他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
【安価とコンマで】艦これ100レス劇場【艦これ劇場】
Check
Tweet
480 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 21:52:03.39 ID:a8m83EUHO
はい
481 :
◆Fy7e1QFAIM
[sage saga]:2015/05/13(水) 16:11:02.31 ID:fvAWxPzdO
>>476
-
>>480
より
・金剛2レス/翔鶴1レス/足柄1レス/雪風1レス
で『Phase B』が進行していきます。
ひとまず次回の投下でシナリオ的に一区切り着く感じです。
実は概ね25レス単位で区切れるよう作ってたりします。先のことはどうなるか分かりませんが。
次で50レスとスレ的にも区切りがつくんでそろそろちょっと仕様変更みたいなのぶっ込んでみようかなーとか思ったり思わなかったりしています。
これはこれで(書いてる自分は)楽しいんですけれども、そろそろなんかアクション起こすのもアリかなと。
具体的には安価時になんかシチュとか書くと実現する〜みたいなやつあたりを弄ろかなと。
扱いが難しそうだからわざと成功率低めに設定したんですけど、緩めてもそれはそれでいけそうな気がしてきたので。
あとは……まだ詳しく決めてないんで秘密。
次フェーズからはちょっと何か変わるかも、と書いておきます。
////Twitterにでも書いてろ的な////
能代やっと来ました。彼女一人を探すためだけに弾薬が10000以上消し飛んだよーな……。
遂に艦娘コンプです、やりました。
1年と1ヶ月でやれたんでそこそこ運が良い方ですかね(勿論プレイ頻度に依りますが)。
このゲームはいかに早く大型艦建造を脱却出来るかが一番重要だと思う……。
当面の目標は図鑑埋めですかねー。睦月改二・葛城改・Roma改・秋津洲改がまだなんで。
あとは長良・白露・村雨・朝雲・磯風・朝霜も図鑑には載らないけど改でグラ変わる系なんで育てようかなあと。
レベリングに終わりはないのだ。
482 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/22(金) 00:05:05.24 ID:hMVTwvEf0
どもども。大体二週間に一回のペースでの投稿間隔になりつつありますねー。
本当はもちっと早めたいところなんですがー。
口では早めたいと言っているのですが実際のところ……という感じでありましてハイ。
何はともあれ次回の投下は24(日)あたりを目処に書いております。
本当は今日の夜あたりに行っとくつもりだったんですが現状の進捗を鑑みるにダメそうなので……。
////人間は紙とペンさえあれば世界の神になれる 〜チラシの裏という無法地帯////
最近は友人がBesiegeというゲームをSteamで配信してるのでそれを見て時間潰してます。
分からん人には何のこっちゃって感じですが。
そもそも艦これにもこのSSにも全く関係ない話なんであんま気にしなくていいです。例によって読まなくてもいいです。
SteamってのはPCゲームのダウンロード販売プラットフォーム……iTunes StoreやWindows ストアの洋ゲー版ってとこでしょうか。
(厳密には違いますけどね。あと別に日本のゲームもあることにはあります)
そのSteamってので配信してるゲームにBesiegeってのがありまして。
日本語Wiki曰く『Besiegeは、中世の攻城兵器を作って要塞や集落、兵士、羊を蹴散らしていく物理ベースのシミュレーションゲームです。』らしいです。
ブロックを組み合わせて戦車やカタパルト、飛空艇なんかを自分で作ってステージを攻略していく……って感じのゲームです。
Robocraftってゲームが一番イメージとしては近いですかね。噛み砕いて言うとレゴブロックを組み合わせて兵器を作っていくような感じ?
まだテスト版なんでゲームとして完成してないんですけど、こいつが中々面白くて。
友人の作るカオスな兵器(艦上爆撃機めいた特攻兵器やデコトラのようなゴテゴテした戦車)を見て楽しんでおりますハイ。
完成版が出たら自分も買いたいなーと思っております。
……そんなんで時間使ってねえで続き書けや! ハイ! スミマセン! だって微妙に詰まってるんだもん!! だもん丸だもん!(誰だよ
わりと個人の特定が容易な書き込みばっかしてるんでリアルでの知人がこのスレ見たらすぐに誰が書いたかバレそうでアレである。
483 :
【46/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:25:00.94 ID:WT3SGm150
飛龍「索敵機が帰還しました! 駆逐ハ級後期型が3隻、駆逐イ級・駆逐ロ級の後期型が2隻、軽空母ヌ級flagship2隻、戦艦タ級flagshipおよび戦艦ル級flagship各1隻、空母ヲ級flagship2隻……」
蒼龍「護衛要塞の存在も確認されています! また、要塞の先に見慣れない大型の深海棲艦が2隻との報告が。警戒して下さい!」
赤城「呉強襲の時もそうでしたが、敵艦隊からこれまでとは比べ物にならないほどの殺意を感じます。
あの要塞の背後にどんな恐ろしい相手が隠れているのかは想像もつきませんが……終わりにしてみせます! 第一次攻撃隊、発艦!」 バシュッ
大鳳「私たちも続きます! 第六○一航空隊、発艦始め!」 次々に艦載機を撃ち出して迫り来る敵機を迎え撃つ赤城たち
加賀「翔鶴、瑞鶴。貴方たちに実戦で物を教えるのは初めてかしら。……これが私の最後の教えになります」
普段の構えを解き、正面の敵艦隊へと大きく前進する加賀。普段の彼女の姿からはまるで想像もつかない無防備なその振る舞いは、ともすれば敵の的となりかねない。瑞鶴が叫ぶ。
瑞鶴「一体何をやっているの!? 単機で敵陣に突っ込んでいくなんて!?」
飛龍「加賀先輩が構えを解いた……“アレ”、をやるつもりみたいですね。
普段はあんなに朴訥で慎重な戦い方をするわりに、攻めに回ると一番苛烈で執拗……味方で良かったと心から思いますよ」
加賀「『守破離』。……型を守ることは大事です。ですが、それを踏まえた上でより既存の型を破り、より自分に合った型を確立させなければ私や赤城のようにはなれません。
……そして、やがてはその型からも離れ自分自身が熟練した技術そのものとなるのです」
加賀「だからこの戦い方は私にしか出来ないでしょうし、真似ようとは思わなくて結構です。私自身、ここぞという大一番以外ではやりませんしね。あまりにも危険すぎるので……」
空から降り注ぐ急降下爆撃の嵐を駆け抜けながら前へ前へと進み次々と弓を引いていく加賀、敵戦艦の射程範囲寸前まで辿り着くと、目を閉じて一呼吸置く。
加賀「今です」 バシュッ……シュォォォォォオオオオオ
加賀が艦載機を放つと、後ろから来る赤城の射出した機体の動きに呼応して螺旋状に回転する。直掩機として動いているようだ。
加賀の艦戦が赤城の機体を守るように廻りながら敵機を蹴散らし、赤城の艦攻がただひたすらに真っ直ぐに突き進んでいく。
艦攻が護衛要塞に接近すると、ありったけの雷撃を撃ち放して要塞を粉々に粉砕する。
加賀「やりました」 後退していく加賀にウインクを送る赤城。目を閉じながら噛み締めるように口角を上げニヤケ笑いを浮かべる加賀
赤城「上々ね。……さぁ、姿を現しなさい! この戦いの決着をつけましょう!」 加賀へ向けた微笑みの表情から一変、キッと鋭く大敵を睨みつける赤城
中間棲姫「…………」 髪をかきあげ、赤城を睨み返す
空母棲姫「ヒノ……カタマリトナッテ……シズンデシマエ……!」 どす黒い海の底から、グロテスクな見た目の航空機を生成していく
二体の“姫”クラスが場に現れると、戦場の空気はそれまで以上に重苦しく、深刻なものに変わっていく。
喉を握りつぶすようなプレッシャーが、体にこびりつくような絶望感が場を支配する。
二体の繰り出す200機を越える敵の艦爆や艦攻が空を埋め尽くす。
赤城「艦上戦闘機の用意をッ! 飛龍さん、蒼龍さんは左をお願いします! 私と加賀さんで正面を叩きます!」
加賀「五航戦、右翼の敵は貴方たちに任せます。やれますね?」 艦戦を矢継早に繰り出しながら二人に話かける
瑞鶴「わっ、私たちだけでぇ!?」
加賀「師匠の無茶振りぐらい応えてみせるのが弟子ってものよ」
翔鶴「……瑞鶴。やりましょう。随伴艦の皆さん、撃ち漏らした敵はお願いします!」 空母の傍に迫り来る敵艦載機を吹雪や秋月といった駆逐艦たちが片っ端から叩き落していく
・・・・
空は未だ艦載機が跋扈している。死を恐れぬ異形の集まりである敵艦でさえ動くことを躊躇っているほどの激しい空戦が繰り広げられている。
戦場を駆け巡る烈日の如き熱風に、秋霜の如き冷たい緊張感。対空装備のない艦娘たちは固唾を呑んで空の様子を見守っている。
瑞鶴「ッにしても……盆と正月が一片に来たみたいな歓迎っぷりね。忙しいったらありゃしない!」
翔鶴「にしては随分生き生きしてるじゃない?」
瑞鶴「そりゃあ最後の晴れ舞台ですもの! 一航戦の先輩には負けないわッ! ……っと翔鶴姉、矢借りるよ」 ひょいと翔鶴の矢筒から矢を奪う
翔鶴「えっ? あぁん、瑞鶴! 持っていかないでって……もう射尽くしたの?」
瑞鶴「『百発の矢で倒せない相手ならば、一千発の矢で射殺すまで』よ! 翔鶴姉は慎重すぎるんだってば! 勿体ぶってても、大破したらそれまでだわッ」
翔鶴「つ、都合の良い時だけ先輩の教えを引き出さないの! 『初心の人、二つの矢を持つことなかれ』……一矢一矢が全てを込めた絶対無二の一撃。無駄にしてはいけないわ」
瑞鶴「うっ……でも、無駄にはしてないわ。大丈夫よ」
瑞鶴「私ね……加賀さんの期待に応えたい。なぜアレを私たちに見せたのかは分からないけど……加賀さんの背中を見て、超えてみせろって言われている気がしたの。
だから私は……私なりのやり方で加賀さんを乗り越えてみせるッ! 今、ここで!」
翔鶴(……瑞鶴。そんな事を考えていたのね)
翔鶴「……分かったわ。好きなだけ持って行きなさい。私は残りの矢でなんとかするわ。ふふっ」 弓を構えながら微笑みかける翔鶴
瑞鶴「? どうしたのさ翔鶴ねえ。今のどこが面白かった?」
翔鶴「瑞鶴らしくて面白いなと思ったのよ。……でも、そうね。私も負けてはいられないわ」 遠く先の敵艦を見据え、真っ直ぐに矢を放つ
翔鶴(加賀先輩や赤城先輩の意志を受け継いで、私たちは前に進む……ッ! その先へ!)
484 :
【47/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:25:51.51 ID:WT3SGm150
飛龍「やれやれ、何とか退けたわね。航空優勢、ってとこかしら」
蒼龍「これだけ空の敵を減らせば、弾着観測射撃も可能なはず。第一水上打撃大隊の方にもそろそろ動いてもらわないとですね」
赤城「砲撃戦に移行しますッ! 我々空母機動部隊は継続して敵艦載機の迎撃と敵艦の撃沈に努めます!」
長門「いよいよか……。首尾通り、私と陸奥で中央のあの巨壁……戦艦ル級を突破する。榛名・霧島隊は左翼、扶桑・山城・ビスマルク隊は右の雑魚を掃討しつつ前進。
大和・武蔵は後方より支援。形勢がこちらに向くまで前進は控えておけ」
武蔵「チッ、まあいい。私たちは圧倒的優勢か圧倒的劣勢でしか動かせんからな。秘密兵器というのも難儀なもんだ」 欠伸をする武蔵
大和「分かりました。大和型の射程であれば、ここからでも最前線の敵なら沈めることが出来ます!」 水上観測機を飛ばす大和
金剛「ワタシ達はどうすれば良いデスカ!?」
長門「好きにしろ。ハナから作戦に組み込まれていなかったイレギュラーな連中のことまで考慮出来るか。我々の邪魔にならないように動いてくれればそれでいい」
金剛「オッケー! 邪魔にならなければ何やっても良いってことですよネ? 行きますッ、Fire!」 敵からの砲撃を物ともせず前進していく金剛
長門「ばっ、バカ者がッ! 隊列を乱すんじゃない! 陸奥、私たちも奴に続くぞ。あんな英国被れに遅れを取ってたまるか!」
・・・・
群がる深海棲艦。苛烈な空襲と砲撃。左翼の榛名・霧島隊は壊走の危機に瀕していた。
榛名「榛名、全力で死守します!」 味方艦隊の殿として敵の的になる榛名
これまで比較的優勢に歩を進めていた榛名・霧島率いる左翼分隊であったが、敵戦艦の攻撃によって蒼龍が大破してしまう。
蒼龍の負傷により、左翼分隊の航空勢力は飛龍一人となってしまう。この痛撃に乗じて空母棲姫が左翼部隊めがけて突撃。
先に進んでしまった中央艦隊の支援は得られそうにないため、後退しつつ大和・武蔵率いる味方本隊との合流を図る榛名たち。
霧島(榛名……。第三艦隊に居た頃は口煩くて私の邪魔ばかりすると常々思っていましたが。
こうして艦隊を率いる立場になってみると、彼女のように劣勢に強い者は頼りになりますね……認めたくはありませんが、今この状況で一番力を発揮出来ているのは彼女でしょう)
霧島(自分に全ての砲火が集中しているというのに微動だにせずひたすら反撃し続けているとは……。とはいえ、長くは持たないでしょう。一刻も早く大和隊の援護を受けなければ……)
先頭を走る霧島。その表情には焦りの色が見られる。
榛名(功を焦りがちな霧島が撤退という選択を決断したのは意外でしたね。蒼龍が大破した段階で撤退を開始していたのは、結果論で考えれば英断と言えるでしょう。
あの空母の“姫”がこちらに接近していたのですから、あのまま前線に残っていたら取り返しのつかない被害を出していたでしょう) ドッゴオオオオン
轟音。嘘? 被弾した。一瞬の思考。その隙を突かれた。直撃したらしい。灼熱が肌を焦がす。血が吹き出る。視界が霞む。
榛名「ッ!」 シュゥゥゥウウ……
霧島「榛名!? 榛名ッ!」 榛名に駆け寄る霧島
榛名「…………。私に構わず、先に進んで……下さい。…………。後から、追いつきます……から。……まだ、やれます」
霧島「航行する力も残っていないくせに強がりは止してください。飛龍さん、艦爆隊の用意を。
加古さん達は負傷した艦を連れて大和隊と合流し、いち早くここに連れてきて下さい。私たちは敵を迎撃します!」
加古「了解!(これだけ追い詰められてるにも関わらずなんちゅー気迫だよ……。全身から殺すオーラが湧き出てるじゃんか……佐世保の艦娘は深海棲艦よりおっかないな)」
飛龍「蒼龍の仇は私が取ります! 徹底的に叩きますッ!」 鉢巻をギュッと結び直す飛龍。艦載機を発射していく
蒼龍(奮起してるのはいいけれど、人を死んだみたいに言わないで欲しいなァ……)
膝を震わせながらも立ち上がり、口元の血を袖で拭い、歯を食いしばる榛名。闘志は枯れていないようだ。
榛名「霧島……。ここで私が盾になった方が都合が良いのでしょう」
霧島「榛名“お姉様”、この際だから言わせてもらいますが。……私は貴方の『皆の為に』とか『誰かの為に』とかそういう自己犠牲精神が気に食わないです。
ほとんど歳が変わらないのに姉ぶって私の前で良いカッコしようという姿勢も嫌いです。私より常に上であろうとするその態度がいけ好かないですね」
霧島「ですが……。私たちの為に命を張ってくれている貴方を見逃せるほど、薄情じゃあありませんよ!
それに……どうも逃げ回ったり人と交渉したりするのは得意じゃないみたいでしてね。やっぱり戦場での殴り合いが性に合ってるみたいです!」
霧島「榛名。貴方だって私に思うことの一つや二つあるでしょう。私だけ不満をぶち撒けたんじゃ不公平ですから、どうぞ」
ダダッ、ダダッと砲を撃ちながら、言い放つ霧島。視線は少しも榛名の方へ向けようとしない。
ハァーと深く溜息をつく榛名。呆れたような顔で口を開く。
榛名「本当に……可愛げのない妹ですね。私の話は何一つ聞き入れようとしないんですから。それに、全然私の気持ちも分かってくれません。不器用すぎますよ……。
でも、私への不満を口にしてくれて、かえって少し気が楽になりました。そうですね、そんな風に思っていたんですね」
榛名「私よりも優秀なのを妬ましく思うことはありますし……どうして私を嫌うんだろうって、ショックを受けたりもしますけど……。
榛名は、霧島のことを嫌いだと思ったことなんて一度もありませんよ。たった一人の可愛い可愛い妹に、不満なんてあるわけないじゃないですか」
霧島の顔を見つめながらも、敵への砲撃は緩めない榛名。
視界がぼやけていても、聴力は普段より冴えているらしい。敵艦が水底に沈んでいく音まで明瞭に聞こえる。
霧島「ッ〜〜〜〜! な、なんですかそれは。私が意地を張っていただけみたいじゃないですか。なんなんですか、もう……。
やっぱり榛名とは波長が合わないみたいですね。調子が狂ってしまいます……」 口振りとは裏腹に、砲の命中精度は百発百中だ。次々と迫り来る敵を物ともしていない
485 :
【48/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:26:32.73 ID:WT3SGm150
遡ること一時間前。
赤城「追い詰めましたよ……! 周辺の随伴艦は全て叩きました。残るは貴方だけです」
中間棲姫「ノコノコト……誘ワレテイタコトニモ気ヅカズ……愚カシイ……」
長門(もう一体の方は我が隊の後方へ向かっているようだな。とはいえこちらの戦力は割けん、仕方あるまい……後方の大和・武蔵に動かさざるを得ないか)
加賀「覚悟は……良いですね?」
中間棲姫「……誘爆シテ……沈ンデイケ……!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
吹雪「敵艦載機接近! 迎撃します!」
熱を帯びる前線とは対照的に、艦隊の後列で若干やる気なさそうに話し合う金剛と比叡。
金剛「右翼の扶桑やビスマルクたちがこっちに向かって来ているみたいデスガ……左翼分隊の進みが悪いようですネ。“姫”サマはあっちに行ったと考えて良さそうデス。Hmm...」
比叡「二人が不安ですか? 確かに、少し荷が重いかもしれませんが……大和型が出るのであればどうにかなりそうな気がしますけど」
金剛「敵の首尾が良すぎだと思いませんカ。あのサイドテールのBossが大和たちより早く戦場に着いていたとしたら……?
ワタシ達は後方へ退いて、榛名や霧島たちの援護に向かいませんか? ここはワタシ達抜きでも突破できるデショウ」
比叡「構いませんが……お姉様が人の心配をするなんて珍しいですね。ま、そうは言っても大切な姉妹ですからね」
・・・・
金剛(ワタシを近くで見てきた比叡でさえ……『お姉様が他人の心配をするなんて珍しい』か……。当然といえば当然デスガ……。
第一艦隊では放っておいても死なないような連中しか居なかったし、気に留める必要が無かった。
いや、仮にその必要があったとしても……味方に危機が迫っていたとしても、私は助けるようなことはしなかったと思う)
金剛(じゃあ、どうして私はこうして榛名や霧島たちのもとへ向かっているんでしょうか? 自分の姉妹だから? いいや違う。
確かに、榛名や霧島のことを姉妹とは思っていますが……今更姉として会わせられる顔も無いでしょう。
自分の地位を脅かされることを恐れて、二人が対立しているのを見て見ぬふりをしていたのは誰? それどころか都合が良いとさえ思っていたのは誰?)
金剛(今更良い子ちゃんぶって何になる? 私は自分の為に、全てを犠牲に出来る人間になったはずだった。はず、だったのに……)
提督との回想が脳裏を駆け巡る。
“私は本気で人の事を嫌いにはなれない”、“誰かに愛されたい、認められたい”、“人と人とは分かり合える”……全て自分の言葉だ。
甘ったるい、弱い言葉だ。反吐が出る、苦々しい。
……けれど、自分の本心だ。あんな風に追い詰められていたからこそ出てきた言葉。自分自身で封じ込めて、見ないふりをしてきた本音。
どれだけ強くなっても、他人を押しのけて一番になっても、誰からも畏れられるようになっても、満たされなかったのは……それが本当の望みじゃなかったから。
金剛(提督……)
『お前を嫌いにならない努力をしてみようかと思っただけだ。人から嫌われるのは嫌なのだろう?』
金剛(……)
行こう、行くんだ。甘ちゃんでも構わない。他人からすれば偽善に見えるかもしれない、欺瞞に映るかもしれない。
いいんだ。それでもいい、それでも私は人を愛していたい。利害の繋がりだけじゃ、私の心は満たされない!
・・・・
比叡「気合ッ! 入れてッ! 行きますッ!」 ドドォン!! ドドォン!!
金剛と比叡の放った攻撃が空母棲姫に直撃する。背後からの攻撃は予期していなかったらしく、思わぬ痛みに苦しんでいるようだ。
空母棲姫「チィッ……アト一歩ノ所デ……。一体、何者ダ……」
金剛「榛名! 霧島! よく持ちこたえまシタ!」 ボロボロでへばっている二人にグッと親指を突き立てる金剛
霧島「金剛、お姉様……どうして……?」
金剛「妹を助けるのに、理由なんて要りますカ? 比叡、大和たちが来る前にカタを着けますヨ?」
比叡「承知しましたッ! 蹴散らしてやります!」 ドゴォォン!
砲のシャワーを軽やかに受け流しながら敵に強烈な一撃を叩き込んでいく二人。
榛名「霧島。休憩はこれくらいにして、私たちも続きましょう。こんな所で終われないでしょう?」
霧島「ッてて……体の節々が痛むんですけど……。本当に榛名はタフですね。ま……そういう所は、私も見習わなければいけませんね!」
即席で組まれた戦闘部隊とは思えないほどの一糸乱れぬ連携を見せる金剛たち。
比叡「こうして四人で戦ってると、昔を思い出しますねー! まだ皆右も左も分からなくて、戦い方もてんでなってなくて……」
榛名「それがここまで来た、というのはなんだか感慨深いものがありますね……。皆、自分なりに積み重ねて来たんだな、って」
金剛「さっさとこの戦いを終わらせて、皆で久しぶりにティータイムするネー! バァァニング・ラァヴ・ファイヤァァァ!!」 ドゴオオオオン
486 :
【49/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:39:58.44 ID:WT3SGm150
龍田「遅かったじゃないですか〜。結構焦ったんですよ?」
提督「すまんな、世話をかけた。それと、影武者の方の演技指導もバッチリだったようだな。褒めておこう(影武者というかただの代理だが)」
提督「ふむふむ。左翼分隊は主力である本隊と合流し、敵主力艦……仮称“空母棲姫”を撃破。中央分隊は右翼分隊と合流し、敵主力艦“中間棲姫”と交戦中。日没までには決着というところか。
右翼分隊の瑞鶴や翔鶴が存外活躍していたようだな、あの一航戦に迫るほどの戦果を上げているとは驚きだ」
龍田「現状の結果だけ見るとどうということも無かったかのように見えますけど……これでもだいぶ危ない展開もあったんですよ。
左翼分隊の空母蒼龍が負傷したところを狙いすましたかのように空母棲姫が奇襲。犠牲が出てもおかしくない状況でした」
皐月「おぉー、司令官。ひょっとしてこれを見越して金剛たちを降ろしたのかな? うまい具合に金剛と比叡がピンチに駆けつけているようだけど」
提督「偶然に決まっているだろう。ブレーキが壊れるだなんて予測できるはずない。ふむ……しかし、金剛に比叡か。なかなか見事な戦況判断だな。
後方に控えている大和隊の到着よりも先に空母棲姫が左翼分隊に攻撃を仕掛けているだろうと考えたのだろうな。だから目の前の中間棲姫を無視してUターンし、榛名・霧島らの救援に向かったと。
(しかし、仮に敵がボス級の戦力を中央以外に割くのであれば、戦力的に手薄である右翼分隊を狙うと思っていたが……。
純粋な戦力配分だけで判断せず士気や戦況の変動まで加味して動かしたのだとしたら……)暗号の漏洩も敵の配置の無駄のなさも、奴が居るとしたらありえなくはない展開だ」
提督「……急ぎ前線に通達してくれ。負傷した艦は鎮守府に帰投、健在な艦は夜が明けるまでは決してMI最深部から動くな。最大級の警戒を以って索敵を行え。絶対に油断するな」
・・・・
中間棲姫「トラエテ……イルワ……!」 総攻撃を受けながらもプレッシャーを放ち続ける中間棲姫
赤城(敵に余裕が無くなってきたわ。頃合ね)
赤城や長門らに加え、後から合流した金剛や大和たちの総攻撃を一身に受けているため防戦一方の中間棲姫。その隙を響は見逃さなかった。
響「灯台下暗し……というわけだな。随分しぶとかったようだが……прощаться。永遠に、さようならだ!」
もう日が沈みつつあるとはいえ、まだ陽光は照っている。そんな状況で敵艦に肉薄すれば反撃を被るのは必定。
しかし、圧倒的な攻撃力と対峙した中間棲姫は前方の猛攻を凌ぐことだけに意識が集中してしまった。脇腹に滑り込むように接近していた響に気づかなかった。
中間棲姫「ソンナ……ワタシガ、オチルト……いうの……?」 ドゴォォン!ドンドンドンドン! シュゴォォオオ……
響の容赦ない雷撃により、戦いの幕は閉じた。しかし、終わったという感慨に浸る間もなく、空が表情を変えていく。太陽は一瞬にして沈み、月が天頂を照らす。
雪風「!? 司令から伝令ですッ! 『空母及び負傷した艦は全速力で鎮守府に戻れ。健在の艦は決してその場を動くな。索敵を緩めるな。絶対に油断するな』だそうです!!」
響「なんだと……? どうなっている。まだ敵が居るとでも? 電探には何も引っかからないが……」
・・・・
川内「へっへーん! こういう時のための夜偵だよねー! やっぱ夜戦がないと面白くないからねぇ!」
吹雪「川内さん、どうですか? 敵艦らしきものは発見出来ましたか?」
川内「おっ、見つけた見つけた! 空母が一隻だけ居るみたいね♪ でも、なんだって空母……? 夜なら艦載機飛ばせないんじゃない? ひょっとして楽勝?」
吹雪「佐世保の提督が絶対に油断するなと念押しぐらいですから、警戒に警戒を重ねて挑むべきでしょう。それに、突然日が沈んで夜になってしまうなんて、何が起こっているのか……」
雪風(『空母ヲ級Nightmare』司令のお兄さんから聞いた話ですが……悪夢の名を冠するその深海棲艦は、高い知能を持ち、他の艦とは一線を画する力を持つという……。
夜を統べるその力は、闇の中でも敵を捕捉し確実に追い詰める……!)
雪風「敵がこちらの索敵機に気づいていないということは、一歩先手を取ったということ。大淀さん、司令と通信を繋いでもらえますか? あっ、ありがとうございます。
司令、“ナイトメア”ですよね? ……敵のおおよその位置を掴みました。まだこちらには気づいていないようです!」
提督「ガガピー……ガガ……。なぜお前がその名を知っているかについて聞いている時間は無さそうだな。……とにかく、知っているようなら話は早い。
敵にこの通信を傍受されるといけないから手短に伝えるぞ。奴は夜間でも艦載機を好き放題放てるとんでもない空母だ。見つかったら終わり……だが、偵察機がお前たちを捉えるのは時間の問題だ。
奴の位置が掴めているならば……そして奴に見つかっていないのであれば……一撃に全てを賭けろ。全艦のありったけの砲をぶつけろ、今すぐにだ!」
金剛「テートクのご命令とあらば! やるっきゃありませんネー!!」
大和「話がまるで掴めませんが……行きましょう! 全主砲、撃てぇッ!」
遠方から爆撃音。燃え盛る炎は、いかに威力が絶大だったかを物語る。しかし……。
体中に炎を浴びながらも、ゆらゆらと立ち上がる影。その右目に宿る蒼い炎は、砲によるものではなく燃え盛る憎しみの炎なのだろう。
それまで空を旋回させていた艦載機の全て……中間棲姫や空母棲姫のそれを上回る数の艦載機をこちらに向けてくる。さらに……。
陸奥「そんな!? 倒したはずじゃ……?」
深く暗い水底から浮かび上がってくる中間棲姫に空母棲姫。呉を襲った二体の戦艦棲姫まで現れる。
雪風「ダメでしたか! っ! 私が囮になります!! アイツを倒せば全てが終わりますから!」 近くに居た川内から探照灯と照明弾を奪い取り、真っ直ぐにヲ級への道を切り拓いていく雪風
川内「返せー! ってか、そんなことしたら敵の的になっちゃうっての!」
雪風「大丈夫です! 私が……あの空母までの道を照らす光となりますッ!!」
雪風がかつて“死神”と呼ばれていたのは、どんな無謀と思えるような作戦でも生き残ってきた浮沈艦であること。そして、もう一つ。
スイッチが入ると誰にも止められないほど猛威を奮うことである。そしてその真価は夜戦で発揮される。
空から、前後から、左右から来る砲撃と雷撃の嵐でさえスローモーションに感じられてしまうほど、雪風の感覚は冴え渡っていた。敵の攻撃を華麗に受け流しつつ魚雷を見舞いする。
川内「ヒューッ……やるじゃん。夜戦装備取られたのはムカつくけど……あの動き、水雷魂感じちゃうなぁ……! よっし! 私たちも行くよ。やってやろうじゃんか!」
487 :
【50/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:41:23.60 ID:WT3SGm150
長門「何がなんだかまるで分からんが……。川内! 吹雪! お前たちはあのヲ級を仕留めろ! このデカブツどもは、私たちが食い止める!
