【安価とコンマで】艦これ100レス劇場【艦これ劇場】

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433 :【30/100】 ◆Fy7e1QFAIM [saga]:2015/03/23(月) 21:21:09.31 ID:gUE3VSVL0
鎮守府内の休憩室。この鎮守府内にはいくつかの休憩所が設置されていて、艦娘たちは自由に利用することが出来る。
加賀との訓練を済ませた翔鶴は、一息つこうと休憩室を訪れた。

翔鶴(あら? 先客かしら)

引き戸を開けると、艦娘だろうか、長髪の女性が正座をしているようだった。
翔鶴は、そこはかとなく一人で過ごしたい気分ではあったのだが、見ず知らずの他人が傍に居てもあまり気にしない性分だったので、部屋にいた女性には構わず給湯器に手を伸ばした。
部屋に備え付けの急須に、給湯器から出る熱湯を注ぐ。
別段良質な茶葉というわけではないのだが、この休憩室で茶を飲むことが翔鶴にとってはささやかな癒やしであった。

カコン

この和室は、所詮暇を持て余した妖精が趣味で作ったものでしかない。
そもそも獣が出るような山奥でも無いのにししおどしが置いてあるあたり、あくまで“それっぽさ”を追求しただけの模倣の庭園に過ぎない。
しかし翔鶴は畳から香る藺草の匂い、部屋の外から見える枯山水の石庭、カランと鳴るししおどしの音……、その全てに風情を感じていた。

カーン

・・・・

加賀「これからは私も第一艦隊の皆さんと、決戦に向けて備えなければならないから。こうして稽古をつけることも出来なくなります。
それに、あなたたち二人はどこに出しても恥ずかしくないほど立派に成長しましたから。……私から伝えるべきことは、もうありません」

翔鶴「そんな! まだまだ先輩に教えてもらいたいことがたくさんあるのに……」

加賀「次の作戦であなた達は支援部隊だけれど。私はあなたたちの師として、手本となる道を示したいと思っています。
あなた達は私や赤城さんが前線で戦う姿から、自分にとって必要なものが何であるかを見出し、学び取ってください」

加賀「……今の私の基となる、正規空母加賀は当時敵対していた国の将兵を数多く殺しました。私だけでなく、それはあなたたちにも言えることです。
当時の価値観における正義を貫いただけのこと。私たちは人を殺し国を滅ぼすために生まれてきた兵器だったのだから」

加賀「実艦であった頃の、遥か昔の記憶があるわけじゃないけれど。私は“加賀”の名を背負って生きている。
けれど、私が今生きている理由は命を奪うためじゃない。赤城さんを、あなた達を、皆が居るこの鎮守府を守るため」

加賀「次の作戦はかつての“加賀”であった艦にとって最期の戦い。でも、私はそうはならないわ。
今の私は、人を殺すための兵器でなく、人を守るための兵器。
……私は、かつての“加賀”を超える。運命を、変えてみせる」

加賀「その為に、今の段階から最善手を打っておきたいの。どんなことが起こっても対応出来るように、自分を高めておきたいのだわ」

瑞鶴「……分かりました。あの、これっ」 加賀の手のひらの上に、黒い兎の編みぐるみを乗せる瑞鶴

加賀「何かしらこれは? 七面鳥のストラップ?」

瑞鶴「違います! そりゃ、不格好で、ちょっとブサイクだけど……」

加賀「冗談よ。兎でしょう。……これを私に?」

瑞鶴「ええ。一航戦の先輩なら、深海棲艦の敵なんて鎧袖一触! なんでしょうけど……一応、お守りです」

加賀「……良い後輩を持ったわ。ありがとう」 ポンポンと二人の頭を撫でる加賀

加賀「……そろそろ第一艦隊の会議の時間に行かなければいけないわ。二人とも鍛錬を欠かさないことね。では、次は戦場で会いましょう」

・・・・

翔鶴は、先刻の訓練後の会話を思い出していた。

あの時の加賀は、今まで自分たちに見せたことの無いような本気の表情だった。
苦悩と葛藤を乗り越えた先にあるかのような、決意に満ちた真剣な眼差しだった。
去っていく背中から感じたのは、明確な闘志だった。

自分が兵器であるという自覚はあった。敵である深海棲艦を打ち倒すことが使命であることは認識していた。
だが、加賀のように、自分は『誰かを守るための兵器』だなんて考えたことは無かった。

どうすれば先輩のようになれるだろうか。この戦いが終わったら、戦うことしか能がない自分はどうなるのだろうか。
そんなことばかり考えていた。それゆえ加賀の言葉は衝撃だった。
今の自分の居場所に居続けるためでなく、艦娘として戦果を挙げるためでもない。
大切なものを守るため……その一念で彼女は今の高みまで昇り詰めてきたのだと思った。

『大切なものを守りたい』……戦いに身を置く者なら、ほとんどの人が抱く感情だから、殊更おかしなことではない。
だが、その想いだけであそこまで強くなれるというのは並大抵のことでは無い。
出世したいだとか、強くなりたいだとか、誰かに認められたいだとか、そういった欲望の方が人間の根源的な欲望に直結しているからである。
欲望の強い者ほど高いレベルを求めるし、高いレベルに辿り着ける。
そういう意味では自分も他の艦娘に負けないぐらい貪欲だと思っていたが、先程の加賀と今の自分を比べた時、決定的な実力差を痛感したのだった。
想いの強さという点で、負けている、と。

翔鶴(いつか、一航戦の皆さんに負けないぐらい強くなる、なんて思っていましたが……。私は、あんな風になれる自信がありません)

翔鶴(でも、弱気になっていても仕方ないわ。先輩の言っていたように、この戦いで、私の進むべき道を見つけましょう……!)
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