鷺沢文香「本に、命を」
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1: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:48:58.12 ID:UfnhAP/w0
シンデレラガールズのSSになります

少し刺激の強いシーンがあります

SSWiki : ss.vip2ch.com



2: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:50:40.36 ID:UfnhAP/w0
人生を1冊の本に例えるのは使い古された表現ではありますが、
つまり生きることは執筆活動にも似ている、
と続けたのはどの作家でしたでしょうか。
ふと、そんなことへ想いを馳せます。

以下略 AAS



3: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:51:06.78 ID:UfnhAP/w0
その日、私にひとつのお仕事が入りました。
とは言っても、いちアイドルに対してではなく、古書店の店主からの雑用と言いますか、
要は叔父さんのお店のお手伝いです。

アイドルになる前は、…いえ、アイドルとしてデビューしてからも、
以下略 AAS



4: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:51:35.86 ID:UfnhAP/w0
当日。
運転するプロデューサーさんのお隣、助手席にて私が道案内しながらの道中です。
何度か通うことのあった道ですが、基本的に徒歩か自転車での移動でしたので、
助手席からという景色は新鮮なものでした。
ただ、私がこうしてほんの少しの戸惑いと興奮を覚えてしまうのは、
以下略 AAS



5: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:52:03.86 ID:UfnhAP/w0
アイドルとそのプロデューサーという関係でありながら、
それとは別の感情を抱いてしまうこと。
それすなわち、応援してくださるファンの方々も、
直接のスカウトをしてくれたプロデューサーさんをも、裏切ってしまうことになる。

以下略 AAS



6: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:52:38.36 ID:UfnhAP/w0
トンネルを抜けると雪国であった。
という文を引用したくなるほど、物置の中は敷居を境目に、
現実と切り離された空間のように感じました。

積もりに積もっていた埃が風を受けて舞い上がり、
以下略 AAS



7: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:53:13.01 ID:UfnhAP/w0
広さはそれほどでもありません。
私が両の手を広げれば、たちまち棚壁を手のひらでぺたぺたできます。
私はふと、大学へ入学する際に案内してもらった寮を想い出しました。

ドアを開けた先、ヒト1人が擦れ違えるほどの通路があって、
以下略 AAS



8: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:53:42.64 ID:UfnhAP/w0
加えて、棚壁にも収まり切らない本たちが、新聞紙を引いた床に積み重なっています。
私の腰を越えるまでに積み上がった背表紙が、数えられるだけで6列ほど。
数百は下らない文字通り本の山が、奥への道を更に狭めながら、そこにそびえていました。
以前は平地だったハズで、更には棚壁にも空きはあったハズですが、
…まあそこは、叔父さんだから仕方ない、と同じく本の虫として誰ともなしに庇っておきます。
以下略 AAS



9: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:54:14.31 ID:UfnhAP/w0
まずはそこに届く手段を用意しなければ。
最奥にあった踏み台をよいしょと持ち上げて、『弐』の棚の前へ。
目的は本の持ち出しであって掃除ではありませんから、
積もった埃をそのままに、踏み固めながらひょいひょいと段を登る私を、
プロデューサーさんが見守っていてくれます。
以下略 AAS



10: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:54:51.26 ID:UfnhAP/w0
改めて背表紙を読みながら確認の作業。
…残念ながら、目的の本は見当たりません。
寝重なる群れも同じで、これが意味することは、すなわち。
次列を確認する必要があり、そのために最前列を取り出さなければならないということです。
下で待つプロデューサーさんに向かって、そっと首を横に振ります。
以下略 AAS



11: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:55:29.59 ID:UfnhAP/w0
叔父さんが扱うのは古書が主としていて、つまりは誰かの手から渡り移ってくるもので、
栞がそのままというのもよくあることです。
ぴょこんと飛び出たそれをプロデューサーさんがゆっくりと引き抜くと、
すっかり茶色でカサカサになった、かろうじて元植物だったとわかる存在が張り付いた栞が出てきました。
ドライフラワー、…ではなく、経年で朽ち枯れたものでしょう。
以下略 AAS



