23: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:42:40.37 ID:cgXM4cARO
馬車に乗りながら室内音楽を楽しむという贅沢をしているうちに、フィアカーははじめのペーター教会前に到着していた。
「アリガト、ゴザイマー」
カタコトでも日本語で話してくれるのは嬉しかった。少し多めに御者さんにチップを渡して俺たちは教会の中に入った。外から見る以上に開放感があり、
24: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:43:56.28 ID:cgXM4cARO
「コンサート、やるみたいですよ?」
「えっ?」
どうやらここではパイプオルガンによるコンサートが毎日のように開かれているらしい。オルガンの前に立つ少女が一礼をし、弾き始めると祭壇の中に重厚な音が広がり渡る。……ん? 少女?
25: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:45:28.09 ID:cgXM4cARO
「ダンケシェーン!」
30分ほどのオルガンコンサートは万雷の拍手の中、幕を閉じた。コンサート自体は無料らしいがオルガンの維持やオルガニストへの寄付は行われているらしい。良いものを聞かせてもらったと財布から10ユーロを寄付して講堂から出ようとしたその時だった。
「待ってくださーい!」
26: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:46:32.09 ID:cgXM4cARO
「まぁ……」
情緒たっぷりに奏でられるカルメンの間奏曲は耳に心地よく、俺たちだけでなく道行く人たちの視線も集め始めた。シンプルで誰もが一度は聞いたことがある親しみやすいメロディだが、
それ故にごまかしが一切効かず奏者の技量が試される。正直なところ、フルートを専門にして育って来たゆかりに比べるとフルート奏者としての技術や表現は及ばずとも、一人の音楽家としてみてしまえば日本で活躍するプロの音楽家達にも負けていない。
27: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:47:29.60 ID:cgXM4cARO
「ふぅ……」
その後もいくつかの観光スポットを巡りホテルに戻った俺はスケジュールを再度確認する。ゆかりは少しフルートの練習がしたいと言って近くの公園にいるようだ。
「ここに来たら、そうなるよなぁ……」
28: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:48:47.04 ID:cgXM4cARO
「プロデューサーさん!」
公園へと向かうとゆかりが涙目になって待っている。手にはフルートを持っているけど、カバンが見当たらない。
「カバンを近くに置いていたのですが、フルートを吹いているのに夢中で置き引きにあったことに気付かなくて……」
29: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:49:22.86 ID:cgXM4cARO
「ウィーンは治安の良い街と言われますが、それでもスリや置き引き、ニセ警官はいるものです」
おまわりさんとのやりとりを終えた村松さんはそう話す。特に日本人のパスポートは悪い意味手間需要があるらしく高く取引されるらしい。
「うっかりしていた私が悪いです……」
30: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:50:02.62 ID:cgXM4cARO
「さてと、ゆかり。ちょっといいかな?」
「えっ?」
写真も撮って大使館で必要な手続きをした俺たちはホテルに戻らずタクシーを捕まえる。
31: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:51:15.96 ID:cgXM4cARO
「凄い……」
夕焼けに照らされてゆっくりと回る王様のような大観覧車にゆかりは単純な言葉しか紡げなくなっている。その存在感は唯一無二で頂上にたどり着いたゴンドラからはウィーンの街が一望できることだろう。
「子供の頃に見た映画でここの観覧車が使われていたんだ。それ以来一度行ってみたいと思ってた」
32: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:52:40.72 ID:cgXM4cARO
ゴンドラは落ち着いたテンポで上へ上へと登って行く。それは怠慢なんかではなく、ウィーンの素敵な景色をゆっくりと楽しめよと言っているみたいだ。
日本の観覧車との差異を聞かれると、二十人乗ることが出来る客車の大きさであろう。ウィーンの風景の中キスをしたいカップルもいるだろうが二人っきりで観覧車に乗れるなんてことはまぁなく、基本的には見ず知らずの相手と相乗りだ。
俺とゆかりが乗っているゴンドラではお孫さんを連れた老夫婦や若い女性三人組が相席している。前のゴンドラの中じゃパーティーが開かれているらしく、四、五人くらいの若者が楽しげに横に揺れている。日本だと考えられない光景だろう。
33: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:54:30.19 ID:cgXM4cARO
「頂上まで来ましたね」
大観覧車のてっぺんから学徒を見下ろす。ゆかりの荷物を盗んだ不届き者は捕まっただろうか、なんてことを考えているとゆかりはおもむろにフルートを組み立て始めた。
「〜〜♪」
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