陸奥「戦艦のありったけの砲を食らったんだもの、持ち応えてこそいるけれど、かなりダメージを負っているはずよ。回復する前に早く!」
金剛「Wow! まさにBoss on paradeデース! ここまでえげつないとかえって燃えますネ……!」 手のひらに拳を打ちつけ、放火を背に立つ金剛
比叡「お姉様! 地獄の果てまでお供しますともーッ!」 巨大な化物相手に次々と砲をお見舞いする比叡
空母棲姫の攻撃を寸でのところで回避し、反撃を食らわせる武蔵。
武蔵「おおっと危ない! さっき振りじゃないか! ほとんど金剛型の連中に削られていた状態でまるで歯ごたえが無かったが……今度は楽しませてくれよ?」
大和「フフッ……ようやく本気が出せそうね! 大和型の力、その身で受け止めてみなさいッ!」
響「チッ……さっき永遠の別れっつったろうに……。アイツ、根に持ってるのかやたらこっちを狙ってくるな。
雪風。すまないが、私は戦艦連中と混ざって戦うことにするよ。君を守ろうと思っていたが……これじゃあ帰って狙い撃ちされてしまう」
響「大ボスはあそこのアホ共とあっちのアホ共に譲ってやるとする。いいかい雪風、勝手に沈んだら承知しないよ? 数少ない私の友人なんだからな。それじゃ」
アホ共……横から追ってきている川内たちと足柄たちを指差すと、響はぐるりと身を翻し巨大な化物を一瞥。降り注ぐ爆撃の雨をものともせず進んでいく。
雪風「響、司令……。雪風、必ず生き残ります!」 どんどん前へ前へ、“悪夢”へと突き進んでいく雪風
朝霜「なんかよく分かんねーけど、アッツイ展開じゃねーか! やってやんよォ!」 魚雷を好き放題打ち放す
雪風を追って猛烈な速度で疾走するのは、かつて“ヴェアヴォルフ”と呼ばれていた者たち。
大淀「ッ! 敵が多すぎて前に進むのも一苦労ですね!」 と言いながらも拳で敵駆逐艦をぶちのめしながら強引に突破していく大淀
清霜「こりゃいいわ! どこに撃っても敵に当たるわね。これだけ敵を倒してたら、どんどん強くなって、戦艦になれちゃうかも!?」
霞「なれないわよアホ。いい加減ッ!(ガスッ)現実をッ!(ボカッ)見なさいッての(ドシュッ)」
朝霜「倒すか喋るかどっちかにしろって、のォ!」 敵を避けつつ航行するのも面倒になったのか、八艘飛びで敵艦から敵艦へと飛び乗って前へ進んでいく
足柄「おっ! アンタ賢いわね! そのアイデアもらいっ!」
海上を大きく跳躍し着地ならぬ着艦を試みるも、踏み台にされた敵艦は哀れにも爆発四散してしまう! 爆風に吹き飛ばされ、大きく弧を描きながら遥か上空を舞う足柄(中破)。これには大淀も苦笑い。
清霜「ダイエットしたら?」 ぴょんぴょんと跳ね回りながら空中の足柄に話しかける。
足柄「うっ、うるさいわねッ! クッソ〜〜〜〜腹立つわ!」 吹き飛ばされながらも横向きに砲を撃ち、八つ当たりのように空中の艦載機を蹴散らしていく
足柄(とっ……ギリギリ届くか? うん、やれるわね!)
雪風の放つ明かりをもとに、空から海上を見下ろしながら着地点を計算する足柄。
吹雪や夕立、川内らの活躍により雪風の周囲の敵は打ち倒され、残るは“悪夢”のみだ。
足柄「敵“艦”直上、急降下ってね! これで終わりよッ!」
海を砕かんばかりの衝撃。破壊的威力のラムアタックがヲ級に襲い掛かる。ついに機能を停止し、前のめりに倒れ海に呑まれていくヲ級。
・・・・
ヲ級Nightmareが倒れると、再び夕焼け空の景色が戻り、復活していた深海棲艦も全て幻影だったかのように姿を消してしまった。
執務室に戻り、意気揚々と戦果を報告しに来た足柄。
提督「……負けることはないだろうと思っていたが、全く犠牲を出さずに奴を倒せたのは幸運だったな」
足柄「重巡足柄に不可能は無いのよ」
提督「お前一人の力でどうにかなったわけではないが……ま、認めざるを得まい。とはいえ、“悪夢”などと大層な名前を冠した古の怨念が、こんな形でやられてしまうとは浮かばれんな……」
足柄「敵に同情してどうするのよ。やられ方に意味なんてないわ。英雄だろうと勇者だろうと、やられる時はあっけないもんだわ」
提督「そうかもしれんな。……と、どうしてお前はここに来た? 戦果の報告なら明日で構わんと言ったし、外で戦勝会という名分の宴会が行われてるだろう? お前は行かないのか?」
足柄「提督こそ、顔を出さないんですか? 今回の作戦の主役でしょうに? 作戦を完全勝利に導いた伝説の提督! ってね」
提督「主役と言われても、俺はただ座って指示を出していただけだ。
それに、Nightmareクラスが潜伏していたことまでは予想し切れていなかったからな。最終的に運良く大団円になっただけで、完璧とは言い難いさ」
提督「ま、そういう事に関係なく、気が乗らんな」
「……もうじきこの鎮守府も離れるしな」と言いかけて言葉に詰まる提督。足柄が目の前に酒瓶をドンと置いてきたからだ。
足柄「ふっふっふっ〜。残念だけど、私、狙った獲物は逃がさない主義なのよ? 知らなかった?」 強引に提督の口元まで枡を運ぶ足柄
提督「ぐ。むむむ……これは世に言うアルコールハラスメントではないか」
足柄「この鎮守府ではそんな言葉存在しないのよ。ほら、じゃんじゃん飲みなさいって。ベロベロに酔っ払わせて皆の前に引きずり出してやるんだから」
提督(クソッ、なんてブラック鎮守府だ……)
488 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/24(日) 22:51:15.65 ID:WT3SGm150
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~50/100)
・金剛の経験値+4(現在値15)
・翔鶴の経験値+2(現在値14)
・足柄の経験値+2(現在値20)
・雪風の経験値+2(現在値8)
・皐月の現在経験値:7
・響の現在経験値:10
----------------------------------------------------------------------
いやー押し切りましたね。
相変わらずマッシヴすぎて人を選びまくりな感じとりあえずここで一区切り……もう完結でいいんじゃないかこれ(えぇ
さてさて次回からなんか新要素っぽいのを加えてこうかなと思うのですが、わりとパワーを使い果たした感じがあるのでその話はまた後日。
ひとまずPhase Aのアレだけ書いておきますんで例によっていつも通りな感じですハイ。
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【51-55/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい
----------------------------------------------------------------------
489 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 05:21:46.81 ID:bZWNtbBOo
響
490 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 20:55:07.16 ID:j9owcFwYo
足柄
491 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 22:11:05.46 ID:y3WsvUZR0
雪風
492 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 22:11:38.04 ID:y3WsvUZR0
雪風
493 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 22:14:44.84 ID:jD3M6CS4O
足柄 なぜカツにこだわるかの話
494 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/26(火) 05:21:49.51 ID:JS8gGpRPo
連投なしだっけ
皐月で
495 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/26(火) 22:52:35.61 ID:TvgA6hAG0
えと、そうですね。最初の方に書いておきましたが、同一IDからの連投はなしの方向でよろしくお願いします。
裏を返せばIDさえ変わればOKということなので、日付が変わったらまぁうんっていう感じです。そこいら辺は戦略ですかね(謎
>>489-494
より
・響1レス/足柄2レス/雪風1レス/皐月1レス
で『Phase A』が進行していきます。
と、ここでニューフェイス向けにあれこれ情報をまとめておきます。
居るのか分かりませんが途中から追っかけ始めた人向けに。
前に言ってた追加要素とやらは次のレスで説明します。
【バックナンバー】
>>360
-
>>364
:01-05話
>>374
-
>>378
:06-10話
>>388
-
>>392
:11-15話
>>401
-
>>405
:16-20話
>>414
-
>>418
:21-25話
>>429
-
>>433
:26-30話
>>442
-
>>446
:31-35話
>>456
-
>>460
:36-40話
>>470
-
>>474
:41-45話
>>483
-
>>487
:46-50話(今ここまで)
実はもう既に一回100まで到達してまして、現在は第二部って感じですね。第一部は
>>16
からです。
今現在やっている第二部の前身だけあってそれっぽい血は流れてますが、内容も独立してますし基本的に全く別物です。
えと、作者的には今読み返すと所々変な汗が出てくる感じでアレなんすけど……興味と時間がある方はよろしければどうぞ。
【このスレって何】
・安価形式で進む艦これSSです。
ヒロイン候補っぽいキャラが6人いて、最終的に提督と誰がくっつくかを見守るスレ……という想定でしたが、最近はよくわかんないです(え
・5レスごとに進行し、100レスまで行ったらおしまいです。
『Phase A』(安価で登場するキャラを決める)と『Phase B』(コンマで登場するキャラを決める)を交互に繰り返します。
地味に他にも色々あったりしますが今のところ微妙に全部死に設定と化してるのであんま気にしなくていいです。
・安価やコンマで登場することが決定したキャラをメインのお話が1レスずつ投稿されていきます。
登場した各キャラは『経験値』という名前のポイントがちょっとずつ溜まっていきます。最終的にこのポイントが高いキャラとエンディングを迎えます。
詳しく書くともっと色々めんどくさいのですが、雰囲気を掴むにはこのぐらいの説明でも大丈夫……かな?
自分のように3行以上の文章読むと読む気が失せるタイプ向けのざっくりした概要なんで、
詳しく知りたい方は
>>336
-
>>339
,
>>349
-
>>351
あたりも併せて読むと理解が深まるかと(面倒なのでオススメしません)。
496 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/26(火) 22:55:36.26 ID:TvgA6hAG0
これまでの要素に加え二つ仕様を追加(一つは変更?)させていただきます。
■「書いた内容が実現する」系の発動制約を無効化
なんのこっちゃという人の為に説明。
“各レスにシチュエーションや起こる出来事を書いておくと
・Phase Aならエクストライベントが発生した場合
・Phase BならIDに3つ以上数字が入っていた場合
書いたレスの内容が概ね実現します”(過去のレスより抜粋)
安価時にシチュエーションやら起こる出来事やらを書いておくと実現しますってのがあったんですよ。
上記のような特定条件下で実現するというものなのでしたが、ややこしいので取っ払います。
次回からは『書いた内容は無条件に実現します』。デウス・エクス・マキナも認めよう。
このスレの皆さんはもうこのお話の世界に干渉する力を持った特殊能力者になりました。力を得てしまったのだ……!(何
一応全てを受け入れる覚悟は決めましたが、ヤバそうなのが来たり展開的に難しそうだったらそこは解釈の力でなんとか逃げます。
なんで、思い通りにならなくてもそれはそれということでご容赦くだされ。
ま、任意なんで書いても書かなくても〜、って感じです。
■『Phase C』の導入
あまりにもエクストライベントが発生してくれないので業を煮やして生まれました。
エクストライベント同様、エンディングまでの100レスのうちにカウントされません(経験値は加算されます)。
『Phase C』は『Phase A』終了時および『Phase B』終了時に発生します。
ただし発生には条件があり、『Phase A』・『Phase B』決定時についたコンマ値の合計値が素数だった場合にのみ発生します。
『Phase C』では経験値が1レスにつき+2上昇します。
登場するキャラは、経験値が全体平均から低いキャラが優先的に選出されます。
新たに上昇する値も加味しつつ平均値にならす方向に作用します。
たとえば現時点では
足柄の経験値:20
金剛の経験値:15
翔鶴の経験値:14
響の経験値:10
雪風の経験値:8
皐月の経験値:7
なので、
皐月2レス(上昇値+4/累計経験値11)・雪風2レス(上昇値+4/累計経験値12)・響1レス(上昇値+2/累計経験値12)というように決定されます。
経験値の低いキャラでも上位のキャラと圧倒的大差をつけられにくくすることを意識した調整となっております。
発生率がそんなに高くないのでエクストライベント同様ほとんど発動しないかもしれませんが、そん時はそん時ですね。仕方ない。
逆に頻発する可能性もありますし。各フェーズ終了ごとに『Phase C』の発生判定が起きるんで、
『Phase A』→『Phase C』→『Phase B』→『Phase C』とPhase Cに邪魔されまくって全然レス数が進まないということもありえます。
とりあえず今回の『Phase A』では発生しなかったので、次回以降に期待ですかね。
////チリングハッシュ(いつものチラシの裏)////
ヲ級Nightmareは完全なオリキャラではなくちゃんと元ネタがあったりします。
hoge級eliteとかfuga級flagshipってのの他に、piyo級Nightmareっていうのがあるらしいんですよ。
没(?)設定みたいですけどね。今んところ内部データにも無いんじゃないかしら。
なんで、イメージ的にはその設定とアニメに登場した隻眼ヲ級の間の子みたいな感じです。
設定って言っても、名前しか知らないんですけどね……。
というか、『Nightmare』に関する情報は、内部の人間じゃないと知らないんじゃないでしょうか。
なんかの情報誌(?)にチラッとその名前が出てたぐらいだったはずなんで。
……こうやって二次創作でネタにしてたらその内実装されそうで怖いですね。
497 :
【51/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:51:39.90 ID:tngg5+Sn0
提督「むぐ……酷い頭痛だ。人生最悪の目覚めかもしれん……足柄め許さんぞ」
提督(にしても……制服のまま寝ているとは。昨夜足柄に強引に酒を飲まされてから先の記憶が残っていないが……相当泥酔していたようだな)
提督(見慣れない天井。おそらく途中で意識を失ったところを誰かに介抱されたのだろう、情けない話だな。ん?)
胸ポケットに見に覚えのない封筒が入っていることに気づくと、封を切り中に入っていた書類に目を通していると、響が声をかける。
響「お遅いお目覚めだね、司令官」
響の声に気づくと、書類を胸ポケットに再びしまいこむ提督。
提督「ヴェールヌイか。……昨日、酔った俺は何か余計なことを話さなかったか? あるいは、何か俺から聞き出そうとしていた者は居なかったか?」
響「いいや、普段通りだったよ。早々に寝てしまったけれど」
提督「……そうか。わざわざベッドを貸してくれたことには礼を言うが、別に床でも構わなかったのだが」
響「何、今回の戦いの最大の功労者に対してそんな無碍な扱いは出来ないさ。それに私も一緒にベッドで寝たから問題ない」
提督(シングルベッドに二人で寝たのか? 狭かろうに……)
提督「昨夜も言ったが、俺はお膳立てしただけだ。それだって完璧には程遠いものだったしな。どうしてお前たちはそこまで俺を持ち上げるのか理解に苦しむな」
響(一緒にベッドで寝たことに関してはスルーか。予想はしていたが、手強いな)
響「私たち艦娘だけじゃないさ。この国も、ひいてはこの世界さえも君を認めざるを得ない。それだけの偉業を、君はやってのけた。当然のように成し遂げてみせた。素晴らしい功績だ」
手を大きく広げながら自分の意見を述べる響。ベッドの上の提督に少しずつ近づいていく。
響「この戦いでの大戦果は、長きに渡る深海棲艦との戦争の事実上の終結だ。数年も経たないうちに全ての深海棲艦は滅ぶだろう」
自分への呼称が普段の『司令官』から『君』に変わっていることに気づく提督。響にしては珍しく熱の籠った口調に気圧され気味の様子。
響「君は英雄だ。君の存在はこの世界を変える……君の活躍を隣で見ていたい。いつまでも、君の傍に居たい」
提督を真剣な眼差しで見つめる響。澄んだ水色の虹彩に、輝く漆黒の瞳。その瞳に吸い込まれるかのような錯覚を覚え瞬刻たじろぐ提督。ベッドから降りて数歩進み、彼女から背を向ける。
提督「ヴェールヌイ、お前は何か勘違いしている。俺は英雄などではない」
響「それは君一人がそう思っているだけさ。今に誰もが君を讃え敬うだろう、君には王の資格がある。導く力がある」
提督「違うなヴェールヌイ、それは全てお前の妄想だ。俺は……ただの異端者だ」
そう言い捨てて部屋を去る提督。
・・・・
提督が辞職する旨、および大本営の方針に従い軍縮に取り組む旨を全艦娘の前で伝えたのは、それから数時間後の出来事だった。
MI作戦開戦前の熱弁とは異なり、普段通りの淡白な口調で粛々と己の意向を伝える提督。十数分話して、それからそのまま執務室へ戻っていく。何事も無かったかのように。
大戦での勝利の余韻さえも奪い去る提督の唐突な言動に、大講堂は震撼に包まれた。
深海棲艦との大局は決した。大本営が軍縮の動きを推し進めたとしても不思議な話ではない。
だが、あまりにも急すぎる。この国の制海権と制空権を取り戻しただけで、世界にはまだ深海棲艦が残存している。
新たな深海棲艦が出現することが無くなったとはいえ、昨日の今日で突然平和が訪れるわけではない。
足柄(最も気がかりなのは……『艦娘を辞めても、艦娘であった頃の記憶を失うことはない』ということ。直接提督に聞いてみるのが早いかしらね)
・・・・
足柄(先客がいるみたいね。少し盗み聞きさせてもらおうかしら)
響「司令官、一体どういうことかな」
提督「先刻告げた通りだが」
響「……それは、君の意志か」
提督「確認するまでもないだろう」
響「いいや、その必要がある。……すまないが、その書類、君が寝ている間に読ませてもらった。封筒だけ取り替えておいたけれど」 提督の胸ポケットを指差す響
提督「読んだのか。ならば話は早い、そういうことだ。俺もまたそれに従うというだけのこと」
響「わざわざ鍵のかかった私の部屋まで侵入してまで君にその書類を寄越すぐらいだ。脅されているんだろう? 『艦隊指揮から身を引け』と」
提督「脅されているわけではない。大本営の連中と利害が一致しているだけだ。俺も提督であることに拘りはないしな」
響「ま……いいさ。そういうことなら、それでもいい。貴方がこの舞台から降りる気でいるならば……私がその気にさせてあげるよ、司令官」
響「私が……貴方を連れ戻してみせる。必ず」
『君』、『貴方』、『司令官』。彼女がどういう理屈で自分への呼称を使い分けているのか、提督には分からなかった。ひょっとすると響自身にも分かっていないのかもしれない。
ただ、後に波乱が起こるのは確かなのだろう、と提督は予感していた。
498 :
【52/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:54:26.23 ID:tngg5+Sn0
足柄「見てたわよ。……随分と提督にご執心みたいじゃない、あの子」
提督「お前は何の用でここに来た?」 機嫌の悪そうな提督
足柄「提督とお話に。でも、ここじゃ雰囲気が出ないし……お昼ご飯でも一緒にどうかしら?」
・・・・
鎮守府内の定食屋(『れつや』という名前らしい)に連れられる提督。足柄曰く昼時は混雑するため、待たずにテーブル席に座れるのは珍しいことらしい。
提督「雰囲気を気にするならこういうガヤガヤした大衆食堂よりも、空いている店の方が良いと思うのだが」
鉄仮面を被っている自分は目立つのではないかと思って周囲を見渡すと、店内に二、三人自分と似た仮面を被っている。
それだけではない。何某かの仮面を被っている者が店内に四、五人はいる。
提督「なんだこの店は。悪魔的儀式でも行っているのか」
足柄「ああ。提督は知らないでしょうけど、MI作戦が始まるちょっと前あたりからうちの鎮守府で流行ってるのよ。戦勝祈願? とかなんとか言って。
私も初めて見た時は面食らったけど、今じゃわりとよく見る光景ね」
提督「ゾッとするな……正気の沙汰とは思えん。心底気持ち悪い」
足柄「自分に憧れてる人たちをそんな風に言うもんじゃないわよ? 風貌を真似るぐらい尊敬しているってことなんですから。
今じゃストラップやタオルまで発売されてるし、今度提督の言行録をまとめた本なんかも出るそうよ」
提督「(俺の許可など一切なくよくもまあ好き勝手に……)最悪だな。退役を早めに表明しておいて助かった、こんな所に居られるか」
足柄「……私が気になるのは。なぜこの鎮守府を解体するのかってこと。提督がお辞めになる理由は、例の目的とか、大本営との何某かの関係性とか、色々あるんでしょうけど。
だからって何もこの佐世保鎮守府を解体して、艦娘も方々へ解散させるというのはよく分からないわ」
提督(例の目的……あぁそうか。こいつと雪風は知っているんだったな)
足柄「さすがに仮面を被ってそこら中をうろつくのは理解出来ないけど、皆それだけ貴方やこの鎮守府に思い入れがあるってことだと思うの。
最初に貴方がここに来た時と比べたら、今の佐世保はすごく居心地が良いわ。他の皆もそう思ってるんじゃないかしら、一体感がある……っていうのかしらね」
提督「最初、か。確かに……ま、お前にそう言わしめるぐらいの働きが出来たのであれば、成功だったのかもしれんな」 出会った頃の足柄とのやり取りを思い出し、クスクスと笑う
提督「だが、なればこそだ。この鎮守府は力を持ちすぎたのだろう。大本営から恐れられるぐらいにな。
艦娘を用いた人類と深海棲艦の戦いが終われば、次に始まるのは艦娘を用いた人類同士の争いになるだろうからな」
提督「この鎮守府で立て続けに三人も提督が死んでいるのは、どうにも水面下でのそういう小競り合いがあったかららしいな。
他鎮守府と共謀して上の支配から逃れようとした者が始末され、次に来た大本営の刺客は逆に他の鎮守府の者の手によって殺され……そういう血生臭い争いがあったようだ」
提督「俺はいわば派遣社員のようなもの。大本営に下がれと言われたら身を引くしかないだろう。俺にとっても都合が良いわけだしな、これでようやく本懐に専念できるというわけだ」
足柄「なるほどね……。誰にも縛られていないように見えていたけど、ガッチリと雁字搦めにされていたというわけなのね」
提督「そうでもないさ。わりと見えないところでは好き勝手やらせてもらったからな。それに……これからは完全に自由だ、俺の好きにやらせてもらう」
足柄「貴方にとっては深海棲艦との決着でさえ本当に通過点だったのね。なんというか……それでこそ、というべきかしらね」
・・・・
目の前に置かれたカツ定食。カツをワイルドに貪り食う足柄。
提督「随分と豪快な食いっぷりだな……。本当にカツが好きなんだな」
足柄「ええ。自分で作ったやつも好きだけど、ここのカツはまた違った味わいがして好きなのよ!
この店の雰囲気も好きね! 食べることが好きな人が集まっていると自分もつられて食べたくなるっていうの? テンション上がっちゃうわよねー」
足柄「なんていうの? 自分の気持ちを昂ぶらせてくれるものが好きなのよ。
自分の感情を剥き出しにするのは大人げないけれど、真剣になった時のあの感覚、熱狂している時のあの衝動こそがこの私を突き動かす原動力なのよ!」
提督「その、自分の感情を高揚させてくれるものの中にカツも含まれるのか」
足柄「ええもちろん。そりゃあテンションアガるでしょうよ?」
提督「ふぅーむ。そうか」 あまり興味なさそうに自分の筑前煮定食を食べ進める
足柄「あら、反応薄いわね……大淀や清霜なら同意してくれるのだけど」
提督「俺もカツは嫌いではないが同意するほどではないな……。が、我を忘れるほど夢中になっている時の感覚というのは心地いいものだよな。
お前たちといたこの数ヶ月間は、俺にとって中々悪いものではなかった。狂奔の中にこそ生の実感があるのかもしれないな」
ニヤリとニヒルな笑みを浮かべる提督に対して、ガタンと席を立ち上がって激しく頷く足柄。
足柄「そうそれよ! それ! やっぱりそうよね。私たち、案外気が合うのかもしれないわねっ!」
・・・・
提督と思わぬところで意気投合(?)して、満足げに定食屋を後にする足柄。
足柄(しまった、興奮し過ぎて肝心の『艦娘を辞めても、艦娘であった頃の記憶を失うことはない』ってのがどういうことなのかを聞き忘れてたわ。
でも……提督が辞めるというのなら、あの背筋がゾクゾクする感覚が味わえないというのであれば。いっそ艦娘をやめてしまうのもありかもしれないわね)
499 :
【53/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:56:08.09 ID:tngg5+Sn0
提督の退役発表から数日後。他鎮守府の提督、大本営の将官、政治家、官僚、近隣国の権力者、報道関係者……佐世保鎮守府には多くの人間が出入りするようになった。
多くは提督らの活躍の表彰・評価に訪れていたが、中には提督に取り入ろうとする者や、自らの傘下に引き入れようとする者も居た。
提督はそれらの訪問者全てに対して平等に軽くあしらい、ほとんど相手にしなかった。
しかし“相手にしない”というアクションを起こすためにも行動は必要であり、この時の提督は『ぞんざいな対応をするための対応』に追われるという奇妙な状況の中に居た。
廊下を歩いていた提督の前からやってくるみかん箱を抱えた皐月だった。
皐月「あっ司令官。お疲れ様。今日の面会は終わったの?」
提督「あぁ、全くどいつもこいつも暇な連中だ。……その箱は荷造りか?」
皐月「うん。しばらくしたら鎮守府を離れなきゃだからねー、今から準備してるんだ」
・・・・
大本営からの軍縮勧告。それは全ての艦娘を呉鎮守府と横須賀鎮守府にて管理し、(佐世保や舞鶴も含めた)全ての施設および組織を解体するというものだった。
また、艦娘に対しても政府と協力し退役後の就労支援施策を行い手厚く補助すると約束。元艦娘の社会進出を促した。
元艦娘がなぜ記憶を持ったまま人間社会に溶け込むようになったのか。足柄が数日前に抱いていた疑問は、昨日提督が行った全体向けの通達によって氷解した。
一言で言い表すならば、『そうせざるを得ないから』という理由が正しい。
艦娘の艤装を解体すると燃料や弾薬・鋼材が得られる。艦娘の艤装が解体されれば、それまでの記憶を失った少女が残される。
解体によって得られる僅かな資材と、一切の記憶を失った少女を教育するための費用。天秤がどちらに傾くかは明白である。
ようやく復興が始まったとはいえ、軍事一辺倒だったこの国に人口の十数パーセントを占める少女たちを養う術などあるはずがない。
そこで大本営は、艦娘であった頃の記憶が無くなっても社会に完全に適応できるようになる時期まで待ち、段階的に解体していくことを決定した。
意外にも艦娘の反発は少なかった。艦娘とはそういうもの、兵器とはそういうもの。平和になれば無用の長物となる。必要とされなくなる日がいつか来る……そう教えられてきたからである。
むしろ今まで憧れていた人間社会を体験できると歓迎する者さえ少なくはなかったようだ。
・・・・
皐月「まさか生きてる間に戦いが終わるなんて思ってもいなかったからなぁ。荷造りは進んでるけど、これから何をしようかで迷ってるよ」
艦娘をやめて社会に溶け込むにせよ、他の鎮守府に移るにせよ、いずれここは離れなければならない。
立退きの期日はまだ数ヶ月ほど先ではあるが、自主的な退居を推奨していたためか既に準備を始めている艦娘も少なくはなかった。
提督「何か希望はないのか? 内容によっては取り計らうぞ」
皐月「あー……どんな職に就きたいかってのは決まってないけど、軍に残る気はないかな。呉や横須賀に行ったらまた訓練生時代と大差ない扱いになるだろうしねー。
あっ、そうだ。前から学校に行ってみたいと思ってたんだけど……ダメ?」
提督「ふむ、確かに軍の中に居てはアカデミックな学問や専門性の高い分野は学べんからな」
皐月「いやぁ、大学とかそういうのじゃなくて。ボクも青春というものを味わってみたいんだよ」
提督「なるほど(よくわからん)。……しかし、お前たち艦娘は見た目が人間の中高生と変わらないというだけで中身も脳の発達具合も成人のそれと変わらんだろう。
解体されたら記憶は失せるとはいえ、学習で得た知識や頭脳そのものを失うわけじゃない。艦娘の記憶が無くなったら“ただ分かりきったことを教えられた”という記憶になるぞ」
皐月「そうなんだよねぇ。でもさ、人間って結構見た目に引きずられるもんだと思うんだよね。
そりゃボクだって、足柄さんみたいなプロポーションだったら学校に行きたいだなんて思わなかっただろうさ」
皐月「でも、せっかくこういう見た目でいられるんならちょっと興味があるなーってさ。
普通に勉強して、普通に友達と喋って、普通に恋をして……。兵器として生まれたからこそ、そういう人間としての“普通”を知りたいんだよねー」
提督「そうか……学校か。ま、不可能ではないな。お前や文月には命を救われた礼もあるしな、どうにかしよう」
皐月「本当!? おぉ、言ってみるもんだな。ありがとう、司令官!」
提督(確かに……人は案外見た目につられるものかもしれんな) 無邪気にはしゃぐ皐月を見て、提督は思った
・・・・
