水本ゆかり「維納に奏でる」
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33: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:54:30.19 ID:cgXM4cARO
「頂上まで来ましたね」

 大観覧車のてっぺんから学徒を見下ろす。ゆかりの荷物を盗んだ不届き者は捕まっただろうか、なんてことを考えているとゆかりはおもむろにフルートを組み立て始めた。

「〜〜♪」

 そうなればやることは一つ。大きなゴンドラは夕日よりも高い場所でのフルートリサイタル会場になった。相乗りしている誰もが彼女に釘付けになる。奏でられている曲はきっと彼らは初めて聞くはずだ。だけど俺たち日本人はこの曲を聴くと、無性に寂しい気持ちになってしまう。

「ふるさと、か」

「はい。変だったでしょうか?」

「ううん、そんなことないさ。ほら」

 パチパチパチと拍手の雨が降る。きっと彼らは曲名も知らないだろうしうさぎを追いかけた思い出を懐かしむ曲だなんて想像もつかないだろう。だけど素敵な音楽は国境を越える。イロハもドレミもCDEも全ては心を幸せにするメロディになるのだから。

「ダンケシェーン!」

 ゆかりは深々とお辞儀をする。そんなこんなしているうちにゴンドラは地上まで降りてきた。

「〜〜!」

「ど、どうも」

 相乗りした老夫婦に握手を求められる。何を言っているかは分からなかったけど、頑張れと言ってくれているのだろう。そんな気はしていた。


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