26: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 22:04:56.67 ID:dbtwVbjq0
コータの話によると、それは三か月前の練習中の事故であったらしい。
コータが物心ついたころから、そのサーカスのエースであった一匹の猿、ジロー。
コータにとっては、大切な友人であり、教師であり、兄弟であり、親でもあった。
たしかに、ここ一年は急に老け込んでいたし、そろそろ引退かと団員の中でも話があがっていた。
コータの父は、団員の前でジローの死について、涙ながらに謝罪をしたという。
それからであった。支配人の練習に対する態度が一層厳しさを増したのは。
「タイチはね、ジローの子どもなんだ。で、今の俺の一番の親友」
さっきまで毛づくろいをしていたタイチは、のんきに荷台に積み上げられている雑多な荷物をほじくっている。
「お父さんが練習で厳しくなる気持ちも、私はわかりますけどね……」
プロデューサーは誰に言うでもなくつぶやく。
「でも、コータくんにはしんどかったんだな」
光はうつむきながら言った。
「お父さんのしてることはわかるよ、なんとなく。でも、逆なんだよね……。
お父さんは俺をもうステージに上げないって。これからは人の上に立つことを勉強しなさいって」
コータは立ち上がって、荷台の上から跳び上がる。
そのまま後ろに一回転して、駐車場へと見事に着地した。
プロデューサーは目を見張り、光と三ツ谷は「おぉ〜」と拍手した。
「それって、おかしくないかな?
みんな必死に練習してさ、お客さんを喜ばせてるのに、俺だけ裏でえばってろって言うんだよ。
俺……本当は、みんなと仲良く、楽しくできれば、それでいいのに。
弟や妹たちと一緒にさ」
コータは、ゆっくりと荷台に近づく。
タイチは相変わらず、荷台でゴソゴソとやっている。
「だって、ジローが教えてくれたことって、そういうことだもん」
そう言って、タイチの背中をなでてやった。
タイチは目をしぱしぱさせながら、コータの手の感触に気を緩めているらしい。
そして、タイチの手がコータの長袖の裾をキュッと掴んだ。
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