水本ゆかり「維納に奏でる」
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36: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:57:37.50 ID:cgXM4cARO
「子供の頃は神童だー、とかリストの生まれ変わりだーなんてちやほやされてて、まあ実際コンクールで金賞とったりすることもあったんだけど……そういう人って全国にたくさんいるわけじゃん。気付いたら俺は賞をもらえない、圏外のピアニストになっていた」

 高校の時もギリギリまで音大に行こうという気持ちはあったし、ゆかりが言うようにこの街に強い憧憬を抱いていた。両親も裕福でないながら応援してくれていた。
だけどいつしか圏外になった俺は自信をなくして、夢を見ることを諦めていた。ピアノ以外の勉強をろくにしてこなかったから大学受験は本当に苦労したものだ。
現代文小説も音楽も何かを表現するために作られたもの何に、どうしてこうも小説というのは理解しがたいものなのか。今でも本を読むのは、ちょっと苦手だったりする。

「ゆかりにこの仕事が来たとき、俺もテンション上がってた。ピアノを弾くために来たわけじゃなくても、この街に来たってことがなにより嬉しいんだ。だから、その、ゆかりにはめっちゃ感謝している」

 音楽の道を諦めた俺だったけどアイドルのプロデューサーとして音楽に携わることが出来たのは音楽の神様の気まぐれなんだろうか。もしくは。

「ゆかりが神様の生まれ変わりだったりして」

「ええ?」

 彼女との縁(ゆかり)が俺とゆかりの夢を叶えてくれた。プロデューサーとして、ゆかりのファンとしてこれ以上嬉しいことはない。

「夢やぶれたピアニストだけど、次の夢を見ることができた。こういうこと言うのって恥ずかしいけど……今の俺の夢はゆかりが一番になることだよ」

 例え賞を受け取るのが自分でなくても、彼女にガラスの靴を履かせてやりたい。彼女の声を、もっともっと多くの人に聞いてもらいたい。日本とウィーンだけじゃない、目指すは世界だ。

「そう言われたら……頑張らないといけませんね」

 空になっていたグラスに水が注がれる。小意気なアルペジオに合わせて、俺とゆかりは乾杯をした。


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