水本ゆかり「維納に奏でる」
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37: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:58:27.67 ID:cgXM4cARO
 憧れの街での日々は俺にとってもゆかりにとっても刺激的なものだった。だけど終わりは来るものだ。ウィーンでの集大成となるコンサート当日がやってきた。
街中お祭りモードであちらこちらから音楽が響き渡る。道行く人だけじゃなく、馬車を引く馬たちも心なしか軽やかな足音を刻んでいる。

「どうでしょうか? 浮いてしまったりしませんか?」

「うん、よく似合っているよ」

 着替えを終えたゆかりを見て心からそう思う。リサイタルドレスではなく、アイドル衣装を着た彼女はウィーンの人達にとっては不思議に見えるかも知れない。でも彼女はここにアイドルとしてやってきた。
ステージに立つゆかりにとって一番自然体な衣装を選んだつもりだ。

「不思議ですよね。ここのところ私は仕事がうまくいかなくて自信をなくしてしまいそうだったのに……この街に来たらなんだか出来そうな気がしてきたんです。でもそれってウィーンの空気を吸ったからなんかじゃなくて……うまく表現できませんけど」

 そう力強く言う彼女の瞳にはやる気が満ちている。大丈夫だ、きっとうまくいく。

「そう思えるのなら、日本に帰っても大丈夫だよ」

「はい。それに、私にはプロデューサーさんもついていますから。あなたの夢が、私の夢です」

「!」

 本番前の緊張を感じさせない柔らかな笑みを浮かべて、ゆかりはステージへと向かっていった。憧れを今、超えてみせるんだ――。


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