「学校に行けるかもしれない」と意気揚々と報告する皐月に対し、歓迎しながらも不安を述べる文月。
皐月「ンー。艦娘って言っても元でしょ? 武器持ってうろついてるわけじゃないんだからさ。
鎮守府の外の人間なんて、艦娘が具体的に何をやってるか分からないんだしさ。国を守ってる正義の味方程度の認識か無いでしょ」
文月「だから怖いって話だよー。変な偏見を持たれて排斥されちゃわないかなって……」
皐月「深海棲艦との戦いが終わったって言っても、まだまだこの国には余裕がない。少なくとも、復興して十分な力を蓄えるようになるまではそんな風にはならないはずだよ」
皐月「まだまだ艦娘という存在は必要さ。深海棲艦によって破壊された臨海都市や港の復旧。漁業の基盤を敷くための整備。近海をうろつく海賊の取り締まり。
制海権と制空権が深海棲艦に取られたまま何十年も経ってしまったから、飛行機や船の技術だって私たちが伝承していかなきゃロストテクノロジーのままだよ多分。
労働力や技術力の都合上、艦娘や元艦娘を無碍に扱ったりなんて出来るはずないってことさ。あ、それと、外国にはまだ深海棲艦がいるわけだしね」
文月「言われてみるとそうかも……。皐月、なんだか変わったね。あたしの知ってる皐月はもっと抜けてて頼りなかった子だったなぁ〜ってイメージが……」
皐月「相変わらずボクに対しては遠慮がないよなぁ。ボクだって成長するのさ、ふっふーん♪」
文月「司令官の影響かなぁ。ちょっと真面目になった?」
皐月「それはあるかもしれないなー。ま、結構あの人のこと尊敬してるしねー。やっぱり学ぶことは多いよね。ハッタリの通し方とか、うまく面倒事をサボるコツとかさ」
文月「前言撤回。もっとまっとうなことを学んでよぉ……」
500 :
【54/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:57:10.65 ID:tngg5+Sn0
MI作戦成功から三週間の時が流れた。外部訪問者の数も減り、進路の決まっている艦娘は少しずつ鎮守府を離れ始めた。執務室で会話する提督と雪風。
雪風「しれえ……響、行っちゃいましたね」
提督「ああ。あいつはまだ軍属を続けるつもりらしいからな。ま、あいつなら呉に行ってもうまくやるだろう」
雪風「司令は寂しくないですか? せっかく仲良くなれたのに、離れ離れになるのは少し寂しいです……」
提督「寂しくはないな。皆、それぞれ自分の道を歩んでいくのだからな。これまでは各々の利害が一致していたから団結していただけで、これからは違う。それだけのことだ」
提督(願わくば、この先も雪風の力を借りたいところではあるが……無理強いするのは良くないか)
・・・・
コンコンとを扉をノックする音。招き入れる提督。現れたのは見慣れない艦娘。
提督「貴様何者だ。うちの所属にお前のような艦娘は在籍していないが」
磯風「私は磯風だ。大本営の遣い、とでも思ってもらえれば良い」
提督「おや、お目付け役か。この鎮守府は解体されるし俺もじき辞任するというのに、そんなものを遣わす理由が分からないな」
磯風「いいや、私が監視するのは貴方が退役後だ。貴方の動向を監視させてもらう。と言っても、既に以前からこの鎮守府を監視していたのではあるがな。ともかく、だ。
貴方が今後どうするつもりなのかは把握しているし、援助するとも約束しているが……それはこちらに干渉しなければの話。万が一こちらに盾突くようなことがあれば」
提督「逆らうわけないだろう。オーナーに噛みつく飼い犬がいるものか」
磯風「貴方にそのつもりが無くとも……そそのかれて心変わりされては困る。貴方の存在はそれだけ重要人物なのだ。ま、その口ぶりなら今のところは心配なさそうだな」
磯風「と、ここまでが大本営から送られてきた艦娘磯風としてのオフィシャルな話。ここからは私個人の話になる。
見事だな、哀。君は私の予想以上の働きをしてくれた……あと二年はかかると思っていたが」
手取 哀(てとり あい)。提督の本名であるが、今まで誰一人として彼を名前で呼んだ艦娘はいない。
提督「雪風、いつでも砲を撃てる準備をしておけ……嫌な予感がする」 奥歯を軋ませ、警戒心を剥き出しにする提督
磯風「おや、随分な反応じゃないか。なに、私は君に喧嘩を吹っかけに来たわけじゃない。……償いに来たんだ。
もう、君に苦しみを背負わせたくはない。これからは軍や政府などに関わらず穏当に生きていて欲しいんだ」
提督「フッ……苦しみ、だと? 俺は自分の人生に起こる全ては自分の責任だと思っている。何も背負っている気はないし、勝手に心配される筋合いもない。
こうして提督になったのも己の意志だ。そうしなければ、この先の未来にある自分の目的を果たすことが出来ないからそうしたというだけのこと」
提督「これまでの道程も、これからの道筋も……全ては俺の望む通りだ」
磯風「本当に…………。立派に育ったな。少し嬉しい」
提督「母親じみたことを言わないでくれないか、気色悪い(実際の母親がどういうものかは会ったことがないから分からないが……)」
磯風「ふふふ……、まぁそう言うな。今日からたっぷり可愛がってやるから覚悟しろ?」
提督「(金剛とは別のベクトルで鬱陶しい奴だな……)雪風、こいつをなんとかしてくれ。仕事の邪魔だ」
・・・・
私は生まれた時からいつも独りだったような気がします。戦場では死神と呼ばれ畏怖されることはあれど、誰かに認められたことなど一度も無かったのでしょう。
いつからか他人の目を見て話すことが出来なくなっていました。自分以外の人間から見える自分はどんな化物に見えているのだろうかという意識が先行して会話に集中出来なくなってしまう……。
この鎮守府で初めて出来た友人、響。
彼女は私を少しも恐れませんでした。対等の友人として接してくれました。たったそれだけのことだけれど、彼女にとっては当たり前のことなのかもしれないけど。私はそれが心の底から嬉しかった。
そして、司令。
命令に従う兵器として、じゃない。戦場を共にする同僚として、じゃない。敵を屠る“死神”として……でもない。
ただ私、雪風という個人を評価して受け入れてくれた、初めての人。
独りの寂しさを紛らわせるためにひたすらコンピュータと向き合っていた私を、気味悪がらず、それどころか私の特技として認めてくれました。
なぜだか、司令のお兄さんを起動させるために徹夜した時のことを思い出します。
提督はひたすら部品を作ってお兄さんの稼動を安定させるための電源を作るのに躍起になっていて、私は黙々と黒い画面を叩き続けました……。
あの時は自分には無茶だと思ったけど……司令が私を信じてくれるから、頑張らなくちゃって。本当に、我ながらよくやったなあと思います。
それから、MI作戦が発令された直後に司令に呼び出されて……。
司令と司令のお兄さん、私の三人で船を設計して……完成が近づいたら、龍田さんや天龍さんにも手伝ってもらって……あれも大変だったけど楽しかったな。
戦果で尽くすことよりも、それ以外の部分で必要とされていたことの方が多くて、なんだかおかしいですね。
鎮守府が解体される話を聞いて、響が鎮守府を去るのを聞いて、心が大きく揺れました。これからどうしようと、本気で悩みました。
でも、着いていけなかった。彼女は彼女で、自分の道を歩み始めたから。半端な覚悟で着いていくべきじゃないと思ったから。
そして今。目の前の司令を見て。どういう関係かは分からないけど司令に母親のような愛情を向ける磯風を見て。鎮守府の地下室に居る司令のお兄さんを思い出して。
私も司令の傍に居続けたいと思いました。たとえ鎮守府が無くなっても、それが私の意志だと、今はっきりしました。
雪風「しれぇ! これからは雪風もお傍にいますね!」
提督「??? 唐突すぎて話が読めないが……そう言ってくれるのであればありがたいな。俺にとってお前の力はまだまだ必要だ」
困惑の眼差しを向ける司令。やっちゃいました……。そりゃ、いきなり自分の思っていることを話されたらそういう反応になりますよね。
でも、受け入れてくれるんですね。なんか……ちょっと照れくさいです。
501 :
【55/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:58:27.71 ID:tngg5+Sn0
足柄「トンカツは一枚ずつ揚げるのがコツなのよ。横着して2枚以上同時に入れると油の温度が下がってうまく揚がらないのよねー」
清霜「油の量は多めにね。天ぷらを作る時よりも温度は低めなのがポイントよ。160℃から170℃ぐらいがベストかしら?」
足柄「揚げすぎると食感がパサパサになっちゃうのよね。揚げた直後に切ると少し中のお肉が赤いぐらいが丁度いいの。衣の中に余熱が閉じ込められるから、それぐらいでもちゃんと火が通るのよ」
朝霜「……アタイに向けて解説してんなら、聞いてないししなくていいぞ。っていうか、わざわざ休暇貰って来てみたらまーたカツかよ!」
足柄「ま、そう文句垂れないのよ。ほら、お皿用意して」
・・・・
一同「いただきまーす!」
大淀「やっぱり足柄さんが作るカツが一番美味しいですね! このためだけに雇ったと言っても過言ではありません!」
足柄「ちょっとそれどういう意味?」
清霜「まぁまぁ。そーいえば、朝霜と霞は呉に行ったんだよね。そっちの鎮守府はどう?」
朝霜「ま、退屈だわなー。復興作業だなんだ言われてもやる気でねーしなぁ……。霞は外国の深海棲艦を叩く部隊に配属されたみたいで忙しいらしいけど。うらやましー」
朝霜「個人的に大淀と清霜が艦娘辞めたのはなんとなく分かるけどさ、足柄まで辞めちまったのは驚きだわなー」
足柄「ええ。天下の横須賀や呉といえど、あの提督がいた佐世保には敵わないわ。ちょーっとだけ様子を見に行ったりはしたけど、全然昂ぶらなかったんだもの。士気が違うわ」
朝霜「ほぉー。狂犬足柄を飼い慣らす奴がいるってのは驚きだなぁ」
大淀「そういえば、佐世保鎮守府は私たちが離れた後どうなりましたか?」
朝霜「すぐに更地になったみたいだよ。鎮守府の跡地には“宇宙開発研究所”予定地、みたいな看板が立ってるとか聞いたっけな。あと、近くに喫茶店とか道場とか学校ができたらしい。霞が言ってた」
清霜「へー……手取司令、あの後何してるんだろうね。あのまま辞めてなければ絶対偉くなれたのにねー」
足柄「(フッ……そう。“宇宙開発研究所”ね。)ま、あの提督のことだからわりと好きに生きてるんじゃないかしら。そんな気がするわ」
502 :
【55/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:59:23.92 ID:tngg5+Sn0
白塗りの壁に彩られた、西洋風の瀟洒な建物。大淀に案内されて部屋に入ると、足柄と清霜は感嘆の声を上げる。
清霜「鎮守府の頃と比べると天井は低いけど……設備は最高だねー。最新鋭オフィスって感じ!」
部屋に入るやいなやふかふかのソファにダイブする清霜。
大淀「フフフ……驚いてくれましたね」
足柄「シンプルだけど洗練されてるあたり、大淀らしくて良いわね」
大淀「ええ、この“大淀法律事務所”には退職金の五分の三をつぎ込みましたからね。もっと驚いてくれなきゃハリが無いというものですよ」
足柄「しっかし……アンタ一体いつ司法試験なんか取ったのよ。そんなことおくびにも出さなかったのに」
大淀「そりゃあ……落ちてたら恥ずかしいですからね。勉強自体は数ヶ月前の軍縮のお達しが来てから初めてましたけど……手取提督の前代の秘書艦をやっていた頃から興味があったので」
清霜「おぉ〜! じゃあ私たちがだらだらと鎮守府で過ごしてた間も黙々と勉強してたわけね。偉い!」
大淀「えっへん。ま、ちょっとした野望でしたからね。実現するとは思いませんでしたけど」
足柄「どうして弁護士の資格を取ろうなんて思ったわけ?」
大淀「身も蓋もない言い方をすれば……ニーズの関係ですかね。法律というものは基本的に知らない人がソンをしますからね。
私たち艦娘は戦闘に必要なことだけを学んできました。一般的な社会常識に関する知識はお世辞にも多いとは言えないでしょう。
そして、知らなければ間違いを起こしてしまうこともあるでしょうし、知らないのを良いことに利用されてしまうこともあるでしょう。
そういった場合、より元艦娘の視点で物事を考えられる者が弁護に立つべきではないか、と思いましてね」
大淀「詰まるところ自分の身内を守りたい……ということになるんでしょうか。我ながらあまり立派な理想じゃないですね。
自分なりに正義とは何かを追及したい、ってのもありますけどね。あとは『異議あり!』って言ってみたいかな……」
清霜「やっぱりそれかあ。言いたいよね〜『異議あり!』って」
足柄「『異議あり!』」 スパァァァン
清霜「おお! すごい! なんか足柄は検事っぽいよね」
足柄「そう? じゃあここの事務員やめて検事になってみようかしら」
大淀「だ、ダメですダメです! 足柄さんはここに居る『意義あり!』ですっ!」 ズビシッ
朝霜(なーにやってんだこいつら)
朝霜がオフィスに入ってきても誰も気づかない。ツッコミ不在の空間とは恐ろしいものである。
・・・・
大淀法律事務所の二階は居住スペースになっていて、それぞれの部屋やキッチン、風呂などが設置されている。
キッチンに、エプロンをつけた足柄と清霜が立っている。その様子を朝霜がつまらなそうに見ている。
足柄「トンカツは一枚ずつ揚げるのがコツなのよ。横着して2枚以上同時に入れると油の温度が下がってうまく揚がらないのよねー」
清霜「油の量は多めにね。天ぷらを作る時よりも温度は低めなのがポイントよ。160℃から170℃ぐらいがベストかしら?」
足柄「揚げすぎると食感がパサパサになっちゃうのよね。揚げた直後に切ると少し中のお肉が赤いぐらいが丁度いいの。衣の中に余熱が閉じ込められるから、それぐらいでもちゃんと火が通るのよ」
朝霜「……アタイに向けて解説してんなら、聞いてないししなくていいぞ。っていうか、わざわざ休暇貰って来てみたらまーたカツかよ!」
足柄「ま、そう文句垂れないのよ。ほら、お皿用意して」
・・・・
一同「いただきまーす!」
大淀「やっぱり足柄さんが作るカツが一番美味しいですね! このためだけに雇ったと言っても過言ではありません!」
足柄「ちょっとそれどういう意味?」
清霜「まぁまぁ。そーいえば、朝霜と霞は呉に行ったんだよね。そっちの鎮守府はどう?」
朝霜「ま、退屈だわなー。復興作業だなんだ言われてもやる気でねーしなぁ……。霞は外国の深海棲艦を叩く部隊に配属されたみたいで忙しいらしいけど。うらやましー」
朝霜「個人的に大淀と清霜が艦娘辞めたのはなんとなく分かるけどさ、足柄まで辞めちまったのは驚きだわなー」
足柄「ええ。天下の横須賀や呉といえど、あの提督がいた佐世保には敵わないわ。ちょーっとだけ様子を見に行ったりはしたけど、全然昂ぶらなかったんだもの。士気が違うわ」
朝霜「ほぉー。狂犬足柄を飼い慣らす奴がいるってのは驚きだなぁ」
大淀「そういえば、佐世保鎮守府は私たちが離れた後どうなりましたか?」
朝霜「すぐに更地になったみたいだよ。鎮守府の跡地には“宇宙開発研究所”予定地、みたいな看板が立ってるとか聞いたっけな。あと、近くに喫茶店とか道場とか学校ができたらしい。霞が言ってた」
清霜「へー……手取司令、あの後何してるんだろうね。あのまま辞めてなければ絶対偉くなれたのにねー」
足柄「(フッ……そう。“宇宙開発研究所”ね。)ま、あの提督のことだからわりと好きに生きてるんじゃないかしら。そんな気がするわ」
503 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 10:18:24.76 ID:tngg5+Sn0
>>496
で書いた『Phase C』ですけど、コンマの値が素数だった場合だけでなく、
ゾロ目(222とか)やキリ番(234とか)だった場合も発生条件に加えることにします。
それでもわりと発生率低そうですけど。
あと
>>501
はコピペミスです。暴発しました許して。
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~55/100)
・響の経験値+1(現在値11)
・足柄の経験値+2(現在値22)
・雪風の経験値+1(現在値9)
・皐月の経験値+1(現在値8)
・翔鶴の現在経験値:14
・金剛の現在経験値:15
----------------------------------------------------------------------
////チラシの裏////
おはようございます。土曜日に投稿しようと思ったら徹夜してた。ダメすぎ。
まーた二週間かかっとりますね。もっとガツガツ書いてかなアカンのですよ。
このペースだと完結が最短でも10月半ばとかその辺になっちゃいますからネー……。
しっかし書いてて楽しいですな!
楽しいなら安価が出揃ったタイミングで書き始めればいいじゃん! →はい
いやね、楽しいけどね……楽しいけどほらあれさ。
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【56-60/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00〜19:雪風
20〜34:翔鶴
35〜49:金剛
50〜67:響
68〜80:足柄
81〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
504 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 11:05:26.48 ID:s1O8bVSN0
えい
505 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 18:49:46.84 ID:IIGhN9lI0
へい
506 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 18:58:09.57 ID:Y/WErN7YO
足柄と食事したときに調味料入れでチェスしながら会話
507 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 19:53:53.44 ID:Fq64ZIZAO
こう
508 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 20:00:45.37 ID:IIGhN9lI0
さて
509 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 22:54:30.03 ID:tngg5+Sn0
>>504-508
より
・金剛3レス/皐月1レス/響1レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:270 なので『Phase C』は発生しません)
『足柄と食事したときに調味料入れでチェスしながら会話』……はい。
これ……足柄メインの時でもいいですかね(次フェーズとか)。
流れ的に出番なさそうだし無理矢理出すよりメインで書いた方がいいよねー、と。
来週末ぐらいには投下したいですね。そんな感じで行こうと思います。
510 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/06/15(月) 02:37:46.72 ID:OKQC9Mr60
むーーー。先週末にと言ってましたがやっぱりダメでした。ゴメンナサイ。
遅くとも水曜日までにはなんとか……! 早ければ今日明日でどうにかお披露目したいですハイ。
せっかく(?)セルフ締め切りを遂行出来なかったので、また関係あるようでないようなどうでもいい話でもしましょうか。
メインで書きたかったキャラの話とかちょっと語っちゃいますか。なるべく本編関係なさそうな方面でね。いくつか書いてみますよ。
誰得かは知らねえっすけど。
・神通
わりと書きたかったキャラその1。ゲームでは夜戦で戦艦殺すウーマンとして皆さんも重宝してるんじゃないでしょうか。
儚くも力強いキャラクターが魅力ですよね。二次創作ではわりと鬼教官として描かれることが多いですが、それを逆手に取って書いてみたかったなーと。
個人的に神通はあまり後輩に無茶な指導をするタイプじゃないと思ってまして。あくまで個人的にですけど。
ホラ、時代が時代ですし。死ぬほど努力! 育まれる友情! 死線を超え勝利! とかそういう潮流はあんまないじゃないですか。
僕はそういうのも嫌いではないですけど、自分が書くとしたら神通がそういうこと言ったりさせたりするイメージは無いですね。
後輩相手には厳しいけど理不尽ではない感じの、わりとロジカルでクールな神通さんが書きたかったですね。
一方で提督相手には自分の悩みを打ち明けたり……とかそういう感じですね。なにせ体が火照っちゃいますからね!(?)
中間管理職としてもエースとしても活躍する神通さんとか、そんな感じのアレを書く予定でした。まあ安価で出なかったんで特に今後も登場しないと思いますが。
・山雲
わりと書きたかったキャラその2。結構新キャラなんで、「誰?」って人も居るかもしれませんが。デリケートでセンシティブな爆雷の子です。
こういうフワフワした雰囲気のキャラいいですよね〜。ちょっとどのキャラとも系統が違うというか、なかなか味のあるキャラですよね。
自分が書いてその魅力を引き出せるかっつったら微妙ですけど。浮き沈みのなさそうな彼女の内面を探っていったりするのも面白いかなと。
起伏のないように見える中から僅かな情動を探っていくみたいなそんなニュアンスのワビサビあるアレとかがやってみたかったっすね。
朝雲との絡みもいいですよね。彼女らどんな話してんだろとか想像するもをかし。基本的には彼女とのふんわりした日常を書けたらなぁとか思ってました。
ま、あんまメジャーなキャラじゃないので選ばれるとはハナから思ってなかったっすけど……。
・熊野
わりとの子その3。いいですよねこういう腐れ縁タイプの子。
「一捻りで黙らせてやりますわ!」とか川内のことをどこかのバカよばわりしてたりとか、育ちのわりに結構荒っぽい性格してますよね。
でもあばたもえくぼというか、そういう尖った部分があるキャラの方が書きやすいんですよね、書く側としては。
歯に衣着せぬ物言いとか舐め腐った態度とかがすごく相棒ポジションで映えるんだよなー。
この子はわりとシリアスな話でも活躍しそうかな、とか思ったり。あんまりそういうイメージないかもしんないっすけれども。
なんだろう、このキャラは追い詰められた時に精神的な高貴さを見せつけてくれるんじゃないかなあとか勝手に思っています。
普段は減らず口ばかりだけど、やる時はやる……みたいな方向性ですかね。お嬢様キャラとはあんま合致してないっすね。
まぁでも……気取ってるわりには結構俗っぽいじゃないですか(何
他にもありますが眠気が来たので今回はここまで。っていうか、眠い状態で文章書くとあんま良くないっすね。
////チラシ////
最近(と言っても少し前)漫画版アルペジオを読みました。
「アルペジオ? 艦これとコラボしてたっていうやつだよね」ぐらいの認識しかなかったので、わりとゆる〜い感じなのかなとか思ってましたが(なんだその偏見は)わりとガチですね。面白いですね。
と同時に艦これアニメイションもこういうディレクショナリティをチョイスしていたらもっとエキサイティングなエクスペリエンスをプロバイド出来たのではなかろうかとはほんのちょっぴり思いました。
ま、それはそれこれはこれであんまり関係ない話なのでやめときましょう。
511 :
【56/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/17(水) 23:47:42.05 ID:GhW31TLF0
旧佐世保鎮守府正門前、現在は宇宙開発研究所予定地という立て札が立っている。
急ピッチで建設が進んでいるようで、作業員が忙しなく出入りしている。
榛名と霧島は金剛に呼ばれてここで待ち合わせをしていた。
榛名「お姉様はどうして私と霧島を呼んだのでしょうか。手伝って欲しいことがある……だそうですが」
金剛「フフフ……よくぞ訊いてくれまシタ……! 実はワタシ、政治家になろうと思ってマース! 二人にはそのための手伝いをして欲しいノデス!!」
真顔になる榛名と霧島。金剛の自信に満ちた表情に対し、どう声をかけていいのか分からず顔を見合わせる。
金剛「ア、アレ……? なんですカその冷たい反応は……。い、一応Policyとかも考えてありマスヨ!」
霧島「お姉様、シビリアンコントロールってご存知ですか?」
榛名「文民統制といって、簡単に言うと軍人や言に所属していた経歴のある人は政治家にはなれないんですよ。私たち元艦娘にもそれは適用されます」
金剛「マジ……?」
霧島「マジですよ。というか、その為に私たちを……?」
・・・・
金剛「い、妹たちが頑張ってるから……ワタシも何かしようと思ったのに……みっともないデース……」
霧島「いや……別に金剛お姉様のみっともない所なんて昔からよく見慣れてますし、今更どうとも思いませんよ」
金剛「ウワアアァァァァァン!! クソメガネ眼鏡割れろデース! だから二人とは同じ艦隊になりたくなかったんデス!」
榛名「(お姉様かわいい……)ま、まぁ、聞くは一時の恥 聞かぬは一生の恥って言いますし……」 金剛の様子を見て笑いを堪えている
金剛「ワタシ別に聞いてなかったヨネ!? 微妙に雑なフォローするぐらいなら黙ってて欲しいデース! っていうか、クスクス笑ってんのバレバレですヨッ!」
金剛「ウゥ……こういうのは私のキャラじゃないデース……」
霧島「ところで、どうしてお姉様は政治家になろうと?」
金剛「抉ってきますネ……。ワタシが鎮守府を出た後、volunteerをしていたのデスガ、会う人会う人皆がワタシたち艦娘は希望だって言ってくれたカラ……。
艦娘のワタシが政治家になったらもっと皆の為になれるかなって……。皆をワタシの力でHAPPYにしたいデース」
霧島「希望、ですか。そういう方向性ならアイドルなんてどうでしょうか。難しいとは思いますがお姉様なら無理ではないかなと……」
金剛「もう既に偉大な先駆者が居ますネ……。今度舞道館でライブやるらしいデスヨ……流石のワタシでもあのバイタリティには敵いそうに無いデス……」
鎮守府解体の報が伝えられるやいなや真っ先にアイドルの世界に身を投じ、実力だけで頂点にまで上り詰めたシンデレラガールの名を知らぬ者などこの世にいるはずもなかった。
榛名「そもそも『皆を幸せにする』って、皆って具体的に誰ですか。人によって幸せなんてそれぞれ違いますよ。手を差し伸べても感謝されるどころか憎まれたりすることだって少なくはありませんし……」
金剛「まさか妹にガチ説教を食らうとは思ってなかったデース……」
榛名「ごめんなさい。でも、私も昔それで悩んでいたので……。お姉様はまず誰かを幸せにしようと考えるよりも自分が幸せになった方が良いのだと思いますよ?」
霧島(昔からお節介焼きで厚かましいと思っていたけれど……榛名も榛名なりに考えていたのね)
金剛「ワタシにとっての幸せ……Hmm。ヤッパリ、テートクに会いたいですネ……」
霧島「手取司令と? 第一艦隊の旗艦から降ろされて、てっきり恨んでるとでも思ってましたが……それは意外ですね」
金剛「だまらっしゃい! ワタシとテートクの間には山よりも高く海よりも深い絆があるのデース!」
榛名(と思ってるのはお姉様の方だけなんじゃないでしょうか……とか言ったらまたうるさいのでやめておきましょう)
霧島「おぉー、もしかして司令のことをお慕いしてるとか?」
金剛「そっ、そんなんじゃありまセンッ! ワタシは、提督に対してはそういうのじゃなくてもっと……」
金剛「やっと、少しだけ近づけた気がするから……。もっと知りたいんデス……テートクのこと。このまま離れ離れじゃ、惜しい気がするんです……」
霧島(この姉、見かけによらず純情! そして初心! だがそれがいい……!)ガタッ
榛名(こんな乙女チックなこと言う程度には本気みたいですね)ガタッ
身を乗り出す榛名と霧島。先ほどの白けた対応は正反対に、若干興奮した様子だ。
榛名「決まりですね! 手取提督の足取りをつかみましょう!」
霧島「他の艦娘から情報を聞き出して手かがりとなる情報を集めた方が良さそうですね。司令が退職後の自分の居場所を漏らすとも思えませんが、一から探すよりは効率がいいでしょう」メガネクイッ
金剛「ちょ、ちょっと! 何勝手に話を進めてるんデスカ!? そ、それに、仮に会うとして、いきなり前の仕事の部下に会いに来られても迷惑なだけでしょう……」
榛名「理由なんて後から作ればいいじゃないですか。お姉様そういうの得意そうですし。会いたいから会いに行く! それだけですよ!」
金剛「……イ、イミワカンナイデース!! 強引に押し切ろうとするのやめてくだサーイ!!」
二人に引きずられながら鎮守府跡地を後にする金剛。
512 :
【57/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:02:45.41 ID:yXhYsAag0
霧島「MI作戦であの第二大隊の旗艦に選ばれた赤城さんなら、何か知っているかもしれません。早速会って話してみましょう」
金剛「エー……アカギとはあんまり仲良くなかったから会いたくないんですケド……」
赤城は艦娘を辞めた後に弓道場を開設し、ほぼ無償で近隣住民や志願者に弓術を教えている。
現代武道の弓道とは教え方に少し差があるが、艤装の力が無くとも彼女の卓抜した技術は人の域を超えていた。
そのため今では弓道の達人が彼女に教えを乞いに来るほど赤城弓道場の名は知れ渡っていた。
和室に案内される金剛たち。この施設の客間らしい。
赤城「珍しいですね。私に用があるみたいですけど……どうかしましたか?」
金剛「Uh……赤城に用はないんですガ……。テートクの行方を知りませんカ?」
赤城「残念ですが、私にも分かりませんね……。本人に聞いたのですけど、答えてくれませんでした」
金剛「そうですカ……。赤城にも言ってないってコトは、きっと他の誰にも居場所を伝えてなさそうデスネ……」
赤城「どうして提督を探しているんですか? 提督を探しているということは、何か目的があるのでしょう。違いますか?」
金剛「(この感触、何か知っている……? 少し揺さぶってみますか)目的があったとして、それをここで教える必要はありまセン」
赤城「それもそうですね。そういえば……それとは別に私も貴方に伺いたいことがあったんですよ。MI作戦の時、貴方はどうして戦線に加わったのですか?
