22: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:41:10.85 ID:cgXM4cARO
「なんでも彼が書いたフルート協奏曲の一つは、以前作っていたオーボエ協奏曲を全音あげただけのもので、父親に宛てた手紙にはこう書かれていたみたいです」
我慢のならない楽器だと。ゆかりは寂しそうに話す。
「たしかに当時のフルート今のそれとは違って、発展途上の楽器。文字通りの木管楽器で音程も不安定なものだったそうです。だけど私は思うんです。本当はフルートを愛していたんだと」
ゆかりはカバンの中から音楽プレーヤーを取り出し俺にイヤホンを渡す。聞いてくださいと言っているようだ。
「……モーツァルトのピアノ協奏曲か」
「えっ? はい。そうです」
曲名を当てられたからかゆかりは驚いたような表情を見せるが、すぐに解説に戻る。
「ピアノのために作られた協奏曲ですが……この曲において、フルートはまるで天使の歌声のように奏でられています。私が思うにですけど……当時のフルートはモーツァルトの理想には届かない楽器だったかもしれませんが、それでも彼はこれからの未来においてフルートが改良されて自分の理想とする音を奏でることが出来たと信じていたと思うんです」
神童と呼ばれた天才が残した天籟のメロディはこれまで多くの人たちに奏でられて来た。時代は変われども永遠に愛される音楽。この街を生きた彼らは、そんな未来すらも見越していたのだろうか。
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