水本ゆかり「維納に奏でる」
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19: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:36:28.19 ID:cgXM4cARO
「間違ってもデレぽにあげちゃダメだぞ?」

 一応オーストリア自体は16歳から飲酒が可能だが、厄介なことになるのは避けるが勝ちだ。

「分かっています! 有香ちゃんたちに見せてあげようと思って」
以下略 AAS



20: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:36:54.11 ID:cgXM4cARO
 一滴程度のビールすら受け付けなかったあの頃を思い出す。生涯分かり合えることがないだろうと思っていた苦い水が美味しいと思えるようになったのはいつの頃だったか。
多分スーツを着て慣れないネクタイを結んで社会人と呼ばれるようになったあたりだと思う。

「私も美味しく飲めるでしょうか?」

以下略 AAS



21: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:39:35.80 ID:cgXM4cARO
 パカラ、パカラ。蹄を鳴らしながら白馬は街中を我が物顔で練り歩く。通常の車よりも高い目線になる馬車はビルの二階の窓くらいの高さがあり、ちょっとした王様気分が味わえていた。

「カボチャの馬車ならシンデレラだったんだけどなぁ」

 オーストリアに来たのは撮影とライブのためだけど、それ以外は自由に観光する時間かある。レストランの食事を終えた俺たちはまず、ゆかりの希望でフィアカーで街中を巡ることにした。
以下略 AAS



22: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:41:10.85 ID:cgXM4cARO
「なんでも彼が書いたフルート協奏曲の一つは、以前作っていたオーボエ協奏曲を全音あげただけのもので、父親に宛てた手紙にはこう書かれていたみたいです」

 我慢のならない楽器だと。ゆかりは寂しそうに話す。

「たしかに当時のフルート今のそれとは違って、発展途上の楽器。文字通りの木管楽器で音程も不安定なものだったそうです。だけど私は思うんです。本当はフルートを愛していたんだと」
以下略 AAS



23: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:42:40.37 ID:cgXM4cARO
 馬車に乗りながら室内音楽を楽しむという贅沢をしているうちに、フィアカーははじめのペーター教会前に到着していた。

「アリガト、ゴザイマー」

 カタコトでも日本語で話してくれるのは嬉しかった。少し多めに御者さんにチップを渡して俺たちは教会の中に入った。外から見る以上に開放感があり、
以下略 AAS



24: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:43:56.28 ID:cgXM4cARO
「コンサート、やるみたいですよ?」

「えっ?」

 どうやらここではパイプオルガンによるコンサートが毎日のように開かれているらしい。オルガンの前に立つ少女が一礼をし、弾き始めると祭壇の中に重厚な音が広がり渡る。……ん? 少女?
以下略 AAS



25: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:45:28.09 ID:cgXM4cARO
「ダンケシェーン!」

 30分ほどのオルガンコンサートは万雷の拍手の中、幕を閉じた。コンサート自体は無料らしいがオルガンの維持やオルガニストへの寄付は行われているらしい。良いものを聞かせてもらったと財布から10ユーロを寄付して講堂から出ようとしたその時だった。

「待ってくださーい!」
以下略 AAS



26: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:46:32.09 ID:cgXM4cARO
「まぁ……」

 情緒たっぷりに奏でられるカルメンの間奏曲は耳に心地よく、俺たちだけでなく道行く人たちの視線も集め始めた。シンプルで誰もが一度は聞いたことがある親しみやすいメロディだが、
それ故にごまかしが一切効かず奏者の技量が試される。正直なところ、フルートを専門にして育って来たゆかりに比べるとフルート奏者としての技術や表現は及ばずとも、一人の音楽家としてみてしまえば日本で活躍するプロの音楽家達にも負けていない。

以下略 AAS



27: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:47:29.60 ID:cgXM4cARO
「ふぅ……」

 その後もいくつかの観光スポットを巡りホテルに戻った俺はスケジュールを再度確認する。ゆかりは少しフルートの練習がしたいと言って近くの公園にいるようだ。

「ここに来たら、そうなるよなぁ……」
以下略 AAS



28: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:48:47.04 ID:cgXM4cARO
「プロデューサーさん!」

 公園へと向かうとゆかりが涙目になって待っている。手にはフルートを持っているけど、カバンが見当たらない。

「カバンを近くに置いていたのですが、フルートを吹いているのに夢中で置き引きにあったことに気付かなくて……」
以下略 AAS



29: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:49:22.86 ID:cgXM4cARO
「ウィーンは治安の良い街と言われますが、それでもスリや置き引き、ニセ警官はいるものです」

