南条光「カンシャノアカシ」
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18: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 21:59:21.62 ID:dbtwVbjq0

 ***

「兄ちゃん! 姉ちゃん!」

 光が公衆電話から飛び出すと同時に、コータが叫ぶ。

 次々と車が通り過ぎる大通り沿いに、ひっそりと佇んでいた公衆電話の周囲には既にただならぬ緊迫感が漂っている。

 男女問わず、屈強な者たちがアスリートのような格好で、光とコータを取り囲んでいた。
 いずれもその目つきは鋭く、獲物を狩る猛獣のごとく、二人を見つめている。その数、ざっと十人。

「えっ!? これみんな、コータくんのお兄さん、お姉さん?」

「違うよ!? あ、いや、ちょっと違くないけど、今はそれどころじゃないよ!」

 じりじりと距離を詰めてくる集団に対して、二人も距離を取りたいところだが、前方180度は塞がれ、後ろは車が行き交う大道路だ。

「コータ、戻ってこい」

 ひときわ筋骨隆々の大男が呼びかける。

「嫌だ!」

「お父さんも心配してたわよ」

 スラリと背の高い女性もそれに続く。

「ウソだね。そうやって、連れ戻して来いって言われたんだろ。
 俺は嫌だ! もうみんなに偉そうにしているお父さんを見るのも、危ないことをするみんなを見るのも!」

「そうならないように、みんな練習してるし、お父さんも厳しいんだ」

 先ほどの大男が再び叫んだ。

 コータは強く首を横に振った。

「その練習中だろ!? ジローがあんなことになったのは!」

 その場にいた誰もが口をつぐみ、なんとも居心地の悪い静寂があたりを包む。

 光は何がどうなっているのか、さっぱり呑み込めなかったが、唯一、コータが必死になって涙をこらえていることだけはわかった。

「……逃げるよ」

 コータが静かにつぶやく。
 光は返事をする代わりに、コータの手を強く握ってやった。

 その静寂に一切の走行音すらなくなった瞬間、光とコータは後ろに一気に駆け出した。

 取り囲んでいた大人たちが青ざめた表情で、二人の背中を追い、大通りに面した途端、再び車の走行音が静寂を破り、大通りを占拠する。

 大人たちは無事に向こう側に渡り切り、こちらを全く振り返らずにかけていく少女と少年を、半ば悔しい気持ちで、半ば安心して見送った。




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