16: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 21:57:53.61 ID:dbtwVbjq0
「あ、すみません。他から着信が。また折り返します」
『ん。よろよ――……』
17: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 21:58:39.85 ID:dbtwVbjq0
プロデューサーは、静かな動作でスマホを切ると、眼鏡を外し、鳴らすように左右へと首を振った。
「ふぅ」と一息つくと、眼鏡をかけなおし、再びスマホを操作し、三ツ谷へと連絡をする。
『はいはい、もしもし、三ツ谷です』
18: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 21:59:21.62 ID:dbtwVbjq0
***
「兄ちゃん! 姉ちゃん!」
19: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:00:55.64 ID:dbtwVbjq0
光とコータは走り続け、もう体力が切れそうになるところまで来て、追ってくる者がいないことを確認し、歩みを緩めた。
「はぁ、はぁ……コータくん、あの人たちは一体?」
20: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:01:30.11 ID:dbtwVbjq0
公園の脇を通り過ぎようとしたとき、木の影が大きく動いたと思うと、幼児ほどもある影が光たちの目の前に降り立った。
「キキーッ!」
21: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:02:05.26 ID:dbtwVbjq0
そのとき、軽トラックの窓が開き、光の良く知った顔が見えた。
「荷台に乗ってください、光!」
22: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:02:35.33 ID:dbtwVbjq0
***
「ホント、危ないところだったわよ」
23: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:03:09.91 ID:dbtwVbjq0
「ところで、さっきの話。おばあちゃんの息子さんがヒーローってどういうこと?」
「ワタシの息子はね、これからやるヒーローショーのヒーロー役をやってるのよ。
何って言ったか……すーつなんとかとか言う――」
24: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:03:39.60 ID:dbtwVbjq0
「今の光はね、自分の好きなことを好きって、はっきり胸を張れるだけの強さがあるの。
そこはね、このレイナサマだって一目置いてる。それ以外は甘ちゃんだけどね」
麗奈はそう言い切った後、少し頬を赤らめた。
25: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:04:27.96 ID:dbtwVbjq0
***
小関麗奈のライバルの話に時を戻そう。
26: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:04:56.67 ID:dbtwVbjq0
コータの話によると、それは三か月前の練習中の事故であったらしい。
コータが物心ついたころから、そのサーカスのエースであった一匹の猿、ジロー。
コータにとっては、大切な友人であり、教師であり、兄弟であり、親でもあった。
27: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:05:38.71 ID:dbtwVbjq0
その様子を黙って見守っていた三ツ谷がつぶやく。
「好きな事、忘れたらあかんで」
28: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:06:16.14 ID:dbtwVbjq0
***
「アタシは光の、ラ・イ・バ・ル、よッ!」
29: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:06:49.74 ID:dbtwVbjq0
その様子をほほ笑みながら見ていたおばあちゃんが
「実はねぇ、ワタシの息子――」
30: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:07:25.22 ID:dbtwVbjq0
おばあちゃんはコータに対しても優しく話をしてくれた。
コータも今まで触れたことのないタイプの柔らかさに、心細かった気持ちがほぐれたのか、観客席につくまでに今日の顛末を一通り話してしまった。
それを聞いたおばあちゃんは、何を言うでもなく「あらまぁ、たいへんやったねぇ」と頬にしわを寄せて、優しくコータの頭を撫でてやった。
31: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:08:02.55 ID:dbtwVbjq0
舞台裏で衣装に身を包み、真っすぐと立つ影が二つ。
「光、体力は大丈夫なの?」
32: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:08:40.07 ID:dbtwVbjq0
***
コータは心に決めた。
自分の「好き」を「好き」と言うために、父の元へ行くことを。
33: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:09:29.62 ID:dbtwVbjq0
全てが終わり、コータは再び控え室に迎えられた。
おばあちゃんは、用事があると言って、どこかに行ってしまった。
光も麗奈もヘトヘトといった様子で、衣装のまま椅子の上でへばっていた。
34: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:10:15.85 ID:dbtwVbjq0
そこには、たくさんのスタッフが集まっていた。
中には、深紅のヒーローもいる。
光とコータは相変わらずの表情だが、麗奈は意図に気づいたようで、そっとプロデューサーの元に行き「マジで?」と小声で尋ねた。
35: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:11:12.12 ID:dbtwVbjq0
ケーキを切り分けてる間に、さらなる来客があった。
三ツ谷とタイチ、そして、サーカスの支配人だった。
コータは光と握りこぶしを交わすと、胸を張って父の元へ向かった。
36: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:12:26.25 ID:dbtwVbjq0
以上となります。
お読みくださった方々、ありがとうございました。
本作は後日、推敲の上、別の媒体でも公開する予定です。
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