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【安価とコンマで】艦これ100レス劇場【艦これ劇場】
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360 :
【1/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/17(土) 00:37:22.28 ID:w9SzSr740
執務室。星一つ出ていない天心を睨む、仮面を被った男。
提督「さてここからが勝負どころだな……」
バァン、と打撃音。ドアが蹴り開けられる。
足柄「大淀を秘書艦から外すって、どういうことですか!? 彼女はこの鎮守府で歴代の提督の秘書艦を務めてきたんですよ!」
提督「そう。死者が立て続けに三人も出ているこの鎮守府で、な」
足柄「彼女が信用出来ないと? それにしたって……着任して一日も経たない間に、だなんておかしいでしょう!」
提督「おかしいかおかしくないかは俺が決めることだ。提督の身近に居ながら三人も見殺しにしているような艦娘を傍に置いておきたくはないな」
足柄「秘書艦に適切か否かを判断するのは、貴方がここの執務に慣れてからでも遅くないでしょう。彼女以外の人間にこの鎮守府の秘書艦が務まるとは思いませんが!」
提督「秘書艦は……要らん。必要ない」
一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした後、わなわなと震え出す足柄。
足柄「そんな変な見た目をしている時点で怪しい奴だとは思ってたけれど……ここまで訳のわからないことを言う人だとは思わなかったわ」
足柄「第一、何で仮面なんかで顔を隠してるのよ! 外しなさい! 外せ!」
提督の仮面を外そうとする足柄。その手をひょいひょいとかわし軽くあしらう提督。
足柄「もうアッタマ来たわ!」
提督に飛びかかる足柄。しかし提督にさっと身を反らされ転倒してしまう。
提督「おい、大丈夫か」
近づいてきた提督の足元に這い寄る足柄。脛に思いっ切り噛みつく。
提督「」プッツーン
噛まれている足を振りほどき、その勢いで足柄の顔面に蹴りを入れる提督。きゃん、と犬の鳴き声のような悲鳴をあげる足柄。
足柄「やった……わね……!」
態勢を持ち直しサマーソルトキックを放つ足柄。間一髪でかわす提督。
後方へ跳躍し距離を取る提督。両者睨み合ったままでいる。
足柄「……貴方、言ったわよね。秘書艦が要らないって」 提督に人差し指を突き立てながら言い放つ
提督「言った。秘書艦など必要ない」
足柄「正気なの!? 今まで秘書艦なしで執務をする提督なんて見た事も聞いた事も無いわ!」
足柄「それで貴方は、本当に提督としての責任を果たせるつもりなのかしら!?」
提督「見くびらないでもらおうか! 当然だ。提督としての最高の戦略を! 指揮を! 兵站を! 執務を! 完璧にこなしてみせるッ!」
足柄(こいつ……。なんて堂々と大それた言い切るの……)
足柄「……言ったわね! なら、実際にやってみせてもらうわ! 少しでも失敗しようものなら……覚悟してもらうわよ!」
提督「良いだろう。俺がこの鎮守府の提督として相応しくない失策をした場合はこの地位を降りてやろう。何なら誓約書を書いてやってもいいぞ」
スラスラと紙にサインし、足柄に誓約書を渡す提督。
誓約書の入った封筒を持ったまま、煮え切らない様子で部屋を出て行く足柄。
提督「やれやれ……ああいう手合いの相手は疲れるな。追い出すのに20分もかかってしまったか」
提督(一応殺気は感じなかったが、それでもあのままやり合っていたら最悪死んでいたかもしれん)
提督(……さすがに艦娘が相手ではな。適当な所で切り抜けることが出来て助かった)
提督「さて、見得を切った手前だ。さっとこなしてやるか」
・・・・
足柄「何よ……なんなのよアイツ! 屈辱だわ」
足柄「どうしてあんなに余裕綽々なのよ! うぅ〜……腹が立つ!」ガルル
361 :
【2/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/17(土) 00:39:16.48 ID:w9SzSr740
提督(今のところはあの足柄に付け入る隙を与えないほど完璧に諸執務をこなせているが……これぐらいは出来て当然)
提督(だが日々のタスク達成度が100%なだけでは到底足りない。この先の戦略展開のためににもまずは地盤を固めることが肝要)
提督(ここは碌でもない噂に尽きない鎮守府だ。火のないところに煙は立たぬというしな……内情を調べてみる必要がありそうだ)
提督(しかし俺が直接動き回るのは危険過ぎるな。誰か一人でも信頼出来るような奴が居ると助かるんだが……)
鎮守府所属の艦の情報が書かれた書類に目を通す提督。
提督「信頼出来る、か。ふむ……」
・・・・
響「響だよ。司令官、どうかしたかい?」
提督「響。いや、Верный……と言うべきか」
提督「お前に任せたい重要な任務がある」
響「私の最後の名を知っているとは、物知りだね。その名前で呼ばれるのは数百年振りだよ」
提督(軍艦であった頃、ということか?)
響「内容を聞く前に、一つ質問がしたい。どうして顔も合わせた事のない私にそんな重要な任務を依頼するのかな?」
提督「理由は3つ。純粋に練度が高いこと・他所の泊地から配属されて日も浅く、私を殺そうとする可能性は低いと考えられること」
提督「そして……当時の言葉でВерныйは“信頼できる”、という意味だったか。遠い昔の国の言葉だから合っているかどうか不安なのだが」
響「合っているよ、司令官」
提督「自分の名に背くような真似はすまい。……そうだろう、ヴェールヌイ」
響「なるほど察しがついた。しかし狡い御仁だね。そう言われたら従うほかないよ」
響「私も、この鎮守府で起こった事件については聞いている。一時私もここに在籍していたことがあるんだが、一体何が変わってしまったのか……」
響「私が司令官の盾になるよ。この名に懸けて、ね」
提督「話が早いな。それからもう一つ。いや、どちらかといえばこちらが任務の本題だ」
提督「密偵を頼みたい。内情を知らなければ」
響「ふむ……私はさしずめ司令官の秘密警察というわけか」
提督「物騒な物言いだな。だが、有り体に言えばそうだ」
提督「一週間後の同じ時間にまた会おう。信頼しているぞ、ヴェールヌイ」
響「до свидания」
一礼して退室する響。
提督(ダスビダーニャ……。また会いましょう、か)
提督(奴は使えるな……)
・・・・
響(面妖な提督だと思っていたが……話してみるとなかなかどうして知的じゃないか。あれなら演習や海域攻略での冴えた指揮にも納得がいく)
響(それにしても……なぜ彼は仮面を被っているんだろうか)
響(そして、どうして執務室から出て来ないのだろうか。私の記憶が正しければ、彼は着任してからまだ一度も部屋の外を出ていないはず)
響(一体どうやって生活しているんだ……? 食事は? 風呂は? 睡眠は?)
響(謎は深まるばかりだ……)
362 :
【3/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/17(土) 00:45:39.14 ID:w9SzSr740
一週間後、響は再び執務室を訪れた。
提督「ヴェールヌイ。人を連れて来いと言った覚えはないが」
響「連れてくるなと言われた覚えも無いからね」
提督「まあいい。お前が連れてきた人材なら、ひとまずは安心出来るだろう」
響(司令官は本当に私のことを信頼しているんだな)
提督「おい、何を固まっている」
雪風「ア……イエ……か、陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です! どうぞ、宜しくお願い致しますっ!」
緊張しているのか声が上擦っている。
提督「そんなに大声で言わずとも分かっている。どうしたんだ」 少し不機嫌そうな声色
響「司令官、怖がらせないであげてくれないか。彼女はあがり症なんだ」
提督「やれやれ、妙なのを連れ込んできてくれたな……。心配するな、取って食いはせん」
雪風「アッ、ハイ……いえすみません。すごく怖い方だと聞いていたものでして……」
提督「せっかくなのでその噂、話してみてくれ。なに興味本位だ」
雪風「え、えぇー……。執務室に艦娘を監禁して暴力を振るうのが趣味だって言われていたり、実は深海棲艦と通じているスパイだって言われてたり……」
響「ふふふ。そうそう、全然執務室から出て来ないから実はロボットか何かじゃないかとも言われてるね」
渋い顔をする提督。
提督「まぁ、そんなことはどうでもいい。報告を」
雪風「あっ、はい! んしょっと……」 鞄から小型のノートパソコンを取り出し、映像を再生する
提督(なぜWacBookにMindows OSを導入しているのか気になる所だが黙っておこう)
雪風「あの……これ、です」 鎮守府の地図を取り出す
提督「ふむ。鎮守府敷地内の地下通路に、なぜか地図上に存在しない部屋がある……ということか」
雪風「はい。そっ、その! これだけならしれえに報告するほどでは無いのかもしれませんがッ! なんだか妙な予感がしたので……」
提督「……確かに気になるな。ヴェールヌイ、部屋の前に小型の監視カメラを設置してきてもらえるか。部屋の中が覗える位置が望ましい」
響「そう言われるだろうと思って既にやっておいたんだ。雪風、例のファイルを」
雪風「はい。部屋に入っていく艦娘を捉えた映像です」
・・・・
動画の内容は、地下通路内の一室に艦隊所属の軽巡洋艦龍田が部屋に入り、再び部屋の外に出る……というだけのシンプルなものだった。だが……
提督「部屋の中に緑色のものが大量にあったのが一瞬見えたな……。植物のようだが」
提督「人目につかない場所の、厳重に鍵がかけられた密室で育てる植物といえば……まぁ、そうなるな」
響「彼女を尋問するかい? 看過するわけにはいかないだろう」
提督「いや、共犯が居て何らかの方法でバレたことを伝達。共犯者は部屋の大麻を全て処分し別の植物に入れ替えておく……なんてことをする場合も考えられる」
提督「そして逆に提督に対し不当な拘束を受けたと証拠つきで言いふらして回り最終的に失脚まで追い込む。私が同じ立場ならそれくらいのことをする」
雪風(ひねくれ過ぎなのでは……)
雪風「もう少し裏を取ってから……ということでしょうか」
提督「関係者を全て洗い出してからだな、表向きに対処するのは」
提督「まずは、この龍田という艦娘の身辺調査を依頼したい」
提督(麻薬取引か……厄介なことになってきたな)
363 :
【4/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/17(土) 00:51:31.57 ID:w9SzSr740
鎮守府内のとある会議室にて。
霞「ではヴェアヴォルフ第48回定例会……やるわよ」
――“ヴェアヴォルフ”。
この鎮守府では、第一艦隊から第四艦隊までが正式な艦隊ということになっているが、それ以外にもユニット(小隊)が組まれていて、時には主力艦隊を差し置いて出撃命令を受けることがある。
“ヴェアヴォルフ”もそのユニットの一つ。深海棲艦の支配海域へ少数で侵攻しゲリラ戦法的な電撃戦を行うのが主たる活動内容で、足柄・大淀・霞・清霜の4名で構成されている。
霞「いつまでヘコたれてんのよ! 」
大淀「ううっ……だってぇ〜……やっぱりショックですよぉ……。そりゃあ私にも責任の一端はありますけど……」
足柄「あの提督が悪いのよ! そうに決まってる!」
霞「過ぎたことを! グダグダと!」 両手で大淀と足柄にチョップをする
霞「いい? その件については前の会議で言った通りよ。確かに大淀の件は残念だけど、あの提督は実際に秘書艦が居なくても何も問題なく執務をこなせてる」
霞「指揮といい先見性といい、人間性以外に非の打ち所がないぐらい完璧だわ」
清霜「あの霞にここまで言わしめるなんて凄いねぇ。……かえって心配になるかも」
霞「アンタ人のことをなんだと思ってるのよ」
足柄「鬼教官」
大淀「というか鬼そのものなのでは……」
霞、両名に無言でチョップを放つ。
霞「……とにかく、この件に関してはこれ以上蒸し返さない。それより考えなきゃならないのは今後のことよ」
霞「ヴェアヴォルフの地位は以前と比べてかなり低下しているわ。これまでのように主力艦隊と同等の扱いを受けることはまず無いでしょうね」
大淀「そういえば最近、利根さんや熊野さんに避けられているような気がします……」
足柄「チッ、ドラム缶運びが偉そうに……!」
大規模な組織の中には、多かれ少なかれ階級や序列が存在する。それはこの鎮守府の中でも例外ではない。
武勲艦や主要作戦に参加した艦はその分手厚く補助を受け、鎮守府内での影響力も強めていく。
艦娘の世界は成果主義だ。古株だろうと結果を出せなくなれば容赦なく冷遇を受けるが、新参であっても作戦に貢献出来れば厚遇される。
霞「大淀が秘書艦を降ろされたことにより他の艦隊やユニットからの評価は低下。おまけにどこぞの馬鹿が提督に噛みついたせいで重要任務からも尽く解任」
足柄「馬鹿ってなによ! ……ただ、厳しい状況なのは否定出来ないわね」
清霜「全然任務が来ないのが致命的だよねぇー……暇だなー」
艦娘たちは提督から与えられた出撃命令などの任務を達成することで利益を得ている。
ヴェアヴォルフへの任務が激減したのは、大淀の失脚や足柄の行動だけが原因ではない。
ヴェアヴォルフは、『数撃てば当たる』を地で行く集団だった。
どれだけ面倒な作戦だろうが危険な作戦だろうが片っ端から出撃していき、失敗してもそれを取り返すほどの出撃を繰り返して地位を得てきた組織だった。
ところで、他の艦隊から任務を受託することは各鎮守府では日常的に行われていることである。これを任務ロンダリングと言う。
ヴェアヴォルフは他のユニットから、時には主力艦隊からも任務ロンダリングを受けて多くの利益を得ていた。
だが、この任務ロンダリングによって艦娘が艦娘を雇うという状態を危険視していた提督は、着任して早々に対策を打った。
個々の艦娘の能力および各ユニットや主力艦隊の実力を十分に把握し、その上で過不足ない任務を配分するようにしたのである。
この改革により各組織への負担が大幅に減ったため多くの艦娘たちは歓喜した。
その一方で、過剰に出される任務を肩代わりすることでより多くの利益を得る、ヴェアヴォルフのような者たちは割を食ったということである。
何気なく発した清霜の一言は、その事実を他の三名に気づかせるのに十分であった。
霞「……これまでのようなやり方だと、やっていけそうにないわね」
大淀「地道に任務をこなして、提督の信頼を得るところから……でしょうか。ハァ……」
清霜「幸い時間だけはたくさんあるし、今後についてじっくり考えてみたらどう? 司令官に認めてもらう方法をさ」
足柄「…………。私は反対よ! そんなちまっこいことやってられないわ!」 衝動的に立ち上がる
霞「じゃあどうするってのよ!? 何か案でもあるの?」
足柄「…………あ、あるわよ! あるわ! 次の会議までに良い報告を持ってきてあげるんだから! 期待して待ってるのね!!」
・・・・
足柄(あの提督の犬になるだなんて、絶対にゴメンだわ!)
足柄(霞がああ言うぐらいだから、頭の勝負で勝てる相手じゃなさそうだけど……)
足柄(でも……納得行かないわ。絶対出し抜いてやるんだから! ギャフンと言わせてやる!)
364 :
【5/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/17(土) 00:54:43.94 ID:w9SzSr740
金剛と比叡が自室で何やら話し合っている。二人は主力第一艦隊所属の艦娘で、この鎮守府の中ではいわゆるエースだ。
金剛「ひええええええええええ」
比叡「何ですかお姉さま」 少し怪訝そうに
金剛「あの提督冷たすぎデース! 栄えある第一艦隊旗艦に対してあの態度はなんなんですカー!」
比叡「うーん、文字通りの鉄仮面ですからねぇ……。何かあったんですか?」
・・・・
金剛「ヘーイ! 提督ゥ! お話に来たネー!」
提督「執務室への不要な立ち入りは禁止したはずだ。処罰されたいのか?」
金剛「Oh……これは手厳しいネー! でも、そんなに根を詰めていてはダメですヨ? ワタシと一緒にTea Timeなんて」 座っている提督の隣に立ち、顔を近づける金剛
提督「よほど第一艦隊から異動されたいように見える」 隣の金剛に目もくれず淡々と書類仕事を処理していく提督
金剛「こっ、これはっ! スミマセン! 失礼しまシタ!」
提督「それから言っておく。俺はお前のように媚び諂う人間が大嫌いだ」 そそくさと部屋を出る金剛に追い打ちを言い浴びせる提督
・・・・
金剛「ということがあったんデース。取り付く島もないデース……」
比叡「まぁ〜あの提督ネクラそうですからねぇ。あんな提督は忘れて、たまには姉妹でティータイムなんてどうでしょうか。何なら榛名や霧島も呼んで……」
金剛「比叡? 人から愛されるにはまず自分からデース! 提督のことをそんな風に言ってはいけまセン」
金剛「それに! 榛名や霧島は信用ならないデース! 腹の中ではワタシの座を狙ってるに違いないデース!」
比叡(お姉さま……提督への愛はあれど、私たち姉妹への愛は欠片もないということですね……)
比叡(いや、お姉さまは提督に対しても愛情など抱いていない。ただ提督を利用して自分が良い思いをしたいというだけ……)
比叡(私はお姉さまの向上心や前向きさに惹かれていたのに、どうしてこうなってしまったのだろう。今や利害で動いているだけだ……己の野心のままに)
金剛「比叡? 比叡? 何ボーッとしてるデース」
金剛「紅茶が冷めますよ? 今の私には、比叡だけが信頼出来る友人なんですから……しっかりしてクダサーイ」
金剛「話し相手が居ないのは退屈ですからネー。ちゃんとResponseしてよネ?」
比叡「あっ、ハイ! すみません、お姉さま……」
・・・・
金剛「どうやったらあの提督のハートを射止められますかネー。このままだと榛名や霧島、他の艦娘に旗艦の地位を取られてしまいそうデース……」
比叡「お姉さま。寵を得ようとするよりも、まずは練度を上げられてはいかがかと。あの提督は実利主義です。戦果を上げれば評価してもらえるかと」
金剛「そんなまだるっこしいことやってもCost Performanceが悪すぎデース! そもそも練度を上げれば敵に勝てるなんて事自体幻想デース。今ドキの考え方じゃないデース」
金剛「もちろん最低限の練度は必要デスけど、ある一定のラインに達したら後はドングリの背比べデース! 戦果を上げるのに重要なのは第一にCondition。次に装備デース!」
金剛「詰まる所Quality of Lifeの向上が戦果へと繋がるのデース! 装備の強化も、モチベーションの維持にも、おカネは必要ですからね」
金剛「あとは場の空気を読んで上手くMVPを掻っ攫うSenseと敵から攻撃を受けない運デース」
金剛「比叡は戦い方がちょっと愚直すぎマース! 無傷の敵と殴り合うよりも、空母連中が傷めつけた相手や敵の親玉を叩く方がスマートデース」
比叡「すみません、お姉さま……」
金剛「戦果なんて上げて当然デース♪ でも、それだけじゃ足りないのデース……」
金剛「戦いでの報酬は安定していまセン。盤石な地位によって得られる不動の恩恵こそワタシの心に安寧をもたらすのデース」
金剛「そのためのBurning Loveデース! 提督のハートを掴むのは! このワタシデース! 必ずゲットデース! 絶対ゲットデース!」
比叡「でも……」
金剛「デモもシカシもカカシも無いデース! 良いですか比叡? 比叡は提督にツッケンドンすぎデース」
金剛「提督に愛想を尽かされたら事実上の失脚デース! 提督に愛されるのも、艦娘の戦略のうち、ですヨ?」
比叡「…………」
365 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/17(土) 00:59:35.23 ID:w9SzSr740
----------------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~5/100)
・足柄の経験値+2(現在値2)
・響の経験値+1(現在値1)
・雪風の経験値+1(現在値1)
・金剛の経験値+1(現在値1)
----------------------------------------------------------------------
////チラシの裏////
んなわけでここまでデース! 初っ端からやり過ぎた感が否めまセーン!
大丈夫なのかこの鎮守府。もうどこから突っ込んでいいのやら。
前回がピュアボーイミーツピュアガールな感じだった反動もあるけどこれはダーティすぎるな……。
でもシリアスにやるつもりでは書いてなくて、どちらかといえばドタバタコメディみたいな感じを考えてます。
というか、もう現時点でそこはかとなくネタ臭が漂い始めてませんかね。リアル系の皮を被ったスーパー系みたいな。
いやまぁしっとりした感じの……たとえば情死とかもやりたいなぁとか考えてたけどただでさえ少ない読み手が更に減りそうなので……。
今回は前回と違ってあんまりイチャイチャさせることを考えていないので、登場キャラが皆それなりにロックな感じです。いやパンク? ハードコア?
わりと
>>1
が書きたいように書いてる感じなので結構楽しいです、独り善がりにならないように気をつけたいところですが。
ただ、金剛はやり過ぎたかなと自分でも思います。
キャラ崩壊……かなぁ。だよねぇ……。こういう解釈も面白いかなーと思って書いてるけどひょっとしたら俗に言う作者はウケると思ったシリーズ的アレかも。
まあまだ始まったばかりですし、そこいら辺も含めて(?)今後に期待ということで。
366 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/17(土) 01:00:37.81 ID:w9SzSr740
さて次のフェイズへ移行いたします。
よくわからない方は
>>351
参照。
コンマ値で決定するだけなんで、ほげとかぴよとかそんな感じの適当なレスをするだけという簡単なお仕事です。
なんだったら適当にキーボードを叩きまくってストレス解消の場として使ってもらっても構いません。
http://ikura.2ch.net/test/read.cgi/hikky/1285389039/
あるいは何かシチュエーションを書いておくと実現したりしなかったりします(
>>351
参照)。
『Phase B』【6-10/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00:
>>1
が独断で決定
01〜16:雪風
17〜33:翔鶴
34〜50:金剛
51〜65:響
66〜82:足柄
83〜99:皐月
>>+1-5
367 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/17(土) 05:21:23.82 ID:dEamqbUDO
うん?
