27: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:47:29.60 ID:cgXM4cARO
「ふぅ……」
その後もいくつかの観光スポットを巡りホテルに戻った俺はスケジュールを再度確認する。ゆかりは少しフルートの練習がしたいと言って近くの公園にいるようだ。
「ここに来たら、そうなるよなぁ……」
音楽の都ウィーンに来て影響を受けているのはゆかりだけじゃない。俺も確かに、心の奥底から込み上げてくるものがあった。
「今更だけど」
泉のように湧きたちつつある感情に諦めという蓋をする。何を未練がましくしているんだ俺は。もうとっくに、きっぱりと諦めたじゃないか。それなのに、両の手は言うことを聞かない。いっそ、切り落としてしまえば未練もまとめて切ることが出来るのだろうか。
「何恐ろしいこと考えているんだ!」
頭をよぎった狂気を振り払って資料の作成に移る。観光気分ではいたけども仕事の一環だし、帰国したらしたですぐに方々に営業をかける必要がある。アイドルたちのデモテープを作業用BGMにして、白黒の鍵盤ではなくキーボードを叩き始めた。
「ん? ゆかり?」
不意にスマホが着信を知らせる。
『もしもし、プロデューサーさん……?』
電話に出るとpが四個くらい付いているほど弱弱しい口調のゆかりの声が届く。後ろから聞こえる愉快なアコーディオンのメロディにかき消されてしまいそうなほどだ。
「ゆかり? どうかした?」
『その、えっと……置き引きにあいまして』
「お、置き引きぃ!?」
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