第一艦隊から外されて、私の知る限りではどこのユニットにも属していなかったはず。作戦の名簿にも名前が書かれていませんでしたし、提督から遠回しに戦力外通告を受けたのだと解釈していましたが……」
金剛「そういうイジワルな言い方をされると答える気をなくしマスネ〜」
部屋にあった空の湯飲み茶碗を勝手に取り出し、持参した水筒で紅茶を注ぐ金剛。
榛名(い、居心地悪いですね……こんな仲悪かったんですねこの二人)
赤城「答える必要がない、答えたくない。理由としては結構ですが、自分がそういう態度で接しているのに私から情報を聞き出そう、というのでは不公平だと思いませんか?」
金剛「……という言い方をするってことは、そっちもまだ何か隠してるってことですよネ? ……まだるっこしい話はやめにしまショウ。
お互いにお互いの情報を欲している。なら、手持ちのCardをOpenするだけで済む話でショ?」
金剛は、自分が提督を探している理由は、純粋に彼に会いたいからだということを話した。
MI作戦時に自分は新たな深海棲艦の出現を食い止めるための任務を遂行していたのだと掻い摘んで説明した(南極に行ったことや精神世界で怪物と対峙したことまでは話さなかったが)。
赤城は素直に驚いていた。自分に力があるのを良いことに艦隊の和を乱し身勝手な振る舞いをしていた彼女に、そんな大役が与えられていたとは思いもよらなかったからだ。
(ついでに榛名や霧島もMI作戦序盤で金剛が何をしていたのか知らなかったため驚いていた)
赤城(任を果たすだけの力があるとあの提督に認められ、そして実際に期待に応えてみせた……ということですか。どうにも私は彼女を過小評価していたようですね)
金剛「サ。次はそっちの番ですヨ?」
赤城「分かりました。話しましょう……と言っても、手取提督の居場所を知らないのは事実です。
彼が辞意を示した時に、私が鎮守府を離れる時に、彼が提督としてあの鎮守府に居た最後の日に。三度尋ねましたが、三回とも断られてしまいました」
霧島(三顧の礼ならずですか。司令はそこまで厳しい人ではないという印象でしたが……確かにプライベートな話はしたがりませんでしたね)
赤城「ならば、彼の道について行こう……とも思ったのですが。それも断られてしまいました。手厳しいですね。
ですが、彼への手がかりを何も得られなかったわけではありません。彼の連絡先を教えてもらいました」
金剛「Oh! それ、ワタシに教えてくれませんカ? もちろんタダでとは言いませんヨ? ア、お金で解決するとかそういう意味じゃないですケド」
赤城「ごめんなさい。それは出来ません。提督の信頼に背くことになりますから」
金剛「デスヨネー」
赤城「ですが。私が『会う必要がある』と判断した時に、応じてくれるそうです」
金剛「I see. ナルホドナルホド……。じゃ、赤城に提督と会う必要があると思わせればいい、ってことですネ」
赤城「貴方にそれが出来ればの話ですが、ね」
金剛「オッケー。それだけ聞ければ十分デス。この金剛、舐めてもらっては困りマスヨ?」
・・・・
金剛さんたちは『私が提督と連絡を取り、直接会う必要がある』と思わせるような情報を探しにどこかへ行ったようです。
彼女が提督から密命を受けていたことも驚きですが……もう一つ驚いたのは、彼女の表情ですね。
提督に会いたいと語る彼女の姿からは、一切の私欲も打算も感じられなかった。
私の知る彼女は、こんな風に目をキラキラと輝かせて話をしたりはしない人物だった。
野心でも、恋慕でもなく、ただ純粋に会いたいのだという思いが伝わってきた。
彼が提督についての話をしていた時の、幼子のような天真爛漫な表情が印象深く残っている。
あの姿こそが彼女本来の気質なのか、提督に影響されて発露した彼女の一面なのかは分からない。
ただ……彼女は自分よりも提督と長い時間を過ごしてきたのだということだけは、悟ってしまった。
今、私の胸に渦巻いているこの感情が……嫉妬、なのでしょうか。彼女は……私が知らないあの人の表情を知っている……。
いえ、よしましょう。これ以上考えるのは。また、拒まれた時の事を思い出してしまう……。
何事もない日常の感覚に身を慣らしましょう。安らぎに満ちた平和の味を噛み締めましょう。あの人は……私にとっての、在りし日の幻想なのだから。
513 :
【58/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:07:47.52 ID:yXhYsAag0
旧佐世保鎮守府や赤城の弓道場からそう遠くない場所にある喫茶店『モンテーニュ』。
テーブルを囲んでいる金剛・榛名・霧島の三人。ここで今後の作戦を練るようだ。
榛名「お姉様、赤城さんとのやり取りすごかったですね……俄然やる気じゃないですか」
金剛「べ、別にそういうワケでは……でも、ここまで来たらテートクの顔を見ずには下がれませんからネ! ワタシも腹を括りました。
要は赤城や提督をギャフンと言わせるScoopをバシッと突きつけてやれば良いってことでショ!」
霧島「その意気ですお姉様! でも、どうして赤城さんは自分が提督と連絡を取れることを話したんでしょうね」
榛名「どこかお姉様を試しているような雰囲気がありましたよね」
金剛(まるで“何か”を期待しているかのようだったんですよネ……彼女も提督に会いたいと思ってはいるはず。
提督を引っ張り出せるほどの“何か”……)
霧島「うーん……スクープ、ですか……。と言っても、ここ最近はニュースも平和そのものですからねぇ。
違法漁や略奪などの海賊行為もだいぶ減ったみたいですよ。それまで深海棲艦と戦っていたような艦娘が海上パトロールしているみたいですし、当然といえば当然ですが」
金剛(ですよねぇー……今のところは“何か”が起こりそうな気配がないんですよネー)
・・・・
金剛「甘すぎデース……榛名パス」
金剛の目の前の皿には、大盛りスパゲッティが鎮座している。
スパゲッティといってもただのスパゲッティではなく、麺の上には生クリームやフルーツがトッピングされていて、雰囲気はパフェに近い。
が、目の前にある“それ”はパフェのような生易しい代物ではない。麺はイチゴシロップ(のようなもの)で着色されているらしく、ショッキングすぎるピンク色をしている。
ギトギトに油ぎった熱々の麺、麺の熱で溶ける生クリームと生温いフルーツ、苺(のような何か)の甘ったるい香り……。
甘党を自負していた金剛もこれには難渋しているようである。
榛名「ひゃるな……らいひょうぶじゃないれす……」
こめかみを押さえる榛名。目の前の山盛りのカキ氷を減らそうと努力していたものの、ついにスプーンを机の上に置く。いわゆる匙を投げたという状態に限りなく近いようだ。
とても数分前に『カキ氷! いいですね〜……子供の頃を思い出します』などと可愛らしいことを言っていた女性と同一人物とは思えない。
頭を抑え天を仰ぎ見る彼女の苦悩に満ちた表情は、シスターが神に祈りを捧げる姿のそれにどことなく似ている。
霧島「自分で頼んだんだから、なんとかしましょうよお姉様方……」
金剛「霧島! 榛名のばっかり食べてないで、ワタシの方も食べるデース!」
霧島「いやそっちはちょっと……」
二人とは対照的に、ストイックに自分の料理を食べ進めている霧島。
激辛ソースで塗りたくられたピラフを一口二口食べては榛名のカキ氷に手を伸ばしている。
日頃から辛い物を好んで食べていたのかギブアップする様子はなさそうだが、彼女の身体は明確に危険信号を発しているようで滝のように汗を流ている。
金剛「どうして霧島は自分しか食べられないようなものを選んじゃうんデスカ!? そもそもそんな辛いのに味がするんですカ?」
霧島「ええ。味というには微妙ですが……ナノデスソースのアイアンボトムサドンデス味に似てますね」
榛名「なんですかそれ……」
霧島「でも、量が多いのさえなんとかなればどうにかなりそうじゃありませんか? あの、その、なんていうか、身内にもっと独創的な味の料理を振舞う方が……」
金剛「確かに……ヒエーのよりはマシですネ……。そう思えばわりといける気がしてきまシタ」
・・・・
呉鎮守府第三艦隊会合室。作戦指示書を旗艦である比叡に届けに来たようだ。
響「これが次の作戦の指示書だ。……欠伸の出るほど簡単な内容だが、一応機密だ。他言はしないように」
比叡「はい! ありがとうゴザイマス!」
響「しかし……意外だな。君が姉と離れてまで艦娘であり続けることを選ぶとは思わなかったよ。君はどうしてここに居ることを選んだ?」
目を細めた渋い顔をして、うーんと唸る比叡。
響「いや……難しいなら無理に答えなくても構わないが」
比叡「んー……理由と言えるかは微妙ですがねー。今のお姉様は何か違うというか、うーん。今まで私が見てきたお姉様と違うんですよねえ。丸くなった、んでしょうけど……。
それが気に食わないんですよね! なんでかは分かりませんがッ!」
響「むっ、意外だなそれは……興味が湧いた。話が聴きたい」
比叡「いや、お姉様のことは今でも尊敬していますし、嫌いになったわけではありませんが。お姉様に聴かれた時も、やんわりと伝えてはぐらかしましたけど……ちょっと納得いってないですね。
なんですか艦娘をやめてボランティアを始めますって……。榛名や霧島みたく明確にやりたい職業があったならともかく……」
比叡「大体、あれだけ練度が高いのに艦娘をやめるだなんて勿体なさすぎますですよ! 一体何のためにあれだけ強くなったっていうんですか。
そりゃ自分がオイシイ思いをするためだとか、偉くなって人に認められたいからだとか、動機は邪だったかもしれませんけど! それを全部捨てて、今度は慈善家にでもなるのかって感じですよ!」
不満というのはひとたび口にすると堰を切ったように零れてくるものである。比叡の愚痴にも似た不満を、響は少し愉快な様子で聞いていた。
実のところ響と比叡はそこまで親しい間柄ではない。佐世保に居た頃は所属していた艦隊が異なり、性格的にも似通った部分はない。
しかし『同じ佐世保に居た艦娘』という経歴が親近感を生んだのか、このとき二人は妙に意気投合していた。
514 :
【59/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:25:20.23 ID:yXhYsAag0
呉鎮守府大会議室。鎮守府を総括する井州提督、重鎮である大和・武蔵、最古参の吹雪・陸奥など錚々たる顔ぶれが揃っている。
この会議に響もまた出席していた。旧佐世保鎮守府からの移入組も代表としてである。
井州「少し堅苦しい形式になってしまったが……あまり気張らなくていいよ。どうにもお堅いのは似合わないしなぁ。
っと……ひとまず、皆にはお礼を言わなきゃだね。未だに私についてきてくれてありがとう」
呉・横須賀鎮守府は、軍縮の影響によって元来在籍していた艦娘のほとんどを辞めさせなくてはならなかったという事情があった。
佐世保をはじめとする他鎮守府の艦娘を受け入れなければならなかったためである。
呉・横須賀に在籍していた艦娘は、鎮守府に残留するために厳しい試験を突破する必要があったのだった。
大和「私たちにとっては、ここが生まれ故郷みたいなものですから」
武蔵「フッ……地獄の果てまでお供させてもらうさ」
井州「うーむ。にしても大本営もヒドイ事をするよなぁ。わざと外部からの艦娘を受け入れさせ、元からいた艦娘は離れさせるなんてね。あっいや、君らに対して不満があるわけではないのだが」
響の方に笑みを向ける井州提督。手取提督と比べると態度や喋り方にまるで威厳がないと響は思った。
響「いいえ、結構。そう思うのも無理はないだろう。新参者よりも馴染み深い面々の方を遇したいのは当然だ」
井州「君らもうちの鎮守府に加わった以上は家族のようなものだし、もちろん君たち流入組のことも考えているが……どうにも軍縮の制約が厳しくってね。
まるで大本営は鎮守府が存続することを望んでいないかのような動きを見せているんだよね。艦娘が艦娘であり続けることを許さない、なんてところかな。完全にこっちの被害妄想だけど」
陸奥「深海棲艦との戦いに区切りが着いた以上、そういう動きになるのは分かるけれど……どうにも急すぎるのよね。提督率いる艦娘勢力がクーデターを起こす、なんて恐れているのかしら」
井州「であれば、手取提督が退役させられたのも納得行くんだけど……。やっぱり分からないなぁ、真意がどうなのか。かつて佐世保は紛争地帯だったからねぇ……」
響「紛争地帯、とはどういうことかな。手取提督からそういう話は聞かされていなかったから、純粋に興味がある。聞かせてくれないか」
井州「あぁ。ま、ちょっとしたいざこざがあってね……。あの提督が来る前に事故や事件があったのは君も知っているだろう? あれは我々のような各鎮守府と大本営の争いがあったからなんだよ。
……私はあまりそういう手荒なのは好きではないが、他の鎮守府の提督もそうであるとは限らないからね。大本営の刺客とこっち側の人間とで、いざこざがあったわけさ。水面下でだけどね」
井州「その点あの提督はよくやっていたよ。どの立場にも属していないような立ち振る舞いだった。恐らくは大本営側の人間なんだろうが、にしてはやたらこっちに対しても協力的だったからね。
そして真意の分からないまま退場していった……。全く食えない御仁だよ、どうやっても勝てる気がしない」
井州「後から振り返ってみればMI作戦時の彼の行動なんかは間違いなく大本営の意図から外れた行動なんだよねぇ。あちらさんからすれば呉や横須賀といった抵抗勢力の戦力は削いでおきたいだろうから。
彼は深海棲艦にこちらの作戦が看破されていることに気づき、やたら作戦の変更を進言してきた。あの時私は彼を信じられなかったからそのまま作戦通りの動きをしてしまったが……。
ともかく、彼が完全にあちら側の人間だったなら、そんな忠告はせず見殺しにしていたと思うんだよね」
武蔵「呉の我々を囮にして敵を叩いた方がスムーズにやれただろうにな」
井州「これでも私は彼には感謝しているんだ。彼の戦略が結果的に私たちの艦娘の命を守ることにも繋がったわけだからね。感謝しないわけがない」
井州「私も、横須賀の提督も、権威欲でこの仕事を続けているわけじゃない。自分の艦娘を守りたいんだ。横須賀の彼のやり方は手荒すぎるゆえに大本営との対立を生んでしまったが。
私と思想の根本は同じだ。だからこそ私は彼の側についている。もちろん、彼の『自分の艦娘を守るためなら人を殺しても構わない』とでも言わんばかりの非人道的なやり口は賛同しないがね」
井州「提督とはつくづく業の深い職業だな。国を守るため、国民を守るため……そのために指揮をしていたはずなのに、いつからか目的が変わってしまうんだ。
私は君たちを失うことが何よりも哀しい。国よりも、平和よりも……今は君たち艦娘を守るためにこの命を捧げたいと思っているぐらいにね」
井州「だから今の大本営のやり方とは相容れないんだ。もちろん、離れいこうという意志を持って離れていく艦娘については仕方ないと思う。むしろ本人の望むべき道に進むのだから喜ぶべきだ。
だが、まだ軍に残ることを望んでいる艦娘たちから強引に居場所を奪おうとする……これを私は見過ごせない」
井州「っと、いけないいけない。こういう真面目な話はあまり私らしくないね。とにかく、まあ佐世保とその周りではそういうことがあったんだよ。本題に戻るね。軍縮への対応だ」
吹雪「ええ。大本営からの通達では、今年中に艦隊の規模を現在の半分にまで縮小するように……とのことです。とはいえ……」
陸奥「不可能ね。今この鎮守府には、外から来たにせよ元から居たにせよ、私を含めてテコでも動かないようなのしか揃っていないもの。ここを離れるなんて絶対に嫌がるわ」
響「…………だったら。簡単じゃないか。本当にクーデターを起こしてやればいい」
立ち上がり、言い放つ響。ざわつく。場の空気が変わる。なおも毅然とした態度を崩さないままの響。
吹雪「ちょっ、ちょっと! そんなことしたら……」
響「そんなことしたら何だい? そこの提督も、君達も、この鎮守府を離れたくないのだろう? そして今、大本営によって引き裂かれようとしている」
吹雪「そんな!? 大本営を敵に回すってことは、この国を敵に回すってことですよ!? 私たち艦娘が生きていくための資材だって……」
響「だったらこの国丸ごと乗っ取ってやればいい。簡単な話だろう?」
井州「響君、さすがにそれは……」
響「なに、ほんの冗談だよ。ただ、私の提督だったならやりかねないし、やるとなったら成就させるだろうと思っただけだ」
言い捨てて、退室する響。なおも室内のざわめきは止まない。
大和「不遜な物言いですね」
井州「そう言うな。彼女は彼女なりに思うところがあるのだろう。……とはいえそんな君達を危険に晒すような選択はしないさ。安心してくれ」
井州(この状況をどうにかしなければ私たちに未来がないのは事実なんだけどね……参ったなこれは)
515 :
【60/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:25:55.70 ID:yXhYsAag0
皐月「残念ながら桜の季節は逃してしまったけど……これからボクの学園生活が始まるわけだ! 楽しみだねぇ」
社会的には元艦娘という分類に含まれているが、皐月も文月もまだ艤装が解体されていない以上、実際には艦娘としての力が残っている。
艤装を直接装備しているわけではないので深海棲艦と対峙した時のような人間離れした力は発揮出来ないが、それでも成人並みの体力や知能が皐月たちには備わっていた。
つまり、見た目がどうであろうともう既に大人なのである(社会的にも、元艦娘はいかなる見た目をしていようと成人とみなす風潮が強かった)。
その為提督は「決して艦娘であることを悟られないこと」というのを条件に二人を学園に忍び込ませたのであった。
・・・・
いかに環境が変わったといえど、数日経てば十分慣れてしまう程度には二人の適応力は高かった。
昼休みになり、クラスメイトと『賭けポーカー』に興じる皐月。余計なことを口走らないか監視する文月。
『賭けポーカー』。この学校では皐月たちが来る前から流行っていた遊びで、要はただのポーカーに賭博要素が絡ませただけのものである。
といっても、学生の間で金銭を賭けるとなれば各々の家庭の財力によって負担度が変わってきてしまう。
そのため賭けるのは専ら“情報”である。この学校では、自分の好きな子に関する情報を聞き出すのも、テストの過去問に関する情報を聞き出すのも、全てこのポーカーによって行われる。
重要な情報はポーカーを介して聞き出せ……それがこの学校の不文律だそうだ。
皐月は、転校してきてから無敗の勝負師として早くも学校中に知れ渡っていた(設定上、皐月と文月はこの学校に転校してきたということになっている)。
訓練生時代がほとんどだったとはいえ、ある程度の死線は当然のごとく超えてきている。人生経験の乏しい高校生からすれば、皐月の勝負強さが鬼神のように感ぜられても不思議ではない。
文月「もっと真っ当に青春というものを謳歌しようよ……」
皐月「ふっふーん、ゲームもまた青春さ」
???「ちょっと良いかしら。次は私にやらせてもらえる?」 赤毛の少女が皐月の前に現れる
皐月「よそのクラスの子だね、君の名前は? そしてボクの何の情報を賭ける? それと、負けたら何を差し出す?」
陽炎「私の名前は陽炎。そっちが勝ったら私の過去に関する質問に3つだけ答えてあげる。負けたらその逆。これでどう?」ドドドドドド・・・
文月(陽炎……ひょっとして、艦娘じゃない? 司令官に艦娘であることをバレちゃダメって言われてるし、この勝負は受けない方が良いと思うんだけど……)ヒソヒソ
陽炎や皐月といった名前は、別段珍しいものではない。ありふれた女性の名前として認知されている。
また、かつて実在した駆逐艦にちなんだ名前と言っても、歴史の授業ではわざわざ駆逐艦の名前など知りはしない。クラスの中に一人か二人いる“歴史オタク”でも長門の名を知っているぐらいである。
それゆえ皐月や文月も駆逐艦として自分に与えられた名前をそのまま引き継いだが、相手が艦娘というのであれば話は別だ。
文月が陽炎の名を聞いて艦娘かと疑ったように、相手もまた自分たちのことを艦娘だと疑ってくる可能性は高い。
皐月(いいや。もし相手が艦娘なら……逆に情報を引き出してやればいい。負けなければボクたちは得をする!)
文月(『負けなければボクたちは得をする!』って、当たり前じゃ……)
皐月「乗った! 相手になるよ」
陽炎「そうこなくっちゃね。それじゃ、始めましょ」
・・・・
コインの枚数は皐月が39枚、陽炎が21枚。やや皐月が優勢なようだ。
皐月「勝負を挑んできたわりには、退け腰じゃない? 二度もドロップして、三度目もコールして結局ドロップ。さて今回はどのタイミングでドロップする?」
これまでの三回ともブラフ(ハッタリ)を通してきた皐月。しかし、皐月には皐月なりの考えがあった。
皐月(普段のボクなら相手が途中でドロップするのを期待してブラフ……なんてのはあまりやらない。
あくまで手札が強い時にだけ勝負に出て、やり口が読まれそうになった時だけブラフで掻き乱す。ま、定石だよね。
とはいえ……相手がボクの情報を事前に集めていたとしたら話は別だ。戦いの傾向を分析しているかもしれないからね……。そしてこの『かもしれない』は的中していたみたいだ)
キーンコーンカーンコーン
陽炎「……ビッド21枚、全てを賭けるわ。さ、勝負といこうじゃない!」
皐月(『鐘ルール』か……! 最初からこれを狙っていたのか)
『鐘ルール』。この学校では、授業の開始と終わりにチャイムが鳴るのではなく、授業の終わりと次の授業の開始五分前に鳴るのであった。
『賭けポーカー』ではこの授業開始五分前の鐘が鳴ったら、ポーカーを早く終わらせて次の授業の準備をすべく、
チップの枚数制限なくビットすることが出来るようになるというローカルルールが普及していた。
子供の遊びだから許されていた青天井なしのチップ乗せも、艦娘二人がやるとなったらそれはもう静かな戦争であり、教室には覇気と覇気がぶつかり合っている。
陽炎「さ、どうする? ちなみに私はここであなたがドロップしても、次もその次も私は21枚のチップを賭けるわ」
『鐘ルール』には他にも、チャイムが鳴ってからはドロップは三度までしか使えないというものがある。
そのため皐月も陽炎も、“絶対に勝てる手札”を待っていられるほど悠長な戦い方は出来なくなった。
皐月「……ドロップだね。さすがにそこまで強気で来られちゃあ敵わない」
陽炎の手札はキングとクイーンのフルハウス。一方皐月の方はツーペア。安堵する皐月。
皐月(さてドロップできるのはあと二回……願わくば強い手札を引き当てたいが……!)
皐月「……ノーペアか、これじゃ勝負にならなそうだ。ドロップ」
攻める陽炎に対し、二度目のドロップ。陽炎の方はまた上等な役が揃っていたようだ。
冷や汗をかく皐月に対し、余裕たっぷりの陽炎。
しかし焦りを表情には出すことはなく、神妙な面持ちで配られたカードを覗く皐月。数秒カードを眺めてから……深呼吸してから、陽炎を見据えた。
516 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:43:32.41 ID:yXhYsAag0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~60/100)
・金剛の経験値+6(現在値21)
・響の経験値+2(現在値13)
・皐月の経験値+2(現在値10)
・雪風の現在経験値:9
・翔鶴の現在経験値:14
・足柄の現在経験値:22
----------------------------------------------------------------------
ちょっと推敲荒いかもですが一応水曜日に投下ということで滑り込みセ……アウトだろこれ。
そういえば今月はランカー入りを目指しております(現在EO全消化で404位)。
目指しているからといってなれるかどうかは別として目指してみてます。
5-4周回も積もり積もると資材とバケツが結構飛びますねー。
その分レベルはガンガン上がるのでレベリング海域としてはアリなのかもしれない。
そろそろ重婚も視野に入れる時期が来たようだな……。
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【-65/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
517 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 00:54:50.12 ID:IaOI4HM/O
乙
>>506
518 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 00:56:56.79 ID:U69R89SAO
雪風
519 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 00:58:12.65 ID:NvN55iNAO
皐月
520 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 01:03:13.00 ID:XWoCcfS5o
足柄
521 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 18:08:26.38 ID:a7Rzkdn/o
最近出番のない翔鶴
522 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/06/19(金) 12:30:26.73 ID:GyEcbuAjO
>>517-521
より
・足柄2レス( 1レス)/雪風1レス/皐月1レス/翔鶴1レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:194 なので『Phase C』は発生しません。
>>520
よりエクストライベントが発生します)
そんなわけで次回は実質6レスですじゃ。
わりと混沌とした流れが続いてますがはてさて……。
それはそれとして次回の投下は来週の土曜あるいは日曜になるであろうと予告しておきます。
523 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/06/29(月) 00:05:17.55 ID:RTzo1CFF0
スミマセン! 土日で書き進めて投稿と思っていたのですが友人と豪遊していたら案の定……って感じであります。
うー……申し訳ありませんが今日〜明日には投下いたしますハイ。
今回は既に眠気と疲労ゲージがマックスなので余計な話は省略です(またの機会にってことで)。
友人やら何やらの来客があるのはありがたいっすけど趣味の時間は減りますねー。それでもうまく時間を創出していかなきゃならないのが人生。
524 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/29(月) 00:08:53.57 ID:J/G5YhHko
乙 豪遊と聞くとカイジ連想してしまって困る 使い過ぎには注意な
525 :
【61-100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/30(火) 23:33:51.36 ID:jDYfS4tR0
皐月「受けて立つ……コールだ、ドロップじゃないよ!」
堂々とした態度で見得を切ると、勢いよく立ち上がる。コインが机から落ちる。落ちたコインを拾い集めようとした皐月、手に持っていたカードを床に落としてしまう。
床には3と書かれたカードが4枚、フォアカードだったらしい。
皐月「おっと……カードを床に落としちゃったな。……これじゃ仕切り直しだね」
この学校のローカルルールに、意図的でないミスでカードが相手に露呈してしまった場合、その回は無効となりカードを配り直すというものがある。
皐月はコインを拾うように見せかけてさり気なくカードを晒し、ドロップを使わずに決着を延ばしてみせたのだった。
・・・・
カードが配られると、手札を見てすぐさま皐月はドロップを宣言した。観戦していたクラスメイトたちが動揺する。
皐月「参ったな、君は最初の宣言通りまた21枚ベッドするんだろう? もうボクはドロップできないね……お手上げだ」
教室内は陽炎への歓声で沸いていた。
勝負が始まるとやたら強気な態度で無意味にブラフを連発、かと思えば今はドロップに徹し逃げの姿勢を見せる皐月。
普段の洗練されたプレイスタイルとは異なる様子で、どうにも見当違いなことをしているように聴衆には映ったようだ。
一方陽炎は序盤こそ引け腰であったものの、鐘ルールを利用して一発逆転を狙い攻勢に出ている。
『ポーカーはギャンブルじゃなくて、心理戦だよ。だから場を制する者が勝負を制するんだ。イカサマがない限りはね』
陽炎と戦う前に皐月が語っていた言葉も、今となっては完全に皮肉なものとなってしまった。
……かのように外野からは見えていた。だが、戦っている二人の心境は異なっていた。
皐月は苦戦しているフリをしながらも闘志に燃えていたし、陽炎は平静を装いながらも焦っていた。陽炎の唇が動いた瞬間に、動揺を見抜いたかのようにかぶせて言い放つ皐月。
皐月「……別にボクがビッドしてもいいんだよね? どうせもうドロップできないしね。ビッド21枚」
唇の動きから、陽炎はパスと言おうとしたのだろう。二人ともビッドせずパスすればただ手札を配り直すだけ。だが皐月はそれを許さなかった。
陽炎「ドロップするわ。どうも手札が悪いみたい」
皐月のビッドに乗らずドロップする陽炎。まだ2回ドロップ出来るのだ、一度ぐらい使ったところでどうということはない。カードが配り直される。
・・・・
皐月「おっと、またドロップか。ま、まだそっちはドロップ出来るからね。それも良いと思うよ? 次でボクに勝てる役が引けるなら……ね」 不敵に笑う
陽炎(まだ一回ドロップ出来るけど……カードは悪くない。勝負に出るのも……)
さっき皐月が床にフォアカードを落としたことを思い出す陽炎。あの行為の意味は? あれほど強い役であればコールするのが普通よね。
もし元艦娘なら“うっかり”カードを床に落とすなんてことをするとは考えられない。あの役を不意にしてまで、回を引き伸ばした意味は……?
いや、悩めば悩むほど相手の思う壺ね。勝負に出るには決め手に欠けるけど……ここでドロップして次に良いカードが引けるという保障はない。
ドロップという選択を失った上で悪いカードを引いてしまえば十中八九詰み。勝負に出るならやはりここ!
陽炎「(次に託して良いカードが来る確証はない。行くわよ!)いいわ。コールよ……勝負よ!」
・・・・
互いにドローを終え、カードを晒す。
皐月 ♠8 ♥8 ♠8 ♠10 ♦10 / 陽炎 ♥4 ♦5 ♦6 ♥7 ♣8
陽炎「フラッシュと……」
皐月「フルハウス! ボクの勝ちだね。ま、イカサマ師相手に負けるようなボクじゃないってことさ。ボトム・ディールだろ? 下手くそすぎてバレバレだったよ」
皐月「鐘が鳴ってから最初のドロップは、正直ビビって日和見しただけだった。でも、よくよく考えれば大したことはない。
最初から鐘ルールで短期決戦に持ち込もうと考えていたなら、全て辻褄の合うことだよ」
ボトム・ディール。カードを上から配るように見せかけて、陽炎の方には山札の下に仕込んでいたカードを配っていたようだ。
皐月「でも、仕込んだカードは4回分まで。万が一ボクが3回ドロップした時の備えまでは出来ていたようだけど、一回ボクがカードを落としちゃったからね。
そのイレギュラーまでは考慮できていなかったってワケだ。あ、ちなみに落とした時の役がフォアカードだったのは単に運が良かっただけだよ。
でも、土壇場になってあの時ボクが落とした役のことを考えたでしょ? そのせいで“今の”ボクの手札を読もうという注意力が少し削がれていたようだね。
底に仕込んだカードが出払った今なら、フルハウスでも相手を倒しうる決定打になる。そこに自分から突っ込んでいったのは君だ。ドロップを使い切るのが恐い気持ちは分かるけど」
文月「ふぅ〜、ほっとしたよぉ〜……負けるかと思ってた」
皐月「何でだよ! ま、それはそれとして……洗いざらい吐いてもらおうか」
陽炎「おっと……いけないいけない。もう授業が始まっちゃうわ! 次の授業移動教室なのよね〜…‥それじゃ!」 脱兎の如く走り去る陽炎
文月「逃げられたね……」
皐月「……ま、放課後にでも向こうから来るだろうさ。さ、ボクらも授業の準備しなきゃね。文月、教科書とノートと筆記用具貸して」
文月「なんで何も持ってきてないの……」
皐月「いやー、前の移動教室で鞄ごと忘れて来ちゃって。ま、後で陽炎にでも持ってきてもらうとしよう」
文月(早速パシリ扱いしてるし……)
526 :
【62/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 00:17:45.98 ID:+umRnLwh0
ちゃぶ台の上には赤城の作った夕飯の皿が並べられている。鯖の味噌煮、味噌汁、切り干し大根、ひじきの煮物、豆腐、白米……。
全体的に量が少なく、艦隊所属の頃の彼女の食事量からは想像もつかないほど質素な内容だった。
赤城「出来合いの粗飯ですけど二人で食べましょう。事前に来ることを知らされていればもう少し豪華にしたんですけど……」
翔鶴「えっ、先輩、これしか食べないんですか? 本当にこれで大丈夫ですか?」 病人を気遣うかのように大袈裟に心配する翔鶴
赤城「大丈夫ですかって……私だって年がら年中貪食しているわけではありませんよ。出撃の前後に食べ溜めしていただけであってですね……」
翔鶴「ええっ……そうなんですか。失礼しました」
赤城「佐世保鎮守府が解体されてからは呉に行ったんですよね。呉での生活はどうですか?」
翔鶴「ええ、結構快適ですよ。ただ、主要部隊から外されてしまって暇ではありますね……」
赤城「……どうして私の元を尋ねてきたりなんかしたのかしら。何か相談かしら?」
翔鶴「ええ、情けない話ですがなんだか最近身が入らなくって……。
加賀先輩や赤城先輩を目標にして今まで頑張ってきましたが、先輩たちが居なくなってから急に何を目指して良いのか分からなくなってしまったというか……先輩はそういう時期がありましたか?