368 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/17(土) 08:33:18.69 ID:K2xtmhOco
デース!
369 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/17(土) 18:40:08.25 ID:g/7kJiZIo
うらー
370 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/17(土) 18:42:10.37 ID:lU2VOjepO
ぽい?
371 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/17(土) 21:28:46.01 ID:qorlXQGuO
でちー!
372 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/01/17(土) 23:47:52.55 ID:w9SzSr740
というわけで
・皐月1レス/足柄1レス/翔鶴1レス/金剛1レス/雪風1レス
で『Phase B』が進行していきます。Phase Bでは経験値+2上昇なのです。
投下はいつ頃になるか分かりませんがそんなに早いペースではやっていけないかなーという見通しです。
まあゆるいペースでやっていきます。
373 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/23(金) 23:12:18.61 ID:lWG8D5CAO
この金剛は新しいなwwww
374 :
【6/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/27(火) 21:51:52.17 ID:Yq22Kgnx0
豪勢な食事を前に感動する皐月と文月。
ここは第四艦隊の会合室。部屋の中には新たに配属された皐月と文月の他に、暁・雷・電、そして旗艦の龍田が居る。
第四艦隊は第三から第一艦隊とは異なり、常設されている艦隊の中で唯一深海棲艦との交戦を主としない、特殊な立ち位置の艦隊だ。
第四艦隊の任務は専ら遠征である。他鎮守府への補助、離島や各防衛拠点への物資輸送のために方々へ繰り出される。
皐月「いやあ〜! 訓練生時代とは訳が違うなぁ! これが第四艦隊の食事かぁ!」
第一から第四艦隊のいずれにも配属されず、ユニットにも所属することが出来ない低練度な艦娘は、この鎮守府内では“訓練生”と呼ばれている。
この“訓練生”は実戦に参加することが許されておらず、鎮守府内での清掃などの雑務をこなしながら、修行の日々を送っている。
才覚さえあればすぐに訓練生を脱出することも出来るが、現実はそう甘くはない。
駆逐艦どころか重巡洋艦の訓練生すらいるこの鎮守府では、皐月や文月のように訓練生を脱していきなり常設の艦隊に配属されるということは稀有な出来事であった。
電「訓練生の頃はどんな感じだったのです?」
皐月「ボクも文月も成績で言えば普通ぐらいで、なんでここに配属されたかよく分からないんだよね」
文月「普通っていうか、皐月はわりと落ちこぼれだったよね〜」
皐月「言うなよお!」
暁「あら? 実戦登用の試験では二人ともトップの成績だったって聞いてるけど……意外なのね」
文月「実習の成績だけは良かったからねぇ〜皐月は〜」
皐月「文月もだろ! ボクを貶めようとしてない?」
龍田「二人とも仲がいいのね〜」
・・・・
談笑する一同。
皐月「配属された時は不安だったけど……居心地の良い艦隊みたいで良かったよ」
龍田「ふふっ、良かったわ〜。私たち仲良くやっていけそうね」
皐月「そういえば、第四艦隊は遠征任務をこなすっていうのは知ってるけど……なんで他の艦隊やユニットは遠征を滅多にやらないんだろう」
龍田「遠征では物資の受け渡しが主なミッションとなるんだけど〜、その主な受け渡し先は他の鎮守府や泊地なのよ〜?」
龍田「向こうの足りない資源を施して、逆にこっちの足りない資源を貰って補うの〜。貿易みたいなものと言えば分かりやすいかしら〜」
龍田「でもぉ、私たちは営利組織じゃないから〜……あんまり遠征にばかり艦は割けないのよね。よほど資源が欠乏している鎮守府以外は遠征に出せる艦娘の数が制限されているの」
皐月「縁の下の力持ちってわけだね!」
龍田「そうよ〜。それなのに他の艦隊の人は私たちのことを水上スケート隊だなんて揶揄するのよ? 酷いわよね〜」
鎮守府に常設されている艦隊所属の艦娘は破格の厚遇を受けている。それは第四艦隊とて例外ではない。
第四艦隊が手厚く補助されている理由は、多忙な遠征任務の対価とされている。
だが、命の危険に晒されることのほぼ無い安全海域を行き来しているだけの者たちをそこまで遇する必要は無いのでは、という声がこの鎮守府内では大きい。
雷「他の艦隊にどう思われようと、関係ないわよ! 私たちがこの鎮守府を支えているのよ?」
龍田「そうね〜。でも……皐月ちゃん文月ちゃん? 第二艦隊には警戒した方が良いわ。何か酷いことされそうになったら、すぐに言ってね?」 皐月と文月の方に顔を近づける
・・・・
皐月「いやあ、一人一つの部屋なんて考えられる? 相部屋じゃないんだよ!?」 自分専用の部屋に興奮する皐月
文月「皐月ー……浮かれすぎだよー……。あのさ、ヘンだと思わない?」
文月「ただの一遠征部隊にしては装備が高性能すぎるし、なんか妙に羽振りが良さすぎない?」
皐月「そりゃあ常設の艦隊だよ? 第一から第三艦隊に比べれば劣るだろうけど、それでも他の有象無象の小隊と比べたら一線を画す扱いされてもおかしくないんじゃない?」
文月「そうだけど……それにしてもちょっと変だなぁって思ったよー。それに、あの龍田さんもなんか怪しいよぉ」
皐月「そうかなぁ? 文月の場合、龍田さんと喋り方が似てるからって対抗意識みたいなのあるんじゃないの」
文月「無いよぉ失礼だなぁ……」
皐月「ま、龍田さんの言ってた第二艦隊ってのは気になるよね。第二艦隊旗艦の響ってのは暁さんたちの姉妹艦らしいけど……そこら辺はわりとセンシティブな話なのかも」
皐月「あんまり触れない方が良さそうだ。君子危うきに近寄らず、ってね」 キメ顔である
文月「うぅーん……?」
皐月「なんだよその微妙な反応は」
375 :
【7/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/27(火) 21:52:22.44 ID:Yq22Kgnx0
執務室前廊下。
足柄(……偉そうなことを言ったわりに、前回の会議から全く進展が無いわ)
足柄(提督の動向さえ掴めればやりようはあると思ってたけど、噂通り執務室から全く出てくる気配が無いわね……)
足柄(もう3日も張り付いてるってのに全く出てこないだなんて思わなかったわ。……何か引きこもる為の備えがあると見ていいようね)
足柄(部屋に入れればいいけどその為の口実も無いし……。困ったわ、これじゃあ何も情報が得られない)
・・・・
それから数日後、足柄は響と雪風が執務室に出入りするのを確認した。
足柄「あの二人の後をつけてみれば、何か掴めるかもしれないわね……」
足柄(丸一週間もこんな刑事ドラマみたいなことをやってられるほど暇なのが悲しいわ……)
・・・・
足柄(とりあえず響の後を追ってみたけど……一体どこに向かっているのかしら?)
響「そこまでだ足柄。一体何の用かな? 何が目的で私の後をつけている?」
足柄「げえっ(背後を取られた! 全くそんな気配を感じなかったのに……)」
足柄「い、いやぁ〜……どこに行こうとしてるのかなーって気になって。こっちは第二艦隊の施設とは逆の方角じゃない?」
響と雪風は、共に第二艦隊所属の艦娘である。響はその旗艦を担っている。
響「私は司令官から命を受けている。しかし君にその内容を教えることは出来ない」
響「ここ一週間君が執務室前で不必要にうろうろしているという話を司令官から聞いているからね。少し警戒している」
響「そういうわけで話は以上だし、これ以上私の後をつけるようならしかるべき処分が待っているだろう。暇なのは分かるが持ち場に戻ってくれ」
足柄(たかが駆逐艦の分際で……! とはいえ、言い返せないわね。ここは引き返しましょう)
・・・・
足柄(いいわ、ここで腹を立ててもしょうがない。それに、私にはまだ手がある! まだよ!)
第二艦隊会合室前の廊下で、柱の影に隠れながら雪風の様子を伺う足柄。
雪風「足柄さん。何してるんですかぁ?」
足柄(バレたー!?)ガビーン
足柄「い、いや。貴方が今何をしようとしているのか気になってね〜(私、こういうの向いてないわね……)」
雪風「そうですか。今はしれえの歓迎会の準備をしている所です! 第二艦隊の皆でやろうってことになって」
足柄(???? あの提督の? あの提督が?)
足柄「というか……歓迎会って、あの提督はもう着任して一月ぐらい経ってるじゃない? 今更歓迎会なんて変じゃないかしら」
雪風「私もあんまり詳しいことは知らないですけど、翔鶴さんの提案でして」
足柄(あの提督の思惑が何か絡んでるわけでは無いようね)
雪風「それに、しれえはいつも一人で頑張っているので、少しでも労ってあげないと!」
足柄「なるほどー偉いわねぇ。提督頑張ってるもんねー」 無感情な棒読み
雪風「司令官が来てくれるのか不安だなぁ……あと榛名さんと霧島さんも」
足柄「?」
雪風「あっ、いえ! 何でもないです!」
・・・・
足柄「それにしても……一ヶ月も経った後に歓迎会だなんてやっぱり変よね。第二艦隊側に何か提督を利用しようという思惑があると考えた方が自然だわ」
足柄「全く話の流れが読めないけど、とにかくあの引きこもり仮面が執務室から出てくる可能性があるってのは情報を得るチャンスだわ!」
足柄「一体どんな話がされるのかしら!? 楽しみだわ!」
足柄(しかし……あの部屋に仕掛けておいた盗聴器は雪風にバレてないわよね?)
376 :
【8/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/27(火) 21:53:59.11 ID:Yq22Kgnx0
執務室を訪ねる翔鶴。
翔鶴「失礼します、翔鶴です。提督にお話があって来ました」
翔鶴を意に介さず執務に集中している提督。
翔鶴「あの……いつも、ずっと執務室に一人で籠っておられるのですか?」
翔鶴「ほら、窓の外から雪が見えますよ? 提督も、たまにはお休みになられたら……」
提督「早く本題に入れ」 少し苛立っている様子の声色
翔鶴「すみません。余計なお世話でしたね……。第二艦隊の皆で提督の歓迎会を是非やりたいと思っているのです」
提督(なぜ旗艦のヴェールヌイでなく、こいつが話を持ちかけているんだ……?)
必ずしも艦隊での責任者イコール旗艦というわけではない。
しかし、この鎮守府では一般的に旗艦を務める艦娘がその艦隊を取りまとめていることがほとんどであった。
第二艦隊は、響を旗艦とし、その他に雪風・翔鶴・瑞鶴・榛名・霧島で構成されている艦隊である。
翔鶴「私たちの艦隊……それから他の艦隊でも、提督の歓迎祝いが出来ませんでしたから。これからお世話になる提督の為に、やらなくちゃって」
翔鶴「本当は提督が着任される前に準備しておくべきだったんでしょうけど、前任の提督が亡くなられてから鎮守府全体が慌ただしかったから……」
提督はこの申し出を敢えて快諾した。
心の内では翔鶴のことを訝しんでいたし、ひょっとすると自分を殺そうとしているのではないかと疑ってはいた。
しかし、自らの手を汚す方法で白昼堂々と自分に危害を加えるとは思えず、また、翔鶴が何かを企んでいようがそれを上回って逆に追い詰めてやるぐらいの腹積もりでいたのであったためである。
……もちろんこれは単なる提督の疑心暗鬼であり、翔鶴はただ純粋に善意で提督を誘っただけである。
響でなく翔鶴が執務室を訪れた理由も、響は提督から受けた第四艦隊への調査任務を遂行中であったためその代理として、という極めて単純な理由である。
・・・・
数日後。提督の歓迎会が行われ、一連のプログラムが終わったようだ。
提督はその間終始仏頂面をしていた(しかし口元以外が仮面に覆われているため誰からもそのことは悟られなかった)。
響「用心深い司令官が本当に来るとは思わなかったよ。少し嬉しいけどね」
提督(……ヴェールヌイや雪風が居るなら命の心配は要らなさそうだな。となると、何が目的だろうか?)
翔鶴「提督、これからもよろしくお願いしますね」
提督「……ああ」
提督(おかしい。おかしすぎる。何も起こらないなんておかしい)
提督(何かの意図があるはずだ。私を動かそうとするその意図が……考えろ。考えろ)
提督「翔鶴……お前何か私に隠し事をしていないか?」
翔鶴「? 何のことでしょうか?」
提督(知らぬ存ぜぬとでも言いたげなとぼけ顔だな。まさかこいつ本当に歓迎会をやるためだけに俺を呼んだのではあるまいな……)
霧島「司令? 珈琲をお持ちしました。……おわっ」 前のめり転倒する霧島。
霧島「っ痛ぁ……司令にかからなくて良かった……」 と言った後に、キッと榛名の方を睨む。
榛名「ごめんなさい。転ばせようとしたつもりは無かったのですけど」 謝意はあれど、どこか釈然としない様子の榛名
霧島「すみません司令。珈琲、入れ直して来ますね」 榛名の詫びを無視し立ち上がる霧島。すれ違いざまに榛名の耳元で「卑怯者」と囁く。
他の者は誰も気づいていないようだったが、提督だけは見ていた。確かに霧島の足元を遮るように榛名の足が伸びていたのを。
だがそれは意識的に霧島を転ばせようとしているわけではない。霧島が前に進もうとした瞬間に邪魔にならないように足を引こうとしたからである。
また、霧島も榛名の足が自分の進路を遮っていることに転ぶ直前で気づき、進路を変えようと歩幅を変調しようとしたのを見逃さなかった。
何の事はない。たまたま二人が足を動かそうとしたタイミングで接触し、転んでしまっただけのことである。
提督「…………」
だが、提督は榛名の弁護をしなかった。二人の間に生じている溝を感じ取り、対立の様子を見ようとしたからである。
また、その様子を観察することによって確執の原因は何なのかを探ろうとしたからである。
提督(なるほど……翔鶴は遠回しに人事異動を促したかったというわけか? 俺の前で二人が対立している様子を見せ、どちらか一方を残しどちらか一方を外せと。そういうことか)
提督(確かに第二艦隊の戦果記録を辿ってみると、片一方が活躍している時はもう片方の戦果が揮わないことが多いな)
提督「見極めを委ねる……というわけか翔鶴(随分回りくどいやり方をするな……何か裏があるのかもしれない)」
翔鶴「え? え?(なにか、ややこしいことになっている気が……)」
377 :
【9/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/27(火) 21:55:14.75 ID:Yq22Kgnx0
歓迎会が終わり執務室に戻った提督。ようやく一人きりになれた、と安堵の溜息をつく。
しかしその安息は一瞬にして破壊される。侵略者がやってきたのだ。
金剛「ヘーイ提督ゥ! 第一艦隊でも提督の歓迎会をしようと思うネー!」
ドンドンと執務室のドアを叩く金剛。しかし旗艦を外されるのは怖いらしく、執務室の中に入ってこようとはしない。
提督「最悪だ……」
第二艦隊は、榛名と霧島の水面下での確執はあれど組織力は高く、また、信頼を寄せている響や雪風が在籍しているため、提督にとっては最も扱い易い部類の艦隊であった。
一方で第一艦隊は、戦力こそ鎮守府内最強だが、各々がなまじ単騎でも敵を倒せてしまう力があるせいで連携が薄い艦隊だった。当然組織としてのまとまりなど無い。
提督は自らの日記の中で、第一艦隊について「カレーとラーメンとハンバーグとケーキとをミキサーでかき混ぜたような艦隊」と評している。
金剛「第一艦隊でも提督との親睦を深めたいと思いマース! 早く開けて欲しいデース! 皆待ってるデース!」
提督(第二艦隊で歓迎会を行ったという話を聞いて、強引に第一艦隊の連中を呼び出したのか? 緊急作戦会議などという名目で招集したのかもしれんな)
提督(何にせよ、奴が旗艦に居るのは前任の提督の人選ミスと言わざるを得ない。戦力だけは評価出来るが……奴に旗艦は任せられないな)
提督(とはいえ、これまでに一定の結果を出してきた実績ある集団だ。そこの頭をすげ替えるとなると大義名分が欲しくなるところだな……)
第一艦隊は、旗艦金剛と、比叡・Bismarck・飛龍・赤城・加賀で編成されている機動部隊だ。
個々の練度は極めて高く、また、戦況分析能力や判断力にも優れていて、名実ともに鎮守府最強の集団である(一切の連携がなく各々の個人プレーであることに目を瞑れば)。
・・・・
翌朝、提督宛に一通の手紙が届く。
拝啓 提督
金剛です。初春とはいえまだまだ寒い日が続きますね。
昨日は突然無茶なお誘いをしてしまってごめんなさい。
迷惑でしたよね。でも、私、提督に喜んでもらいたかったんです。
提督を想う気持ちが先行してしまって、軽率な行動を取ってしまいました。
今後は提督のご迷惑にならないように心がけますから、ばかな奴だと見放さないで下さいね。
私は提督の為なら、どんなに辛いことでも乗り越えていく所存ですから。
……前に私が執務室を訪れた時に、私のことを嫌いだと仰られましたね。
あれはとても悲しかったです。今でも思い出すと胸が苦しくなります。
提督は、私のように口煩い女性はお嫌いなのかもしれません。
ですが、私も本当はあのような振る舞いなどしたくはなく、周囲からそういうキャラクターであると認識されてしまっているからそれを演じているだけなのです。
まるでピエロみたいですよね……自分でも滑稽だとは思っているのですが。
もし、提督と二人っきりでご一緒できる機会があれば、本当の私のことを見て欲しいと思っています。
ありのままの私を知ってもらうかわりに、提督にも仮面の内の素顔を明かして欲しいな……なんて。
ごめんなさい、私ったら。こんなことを書いたらまたはしたない女だなんて思われちゃいますね。
でも、私が提督のことを強く想っているのは事実です。
以下も延々と文章が続く。
・・・・
長い時間が経過している。ようやく文章が途絶えた。
提督は、先程まで読み続けてきたびっちりと文字の詰まった20枚ほどの便箋を畳み、元の封筒の中にしまいこんだ。
そして、彼女を旗艦から外す以前に精神鑑定を受けさせねばならぬと心に決めた。
・・・・
金剛「ピンチはチャンス!」
比叡「なんですかお姉さま唐突に」
金剛「昨日は提督に怒られてしまいましたが、ここでワタシは一計案じまシタ!」
比叡(懲りないなぁ……)
金剛「ギャップ萌えデース! 提督にワタシのルァーブをしたためたLetterを送ったのデース! 男の人はヤマトナデシコが好きらしいですからネ!」
金剛「これであの提督もイチコロネー! Yeah!」
比叡「はぁ……ところでお姉さま。カレー冷めますよ?」
金剛「Oh! そういえば最近は比叡も料理の腕を上げましたネ! これなら人間が辛うじて食べられるレベルの味ですヨ! 一体隠し味に何を使ったんデスカー?」
比叡「まぁ〜、ちょっとは慣れましたからねー。隠し味はお姉さまへの愛です!」
金剛「これならあと100年ぐらい鍛えれば美味しいカレーが作れるようになりそうデース!」
比叡「手厳しいなぁ……」
赤城(不味い不味いと貶しながらもいつも食べているのは、彼女なりの姉妹愛なのでしょうか?) 二人の居る部屋の前を通りがかった赤城
378 :
【10/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/27(火) 21:56:26.02 ID:Yq22Kgnx0
執務室の前に立ち、扉を叩く雪風。中に居る提督に呼びかけるも、返事はない。
雪風(無用な立ち入りは厳禁と言われても……これは司令にとっても大事な用件。それに、これだけ呼んでるのに返事が無いのはおかしいです! 鍵もかかっていないようだし……)
雪風「し・れ・え……?」 おずおずとドアを開ける
普段提督が座っているはずの席。だが今は空席になってしまっている。どうやら部屋の中に提督は居ないようだ。
雪風「司令はどこへ……? 執務室から外へ出て行ったなら誰かしらの目につくハズ……」
部屋の本棚の本の並びが普段と異なっていることに気づく。常人であれば気づかないような些細な違いだったが、この本棚のことは雪風の記憶の中で強く印象づけられていた。
本のラインナップが、『有人宇宙飛行の歴史』『アトランティスの謎』など明らかに趣味全開のものであったためである。
雪風「おかしいです……本の並びが違うし、ここに一冊あったはずの本が無い……」
雪風は“なんとなくそうした方が良いような気がする”という直感のもと、本を元の並びへ戻した。カチッという奇妙な機会音が鳴る。
雪風「こ、これは……!? 本棚が突然動き出しました!」
本棚と本棚の間に隙間が出来ている。その隙間の先には、明かりの灯っていない小部屋があるようだ。
鞄の中の懐中電灯を取り出し、明かりで室内を照らす。空洞で何も物が置かれていない。
雪風(足元に鉄の板のようなものが……? 見てくれはマンホールみたいですね)
鉄板を持ち上げると、螺旋階段が現れる。地底深くまで繋がっているようだ。
雪風(司令は一体何者なんでしょうか……。なんだってこんな仕掛けを作ったのでしょうか……とにかく行ってみましょう)
・・・・
螺旋階段を下ること数分。
大小様々なモニターがズラズラと並んでいる奇妙な部屋に辿り着く。
モニターは鎮守府内の監視カメラや鎮守府近海の映像を映しているようだった。
雪風(さすがに私室やトイレ、お風呂までは監視されてないみたいですね……)ホッ
提督「……あぁ。……………………そうか。悪い、一旦切るぞ」
雪風(物陰から司令の声がする……誰と話しているんでしょうか? あっ、こっちに気づいた!?)
