26: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:46:32.09 ID:cgXM4cARO
「まぁ……」
情緒たっぷりに奏でられるカルメンの間奏曲は耳に心地よく、俺たちだけでなく道行く人たちの視線も集め始めた。シンプルで誰もが一度は聞いたことがある親しみやすいメロディだが、
それ故にごまかしが一切効かず奏者の技量が試される。正直なところ、フルートを専門にして育って来たゆかりに比べるとフルート奏者としての技術や表現は及ばずとも、一人の音楽家としてみてしまえば日本で活躍するプロの音楽家達にも負けていない。
「どうでしたか?」
静かに曲が終わると道行く人たちはフルートケースの中にお金を入れ始めた。照れ臭そうに笑うとダンケシェーンと見事な発音で一礼するのだった。
「君、フルートも吹けるんだね」
「はい。楽器なら一通り触って来ましたので」
聴くとウィーンで生まれ育ったらしく、幼い頃から音楽や芸術に囲まれてきたようだ。彼女の身体の中には血と同じように音楽が流れている。それは音楽家にとって、何よりも羨ましいことだ。
「でも今度日本に帰るんです。実はちょっとした野望がありまして」
「へぇ、野望かあ」
「はい。まだ話せませんけど……いつか、テレビに映る私が見れるかもしれないですね♪すみません、この後バレエのレッスンで! 日本でも会えたら、今度は貴女のフルートを聞かせて下さい! アウフウィダゼン!」
少女はそう言い残して軽やかな足取りで去っていった。あ、結局名前聞いてないな。
「プロデューサーさん」
「ん?」
「スカウトしたい、って思いましたよね?」
「あはは……バレた?」
こんなところでもついつい目を光らせてしまう。もはや職業病だ。しかし俺の目は間違っていなかったようで、後にミントグリーンの彼女とは思わぬところで再会することになるのだけど、それはまた別の話だ。
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