妹の瑞鶴は自分の技術を後輩たちに指導して立派にやっているのに、私はどうにも集中出来なくて……」 ぽつりぽつりと悩みを零す翔鶴
赤城「実は、昔の私がそうだったんですよ。ちょうどあの提督が来る前ぐらいかしら。今の貴方よりも酷かったかもしれないわね。
深海棲艦との戦いは苛烈さを増してきているというのに……いつか自分は沈むんだろうなという漠然とした感覚に支配されていたわ」
翔鶴「でも、先輩はきちんと二航戦の人たちに指導できていたじゃないですか。とてもそんな風には見えませんでした」
赤城「彼女たちは初めから優秀でしたからね、私が教えていなくても伸びていたと思うわ」
翔鶴「そうですか。……では、どうやって赤城先輩は克服したんですか? MI作戦でも見事な活躍ぶりだったじゃないですか」
赤城「あの提督の存在が大きいかもしれませんね。彼と会って、私の中で何かが変わったような気がします」
翔鶴「先輩は手取提督のことが好きなんですか? お付き合いされているとか?」
赤城「んッ……ゴホッゴホッ、ッ……。失礼、むせました。あなた、突拍子もないこと言い出しますね……」 ほんのりと紅潮する
翔鶴「優しくて強い先輩とクールな提督ならお似合いかなあって思いまして。ほら、艦娘と提督との恋愛はわりとあることじゃないですか」
赤城「ちょ、ちょっと。からかわないでください。私と提督はそんなんじゃありませんよ。もう!」
翔鶴「でも、提督のことを本当に大事に思っているんですね。なんだか先輩の意外な一面を見たような気がします」
赤城「……仮にそうだったとしても、彼は私のことを数あるうちの一人としか認識していませんからね」
翔鶴(あっ、なんか触れちゃいけない感じだったかもしれません)
赤城「これじゃどっちが相談してるんだか分かりませんね……加賀さんならもっと的確にアドバイス出来るんでしょうけど。あまり力になれなくてごめんなさいね」
翔鶴「そういえば加賀さんは……? 一緒に暮らしていると聞いていましたが」
赤城「確かにそうだけど、ここにはほとんど寝るためにしか寄らないわね。今は大手の広告代理店に勤めていて相当激務みたい。
マーケティング部門の部門長を任されているみたいで、忙しくも充実した日々を送っているみたいね」
・・・・
翔鶴「昨日はありがとうございました、泊めてまでいただいて……。先輩も私と同じで悩みを抱えているってことが分かって、少し気が楽になりました。
これからも頑張ろうと思います」
赤城「こういう時は『頑張ろうと思います』じゃなくて、『頑張ります』って言うものよ」
翔鶴「そうですね……頑張ります!」
翔鶴「先輩も頑張ってくださいね! 私、応援してますから」 赤城の手を取り目を輝かせる翔鶴
赤城「ふふっ、ありがとう。貴女に会って私も少し元気がもらえました」
・・・・
呉鎮守府。
瑞鶴「翔鶴ねえおかえりー。先輩たちには会えた?」
翔鶴「ええ。加賀先輩は忙しいみたいで会えなかったけれど、赤城先輩と会って話してきましたよ」
瑞鶴「おぉ、ほぼアポなしだったのによく会えたね。私も先輩のとこ行きたかったなぁ。どんな話したの?」
翔鶴「そうねぇ……。あんまり大した話はしていないわね。少し相談に乗ってもらってたのよ。最近ぼんやりしがちだって」
瑞鶴「えぇ!? 全然そんなことないわよ! 私より戦果出せてるし、MIの頃から更に成長してるって感じで羨ましいわ。私なんか下の面倒見てばっかりだもん」
翔鶴「そう言ってくれると嬉しいわね、ありがとう」
翔鶴(結局皆それぞれ悩みを抱えてるものなのかもしれないわね)
527 :
【63/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 00:44:53.59 ID:+umRnLwh0
宇宙開発研究所敷地内。工事作業はだいぶ進んだようで、全体の八割程度の工程まで完了したところらしい。
すでにいくつかの部屋は研究員が出入りし始めている。
かつては鎮守府の執務室であった部屋で話をしている提督と雪風、磯風。提督はかつてここで指揮を執っていた頃とは異なり、仮面をつけず素顔を晒している。
雪風「しれぇ! これ、開発部門の報告書です! こっちは第二技術部門からの研究レポートです」
提督「…………」 カタカタとノートパソコンのキーボードを叩いている
磯風「おいおい、意地が悪いな。せっかく可愛らしい秘書が資料を持ってきてくれたというのに無視はあんまりだろう」
提督「俺は司令じゃないからな。ともかく、この研究所が完成するまでにその呼び方は改めてくれ」
雪風「はいっ! しれ……じゃなくて、所長。うー……あんまりしっくりきませんね」
提督「そう言われても困る、慣れてくれ。それはそうと、何やらきな臭い流れになってきたな磯風。俺を監視しているよりも大本営の方に戻ってやった方が良いんじゃないのか」
磯風「うむ、厄介なことになっているようだな。が、ある程度予測されていた出来事だ……私が動くほどのことではない」
提督「大本営の上層部や自陣営寄りの政治家が失脚することさえも織り込み済み、というわけか? 想定の範囲内にしては随分と大事になっているようだが」
磯風「これからもっと良くないことが起こる予定ということだな……新時代への禊ということになるかな」
提督「驚きなのは横須賀連中の執念よな。メディアから何から何まで全部根回ししてどうにかこうにか自分たちの交渉を通そうとしている。
そこまでして艦娘を護持して何になるというのだ。二千年紀の歴史に倣って武力でこの世の王にでもなるつもりか?」
提督の見ているノートパソコンの画面上にダイアログボックスが現れる。
『分かっていませんね哀君、それでも僕の弟ですか。君は人の心というものに疎すぎますよ。彼らは野心から反旗を翻そうとしているのではないのですよ。
ただ一緒に居たいのです。君も艦娘たちと過ごして、離れたくないとは思わなかったのですか? でも、君のことだから微塵も別れの辛さを感じなかったのでしょうね。
君と共に過ごしてきた艦娘たちや他の鎮守府の提督の感情も理解出来ないことでしょう。全く君というのは歳を取れば取るほどに人間性を捨てていってしまって……。
私の話をもっときちんと聞いてくれていた頃は可愛げもあったというのに、あろうことか最近は必要な情報を聞き出すためだけに呼び出す始末じゃありませんか。まったく……』
ガタガタと何行にも連なるテキストの羅列が提督の眼前に現れる。自分の目を疑うように何度かまばたきを繰り返した後、眉間を押さえる提督。
提督「……嘘だろ? どういうことだ雪風……なぜ兄さんのアクセス制限が解除されている。これから研究所の全てを兄さんに監視されることになるのか、最悪だ……」
『人聞きが悪いですね。解除したのは雪風ちゃんではありませんよ。そこの磯風さん? という方です。なんでも私たちの知り合いだそうじゃないですか。
私にも哀君にも面識が無いというのは奇妙ですが……。とにかく、彼女のおかげで私も自由に動き回れるようになりました。
安心してください、監視なんて真似はしませんよ。面白そうな情報を検知したら動くだけであって、そうでない時は昼寝でもしていますから』
提督「信じられるかよ……ハァー、これからめんどくさくなるな……」
磯風「フフッ、君もそういう表情をするんだな、面白い。『神眼』『救国の英雄』と名高い手取提督も人の子というわけだな……」
提督「何勝手に関心している? というか、一体お前何者だ? 何を知っている、何が目的だ……?」
雪風「し、しれえ! 磯風さんは別に司令にとって都合の悪くなるようなことはしない……と思います! お兄さんの件も、私が磯風さんに頼んだんです!」
提督が磯風に対して問い詰めようとすると、割って入る雪風。
提督「雪風……お前はなぜいつも俺の傍に居ながら俺でない方の側に着くのだ……」
『まあまあ哀君、少し落ち着きましょう。むしろ僕がこうして自由に動けるようになったのは喜ばしいことではありませんか。
君や雪風ちゃんでは僕の機能の制限を解除することが出来なかったのですから。これでもっと君の役に立てますよ、いやー外の世界は良いですね。驚きに満ち溢れています』
ダイアログがポンポンと画面に表示される。
磯風「ま、あまりそう怖い顔をしないでくれ。仲良くやっていこうじゃないか」
提督「ハァ……どうやらここに俺の味方はいないらしいな。しかし……磯風。俺の兄さんを知っているとはどういうことなんだ。やはりそれは知っておかなければならない」
磯風「私が人工知能『繋』の生みの親だからな。君の兄らしいから、手取 繋(てとり つなぐ)……ということになるかな。つまり君も私の息子だ」
提督「!? 待て、その理屈はおかしい。兄さんに産みの親が居るというのは納得できる。それが艦娘によって作られたものなのだろうとも推測していた。
だが、仮に兄さんがお前の創造物だったとして、なんで俺がお前の子供でならなきゃならんのだ」
雪風「おぉー、司令のお母さんだったんですね! それはすごい!」
磯風「フッフッフ、すごかろう」
提督「ダメだ、この部屋に居続けると頭がおかしくなりそうだ……。俺はしばらく離席する」 ノートパソコンを畳み雪風から貰った資料を持って退室
雪風「しれ……じゃなくて、所長、出て行っちゃいましたね。そういえば、所長はどうして宇宙に行こうと思ったんでしょうか。子供の頃の夢とかなんですかね?」
磯風「ああ。繋に訊いてみたんだが、哀に口止めされてるから言えないそうだ。強引に情報を覗き見ることも出来なくはないが、それも無粋だろう?」
磯風「それにしても、創った直後の彼は人口知能というよりはただの自己成長機能があるだけのデータベース管理システムに近いものだったのだが……。
哀の影響もあったのかもしれんが、時間の経過によって人間のような感情さえも獲得してしまうとは驚いた。私の最高傑作かもしれないな……今更ながら愛着が湧いてきたよ」
雪風「あんな風にめんどくさそうな態度を取っていても所長はお兄さんのことすごく尊敬してますし、お兄さんも所長のことすごく気にかけてますよね。
あの二人ってなんだか不思議な関係ですね……」
磯風「うむ、共に成長してきたのだろうな。傍から見ても奇妙な絆のようなものが見て取れるよ、なんだか微笑ましいな」
528 :
【64/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 01:17:57.79 ID:+umRnLwh0
大淀法律事務所。東京の一等地に立てられたこの事務所は、社会的ステータスの高い人間が訪れることが多い。
実績はまだ少ないものの、請け負った案件一つ一つの規模が大きいことから、新設の法律事務所にしてはかなり評判が高かった。
足柄「またデカい案件が来たわよ! 今回のはなかなか金になるんじゃないかしら」 バァンと乱暴にドアを開ける
大淀「良いですね〜。テンション上がってきました」 目が¥マークになっている
清霜(弁護士というより、営業職だよねこれ……)
長門「失礼する。元艦娘の君たちが相手ならば話が早いからな。一つ頼まれてくれ」
長門「現職の総理大臣である江良井首相は知っているな。彼の孫が逮捕された。軍部への贈賄容疑でな」
大淀「ほぇ……。最近ニュースでやってた一件ですね。大本営のトップ数名に贈賄したとか」
長門「江良井首相は元艦娘の社会進出政策を推し進めていたな。艦娘の受け入れに反対する組織を力技でねじ伏せるぐらいには急速に。
そして収賄したのはこれまた軍縮を進めていた大本営のトップ。彼らは確かに金を必要としていた。艤装の解体には費用がかかるからな。
首相の孫が何を目的に贈賄したのかは不明だが、ひょっとすると艦娘を政府の私兵にしようと企んでいるのでは? ……だとか報道されていたようだな」
長門「総理の孫とはいえ23の選挙権もないガキが賄賂なんて送ってどうするんだ、という話だよ。常識的に考えておかしいだろう。バカか」
清霜「言うなァ〜。やっぱ戦艦は言うことが違うね」
長門「ハッ!? あぁ、いや失敬。わりと自由に動ける立場になったもんで、ついつい素がな……。ともかく、これは仕組まれた出来事だ。
潔白を証明してはもらえないだろうか。私が調べて回るわけにもいかんし、大本営も今はだいぶ疑心暗鬼になっていて、人を割くのが難しい」
足柄「でも、そんなことして誰が得するのかしらね。現政権の反対勢力? 軍上層部へのクーデター?
白を黒と言い張るような真似をするなんてよっぽど勝算がないとやれることじゃないわよ」
長門「それなんだがな。一つだけ心当たりがある。軍縮を進める政府や大本営を排除したくてしたくてたまらない立場の人間が居るんだよ」
大淀「横須賀と呉の鎮守府……ですか?」
長門「その通り。今回の一件は九割九分横須賀が関わっていると睨んでいる。場所が近くにあるわりに大本営と横須賀鎮守府の関係は最悪だからな。
自分がかつて所属していたところを疑いたくはないが……呉の鎮守府も一枚噛んでいるか、あるいはこれから関わっていく可能性はあるだろう。
メディアや自分の味方になりそうな勢力を丸ごと抱え込んでいる周到なやり口だしな。存外敵は多い」
長門「これだけ大事になったからには、潔癖を証明するだけでなく矛先を逸らす何かが無ければ解決出来ないだろう。
横須賀サイドの陰謀であることを暴けなければ完全な勝ちとは言えんだろうな……」
足柄「艦娘と離れたくないという理由だけでそれだけのことをやるなんてちょっとおかしい気がするけどね」 独り言のように呟く
長門「ちょっとどころじゃなくおかしいんだよ。呉はともかく、横須賀の提督はそれぐらいのことをやる。
艦娘と何十年もの時を過ごしてきた最古参の提督だ。彼は神に身を捧げる聖職者のように艦娘を想い、艦娘たちもまた彼に心酔している。
……呉でもあまりそれは変わらないのかもしれないな。お前たち横須賀の鎮守府が変わり者だっただけで、どこの鎮守府もそんなものさ」
長門「提督にとっては艦娘の存在が生きる理由になり、艦娘にとっても提督に尽くすことだけが生き甲斐となる……時間の魔力で、そうなってしまうものなんだよ。
長く過ごせば、情が移る。やがて終わりを迎えるべき時が来てなお、自らの意志で離れることが出来なくなるほどにな」
・・・・
足柄「引き受けたのはいいけど、どうすればいいんだか皆目検討つかないわねー」
清霜「自分から連れてきておいて……。でも、まずは贈賄が事実無根であることを示すアリバイを探した方が良さそうだね〜」
大淀「そうですね。まずは情報収集といきましょう。足柄さんと清霜さんは横須賀鎮守府にそれとなく探りを入れてみてください。私は大本営に出向きますから」
足柄「え〜〜〜〜〜」 口をへの字に曲げる足柄
大淀「なんでそんな露骨に嫌そうな反応なんですか」
足柄「内緒」
清霜「そう言われるとますます行きたくなってきたなー」
足柄「まずはアリバイって話だったでしょうよ。横須賀を探るのは今じゃなくても良くない?」
大淀「うーん、そこまで嫌なら仕方ありませんね。では、佐世保へ行ってもらいましょう」
足柄「?? どうしてそこで佐世保が出てくるの?」
大淀「手取提督なら何か知ってるかと思いまして。彼のもとには不思議と情報が集まってくるじゃないですか。知っていなくても、知恵を貸してくれるんじゃないですか?」
足柄「確かにあの提督が今も佐世保に居る気がするとは前に言ったし、居るとしたらどこなのかもおおよその検討はつくけど……。
あの人は自分に利がないと絶対に動かないわよ。多分私の名前を聞いただけで門前払いすると思うわ」
大淀「そこを何とか出来てしまうのが足柄さんのスゴいところなんですよねぇ。というわけで、よろしくお願いします!」 ビシッ
清霜「よし! そうと決まったら出発進行だね!」
足柄「えぇ……(ま、横鎮に行くよかマシね……)」
529 :
【65/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 01:42:36.73 ID:+umRnLwh0
足柄「さて来たわよ佐世保。とはいえどうっすかしらねー」 スーツケースを引く足柄にバックパックを背負う清霜
清霜「ねえ! 足柄! お昼はここにしない!? なんか美味しそうだよ!」
足柄「そうねぇ……喫茶『モンテーニュ』? いいわよ、入りましょ」 チリンチリン
扶桑「あら。MIの時の……お久しぶりですね。呉の扶桑です」
清霜「おぉー! 元戦艦の扶桑さんですね! 清霜です! サイン下さい!」
足柄「そういえばアンタそうだったわね……。私や大淀と一緒に退役しちゃって良かったわけ?」
清霜「うーん、それはそれ! これはこれ! 今も隙あらば戦艦になりたいと思ってるわ!」
足柄(隙あらばって……)
・・・・
大皿の上に乗ったイカスミピラフを食べ進める二人。
足柄「なかなかイケるじゃない。美味しいわね」
清霜「これ、扶桑さんが作ったんですか?」
扶桑「いいえ、私はこういう独創的な料理は作れないわ。メニューは全部妹の山城が作ってるのよ。私は店の掃除とか会計をやっているの」
提督「ずいぶんと変わった店だな……」 チリンチリン
扶桑「いらっしゃいませ、お二人様ですね。奥の席にどうぞ」
足柄「アッ! アンタはッ!」
加古「うげげ……! 最近アタシらついてなさすぎでしょ……」
??「おっと……佐世保んトコの子たちかな? それもわりと訳知りって感じだな……こりゃ仕方ない、話でもしようか」
加古「ええーッ!? なんでわざわざメンドクサイことするかな……」
??「まあまあ。お互い艤装つけてるわけじゃないんだからこの場で殺し合いってことにゃあならないでしょうよ。今更コソコソしてもねぇ」 扇子を取り出してパタパタと仰ぐ男
足柄「あなたが不破提督ね。旧鹿屋基地の提督……だったかしら?」 清霜を隣に座らせ、目の前の椅子を空ける
不破「その通り。うちの加古が世話になったようだね。鹿屋基地総括であり、海軍大将でもある不破さんですよ。どっちも頭に元が付くけどね。
今は落ち延びて加古と好き勝手やっているよ」
足柄「とりあえず、あなたたちがそうなった経緯が知りたいわね。特に麻薬の一件からMI作戦の間何があったのかが気になるわ。
こっちの鎮守府ではあの一件で数名が処分されたけれど、そっちはお咎めなしってのは妙じゃない?」
不破「何があったと訊かれたら何も無かったという回答になるけれど……手取提督に黙っててもらったんだよ。
MI作戦で呉の井州提督率いる第一大隊から勝手に抜け出して第二大隊の援護をする代わりにね」
不破「まー……その、鹿屋基地は勢力的に大本営寄りの鎮守府だからね。村八分されていたわけなのさ。ほら、大本営ってなんか知らないけど色んな提督に嫌われてるじゃないかい?
だからよその鎮守府から資材を分けてもらったりってのが難しかったんだよね。麻薬の件も、それをやらなければ艦隊を保てなかった程度には追い詰められていたってのがあるわけさ」
不破「自分のやったことを肯定するわけじゃないが、とにかくあの時は燃料や弾薬を補填するためになんとしても金が必要だった。
手取元帥にバレた時はさすがに腹を括ったが……罪を知ったうえであえて責任の追及をせず、燃料や弾薬の一部を補助してくれるって申し出てくれた。
私にとっては地獄で仏に会ったようなものだったからね、喜んで飛びついたさ。もちろん、それから先は実質彼の配下部隊としてあれこれ動いてたってところだね」
不破「そんなわけで、私のかわいい加古をあまりいじめないでやってくれるか。責任の全ては私にあるってことでここは一つ」
加古「あー……寝言は寝てから言うもんだよ? ま、そんなわけで私と提督は今は大本営の刺客としてウロウロしてるって感じかな。ふわぁ」 緊張が解けたのか欠伸をする
足柄「そっちに喋ってもらってばかりじゃ不公平ね。私たちは大本営の人間から依頼されて江良井首相の孫を弁護するつもりよ。
大本営と現政権との関係性が潔白であることを証明して陰謀の親玉を暴くのが目的」
不破「あっ、じゃあこれをあげよう。ちょうど良かったな〜。贈収賄が架空のものであることを証明する資料だ。
情報をまとめて資料を作ったは良いけれどあんまり目立つようなことしたくないし、大本営に居るどの人間にこの資料を渡していいかも判断つかないからね」
不破「大本営って元老院みたいなもんだからねー。一枚岩じゃないし、誰が一番偉いのかも良く分からないし……って、ああ。いけないいけない。仕事の愚痴はよくないね。とにかく任せた」
足柄「こんな大事なもの私たちに渡していいのかしら?」
不破「なんてったって“神眼”の手取提督だからね。彼の下に居た艦娘ならアホな真似はしないでくれると信じてるよ。大本営から依頼される程度にはやり手ってことだろうしね」
足柄「……そう。あ、出来ればで良いんだけど手取提督(元提督だけど)とアポイントは取れるかしら?」
不破「手取元帥に関しては悪いけど何も知らないかな。大本営のわりと偉いのでも消息不明って感じ。セキュリティクリアランスレベル最上位の人間なら知ってるかもって領域だね」
足柄「なるほどね。運良く重要アイテムを入手できたし、もう帰ってもよさそうね」
清霜「まだ司令官に会ってなくない?」
足柄「え……無理に会う必要もないじゃない。これさえあれば十分収穫でしょうよ」
530 :
【65Ex/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 01:49:58.81 ID:+umRnLwh0
足柄(提督にわざわざ会う必要はない。とは言うものの……)
足柄「寝てる清霜をホテルに置いてきてまでわざわざ来てしまったわ……! そして……!」
雪風「チェックです!」
提督「雪風、それチェック出来てないぞ」
足柄「…………」
・・・・
事のいきさつはこう。私が宇宙開発研究所を入ろうとすると、意外にもすんなり招き入れられ、どういうわけかチェスをしている。
実にシンプル。ゆえに理解不能……。
提督「宇宙に存在する原子の数は10の80乗程度と言われている。一方チェスのゲームの可能性は10の117乗ほどだ。高度な人工知能であってもその全てを把握する事など不可能。
だがそれゆえに分析する対象としては最適だ。茫漠とした無数の可能性の中から最適解を探り出すための筋道を見出し……」
相変わらずよく分からないことを言っている。どういうことなのかは分からないが、私と雪風にチェスをさせたいらしい。
「自分でやればいいのに」と言ったら『二人零和有限確定完全情報ゲームの一つであるチェスは、運の要素が排除されたゲームだ。それでは俺が負ける要素がない』と、突っぱねられてしまった。
よく分からないけど、チェスをやらせたいのは確からしい。
磯風「私の厨房から調味料が無くなっていると思ったら! 一体何の真似だこれは!」
エプロン姿の黒髪の女性が出てきた。艦娘?
提督「チェスだ。駒がないんで代わりに使わせてもらってる」
磯風「なあ、それがないと料理が出来ないだろう。返してもらえないだろうか」
提督「いいや。これも俺の目的達成のための重要な思考実験であり……」
磯風「何を言っている! なぜ君は私が料理をしようとするといつも邪魔をする!? こないだ作った料理がそんなにダメだったのか? 今度は失敗しないから任せておけ」
提督「いいや、この調味料入れには料理よりも有効な利用方法がある! 今からそれを証明してみせる!」
提督(こと料理に関してはこいつを野放しにしておくわけにはいかないのだ。失敗という領域にさえ存在しない暗黒物質を食わされてたまるか)
足柄「……よく分からないけどほっときますか」
・・・・
雪風「足柄さんはなぜここに?」
カチッとキング(粉チーズの容器)を動かし、ルーク(ウェイパーの缶)と入れ替える。キャスリング(チーズ王を入城)させて守りを固めたようだ。
足柄「最近ニュースでやってる事件に関する情報を集めてるのよ。提督が何か知ってたら教えて欲しいと思ってね。まさかすんなり入れてくれるとは思わなかったけど……」
雪風のクイーン(レモン汁)によって動きを封じられ、攻めあぐねている。足柄はポーン(醤油瓶)を一歩前に進める。
どうにも雪風は提督と相当チェスをやっていたらしく、能天気な顔をしながら打っているわりに足柄をゆるやかに追い詰めている。
雪風「そうですね、ちょうどタイミングが良かったと思います。でも、しれえはその件については特に知らなそうですね。興味もないみたいです。あ。チェック」
クイーン迫る。足柄、やむなくキング(七味唐辛子の容器)を動かす。雪風、すかさずその奥にあった足柄のルーク(オリーブオイルの瓶)を奪取する。
足柄「スキュア……最初からこっちが狙いだったってわけね」
醤油瓶前へ。ビショップ(ターメリックパウダーの容器)が醤油瓶を攻撃。
足柄「そう。あの提督……この辺の一件には関わってないのね。だったらこの先どうなるのかしらね、ちょっと予想がつかないわ」
ターメリックパウダーにナイト(めんつゆ)が反撃。追い詰められながらも反撃の手を練っていく。
・・・・
雪風「めんつゆ強いですね〜」
ヒットアンドアウェイで攻めつつ逃げつつを繰り返し奮闘するめんつゆ。互いの駒も減りエンディング(終盤戦)のようだ。
雪風「でも、負けませんよ。えいっ」
数少ない生き残った駒の中では最強格のウェイパー缶がめんつゆに襲いかかる。前進しパルメザンチーズと向き合う七味唐辛子。
ウェイパー缶が動いて七味唐辛子の移動範囲を狭める。
足柄「あー……これは降参ね。でも、これだと不思議と負けても悔しくないわね」
磯風「む、終わったか。ほらさっさとよこせ哀」
提督「いや、この実験にはもっと多くのデータが必要だ。足柄、雪風ともう一局やってみてくれないか?」
足柄(……予想に反して得られたものがまるでない気がするけど、なんか面白かったしよしとするわ)
531 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/07/01(水) 01:59:08.91 ID:+umRnLwh0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~65/100)
・足柄の経験値+3(現在値25)
・皐月の経験値+1(現在値11)
・雪風の経験値+1(現在値10)
・翔鶴の経験値+1(現在値15)
・響の現在経験値:13
・金剛の現在経験値:21
----------------------------------------------------------------------
一つ学びました。やっぱ二週間に一度ペースじゃないと無理だこれ
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【65-70/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
01〜19:雪風
20〜36:翔鶴
37〜49:金剛
50〜68:響
69〜79:足柄
80〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
532 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:00:41.09 ID:pOQXKEGLO
こんなスレあったんだ
533 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:00:48.08 ID:HM+lasYFO
あい
534 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:00:53.01 ID:RAYxUuD8O
ほい
535 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:00:58.06 ID:gdV/Fzv5O
あ
536 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:01:03.02 ID:8oGB2qhgO
あ
537 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 09:15:41.28 ID:Gt9j1JdAO
ナニコレ……
538 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/07/01(水) 11:24:36.02 ID:CketLj9BO
>>532-536
より
・雪風5レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:26 なので『Phase C』は発生しません)
・雪風5レス
で『Phase B』が進行していきます。
・雪風5レス
え、なんすかこれ……。
運命のいたずらなのか幸運の女神のキスなのか分かりませんがとりあえず次回はこれで行きます。
コンマでやってると何の前触れもなく突然荒ぶるのが怖いっすね。
////チラシの裏////
6月は初めてランカー争いに参加したんですけど、いやー厳しいですね。
6/30 15:00時点で520位ぐらいで、そっからボーキが尽きるまで5-4回しまくりましたが多分圏外って感じですねー。
修羅の国サーバーは伊達じゃないっすわ……。
結果はどうあれなかなか面白かったですね。本当に最終日は追い詰められてて、たかが200のボーキサイトを得るためだけに
普段やらない水上反撃部隊任務をやってみたりしてました(そのぐらい資源を枯渇させながら回してました)。
圏外でも悔いはないですね〜。6月月初にLv50だった葛城も90超えましたし、戦力増強には繋がったかなと。
さすがに今月はやりませんがね。夏イベに備えねば……。
539 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/04(土) 13:33:01.97 ID:7v6ils6Zo
乙です、さすが雪風
チェスの駒がシュールすぎるw
540 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/07/13(月) 00:31:10.83 ID:cXeKzc1N0
周期的に大体この辺のタイミングで投下する頃合なんですけど、まだ書き切れてないんでもうちょっと待ってくだしあ。
数日後には投下出来るとよいのですが……先々週ぐらいからわりとデスマーチ気味なんでびみょいです。
自分の中でわりとエンジンかかってきたので、時間さえあればなんとかなると思うんですけどねー。
そんなわけで近日中に投下できたらと思っています。思っているだけですが一応頑張ります。
////チラシの裏////
今更なんですけど、すっげー今更なんですけど。
熊野って改になると航巡になるじゃないっすか。
出撃時に「重巡熊野、推参いたします!」って言うじゃないですか。
今まで何の疑問も持たずに聞いてた台詞の一つですけど……お前重巡じゃないじゃないか!
いや、単に改装後の追加ボイスが実装されてないだけなのは分かってますけど(ちなみに鈴谷改も重巡を自称しています)。
自分の中では衝撃の事実でしたね。
なんてったって98レベルにもなってようやく気がついたんですからね。
コペルニクス的転回級の衝撃ですよ(?)