提督「そこで何をしている!? 何者だ!」
敵意をむき出しにした荒々しい声に、思わず雪風は体をビクつかせる。
雪風「あっあっ……あの! 雪風です! 雪風ですッ!」
素っ頓狂な声で自分の名前を連呼する雪風。その間抜けた様子に脱力したのか警戒を解き雪風に近づいてくる提督。
提督「落ち着け。この部屋に入ってきたのがお前ならばまだ問題はない。だが、一体どうやってここに入ってきた?」
雪風「あっ! 執務室の扉の鍵が開いていて、本棚を調べてたら奥に部屋があって! あっ、そうだ! 司令に報告が」
提督(扉の鍵は閉めたはずだがな……。あの口うるさい似非外人が叩きまくったせいで建て付けが悪くなったのだろう。しかし本棚はどうやって?)
提督(平時の本の並びから気づいたわけか。しかし本棚内に設置されているテンキーへの暗証番号入力など、それだけじゃ開かないようになってるはずなんだが……そこまで知っている様子ではなさそうだ)
提督(適切な暗証番号が入力されたのか? あるいは誤作動か? 信じられないが……ここにこいつがいる以上そうとしか考えられない)
雪風の身には、こうした奇妙な偶然が重ねて起こることがある。なぜなら雪風だからである。
雪風「そう! しれえに報告があって! 大変なんです! これです! 盗聴器です!」
雪風「司令の歓迎会の後に部屋を掃除していたら見つけちゃって! あの部屋で歓迎会をやる前は無かったんです!!」
提督「……なるほど。ところでお前、なぜこの盗聴器を使用不可能な状態にせずそのままここに持ってきた? まだこれ動いてるし現在進行形で盗聴されてるんだが?」
雪風「あっ」
提督「…………」
提督「とりあえず、この盗聴器の指紋を取るか」
提督「盗聴している者に告ぐ。近日中にお前を執務室に呼び出し尋問する。厳罰を覚悟せよ。また、この盗聴の内容を何者かに伝えた場合、お前の関係者も皆処罰対象にする」
ベキ、と盗聴器を握り潰す提督。青い顔の雪風。
提督「雪風。お前に悪意がないのは分かるが……以後気をつけたまえ」
提督(本当は軽く罰したいレベルのやらかしなんだが、ただでさえ少ない確実な味方を減らすと今後の危険が増すしな……。しかしこれは予想外だった……)
379 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/01/27(火) 21:58:42.04 ID:Yq22Kgnx0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~10/100)
・皐月の経験値+2(現在値2)
・足柄の経験値+2(現在値4)
・翔鶴の経験値+2(現在値2)
・金剛の経験値+2(現在値3)
・雪風の経験値+2(現在値3)
----------------------------------------------------------------------
告知もなくいきなり本編を投下してみましたが特に深い意味はありません。
(強いて言うなら昨日あたりに告知しようと思ってたんだけど忘れて寝ちゃったとかそんな理由です)
投下してみると分かるこのワチャワチャ感! そういえばわちゃわちゃって関西弁なんですね。知らなかった。
『Phase B』では経験値の増加が+2なのが大きいですね。
コンマのご機嫌次第で登場キャラが決まるので偏るかなと思ってましたがいい具合に仕事してくれました。
各キャラのコンマ範囲の比率はわりと適当に決めてます。
>>366
では各キャラ15〜17%でしたが次回以降もそんな感じで行く予定。
と、ここでまた次回に『Phase A』がやってくるという流れです。
登場させる艦娘をレス安価で決定するというわけですハイ。
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【11-15/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい。
----------------------------------------------------------------------
380 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/28(水) 18:24:23.86 ID:Y2SuwXwwo
足柄
381 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/28(水) 18:27:41.18 ID:Yc1ALLFA0
雪風
382 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/01/28(水) 18:39:32.27 ID:4M3u5wz00
翔鶴
383 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/28(水) 18:40:44.12 ID:UNm6pramo
響
384 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/28(水) 18:41:36.91 ID:Xsgo7Ak/o
皐月
385 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/28(水) 18:41:48.74 ID:EScD90oAO
足柄
386 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/01/28(水) 19:43:58.82 ID:+nB57div0
>>380
-
>>384
より
・足柄1レス/雪風1レス/翔鶴1レス/響1レス/皐月1レス
で『Phase A』が進行していきます。
来週頭ぐらいには投下出来たらいいなと思ってますけど微妙。
////悖らず、恥じず、チラシず////
イベント2月かー……もうすぐじゃん。うーん厳しいねえ(資源的に)。
一応年明けあたりから大型艦建造を封印して備蓄初めてるけど未だにボーキが25kぐらいしかないので辛い。
最近はあんまり時間取れなくてあ号すら消化できないという体たらく……(→だいたいClicker Heroesのせい)。
空母戦艦マシマシの連合艦隊決戦ゲーだったらわりとしんどいなぁ……。
改二駆逐揃ってきたし、水雷戦隊ベースのバケツ&練度ゲーならまだなんとかいけそう(やりたいとは言ってない)。
とりあえずイベント突入前に燃料70k/弾薬50k/ボーキ40kぐらい欲しいところ。
レアドロ堀りを考えるともっと欲しいけれど贅沢言ってられませんわね。
387 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/02/11(水) 14:19:56.36 ID:yuNPKC540
>来週頭ぐらいには投下出来たらいいなと思ってますけど
なーにが来週頭ぐらいにはじゃ。
すでにそう言い出してから二週間経過しておりますがリアルがリアルだったのでお許しを。
まぁイベントもあるわけだしね?
今週の金曜ぐらいには投下できるような気がしますと予告しておきます。
////チラシの裏////
甲→甲→乙→乙でE4突破。現在E5甲ゲージ削り中ですがいずれかの資源が20000切るかバケツが400切ったら乙にシフトします。
地力的には最初から乙に挑むのが賢い選択なんでしょうけど、どうせならどれだけ自分の艦隊と相手との間に絶望的な差があるかを味わってから退きたい所存。
今回イベントキツくないっすか!? いやトップランカーがひいひい言いながら突破してたE5甲はおいといて、そこに至るまでも結構エグい気がするっす。
エグいと言っても先人の方が歩んでこられた理不尽無理ゲー的エグさでなくて、常時14年夏E1のような感じ。やってやれないことはないがしんどいぐらいのエグさ。
資源が20万ぐらいあればキラ付けしなくてもゴリ押し突破出来るのでまた話は違ってくるんでしょうけどうーむ。
目ぼしいドロップと言えばE4の伊401、E5の磯風、朝霜ぐらいっすかね。いやでも今回掘り多分無理ぽ……。
乙とはいえもう一回空母棲鬼を殴りに行く体力ないですマジで。絶妙に硬くて腹立ちますねチクショウ。
MUSASHIを使えば倒せる(っていうかゲージ破壊ラストは武蔵使った)けど資源消費が怖いし……。
388 :
【11/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/02/14(土) 09:07:47.14 ID:kmkYAStE0
鎮守府のとある会議室。ヴェアヴォルフの面々が座って話し合っている。
霞「足柄、会議に遅れるなんて関心しないわね。それで? 良い報告ってのを聞かせてもらうわよ」
清霜「顔面蒼白じゃない? 何かあったの?」 よろよろと会議室に入ってくる足柄を見て心配する清霜
足柄「終わった……もうダメだわ……。やっぱりああいうの向いてないんだわ……何があったかは言えないけど……明日で皆とはお別れよ……」
大淀「今更隠し事なんて! これまで辛いことも苦しいことも、一緒に乗り越えてきたじゃないですか」
霞「ハァ? 今までどんだけアンタが迷惑かけてきたと思ってんのよ!? 今になって何ふざけたこと抜かしてるわけ?」
霞「大方あのクズ提督に釘を刺されてるとかそんなだと思うけど、だったら話せる範囲だけ話せば良いじゃない。それに、アンタが処分されたらどうせ私たちだって後を辿るわ」
足柄「……言われてみればそれもそうね。じゃあ話すわ」
大淀(あっさり立ち直ったー!?)
・・・・
霞「盗聴って、アンタ馬鹿じゃないの!? しかもそれがバレたって……」
足柄「チャンスかなーと思ったのよ。だって、考えてみてよ? あの提督、ここに着任してから執務室から出た事なかったのよ? その謎が明らかになるかもしれないじゃない」
大淀「結局、その第二艦隊の歓迎会で提督について何か分かったんですか? ……ストレートに話すとまずいならある程度ぼかした表現で構いませんが」
足柄「いや、それが歓迎会“では”提督については何も分からなかったわ。第二艦隊の面々に何か聞かれても『黙秘させてもらう』とかそんなんばっかり」 提督の声をやや誇張気味に真似する足柄
清霜「盗聴器がバレちゃったのは、歓迎会中の出来事?」
足柄「いや、その後よ。歓迎会後に盗聴器をそのまま提督のところへ持ってかれちゃったのよ」
足柄「その時に提督が執務室からなぜ出て来ないかがなんとなく分かったわ。分かったのは良いけれど……盗聴器についていた私の指紋を採取されて呼び出し食らってるってのが現状ね」
霞「盗聴器ねぇ……歓迎会を終わった直後に回収出来なかったの?」
足柄「にゃ!? あ? あぁ、うん。歓迎会が終わった後すぐに清掃が始まって、取りに行く余裕が無かったのよ(……そういやあん時回収すること忘れてたわ)」
霞「何突然変な声出してるのよ。でも、清掃中に取りに行くことだって出来たじゃない? ちょっとその辺はっきりしないわね」
大淀「(あっこれ足柄さん回収忘れてたんじゃ……)そんなことより、提督に盗聴器がバレて呼び出されてるんですよね!? これからどうするか考えなきゃ!」
足柄「(大淀ナイスフォロー!)そ、そうよね。どうしたらいいかしら……」
清霜「処罰が下るのは避けられないと思うけど……直接会える機会がある以上、弁解のしようはあるかも?」
霞「なるほど……一つ思いついたわ。会議が終わった後、私の部屋に来なさい足柄。稽古をつけてあげる」
足柄が霞から受けた“稽古”とは、翌日に迫った提督から受けるであろう尋問のシミュレーションするというもので、その内容は過酷かつ熾烈を極めた。
後に足柄は、『あの後三日ほど霞の顔を直視出来なかった。正直PTSDになっていてもおかしくなかったと思う』と語っている。
・・・・
翌日の執務室にて。部屋の中には提督と雪風、そして足柄がいる。
足柄「まず、盗聴していたことをお詫び申し上げます。今回の騒動は私の一存で起こしたものであり、他の艦娘との関与はありません」
足柄「いかなる処分も甘んじてお受けする覚悟です。ですが……非礼は承知の上です。どうか私の言い分を聞いて頂きたく存じ上げます」
提督(盗聴するような奴が反省するとも思えないが……しかし見事な演技だ。かなり苦しい立場で弁解せざるを得ない状況のくせに少しの迷いも見られない)
足柄「私は、提督に不信感を抱いていました。いえ、今も抱いています。その主たる理由は、常に仮面を被っていて素顔を見せない、執務室から一切出ることがなく私たち艦娘への指示も全て書類で行っている、という点です」
足柄「この鎮守府で事件があったことは事実です。ですが、そこまで露出を避けるのには、危険から身を守るため以外にも何か理由があるはずと推測しています」
足柄「貴方の私たち艦娘に対する接し方を見て、私は疑念を抱かざるを得ませんでした。今回盗聴を行ったのも、貴方の真意を探るためです」
足柄「地下の施設に引きこもって、一体何をしておられるのでしょうか。貴方は何を目的に動いているのですか?」 丁寧な口調ではあるが、次第に語気が鋭くなっていく
提督「俺の目的は……深海棲艦を殲滅し、この馬鹿げた戦いに幕を下ろすことだ。それ以外に何があるという?」
足柄「お言葉ですが提督。私の目には貴方がそれ以外に別の思惑で動いているように見て取れます。きっと他の艦娘も同じように思っているはずです!」
足柄「……私は! そんな回りくどい話が聞きたいのではありません! 貴方が腹の中で何を考えているか! それを聞かなければ納得出来ません!」
提督「答える必要はないし、お前に納得してもらう必要もない。あくまで俺は規則に基いてお前を処罰するだけだ。……話はここで終わりだ。工廠へ向かい、その場の妖精の指示を仰げ」
提督(……このまま処分するには惜しい人材なのかもしれんのだがな。追い詰められている状況にも関わらず逆にこの俺を追求するとは大した奴だ)
提督(だが、俺の目的を話すと余計面倒が起こりそうだしな。それに、立場上ここで折れてやるわけにもいかん。残念だが……)
389 :
【12/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/02/14(土) 09:09:02.74 ID:kmkYAStE0
雪風「ま、ま、ま、待って下さい! かっ、解体はあんまりだと! 思います、がっ!」 緊張のあまりイントネーションが愉快なことになっている雪風
一連の話を聞いていた雪風は思った。足柄の言っていることはもっともだ、艦娘たちがこの提督に対して疑念を抱いてもおかしなことではないと。
また、これまで第二艦隊は戦いの中でヴェアヴォルフに助けられたことがあり、それゆえに雪風は足柄の有用性も理解していた。
ここで彼女が鎮守府を去るのは提督にとっても自分たちにとってもマイナスである、と判断し、なけなしの勇気を振り絞って提督に異を唱えたのである!
提督「罪は罪だからな……。こいつに関連する者も全員処分しようと思っていたがそれは取りやめとする。……これが俺なりの最大限の譲歩であり情状酌量だ」
雪風「情状酌量ってこ、とは! ししし司令も、艦娘から疑念を持たれてる状況は、り、理解しているはずです! わ! 私も! しれえの真意が知りたいです!」
雪風「……あ、足柄さんの話を聞いて。私も、司令のことが気になりました。あ、あの、ここで足柄さんを解体したら、私も、提督のことが疑わしくなっちゃうかな、って……」
提督(……そうきたか。ここで突っぱねることは簡単だが、この先雪風が使えなくなると今後相当やり辛くなるんだよな……)
提督(今ようやく第二艦隊の面々をまともに扱えるようになるところまで漕ぎ着けたわけだ。言い方は悪いが、信用して使える駒が増えつつある状況というわけであり……)
提督(雪風に不信を抱かれたら他の第二艦隊の連中にも伝播してしまうだろう。そしたらまた響以外に頼る術を失う。ようやく鎮守府の内情が見え始めたこの状況で最初に出戻りはかなり痛い)
提督(ふむ、ならば……だ。少し試してみるか)
提督「良いだろう、雪風。ここでお前に見限られるのはこちらとしても辛い。……賭けをしようか」
提督「俺がこの先何をするつもりかを言い当てることが出来たなら足柄を不問にしてやる」
提督「ただし! チャンスは一度きり。惜しかろうがなんだろうが少しでも間違っていたならそれで終い。また、言い当てることが出来た場合はお前にも足柄にも俺の真の目的の為の協力をしてもらう」
雪風「の、望むところです! や、やりますっ! やりますとも!(考えなきゃ。考えろ……)」
しれえの真の目的は何か? 多分、“深海棲艦を滅ぼした後”のことをしれえは考えているのでは?
そうだ! ……ヒントは本棚にあるかも。
提督(ふむ、やはりそこを見て考えるよな。さて気づけるか……? 案外難しくないと思うが) 雪風の視線の先を追う提督
ええと、本棚にある本のタイトルは、と……。上段から順に……なになに?
『長生きするメダカの飼い方』『Artificial Intelligence "ELIZA"』『“どこでも”出来る! 簡単お料理教室』『有人宇宙飛行の歴史』一見普通に見えてヤバそうな本と普通にヤバそうな本がごちゃ混ぜですね……。
中段は……『禅の極意』『グラディヴィウス 攻略本』『恐るべきオーディオオカルトの世界』『まちづくりシミュレーション』『長生きの秘訣・呼吸健康法』『LISPプログラミング入門』『おいしいベトナムコーヒー』余計に意味が分からない……。
下段『アトランティスの謎』『深海生物図鑑』『地球の中心に関する考察』『「海の民」とは何者か?』『ヴォイニッチ手稿』『架空兵器は実現するか』うん……。
雪風(無理だこれー!?)ガビーン
れれれ、冷静になりましょう。前回本の配置が異なっていた時、欠けていた本を探しましょう。それが答えかも……『折り紙の折り方 基本から発展まで』絶対関係なさそう! というか、中段はわりと中身がバラバラで何の推測もつかないですね……。
でも、司令はきっと本棚の中の本を何のカテゴリ分けもせず無秩序に置いたりはしないですよね……性格的に。一番目につきやすい中段はミスリードを誘うためのフェイクかも。
下段は……かなりこじつけな推理ですけど、ひょっとしてひょっとすると深海棲艦に関連する本で分類しているのかもしれません。
なんとなく上段が怪しいような。人工知能、メダカ、料理、宇宙……ダメださっぱり分からない。
……もし私が言い当てることが出来たら、その司令の目的に協力してもらうってことは。一人の力では出来ないようなことですよね。かつ、深海棲艦を滅ぼした後に考えるようなこと……。
そういえば、遠い昔に宇宙でメダカの産卵に成功したことがあるとか、本で読んだ記憶があります。これって隣にある有人宇宙飛行に結びつくかも?
Artificial Intelligenceは……よく分からないですけどAIってやつですよね多分。これも宇宙開発が進んでいた時代は研究されてたとか……。料理の本も、“どこでも”なんて強調されてるのが妙に気になりますね……。となると……?
雪風「しれえの目的は……!」
宇宙に行くこと……? いや待て。しれえは宇宙に行っただけで満足するような人でしょうか? 違う。宇宙に行って何か……?
となると、中段の本とも話が繋がってくるのかも。衣服・音楽・ゲーム・インテリア……果ては折り紙まで、ありとあらゆる文化や生活に関する本で合致している。これが正解……かな!?
