水本ゆかり「維納に奏でる」
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31: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:51:15.96 ID:cgXM4cARO
「凄い……」

 夕焼けに照らされてゆっくりと回る王様のような大観覧車にゆかりは単純な言葉しか紡げなくなっている。その存在感は唯一無二で頂上にたどり着いたゴンドラからはウィーンの街が一望できることだろう。

「子供の頃に見た映画でここの観覧車が使われていたんだ。それ以来一度行ってみたいと思ってた」

 子供の頃とはいうものの、十年二十年前の映画ではない。第二次世界大戦が終わった後の作品で、今では考えられないかもしれないけど白と黒のモノクロで表現された世界はガキンチョだった俺に強く衝撃を与えた。
何より色彩のない世界の中で奏でられた耳に残るテーマと、印象的に使われるこの大観覧車が強く頭に残っていたのだ。聖地巡礼といってもいいだろう。

「乗ってみる?」

「はい」

 少し明るい声色で、ゆかりは観覧車へと歩き出した。足取りもちょっぴり、羽が生えたみたいに。


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