あるいは……重巡とは心のあり方なのかもしれませんね。
航巡になってなお『重巡洋艦の良いところ』を忘れない。そういう意識が彼女たちにはあるのでしょう。
バカなこと言ってないで寝ます。
541 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/13(月) 00:45:23.89 ID:nY80rdIdO
追いついたのは良いが我が嫁が出ている一周目に出遅れてしまった…
ガッデム
542 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/07/21(火) 01:58:03.23 ID:C4qVFItR0
皆さんにとって近日中とはどのぐらいの長さでしょうか。
私は大体「4〜5日ぐらいでなんとかします」のニュアンスだと思ってます。
(ちなみに数日中だと2〜3日の長さです。完全に個人的な尺度ですけど)
……近日中に投下すると言ってから既に7日が経過しておりますが。
申し訳は聞き飽きたと思いますが申し訳ありません。
本日中の投稿を約束いたしますゆえご容赦くださいハイ。
543 :
【66/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 21:34:36.35 ID:C4qVFItR0
チェスを続ける雪風と足柄。数十分間に渡る激論の末、不満気に退室していく磯風。
提督「やれやれ……巻き込んですまなかったな足柄。お前のおかげで難を逃れることができた」
雪風「でも、どうしてここに来たんですか? しれぇにご用とか?」
提督「司令ではないと言っているだろうに。足柄、お前は確か大淀のところで働いていると聞いたが……贈収賄事件にでも絡んでいるのか?」
足柄「ええ、そうよ。でもその件についての情報はもういいわ、どうにかなりそうだし。それよりも大本営についての話と横須賀鎮守府に関する話を聞きたいわね」
提督「それだけでは漠然としすぎていて返答に困るが……。贈収賄事件に絡めて話すなら、引き鉄は横須賀のによって引き起こされたと考えて間違いないだろうな。
意図は知らんが奴は艦娘を自分の鎮守府から引き離したくないと思っている。だが大本営は当然それを許さない。ゆえに横須賀が罠を仕掛けた、というところだろう」
足柄「(あら、案外親切に話してくれるのね)……あなたはそのことについてどう思ってるの?」
提督「横須賀が悪あがきをしたところで時代の趨勢は覆らんよ。確かにまだまだ艦娘はこの世界に必要だ。失うには惜しすぎる価値があることは認めよう。
だが……その力は争いのために用いられるべきではない。深海棲艦も俺たちが戦っていた頃の半数も残っていないわけだしな……」
提督「ただ……大本営の苛烈な規制っぷりにも裏があるような気はしなくもない。呉や横須賀から力を失わせたいなら時間をかけて緩やかに首を絞めていくべきだしな。
急ぎ軍縮を進めなければならん事情でも抱えているのかもしれん。表向きな関わりはもう絶ってしまったゆえ俺の方も詳しくは知ることは出来んが」
足柄「(なるほどね。そこいら辺は大淀に会えば何か分かるかもしれないわね)ごめんなさい。電話出るわね」 プルルルル……ピッ
足柄「もしもし、清霜? しょうがないじゃないアンタ爆睡してたんだから。起こす方が酷だと思ったのよ。……帰りにプリン買っていくから、それで許してちょうだい」
足柄「怒りのクレームをいただいたのでそろそろ帰るわね。また会いましょう?」 スマートフォンをしまいそそくさと帰り支度をする
提督「あぁ。久々に懐かしい顔が見れたな……縁があれば、また会おうか」
・・・・
廊下を歩く雪風と足柄。
足柄「……だいぶ、変わったんじゃないかしら」
雪風「?」
足柄「提督よ。随分丸くなったと思わない? 門前払いされると思ってたわ」
雪風「そうですね……。プレッシャーや責任から解放されたのもあるかもしれませんね。足柄さんは想像つかないかもしれないですけど、最近はよく笑うんですよ」
足柄「意外だけど……ま、そうね。なんだか安心したわ。あの提督、独りのまま放っておくとどんどん捻じ曲がっていきそうなんだもの。アンタが居るうちは平気そうね」
ポンポンと雪風の頭を撫でる足柄。
足柄「さって! そっちも頑張ってるみたいだし! 私も負けてられないわね。それじゃ、またね」
・・・・
散らかった調味料を片付けている提督。
提督「戻ったか。足柄とどんな話をしていたんだ?」
雪風「しれ……じゃない、所長ってちょっと変わりましたよねって」
提督(変わった? 俺が……? どちらかといえば雪風の方が変わったような気がするがな。物怖じしなくなったし、少し大人びた雰囲気がするようになった)
提督「変わったと言われても自覚はないな。それは客観的にみて俺の中のなにがしかが改善されたということか? あるいはその逆か?」
雪風「ええと、その……どうなんでしょう。分かりません」
提督「なんだそれは」
雪風「昔は昔でカッコよかったというか……響と組んで作戦を練っていた姿とか、遠巻きに見ててすごく尊敬してました。でも、ちょっと近寄り辛かったかなって。
今は、こうして理由もなく雪風と話してくれるじゃないですか。それに、なんだか優しくなったなって思うんです!」
提督「格好いいだとか優しいだとか、お前の基準はよく分からんな……褒めてもらえるのは有難いが。だが、俺が優しいと思っているならそれは勘違いだ。
俺は自分の望みを果たすためだけに生きている。他者がどうなろうと知ったことではないさ」
雪風「またまたぁ〜」 少し馴れ馴れしい、腐れ縁の友人に話しかけるかのような口調
提督「またまたではない」
提督「ま……思うところがないわけではないさ。俺を生んだこの世界の情景を目に焼きつけておきたい。二度と戻ることはないのだからな」
提督の発言に少し物憂げな表情を見せる雪風。
雪風「……雪風は、こうしてもっとしれえと一緒に居られたらって思ってます。提督と艦娘という関係だったあの頃とも違う。
平穏だけど、退屈じゃなくて……。あたし、今が一番幸せに感じます。もっとこの幸せが続いたらって、そう思うんです!」
調味料を片付け終えた提督はソファに腰掛ると、無言のまま思考に耽ってしまう。
その様子を見た雪風も提督の隣にちょこんと座り、考え事を始めたようだ。
544 :
【67/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 21:58:05.04 ID:C4qVFItR0
研究所の屋上から雲一つない蒼い空を眺めている提督。片膝を立て、もう片方の足はぶらんと宙に投げ出している。
雪風「所長! こんな所に居たんですね! 探しましたよ!」
提督「あいつを見送ってやろうかと思ってな」
“あいつ”とはカプセル型宇宙船『アリバトロース』のことである。
最初は提督の趣味で神話にちなんだ名前をつけていたのだが、膨大な量の発明品やプロジェクトの一つ一つに名前を付けていたのではそれだけで大仕事になってしまう。
仕方がないので繋に機械的に名付けてもらい、今回打ち上げられる使い捨ての実験用無人宇宙船には『アリバトロース』という名前が付いたのであった。
ちなみに、『アリバトロース』とはアホウドリのことだ。
雪風「せっかく打ち上げるのに所長がいなくてどうするんですか! 職員の皆さんが心配してましたよ!」
この研究所には艦娘というものが具体的にどういうものなのかさえ知らないような職員が少なからず在籍している。
当然提督が単身で宇宙に向かおうとしていることや、ここがかつて対深海棲艦攻略のための拠点である鎮守府だったということなど、雪風や磯風以外には誰一人として知りもしないことである。
職員たちからすればこの研究所の所長はほとんどの経歴が不明で多くを語りたがらず、元艦娘の少女とばかり喋っている気味の悪い人物であった。
自分の計画を邪魔されずに進めたい提督にとってこれはかえって好都合であったため、意図的に雪風や磯風以外とは会わないようにしているらしい。
提督「お前か磯風が居ればとりあえず問題なかろう。何が心配だと言うんだ」
不遜だが理知的な磯風や愛嬌があって素直な雪風は、職員たちから好かれていた。
見た目こそ年端も行かない十代の少女だが、(一般人からすれば)中身は大人顔負けの大天才であり、彼女たち二人が居れば万事が丸く収まるのが常であった。
雪風「どうしてそんなに一人で宇宙に行くことに拘るんですか。やっぱり納得行きませんよー」 少し冗談めかした口調で伝える本音
提督「一人じゃないさ。俺には兄さんがいる。お前にとってはただの人工知能なのかもしれないが、俺にとってはかけがえのない兄だ」
雪風「所長はどうしてお兄さんと一緒に居ることに拘るんですか? その、雪風じゃどうしてダメなんでしょうか」
提督「お前には世話になったしな……昔話ぐらいしてやってもいいか。この実験が終わったら、次はいよいよ俺もこの星を離れるわけだしな」
・・・・
提督「くだらん身の上話になるが……俺は生まれた時から親がいなかった。それもそのはずだ、DNA操作によって生み出された強化人間なんだからな。
『デザインチャイルド』計画なんて名前のプロジェクトだったかな……なにぶんガキの頃だったから、よく憶えてないな」
雪風(くだらない身の上話で済まされるスケールじゃないんですけど……)
提督「元々は艦娘に代わる人間兵器を生み出そうという計画だったらしい。そっちの方は実現性が低くて計画倒れで終わったようだが。
……数十年前の話だからな。そういうことが罷り通ってしまうぐらいには追い詰められていた情勢なのはお前も分かるだろう。
『デザインチャイルド』計画で目的とされたのは、艦娘を率いて深海棲艦を討ち滅ぼすことの出来る頭脳を持った超人だ。
ま、そういう意味では数十年越しに計画を達成したということになるらしいが……どうでもいいことだな」
提督「俺は自分の生まれた研究所で十数年の時を過ごした。外には出られず、研究所の中しか自由に歩き回れなかったから本当に退屈だったよ。
いよいよ俺も提督として鎮守府に着任する……という折に起こったのが未曾有の大災害『アケラーレ』」
『アケラーレ』――今から十三年前に起こった大規模な暴風雨である。
一年を通じて吹き荒れ続けたこの大嵐によって地上の施設は徹底的に破壊し尽くされ、国民の92%は地下都市に退避。
十数年かけてようやく復興を遂げたものの、今なお内陸の村落地区にはその爪痕が残っていて、復興が待たれている状態だ。
提督「『アケラーレ』によって俺の居た研究所を含め都市一帯が壊滅状態。研究員はみな逃げおおせたらしく、俺一人だけが取り残された。
廃墟と化した研究所内の中で兄さんと出会い、ともに過ごすことになる。兄さんは俺に機器のメンテナンスを頼み、代わりに俺は周辺の地形情報や生活のための知恵を得る。
その情報をもとに開拓、開墾、耕作……生きる為に色々なことをやったさ。稲作・畑作・菌床栽培……さすがに牧畜はやれなかったが。
荒れ果て人が去った地上での生活は俺にとっては心地のいいものだったよ」
雪風(この人わりと牧場経営の才能とかありそう)
提督「……と、話が逸れた。そんなわけで四〜五年廃研究所で過ごしてたら人間どもが地上に現れ出して、研究所も取り壊しになった。
俺は兄さんの基本情報だけを記憶媒体に残して研究所を離れ、それから暫くは軍の工場で勤務しながら秘密裡に兄さんの情報を復元するための装置を開発。
その頃には俺がデザインチャイルドの末裔であることを知る者は誰一人として残っていなかったようだし、なるべく目立たないようにしていたのだが……。
一年ほど前に軍のお偉方に引き抜かれ、好きにやらせてもらう代わりに雇われ提督としてここ佐世保の地に着任したと。そんな経緯になるな」
エンジンの轟音がする、『アリバトロース』が空に向かって真っ直ぐ突き進んでいく。提督は立ち上がり空を見上げる。
提督「俺のこれまでのいきさつはこの通りだ。さて、質問に答えよう。さっきも言った通り、俺は強化人間だ。
普通の人間とは決定的に違う……人ならざる者に生まれたのなら、その理由を確かめたい。なぜただの人間に生まれることが出来なかったのか、なぜ俺でなければならなかったのか。
どこまでが遺伝子操作によって“作られた”俺で、どこからが俺の自我なのか……? 湧き上がる懐疑と好奇心を抑えることが出来ない」
提督「しかし、この世界はそれを望まない。人の世は秩序を求めているし、そうあるべきだ。だから俺は人の住まう地球を離れ、全てが赦される自分の箱庭を創るんだ。
そうして生命とは何なのか、自分とは何なのか、真理とは何であるかを究明したい」
雪風「そんな風には思いません。所長には所長なりの考えがあるんだなって分かって少し安心しました。正直、そこまで言われるともうなんとも言えないって感じです」
提督「理屈で片付けられる情動ではないのだと思う。納得したいんだよ。この知性が、この感情が、この意志が本物の俺の物であるかということを」
雪風には提督の言っていることは分かったが、彼がどんな感情を抱いているかを理解することは出来なかった。
けれど、彼が何かしらの“納得”を手に入れるまではその有様を見届けていたいと想った。
545 :
【68/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 22:04:47.25 ID:C4qVFItR0
提督「足柄のやつ、どうにも上手くやれたみたいだな」
ノートパソコンを開き、ニュースサイトを眺めている提督。「贈収賄事件の真犯人現る!」という見出しが躍っている。
雪風「あー。でも、横須賀の提督が捕まったわけじゃないんですねー」
提督「そりゃそうだろう。こういうので真っ先に標的になるのは実行犯だ。もっとも……黒幕の方もそう長くは持たんだろうがな。既に捜査の手が伸びてるんじゃないか?」
『ちょっといいかい、少し真面目な話がしたい。地下室まで来てもらえるかな。かつての執務室地下と言えば分かりやすいかな』 提督のPCに繋からのメッセージが届く
・・・・
提督「“鎮守府”でなくなってからはここもめっきり使わなくなったな、一応壊さずにそのまま残しておいたのだが……」
雪風「今更ですけど、秘密基地みたいでカッコいいですよね!」
繋に促され、両眼を覆うヘッドマウントディスプレイを装着する提督と雪風。
繋「わざわざ呼び出してすまないね。こうでもしないと直接話が出来ないもんでね」
提督(脳波を読み取られるのはあまり好きじゃないんだがな……思考が筒抜けなのは不快だ)
繋「まあまあそう言わずに。僕にとってはこの部屋が一番都合が良いんですから」
提督(言ってないんだがな……)
雪風「わざわざこの部屋に呼び出すってことは、重要な話なんですよね……?」
繋「そうなるね……磯風さんに関する話なんだけれども。彼女、大本営から来たと言っているけれど……彼女は大本営直属の艦娘じゃないみたいだ。
色々気になることがあって大本営の名簿データベースを(無断で)覗かせてもらったんだけれども……磯風なんて名前の艦娘はどこの部にも所属していないんだ」
繋「で、それだけならまだ良いんだ。ミステリアスな一面はあれど、彼女は僕たちの為に動いてくれているからね」
提督(良くないだろう)
繋「ただ『磯風』という単語を追って検索をかけていたら、面白い情報……いや、面白くない重大な情報を見つけてしまったんだ。磯風さんと直接の関係があるかは分からないけど」
繋「大本営は深海棲艦の残党に呉や横須賀の作戦情報を漏らしてるようだ、意図的にね」
提督「なんだと? MI作戦の本土強襲も、自作自演だったと?」
繋「いいや、それは違う。MIの一件は大本営からの作戦を各鎮守府の提督らがどこかで漏らしてしまったのが原因なようだ。だが今回は……その事例に倣って故意に行っているらしい」
提督「何が目的なんだ? そんなことをして何の意味がある……? 横須賀や呉と敵対関係にあるとはいえ、そんな理由で許されるような行為じゃない。大本営がそこまで愚かなはずはない」
繋「ほとんどのデータが抹消されていて、詳しい情報は分からなかったんだけど……」
『AK-クラス:████████シナリオ』
提督と雪風の眼前にテキストが表示される。
繋「このAK-クラスが、そして████████シナリオが何を意味するのかは分からない、しかし……。大本営は艦娘という存在がこの世界の存亡に関わるレベルで危険な存在だと認識しているらしい。
警戒の仕方から察するに……横須賀や呉鎮守府の提督が造反する危険性への対策、というだけではない事情があると考えていいと想う。」
提督「磯風に話を聞いてみる必要はありそうだな……」
雪風(なんかよく分からないけど……大変なことになっちゃいました)
繋「哀君。ひょっとすると、これで今生の別れになるかもしれないから伝えておく。……本気で磯風さんと事を構えるになったら僕に勝てる道理はないからね。
君は人の為に生きるべきだ。人と生きる中で幸せを見出して欲しい。それは、僕のような人工知能には出来ないことだからね」
提督「お断りだ……俺はいつだって俺のために生きるだけだし、俺は幸せになるために生きているわけじゃない。あと、縁起でもないことを言うもんじゃあないぜ」
繋「ハハ、言うと思ったけど……雪風ちゃん。哀君のこと、よろしく頼むよ」
・・・・
磯風の部屋を訪れた提督と雪風。
磯風「フフフ……そっちから尋ねて来るなんて珍しいじゃないか。良いぞ、たまにはゆっくり話でも……」
提督「そうだな。『AK-クラスのシナリオ』とは何を意味するのか……是非聞かせてもらいたいものだな」
はぁ、と残念そうな顔を浮かべて溜息をつく磯風。
磯風「繋、か。……完全ではないとはいえ、大本営のデータベースに潜り込むとは大したものだな。そうか……」
椅子に腰掛け、頭上を見上げる磯風。意識はどこかに離散しているようで、目の焦点は合っていなかった。その様子は普段の理知的で不敵な磯風とは正反対に、くたびれた老人のようだった。
磯風「はは、は……。せめてもの罪を滅ぼそうとして……それで、このざまか。何もかも、裏目だな。分かった、話そう。話すとしよう」
磯風「私の目的は……『全ての深海棲艦を滅ぼし、全ての艦娘を滅ぼすこと』だ」
546 :
【69/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 22:30:36.15 ID:C4qVFItR0
磯風「もうじき……そう間もなくだ。艦娘同士での争いが始まる。お互いがお互いを憎しみ合い、破壊し合うようになる。
そうして艦娘はこの世界を去り、再び二千年の時を待つ。私たち艦娘は人の為に生きて、人の為に死ぬ……! それが艦娘に隠された最後の真実だ。
君が深海棲艦をMIで打ち破って、新たな深海棲艦が現れることが無くなってからもうカウントダウンは始まっていたんだ。そしてタイムリミットは近い」
驚きに目を丸くする雪風。提督の方を見遣ると、彼にとっても意外だったようで考え込んでしまっているようだ。
雪風「それってつまり……? 私と磯風さんが戦うってことですか? 全然想像出来ないんですけど……」
磯風「今はまだな。“そうなってしまった”なら全て手遅れなんだよ。いや、もう既に手遅れか。解体された旧鎮守府の艦娘はどうにかなっても、横須賀や呉の連中はみな助からんだろう」
提督「待て。深海棲艦が滅んだ後に艦娘同士で争いを始めるなんて聞いたことないぞ?」
磯風「そうだろうな。繋のデータベースの中にはこの情報は入っていないし、大本営でも知っている者はごく僅かだ。だが、これは事実だ」
提督「事実だと言われて信じられるような内容じゃないな。それがお前の妄想でないという証拠を提示出来るのか?」
磯風「残念ながら現時点では不可能だ。
しかし、なら逆に聞くが、ここの職員連中に私たち元艦娘が深海から現れた異形の化物どもと戦っていたと説明したところでそれを想像出来ると思うか。そういうことだよ」
提督「……では、仮にそれが未来に起こる真実だとして、深海棲艦の残党はどうなる?それに完全なる復興にはまだまだ艦娘の力が必要だ。
艦娘の頭脳や労働力を失うには惜しすぎると思わないか? 早計すぎるだろう」
磯風「艦娘はもう、その役目を終えたんだ。だから滅ばなくてはならない……滅びなくてはならない」
磯風「それだけ残り時間はもう無いということだ。既に最善手を打った上で、その果てに今がある、もう形振り構ってはいられない。
深海の残党を一網打尽にするにしてもやはりこのやり方が一番いい。向こうにとってもここで勝負に出なければジリ貧だからな。……我ながら最低の策だと思うが」
磯風「君は艦娘はこの世界に艦娘は必要だと言っていたな……『戦うためじゃなく、より人の世を豊かにするために』と。違うんだよ。
艦娘にそんな未来は用意されていないんだ。役目を終えたら消え失せる……これが艦娘の宿命だ」
諦観。椅子にもたれかかり、全ての体重を預ける磯風。生気のない抜け殻のようだ。
提督「ならばなぜ黙っていた。なぜ今まで俺にその話をしなかった?」
磯風「MIで君が深海棲艦の命脈を絶っていなければ、私たちは手詰まりになっていただろう。
もしあの戦いで我々が敗北していたなら、主要な拠点は横須賀・舞鶴鎮守府のみになる。そんな状況で国防など出来るはずがない。
君が有能であればこそ、この話をするわけにはいかなかった。躊躇なく深海棲艦を討ってもらわねばならなかった」
提督「だが、その後は? 何のためにお前はここにやってきたんだ。俺の下働きをするために来たとでも? 笑わせるな」
磯風「……そうだ。その通りだ。君には関わって欲しくなかった。君がこの話を聞いたら絶対に艦娘を救うために動いてくれるだろうと思っていた。
そう推測していたからこそ関わって欲しくなかった。どう足掻いても助かる術など無いのだから、願わくば知らないままでいて欲しかった。
そうしてそのまま自分の目的の為だけに突き進んでいて欲しかった。それに……」
磯風「きっと君はデザインチャイルド計画の生き残りなんだろう? それも最後に生まれた一人。
デザインチャイルドは高く発達した頭脳によって、私たち艦娘さえも凌ぐ思考力・情報処理能力を発揮することが出来る。
だが、それゆえに考え過ぎてしまう、自ら命を絶ってしまうんだ。考えることを放棄できない性質ゆえに精神がやられて耐え切れなくなってしまう」
磯風「君は最も辛い運命を背負って生まれてきてしまった哀しい子だ。かけられた呪いを呪いであると自覚することさえ出来ない……。
だからこそ償いたかった。せめて、君にとっての希望ぐらいは叶えて欲しかった。私たち艦娘のことなど気にかけて欲しくなかった」
提督「勝手に生んでおいて哀れむな。自覚はあるさ……『決して絶望することが出来ない』のだろう。
『自ら命を絶つことも出来ない』し『自ら命を絶とうと望むことさえ出来ない』んだろう? 上等じゃないか。俺はアンタの成功作だろう」
磯風「この世界は抗いようのないものに満ちている。再現なく理想を望めばいつか限界が来る。
それを思い知ることが出来ない君はいつかやがて破滅的な結末を迎える……そう分かっていて君を創ってしまった。そうせざるを得なかった」 独り言のように呟く
提督「アンタがどういう人生を送ってきたかは知らないが……失望させないでくれ。俺を創った親だと言うのならもう少し子に似ていてくれよ、なあ?
俺は今アンタが親だと知って喜んでいるんだ。俺が生まれた元凶と対峙出来るなんて想像もしてなかったからな。胸が高鳴っているんだよ、失望させないでくれよ」
怒っているとも笑っているともつかないような様子で奥歯を噛み締めながら話す提督。興奮気味の提督を見て、目を疑う雪風。当然こんな姿は今まで見たことがなかった。
雪風(司令でも所長でもなく……これが、『手取 哀』本来の姿。この人の本質……)
司令としての仮面・所長としての仮面……合理的で冷静、無感情で無感動。その仮面の裏にはめまぐるしいほどの激情が動いていることを思い知った。
提督「雪風! 兄さんに全ての艦娘を収容することが出来るような設計に変更することは可能かを訊いてくれ」
磯風「何を……!?」
提督「艦娘の行動原理は“人間のため”だ。だから艦娘がお互いを破壊し合うというのも“人間のため”というやつなのだろう。
対象となる人間のいない世界でなら生き残る道があるかもしれない。あくまで可能性の話だが……今のシナリオよりはずっといい」
提督「第一、だ。『過去の全てが失敗例だった。だから艦娘は救う道がない』……そもそもその前提は正しいか?
深海棲艦と艦娘の戦いが2000年に一度欠かすことなく繰り広げられてきたのであれば、最多でもせいぜい百数十回か。
元提督を舐めてもらっては困るな。提督というのは、幾百幾千幾万と同じことを繰り返すものだ。百回や二百回の失敗など誤差の範疇だろう。
歴史とはそういうものではないのか? 過去を受け継いだ上で更なる理想へと近づけていくことこそが未来に生まれた者の使命だろう」
提督「では改めて……力を貸してもらおうか、磯風。俺に考えがある。俺と兄さんならば、お前にとっての絶望さえ超えられる」
547 :
【70/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 22:31:47.16 ID:C4qVFItR0
提督「やっぱり杞憂だったじゃないか。なーにが『これで今生の別れになるかも』だ」
雪風(磯風さんと話をしてから数日後。司令は以前よりも素の口調になることが増えた気がします)
『あんまからかわないでくださいよ……あの段階じゃ磯風さんが何を考えているんだか分からなかったんですから。
そんなことより大胆な仕様変更のせいで頭がフットーしそうですよ全く』
『ま、嬉しいんですけどね。やっぱり君は僕に対して無茶苦茶な要求してくる時が一番輝いていますよ。
……口では尖った事を言っていても、やっぱり哀君は優しい子ですね』
繋に対し『減らず口を叩いている暇があったら作業を進めろ』と返信する提督。
雪風(繋お兄さんは設計・開発のための作業に追われています。本人曰くフル稼働で手一杯らしいですが、そのわりには余裕そうな口振りで安心します)
提督「やれやれ……いつまでもガキ扱いされていてはかなわん」
提督「しかし残された時間が少ないな。それに、不確定要素が多すぎる。呉と横須賀が深海棲艦の残党とぶつかる……これはまあ避けられないだろう。
深海棲艦を残したまま地上を去るわけにはいかんしな。情報を漏らしてあるのを逆手に取って立ち回れば倒すこと自体は出来ると思うが……奴らが大本営の言うことなんか聞くだろうか?
今にも反旗を翻しかねないぐらいの不穏っぷりだしな……宇宙船に連れ出すのも含めてどうやって説得するかが悩みどころだな」
提督「そのままこちらの意図を伝えたところで絶対信用されないだろうしな……上手い事丸め込められる口実が欲しいところだ」 珈琲を口に運ぶ提督
磯風「司令よ。言われた通り旧佐世保鎮守府の者たちには電報を送っておいたぞ。他の旧鎮守府・泊地在籍だった艦娘への伝達はもう少しかかりそうだ」
雪風(磯風さんは司令のことを“君”や“哀”ではなく“司令”と呼ぶようになりました。
数日前のあの後にどんな会話を交わしたのかは分かりませんが、司令のことを心から信じているようです)
提督「ご苦労。さて、どれだけ集まるか……そしてどれだけの者が話をまともに聞いてくれるかだな。期待は出来ないが……やらないよりはマシか。
一段落着いたら呉や横須賀に出向く準備もせにゃならんな……ハァ、憂鬱だ」
雪風(司令も大変そうです。ちゃんと寝てるのかなあ)
・・・・
提督「『アリバトロース』型の設計を基盤にするとはいえ、開発コストや安全面に難があるしな……時間さえあれば解決する問題なんだが……。
それに、一人しか搭乗しない設計だったものを大人数収容用に変えるとなるとそれだけで厄介だというに、方々に散り散りになった艦娘をどうやって集める?
磯風の話ではもう一ヶ月ほどの猶予しか残されていないそうだが……実に難局だ」
独り言を呟きながら、コポコポとポットの珈琲をカップに注いでいる。
雪風「しれぇ……また徹夜ですか。っていうか、晩御飯食べました?」
提督「ン、夜か。もう夜になっていたか……どうやら完全に昼夜の感覚を失ってしまったらしい。飯ならさっき食べたし、今日はもう寝るよ。
さすがにこの物量相手じゃ適度に寝ないと身が持たん」
雪風「寝ないとって言いながらコーヒー飲むんですね……」
提督「ン? ああ、これはカフェ・ロワイヤルだよ。ブランデーを染み込ませた角砂糖をスプーンの上に乗せ……」
パチリと電気を消し、角砂糖に火を灯す提督。
雪風「わああっ! 何やってんですかしれえ!?」 驚き仰け反る雪風。
提督「火の熱で溶けたカラメルをコーヒーに混ぜて飲む……。どうだ、洒落てるだろう?」
雪風「ほぇぇ……そういえば司令はお酒飲むとすぐ眠くなっちゃうんでしたっけ。昔、一度だけ司令が鎮守府の宴会に参加した時もすぐに酔い潰れちゃって、響に介抱されてましたよね」
提督「うむ、これは寝酒だ。かえって熟睡を損ねるらしいが……たまにやるくらい問題ないだろう」
ゆらめく炎を眺めている提督と雪風。ふと目が合うと、にこりと微笑む雪風。
雪風「しれえは、本当は優しい人なんですね。それに、本当はとても情熱的な人なんですよね?」
提督「お前まで兄さんみたいなこと言うなよ……気色悪い。前も言った通りだ、俺は俺の為に生きているだけだ。(それと、情熱的とは一体……? こいつは何を見てそう判断したんだか)」
雪風「でも、結局こうしてあたしや他の艦娘のために動いてるじゃないですか」
提督「結果的には、な。実のところ俺にもよく分からん。だが、『お前たちのため』だと思って行動しているわけじゃないさ。そんな感情は微塵もない。お前たちになど興味もないさ」
提督「ただ……似てるんだ、俺と。この世界に必要とされなくなった者がどうするのか、どうなるのか……どういう結末を辿るべきなのか。そこが少し気になっただけだ」
雪風「それでも。雪風は嬉しいですよ。司令と一緒に居れること、すっごく嬉しいです」
雪風がそう言い終えた直後にパチッと電気を点ける提督。まだわずかに火は残っていたが、構わずコーヒーの海の中に沈めて掻き混ぜる。
提督「さてと、明日も早い。お前もそろそろ寝るといい。俺もこれを飲み干したら寝るしな」
雪風(照れ隠し……?)