雪風「しれえは……! 宇宙に行って、どこかの星に移住するつもりなのではないでしょうか!?」
足柄「ちょっバカ何言って」 この世の終わりを目の当たりにしたかのような顔をする足柄
提督「正解だ、雪風。よく分かったな(“どこかの星”でぼかしたのは……見逃すか)」 雪風の方に手を伸ばし、かたく握手をする
足柄「!?!?!?!?!?!?」 目を白黒させて混乱している
提督「なぜ俺が今までこのことを話さなかったか理解頂けただろうか、足柄。お前たちには話す必要がないし、話した所で何の意味もない」
足柄「え? え? ……正気? 本気でそんなこと言ってるの?」
提督「当ッ然ッだ! 俺にとっては深海棲艦の殲滅など前哨戦に過ぎないッ!」
提督「……賭けは賭けだからな。お前の罪は不問としよう。知ってしまったからには協力してもらうぞ」
足柄にも手を差し出す提督。戸惑いながらも手を握る足柄。
足柄「ワケわかんないわ……」 放心状態で呟く
足柄(ワケわかんないけど……とにかく、良し? とした方がいいのかしらねこれは)
提督「足柄、雪風。今はまだその時では無いが……お前たち二人には、後にミッションを課す、俺の目的のため動いてもらうぞ」
雪風「はいッ! しれえッ!」 ビシッと敬礼
390 :
【13/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/02/14(土) 09:09:49.29 ID:kmkYAStE0
第四艦隊の会合室。暁・雷・電がくつろいでいる。
響「やれやれ……やっと捕まったね。久しぶりに話でもしようと思っていたというのに、まるで私を避けているみたいに居なくなるもんだから苦労したよ」
雷「もう、そんなわけないじゃない。姉妹なんだから」
響「姉妹“艦”だろう? 私たちは本当の姉妹じゃない」
暁「そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
電「そ、そんなことより……!」 険悪な雰囲気を遮るように電が声を発する
電「この鎮守府に戻ってきてから、すごいですよね……第二艦隊の旗艦だなんて。訓練生の頃は私たちと一緒だったのに……もう手が届かない存在になっちゃったのです」
その言葉を聞いた刹那顔をしかめ険しい表情をする響。しかしすぐに普段の無表情に戻る。
響「いいか? 私は君たちと世間話するために来たわけじゃない」
響「私は提督の命により、第四艦隊について調査している。つまり君たちに尋問する権利があるというわけだ」
響「単刀直入に聞こう。どこまで龍田と関わっている? 遠征で物資や燃料以外に“何を”運んでいる?」
雷「な、何を急に……私たちは普通に遠征しているだけよ」
響「そういう話を聞いているんじゃないんだよ。第四艦隊が秘密裏に麻薬の取引をしているなんて噂が流れているのを知らないのか?」
暁「しっ、知らないわよ! そんなこと! そんなこと、してないし……」
響「そうか。鎮守府内では結構な噂になっているんだけどね」
誰も口を開こうとしない。響の発する静かな怒気が少しずつ増していく。
響「物分かりが悪くて困るな。今話せば見逃してやると言っているんだ」
なおも沈黙。
響「……そう。ならそれもいい。私と龍田と、天秤にかけてそうなるようであればもう十分だ」
響「……覚悟しておくように。一切情はかけないよ」
部屋を出ようとする響に対し、暁が言葉を放つ。
暁「ッ……! 私たちを置いて……一人でどこかに行っていたくせにッ! 今更なんなの!? 偉そうに!」
暁「良いわよね響は! 練度も高くなって第二艦隊の旗艦も任されて! 提督にも気に入られて!」
暁「自慢しにでも来たの? 私はこんなに力があるんだぞって、えばりに来ただけじゃない!」
響「чёрт побери……!」
暁を突き飛ばし、殴りかかろうとする響。慌てて止めに入ろうとする雷と電。
雷「! 今のあんたが殴ったら、暁が死んじゃうじゃない!」
電「姉妹同士でこんなこと、やめて欲しいのです!」
声に気づき、静止する響。暁の襟首を放して、何も言わずに部屋を去っていく。
・・・・
バン! と腹いせに壁を殴る響。
瑞鶴「どうしたの? 随分荒れてるじゃない。珍しいわね」
響「そういうこともある」
瑞鶴「提督さんから直接指示を受けてるんでしょ? 大丈夫なの?」
響「ああ。いや、勘違いしないで欲しいのだが、司令官に対して腹を立てたわけではない」
響「ま……これで形振り構わなくて良くなった。かえって幸運と考えるべきか」
瑞鶴「……よく分かんないけど、あまり根を詰めすぎないでね」
391 :
【14/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/02/14(土) 09:13:22.32 ID:kmkYAStE0
響と暁たちとのやり取りを別室から聞いていた皐月と文月。
皐月「文月……凄いことになってたね」
文月「修羅場ってやつだねぇ……って皐月? どこ行くの?」 部屋を出てどこかに行こうとする皐月を静止する文月
皐月「遠征用の物資が保管されている資材庫に行って、荷物の中身を確認しにいく」
皐月「自分が麻薬を運んでるのかもしれないだなんて疑念を持ちながら艦隊の他の皆と一緒に過ごせる自信、ある?」
文月(皐月はヘンなところ真面目よね〜……)
文月「う〜ん……ヤな予感がするけどなぁ……」
・・・・
皐月「いやーこれだけ箱やドラム缶があると壮観だね」 資材庫に積まれている木箱の中身を物色する皐月
文月「……小包とかは封を開けちゃダメだよぉ? クビになっちゃうから」
皐月「分かってるって。元通りの状態に出来るものしか調べないよ」
皐月「……?(ネジやクズ鉄が大量に……、こんなもの何に使うんだろう。弾薬や燃料の他にも、食糧、本、嗜好品……なんでもあるんだな)」
・・・・
文月「何も見つからなかったねぇー。……もう帰ろうよぉー」
皐月「こっちも特に何も無かったなぁ。ただの噂だったのかもしれないね」
龍田「あ〜ら二人とも。何か探し物?」 ドラム缶を背負って入ってきた龍田
皐月「いっ、いえっ! ちょっと遠征用の物資の確認をしようかな〜……って」
龍田「そうなの〜殊勝なのね。でも、それは私がすることだから貴方たちは気にしなくていいのよ?」
皐月「すみません、入って日が浅いもんで……へへへ」
龍田「謝ることは無いわ〜。それより二人とも、今日は二人に見せたいものがあるの〜……。この後ちょっと良いかしら?」
文月「え、えっとぉー……(断らなきゃ……!)」
皐月「はい、分かりました」
文月(皐月!? これ絶対やばいやつだと思うよぉ〜!?)ヒソヒソ
皐月(文月は心配性だなぁ。さっき調べて何もやましいところは無いって分かっただろ?)ヒソヒソ
文月(……嫌な予感しかしないよぉ〜)
・・・・
二人が案内されたのは地下通路の一室だった。
皐月たちの目に映ったのは、コンクリートの壁にもたれかかり、床に足と腕を伸ばしている女性の姿だった。
紺色の髪をしていて、眼帯をつけている。背中には艤装を背負っているようだ。
部屋の中を見渡すと、他にも二人の艦娘と思しき女性が、うつ伏せに倒れている。
二人の顔から血の気が失せていく。
文月「なんですか……これ……」
龍田「轟沈した艦娘よ。……正確には、轟沈するはずだった艦娘」
龍田「着底しかけていた艦娘を、陸まで曳航したの。でも、助からなかった。入渠させて傷は治ったけれど、再び動き出すことは無かったの」
龍田「私は、ね……それでも諦めていないの。だって、死んだ人間なら、身体が腐って朽ちていくはずでしょう?」
龍田「でも、ここに居る子たちは自ずから動かないという点を除けば轟沈する直前と何ら変わっていない。生きているのよ」
龍田「私は、この子たちが再び動き出せるようになって欲しいの……」
皐月「……どうして、ボクたちをここに連れてきたんですか?」
龍田「私は……他の誰に何と思われていようと、第四艦隊のことを家族と思っているから。貴方たちのことも、勿論そう」
龍田「だから、私のことも知っておいて欲しいし……出来ることなら私の理想に協力して欲しいわね〜」
龍田「それだけ。貴方達が私に不信感を抱いているというのであればそれでも構わないけれど、ちょっと悲しいわ〜。泣いちゃうかも〜」
皐月と文月には、龍田が善なのか悪なのか、本心ではどう考えているかが分からなかった。
いずれにせよ、とんでもない食わせ者には違いないのだろう、ということだけは認識していた。
392 :
【15/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/02/14(土) 09:14:42.22 ID:kmkYAStE0
レストランで食事をしている提督・翔鶴・瑞鶴。
鎮守府内にはこのような艦娘専用(厳密には鎮守府内で働く職員らも含まれる)の娯楽施設や商業施設が設置されている。
提督(……前回の歓迎会が、無目的で行われたものだったとはな……。人事異動を暗に勧めているとか少しでも考えた俺が馬鹿だったようだ)
提督(利害以外の理由で動く人間の思考ルーチンはわからん……。ま、いくつか気になることはある。せっかくだから話を聞いてみるか)
瑞鶴「提督さん、悩み事? 歓迎会の話をしたあたりから、急に黙っちゃって」
提督「……いや、最近響の様子が妙でな。何か気づいたことはないか?」
瑞鶴「あー、なんか第四艦隊の人達とやり合ってたみたい。詳しくは知らないけど……第四艦隊の面子の中には響の姉妹艦も居るみたいだし」
提督「暁、雷、電の三名だな(彼女たちもクロ……なのだろうか。だとしたら響には酷な依頼をしてしまったかもしれん。雪風あたりに尋問させるべきだったか……いや、アイツじゃ無理か)」
提督「戦場での様子はどうだ? ……疲労を訴えていたり、不調だったりしてはいないか?」
翔鶴「戦場では普段通りですね。別段問題ないように思えますが……」
提督「そうか。ならば問題ない。精神的な不調が影響して沈まれては困る(……とはいえ、ヴェールヌイのことは心配だな。後で話をしてみるか)」
瑞鶴「てーとくさん、意外とメンタル的な部分気にかけてるんだね。そういう感情的な部分は全部切り捨ててる人かと思ったけど」
提督「精神面での不調も馬鹿にできたものではないぞ。現に第二艦隊の榛名と霧島は個人的な対立によって双方の戦果に悪影響を及ぼしているではないか」
翔鶴「確かにそうですねぇ……。あの二人はちょっと心配です。二人とも悪い人ではないのですけれど……」
瑞鶴「提督さんの歓迎会の時も、なんか水面下で揉めてたっぽいしねぇ……。っていうか、前はあんなに仲悪くなかったよね。どうしてああなっちゃったんだろ」
提督(……子供の喧嘩じゃあるまいし、仕事なのだから割り切って欲しいものなのだが。とはいえ、何かしら事情はあるんだろうな)
加賀「あら五航戦と……提督? 珍しいですね」
提督「あぁ、加賀か。もし良かったら相席どうだ?」
加賀「そうね。赤城さんも今は居ないし……そうするわ」
・・・・
提督「第一艦隊の様子はどうだ? ま、報告書から粗方の想像はつくが」
加賀「連携を意識した途端、皆総崩れになるわね。それぞれが単騎で敵と当たることが多かった経験が邪魔して、一丸になって敵を倒すというイメージが難しいみたい」
加賀「私や赤城さん、飛龍と、空母の方は比較的足並みが揃うようになってきたけれど……戦艦の人たちとは反りが合わないわね」
瑞鶴「そんなことでは後輩に抜かれるのも時間の問題ですねぇ〜」
加賀「五航戦は口先に見合った実力さえあれば文句ないのだけれど。問題はそんな事を言える資格が無いぐらいに練度がお粗末なことね」
提督「やめんか。……第一艦隊の戦艦と反りが合わないと言っていたな、加賀。原因は金剛だろう?」
加賀「ええ。……ハッキリ言ってあの人とはうまくやっていけないわ。他の人もそう思っているんじゃないかしら」
提督「個で最強であっても、全体の足を引っ張るようであれば集団戦では使えんな。……奴曰く『“精神的不調”で上手くいっていない』ようだが」
提督「……近いうちに、第一・第二艦隊の大規模な再編を行うつもりだ。これまでのような出来合いの艦隊編成ではなく“来るべき深海棲艦との最後決戦”を想定した編成だ」
提督「いかに第一艦隊のお前たちが個での戦いに絶対の自信があろうと、深海棲艦の力はそれさえも上回る。練度も経験も上回るほどの圧倒的な性能でお前たちの前に立ち塞がるだろう」
提督「そうした脅威を打ち払うためには高度な連携が不可欠となる。それを肝に銘じておくように」
加賀「ええ……承知しました」
提督「不確定な情報が多いため今話せることは僅かだが……正規空母であるお前たちの活躍には期待している。修練を怠らぬように」
・・・・
空母用の訓練場。矢を射る翔鶴と、その様子を見ている加賀。
加賀「翔鶴。……迷いが見えるわ。一射絶命よ、忘れたの? 放った一本の矢に全てを懸ける気概でなくては、正規空母は務まらないわ」
翔鶴「どうしても、最後の戦い、というもののイメージが沸かなくて……」 構えを解く翔鶴
加賀「そうね、私も同じだわ。でも、あの提督は冗談であんなことを言うような方ではないはずよ。……覚悟と勝算を持って、本気で言っているのでしょう」
翔鶴「戦いが終わったら、私たちはどうなるんでしょうか。どうすればいいんでしょうか」
加賀「……一射絶命。私が今の貴方に言えるのはそれだけね。全ての迷いを捨て去り、己自らが真善美を体現する存在となった時、究極の一射は完成する……」
加賀「その境地に辿り着いた時、全てが分かると思うわ。私も、赤城さんでさえも、未だその片鱗しか見えていないけれど……ね」
393 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/02/14(土) 09:36:51.63 ID:kmkYAStE0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~15/100)
・足柄の経験値+1(現在値5)
・雪風の経験値+1(現在値4)
・響の経験値+1(現在値2)
・皐月の経験値+1(現在値3)
・翔鶴の経験値+1(現在値3)
----------------------------------------------------------------------
投下めっちゃ遅れてしまいました。楽しみに待ってくれてた方が居たら申し訳ありませんと謝っておきます(居るの?)。
原則としてレス順番の通りに進めるけどそんなに拘りないからPhase Aで「次はこのキャラの出番があると作者的にやりやすいんだろうなー」「上のレスでこうだからー……」とか気を遣わなくて大丈夫です。
ということを示すべくちょっとレスの順番から変えてみたり。
っていうかまーたエターナりそうな展開運びしやがって……相変わらず味付けが濃すぎて人によっては拒否反応を起こしそうな感じですが今更すぎますね。
最近リアルがアレすぎるのでわりとマジでエターナ率が上昇してるかもです。
まあ失踪したらしたでしょうがないよねということで……。
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【16-20/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00〜16:雪風
17〜33:翔鶴
34〜50:金剛
51〜67:響
68〜83:足柄
84〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい。
----------------------------------------------------------------------
394 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/14(土) 10:23:24.58 ID:WNRXkQUAO
足柄さん来い
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/14(土) 22:39:54.30 ID:Rft0d+POo
ぽい
396 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/17(火) 21:38:46.73 ID:MfwNGZJbo
ん
397 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/18(水) 10:59:07.29 ID:S/9IDHevo
ぽぽい
398 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/18(水) 21:12:59.49 ID:U2kJ1KBEo
おう
399 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/02/18(水) 21:58:27.38 ID:TZcYd6us0
>>394
-
>>399
より
・響1レス/翔鶴2レス/足柄1レス/金剛1レス
で『Phase B』が進行していきます。
////チラシ裏////
朝の光眩しくて……ウェイッカァァァァァ!
E5甲突破しました。まあE3E4は乙なのでモグリみたいなもんですけど。
弾薬20000切ったしこれでダメだったら乙あるいは丙にシフトするかーと思っていた矢先に夜戦カットインの嵐が起こってなんとか抜けれました。
ラストダンス試行回数は数えてないけど20回ぐらいなんで、比較的運は良い方らしいです。
ただ、連合艦隊+支援二艦隊の計24隻三重キラキラ維持状態で10回ぐらいボス仕留められなかったを考慮すると資源消費がマシだっただけで時間的コストはかなり費やしてます(あと体力と精神力)。
途中から心折れたのでF12キーでcond値確認しながらキラ付けしてました。いやホント戦艦水鬼は帰ってくれ……。
今回のイベントのMVPはビスマルクですねー。実戦投入は初めてだったんですけど強いっすねこの子。
旗艦に据えるとコンスタントにカットインぶっ放してくれるのでなかなか有用です。
とりあえずたくさん褒めておきます。
今後の堀りのターゲットは舞風・能代・伊401ですが間に合うか微妙ですね(朝霜はついさっき出た)。
特に伊401はここで手に入れておきたい所なんですけれども。
磯風? いやね、すまんな浜風。道中ならまだしも最終形態のあの布陣で磯風ドロップまでS勝利を取り続けるっていうのはね、うちの艦隊の地力だと宝くじの2等に当選するぐらいの豪運が必要なんだよ……。
本土強襲されて守れなかったってわりともうその時点でゲームオーバーな気はしなくもない。※
※磯風の初登場は14夏E6報酬。14夏E6はAL/MI作戦進行中に敵艦隊が本土に迫ってきたので迎撃せよという旨の作戦である。E
400 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/02/18(水) 22:12:21.36 ID:TZcYd6us0
あ、
>>394
-
>>398
でしたね。あと謎のEは気にしてはいけないのである。
来週のどこかで投下するつもりです〜と大変アバウトな告知をしておきます。
401 :
【16/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/01(日) 23:26:15.46 ID:6xb+D3Qx0
自室で瑞鶴と雑談している翔鶴。
瑞鶴「しょーかくねぇ聞いてー、こないだの戦果を加賀さんに自慢したら『それくらいで調子に乗らないように』って言われてさー」
瑞鶴「戦場が違うとはいえ、その時の加賀さんよりも戦果を上げてたのに『調子に乗らないように』って偉そうじゃない!?」
翔鶴「加賀さんは私たちの指導役なのだから、そんな風に言ってはいけませんよ瑞鶴。私たちの今の強さも加賀さんから教わったものを受け継いだからです」
瑞鶴「それはそうだけどさぁー……いいじゃんたまには愚痴っても。ところで、翔鶴姉も最近調子良いよね? 敵艦を一度に二隻に沈めたりさぁ」
翔鶴「私は未熟者だから、その場その場で最善手を尽くそうとしているだけよ。でも、それが良いのかもしれないわね」
赤城「正射必中……正しき射は自分を裏切らない。殊勝な心がけね、翔鶴」 部屋の外から声かける赤城
翔鶴「赤城さん。どうされたんですか?」 扉を開け赤城を招き入れる翔鶴
赤城「二航戦の子たちに稽古をつけてあげていたら、小腹が空いてしまって……これからどこかに食べに行こうかなと。もし良かったらお二人もどうですか? 奢りますよ」 ニコリと微笑む赤城
瑞鶴「おおっ、行きます行きます! やっぱりケチな加賀さんとは違うなー、自分から呼び出しておいていつも割り勘だもん」
・・・・
鎮守府内のラーメン屋。赤城の丼には山盛りのモヤシが盛られている。
瑞鶴「ええっ……これで小腹……?」
赤城「見た目は多いように見えますけど、麺の量をだいぶ減らしてもらっているのでさほど胃への負担は少ないんですよ」
赤城「加賀さんは洒落たお店じゃないと行きたがらないし、二航戦の子たちにも飽きたと言われてしまったのでお二人を誘ったんですよ」
翔鶴「第一艦隊の他の方とは行かないんですか?」
赤城「うーん、皆高級レストランやお寿司屋さんの方が好きみたいなので、誘い辛いですね。私はこういうお店の方が通いやすくて好きなのですけれど」
赤城「そういえば、加賀さんの指導はどう?」
瑞鶴「なんだかなんだ教え方も分かりやすいし、実力“は”尊敬していますねー」
翔鶴「あら、瑞鶴が加賀さんを褒めるなんて雪でも降るんじゃないかしら」
赤城「うふふ。二人がメキメキと力をつけているから、最近は何を課題に与えていいのか悩むって言ってたわよ。吸収が早いって」
瑞鶴「えぇ……口を開けば小言とイチャモンしか言わないあの人が?」
加賀「尊敬する赤城さんの前でこの私を侮辱しましたね。頭に来ました」
瑞鶴「げげっ! うわわわっ! 翔鶴ねえ助けて!」 突如現れた加賀に後ろから襟首を掴まれて引きづられていく瑞鶴
加賀「教育的指導が必要ですね……長幼の序をその身に叩き込んであげますから覚悟しなさい」
瑞鶴「死ぬーっ! 焼き鳥屋に殺されるーっ!」 ズルズル……
赤城(何をしに来たんでしょうか……)
・・・・
赤城「……第一艦隊と第二艦隊の再編があるそうね」
翔鶴「先輩も気になりますか?」
赤城「ええ。長らく変動の無かった第一・第二艦隊の大規模な人事異動、それも空母機動部隊を主軸とした決戦用の艦隊…………」
赤城「いよいよ、と言うべきか、ようやく、と言うべきか……」
翔鶴「先輩は前代の提督の時から空母部隊の重要性を主張しておられましたよね?」
赤城「ええ。これまでこの鎮守府では、激戦区でも問題なく戦える空母が私と加賀さんだけでした。でも、今は二航戦の飛龍・蒼龍、それに貴方たちが居るわ」
翔鶴「先輩に認めて頂けるなんて……恐縮です」
赤城「貴方たち二人もここ数年で十分な力をつけたと思うわ。でも、それにかまけていてはダメよ」
赤城「二航戦の二人の練度は、今や私と加賀さんに匹敵……いや、ひょっとするとそれ以上かもしれないわ。貴方も上を目指して精進することね」
翔鶴「ええ。当然です」 毅然とした態度で言い放つ翔鶴
赤城(おっとりした子だと思っていたけれど……意外にも精神的な『餓え』を秘めた眼をしているわね。私や加賀さんのことさえも通過点としか見なしていないような、そんな眼……)
赤城(彼女ならあるいは……)
402 :
【17/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/01(日) 23:39:13.07 ID:6xb+D3Qx0
執務室。提督に第四艦隊に関する調査結果を報告する響。
提督「……早かったな」
響「いや、これでも時間がかかってしまった方だ。少し手間取った」
自分の作った資料を提督に手渡す響。
響「見てもらえば分かると思うけど、その資料には例の一件に関与している者のリスト及びその根拠を書き記している。一部は写真に収めることが出来たものもある」
響「関与した人間の全てを洗い出すことは出来なかったけど、これで粗方一網打尽に出来るとは思う」
自信ありげな口ぶりの響。
提督「ご苦労だった。いよいよ打って出る時が来たようだな」
提督「……話は変わるがヴェールヌイ。調子はどうだ?」
響「いいや、特に変わりないよ。問題ない」
提督「そうか。いや、最近妙に上の空だったので心配していたのだ」
響「……」
提督「姉妹のことが気になるか?」
響「気にならないと言えば、嘘になる。だが……その資料にも書いてある通り、処断しないわけにはいかない」
響「今となってはもはや他人さ」
提督「そうか。……今のお前の居場所はどこにある? 誰の為に生きている? 何の為に生きている?」
響「? どうしたんだい司令官。禅問答でもする気かい」
提督「いや、お前はかつての姉妹と今の地位とを天秤にかけた上でこちら側に傾いたわけだろう。その理由が気になるだけだ」
響「まるで私が第四艦隊の側に着くと思っていたような言い方は少し気に障るな」
提督「そうではない。むしろ、お前のことは信頼している。信じていなければこんな依頼などするものか」
提督「だが……。いや、よそう。妙な事を聞いたな。すまなかった」
提督「俺にも兄弟が居るんでな。お前を見て少し感傷的になっただけだ。気にするな」
響「私は、自分を信じてくれる者の為に応えたい。司令官が私を信じてくれるというのであれば、私もその期待を裏切るわけにはいかない」
響「……少し、個人的な話をすると。私は姉妹たちのことを軽蔑している」
響「私は自分の力でこの高みまで昇り詰めてきた。貴方に全幅の信頼を寄せられるほどの“私”になることが出来た」
響「私は自分の理想を貫き通したからだ。試練を乗り越えてきたからだ。あの姉妹たちと一緒に居た頃に思い描いてきた理想を現実に変えるまで戦ったからだ」
響「勿論、まだ完全に実現出来たわけじゃない。けれど、私は決して自分自身を裏切らなかった」
響「だからこそ欺瞞が許せない。口で理想を語りながらもそれを実現しようともしない弱さが許せない」
響「……それがかつて各々の望みを語り、それを果たそうと誓い合った仲だったとしても。いや、だからこそ、だ。ましてや私利で悪事に走るなど失望甚だしいさ」
提督(苛烈だな……だが、なかなかどうして芯の強い奴じゃないか。気に入った)
響「すまない。熱くなりすぎたようだ。少し頭を冷やしてくる」
・・・・
数日後。響の提出した資料を元に、麻薬取引に関与した者の一斉取締を行った提督。
提督「さて……一連の関係者を一層、被疑者及び関係者の拘束も済んだ。残るは龍田ら第四艦隊の面々のみ。もはや袋の鼠だな」
響「司令官自ら出向くとはどういう風の吹き回しだい?」
提督「俺が直接方をつけた……というポーズが必要だ。政治的にな」
提督「人が人の上に立つには、下々の者を自分の思惑通りに動かそうという意志・その野望を成し遂げるに十分な器量……そして部下の支持が必要だ」
提督「支持を得るには、財や権利などの何かしらの利益を提供する、人間的な魅力やカリスマ性で心酔させる……いくつかの方法がある」
提督「俺は自分自身を勇と知は満たすが仁は備わっていない、と客観視している。また、ここに居る艦娘全てを従わせるだけの財や幸福を用意することは出来ない」
提督「だがこんな所で二の足を踏んでいるわけにもいかない。とまで言えばもう分かるな? 清廉潔白である様を示せば、今出回っている俺に対するよからぬ噂も払拭出来るだろう。行くぞ!」
403 :
【18/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/01(日) 23:39:50.34 ID:6xb+D3Qx0
鎮守府の地下道。堅牢な鉄扉の鍵を打ち壊し、大麻が栽培されている部屋に突入する提督と響。
提督「命数尽きたな。観念しろ!」
暁「龍田さん! ここは私たちが食い止めるから……逃げてっ!」
加古「あーあーあーあー……面倒なことになっちゃったねーこりゃあ」
提督(この鎮守府に不在籍の艦娘……他所からの侵入者か……!)