12: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:56:05.84 ID:UfnhAP/w0
直接の手渡しによる返却でしたから、どうしても持ち主とお話をすることになりまして、
つまりはその反応を直に見ることとなるのです。
続けるうちに私は気付いてしまいました。

探し物が見つかったと喜ぶ姿より、そんなものもあったねと面倒さを前面に出すヒトや、
以下略 AAS



13: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:56:52.23 ID:UfnhAP/w0
優しい方ですから、…入口の時と違って、私の話を遮らないよう黙ったままでいてくれたのでしょう。
ともあれ急いでフォローしなければと、ひといき吐く風を装いながら眼の前の1冊を取り、言葉を続けます。

今でこそこんな風に冷静に思い返して分析できている私ですが、
こうしてアイドルという誰かに見られる状況でなければ、きっと仕舞い込んだままだったでしょう。
以下略 AAS



14: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:57:28.66 ID:UfnhAP/w0
どうせなら、これを、口実に、…プロデューサーさんと。
私の中の悪い自分が、そんなことを囁きました。

いつもであれば何を出過ぎた真似をと即座に踏み止まってきた私ですが、
栞というちょうど私の趣味であることと、何より2人きりというこの状況が、
以下略 AAS



15: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:57:56.98 ID:UfnhAP/w0
私の困惑に気付いたのか、言葉を選び選びで優しく続けます。
栞を挟んでしまうと、挟んだページに開き癖がついてしまうから、可能であれば使いたくない。
厚く大きな本には栞紐がついているものもありますが、それも同じだと語ります。
では途中で本から眼を離すときはというと、ページの数字を覚えるのだそうで、
そういえば事務所で読書する姿をよく見るプロデューサーさんですが、
以下略 AAS



16: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:58:35.94 ID:UfnhAP/w0
プロデューサーさんの言い分もまた理解できてしまうだけに否定できません。
何をもってして傷みとみるかは人それぞれで、ぴたりと分ける線引きなど存在しないのです。
そんな曖昧ながら、いわゆる決して超えてはいけない線というものは確かに存在し、
それはお互いのために不可侵を守らねばならない防衛線。

以下略 AAS



17: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:59:08.32 ID:UfnhAP/w0
と、ここで気付いてしまいます。
事務所でも読書する機会が多い私ですので、栞を用いる機会も同じくらいあり、
ともすれば私はプロデューサーさんの嫌いなことを見せつけてしまっていたのでしょうか。

読む本は事務所名義のでなく私の持ち物だからと見逃して貰えていた可能性が、
以下略 AAS



18: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 15:59:53.21 ID:UfnhAP/w0
…踏み台から、おちる。

こうした瞬間にヒトは走馬灯をみたり知覚映像がスローモーションになるとよく言われますが、
私には何も見えず、ただ、やはりアイドルらしからぬ卑しさを思考に抱いてしまった罰なのでしょうか
と諦観するだけで、だからこそ。
以下略 AAS



19: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:00:21.74 ID:UfnhAP/w0
…幸いにも、痛む箇所はありません。
しかしながら、何か引っ掛かります。
落下の瞬間、それから全身への衝撃。ケガを負ってなさそうなのは良いのですが、
拭えない違和感に、背中からお尻にかけてむずむずする感覚が走って、…そのとき、ふと気付きました。

以下略 AAS



20: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:00:53.57 ID:UfnhAP/w0
先ほどまで顔を隠していたマスクも、私が圧し掛かったときか立ち上がるときか、
引き剥がしてしまっていたようです。

その代わりと言わんばかりに、どさりと1冊が顔に覆いかぶさって、
それをプロデューサーさんが払い除けました。
以下略 AAS



21: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:01:33.94 ID:UfnhAP/w0
…埃。
山に積もっていた埃が一斉に舞い、横たわるプロデューサーさんなどおかまいなしに降り戻った結果です。
掃除の手間を惜しんだツケが、よもや、こんなカタチで追い打ちにくるなんて。
ますますもって急がねばなりませんが、この分ではハンカチ1つではとても足りません。
これでマスクが残っていれば出血も埃も止められるのに、と無い物を望んでも仕方ないのです。
以下略 AAS



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