姉がアイドルということ
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1: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:35:51.40 ID:nm7zvJuf0
「お前のお姉さん、昨日テレビで見たよ」
 クラスの隣席である級友にそう言われ、高山少年は肩をすくめた。
「すげえよな。なあなあ、あのお姉さん家ではどんな感じなんだよ?」
 どんなと言われても困る。
 姉――彼の姉である高山紗代子はずっとアイドルになりたがっていた。
 少なくとも彼の記憶にある一番古い姉に対する記憶でも、彼女は歌い踊っていた。
 ただその姉は、あまり才能に恵まれているとは言えなかった。
 数々のレッスンスタジオでも目立ったり注目されるタイプではなかった。
 彼女は高校生になると、あちこちのアイドル事務所のオーディションを受けていたが、結果はいつも落選だった。
 それを間近に見ていた彼にとっても、まさかあの姉が有名な765プロに入り、アイドルとして活躍している今が信じられない気持ちでもある。
 しかしそれと、それを彼がどう捉えるのかはまた別の問題だ。

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2: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:38:18.69 ID:nm7zvJuf0
 姉は有名人になった。
 テレビや雑誌に出ることも少しずつ増え、知名度は上がっている。
 それでも家で会えば、今までとなんら変わらない彼にとっての姉である。冗談も言い合うし、時には姉弟ならではの軽口をたたき合ったりもする。
 姉はなにも変わっていない。
 だが周囲は変わった。
以下略 AAS



3: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:39:35.69 ID:nm7zvJuf0
「高山君……って、あの高山紗代子の弟なんでしょ?」
 もういい加減、相手にするのにも辟易してはいたが彼は視線を上げる。
 座っている彼に声をかけてきたのは、女の子だった。少し前に転校してきた、隣のクラスの……
「ほんとうなの?」
「ああ……まあね」
以下略 AAS



4: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:40:44.49 ID:nm7zvJuf0
「大変?」
「え?」
「姉が有名アイドル、っていうのは」
 言ってもいいのだろうか? 正直に。
「どう?」
以下略 AAS



5: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:41:51.70 ID:nm7zvJuf0

 放課後、彼女は予告通りやって来た。
 やはり可愛い。こういう娘がわざわざ自分の所にやってきてくれて話ができるというのは、彼が高山紗代子の弟であることによる利点としては、ほぼ初めてのものだ。
「いいことなんてないでしょ? アイドルが姉って」
「そんなことも……」
以下略 AAS



6: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:42:35.54 ID:nm7zvJuf0
「高山君は……」
「え? 僕?」
「高山君は……お姉さんが、好き?」
 この場合の好きというのは、もちろん男女の好きの意味ではないだろう。
 あくまで姉として好きか、という意味だと思う。
以下略 AAS



7: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:43:40.94 ID:nm7zvJuf0
「そうだ。いいことあったよ、ひとつだけ」
「え? もしかして姉がアイドルで良かったこと?」
「うん。ライブとか、関係者席に呼んでもらえるんだ」
 またしばらく徳田さんは押し黙った。そして口を開く。
「行ったこと、あるんだ」
以下略 AAS



8: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:44:21.69 ID:nm7zvJuf0
「高山君は、まつりちゃんが好きなんだ」
「え?」
 誰が好きかと聞かれたので、まつり姫と答えてその理由を話したのだが、徳田さんはなぜだか不満そうに、頬を膨らましながらそう言う。
 そして教室から小走りに出て行った。
「えっと……なにか悪いこと言ったかな……」
以下略 AAS



9: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:45:13.42 ID:nm7zvJuf0

「はいほー! みんな、おはようなのです」
 劇場に徳川まつりが機嫌良く入ってくると、同僚であるアイドル達も笑顔で彼女を迎える。
「まつりさん、今日は随分と機嫌がいいみたいですな〜。これはなにかあったに違いありませんぞ〜」
「ほ、さすが美也ちゃん。実は昨日、姫はとってもいいことがあったのです」
以下略 AAS



10: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:46:18.01 ID:nm7zvJuf0

「……」
 昨日と同じく、放課後になると徳田さんは高山少年のクラスへとやって来た。
 が、特に何も言わずに黙っている。
「あの……」
以下略 AAS



11: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:46:52.93 ID:nm7zvJuf0
 髪型を少し変えているということは、着こなしも……
「制服、ちょっと変えた?」
「あ、わかっちゃう? えへへへへ。高山君、私のことよく見てるよね」
 実際には、はっきりと気づいたわけではない。
 ただパターンとして、そういうことが多いのでそうではないかと聞いただけだが、彼女が嬉しそうにしているので、これも如才なく彼はその件について黙っておいた。
以下略 AAS