加古「っと、そう怖い顔しないで欲しいね。こっちも仕事なんで、なっ! と」 砲撃を壁に放ち、逃走する加古と龍田。
雷「響……悪いけど、ここから先には行かせないわよ!」
響「クッ……逃してたまるか! お前たちに構っている暇はない、蹴散らしてやる」
提督「ヴェールヌイよ。心配要らん、これも予測の範囲内だ。お前はここで交戦し、この者たちの身柄を確保しろ。……殺すなよ」
身を翻し部屋を出て行く提督。パチンと指を鳴らし、高らかに叫ぶ。
提督「さて生中継をご覧の諸君! かの艦娘、龍田はあろうことか違法薬物の取引をし、不当な利益を得ていたこの鎮守府の大敵である!」
提督「特例だ! 奴を捕捉し、俺の前に連れてきた者には褒美を遣わすッ!」
・・・・
足柄(突然『すぐに出撃出来る準備をしておけ』だなんて訳の分からない命令が来たと思ったら……こういうことね!)
足柄「待ちなさァーい! その首、置いてけぇぇ〜ッ!!」 全速力で駆け寄る足柄
加古「ええっ!? もう追手が来てんじゃん! これマジに逃げないとヤバいって!?」
龍田「今手が離せないのよ〜……ちょっと時間を稼いで頂戴〜?」 穏やかな口調とは裏腹に激しい剣幕でスマートフォンを操作する龍田
加古「ちょっと! 本気で言ってんのそれ!?」
足柄「久しぶりの出撃だからね! たっくさん暴れさせてもらうわよッッッ!」 龍田たちの方向へ容赦なく砲撃する足柄
加古「(うげげ……力の差がありすぎるよこりゃ……)本当にちょっとの時間しか稼げないかんねっ!? 知らないよッ!?」 足柄に気圧されつつも反撃する加古
・・・・
足柄「さあ観念するのね! ここで私に大人しく捕まるか! 海に沈んで深海棲艦のお仲間になるか! 私はどっちでも構わないわよ!」
加古「ぃてててて……ちょっとこりゃ洒落にならないよマジで……(これ以上損傷すると逃げながら戦うのは不可能……遠くからも追手が来ているみたいだし、ここで撤収しないともうどうにもならんね……)」
龍田「うふふ、ありがとね〜。加古ちゃんはもう帰っていいわよ〜?」 加古の後方へ下がり、槍を構え足柄と対峙する龍田
龍田「……こんな所で私と心中したくはないでしょう? 行きなさいッ!」
加古「スマン龍田。達者でねっ!」
足柄「あっ、ちょっと待ちなさいよッ!」 足柄が逃げる加古を追おうとするや否や、自分が今まで逃げてきた鎮守府の方向に逆走する龍田
龍田「鬼さんこちら〜♪」
足柄「ちィッ! ……手負いのあの重巡を大破まで追い込んで鎮守府まで運ぶのは簡単……でも、それは目の前のアイツを倒してから!」
全速力で龍田を猛追する足柄。砲の嵐をうまく避けながら逃走を続ける。
龍田(ここまで来れば安心かしら) 突然ピタリと立ち止まる龍田
足柄「突然航行をやめた……? 一体何を」
龍田「もはやここまでねぇ〜……降参です〜」 ポケットから白旗を取り出し、わざとらしくそれを振ってみせる
足柄「は?」
龍田「もうこれ以上逃げ回っても私に勝ち目はないわ。鎮守府まで連れてってもらえるかしら?」
足柄(……なるほど。最初からこうするつもりだったというわけね。ここからだともうあの重巡を追うのは恐らく困難。……してやられたわッ!)
・・・・
提督「ご苦労だったな足柄。大儀である」
足柄「芝居がかった口調はやめてください。それに、もう一隻の方は取り逃してしまったし……はっきり言って、試合に勝って勝負に負けた気分だわ」
提督「いや、迅速な対応、見事であったぞ。約束通り褒美を遣わそう(……まだ映像中継で撮られているからあまりぶっちゃけた話は出来んのだ。この場はお前を立ててやるから素直に応じておけ)」 小声で足柄に囁く
404 :
【19/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/01(日) 23:40:21.55 ID:6xb+D3Qx0
提督「……これにて決着というわけか。撮影ご苦労雪風。足柄よ、後ほど話があるが……今は一先ず休んでもらって構わない」
提督「さて……俺は奴の尋問へ向かうとするか」
鎮守府内の軍事刑務所取調室。龍田に問いかける提督。
提督「ご機嫌いかがかな。色々と聞かねばならぬことは多いが。目的は何だ?」
龍田「あらぁ〜そんな凄まれても答えると思」
提督「獄卒よ、拷問用の道具は不要だ。こいつから差し押さえた薬物を持って来い。自白剤代わりに使わせてもらうとしよう」
龍田「ヒッ! ……じょ、冗談よ〜」 あからさまに脅えた表情を見せる龍田
提督「こっちは冗談で言ったつもりは無いんだがな。いやな、俺はお前のことを心底軽蔑をしてはいるが、能力に関しては大したものだと思っているぞ。今まで誰にも気づかれず麻薬の元締めをしていたとはな」
提督「疑問なのは、なぜこの鎮守府内で“仲介者”が存在しなかったのか、だ。この鎮守府内の薬物所持者は皆、『お前から買った』と言っている。
大麻を栽培し、薬物を取引していたようなお前が、なぜ直接買い主とやり取りしていたのか……そこが気になる。
管理と監視の厳しい艦娘相手に売っていなかったのは賢明だろうが、それでも自分の働く職員や整備員相手に自分の顔を晒して売っていたというのが不自然だ」
龍田「仲介が居た方が危険だと思ったからよ〜? それに、この鎮守府内での稼ぎはオマケのようなもの。大事にならない程度のどうしようもない相手にしか売ってないわ」
提督(ふむ、さしてこいつの味方はいないらしいな……)
提督「なるほど。これは俺の推測だが、主な取引先は大陸の連中だな?」
龍田「そうよ〜? 既に深海棲艦に荒らし尽くされ国としての体も成していない、無法地帯でなら何をしても問題無いでしょう?」
提督「やはり、か。今まで発覚しなかったのもそのせいだな。ところで……」
トゥルルルルル ピッ
提督「むむ、すまない今は取り込み中なんだが……何? 分かった。……いや、俺が行った方が良いだろう」 電話に応じる提督
提督「やってくれたな。……獄卒、俺が戻ってくるまでコイツを決して逃がすな。良いな?」 憎憎しげに龍田を睨んだ後、部屋から出て行く
・・・・
響「司令官、緊急事態だ」 執務室前の廊下で提督を待っていた響
提督「分かっている。……にしても、今の時代に海賊とはな。時代錯誤も甚だしい」
提督「大方龍田の仕業なのは分かってはいるが……、よりにもよってこの国で最強の兵器である艦娘が在籍している場である鎮守府を狙うというのは一体どういう腹積もりなんだろうな」
提督「ヴェールヌイ、雪風を連れ不審船の船員を取り締まれ。相手は人間だ、お前達が本気を出したらミンチになりかねないので加減はしろ」
提督「上陸した賊は……翔鶴! 良いところに来たな。こいつに何とかしてもらう」
翔鶴「え? え?」
翔鶴「鎮守府内で索敵なんて……初めてなんですけど」
提督「プロは仕事を選ばんものだ。何とかして見せろ」
翔鶴「え? えぇ〜……? やってみますけど」 んな無茶な、とでも言いたげな表情をする翔鶴
・・・・
翔鶴「武装した人間が……100名超! その多くが資材庫に向かっています!」
提督「資材庫……アレが狙いか。騒ぎのあった今ならば……とでも思っているのだろうが! バカどもに引導を渡してやろう! 行くぞ翔鶴ッ!」
翔鶴「提督自ら行くんですか!? 危険です!」
提督「そう思うならお前が俺を守ればよかろう。なに心配するな、賊にくれてやるほどこの命、安くはない」
翔鶴「?!」
翔鶴(というか、命を狙われる危険があるかもしれないからという理由で今まで執務室から出てこなかったのでは……?)
・・・・
資材庫に押し寄せ、略奪を行っている海賊の群れに向かって一喝する提督。
提督「愚か者どもめがッ!!!!」
海賊A「なんだァてめぇは? ……あァ? ゲゲッ、艦娘が居るじゃねえか!?」
海賊B「ヒィッ!? もう艦娘が来ちまったのか!? 撤収だ、撤収」
405 :
【20/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/01(日) 23:40:48.94 ID:6xb+D3Qx0
提督「我こそはこの佐世保鎮守府の全権を担う提督であるッ! 狼藉者どもめに鉄槌を与えに来たッ!」 堂々たる様子で海賊たちに言い放つ提督。
提督以外のその場に居た人間の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
海賊C「か、艦娘が居ようがコイツをとっちめちまえば関係ねえだろ! やっちまえ!」
海賊D「そっ、そうだそうだ、人質にすればこいつらも手を出せねえ! やっちまえ!」
提督「翔鶴! 後は任せたぞ!」 翔鶴の方を向いて親指を突きたてる提督。既に海賊に囲まれつつある
・・・・
比叡「金剛お姉さま? 何を見ておられるのですか?」
無言で海賊の群れを指す金剛。
比叡「あれは……! 一体何の騒ぎですか!? お姉様!」
金剛「分かりませんが、パイレーツがこの鎮守府にアターックを仕掛けてきたみたいデース」
金剛「恐らくはさっき放送のあった龍田の一件と関係してるんでしょうガ……。なんでテートクがあの群れの中に飛び込んで行くデース!? 理解不能すぎマース!!」
比叡「お姉様!? 冷静に分析してないで私たちも助けに行った方が良いのではないでしょうか?」
金剛「Oh! それもそうデスネ! ファイヤー!!」
窓をぶち破って資材庫前に群がる人ごみ目掛けて砲を放つ金剛。
提督「加減しろ! 莫迦が!」 取り押えられて簀巻き状態になっている提督
翔鶴「て、提督……そんなこと言ってる場合じゃないと思います!」 弓を奪われ同じく簀巻き状態にされている翔鶴
金剛「威嚇射撃だから問題ありまセーン! サァ、金剛型一番艦! 金剛がお相手シマース!」
海賊A「戦艦だと!? まずい! ずらかるぞ」
金剛「もう遅いデース!」 ダブルラリアットで海賊の群れを猛進し次々に伸していく金剛
比叡「この比叡! 悪党を逃がしはしません!」 逃げようととした海賊に鉄拳制裁を加えていく比叡
提督「もしもし? 了解。では、後は他の者に任せておけ。ヴェールヌイは例の地下の部屋へ、雪風は龍田の部屋へ向かってくれ。いや念のためだ、それから、雪風は……」 騒ぎに紛れて平然と響たちと連絡を取る提督
翔鶴(なんかいつの間に縄ほどいてる!?)
・・・・
提督「やれやれ……加減しろと言ったのに。これから尋問しなければならんのに声も出せなくなるほどのトラウマを植えつけてどうするんだ」
金剛「Sorryテートクゥー! でも、決めるところはビシッと決めないとダメデース!」
提督「まぁ確かにそうではあるが……。ところで金剛よ、お前、きちんと精神鑑定は受けたんだろうな?」
金剛「ダァカァラァー! ワタシはいたって心身ともに健全って言ってるデース!?」
提督「ふむ、それは残念だ。……それはそうと、ここから先は真面目な話。例の“不調”はまだ続くのか?」
金剛「ハイ。でも、やっぱりワタシ、人と合わせて動くのが苦手みたいデス……」
提督「そうか。では次回の編成では第一艦隊を外れてもらう」
金剛「!? ちょ、ちょっと待って欲しいデース! もう少しだけ猶予を! 頑張るから見捨てないで欲しいデース!?」
提督「……金剛。今のお前が第一艦隊の旗艦であり続けることに何の意味がある? 結果を出せない者が高い地位に居座り続けていることを正しいと思うか?」
金剛「そ、それは……。でも、今までとはやり方が違うから……」
提督「そうだな。従来の戦い方であればお前は一番活躍していた。だが、それは今の俺のやり方とは異なる。そして今の俺のやり方の方が総合的に見て被害を抑え結果を出すことが出来ている。
どちらに順応すべきかは自ずと答えが出ることよな?」
返事は無いが、奥歯を噛み締めながら屈辱に満ちた顔をしている金剛。
提督「金剛……お前が第一艦隊の旗艦であることに拘泥する理由はなんだ? 地位か? 羨望か? 実利か?」
金剛「ワタシは……ナンバーワンであり続けたいデース……。そうでなければ……そうでなければ、幸せになれないデース」
提督「……お前にどんな過去があったかは知らんし興味もないが、とにかく第一艦隊からは外れてもらう。が“ナンバーワン”とやらにはなれるかもしれん。お前の働き次第では、な」
提督「お前の力は、集団の中では発揮されないのかもしれないが、俺はお前の能力を買っている。だからお前にはこれまでとは全く異なる任を与える」
提督「もう俺にくだらん媚を売るのはよせ。ただ結果のみで応えろ。お前の働きに俺は応じるだけだ」
406 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/01(日) 23:50:34.59 ID:6xb+D3Qx0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~20/100)
・響の経験値+2(現在値4)
・翔鶴の経験値+4(現在値7)
・足柄の経験値+2(現在値7)
・金剛の経験値+2(現在値5)
----------------------------------------------------------------------
今週中とか言ってどうせまた遅れるんでしょムードが漂ってましたが……滑り込みました。極道入稿ならぬ極道投下。
いやまあモチベとか体力とかリアルとか色々あるし仕方ないわよね。
仕方ないけど仕方ないとか言ってたらいつまで経っても仕方ないままなのが人生の仕方ないところだ。
次回……は、投下できそうになったらまた告知するです。つまり未定。
////チラシの裏////
大鳳!!!!!!!!!出たの!!!!!!!大鳳!!!!!!!タウイタウイの!!!!!!!大鳳!!!!!!!!
残るは大和だけです。大型卒業すれば精神的に楽になるし、イベントでも資源消費を恐れずキラ付け無しの突貫プレイが出来るようになるので、なんとか揃えたいところだが……そう甘くないのが大型建造。
あと菱餅出ねえ! 全然出ねえ! 間に合う気しねえ! でも3-3粘着してたら舞風出たのはラッキー! だがもう資源がねえ!
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【21-25/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい。
----------------------------------------------------------------------
407 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/02(月) 00:45:32.31 ID:CrCeGd7po
乙です
皐月
408 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/03(火) 00:02:03.71 ID:2tgd7hPVo
乙 足柄
409 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/03(火) 00:28:30.46 ID:G+s580BAo
響
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/04(水) 01:21:54.72 ID:27bA1YNY0
乙 響
411 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/04(水) 04:39:09.98 ID:v+aqEA1so
雪風
412 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/03/04(水) 12:21:31.56 ID:5+QqwhszO
>>407
-
>>411
より
・皐月1レス/足柄1レス/響2レス/雪風1レス
で『Phase A』が進行していきます。
そういえばPhase Aではまだゾロ目出てませんね。
若干エクストライベントの存在を自分で忘れかけてました。
何かシチュエーションを書いておくと〜みたいなことを前に書いておきましたが、アレはアレです。
ネタを出してもらうことを期待しているわけではなく、作者さえも抗えないデウス・エクス・マキナが起こりうる“余地がある”、ということに意味があるんです。
実際その機械仕掛けご都合ゴッドが動くかどうかは問題ではなく、『作者の意図していないことが発生するという可能性もある』ってしておいた方が面白そう! ってだけです。
……さすがにそこまでスケールのデカい何かが飛んでくることは無いと思ってますし、「ここちょっと塩味欲しいな」とかそんな感覚で書いてもらって構いません。
そもそも書いた所でゾロ目出さなきゃいけないとかそんなんなんで実現性薄いですしね。
えらく大袈裟に書いたけど思惑はだいたいそんな感じなのです。
////チラシっぽい////
最近艦これで初めて元帥になりました。600位とか初めてでビビりました。
月末には大将〜中将になってるでしょうが。翌日には1000位になってましたしね。
だいたい菱餅のせい。あと3個……。
これ、5月になったら柏餅が特定海域でドロップしますとか無いよね? ね? いやマジで。
しかしそうなってしまうと一番可哀想な思いをするのはほっぽちゃんなのである。
クリスマスでは三式弾をプレゼントされ、雛祭りでは健やかな成長を祈って三式弾を供えられ、……なんとも不憫である(でも倒す)。
413 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/03/12(木) 22:42:32.68 ID:YHgi9Mtj0
また日が開いてしまいました。ノってる時はちゃちゃっと書けるんですけどねー。常にそうってわけじゃないし人生色々あるから仕方ないよねーと自己弁護。
次回の投下は明日を予定しております。普段通りなら多分21時頃になるでしょう。
////Chillaxing////
菱餅狩りも終わり何気なく大型艦建造してたら伊401が出てきました。冬イベで結局ゲット出来なかったので思わぬ僥倖。
残るは能代・大和・磯風ですね。いよいよこれくしょん作業もラストスパートといった感じです。
縁が無いのかやたら能代は出てきませんね。磯風は次以降のイベントに期待するとして……うちの鎮守府的にはラスボスは大和ですかね。
お前さえ倒せば俺はこの世の苦しみ(大型艦建造)から解放されるのだっ……!
お前いつもゲームの話ばかりだなと言われそうですが実際艦これしかやってないような人生なのでしょうがない。いやそんなことはないです。
艦これに限らずゲームは好きなんですが、ただなんかこう昔好きだったゲームとかもわざわざ引っ張り出してやったり新しいハード買って遊んだりするのもなー……とか。
妙ちくりんなジャンルの音楽聴いたり漫画も結構読んだりしてたんですけど最近はそうでもない感じですね。
ヤバイぞ! この手の話はだんだん暗い気分になっていく罠だ。やめやめ。
無趣味な人間になりつつあると自嘲してられるうちはまだマシだけど本当にそうなってしまったら鬱の二歩手前ぐらいでわりとアレなんですよね。あるいは悟りの境地か。
いっそマニ車を回しまくって徳を積んで解脱するのもいいかもしれない。よくねえよ!?
