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【枯れても走ることを】能力者スレ【命と呼べ】

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204 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage saga]:2019/05/14(火) 20:50:11.91 ID:lHlXGZ4e0
【――青空の向こう側の向こう側までも晴れ渡ったある日のことだった、あるいは何もかもが皮肉のように世界が煌めくのは、初夏に浮かれる日差しの作用にほかならず】
【なれば澄み渡る青空も真っ白に浮かぶ雲も、――――ほんの少し人間のための道を外れる、たったそれだけのことで見えなくなるのだから、ずいぶんと世界は簡単なものだった】
【だからきっと世界だってこんなにも簡単に滅ぼせてしまうのに違いなかった。だって見上げる空はもう色濃く茂る葉っぱの影の色、からりと爽やかな気候すら、気づけばじっとりと纏わる湿度にすり替えられて】

【――――そこは櫻のごくありふれた田舎町の一つだった。観光地めいた場所など一つもなく、外から人の来ることすらほとんどないような場所は、それでも、ごく立派な川の、その傍らにあり】
【その水で仕込んだ酒は知る人ぞ知る銘酒の一ツであるらしい。ただし酒と町の名はほとんど同じ知名度だった。――結局のところ、“ものを知ってる”ようなコアな客が愉しむ酒は、それでもきっと今年も仕込まれるのなら】
【どちらにせよ他所から来る人間なんてものはほとんど居ないのだろう。まして仕事などという風でもない年若い人間などというものは悪目立ちするらしい。――どこぞで自殺なんかでもするんじゃないか、なんて、失礼な話だけれども】
【けれどそうなのだとして、やはり人の口に戸は立てられぬものらしい。或いはおんなじ、“外”から来た人間だからなのかもしれなかった。――ましてや、同じような年ごろ、まだ若い女の、よく目的も知れぬ訪れとなれば、】

【(曰く、数年前にも"誰か"来たのだという。一人はあどけない少女。もう一人は、それよりいくらも大人びた男性。よりによってわざわざこの町を目指してやってきたのだというしその二人組は、)】
【(人が立ち入ればたちまち呪われ二度と戻ってこられない、なんていう伝説のある山を目当てに来たのだと言って。行かない方がいいという話にも耳を貸さず、そのまま山へ行ったのだという)】
【(都会から何か聞きつけて遊び半分にやってきたものなのだと思っていた。他所の文化や風潮を好奇心にて踏みにじってしまうことも十分にありえる年齢の人物たちであった。――――――その夜のこと、)】
【(二人は何事もなかったかのように山から下りてきた。それどころか、その少女の腕の中には、一抱えほどもある蛇の頭蓋骨が抱き留められていた。――そしてその二人組は一晩だけ町に泊まり、そうしてすぐにどこぞへ発った)】

【そんな奇妙なエピソードを誰かより聞くのは難しくないのだろう。刺激の少ない田舎町、話し好きのおばさんたちはとかく話題に飢えていたから。――とかく、その話を聞くことができたなら、】
【“彼女ら”は、その不可思議なよそ者の容姿にも触れるのだろうか、――長いアシッドグレーの髪に群青色の瞳が特徴的な男性と、それから、長い黒髪に色違いの瞳の少女。なれば、彼女らが言っている人物とは、一人は確実に"そうであると】
【思わすのに十分であった。長い黒髪はともかくとして、黒色と赤色の瞳の人物はあまり出歩いていないものだった。ましてや、同じ色合いをした少女が、蛇に由来のある伝承の残る山に登って、その骨を持ち帰ってきたのだと、言うのなら?】

【――――――――だから、山の中はごく静かだった。町外れと言っても、それは結局、人類が自然に負けた境界線でしかなかった。そこを一歩踏み出したなら、そこはもう、人間のための場所ではなく】
【がさがさと草と枝とを掻き分けて、足元でぼこり膨らむ根を避けて、そうかと思えばぼこりへこむ地面を避けて、そうやって歩いているだけで、何か取り返しのつかないこと、しているような気持ちにさせるから】
【やっぱり戻ろうか。"彼女"に何か関係があるのだとして、今更何もかも遅いのに違いない。そんな風に思っても/思わなくても、確認する携帯の電波など、あるはずもなくって、なら、戻るための道すら不明瞭にぼやける、刹那に】


【――事実として視界はぼやけていた。知らぬ間に薄らと霧が出ていた。瞬きの瞬間に、世界が白くくすんでいた。そうして、さっきまで充ち満ちていた不快さに等しい湿度は、途端に清浄たる涼しさに代わり】
【薄暗さは変わらぬまま、そうだとして葉の影より微かに差し込む日差しのかけらがそれでも何か神聖さを帯びているような気がした、――――――がさり、小さな音がする。その足元から。(けれど敵意はないから?)】
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