32: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:52:40.72 ID:cgXM4cARO
ゴンドラは落ち着いたテンポで上へ上へと登って行く。それは怠慢なんかではなく、ウィーンの素敵な景色をゆっくりと楽しめよと言っているみたいだ。
日本の観覧車との差異を聞かれると、二十人乗ることが出来る客車の大きさであろう。ウィーンの風景の中キスをしたいカップルもいるだろうが二人っきりで観覧車に乗れるなんてことはまぁなく、基本的には見ず知らずの相手と相乗りだ。
俺とゆかりが乗っているゴンドラではお孫さんを連れた老夫婦や若い女性三人組が相席している。前のゴンドラの中じゃパーティーが開かれているらしく、四、五人くらいの若者が楽しげに横に揺れている。日本だと考えられない光景だろう。
「〜〜?」
「あはは……いただきます」
不意にご婦人にワイングラスを渡される。何を言っているかは分からないけど(とりあえずヤーパナーって聞こえたからうなずいてはみたけども)おすそ分けをしてくれたらしい。
斜陽に照らされる楽都の街並みは映画のワンシーンのようで、どんどんと人たちが点になって行った。
あの点の一つがが永遠に止まる度に所得税抜きで2万ポンドやる、と言われたら断るかね? こんな感じのセリフだったか。今の俺はオーソン・ウェルズみたいに渋い大人になれただろうか。意味もなくワイングラスをクルクルと回してみる。
「ふふっ」
「どうかした?」
「いえ、プロデューサーさんが気難しい顔をしていましたから……」
そういうつもりではなかったのだけどな。どうやらまだまだアダルトな渋みが足りないらしい。まぁ、ゆかりが笑ってくれたからよしとしよう。そんな言い訳を心の中でしてワインを飲み干した。
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