414 :
【21/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/13(金) 21:41:37.63 ID:lrMYVIKO0
深夜の軍事刑務所……龍田らと同様に収容されて牢屋の中に居る皐月に話しかける提督。
提督「直接会うのは二度目になるな。訓練生の頃の面接試験以来か」
皐月「はっ、はいっ! 司令官」
牢の中ではすることもないので不貞寝していた皐月であったが、提督が来たことに気づくや否や姿勢を正し敬礼をする皐月。
提督「こんな牢の中に閉じ込めてすまなかったな。文月ともども明日の朝には釈放してやる」
提督「第四艦隊に入って日の浅いお前たちがこの一件に噛んでるとは思えん。そもそも第四艦隊の動きが怪しいということはハナから分かっていた上でお前たちを配属させたのだしな」
皐月「? ……でもボク、あ! いえ、私、何も司令官の役に立って居ませんが」
提督「前に会った時も言ったが、無理に一人称を直さんでもいい。不自然に畏まった態度を取られるぐらいなら敬語も必要ない。尋問しているわけではないのだから、あまり俺を恐れるな」
提督「お前たち二人を第四艦隊に回したのは、龍田の信頼をそれなりに得られる見込みが高く、かつ、懐柔され奴の手駒にならなそうだったからだ。つまり、毒にも薬にもならないというわけだな」
皐月(否定出来ないけど失礼だ……)
提督「龍田について何か分かったことは無いか? 奴の真の目的が知りたい」
提督「常設の艦隊に所属しているのであれば、まず金には困らないはず。だのになぜ奴は例の取引に手を出したのか……そこには私利私欲を超えた何かの理由があるはずだ、と睨んでいる」
提督「……何か知っている顔だな。やはりお前たちを選んで正解だったようだ」
・・・・
皐月「あの人は……どうやってそれを実現するつもりかは分からないけど、轟沈するはずだった艦娘を蘇らせようとしているみたいだ。その為にお金も必要だったんだと思う」
かつて龍田・文月と訪れた一室で見た出来事を話す皐月。
提督「なるほど、力尽きた艦娘は修復剤を使っても傷が治るだけなのか……知らなんだ。艦として死んだから意識が戻る事はなく、人として生きているから身体が腐ることもない、というわけか」
皐月「……うん。あの時の様子からして、機能を停止した艦娘の復活……それがあの人の本心なんだと思う」
提督「どんな手を使ってでも、というわけか。……なるほどなるほど。フフフ、フフ、ハハハハ」
提督「良いだろう。全容は見えた、そしてそのゴールもだ」
皐月「?(突然高笑いしだした……一体どうしたんだ)」
提督「ご苦労だったな皐月。お前は十分に役に立った」
高笑いしながら部屋を出る提督。
皐月(一体なんだったんだ……)
・・・・
数日後。再び取調室で顔を会わせる提督と龍田。
提督「海賊をけしかけるなんて考えたな。“菱餅”で煽ったか?」
提督「その顔、図星のようだな。港町や島を襲って生計を立てている荒くれどもといえど所詮生身の人間。数百人集まったところで駆逐艦一隻にも勝てやしない」
提督「大本営、政府、その他研究機関……その中でもごく限られた人間にしかその真価は分からない。いや、ひょっとすると連中でさえ分かっていないのかもしれないな。
見た目はちゃちいが『オーパーツ』『聖遺物』『神器』……そんな風に呼ばれてる代物だ。当然裏のルートで捌けば莫大な金になる」
提督がポケットから“菱餅”を取り出す。
底面が菱形の四角柱、桃色・白色・緑色と三層に色の分かれているその姿はまさに実物の菱餅と見紛わんばかりである。しかしこれは当然単なる菱餅であるはずがない。
現代の科学ではその謎が完全には解明されていないため、ロストテクノロジー、あるいは、深海棲艦が独自に発明した物質と噂されている。
その実態は謎に包まれているが、この“菱餅”や“菱餅”と同様の性質を持つ、“プレゼント”(立方体の箱のような形状をしている)・“チョコレート”(柱体で面の形がハートに似ている、茶褐色の物質)は深海棲艦が極稀に所持している。
これらの稀少なアイテムを原料に、艦娘の装備をより強力にする為に必要な消耗品である“ネジ”(『改修資材』と呼ばれている)などが生成される。
その為、深海棲艦を倒し“菱餅”などを得た提督は報酬と引き換えにそれらを大本営に渡すことが暗黙のルールとなっている。
大本営は提督から得た“菱餅”などをもとに、軍備を強化する為の“ネジ”や“指輪”を作り、提督も大本営からその恩恵を授かる……いわゆるwin-winの関係である。
提督「だからあの海賊共はリスクを犯してでも“これ”を盗みに来た。迷いなく資材庫に向かったんで実に分かりやすかった、混乱に乗じようが大した相手ではなかったな」
提督「残念だったな龍田。“この前お前が確認しに来た時は”あったのにな。……どうやら監視カメラの台数が増えていたのには気づけなかったようだな」
龍田「でも〜海賊さんの財布が潤っても……それが私に何か影響があるんでしょうかぁ〜?」
提督「では今回見事な働きをしてくれた雪風に引導を渡してもらうとしよう。雪風、例の資料を!」
部屋に入ってきた雪風。龍田の部屋にある、彼女の自前のパソコン画面を撮影した紙を机の上に並べる。垂れてきた冷や汗をハンカチで拭いだす龍田。
提督「お前の部屋に、海賊の頭領と思しき人物が訪れていた。お前の代わりに送金しようとしているところを捕えておいたよ。お前の同士に今まで稼いだ金を送るつもりだったんだろ」
415 :
【22/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/13(金) 21:46:32.36 ID:lrMYVIKO0
提督「雪風が気を利かせてキーボードの手元まで撮影していたからな。人力キーロギングさせてもらった」
提督「お前が薬物の取引をしているならば、それによって得た金がどこかにあるはずだ。だが、この鎮守府内には保管されていないようだった。ならばどこかに預金しているに違いないと睨んだのだ」
提督「Googolなどといった検索エンジンが辿り着けないインターネット上のウェブサイト郡を“深海Web”と言う。が、検索エンジンが辿り着けまいが、WWW上に存在していて公開されているページであるのならば、辿り着けないことはない。
俺は違法性のある“深海Web”上のサイトを片っ端から漁り、色々と趣向を凝らしてみて何とかうちの鎮守府に関係ありそうな記述のあったページおよび掲示板のスレッドを発見した。が、ここで暗礁に乗り上げた」
提督「その理由はお前もご存知の“Toroia”だ。ウェブのどこかしらにアクセスすればIPアドレス……すなわち足跡が残る。ウェブ上で金や薬のやり取りをしていたなら(手間ではあるが)サーバに問い合わせれば解決するのだが……。
無数のプロキシサーバを経由……つまり、中継となる代理サーバを経由してやり取りをすれば発信元の特定は困難になる。調べたところで代理サーバのそのまた代理の代理の代理の代理のIPアドレスしか出てこないわけだからな。
たとえこの鎮守府に関係のある人物が違法性のあるやり取りをしているのを察知しようが、その書き込み主は誰なのかを特定することが難しい、というわけなのだ」
提督「が、お前がまんまとこの鎮守府に海賊を呼び寄せたことによって、お前のパソコンにログインすることが出来た。おかげでお前の“DMMマネー”も全額差し押さえることが出来た。お前に関連してた連中を洗い出すことも出来る」
“DMMマネー”――“Digital Mass Mate Money”の略称である。現代においては最も普及している仮想通貨のことである。P2P方式を利用していることなどが特徴に挙げられる。
提督「お前のパソコンにログインしてからの工程は雪風が上手くやってくれたさ。聞きたいか?」
龍田「……もう結構よ。いいわ、私の負け、なのねぇ……。せめて足掻こうと思ったけれど、それすらもうまく行かないのねぇ〜……」
龍田「またしても、“死神”に邪魔されてしまったのねぇ〜……」 憎々しげに雪風を睨みつける龍田。途端に震え出し、扉の近くまで下がる雪風
龍田「ふふっ、“死神”のくせに私が怖いのかしらぁ〜……? 面白いわね〜……」
雪風「死神じゃ……ありません……!」 震え声での抗議
龍田「ふふっ、あの時はお互い別の鎮守府だったけどぉ〜……前線で戦った事もない天龍ちゃんたちを囮にして逃げ帰ったのを今でも覚えてるわぁ〜」
雪風「あっ、あれは撤退命令が出たから……! それに、あの場で私にはどうすることも……」
龍田「そんなことは承知の上よ? 承知の上で言ってるの。そうであっても、どうあっても私にとって貴方たちは仇。許しはしないわ。
天龍ちゃんや私たちを使い捨てにした大湊の提督も、それを見殺しにした単冠湾の提督……ひいてはその命令で動いていた貴方や響も。全員許しはしない。私は貴方たちを許さない」
提督(過去に何やら悶着があったようだが……どうも色々と事情があったらしいな) 雪風の方に手を向け、こちらへ来るようクイクイッとジェスチャーする
提督「横から失礼。ほほう、こいつが“死神”か。そうかそうか。そうかそうか。いや……なるほどなるほど」
いやらしい笑みを浮かべる提督。龍田に気圧されて震えている雪風を胸元に引き寄せ、ワシャワシャと乱暴に頭を撫でる。
提督「こいつが“死神”に見えるならその考えは改めた方が良いだろう。ナリはちんちくりんだが……こいつは“幸運の女神”そのものだ。それもお前にとっての、な」
提督「獄卒! 隣室で待機している“奴”を連れてこい」
獄卒が扉を開けると、かつての龍田の同胞であった天龍が現れる。
龍田「嘘……天龍、ちゃん? 皆……!」
天龍「へへっ、随分遅くなっちまったが。お前に会いに、あの世から舞い戻ってきたぜ……っと、そんなカッコいいこと言えるような最期じゃなかったけどな」
抱き合う龍田と天龍。天龍の胸の中で涙を零す龍田。肩を叩きなだめる天龍。
天龍「アンタが何者なのかは分からないし、どうやって海に沈んだはずの俺をここに連れてきたのかも分からない。……が、とにかく礼を言うぜ」
提督「詳しい話は後でしてやる。これにて終幕だ。雪風が居なければこうはいかなかっただろう。感謝するんだな」
・・・・
軍事刑務所近くにある公園。ベンチに座り、フゥ、と溜息をつく提督。隣には雪風が座っている。
提督「……にしても今回は幸運だった。
まず、何かが起こる前にお前が鎮守府内で麻薬が取引されていることを察知してくれたこと。龍田に察される前に関係者の絞込みと諸々の対策が出来たこと。
追い詰められた龍田が何かしらの騒動を起こしたのは想定済みだったが、それをかえってプラスの方向に利用出来たこと……特に龍田の真の狙いを皐月から聞き出せたことが大きいな。
それから、俺とお前で“兄さん”を呼び寄せることが出来たこと。“兄さん”が万事上手くやってくれたこと……挙げればキリがないな」
提督「連日徹夜に付き合わせてすまなかった。俺一人ではどうしても時間がかかり過ぎたからな……」 ングッ……ゴクッ
べコン、とコーンポタージュ缶の飲み口下部を凹ませる提督。雪風はその様子を不思議そうに見つめている。
提督「凹ませたのが気になるか? こうやると中のコーンが出て来やすいのだよ」
雪風「いえ。しれえはコーヒーが好きじゃなかったでしたっけ?」
提督「缶コーヒーは好かん。……そうだ、雪風。お前の分もあるぞ。ま、自販機で当たりが出ただけなのだがな」
提督がポケットから紙パックのジュースを取り出す。『どろり濃厚 ピーチ味』と書かれている。
提督「駄賃というには安すぎるが……ひとまず乾杯だ」
雪風「ゴクッ、ンヴッ!? うーん……おいしくない……」 渋い表情でジュースを見つめる
提督「……そうか」
416 :
【23/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/13(金) 22:02:00.78 ID:lrMYVIKO0
執務室を訪れる響。
提督「響か。何用だ?」
響「いや、用は無いんだが……ダメかい?」
提督「……そうか」
提督はそれ以上何も言わず、部屋に備えつけの冷蔵庫の中身を物色し始める。
響「司令官、珍しく機嫌が良いね?」
提督「なぜそう思った? ……事実、吉事があったのは確かだが」
響「用もなく部屋に入ってきた私を拒もうとしないし、声色が普段よりも優しかったからね。顔が見えない分、そういう所で司令官の内心を探っているわけだ」
提督「やれやれ……。ま、お前相手なら拒む理由が無いからな」 ポットから二人分のカップに珈琲を注いでいる
提督「飲むか?」
響「ありがとう。いただくよ……ンンン゛ン゛ッ!?」 顔をしかめる響
響「司令官……これは本当にコーヒーかい? 何が入っているんだ?」
提督「カップの1/4から3/1程度のコンデンスミルクを混ぜた珈琲……いわゆるベトナムコーヒーというものだな。前にブラックよりは砂糖とミルクを加えた方が好きと言っていたので淹れてみたのだが」
響「コーヒーにこんな過剰な甘さは求めてないよ司令官……」
提督「ふむ。俺はこれはこれで好きなのだがな。俺のブラックと替えるか?」
響「あぁ。頼む……これはちょっと……」
・・・・
提督「……」ズゾゾゾ
響(普通に飲んでる……)
響「そういえば、吉事があったと言っていたけど。何があったんだい?」
提督「うむ。……久しぶりに兄と会ってな」
響「どんなお兄さんなんだい?」
提督「俺がこの世で唯一尊敬している存在だ。恐らく、知で彼に並び立つ者は居ないだろう。俺の師であり、理想であり、生きる理由だ」
響「司令官にそこまで言わしめるとはね……興味が湧いてきたな。この鎮守府の近くに居るのかい? 私も会ってみたいものだな」
提督「近くというか……ここに居るぞ。今は寝てるがね」
・・・・
響「おっと……長話しすぎたかな。そろそろおいとましなきゃだね。それじゃ」
提督「待て」
響「?」
提督「姉妹が気になるのだろう。だから訊きに来た。違うのか?」
響「気にならないと言えば嘘になるが……」
響「私とて罪人に情を抱くほど愚かではないさ」
提督「そうか。……俺は今から奴らに会いに行こうと思う。お前はどうする? ついて来るか?」
言葉を発しないの響。提督は椅子から立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。
提督「今生の別れになるかもしれないぞ」
力なく腕を延ばす響の手を握る。
提督「……行くぞ、ヴェールヌイ」
417 :
【24/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/13(金) 22:16:28.45 ID:lrMYVIKO0
軍事刑務所内、牢屋前。
提督「俺の話は後で良い。また後で来る」 その場を立ち去る提督
響「……分かった」
・・・・
響が目の前に現れると、少し怯えた様子を見せる暁たち。なるべく刺激しないよう穏やかな口調で話しかける響。
響「やぁ。……なに、この間のように叩きのめしに来たわけじゃないから安心して欲しい。最後に顔でも見ておこうと思っただけだ」
響「一つだけ気になっていたことがあってね。どうしてあの時に龍田を逃がす為に私の前に立ち塞がったんだい?」
響「私が本気を出せば、たとえ三人がかりであっても君たちを仕留めるのなんて造作も無い……そのぐらい分かっていただろう。それとも、裏切ったら龍田に殺されると言われていたのか?」
暁「違うわ。私は自らの意志で貴方の足止めをした」
響「たかが時間稼ぎの為に自分を犠牲にする覚悟があったと? あまり合理的とは思えないんだが……」
暁「響から見たらそうかもしれないわね。……でも、ここで龍田さんに死んで欲しくないって、そう思ったの。それだけよ」
どこか釈然とした様子で話す暁。
雷「響は知らないでしょうけど……龍田さん、本当は良い人なのよ? そりゃあ、やり方は間違っていたかもしれないけど……あの人は自分の為にお金を使ったことが無いのよ?」
雷「いつだって誰かの為に動いてた……自分を捨ててまで、私たちを守ってくれていた……。私はあの人を尊敬しているわ」
響「“良い人”というのは君たちの主観だろう。麻薬を売り捌き利益を得ていた時点でそれは許されない行為だ。得た金の目的や使い方がどうあれ関係ないだろう」
電「そうですね……。ひょっとすると最初から間違っていたのかもしれないのです」
暁「でもね響。あの人は……弱くて、貧しくて、誰にも相手にされなかった私たちに手を差し伸べてくれた」
暁「才能が認められて途中で別の鎮守府に行った響は、知らないかもしれないけど。訓練生を卒業したあの後、私たちは、色んな酷い経験をしたの」
暁「当然よね。だって、私たちは所詮役に立たない子供だもの。生きるか死ぬかの戦場で、引鉄も退けず右往左往することしか出来ないんだもの……邪険に扱われて当然よ」
電「艦娘を辞めたいと思ったこともあったのです。でも、当時の司令官に話しても相手にしてもらえなくて……」
雷「昔、四人で、将来の夢を話したわよね。艦娘になりたてで、まだ訓練生だった頃に。皆それぞれ内容は違ったけど……本質的には『誰かに必要とされる人間になる』って事だったと思うの」
雷「艦娘だもの、当たり前よね。皆に頼られるぐらい、皆を救えるぐらい、皆を導けるぐらいに強くなりたい……そうよね」
暁「響。誇りに思いなさい。私たちでは成し得なかったことを、貴方はやり遂げたのだから。この鎮守府で貴方の名を聞けば、その実力と才覚を疑う艦娘は居ないはず」
暁「私たちは……そうね。強くないから、龍田さんに弱みにつけ込まれたのかもしれないわね。あの時はどん底で、本当に辛かったから」
暁「本当は、第四艦隊のメンバーに選ばれるほどの実力なんて無かったの。龍田さんのおかげで、毎日楽しく、子供のように遊んで暮らせていたから、忘れていたけれど」
暁「私たちは、結局のところ龍田さんが居なければ何も出来ないわけで……。情けない話だけど、艦娘失格なのかもしれないわ」
暁「でも、響。貴方は違うから。貴方なら、私たちが不甲斐なかった分まで活躍してくれるはず」
雷「こうなってしまった以上、もう私たちはこれまでだからね。私たちの分まで、頑張ってよね! 応援してるわ!」
・・・・
牢室前で待機していた提督に話が済んだことを伝えに来た響。
提督「もう良いのか?」
響「ああ」
提督「顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
響「……吐き気がする。それだけだ」
響「ただ、吐き気がする」
そう言い残して、響はどこかへ歩いて行ってしまった。
提督(ひどく思い詰めた表情をしていたな……)
提督は、暁たちの居る牢へ向かった。
418 :
【25/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/13(金) 22:18:43.98 ID:lrMYVIKO0
大講堂。ここを提督が訪れるのは初めてであり、提督が全艦娘の前にその姿を現したのも初めての出来事である。
登壇すると何の挨拶もせず唐突に本題を話し始める提督。
提督「時間は15分。それ以上取らせはせん」
提督「諸氏らの活躍により、現在確認されている深海棲艦の出現拠点は残すところあと二つとなった」
提督「しかし、敵の攻勢は未だ精強であり、状況は予断を許さない。理由としては、他の海域から落ち延びた深海棲艦が残る二地点に集結しているためだ。
また、純粋にその二点の深海棲艦の勢力が質・量ともに最大規模である、ということも挙げられる」
提督「裏を返せば、この二大拠点を滅ぼすことによってこの国の制海権・制空権の全てを奪還することが出来るということ」
提督「よってここに、AL/MI作戦を発令する」
それまで静寂に包まれていた講堂内が、一気にどよめき始める。
"MI"の名を聞いて震え上がる者、勇み奮い立つ者、晴れ舞台を前に浮足立つ者……様々であった。
それぞれの胸中は異なっていたが、皆一様に提督の一言一句に集中していた。
提督「我々は呉鎮守府・ショートランド泊地・トラック泊地……その他泊地や基地所属の者たちと共に、MI島海域に巣食う百鬼夜行を叩く」
提督「なお、大湊警備府や単冠湾泊地、幌筵泊地、それから横須賀鎮守府の一部の戦力は北方AL海域へ進み敵の拠点を破壊。余力があれば陽動に回ってもらい、我々本隊の支援艦隊として働いてもらう予定だ」
提督「ではこれより第一艦隊から第四艦隊までの人事を発表する」
提督「第一艦隊旗艦、赤城! ビスマルク! 榛名! 加賀! 飛龍! 蒼龍!」
提督「第二艦隊旗艦、響! 雪風! 大淀! ……」
・・・・
提督「以上だ。質問のある者と人事に不満のある者は昼過ぎに執務室に来い。また、足柄はここに残れ。話がある」
比叡(お姉様……どの艦隊にも選ばれなかったせいか茫然自失に!? この世の終わりのような生気の抜けた顔でぶつぶつと何やら呟いている!)
比叡(あ、あれは……私には英語が分からないからその意味を理解することは出来ないが、恐らく呪詛めいた何かに違いない! 英語知らなくて良かった!)