提督「? どうした雪風。半笑いでこっちを見るのをやめてくれないか、不気味だ。そしてそこの柱の陰に隠れている磯風は何がしたいんだ」
磯風「チッ、ばれてしまっては仕方ないな……」
提督(ま、あるいは……こういうのも悪くないのかもしれんな……)
548 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 22:34:08.43 ID:C4qVFItR0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~70/100)
・雪風の経験値+10(現在値20)
・足柄の現在経験値:25
・金剛の現在経験値:21
・翔鶴の現在経験値:15
・響の現在経験値:13
・皐月の現在経験値:11
----------------------------------------------------------------------
投稿が遅れてしまったことを改めてお詫び申し上げます。
うーん、ここまで大幅に伸びるとは思いませんでした。
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【-75/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
////ノートから千切った1ページ的なやつ////
連休中に起こったしょうもない出来事について書くか、作品に関する小ネタを書くかで迷いましたが後者で。
……今回は遅刻しちゃったので多少マジメに行こうかなと。
遅れた理由は単にサボっていたというわけではなくですね……。
まあリアルが忙しかったのもありますが、それよりも四回ぐらい書き直ししたせいですね。
提督がアレだとか艦娘がソレだとかほにゃららがほにゃららだとかは予め決めてた内容ではあったんですけど、なんか珍しく難産でしたねー。
例によって思わせぶりなわりにそれっぽいだけで特に関係ない系の単語が出てきますが、ちょっと今回は解説入れます。
『デザインチャイルド』の元ネタは蒼き鋼のアルペジオですね。DNA操作で生み出された存在で、驚異的な思考能力を持ち……って感じなんでわりとそのまんまです。
もちろん、都合よく引っ張ってきてるだけなので似たようなものであっても完全なイコールではないです。アルペジオの二次創作というわけではないんで……。
アルペジオの漫画を読む前から似たような設定は考えてましたが、結構ピンと来たのでそのまま連れてきました。
ええと……提督がホムンクルス的・ニュータイプ的存在だったという設定は実は最初からあったのですが、ぶっちゃけそんなん語らんでも良いかなーとか思ってたので意図的に伏せてました。
ただ、そろそろ言及しないと彼の目的や今後の動きが見えないかなーとか思って明かしてしまいました。
なんかこう、提督にいっぱい設定とか過去の経緯とかがくっついてると、胃痙攣を起こしそうになるというか、「ぼくのかんがえたさいきょうのなにがし」みたいな感じでアレというか……。
メアリー・スーなんじゃねーかと思ってちょっと避けてた節はありますねー。そんなものよりも艦娘の方を魅力的に描けって話ですからねぇ。
さりとて何の説得力もなくただなんとなく艦娘から好意を向けられまくっておモテになられる提督もエロ同人ならともかくわざわざSSで読みたいかっつーと……。
提督と艦娘との絡みもまた艦これ系の二次創作の魅力(だと個人的に思っている)ので、
提督について詳しく書くことで提督と艦娘とのやり取りに繋がるなら書いても良いんじゃないかなーとか思ったり。
どうなんでしょうねー、正直自分でもこうやれば正しいのではっていうのが見つけられてないんでアレですが。
オリキャラありきの文化って珍しいですよねー。もちろん必ずしも提督は必要ってわけじゃありませんけど……。
それから、見覚えのある黒塗りはアレですね。分かる人には分かると思いますがSCPネタですね。
アレもアレで厳しい戒律(?)の上に成り立ってる文化なので、例によって名前だけ取ってきただけです(そもそもこの作品とは世界観が違いすぎる)。
あれはあれで独自のユニークな世界観があるものなので、それを侵害する意図はありませんと明記しておきます。
ああ、ええと、あとあれですね。ネタの引用も難しいですね。リスペクトやオマージュのつもりでもそうでないと解釈されてしまったらそれまでですし。
節操なくネタ引っ張ってきてもカッチリとその作品の色に合致してないとサムいですしね。
神話ネタは基本的にオッケーかなと思ってちょくちょく混ぜたりしてるんですけど、あれもどうなんかなーとか悩んだり悩まなかったり。
作者目線での悩みに近いことを書いたので、だいぶ取り留めのない感じになってしまいました。
そもそもこういうことを考えてるわりに作品に活かせてるの? って訊かれたら微妙ですナ……。
でもでも、出来る限り良いモノを提供したいじゃないですか。自分で書いててつまらないと感じるものをお出しするわけにはいくまい。
またSOSOUをやらかしたら別の切り口でちょっと真面目な話をやるか没ネタに触れるかその他もろもろについて書くかします。
あ、あと全く関係ないですけど、六月作戦ランカー入りできてました。
労力に見合ってない報酬と言われればその通りですけど、やっぱり嬉しいもんですね。
また余力が出来たら挑戦してみたいですね! 俗に言う修羅の国サーバーなので次回も辛い戦いになりそうですが。
549 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:35:18.41 ID:IHVnrHK2o
乙 足柄
550 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:35:40.14 ID:u3smVTv8O
雪風
551 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:37:50.74 ID:JDopkgoAO
響
552 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:39:19.39 ID:Qcx5hgVAO
皐月
553 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:39:21.75 ID:zGF8vPIAO
雪風
554 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:39:24.40 ID:dxHd6qPcO
足柄
555 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 23:02:37.85 ID:JDopkgoAO
乙 ランカー入りおめでとうさん
まあ遺伝子操作でウンヌンカンヌンは言い出せば半世紀位前からの話だ気にするな
556 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 23:21:24.08 ID:C4qVFItR0
>>549-553
より
・足柄1レス/雪風2レス/響1レス/皐月1レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:243 なので『Phase C』は発生しません)
レス早いですね……。ちょっとイニシエダンジョンやってたらもう埋まっててビビりました。
リアルの方が落ち着いてきたので、またぼちぼち書いていきます。
遅くとも二週間以内には投稿できるかなーって見通しですです。
557 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/08/06(木) 21:01:01.49 ID:AzRC1Z2s0
『遅くとも二週間以内には投稿できるかなーって見通しです』……はい、その、あれですね。スミマセン。
いやもうほんとアレですね。書きたいのはやまやまなんですけどね。できることなら一日中書いてたいところではあるのですがね。
霞を食べて生きていくわけにもいかんので……もちろん霞というのは霞であって霞ではありませんよ。
ふざけたこと言ってないで投下予告です。~8/9までにはなんとかお出しできると思います。
なる早で頑張りますが日曜の午後とかの投下になるかもしれません。とりあえず間に合うようにはします。
////チラシの裏移設計画////
最近投下が伸び伸びになっているんで自戒の意味を込めて作者監視用のTwitterアカウントを作成しました。
Twitterって何? って人は……まあそのなんだ。あんまり気にしないでください。
https://twitter.com/sagyooh
(@sagyooh)
・基本的にこのスレと艦これに関するトピックのみ言及します
・人と仲良くするためのアカウントではありません(議論したり顔見知りのお友達とよろしくやったりするアカウントじゃないです)
・私的な日記のためのアカウントでもありません(晩ご飯の画像をアップロードしたりするようなアカウントじゃないです)
・SSを書くまでの準備運動的な位置付けで使用することがあります(補足1)
・特に理由が無い限りフォロー非推奨です。フォローされたらされたでフォローバックはしますが、ツイート内容を遡られて趣味嗜好を分析される覚悟はしてください。
・このスレの続きを楽しみに待ってくれている人のために運用するつもりです(と言えば聞こえは良いですが要は時間稼ぎって感じですね……)
*補足1
スポーツ選手が試合前に準備運動をするように、(他の物書きがそうであるかどうかは置いておいて、)
自分の場合もある程度なんかしらの雑然とした文章を打ち込んでから本題のSSを書き始めるとわりと調子がよくなるので、そういう用途で使うかもしれません。
このアカウントに関する説明の前に、ちょっとした随筆的なものを。
先に書いておきますがこれはほとんど「自分的にそう思う!」「私の中ではそういうもんなんです」って話です。あくまで私的主観。
自分の場合前時代的インターネットコミュニティ感を大事にしてるところがあってこのように匿名掲示板でSSを書いているのですよ。
(まあ発端は「こんなスレあったら面白いんでね?」ぐらいのもっと軽い気持ちで立てたってのは置いといて)
匿名であるがゆえの空気感、不特定多数の人間から来る安価で決まる混沌とした感じこそが面白いなと思っているわけで。
これをたとえばここじゃなくPixivなりなろうなりで書いてたとして、で、ツイッター上の自分のフォロワーから来たリプライで今後の展開を決める……ってえのは全然面白くねえなと。
本質的には安価を募集して次の展開を決める〜みたいな形式も上の例と同じように自分の作品を好いてくれている(あるいは興味を持っている)人間の意向で決まるって意味では近いんですけど。
ただ自分の中ではやっぱり明確に違うんですね。やっぱり、自分が匿名の存在であり相手も匿名の存在であると認識してると付き合い方は変わってくるでしょう。
ぶっちゃけて言えば誰だか分からないどうでもいい存在じゃないですか匿名ですし。でも、それでいいと思うんです。むしろ、だがそれがいいのです。
あくまで作者が創る『作品』に価値があるのであって、作者そのものには価値は無いんです。(アーティストやアイドルとしても活動してるならまた話は変わってきますが)
私個人に関する情報なんか提示する必要ないんです。匿名でいいんです。私も自分の作品に対する反応や反響だけを求めて書いてるわけですしね。
では本題に戻ってアカウントの説明。ええと、上の箇条書きは別に卑屈になっているわけではないんですね。
ただ、敢えて匿名性を保っていたいなあというポリシーがあって、そしてそのポリシーはTwitterというコミュニティの中では文化色が違うので一応説明書きしておいたと。そういう感じデス。
人に説明するだけでこんなにめんどくさいならわざわざアカウントなんてこしらえる必要ではないのでは? というのはご尤もなんですが。
いや全くその通りなんですよ! 一週間に一度ぐらいのペースで投下出来りゃあこんなもん作る必要は無かったんですよ。ただ現実問題それは実現不可能っぽいので……。
(やや自意識過剰気味ですが)次の話を心待ちにしてる人を何週間も待たせるのは心苦しいので、待ってる間も少しは楽しませることが出来たらなーという意図がありますハイ。
もちろんTwitterアカウントなんぞ所詮オプションに過ぎないので、見なくても全く問題はないです。
あんまり大事な内容は書くつもりはありませんし、仮に書いたとしてもその時はこっちにも載せますんでご安心を。
あくまで作品を書くことが主であって、その他全てはおまけです。本末の線引きはきちんとしたいと思ってます。
そんなわけで、残り最短だと25レス。長いようで短いようなどうなんだか分からないぐらいの期間になりそうですが頑張っていきたいと思います。
完結までもうしばしお付き合い願います。
558 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/08/06(木) 21:02:20.42 ID:AzRC1Z2s0
(25じゃなくて30レスですね……何はともあれよろしくお願いします)
559 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/06(木) 21:02:50.74 ID:RIEGCwVpo
乙 待ってる
560 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/06(木) 21:05:19.37 ID:tRLRVehMO
すっげえ構ってちゃんだなあ…
561 :
【71/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/09(日) 23:27:51.68 ID:l5g351Z90
提督「敬礼などよせ。俺はもうお前の上官ではないのだからな」
提督と雪風は、赤城に呼び出され彼女の道場を訪れていた。
赤城「いいえ、貴方はいつまでも私にとっての提督ですから。突然呼び出してしまって申し訳ありません」
提督「(……それでは困るのだがな)『俺に会う必要がある』と判断したんだろう? なら構わんさ、約束した通り応じよう」
赤城(提督のお顔……初めて見る……。凛々しくて素敵ですね……見惚れてしまう……)
提督「? あぁ、仮面でないのが気になるか? その話も後でしよう。何にせよ屋内に入れてくれないか。日暮れとはいえ西日が差して暑い」
・・・・
赤城「驚きました……提督は宇宙飛行士になりたかったんですね? 子供の頃の夢? とかですかっ!?」
目をキラキラさせながら食いつく赤城をあしらう提督。
提督「(こいつ、こんなにテンション高いやつだったか……?)別段そういうわけではないし、勝手にお前の脳内で俺の過去を妄想するのはやめろ。というか、話の腰を折るな」
提督「仮面で素顔を隠していたのは、そういう理由だ。退役後の動向を知られたら困る……のだったが。そこから先はさっきの話の通りだ。顔を隠す必要もなくなった」
赤城「なるほど、艦娘同士での対立……ですか。でも、それと提督が宇宙を目指していることと何の関係が?」
提督「艦娘の行動原理が“人のため”であるならば、対象となる“人”のいない世界では制約なく振舞える……と考えた。
お前が俺を呼び出した理由である元艦娘の召集の件も、元艦娘を集めて艤装ごと別の星に隔離する計画のためだ」
赤城「……! ですが、艦娘たちがそれに応じるでしょうか? それに、その計画が本当にうまくいくという確証はあるのですか……?」
提督「実のところ、うまくいくかどうかは関係ない。ひょっとしたら移住した先でも艦娘同士での戦いが起こるかもしれん。が、問題ないのだよ」
赤城「?」
提督「轟沈していなければ……人としての肉体さえ失われなければ艦娘は蘇ることが出来る。要は前と全く同じ艤装を用意してやればいいだけのこと。前例がある。
応じなかった艦娘ら同士で争いを始めようと、最終的に艤装を失った抜け殻を回収してこっちに連れてきてやればいい」
提督「とはいえ……出来ることなら穏便に済ませてやろうという腹積もりだがな。これは上官としての命令ではなく、俺個人としての依頼だが……赤城。
お前には俺のために動いてもらいたい。召集の前段階から打てる手を打っておきたいんでな。協力してくれるか」
赤城「もちろんです。この赤城……提督のために尽力します」
・・・・
赤城「よし、二航戦や五航戦の子たちには連絡しておきました。加賀さんも明日は休みそうだからその時に伝えればよし。これで今日やれることは済ませたわね……」
提督と雪風の寝室の襖をピシャーッと開ける赤城。
赤城「提督♪ お酒を用意したので晩酌でもいかがでしょうか? ……って、あれ?」
雪風「んぁ。しれぇならついさっき走り込みに行ったので、しばらく帰って来ないと思いますよ。昼間は暑くてそれどころじゃなかったから、夜やるそうで」
パジャマ姿の雪風。眠たそうな目でノートパソコンをいじっている。
赤城「あら、それは残念。……」 まじまじと雪風を見る赤城
雪風「?」
赤城「ひょっとして、提督ってそういう趣味なのかしら、と……」
雪風「あの……怒られますよ? それに、私だって見た目がこんなんなだけであってですね……」
赤城「フフッ、失礼しました。……でも、提督に相当買われてるんですね。雪風さんは提督のことをどう思ってるんですか?」
雪風「んーと、それはどういう意図で言ってますか? 質問に質問で返すようで悪いですけども」
赤城「私は、提督をお慕いしているので。貴方もそうなのかと気になるのです。
提督と心から一つになりたいと、思いませんか? 運命を共にしたいとは思いませんか?」
雪風(おぉ……。そういえば、響も司令にベタ惚れでしたね。『私は彼のことを愛している』とかなんとか)
雪風「いやぁ……そりゃあしれぇの事は好きですけど……。多分、そういう対象ではないですね……釣り合わないっていうか、なんていうか。
しれぇと一緒に居られる日常は楽しいし、いつまでも続いていて欲しいと思いますけど……そこから一線を超えるのは、なんか違うかなって思うんです」
雪風「司令が雪風の才能を認めてくれて。雪風もそれに応えたいと思うだけで。
しれぇに不要だと思われたら、そん時ゃそん時ですかねぇ。まあ、仕方ないと思ってます。そうならないように頑張るつもりですけどね!」
赤城「そう、でしたか。……でも、提督が雪風さんを傍に置いている理由が分かった気がします。考え方が結構提督に似てますよね」
雪風「えぇ……。しれぇに影響されたのかなぁ……」
・・・・
提督「……ィクシッ! 夜風は存外冷えるもんだな」
562 :
【72/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/09(日) 23:49:03.02 ID:l5g351Z90
赤城に呼び出された翌日にその足で手取提督は呉鎮守府を訪れた。井須提督とは既に話を済ませた後のようで、今は鎮守府内の客室で響と面会している。
提督「久しぶりだな。……こちらも余裕が無いので、あまり長い時間は居られんが。折角なので少し話をしに来た」
響「随分と待ったような気がするよ。もっとも、これ以上待たされるようであればこちらから引きずり出すつもりで居たが」
提督「さて本題だ。お前たち呉と横須賀の艦娘のほとんどは次回の大規模作戦に出撃する」
響「……ああ、それか。実を言うと、これから君が話そうとしている内容は比叡から既に聞いている。
赤城から話を聞いた金剛の比叡の話だから、又聞きの又聞きになるのかな? 多少歪曲しているかもしれないが」
赤城は自分の同僚である加賀や、後輩であった二航戦・五航戦、そして以前自分の下を訪れた金剛に召集に関する補足の情報を伝えた。
内容は、召集には手取提督も応じるということ、やがて艦娘同士での争いが始まるようになるということ、手取提督はそうなる前に手を打つつもりだということの三点である。
赤城からの話を聞いた金剛は、まず比叡に連絡を入れた。現役の艦娘である比叡は元艦娘の召集があるということさえ知らなかったようなので、最初にそのことから話した。
響「元艦娘の召集があり、それが行われるのは私たちが次の大規模作戦時なんだろう」
金剛は、艦娘同士の戦争が起こると比叡に伝えた。だが、比叡はそれを信じる気にはなれなかった。
所属は違えど今まで幾多の戦場を共にした者同士で争いを始めることなどあるだろうか?
たとえ実の姉の言葉であっても、何かの間違いに違いないという確信が彼女の中であった。
そう考えたからこそ、自分の抱いた疑念ごと響にそのまま伝えることにしたのだった。
響「私も比叡の意見に賛成だ。その一点だけは俄かに信じがたくてね。直接そういう事象が起こるのを目の当たりにしない限りは信用出来ない」
響「というのもだ。私は君の智慧と才気に関しては全幅の信頼を置いているが。君の立ち位置に関してはいまいち信用することが出来ないでいる。
結局のところ君は大本営の使い走りだろう? 君が動かざるを得ないのっぴきならない事情があるのではと勘繰っている」
響「そもそもだ。今の君の行動は、本当に君の意志によるものか? 純粋に君の目指しているものがそこにあるのか?
艦娘同士の争いを防ぐ術というのが具体的にどういうものかまでは分からないが、仮にそれがあったとして、君は本当にそれを成したいと思っているのか?」
響「君にとって艦娘とは何だ? 私とは何だ? 利用価値のある駒か? 守りたい存在か? 仮に私たちが争いを始めたところで、それが君の利害にどう作用する?」
提督「質問攻めだな……要点を絞ってくれ。何が聞きたい」
響「いや、回答を期待したものではない。少し興奮してしまってね。気にしないで欲しい」
響「ただ……かつての君では考えられない動きだったから、そこが少し気になった。君の行動原理が知りたいだけなんだ」
提督「そうだな。では答えよう。別に艦娘を救う救世主を気取っているわけではないし、実のところ艦娘のために動いたところで特に俺の目的とは関係ない」
提督は響に対して召集の目的は艦娘を宇宙船で別の星に移住させる計画をしていること、仮説通りならそれで艦娘同士の衝突を避けられるのかもしれないという話した。
響「そうか。君はこの地球を去ろうというのだな……その行為自体は君の望みか? それとも、それも艦娘のためなのか?」
提督「いいや。それは俺の目的だ。自分とは何者なのか? この宇宙とは何者が創ったのか? この世に生命が生まれ出づるその意味とは?
俺は自分の知識欲を満たしたい。だが、この地球は俺の欲望の容積を満たすには狭すぎる。だからここから離れて、俺が万物を理解するための『真理の箱庭』を創り出す」
響「ハッハッハッ、狂ってる……ハハッ、ァハッ! フ、フフ……。ハァ……これは驚いた。いや、見事だ。痺れたよ。流石というべきだね」
響(どうにも毒気が抜けた印象があったが……やはりこの人はナチュラルに狂っているんだな。背筋がゾクゾクする。それでこそ、だな)
提督「艦娘に関しては、正直のところついで程度にしか思っていない。
この地球に場所が用意されていないのなら、俺が用意してやろうという程度だな。強いて言うなら親切心といったところか」
響「ふふふっ、司令官からまさかそんな言葉が出てくるとは思わなんだ。ただ、そうだな。君らしい、実に君らしいな」
提督「そういうわけだ。……さて、もうじきここを離れなくてはならん」 腕時計を一瞥する提督
響「そうか。名残惜しいが仕方ない。……わざわざ私一人にこうして時間を割いたということは、力を借りに来たという解釈で合っているかな」
提督「もちろん。では解答を聞こうか」
響「さっきも言った通り、私は艦娘として比叡の意見を信じていたい。けれど……それとは関係なく、君の野望に興味を持った。協力させてもらうよ」
・・・・
呉鎮守府 艦隊会合室
比叡「手取司令と会ってきたんですねー」
響「その通り。顔に出ていたかな?」
比叡「顔には出てませんけど……その上機嫌っぷりを見れば分かりますって」
響「まあ、ね。やっぱり彼は素晴らしいよ。話していて心が躍ったんだ、長らく忘れていた感覚だよ」
比叡「はぁ……そうですか。で、これからどうするんですか?」
響「彼のあの目は、もうゴールを見据えている目だ。私が協力してやるまでもないだろう。きっと自分の思った通りのことを成し遂げるさ。
だが……私は彼の役に立ちたいと思う性を抑えることが出来ないんだよ」 キラキラ
比叡「ゾッコンですねぇ。……ん?」
比叡(今、響の艤装がなにやら黄色いオーラを纏っていたような……? 気のせい??)
563 :
【73/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/09(日) 23:56:11.98 ID:l5g351Z90
清霜「どうって言われても……行くしかないでしょ。このままバックれるわけにも行かなくない、ねぇ?」
足柄「大淀は本当にそれでいいの? わざわざこんな立派な事務所まで立てたのに」
書類を整理しながら召集の件について話し合っている清霜・足柄。大淀は事務所に届いた大きなダンボールを慎重に運びながら足柄の問いかけに返事する。
大淀「? 別に構いませんよ。軍に呼ばれているのなら行くべきでしょう。私たちはまだ艤装を解体されていない以上、厳密には艦娘ですし」 ヨッコイショ
足柄「いやあ、でもわざわざ召集するぐらいだから軍に戻れぐらいのことは言ってくる可能性が高いんじゃない? そうなった時のこと考えてるわけ?」
大淀「もちろん考えてますよ。というか、そうなることを予期しています。軍に戻れと命じられることは無いと思いますが、それクラスの話はされるでしょうね」
足柄「大淀。あなた例の事件の弁護が終わった後もちょくちょく大本営に行ってるみたいね。ちょっと情報共有しなさいよ、事の全容が見えてこないわ」
大淀「あの事件のおかげで大本営には恩を売れましたからね。私なりに色々と気になることを調べて回っていたのですよ。で、知ったことは、これです!」
清霜「おかげってさあ……。ところで、なあにこれ? 『月面移住計画』……?」
大淀がテーブルの上に置いたのは、ロケットの図面が描かれた資料だった。
足柄(まさか……?)
大淀「運用コストの観点から、現在の艦娘を養っていくのは困難なようです。
今まではそれでも深海棲艦を倒さなければなりませんでしたから、無理に無理を重ねて燃料等を捻出していましたが……いよいよ限界だ、とのことです」
清霜「うん。そういう理由もあって例の軍縮があったんだよね。それでもダメだってこと?」
大淀「はい。これは大本営の地下施設で撮った解体待ちの艤装の写真です。幾つか、赤い光を帯びている艤装が見えますよね?」
清霜「これは……なんか、深海棲艦の纏ってるオーラと似てない? 赤いやつ……elite種だっけ?」
大淀「そうなんです、まさにその通り。この状態はまだ第一段階ですが、黄色、青色と変色していくようです。ちょうどMI作戦の後から確認されるようになった症状らしいです。
状態が遷移するごとに艤装の持ち主である私たちの精神や肉体もよろしくない方向に変調していくようです」
足柄「青色になるとどうなるの? 深海棲艦にでもなるのかしら」
大淀「近いですが……完全にそうはなりません。深海棲艦と違って人に危害は加えませんから。攻撃の対象は艦娘です。
MI作戦終了後に、既にいくつかの鎮守府ではそういう事件が起こっていたようで……。鎮守府を横須賀と呉の二つに集約したのは、混乱が各地に散らばるのを防ぐためだったようです。
幸い二鎮守府でそういうケースはまだ起こっていないようですが……。赤や黄色の光を纏った艤装を装備している艦娘が発見されてはいるそうです」
大淀「で。本題はここからです」
ダンボールの封を開けると、中に入っていたのは赤色の光を放つ艤装。
大淀「これが私たちの艤装です」
絶句する足柄と清霜。
大淀「残された時間はそんなに残っていないようです。この事務所は畳んで、手取提督の指示に従います」 スチャッと眼鏡をかけ直し、艤装を身に着ける大淀
足柄(手取提督? どうしてそこであの人の名前が……?)
大淀「そりゃ、名残惜しいですけど……そうも言ってられませんからね」
足柄「この赤いのをどうにかする方法は無いのかしら?」
大淀「地球外の環境を再現した部屋では艤装の変質が緩やかになるという実験結果が出ているそうです」
足柄「……! 道理でね。なるほど合点がいったわ」
大淀「提督が開発していたロケットで艦娘たちを月まで連れていく……という算段だそうで」
清霜「なるほど! だから明日艦娘をひとまとめに集めようとしているわけね。でも、この艤装は何のために?」
大淀「私たちヴェアヴォルフに与えられたラスト・オペレーション、といった所でしょうかね」
・・・・
足柄(海を走るこの感覚も随分久しぶりに感じるわね。半年も経ってないはずなんだけど)
東京にある大本営で艦娘の召集が行われた後、他の艦娘たちは旧佐世保鎮守府へと集められたようだ。
一方足柄ら三名は海路を突き進みステビア海方面へ向かっている。
清霜「『黄色い艤装の艦娘』が要注意なんだよね」 無意味に双眼鏡を覗いている清霜
大淀「はい。『青色』になって即座に味方を襲うようになるというわけではないみたいですが、注視が必要ですね」
足柄(ステビア海に結集した深海棲艦を倒しに横須賀・呉の連合艦隊が交戦しているらしく、その戦いの様子を監視して提督に報告するというのが今回のミッション。
この作戦が終わった直後に、戦闘から帰還した艦娘たちも連れてロケットで宇宙へ向かう。って……イメージ湧かないわねえ)
足柄「ま……これで最後みたいだし、派手に暴れさせてもらおうかしらね!」
大淀(今回は暴れてもいいとは言われてないんですけど……まあいいか)
564 :
【74/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/10(月) 00:02:51.00 ID:Mkhw/ZdS0
猛烈な勢いで軽トラックを疾走させる提督。助手席には皐月が座っている。
皐月「あと二軒だよ! 頑張れ司令官」
陽炎「ちょっと! 軽トラックでドリフトって何考えてんのよー!」
皐月「それだけ急いでるんだってば。文句言うなー!
それに、書類上は解体扱いなのに艤装を残したままだなんてめんどくさいことしてる方が悪い!」
提督(うちも龍田らの例がある以上、人のことは言えんのだがな……)
・・・・
話は一日前に遡る。大本営に集まった艦娘たちに説明を済ませ、提督もまた艦娘たちと共に佐世保へ戻った後のことだ。
提督「さて。なんとか佐世保に戻って来れたな。呉の方には話を通した。
あとは明日横須賀のを説得して、ステビア海攻略作戦完了を待って、ようやく終わりか……前者が厳しいな」
皐月「司令官、大事な話があるんだ。聞いて欲しい」
提督「ああ、皐月か。すまんな……卒業させてやれなかった。事情が事情なだけに仕方ないんだ。許してくれ」
皐月「うん。クラスの皆にさよならも言えないままお別れなのは寂しいけど……それより、もっと大事なことを話さなきゃいけないんだ」
皐月「ボクの通ってた学校に陽炎っていうのが居てさ。陽炎は艦娘なんだ。艤装は“書類上”解体されたことになってるけど、実際は横須賀に残ったままなんだ。
だから召集の知らせが届いてなくってさ……。陽炎も連れて行って欲しいんだ! クラスは違うし、腐れ縁だけど……ボクの友達だから」
提督「…………なぜそれを東京に居た時に言わなかった」
皐月「ごめん、突然すぎて頭から抜けてた……今になって思い出した」
提督「なるほど、それで横須賀の提督が事情を説明してなお動きたがらなかった理由か。お前のおかげで全て解決しそうだ」
提督「だが……お前のせいで俺はこれからとてつもない重労働を果たさねばならなくなった。貸し1だ」
・・・・
提督(これで『解体されたフリ』の艦娘もなんとか全員揃った。そのことを説明したらようやく横須賀の提督も佐世保に向かってくれたようだ)
提督(足柄の報告によると明日の昼にはステビア海の攻略に向かってた連中が戻ってくるらしいが……それまでにはなんとか帰れそうだな)
既に日は沈んで空には星が輝いている。高速道路を走っているにも関わらず、後ろの荷台にいる陽炎たちはグースカと眠っている。
艦娘の適応力や恐るべし。なお検問は荷物にカモフラージュして抜けてきた模様。
皐月「しれーかん。学校に行かせてくれてありがとう。ボクのわがままを聞いてくれて。卒業出来なくても、ボクにとっては良い経験になったよ」
皐月「皆、くだらない遊びに真剣になるようなバカばっかりでさ。でも、だからこそ楽しかった。あんな風に気ままに生きられたら楽しいだろうなって」
皐月「……これから先も、楽しく生きていきたいな」
提督「……」
皐月「ふぁあ、なんだか眠いみたい。考えてることがすぐ口に出ちゃうんだ。って……司令官の方がもっと眠いのか。ゴメンゴメン、気にしないで」
提督「寝てていいぞ。どうせまだかかる」
皐月「喋ってないと寝れない性質なんだ……もうちょっと付き合って」
提督(文月のやつも案外苦労しているんだな……)
提督「楽しく生きていたい、というのは気の持ちようじゃないか? どんな状況の中でも、楽しみを見出すことが出来れば充足感は得られる……と俺は考えている」
皐月「じゃあ、司令官は今楽しい?」
提督「……恐らくは」 ニヤリと小さく微笑む」
皐月「ふふふ……なるほど……。ボクも、司令官と一緒にいれば楽しいかもしれない……むにゃ」
提督「……」
・・・・
提督「着いたぞ……! どうにか、こうにか、というわけだ……」
磯風「ロケットの方はいつでも飛ばせるぞ。隕石か急降下爆撃でも振って来ない限りは問題ないだろう」
赤城「横須賀・呉に残っていた艦娘も揃っているようです。あとは、海域攻略部隊の帰投を待つのみです」
提督「よし! もう準備を始めて良い頃合だろう。動いてくれ」
皐月「んぁ……おはよう司令官」
提督「暢気なやつだなおまえは……」
565 :
【74/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/10(月) 00:26:20.36 ID:Mkhw/ZdS0
猛烈な勢いで軽トラックを疾走させる提督。助手席には皐月が座っている。
皐月「あと二軒だよ! 頑張れ司令官」
陽炎「ちょっと! 軽トラックでドリフトって何考えてんのよー!」
皐月「それだけ急いでるんだってば。文句言うなー!
それに、書類上は解体扱いなのに艤装を残したままだなんてめんどくさいことしてる方が悪い!」
提督(うちも龍田らの例がある以上、人のことは言えんのだがな……)
・・・・
話は一日前に遡る。大本営に集まった艦娘たちに説明を済ませ、提督もまた艦娘たちと共に佐世保へ戻った後のことだ。
提督「さて。なんとか佐世保に戻って来れたな。呉の方には話を通した。
あとは明日横須賀のを説得して、ステビア海攻略作戦完了を待って、ようやく終わりか……前者が厳しいな」
皐月「司令官、大事な話があるんだ。聞いて欲しい」
提督「ああ、皐月か。すまんな……卒業させてやれなかった。事情が事情なだけに仕方ないんだ。許してくれ」
皐月「うん。クラスの皆にさよならも言えないままお別れなのは寂しいけど……それより、もっと大事なことを話さなきゃいけないんだ」
皐月「ボクの通ってた学校に陽炎っていうのが居てさ。陽炎は艦娘なんだ。艤装は“書類上”解体されたことになってるけど、実際は横須賀に残ったままなんだ。
だから召集の知らせが届いてなくってさ……。陽炎も連れて行って欲しいんだ! クラスは違うし、腐れ縁だけど……ボクの友達だから」
提督「…………なぜそれを東京に居た時に言わなかった」
皐月「ごめん、突然すぎて頭から抜けてた……今になって思い出した」
提督「なるほど、それで横須賀の提督が事情を説明してなお動きたがらなかった理由か。お前のおかげで全て解決しそうだ」
提督「だが……お前のせいで俺はこれからとてつもない重労働を果たさねばならなくなった。貸し1だ」
・・・・
提督(これで『解体されたフリ』の艦娘もなんとか全員揃った。そのことを説明したらようやく横須賀の提督も佐世保に向かってくれたようだ)
提督(足柄の報告によると明日の昼にはステビア海の攻略に向かってた連中が戻ってくるらしいが……それまでにはなんとか帰れそうだな)
既に日は沈んで空には星が輝いている。高速道路を走っているにも関わらず、後ろの荷台にいる陽炎たちはグースカと眠っている。
艦娘の適応力や恐るべし。なお検問は荷物にカモフラージュして抜けてきた模様。
皐月「しれーかん。学校に行かせてくれてありがとう。ボクのわがままを聞いてくれて。卒業出来なくても、ボクにとっては良い経験になったよ」
皐月「皆、くだらない遊びに真剣になるようなバカばっかりでさ。でも、だからこそ楽しかった。あんな風に気ままに生きられたら楽しいだろうなって」
皐月「……これから先も、楽しく生きていきたいな」
提督「……」
皐月「ふぁあ、なんだか眠いみたい。考えてることがすぐ口に出ちゃうんだ。って……司令官の方がもっと眠いのか。ゴメンゴメン、気にしないで」
提督「寝てていいぞ。どうせまだかかる」
皐月「喋ってないと寝れない性質なんだ……もうちょっと付き合って」
提督(文月のやつも案外苦労しているんだな……)
提督「楽しく生きていたい、というのは気の持ちようじゃないか? どんな状況の中でも、楽しみを見出すことが出来れば充足感は得られる……と俺は考えている」
皐月「じゃあ、司令官は今楽しい?」
提督「……恐らくは」 ニヤリと小さく微笑む」
皐月「ふふふ……なるほど……。ボクも、司令官と一緒にいれば楽しいかもしれない……むにゃ」
提督「……」
・・・・
提督「着いたぞ……! どうにか、こうにか、というわけだ……」
磯風「ロケットの方はいつでも飛ばせるぞ。隕石か急降下爆撃でも振って来ない限りは問題ないだろう」
赤城「横須賀・呉に残っていた艦娘も揃っているようです。あとは、海域攻略部隊の帰投を待つのみです」
提督「よし! もう準備を始めて良い頃合だろう。動いてくれ」
皐月「んぁ……おはよう司令官」
提督「暢気なやつだなおまえは……」
566 :
【75/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/10(月) 00:28:10.67 ID:Mkhw/ZdS0
佐世保宇宙開発研究所、所長室(旧:執務室)。
足柄「こちら足柄! 敵深海棲艦はこの私が殲滅したわ! 艤装が青白くなってる艦娘も居ないわね」
提督「(交戦しろとは命じてないんだが……)ご苦労。ではそのままこっちに向かってくれ」
提督「フゥ……」
深い溜息をつく提督。
雪風「しれえ! いよいよ、ですね……!」
提督「ああ。なんとかなるもんだな……。全ての準備は整った。奴らが帰ってくるあと数時間で全てが終わる……」
隣にいる雪風を見る提督。
提督(いや、始まりと言うべきか。注力すべきはここから先であり、まだスタートラインにすぎない)
提督(時間で換算すればさほど長い期間では無かったはずなのだが……。随分と長い道のりだったな)
ソファに深く腰掛け目を閉じる提督。それが達成感によるものなのか、疲労感によるものなのかは分からない。
雪風「しれえ? ……寝てます?」
提督「いや……向こうに着くまでは寝るわけにはいかんよ。ただ……これまでを振り返って、長かったと思ってな。少し感慨が湧いただけだ」
雪風「そうですか。……あたしはあっという間だったなって思いました。
色んなことがあっという間に駆け抜けていって……ほとんどわけもわからないまま目まぐるしい移り変わりを体験して。
でも……司令の傍で過ごした日々はいつも楽しかったし、幸せだったなって思うんですよ」
提督「なるほど、雪風にはそういう風に感じるんだな。お前に限らず、俺の周りの人間は俺に振り回されてばかりだからな……」
雪風「あー、確かに……。でも、あたしは、司令に振り回されるの好きですよ。あたしだけじゃなくて、他のみんなも」
雪風「だって、しれえはなんでもやってのけてしまうじゃないですか。どんなに無茶苦茶なことが押し寄せても動じないっていうか。
しれぇのそういうところ、あたし好きですよ」
提督「……」
雪風(しれぇはこういう時はいつも黙っちゃうんですよね……どんなこと考えてるんだろ)
提督「お前は俺の傍に居て楽しいと思うのか。だが……それは本当に正しいことなのだろうか」
雪風「正しい、というのは?」
提督「俺は分からんのだよ。俺がお前たち艦娘やそれに関わる人間の人生を左右してしまうことが正しいことなのか」
提督「無論、自分の利益のためなら俺はお前たちを躊躇いなく利用してやる。
だが、これは俺の為にやっていることなのかお前たちの為にやっているのか分からんのだよ。
後者であるならば、本当にそれはお前たちの為になることなのか……? とな」
雪風「ためになるとか、ためにならないとか、そういうもんじゃないと思いますよ。
しれぇが皆のために尽くしたいと思うのなら、それは素晴らしいことじゃないですか。立派なことですよ」
提督「立派かどうかは問題ではない。利をもたらせるか……だ」
提督「いや、こんなことを考えること自体が俺らしくないのか?」
雪風「司令は変わったんですよ、きっと。今はまだ変化に気づいてないだけで。司令は、人の幸せを喜べる人になったんですよ」
雪風「自分が悲しくなくても、自分の周りで人が悲しんでたら悲しいんですよ。自分の周りで人が喜んでたら、嬉しいんですよ。
きっと、人と人とが分かり合うってそういうことだと思うんですよ」
提督(『人と人とは分かり合うことができる』……か。金剛もそんなことを言っていたか)
提督「あるいは……そうなのかもしれないな。そう、ありたいと思う」
・・・・
提督(いざ……)
雪風「艦娘の収容も済んでます!」
磯風「繋の最終調整も済んだそうだ。さ、行こう」
提督「ああ。この景色ともお別れか」
雪風「……少し、寂しくなりますね」
雪風「でも、寂しくならないように、向こうでもたくさん思い出を作りましょう」
提督「……そうだな」
提督と雪風は地球から見える空と海の景色を瞳の奥に残し、ロケットへと乗り込んだ。
567 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/08/10(月) 00:36:33.92 ID:Mkhw/ZdS0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~75/100)
・足柄の経験値+1(現在値26)
・雪風の経験値+2(現在値22)
・皐月の経験値+1(現在値12)
・響の経験値+1(現在値14)
・金剛の現在経験値:21
・翔鶴の現在経験値:15
----------------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【76-80/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
01〜12:雪風
13〜32:翔鶴
33〜50:金剛
51〜69:響
70〜79:足柄
80〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
568 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:36:48.45 ID:/6I5xuDgO
お
569 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:36:55.66 ID:e66UuDToO
あ
570 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:37:01.64 ID:6OfQZNYRO
あ
571 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:37:13.58 ID:CriKJgR9O
q
572 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:37:22.62 ID:PHUKyXJJO
あ
573 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/08/10(月) 01:10:14.89 ID:Mkhw/ZdS0
>>568-572
より
・金剛1レス/響4レス(1レス)
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:295 なので『Phase C』は発生しません。
>>569
よりエクストライベントが発生します)
////チ////
夏イベは今日から……? E7まであるそうなんでなかなか厳しい戦いになりそうですね。
とりあえずピザ食べながら攻略頑張ろうと思います。
574 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/09/02(水) 22:03:41.91 ID:Miiu9cf90
次回の投下は9/4(金)を予定しております。
まただいぶ間が空いてしまいました。イベントがあったので仕方ないってことで許し……ダメ?