12: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:47:49.86 ID:nm7zvJuf0
 彼の姉は別段、気むずかしい女の子というわけではない。
 しかし自身の容姿にあまり自信を持っておらず、だがアイドル志望ということもありファッションや雰囲気作りというものには敏感だ。
 なるべく気づいてあげ、そして良いと思えばそう伝えるのが彼女を喜ばせる一番の方途なのだ。そして気づいて欲しい時に姉がどう接してくるのかを、彼はよくわかっている。

「じゃあね。高山君」
以下略 AAS



13: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:48:34.55 ID:nm7zvJuf0
「わかった。じゃあ聞くけど、高山君はお姉さんにアイドルをやめて欲しくはないの?」
「え?」
 落胆しながらの徳田さんの質問は、少し意外なものだった。
 そんなことは考えたこともない。
 姉がアイドルとして有名になって、周囲から質問されることが多くなっても、そんなことを聞いてきた人はいなかった。
以下略 AAS



14: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:49:27.49 ID:nm7zvJuf0

 帰宅中、高山少年は今日のあの徳田さんの言動について考えていた。
 あの時彼女は、あきらかに自分のこととして「迷惑だ」と言っていた。
 もしかして姉の言う『あの子』が、徳田さんなのだろうか……
 帰宅すると、彼はその疑問を姉にぶつけてみる。
以下略 AAS



15: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:50:08.58 ID:nm7zvJuf0
「ご、ごめんごめん。あのさ、俺の学校に姉ちゃんのファンの娘がいるんだけどさ、なんか……それっぽいこと言ってたからそれで」
「それっぽいこと、って自分が私の言うあの子だ、って?」
 いや、徳田さんはそうは言ってはいなかった。
「そうじゃないけど、姉ちゃんの言ってたあの子の話をしたら、そんなの昔の約束だとか迷惑だ、とか言ってたから」
 紗代子は少し、いやかなり興味を惹かれたようだ。
以下略 AAS



16: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:50:44.56 ID:nm7zvJuf0

 翌日。
 事務所で思いっきり突っ伏しているまつりを見て、朋花は小首をかしげる。
「どうしたんですか〜? まつりさんは」
「それがですね〜。昨日あれからまつりさんは、妹さんを問い詰めたそうなんですよ〜」
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17: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:51:22.47 ID:nm7zvJuf0

 翌日、高山少年は初めて自分から隣のクラスへ行った。
「徳田さん、いるかな?」
 とりあえず近くにいた生徒に声をかける。
「徳田……? いやそれ、もしかして徳……」
以下略 AAS



18: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:52:21.62 ID:nm7zvJuf0

「姫はもう、なにがなんだかわからないのです……」
 事務所ではまつりが、手に頬を乗せて浮かぬ顔をしていた。
「今度はなんですか〜? また妹さんが冷たい態度になったのですか〜?」
「それが逆らしくてですね、朋花ちゃん」
以下略 AAS



19: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:52:57.22 ID:nm7zvJuf0
「それなら、そのお下がりを貸さなければよかったんじゃないですか〜?」
「でも、もしかしていつか妹が着てくれたら……そ思っていた姫も着ていた服を、妹が自分から……それもバッチリ似合っていたのですよ!」
「ではそれで、よしとしませんか〜? 妹さんも、まつりさんも嬉しいのなら、それで良いではありませんか〜?」
 まつりにしては珍しく、美也の言葉にギクリと核心を突かれた顔をする。

以下略 AAS



20: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:53:36.60 ID:nm7zvJuf0

「あ」
「うん」
 駅のホームで、高山少年は目当ての娘を見つけた。
 私服の彼女は新鮮で、そしていつも以上に可愛かった。
以下略 AAS



21: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:54:29.46 ID:nm7zvJuf0

「ようこそいらっしゃい。初めまして、かな。高山紗代子です」
「あ、は……い。初めまして。いつも応援しています」
 家に着くと、待ちかねたように姉……紗代子が2人を迎え入れてくれる。
「とりあえずリビングへどうぞ。なにかもってくるね」
以下略 AAS



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