・・・・
提督「来たか。お前を新たな艦隊に配属しようと思っている」
足柄「何を言ってるんですか? さっき第一艦隊から第四艦隊までの発表をしていたじゃないですか。一体どうしたんですか?」
提督「第零艦隊“アノーニュムス”だ。お前には俺の切り札として動いてもらう」
足柄「第零艦隊って……? 詳しい説明をしてもらえますよね」
提督「今回の作戦に乗じてちょっとしたジョーカーを切ろうと思ってな。だが、他の鎮守府の連中にこれを知られるわけにはいかない。あくまで秘密裡にやる必要がある。それゆえに“無名艦隊”ということだ」
提督「お前と、それから金剛・比叡・皐月・文月。暫定だが面子はこんな感じだ。と言っても、全員お互い話したこともないような奴らだとは思うが……」
足柄「あっ、あの!? 話が全く読めないんですけど!? 大体、今まで私が所属していたヴェアヴォルフはどうなるんですか!?」
提督「ヴェアヴォルフは解散だ。その為に大淀を第二、霞と清霜を第三艦隊に配属したのだ。
……実際、認めたくは無いがヴェアヴォルフの連中は使える。ヴェアヴォルフ以外にアコギなやり方をしていたユニットは全て解散しているのだよ。
俺が潰した例もあれば、自然に解散した例、他のユニットに統合された例……様々ではあるが」
提督「制度の変更。他艦隊やユニットからの冷遇。取り巻く環境が日に日に悪化していく中で組織としての体裁を保ち続けていたということを評価したい。個々の戦闘能力も高いしな。
あそこの連中ほど窮地に強い連中もそうおるまい。常設の艦隊に配属しても問題ないだろう」
提督「以前艦娘全員が見ているあの場面で龍田を追わせたのは、お前とお前の属していたヴェアヴォルフの地位を向上させてやるためだ。お前の活躍以後はそれなりに艦隊内での風当たりも和らいだだろう」
足柄「もう既に外堀から埋められていたと……。それは分かりましたけど、具体的には何を企んでいるんです?」
提督「ワープ」
足柄「えっ」
・・・・
提督「……ということだ。今はまだ出来ないが。今度実演してみせよう。それで信じてもらえるだろうしな。少し準備に時間がかかる」
足柄「本気で言ってるのかしら」
提督「この先お前の力を頼ることが多くなるだろう、よろしく頼むぞ」
足柄(常々思うけど、この人ワケわからなすぎるわ……。でも、これまでと違って近づく口実は出来たし、少し分析してみようかしら)
足柄(あと、ヴェアヴォルフの他の皆をお祝いしなきゃね。私はともかく、他の皆のことはなんだかんだ上手く取り計らってくれたみたいだし……)
419 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/03/13(金) 22:32:19.71 ID:lrMYVIKO0
本日 is ここまで。ホワイトデーボイスを聞いて魂を浄化する作業をしていたら若干投下が遅れた。足柄と白露は犠牲になったのだ……。
右に左にブレまくってしかも中途半端なところで途切れた感もありますがまあそれは次ということで。
今回わりとフリーダムすぎたな感が半端ないけど誰かに頼まれて書いてるわけでもお金貰ってるわけでもないしまあいっか。いいよね。
回によって過激さに差はあれど終始こんな感じでぶっこみ続けていく予定。あまりやり過ぎても胃もたれ起こすのでそこら辺の按配は気をつけたいところですが。
420 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/03/13(金) 22:49:06.07 ID:lrMYVIKO0
あっ忘れてた。例によって例の。
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~25/100)
・皐月の経験値+1(現在値4)
・足柄の経験値+1(現在値8)
・響の経験値+2(現在値6)
・雪風の経験値+1(現在値5)
他二人
・翔鶴の現在経験値:7
・金剛の現在経験値:5
----------------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【25-30/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00〜16:雪風
16〜32:翔鶴
33〜51:金剛
52〜66:響
67〜82:足柄
82〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい。
----------------------------------------------------------------------
421 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/14(土) 14:52:28.71 ID:lUln3ejyo
乙です、元ネタがわかるとニヤニヤしながら読んでた
422 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/14(土) 18:23:47.71 ID:AZBHoO/yo
さて
423 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/15(日) 00:12:42.23 ID:fCNwmc0Io
ぽい
424 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/16(月) 00:42:37.80 ID:6IW/3++vo
ん
425 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/16(月) 03:38:00.79 ID:Lpf6Iov5o
いやん
426 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/03/16(月) 08:11:43.29 ID:QRRI8Ufn0
>>421
-
>>425
より
・足柄4レス/翔鶴1レス
で『Phase B』が進行していきます。
突然の足柄フィーバー。なんだこれ!? こういうことを平然とやってきやがるのがコンマの恐ろしいところだ。
ま、まあこういうのも覚悟の上でしたし、ねぇ〜。それに、むしろこっちの方がカオスで面白かろう。
かつてない濃厚な足柄インナップにご期待くださ……いやマジどう進めようかわりと悩むところですがなんとかします。
427 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/16(月) 08:25:18.69 ID:6IW/3++vo
すげえww足柄さん大勝利だな
428 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/03/21(土) 19:14:26.10 ID:ysJ3qV530
次回の投下は明日21時頃と予告しておきます。
でもダメだったら1日ずれるかもと予防線も張っておきます。
////チラスは、パキスタン、北方地域に位置し、小規模な町である。////
大和きましたああああフゥゥゥゥーーーーーーー!
遂に大型艦建造の呪縛から解放されたのだ……!
しかし何故か未だ出ぬ能代……。
とはいえそろそろ備蓄始めた方が良さそうだし、最低値で回すのは次イベント後にしときます。
ボーキサイトが20しか無いのはさすがにやばいのヨ……。
429 :
【26/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/03/23(月) 20:58:56.91 ID:gUE3VSVL0
霞「ヴェアヴォルフ第52回定例会。始めるわよ」
清霜「明日で解散なのにやる必要あるのかしら?」
霞「うるさい、やるったらやるの!」
足柄「さ、お酒たくさん買ってきちゃったから皆で飲みましょ?」
大淀「おつまみもバッチリです!」 メガネクイッ
霞「会議室で宴会おっ始めようとしてんじゃないわよバカ共ッ!」
足柄「明日でお別れってんならやることは一つ、でしょ?」
霞「ハァ……まったく、うちの連中はなんで無駄な方向にばっかり準備が良いのかしら……」
清霜「類は友を呼ぶってやつじゃない?」
霞「お黙り!」 ペシッ
・・・・
足柄「にしても、良かったわね大淀。ようやく認められたみたいで。第二艦隊に配属だなんて大したものだわ」
大淀「秘書艦だった頃も事務仕事ばっかりで常設の艦隊には入れなかったので……光栄ですね」
大淀「提督に秘書艦を外された時はショックでしたけど……。私は“今まで秘書艦だった”という慣習によって評価されていた所がありましたから。こうして純粋な実力を認められたことは、素直に嬉しいです」
霞「まっ、あれだけ鍛えれば当然よね」
清霜「とにかく暇だったからねー」
足柄「アンタ達、何してたのよ……」
大淀「霞さんにひたすら稽古をつけて貰っていました」
清霜「そうそう。本当に酷い時期は他の艦娘に白い目で見られるせいで演習場にも行けなくて、仕方がないから海に出て野試合してたのよね」
足柄「野試合て……。まあ、霞と殴り合いしてればそりゃ強くもなるわね……」
大淀「それにしても、どうして提督は足柄さんを常設の艦隊に入れなかったんでしょうか。例の、麻薬の一件であれだけ足柄さんのことを評価していたのに」
霞「というか、わざとらしく讃えてたわよね。まるで他の艦隊にも足柄や他のヴェアヴォルフの面々を評価させるかのような言い回しで」
足柄「提督曰く、私たちのことを結構評価してたみたいよ。当初は潰すつもりだったけど、なかなかしぶといんで逆に利用しようと思ったんだってさ」
霞「ふーん。頭は良いかもしれないけど、演技は下手ねあの提督。露骨すぎて見る人が見れば何か裏があるって勘繰るわ」
霞「というか、訳知り顔でそんな話をするってことはアンタもやっぱり何かしら重要なポスト任されてるみたいね。少し安心したわ」
清霜「メンバーの中で唯一の行き遅れだって二人で心配してたんだよねー」
足柄「あら、この私に向かって“行き遅れ”だなんて聞き捨てならないわ。そんなんだから戦艦になれないのよ」
清霜「なれるモン!」
足柄「なれないも〜ん」
一発は足柄へ、一発は清霜へ拳骨が投下された。
・・・・
清霜「色々あったけど……皆と過ごせて楽しかったわ」
霞「ロクな思い出が無かったけどね! 何度死にかけたことか……でも、悪くはなかったわ」
大淀「明日になったら皆、別々の艦隊なんですね。少し、寂しく思います」
足柄「なぁに、生きてさえいればまた会えるわよ! 悲しむだけ損ってもんだわ。それよりも、皆の新しい門出を祝いましょう」 隣に居る清霜・大淀の肩を組む
清霜「これで終わりじゃなく、ここからが私たちヴェアヴォルフのスタート……でしょ?」
大淀「そうですね。また、いつかどこかで会えるといいですね」
三人の、さぁ早く加われと言わんばかりの目線を察し、嫌がりながらも円陣に加わる霞。
霞「会えたらいいじゃなくて、また会うのよ」
霞「いいわね! また、こうして、誰一人欠けることなく、バカみたいな集まりがやれる、その日まで、生き抜くのよッ!」
430 :
【27/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/23(月) 21:05:39.82 ID:gUE3VSVL0
足柄(……最近は戦場に出てなかったから忘れていたけれど。そうよね、私たち、命を懸けて戦ってるのよね)
足柄(霞は過去のことを話したがらないけど、きっと多くの死別を経験してきたのよね……だから昨日の最後にあんな事を言ったんでしょう)
足柄(これからどれだけ先になるか分からないけど。また、皆と会えるその日まで……! 負けられないわッ)
提督「足柄よ、何ボーッとしてる。ついて来い」
執務室地下のモニタールームを案内する提督。
足柄「は、はい。……ところで、鎮守府にこんなものを建てて平気なのかしら?」
部屋に置いてある無数のモニターを不思議そうに眺める足柄。
提督「襲撃があった際の備え……という名分で使われていなかった地下室をより軍事的価値のあるものに改造しただけなので問題ない」
足柄「ハァ……ソウデスカ」
足柄「そういえば……前言っていたワープがどうとかだけど……。本当にそんなこと出来るの?」
提督「疑り深い奴だな。……これを持て」 四角錐状の物体を手渡す
足柄「このピラミッド形の鉄は……?」
提督「鉄ではない。いわゆる“ネジ”などから生成したちょいとワケありの物質だ」
リモコンを取り出し、部屋の最奥にあるシャッターを開ける提督。
提督「案内しよう。実験室だ」
足柄(妙な装置がずらずらと……。机の上には資料が並んでるみたいだけど、どれもパッと見ではチンプンカンプンね)
提督「ええと……この机の右端に置いたのが始点で左端に置いたのが終点だ。この装置の上にお前が手に持っているそれを置いてくれ」
机の上に顕微鏡に似た謎の装置を置く提督。
足柄「ええ。分かったわ……!?」
提督がスイッチを押すと、物体を置いた台座が高速で回転し始める。
しばらくすると物体が台座の中にめり込んでいく。
足柄「一体何が起きてるの?」
提督「詳しい原理は長くなるので省くが、正三角錐や正四角錐の物体を螺旋状に回転させるとワープする」
と言い終えた直後、始点にあったはずの物体は終点に移動していた。
足柄「た、確かにワープしたけれど……。脳の理解が追いついてないわ……」
提督「まあそこに座れ。ピラミッドパワーというのを知っているか?」
足柄を椅子に座らせ、パチンと指を鳴らす提督。天井からホワイトボードが降りてくる。
足柄「え? えぇ。なんか、ピラミッドの中に物を置いておくと腐りにくいとかいう……」
提督「残念それはレナード効果と言って真のピラミッドパワーとは関係ないのだ」
提督「最も、老化を防いだり逆に加速させたりする方法もあるのだがな。
自然界に存在する黄金長方形。この黄金長方形のエネルギーを利用して真円の球体を射出することにより時間への干渉……果ては次元さえも超越することが可能らしい。
今となっては眉唾もののロストテクノロジーだがな」ブツブツ
提督「……と、それは今回の話にはあまり関係ないのだ。
ピラミッドの石材の石質によって生じるレナード効果なんて些細なものではない。
ピラミッドパワーにはもっと大きな秘密があるのだ。そもそもピラミッドとは古代エジプトの……」
ホワイトボード上に水性ペンでひたすらに自説を書き進めていく提督。足柄は彼の言葉を理解することを諦め、瞼をゆっくりと閉じ、このうららかな昼下がりを優雅にシエスタして過ごそうと決意した。
・・・・
提督「起きたまえ!」 ピシャリとペンを足柄の額に投げつける。
足柄「ふぇっ!?」
提督「いいか。ワープというのはすなわち……」
足柄「あの! 私が聞きたいのはそういうことではなく! なぜ貴方が突然ワープだなんて突拍子もないことを言い出したのかが気になるのですが!」
提督「ふむ……そうか」
提督「では、原理や論拠まで述べていると時間が掛かり過ぎるので、概要だけ説明しよう」
431 :
【28/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/23(月) 21:10:20.89 ID:gUE3VSVL0
ホワイトボードにあったピラミッドに関する説明を全て消し、何やら過剰書きを始めた提督。
地球や艦娘のイラスト付きで書き並べていく。
提督「こういうことになるな」
・地球の内部には空間がある(◇内部世界)
−地球の空洞内部には我々が過ごす世界とは異なる世界が広がっている
−内部世界は“上の世界”と“下の世界”の2つが存在
◇“上の世界”:『シャンバラ』『アガルタ』『高天原』
◇“下の世界”:『ニヴルヘイム』『ドゥアト』『根の国』 …などと呼ばれる
−この地球表面上に暮らす生き物は下記の例外を除いて決して内部世界に行く事は出来ない(逆も然り)
・2000年周期で内部世界への出入口が開かれる
−その影響で地上に現れたのが深海棲艦
−2000年前も深海棲艦が地上を襲ったが、当時の艦娘がこれを撃退
・深海棲艦を滅ぼすには、“下”の内部世界の出入口である『タルタロスの門』を封印しなければならない
→封印を達成すれば以後2000数年間新たな深海棲艦は出現しなくなる
・『タルタロスの門』は南極の果ての島『メガラニカ』に存在
足柄「!? ? ? ……つまり?」
提督「まずな。深海棲艦と艦娘の戦いは今から2000年前、それと4000年前、6000年前……と2000年周期で起こっている。
地球の内側は異世界に繋がっているのだ。周期が近づくとこの内部世界への出入口が俺たちが住む地表世界に出現する」
提督「北極の島『ウルティマ・トゥーレ』には“上の世界”への出入口である『エーリュシオン』が存在している。そして、“下の世界”への出入口『タルタロスの門』がある南極の最果ての島『メガラニカ』……ここから深海棲艦はやってくる」
提督「“下の世界”への通路である『タルタロスの門』を封じれば地上に新たな深海棲艦が生まれることはなくなる」
提督「だから『タルタロスの門』がある『メガラニカ』へ俺たちが到達しなければならない。
が、常識的に考えて北極まで航海出来るはずがないのでワープして向かうというわけだ」
足柄(この人にとっての常識ってなんなのよ……)
足柄「ええと……つまり? とにかく、深海棲艦の根城を叩くってことよね。ワープして」
提督「そうだ。もっとも、タルタロスの門から深海棲艦の艦魂が湧いてくるだけであって、そこに深海棲艦が居るわけではないのだがな」
足柄「へぇ……。……その、“内部世界”っていうの? の、入り口が2つあるんでしょ? で、深海棲艦は“下の世界”から出てくると。
だったら、“上”はどうなってるの?」
提督「良い質問だ。“上の世界”からはその時代における最初の艦娘がやって来る。あとは妖精だな」
提督「“上”からやってきた最初の艦娘らが深海棲艦に抗う術を人間たちに伝えにやって来るのだよ」
提督「今となっては既に神話の世界の話になってしまうが、『アストライア』や『ノア』も人類に戦う術を教えた、それぞれの時代の“最初の艦娘”さ」
足柄「“ノア”って……あの『ノアの方舟』の!? 嘘でしょ!?」
提督「ああ。口伝のせいでいつの間にか人間だったということにされてしまったが、“ノア”というのは艦娘の名で、それを導いた人物……つまり当時の提督だな。そいつが今の時代に“ノア”と認識されている男だ」
提督「尤も、深海棲艦や艦娘、提督だなんてものは今の時代における呼ばれ方であって、当時は別の名称だったがな」
提督「深海棲艦の目的は、この地上の全てを支配し“上の世界”を侵攻する。それが目的だ。
一方“上の世界”は人類に艦娘を与えてこれを食い止めさせる……これが俺たちの生きる世界の摂理だ」
足柄「それ、いっそのこと深海側に着いた方が良くないかしら?」
提督「……お前は海の中で生きていけるか? という話だ。
それに、こっちが歩み寄った所で奴らにその意志はない。
深海棲艦と共存しようとして失敗した例が『アトランティス』や『ムー』だな」
提督「“上の世界”の連中が直接動けば深海棲艦を滅ぼすことは出来るのかもしれないが……そうなると戦場は俺たちがいるこの地上。
戦いのとばっちりで人類は絶滅してしまう……それゆえ“上”は動けない、ということらしい」
足柄「スケールが大きすぎてまるでイメージ沸かないわね」
提督「俺だって沸かんよ。……ま、今日の授業はここまでだな。勉強になったろう」
足柄「こんなこと私に話して平気なの?」
提督「お前のようにやたらめったら詮索してくる相手には話せる範囲で手札を明かした方が手っ取り早いと判断したから、少しだけ時間を割いてやっただけだ。それに、こんな話は他人に出来ないだろう」
・・・・
足柄(そりゃ、あんな話、誰かに話したところで正気を疑われるだろうけど……)
足柄(どこで提督はあのことを知ったの? 一体、何者なの?)