////今回のイベントの話////
ごく個人的な話をします。
ちょっと前ですがE7甲突破したんですけど……今回はその話題です。
いやあ今回は……壮絶な難易度でしたね。
13年夏頃から始めてて今ではランキングで一桁台を取ってるような知人が居るんですけど、その人でも甲は投げてたぐらいですからねぇ。
私の場合は運良くなんとか……と言っても運を時間でねじ伏せたと言った方が正しいですかね。
前日に3重キラ付け部隊を作りまくっておいてー、そこからローテーション用の予備戦力もキラ付けしておいてー、
0時ちょうどに起きれるように仮眠取っていざ決戦! って感じでした。
攻略にかかった時間は実質17,8時間ぐらいでしたかねー。
南逸れの絶望感と0時リミットによるプレッシャーののシナジー効果が半端なかったです。
倒した時はもう舞い上がっちゃって、友人にSkypeで通話かけて鬱陶しがられるほど狂喜乱舞してました。
ついに防空棲姫を大破まで追い詰めた状態で夜戦に突入するもカットイン要員が三人潰されて絶望的、資源も尽きたので再挑戦も困難、
残るは重巡一隻って状況からクリティカル連撃をキメられたらそりゃあもう有頂天にもなるってもんですよ。
あそこで倒せてなかったら最悪今もE7甲を攻略することになってたかもしれませんね……恐ろしい。
今は全難易度を甲で攻略したことをめっちゃ後悔してますね(掘りが辛い)。
いやね、E3でS勝利取れないんですわ本当に! ダブルクウボーバがいい感じに第二艦隊を苛めてきてですね……。
575 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/03(木) 10:24:30.90 ID:3jEDyiLSo
乙です
毎度思うけど執筆とイベ攻略とリアルを同時進行できる
>>1
には頭が上がらない
いつでも待ってます
576 :
【76/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/04(金) 23:20:01.92 ID:AuTFT3KD0
『バビロン』。それがこの宇宙船に託した名だ。ああそうだ、説明するまでもない。由来はあの塔だ。
かつて人類が目指した神の国、その扉を叩くための塔――“バベルの塔”。もっとも、そこまで大それた目的ではないが……。
“バベル”の結末は知っている。だが、俺の計画を阻むような狭量な神であるならば。
……チェーンソーでバラバラにでもしてやろうか。
・・・・
『バビロン』、雪風に聞いたところ、メソポタミア地方の古代都市の名前らしい。
……メソポタミアと言われても、それがどこにあるのかは皆目検討つかないが。
司令官のことだから“バベルの塔”とでも掛けたのだろうか。そう考えるとなるほど合点がいく。
もしこのまま私たちが地球に残っていては艦娘同士の争いが起こるという。
私は未だにその話を信じてはいないが、このように艦娘の全てを一斉に集められては従うほかない。
まったく道理を無理で貫き通すのが得意な御仁だ。いや、彼の前では無理も無理でないのだろうか。
“バベルの塔”か。そうか……フフッ。
いや、実に彼らしいな。失敗が許されないここ一番でそんな名前を引っ張りだしてくるのか。
敢えて……にしても不遜だし、不吉だな。
だからこそか。だからこそ、なのかもしれない。
彼の目指す『真理の箱庭』というものが具体的にどんなものかは分からない。
だが、もしこの世に神が居るのなら。彼はその神に限りなく近づこうとしているのだろう。
彼の歩むその道は、希望なのか破滅なのか……。
・・・・
ここがどこだか分からない。何も見えない。感触もない。自分の体が棒立ちしているのか、横たわっているのかも分からない。ただ音だけは聞こえる。誰かが俺に話しかけている。
繋「結論から言うとね」
繋「計画は失敗した。設計は完璧だった、事故も起こらなかった。全てうまく行っていたよ」
繋「でもね、君の身体ではこの地球を離れることが出来ない。仮に宇宙アレルギーとでも名付けるべきかな。
地球から離れれば離れるほどに全身の細胞が癌化していってしまうようだ」
繋「君の肉体は君も知っての通り、艦娘たちが使うような高速修復剤によって保たれている。身体の全てが修復剤で出来ていると言うべきかな。
だから艤装をつけた状態の艦娘同様に心臓を貫かれたところで致命傷にはならず、肉体を再生不能になるレベルまで細切れにされるか、脳の大部分を破壊されない限り蘇生する」
繋「結果として何が起こったかというと……。君はバビロンで地球を離脱している間、幾度となく死に続けた。修復剤で完治した部分から癌で壊死していき、壊死した部分をまた修復剤が直す。
しかし、君の体内に血液のように流れている修復剤にも限りはある。あのまま月を目指していたら君の肉体も消滅していただろうね」
繋「だからバビロンは地球に戻った。そして今君は病室のベッドの上だ。君の“肉体”は」
提督「……どういうことだ?」
繋「君の肉体は半不老不死と言ってもいい、体内の修復剤の尽きない限りはね。だけど君の精神、いや君の魂はあの肉体から剥がれ落ちてしまった」
提督「幽体離脱、というところか。なら、肉体へ戻らねばならんな。俺はこれからどうすればいい」
繋「無いんだ。君はもう死んでしまった、だからもう……戻れない。かつて君であった肉体には別の魂が宿ることだろう。そうして手取哀として生きていく」
提督「なんだと……なら、俺はどうなるんだ?」
繋「数日で消滅する……少なくともこの次元ではないどこかに行ってしまうだろう」
・・・・
『バビロン』を降りた後、艦娘たちはひとまず数ヶ所の施設に収容されたらしい。しかし私、Верныйは脱走し、司令官と直接会える機を伺っていた。
『バビロン』は一瞬だけ地球を脱すると、Uターンして再び地上に戻ってきた。
特に問題なく発てていたようだしあのまま月を目指すことは容易だっただろう、一体何があったのか。
他の艦娘は、突然の計画中止に不満を述べていたり、これから起こるであろう事態を不安がったりしていたが、私は忘れ物を取りに戻った子供のようで愉快だと思った。
何にせよ無事地球に戻ってくることが出来て一安心だ。……と、こんなふうに楽観視していられる状況ではないのだが。
響(地球の青さと、この光の青さはすこし似ているな……)
私の艤装からゆらゆらと立ち上る蒼い光。
響(司令官が言うには、このように艤装が青い光を纏うようになるとじょじょに自我を失っていくらしい。司令官はこれを仮に“半深海化”と呼んでいた)
本当だろうか? 私はこんなにも私だというのに。
響(とはいえ、こんな状況で他の連中に深海化の進行が最終段階であることを悟られてしまってはより混乱が深まるだろう。隠し通すわけにも行かないが……)
こうなってしまったら最後。他の艦娘か、あるいは同じように半深海化した者に艤装を破壊されるまで戦い続けなければなくなる……。
だが、なってしまったものは仕方がない。一度、司令官に会ってみよう。たとえ異形に身を落とす結末だったとしても、最後に彼を一言交わすぐらいは許されるだろう。
響(もっとも、そんな結末で迎え入れるつもりはないがね)
拳を握りしめて、天を仰ぐ。……特にこの行動に意味はない。
ロケットに乗車した時は青空が広がっていたのだが、台風が近づいているのか暗雲が覆い尽くしている。
間もなく土砂降りの雨が降るのだろう。
577 :
【77/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/04(金) 23:33:14.02 ID:AuTFT3KD0
ここに居ても仕方がない。そう思った。だから兄さんに別れを告げて、俺は土砂降りの雨の中を歩いていた。
霊体といってもせいぜい扉や窓をすり抜けることが限界なようで、人に取り憑いたり空を飛んだりすることは出来ないらしい。
しかし雨に打たれても濡れたり風邪を引いたりする心配が要らないというのは少し便利だと思った。幽霊というのも案外悪くないのかもな。
俺の魂というのは俺の肉体が滅びるたびに入れ替わるらしい。ハードが代わればソフトも代わる、ということらしく。
故に、手取哀の肉体には俺ではない別の精神が宿り……そいつが手取哀として生きていく。肉体に宿った新たな精神は生前の俺をもとに形成されているようだが。
俺をもとにして生成された、より手取哀に相応しい人格……か。
仮にそうだったとして、そうであるならば。
半ばで途絶えた俺の人生は、手取哀としての資格を失った俺としての人生は何の意味があったのだろうか。
『真理の箱庭』は未だ遠く、艦娘らを呪縛から解き放ってやることすら出来ず。ただただ理不尽に幕を下ろされてしまった。
結局のところ、始めから何もかも間違っていたのかもしれない。
……何のアテもなく嵐吹く夜道を彷徨っているわけではない。
この雨雲では、月の光も星の光も届かないはずだ。にも関わらず空から落ちていく、仄かな光。
今にも消えてしまいそうな小さな光だったが、今の俺はそんな小さな光にさえも意味を見出さずにはいられなかった。
・・・・
海風が吹き荒れる薄墨色の世界に似つかわしくない、色白の女性。ひどく負傷し疲弊しているようで、このまま死んでしまいそうだ。
??「ァ……」
兄さん――いや、死んでしまったのならもう俺の兄とは呼べないのか? 繋と名付けられたスーパーコンピュータは、その内部機構に更に量子コンピュータを内臓している。
スーパーコンピュータによって観測した情報を量子コンピュータ内で処理し、処理内容を再びスーパーコンピュータ部分で処理するというものだ。
霊体の俺を観測出来たのも、『目に見える観測結果から目に見えない情報を暴き出せる』量子コンピュータの性能の賜物なのだろう。
それはそれとして……どういうわけか目の前のこいつも俺を認識できているらしい。見るからに俺に向けて助けを求めているようだ。
??「助ケテ……」
提督「(助けようにも、触れたものがすり抜けてしまうんじゃどうしようもないな……)この近くに雨風を凌げる洞窟がある。そこまで案内してやるから自力で歩け」
鎮守府近海に発生する渦潮に関する研究をしていた時に利用していた洞窟だ。それっきりもう使っていない場所だが、まさかこんな形で役に立つとはな。
……洞窟に入って一つ気づいたことがある。俺が案内したこいつは泊地水鬼という種類の深海棲艦だ。
こいつが洞窟内を照らすために使っているのは通称“たこ焼き”と呼ばれる強力な深海製艦爆で、艦娘たちからは忌み嫌われる恐ろしい武装だ。
間違いなくこんなところに連れてきてはいけない危険な存在だったのだ。もし俺が生きていたのなら艦娘を呼んでただちに始末させていただろう。
深海棲艦には二種類あって、我々の領海に攻め入ってくる攻略部隊と、自分たちの本拠地を守る守衛部隊だ。泊地水鬼はその守衛部隊のボス……なのだが、どうしてそんな奴がこんな所に?
“鬼”や“姫”クラスが護衛もなくこんな近海までやって来るなど聞いたこともない。いかに強い固体といえど、単騎でノコノコやって来れば返り討ちに遭うのは目に見えているからだ。
そんな愚を犯すほど深海棲艦はバカではないだろう、“水鬼”と呼ばれる最上位種ならなおさらだ。
それに、そもそも“泊地”の名を冠する深海棲艦は持ち場から離れることは決して無いはずなのだが……疑問は尽きない。
提督「俺が見えているということは、多分今のお前は生と死の狭間に居ると推測できる。だが、まだ肉体を自らの意志で操作できるという時点で生の側に傾いている。
だから俺は生きているお前に質問をしたい。気になることは色々あるが……そうだな。どうしてお前はこんなところに一人でやって来た?」
泊地水鬼「空ヲ……コノ空ヲ、自由ニ飛ビタカッタノ」
・・・・
なんとか研究所に潜り込み情報を集めたところ、司令官は『バビロン』船内で何らかの理由で重傷を負ったということが分かった。
どうにか生き残ったらしいがまだ意識は回復していないらしい(「肉体欠損率」とか「ゲル状」とか不穏当なワードが聞こえたのは気にしないことにする)。
逆に言うと、それ以外のことは分からなかった。聞き込みさえ出来ればもっと楽なのだろうが……。
半深海化が進行しているこの姿では見つかればただじゃ済まないだろう。既に艤装だけでなく、私の肉体の感覚も侵されはじめている。
手足は寒さを感じるのに、身体の内側は燃えるように熱い。風邪を引いて熱に浮かされているようだ。
響(野宿でもすればいいと思っていたが……こうも雨風が酷いとどこに居ても濡れてしまうな)
ぼんやりと輝いている艤装の蒼い光はまるで鬼火のようだ。どうあれこの光があればこの暗雲の中でも周囲を照らすことができる。
響「……ッ!」 見つめていた艤装の光よりも遥かに眩しい明かりに照らされて思わず目を覆う
暁「響! 響なのね!? 勝手に抜け出して行方不明だって聞いてからずっと捜してたのよ!? さ、戻るわよ」
人捜しのためにわざわざ探照灯を使うのか……。にしてもやけに雨合羽とビニール靴の姿が似合うな。
響「暁?(例の一件で解体されたはずでは……?)」
暁「月に行くとか、行かないとか、色々と唐突な話だったけど……。また響に会えて嬉しいわ。響はひょっとしたらそうは思っていないのかもしれないけど……。
とにかく、こんな所出歩いてたら風邪引いちゃうわよ。話はあと! 一緒に戻りましょ」
響「悪いが……それが出来たらしているんだ。ほら、探照灯を消して私の艤装を見てみなよ。……つまりそういうことだ。
このまま真っ直ぐ引き返してくれ。連れ戻されたところでこの姿じゃ何をされるか分からない。それに、私自身も何をするか分からない。
少しずつ身体に異変を感じているんだ。このままだと君さえも傷つけてしまうかもしれない」
暁「だったら。私も響と一緒にいることにするわ! このまま響を一人にしておくなんて、レディの流儀に反するもの!」
響「おいおい、君は何を言ってるのか分かってるのか? 危険だよ、私が本気を出したら君なんて一撃でやられてしまうだろ?」
暁「曲がったことが嫌いな響が、何も悪いことをしていない私に対してそんなことするはずないじゃない。平気平気」
暁「……それに、話したいこともたくさんあるから」
578 :
【78/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/04(金) 23:49:20.85 ID:AuTFT3KD0
提督「呆れたやつだな、台風に乗って空を飛ぼうとして案の定死にかけるとはな……。危うくダーウィン賞深海部門の候補入りするところだったな」
泊地水鬼の話を聞いて溜息をつく提督。呼吸する必要のない彼がわざわざ息を吐き出す素振りを見せたのは、失望と嘲笑の表現なのだろう。
提督「それで、飛べたのか? 空は」
泊地水鬼「一瞬ダケダケド……。トテモ気持チ良カッタ」
提督「……そうか、良かったな」
泊地水鬼「哀シイノ……? ドウシテ……?」
提督「少し思うところがあっただけさ。それはそうと、深海棲艦のくせに人間の顔色を覗ったりなんて出来るんだな。
そもそもお前たちに感情なんてものがあるなんて聞いたことがないんだが」
泊地水鬼「ニンゲンニ話シテモ、伝ワルカドウカ分カラナイケド……、助ケテクレタカラ……」
・・・・
泊地水鬼曰く。
かつて艦娘と深海棲艦は同一のものであった。人間を見守り、救い、導く存在……まさしく『天使』そのものだ。
人間を神に近い高位の存在へと押し上げることを目的とした天からの使者、そして神の忠実なるしもべである。
ある時、神に背く天使が現れ始めた。人に肩入れしすぎた天使は、禁じられた天上の叡智“火”の力の一部を授けた。『プロメテウスの火』……古代の神話にも似たような逸話がある。
神にとってそれは看過できない事態であった。なぜか? 話は人間という生命体の誕生にまで遡る。
地球を支配する神と呼ばれる知的生命体は、もともとは火星で暮らしていた生物であった。
遥か昔の火星は地球と同様に海が広がり緑が栄える惑星だったのだ。しかしある時“旧支配者”と呼ばれる、外宇宙から飛来した生命体の襲撃を受ける。
対する“旧神”(火星の知的生命体のことを指す)はこれを退けるも、火星に存在するありとあらゆる資源を使い果たしてしまった。
そこで旧神は地球に根を下ろして住みよい環境を創造していった。また、自らの種の保存のために旧神は地球固有の生物に自分たちの遺伝子を交配させて繁殖させた。
これがこの地球における生命の始まりであり、そしてこの神と獣の末裔こそが人間である。
人間はじょじょに“感情”という強力な武器を身につけていった。そう、地球上の生き物の中でもとりわけ人間という種類は“感情”の力を多く持っていた。
これはかつて自分たちを追い詰めた旧支配者も持っていた特長であるため、人間が力をつけ過ぎないように旧神は“天使”を生み出した。
だが……冒頭で述べた通り、大半の天使は人間の側に寝返ることになってしまう。人の持つ感情の力に魅了されたからである。人の持つ感情の動きに憧れたからである。
そうして天使は自らの根源である“火”の力を授けたのである。“火”とはすなわち物事を動かす力である。
“火”とはなにも力学的エネルギーや物質的な豊かさだけとは限らない。より善くあろう、高みを目指そう、何かを成し遂げようという向上心や意志もまた“火”の一部なのだ。
“火”の力と天使の協力を得た人間は神に反旗を翻し……艱難辛苦を乗り越えて勝利を収めた。
しかし、だからと言って人間側が手放しで喜べるような結果では終わらない。まず第一に、人間と違って完全に神の被創造物である天使は呪いをかけられてしまう。
これこそが深海棲艦化である。肉体が変質し、人間や他の天使(=艦娘)に害を成すようになる。そして感情を失う。
感情を失ってしまうからかつての同胞や愛していた人と対峙しても容赦なく攻撃できる。これが深海棲艦の原則。
提督「原則、ということはお前は例外らしいな。にしても、羽も無いのにどうして空を飛びたいと思ったんだ?」
泊地水鬼「アノ戦艦ヲ貫イタ翼……トテモ速ク飛ンデイタ。空ヲ泳グ魚ノヨウダッタ……。ワタシハアレヲ見テ……“憧レ”トイウ感情ヲ得タ。羨マシイト思ッタ」
提督(まさか、皐月や文月らと乗っていた『イカロス』じゃないよな。“艦載機でもないのに空を飛んで戦艦を貫いた”って、そうと言えばそうであるが……。
あれは飛行というよりは滑空だし、墜落した位置にたまたま戦艦棲姫が居ただけなんだよな……)
どうにも、こいつのような人型を保っているような上位の深海棲艦は完全に感情を失ったというわけではない、ということらしい。
『感情を失う』という呪いに対抗するために、無意識下に“火”――意志の力で感情を持ち続けようとしているようだ。
もっとも、こいつの場合は例外的に憧れや希望を手に入れただけで、他の連中は憎悪や絶望という感情で自身を塗り固めているそうだが。
しかし、これならあるいは……?
提督「なぁ、泊地水鬼。俺と取引をしよう。もし俺の提案を飲むのであれば、こんな暗い夜の空じゃない、青空の雲の上に連れて行ってやるさ。約束する」
泊地水鬼「トリ、ヒキ……?」
・・・・
暁「私ね」
暁「響に嫉妬してたの。でもね、それは間違ってるって自分でも分かってた。
響はずっと積み重ねてきてて、その間私は何もして来なかったから。楽して良い思いをしたいなんて、キリギリスと一緒よね」
響「私はアリか。ふふっ」
暁「でもね。あれから時間が経って……私も響に憧れるようになって。だから手取司令官にお願いして、横須賀の鎮守府に回してもらったの。
響が私の手の届かない所に居るのは分かってたけど、それでもいつか一緒に並んで立てるようにって……」
響「分かるさ。努力してるんだろう? 君の持ってる装備を見れば分かる。それだけ上等な武装が与えられるぐらいには積み重ねてきたってことだろう」
暁「ううん、まだまだ足りないわ。前に進めば前に進むほどに、積み重ねれば積み重ねるほどに溝の果てしなさを感じるの。
昔の私だったら、その差を見て自分は絶対響には敵わないって思ってただろうし、ひょっとしたらそれは本当のことで、この先響に追いつけることなんて無いのかもしれないけど……でも。
それでも響のことが羨ましくて仕方ないの。戦艦や空母の人が相手でもふてぶてしい態度を取れるハートの強さと、その言動に相応しい実力と。
響が凄いのは分かってるけど、私だってそれぐらい強くなりたいわ。戦闘だけじゃなく、本当の意味で強くなりたいって思うの」
暁「だから……嫉妬したり差を嘆いたりするんじゃなくて、前に進もうって思うの、前に進みたいの。たとえ私が一歩進んだときに響が更に先に進んでいたとしても。
私が今よりもっともっと速いスピードで進めば、距離は縮まるはずだから!」
響(またいつか……四人で笑える日が来るのかな。私は、やり直せるのかな……)
579 :
【78Ex/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/05(土) 00:07:11.93 ID:cwZfD60x0
響「私の話もしようか」
響「暁も知っての通り、MIで戦いを終えてから私は呉に移ったよ。外様にしてはそこそこ上等な扱いを受けているかな。私からすれば予定調和に過ぎないけれど」
響「ただ……満たされないね。やはり私にとっては彼しか居ないんだよ。彼のもとでなければ、どれだけ上に昇っても意味がないんだ」
響「別に、呉の提督が悪いと言っているわけじゃない。才知や力量差の問題じゃなく、気質の問題なんだよ。
呉のは彼ほど才覚があるわけではないが能力的には十分力のある人物だし、彼よりも遥かに人格者だ」
響「けれど、彼は……手取司令官は果てしなく大きな欲望を抱えている。彼はまるでブラックホールのようだ。
時間が経てば経つほどに望みは広がっていき、やがては周りにいる私たちさえもその欲望の渦に巻き込まれてしまう」
響「彼の傍に居ると、どうにもおかしくなってしまうんだ。私もそうだし、彼の近くに居た他の艦娘もそうだ。
彼の狂おしいほどの熱量が伝播してしまうんだ。他の人からしたら考えるまでもなく諦めてしまうような状況を前にしても、彼は苛烈な熱狂を以って突破してしまうんだ。
何がなんでも自分の思い通りにするという圧倒的に強い意志。そして最終的には本当に何もかもを自分の思い通りにしてしまうだけの才覚。
彼のあの狂気じみた執念と覚悟が傍で感じられたからこそ、私も快感を得ることが出来たんだ」
響「だから私は。たとえ異類に身を落としてもなお、彼の傍にあり続けたいと思う」
暁(昔の私だったら、響のことを心配していたのかしら。狂気に身を落としていくさまを諌めたのかしら。でも、今は)
暁「私も……響の傍に居たい。きっとそれは、響が司令官の近くに居たい気持ちと同じなんだと思う」
暁「期待に胸が高鳴るの。私の横に響が居て、もしかしたら雷や電も居たりして。
響と一緒に居たら、これからものすごく危ない目に遭うかもしれないって頭では分かってるのに、怖さよりも興奮の方が勝るの」
響「Хорошо!」
暁の発言に、歓迎するかのように手を差し出す響。固く握手する二人。深海化が進んでいるのか、響の片方の目は紫色に変化しているようだった。
それでも暁は全くたじろがなかった。むしろ、響のどこか満足げなニヤケ笑いを見て、つられて微笑んだ。
暁「は、はらしょ?」
響「いや、ちょっと感極まってしまってね。嬉しいんだ」
響(結局のところ、私は、ただ自分の熱意に見合った友人が欲しかっただけなのかもしれないな。
だからこそ以前は信念のない暁たちがとてもつまらない存在に思えたし、司令官が魅力的に思えたのかもしれない)
響(私は、自分と同じ場所で遊んでくれる遊び相手が欲しかっただけなのかもしれない)
響(司令官……彼の存在は、私には少し遠すぎる。追いかけても追いかけてもどこかへ行ってしまおうとする蜃気楼のようだ。呉に来てからというもの、ずっとそんなことを考えていた。
彼には彼の使命があるのだろう。彼は自分の理想と他者との二つであれば天秤にかけるまでもなく前者を選ぶ男だ。詮無きことと分かってはいたが、彼の居ない日々は心底退屈だった)
響(しかし、ようやく今。私にとって最高の遊び相手が出来たのだろうということを強く予感している。暁の真剣な眼差しが、私にそう予感させている。
彼女は間違いなく私の熱意に応えてくれるのだろうという予感だ。昔のように、もう二度と遠巻きから冷めた目で私を見ることはないのだろう。
なぜなら彼女ももはや“こちら”側……私と同じ、司令官と同じ狂者への道を決意したからだ。してしまったからだ)
響「奇妙なものだな……。こうして振り出しに戻るのか。だが、悪くない」
・・・・
提督「泊地水鬼の傷はどうだ? ステビア海海戦でボコボコにやられた後に空を飛べると思って嵐の中を飛び立つ程度にはバカなので、死んでいないか心配なのだが」
繋「(ひどい言い様だ……)大丈夫、回復傾向にあるよ。それにしてもとんでもないゲストを連れてきたよね……死してなお、君らしいというか」
提督「ハッハッハッ。そうだろう? タダでは死なんさ、俺はな」
繋「でも、だいぶ落ち着いているんだね。なんだか安心したよ。……もう、すぐなんだろう?」
提督「隠しとくつもりだったんだがな、バレてるのであれば仕方ない。そう、もう間もなくタイムリミットだ」
繋「何か、新しい君に伝えておくべきことはあるかい? メッセージとか、アドバイスとかさ」
提督「ない。泊地水鬼が生きてるなら、後は取引の通り動いてくれるだろうからな」
繋「驚いた……! 本当にまったく未練がないんだね。悟り済ました、穏やかな感情が伝わってくるよ」
提督「こうして途中で死んでしまった俺も、その前に死んでしまった俺も、その前の前に死んでいった俺たちも……無駄死じゃないと分かったからな。
死んでしまった俺と、今の手取哀とはよく似た別人なのかもしれないがそれは些細な問題なんだ」
提督「未来に“火”を託したんだよ」
提督「意志の炎は、勇気や覚悟などの強力な力と引き換えに身を焦がしていく。その火に魅せられて、道半ばで完全に燃え尽きてしまったのが俺なのだろう。
だが。途中で燃え尽きてしまったとしても。自分の抱いていた願望や意志、信念を誰かに託すことが出来たなら、“火”は消えない。
多くの者に託すことが出来たのなら、今の俺が一人で抱いていたものよりも“火”は肥大化するだろう」
提督「俺の想いは、次の俺と兄さん。二人に託すんだ。だから次はもっと上手くやれるだろう。俺はそう信じている」
提督「おっと、話せるのはどうやらここまでみたいだな……それじゃあ。そうそう、最後に。兄さん、俺はあなたの弟で良かったよ。
あなたのおかげで多くの我侭を貫くことが出来た。それから、艦娘の連中にも感謝しなければ。今になって思えば、あいつらと過ごした日々も悪くはなかった。
本当に、幸せな人生だった。何も悔いはない……」
――僕の弟が最期に見せた表情は、笑顔だった。他の皆は“この手取哀”のことを覚えていないかもしれないけど。
僕だけは君のことを忘れない。僕は君の想いを無駄にはしない。
1766.36 KB
Speed:0.2
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)