 おまわりさんとのやりとりを終えた村松さんはそう話す。特に日本人のパスポートは悪い意味手間需要があるらしく高く取引されるらしい。

「うっかりしていた私が悪いです……」
以下略 AAS



30: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:50:02.62 ID:cgXM4cARO
「さてと、ゆかり。ちょっといいかな?」

「えっ?」

 写真も撮って大使館で必要な手続きをした俺たちはホテルに戻らずタクシーを捕まえる。
以下略 AAS



31: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:51:15.96 ID:cgXM4cARO
「凄い……」

 夕焼けに照らされてゆっくりと回る王様のような大観覧車にゆかりは単純な言葉しか紡げなくなっている。その存在感は唯一無二で頂上にたどり着いたゴンドラからはウィーンの街が一望できることだろう。

「子供の頃に見た映画でここの観覧車が使われていたんだ。それ以来一度行ってみたいと思ってた」
以下略 AAS



32: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:52:40.72 ID:cgXM4cARO
 ゴンドラは落ち着いたテンポで上へ上へと登って行く。それは怠慢なんかではなく、ウィーンの素敵な景色をゆっくりと楽しめよと言っているみたいだ。

 日本の観覧車との差異を聞かれると、二十人乗ることが出来る客車の大きさであろう。ウィーンの風景の中キスをしたいカップルもいるだろうが二人っきりで観覧車に乗れるなんてことはまぁなく、基本的には見ず知らずの相手と相乗りだ。
俺とゆかりが乗っているゴンドラではお孫さんを連れた老夫婦や若い女性三人組が相席している。前のゴンドラの中じゃパーティーが開かれているらしく、四、五人くらいの若者が楽しげに横に揺れている。日本だと考えられない光景だろう。

以下略 AAS



33: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:54:30.19 ID:cgXM4cARO
「頂上まで来ましたね」

 大観覧車のてっぺんから学徒を見下ろす。ゆかりの荷物を盗んだ不届き者は捕まっただろうか、なんてことを考えているとゆかりはおもむろにフルートを組み立て始めた。

「〜〜♪」
以下略 AAS



34: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:55:13.12 ID:cgXM4cARO
「いい景色だったね」

「はい。あなたと見たこの光景を私は忘れないと思います」

「俺もだよ」
以下略 AAS



35: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:55:57.08 ID:cgXM4cARO
 カバンを取り戻した俺たちはその足で夕食を取っていた。警察署でカバンの中身を確認したところ、パスポートも財布の中身も無事だったみたいだ。貴重品は肌身離さないようにして、
メロウイエローの2人からもらったお守りはというとフルートケースに結んでいる。なるほど、これなら絶対に見失うことはないよな。落ち着いたピアノの演奏をBGMに今日一日のことを振り返る。
馬車に乗ったりオルガン弾きの美少女にであったり観覧車の中でふるさとを演奏したり。一日目からこんなに濃いならば、最後のステージはどうなることやら。

「あの、プロデューサーさん」
以下略 AAS



36: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:57:37.50 ID:cgXM4cARO
「子供の頃は神童だー、とかリストの生まれ変わりだーなんてちやほやされてて、まあ実際コンクールで金賞とったりすることもあったんだけど……そういう人って全国にたくさんいるわけじゃん。気付いたら俺は賞をもらえない、圏外のピアニストになっていた」

 高校の時もギリギリまで音大に行こうという気持ちはあったし、ゆかりが言うようにこの街に強い憧憬を抱いていた。両親も裕福でないながら応援してくれていた。
だけどいつしか圏外になった俺は自信をなくして、夢を見ることを諦めていた。ピアノ以外の勉強をろくにしてこなかったから大学受験は本当に苦労したものだ。
現代文小説も音楽も何かを表現するために作られたもの何に、どうしてこうも小説というのは理解しがたいものなのか。今でも本を読むのは、ちょっと苦手だったりする。
以下略 AAS



37: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:58:27.67 ID:cgXM4cARO
 憧れの街での日々は俺にとってもゆかりにとっても刺激的なものだった。だけど終わりは来るものだ。ウィーンでの集大成となるコンサート当日がやってきた。
街中お祭りモードであちらこちらから音楽が響き渡る。道行く人だけじゃなく、馬車を引く馬たちも心なしか軽やかな足音を刻んでいる。

「どうでしょうか? 浮いてしまったりしませんか?」

以下略 AAS



38: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:59:21.81 ID:cgXM4cARO
以上になります。圏外の一線を超えたい……


39:名無しNIPPER[sage]
2019/04/25(木) 12:20:33.47 ID:cn7yF5ADO



とりま、ゆかり嬢と一線を越えたまへ


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