私がたまたま起きていたからよかったものの、あのまま朝までまったく気づかずにいたら、今日という日はどう変わっていただろうか。
櫻子はいつからあのメッセージを送ろうと考えていたのだろう。一週間前? 一ヶ月前? そういえば先月の私の誕生日のとき、なんとなくあの子の様子がおかしかったから、それよりも前なのかもしれない。Xデーを私の誕生日にするつもりだった可能性すらある。何度も何度も送ろうとしては断念して、とうとう明日に決まったのかもしれない。
櫻子は本当に大きな勇気を出してくれた。もし私が同じメッセージを櫻子に送ることになっても、気恥ずかしくて絶対に送れないだろう。だからこそ明日はちゃんと受け止めてあげなきゃ。
寝返りを打って、ふと生徒会室で自分が言った言葉を思い出す。
「そういうところも、フェアに行きましょ?」
向日葵(…………)
果たして私は、フェアに努めているだろうか。
こうやってぬくぬくと毛布を抱きしめて、幸せなことだけを考えて、櫻子が私の元へ来てくれるのをただ待っているのが「対等」なのだろうか。
私は今、櫻子を心の底から尊敬している。「なるようになる」と私が目を背けたものに立ち向かった櫻子を。私が踏み出せなかった大きな一歩を、代わりに踏み出してくれた櫻子を。
「受け止める」なんて上から目線になっていたけど、あの子の方が私よりも、私たちのことを真剣に考えてくれていたのだ。
向日葵「っ……」
閉じていた目をぱちりと開け、ゆっくりと身体を起こす。闇に慣れた目で、ぽわりと月明かりが差し込む窓の外を見た。
あの子がせっかく頑張ってくれたんだから、私も同じくらい……いや、それ以上に頑張らなきゃ。
私は楓を起こさないように静かにベッドから降り、そろそろと身支度をした。
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