足柄(知れば知るほどに分からなくなっていく……)
432 :
【29/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/23(月) 21:12:54.64 ID:gUE3VSVL0
安全第一と書かれたヘルメットを被り、削岩機で岩盤を砕いている皐月。
皐月「ふー……ちょっと休憩」 額から流れ落ちた汗を拭う皐月
文月「皐月ぃ。その姿、結構サマになってるねぇ〜」
皐月「なってないよ! にしても……『第零艦隊』『極秘部隊』『アノーニュムス』だなんて、大層な名前のわりにやることは地味だよねー」
文月「初めての任務が土木工事だもんねぇ……潮力発電所なんて作ってどうするんだろう」
皐月「座標を算出するために大量の電力が要るって言ってたけど……いったい何のことだかさっぱりだよね」
足柄「そこ、私語は慎みなさいな! ちゃっちゃっとやる!」
黙々と作業を進める足柄。着ているオーバーオールは既に泥まみれである。
皐月「足柄さん、タフすぎますよぉ〜」
足柄「軟弱ねー。遠征部隊上がりは鍛えが足りないんじゃないかしら?」
ムッとした様子で再び地面を掘り進める皐月。
足柄「あら、なんだまだやれるじゃない」
足柄「……にしても、確かに妙よね。こういうガテン系の仕事は体力バカの戦艦二人がやるべきだと思うんだけど。
金剛と比叡はどういうわけか執務室に呼び出し食らってるのよね。何か別の仕事でも与えられてるのかしら」
足柄「ま、どうでもいい事ね。こっちはこっちでガンガン行きましょう」
・・・・
足柄「完ッ成ッ! さ、後は妖精さんに任せて……早くお風呂に入ってご飯よ!」
文月「もう動けないよぉ……」
皐月「うぅ……」
力尽きて倒れている二人をヒョイとつまみ上げて風呂に駆け込む足柄。
・・・・
文月(ふみゅぅ……お風呂に入ったらだいぶ回復したけど、……強烈な人だなぁ)
足柄「あら二人とも。ずいぶんと長風呂だったわね。夕飯作っておいたわよ! さ、食べましょ食べましょ?」
机の上に盛られているおびただしい数のカツ。キャベツ。そしてカツ。
足柄「ご飯とキャベツはおかわり自由よ? たくさん食べてね?」
・・・・
皐月「なんだかんだお腹が空いてたから案外いけるもんだけど……普段じゃこれは食べられないなぁ」
足柄「あら? ヴェアヴォルフだったらこのぐらいの量は少ない方なんだけど」
皐月「えぇ……」
足柄「食べ過ぎて体調悪くなられても困るから、無理しないでね?(いざとなったら私が食べるし)」
皐月「いやまぁ、まだ平気ですけど……」
足柄「にしても奇妙なものねぇ。二人も龍田の一件に関わってたんでしょ?」
皐月「いや、ボクたちは何もやってませんよ」
足柄「そんなことは分かってるわ。そうだとしたらここに居るのはおかしいもの。
表立っての存在を公言しているわけじゃないから地位は与えないけれど、“アノーニュムス”は第一艦隊と同等の扱いをするって提督が言ってたし……。
あなたたちがどうして提督に認められたか気になるなって思ったのよ」
皐月「って言っても……ボクらも分かんないよねぇ」 文月と顔を見合わせる
皐月「本当に、なんでか分かんないんですよねー。結果的にはちょっと司令官の役に立てたみたいだけど、ボクらが特別何かしたわけでもなく……しいて言うなら運が良かったのかなぁ?」
足柄「ふーん。やっぱ何考えてるんだか分かんないわねーあの人。あなたたちもそう思わない?」
皐月「あー、それちょっと同意ですねー。なんか企んでそうっていうか……悪い人じゃないとは思うだけどなー」
足柄「いやいや、ひょっとすると世を欺く大悪党かもしれないわよ? 私たちであの人の謎を暴いてみない?!」
文月(この艦隊、大丈夫かなぁ……。不安だよぅ)
433 :
【30/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/23(月) 21:21:09.31 ID:gUE3VSVL0
鎮守府内の休憩室。この鎮守府内にはいくつかの休憩所が設置されていて、艦娘たちは自由に利用することが出来る。
加賀との訓練を済ませた翔鶴は、一息つこうと休憩室を訪れた。
翔鶴(あら? 先客かしら)
引き戸を開けると、艦娘だろうか、長髪の女性が正座をしているようだった。
翔鶴は、そこはかとなく一人で過ごしたい気分ではあったのだが、見ず知らずの他人が傍に居てもあまり気にしない性分だったので、部屋にいた女性には構わず給湯器に手を伸ばした。
部屋に備え付けの急須に、給湯器から出る熱湯を注ぐ。
別段良質な茶葉というわけではないのだが、この休憩室で茶を飲むことが翔鶴にとってはささやかな癒やしであった。
カコン
この和室は、所詮暇を持て余した妖精が趣味で作ったものでしかない。
そもそも獣が出るような山奥でも無いのにししおどしが置いてあるあたり、あくまで“それっぽさ”を追求しただけの模倣の庭園に過ぎない。
しかし翔鶴は畳から香る藺草の匂い、部屋の外から見える枯山水の石庭、カランと鳴るししおどしの音……、その全てに風情を感じていた。
カーン
・・・・
加賀「これからは私も第一艦隊の皆さんと、決戦に向けて備えなければならないから。こうして稽古をつけることも出来なくなります。
それに、あなたたち二人はどこに出しても恥ずかしくないほど立派に成長しましたから。……私から伝えるべきことは、もうありません」
翔鶴「そんな! まだまだ先輩に教えてもらいたいことがたくさんあるのに……」
加賀「次の作戦であなた達は支援部隊だけれど。私はあなたたちの師として、手本となる道を示したいと思っています。
あなた達は私や赤城さんが前線で戦う姿から、自分にとって必要なものが何であるかを見出し、学び取ってください」
加賀「……今の私の基となる、正規空母加賀は当時敵対していた国の将兵を数多く殺しました。私だけでなく、それはあなたたちにも言えることです。
当時の価値観における正義を貫いただけのこと。私たちは人を殺し国を滅ぼすために生まれてきた兵器だったのだから」
加賀「実艦であった頃の、遥か昔の記憶があるわけじゃないけれど。私は“加賀”の名を背負って生きている。
けれど、私が今生きている理由は命を奪うためじゃない。赤城さんを、あなた達を、皆が居るこの鎮守府を守るため」
加賀「次の作戦はかつての“加賀”であった艦にとって最期の戦い。でも、私はそうはならないわ。
今の私は、人を殺すための兵器でなく、人を守るための兵器。
……私は、かつての“加賀”を超える。運命を、変えてみせる」
加賀「その為に、今の段階から最善手を打っておきたいの。どんなことが起こっても対応出来るように、自分を高めておきたいのだわ」
瑞鶴「……分かりました。あの、これっ」 加賀の手のひらの上に、黒い兎の編みぐるみを乗せる瑞鶴
加賀「何かしらこれは? 七面鳥のストラップ?」
瑞鶴「違います! そりゃ、不格好で、ちょっとブサイクだけど……」
加賀「冗談よ。兎でしょう。……これを私に?」
瑞鶴「ええ。一航戦の先輩なら、深海棲艦の敵なんて鎧袖一触! なんでしょうけど……一応、お守りです」
加賀「……良い後輩を持ったわ。ありがとう」 ポンポンと二人の頭を撫でる加賀
加賀「……そろそろ第一艦隊の会議の時間に行かなければいけないわ。二人とも鍛錬を欠かさないことね。では、次は戦場で会いましょう」
・・・・
翔鶴は、先刻の訓練後の会話を思い出していた。
あの時の加賀は、今まで自分たちに見せたことの無いような本気の表情だった。
苦悩と葛藤を乗り越えた先にあるかのような、決意に満ちた真剣な眼差しだった。
去っていく背中から感じたのは、明確な闘志だった。
自分が兵器であるという自覚はあった。敵である深海棲艦を打ち倒すことが使命であることは認識していた。
だが、加賀のように、自分は『誰かを守るための兵器』だなんて考えたことは無かった。
どうすれば先輩のようになれるだろうか。この戦いが終わったら、戦うことしか能がない自分はどうなるのだろうか。
そんなことばかり考えていた。それゆえ加賀の言葉は衝撃だった。
今の自分の居場所に居続けるためでなく、艦娘として戦果を挙げるためでもない。
大切なものを守るため……その一念で彼女は今の高みまで昇り詰めてきたのだと思った。
『大切なものを守りたい』……戦いに身を置く者なら、ほとんどの人が抱く感情だから、殊更おかしなことではない。
だが、その想いだけであそこまで強くなれるというのは並大抵のことでは無い。
出世したいだとか、強くなりたいだとか、誰かに認められたいだとか、そういった欲望の方が人間の根源的な欲望に直結しているからである。
欲望の強い者ほど高いレベルを求めるし、高いレベルに辿り着ける。
そういう意味では自分も他の艦娘に負けないぐらい貪欲だと思っていたが、先程の加賀と今の自分を比べた時、決定的な実力差を痛感したのだった。
想いの強さという点で、負けている、と。
翔鶴(いつか、一航戦の皆さんに負けないぐらい強くなる、なんて思っていましたが……。私は、あんな風になれる自信がありません)
翔鶴(でも、弱気になっていても仕方ないわ。先輩の言っていたように、この戦いで、私の進むべき道を見つけましょう……!)
434 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/03/23(月) 21:30:21.25 ID:gUE3VSVL0
本日はここまで。
日曜は友人の来訪があったので本日にずれこみました。
次回の投下を今週中に出来たら嬉しいな! 多分無理なので予告ではなく努力目標。
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~30/100)
・足柄の経験値+8(現在値16)
・翔鶴の経験値+2(現在値9)
・雪風の現在経験値:5
・金剛の現在経験値:5
・響の現在経験値:6
・皐月の現在経験値:4
----------------------------------------------------------------------
////雷巡チ級////
今回はわりと箸休め的な感じなので少し自重……出来てませんね!
突然ワープとか言い出すようなお話で申し訳ございません。
既に「これ艦これでやる必要なくね?」級のハチャメチャが押し寄せてきてますが、次元を超越したり時間を遡行したり因果律を捻じ曲げたりするレベルのことはやらないつもりなんで許してくだち。
ここまで来るとむしろ艦これを題材にこんなことをやる奴他に居ねーよって感じはしなくもないですけどね。
いやぁ〜でも血気盛んなティーンエイジャーが書けばこのぐらいは余裕でぶっ飛ばせるぐらいの超設定が……(ry
今回(=第二部)は特にイチャイチャさせる気があんまりなかったので足柄さんの出番が多いわりに特にデレ的サービス要素はなしです。
でも最終的には経験値で誰とくっつくか決まるし今回は投票とかせずそのまま数値で決めるつもりなので今んとこ足柄さんルート寄りっぽい。
先の話なんでまだ分からないとこではありますが90/100ぐらい行ったらどのルートになるかが決定かなぁって感じです。
というか……提督偏屈すぎて超めんどくさい人って感じですね。こんなん誰ともくっつかなくても良いんじゃない?(オイ
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『Phase A』【31-35/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい
----------------------------------------------------------------------
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/23(月) 21:32:01.29 ID:dKTgRLUto
皐月
436 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/24(火) 12:16:11.39 ID:TJVB/29q0
響
437 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/28(土) 11:42:19.25 ID:S/Ztwk5/o
金剛
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/29(日) 14:19:23.24 ID:IU+c7JMM0
皐月
439 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/29(日) 14:57:18.14 ID:SLOJBDwUo
雪風
440 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/03/29(日) 23:52:03.27 ID:XRsWDmWZ0
>>435
-
>>439
より
・皐月2レス/響1レス/金剛1レス/雪風1レス
で『Phase A』が進行していきます。
////チラシ装填、再突入!////
次回の投下を今週中〜とか言ってたけどレスがつかなきゃ書けないのでしょうがない。
先読み・逆張りしてストック書いとけって? 残念ながらそこまで自由に使える時間があるわけじゃないのでー……。
なんだかんだ毎日このSSのことを考えてますけどね。これからどうやって展開させていこうか、このキャラは何を考えてどういう振る舞いをするだろうか……とか。
習慣になると案外楽しいもんで。毎日考えてたところでそれが作品として活きるか・作品のクオリティアップに繋がるか・投下スピードが上がるかは別問題ですけど。
レスの食いつきが悪い時は案外不安になりますねー。
『やっぱりちょっと突飛すぎたかーorやっぱりちょっと無難すぎたかー』だったり、『あぁーここのここはこうした方が後の展開が読んでる側も想像しやすいなー』とか、『ここの展開とかここの感情描写安っぽすぎるというか薄ら寒かったかなーノれると思ったけど痛いかー』、とかとかとかとか!
でもね、私は知っている! その不安のほとんどが杞憂であることを!
自分を中心に世界が回っているわけじゃないんで他者の動きに波があるのは当然なわけで。
そもそも見てて辛いなーと思われたら目に見えて勢いが衰えていくし、それに伴って自然と自分のモチベも下がっていくもんですよ案外。
滅ぶものは滅ぶべくして滅ぶのであってそれは自然の摂理であって逆説的に言うと今も存在しているということは存在意義があるから存在しているということであってー。
何を言っているかわからねーが的な感じのお話になってますが、そう! 滅ぶべきものは滅ぶべくして滅ぶ!
たとえそれが私が毎日楽しくプレイしている艦隊これくしょんというゲーム、ひいてはその艦これに類するコンテンツであっても。
艦これは2013年4月23日にサービスを開始したそうですね。今年の4月23日で2周年を迎え、3年目に突入すると。
世の中には『3』にまつわるジンクスが色々ありまして。まあジンクスですけど。ジンクスですけれども!
さりとて艦これというコンテンツにとってはここ一年は勝負どころでしょうね。アニメ(川内と那珂ちゃんは良かった)然りアーケード然り携帯機然り。
これまでのような快進撃とはいかんでしょう。
ぶっちゃけ私にとっては商業的部分なんてどうでもいいんですけれども。
ゲームは好きだしキャラも好きだし、二次創作とかも結構好きだけど、悪いけどそれ以外の部分に関しては知ったこっちゃないです。所詮1ユーザーだし。
と不遜な発言をしたところでフォローしておくと、艦これ及びその胴元である角川やDMMに対しては感謝していますけどね。そりゃあもちろん。
えと、何の話をしてたんだか。そうそう自然淘汰ってのはあるもんで。生まれたからには滅びがあるわけでしてハイ。
まあでもどうせいずれどこかでお別れしなきゃならないなら良い感じでありたいよね何事も的な微妙に締まらない締めくくりをして私はチラシをゴミ箱に捨てた。
441 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/04/07(火) 20:49:52.40 ID:0bMyPPYe0
次回の投下は明日……は無理そうなので明後日午後21時頃です。
年度末のしんどいシーズンは抜けたので、もうちょっとペース上げられそうなんですけどうーむ。
まあマイペースにやっていこうと思います。
変化のある環境じゃないので四月病は患わないで済んでますが、一足先に五月病にかかりそうです。びえー
あとあんまり余計なことは言うべきじゃないですね。後悔するならハナから言わんでおれという話なんですがまあ人間なんで……と言い訳しつつも反省。
442 :
【31/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/09(木) 21:53:23.80 ID:NczNGcm00
皐月(司令官に案内されて来たけど……執務室の下にこんな場所が建てられていたなんて……)
皐月が今立っている場所は鎮守府の地下深くに存在する洞窟である。この洞窟は海と繋がっていて、満潮時には洞窟一帯は水没してしまう。
執務室の地下施設の更に下層にあるこの場所は、金剛・比叡らの手によって大規模な実験場として改造されたのであった。
龍田「あらぁ〜? 久しぶりねぇ」
皐月「え゛? なんで龍田さんが……?」
天龍「表向きには処分された……ってことになってるんだっけか。おっと、オレの名は天龍。よろしくな」 皐月の肩をポンと叩く
雷「準備出来たわー」 遠くから声がする
龍田「じゃ、ついてきてもらえるかしら〜?」
龍田に言われるがままついていく皐月。青白く光る奇妙な装置の台座の上に立たされると、装置から拘束具が出現し、皐月の身体を固定したまま台座は高速で滑走、そのまま皐月を海上へと吹き飛ばしてしまう。
皐月「!? え、ちょ……おわッ!」 ガシャコン!
洞窟の方から飛んできた艤装を装着し、海上を滑る皐月。
皐月「????? ……なんなんだこれ? 前にアニメで見たや……うおおお!?」
足元の渦潮に足を取られてしまい、必死で抜けだそうとする皐月。
皐月「クッ……なんだってこんな所に渦潮があるんだよぉ!」
逃げようにも完全に渦潮に嵌ってしまっているため苦戦を強いられている皐月。
皐月「え? 何これ? ……向こうにも渦潮が? あっちにも……って、全部こっちに迫ってきてるぞぉぉ!?」
複数の渦潮が重なり合い、非常に大きな一つの渦となる。瞬く間に皐月はその中心に呑まれていった。
・・・・
医務室。皐月の横たわるベッドの上に座る提督。何かの設計図のようなものが描かれた厚紙を眺めながらうんうんと唸っている提督。
提督「……やはり渦潮を利用したワープは可能なのだな。だが、生身では安全性に難がある……か。どうにも猫並みの三半規管が無いとゲロ酔いしてしまうようだ」ブツブツ
皐月「し、司令官? 一体何がどうなってるの……?」
提督「目が覚めたか。すまないな、どうにも今回の『エーギル計画』は失敗だったようだ。天龍、やはり『プロビデンス』が必要なようだ。素材の調達を急いでくれ」
黄緑色の縁に、明るい水色の内装。彼には似つかわしくないポップな色合いの携帯電話で天龍と連絡を取る提督(使う人が使えばオシャレなのかもしれないが、この提督が持っていては奇抜以外の言葉は出てこないと皐月は思った)。
提督「おや、奴らから説明を受けてなかったか? 地下で会っただろう」
皐月「何にも説明されてないって! そもそも何でたつ……」
龍田、と言いかけた皐月の頭と顎を両手で挟み、強引に口を塞ぐ。
提督「一応その名前は執務室の地下以外で口にしてはならない。……そうだな、説明すると長くなるが、“あれ”が俺なりの処分だ」
提督「任は解いたし、立場上は一般人と変わらんよ。……が、それは立場上の話。言い方は悪いが、私兵という表現が最適になるか」
皐月(つまり……表向きには龍田さん達を処分したけれど、実際は地下施設内で自分の管理下においている……ということか)
皐月(確かに、天龍さん達を蘇らせるのが龍田さんの目的であって、提督はそれを達成してみせた……。龍田さん達が地下で提督の為に働いているのも、経緯から考えればおかしくはないことなのかもしれないな)
提督「今回お前に協力してもらったのは、“アノーニュムス”の、最初にして最後の作戦遂行の為の実験だ。実験の目的は既に足柄や金剛には話してあるが……念のためここで話すのはよしておこう」
提督「……この作戦が終われば、恐らく、人と艦娘の在り方さえも変えてしまうことになるだろう。それは果たして正しいことなのだろうか……。
皐月。もし深海棲艦がこの世から居なくなったら、これからお前はどうしたい? 勿論、そうなれば最終的には解体されて艦娘の頃の記憶は無くなるだろうが……」
皐月「うーん。突然そんなこと言われても困る、っていうか……。ボクは、とりあえず文月と居れればいいかな。後は……もっと色んな人の話を聞きたいかな。
ほら、ボク、ずっと訓練生だったから。まだまだ艦娘がどういうもんか分かってない所あるし……他の活躍してる艦娘たちが、どうやって過ごしてきたか興味あるんだよね」
皐月「戦いが終わったら今第一線で活躍してる人らも皆ヒマになるだろうなーって」
提督「……だろうな。……戦いが終わらない方が、殆どの艦娘にとっては喜ばしいことなのかもしれん」
皐月「ボクはボクでわりと気にしないけど……否定は出来ないね」
皐月「ただ、やっぱり、誰かが終わらせなきゃいけないものなんじゃない? 艦娘だってこの戦いを終わらせるために生まれたわけだし」
皐月「司令官がそれを出来る、というのであれば、やるべきだと思うよ。……何より、ボクがこの戦いを終えることに直接貢献出来た、なんて誇らしいからね!」
提督「……そうか。ま、そうだろうな。そうすべき、か」
提督(ああ、そうすべきだ。だが、不確定要素ばかりで先が見えないのがどうも気がかりだ……)
443 :
【32/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/09(木) 21:54:57.19 ID:NczNGcm00
鹿屋基地鎮守府内の執務室前(鹿屋基地は厳密には“基地”なので鎮守府ではないが、艦娘が在籍していて艦隊司令部のある大規模施設のことを“鎮守府”と呼ぶ通例がある)。
提督と金剛、比叡らは鹿屋基地の鎮守府を取り仕切る不破提督のもとを訪れていた。
提督「さて、話が着いて一段落だな。比叡の戻りを待つぞ。……どうした金剛?」
かつて鹿屋基地に在籍していた比叡は、提督の指示により、MI作戦の暗号が既に敵深海棲艦に流出していることを旧知の艦娘たちに伝えに行っていた。
その間に提督らは不破提督と会談し、今後自陣営に有利な展開になるように事を進めていたのであった。
金剛「あの提督……本当にワタシ達の言うとおりに動いてくれますかネー? これ、裏切られたらワタシ達がかなり不利になる気がしマース」
提督「そうだな。本来であればここ鹿屋基地の艦隊も含まれる呉鎮守府を中心とする第一次攻略大隊として出撃する手筈であり……。
しかる後に我々第二次攻略大隊が、第一次大隊が切り開いた道を進み敵本拠へ向かう。しかし、さっきも話したように、それは絶対に回避せねばならんのだ」
提督「第二大隊によって制空権を確保した状態で、第一大隊の戦艦部隊が敵を討つ。これが本作戦の概要だが……。
MI作戦の情報が全て深海棲艦に筒抜けなのは自明……どいつもこいつも聞く耳を持たないなら、いっそこちらはこちらで好きに動くしかあるまい」
金剛「敵の立場になって考えてみれば、制空権喪失または互角の状態で戦艦と真っ向から殴りあうのは避けたいハズ……。
となれば優先的に潰したいのは空母部隊に特化したワタシたち佐世保鎮守府の第二次MI攻略大隊になるでしょうネー」
提督「ああ、間違いなく敵は俺たちを先に潰そうとするだろう。だが俺たちはその上を行く」
提督「第一次大隊が出撃した後、敵深海棲艦はガラ空きの呉の本陣を強襲するだろう。
そうすれば第一大隊はUターンせざるを得なくなる。本丸を落とされてはどうにもならんからな」
提督「……作戦通りの流れであれば、先鋒隊と合流を果たせなかった我々第二大隊は棲地MIにて海の藻屑となるだろう」
金剛「それを逆手に取って佐世保第二大隊と鹿屋小隊は呉鎮守府付近で待機。敵の奇襲部隊を討ち果たしてからMIへ向かう……。
空母部隊だけでは火力に欠けますし、やっぱり鹿屋小隊には何としても動いてもらわないと、と思うのデスガ。
敵奇襲部隊を叩こうとしたつもりが、味方空母が中破以上の被害を受けて返り討ちにあった、なんて事になったらブラックジョークにもならないデース」
提督「(意外と冷静な分析力があるな。ただうるさいだけの奴と思っていたが……)いや、ここの連中は俺の言う通りに動くさ。間違いなく」
金剛「でも、なんだか上官相手とは思えない訝しげな態度でしたヨネー……?」
提督「人に信用されないのは慣れている。慣れているからこそ、信用していようがいまいが人を動かす方法も知っているということだ」
金剛「(ネクラだからこその交渉術、感心デース! ……って言おうとしたけどこれ以上心象悪くしたくないからやめときマス)」
・・・・
提督「なあ金剛。俺を恨んでいるか? 第一艦隊から外した事を」
金剛「ハイ」
提督「即答か……。ま、恨まれたところで気にはしないがな」
金剛「嘘デスネ。人に嫌われて平気な人なんて居まセーン。ワタシ、今はテートクのこと嫌いデスけど……。
今でもテートクに嫌いと言われたことは忘れられませんし、精神科に連行されたことは今でも根に持ってマース」
提督「事実嫌いなのだから仕方なかろう。俺は媚を売るような奴は嫌いだ。
それと、前にお前が俺に送りつけてきた手紙を読んで精神に異常を来たしていると判断したから精神科に連れて行ったのだ。根に持たれようが知ったことか」
提督「と、そんな話はどうでもいい。俺は、お前が第一艦隊から外された際もっと荒れると思っていたのだが……。
意外にも動じなかった事に驚いている。お前は誰がどう見ても野心家だし、強欲だし、自分が中心でなければ気が済まない性質の人間だろう」
金剛「言うに事欠いてとんでもない事を本人の前で直接言って来ますネ……。本音で言ってるだけに余計にムカつきますガ……。
鉄面皮のテートクのために論理的かつ理性的に接してあげマショウ」
金剛「ワタシは確かに、ナンバーワンが好きデス。自分が一番で居られるということは人間にとって最も幸せな事だと思いマス。
結果を出せば評価される。自分の為だけに行動して、自分だけが利益を得る。頑張れば頑張れるほど報われる。かつてのここの鎮守府のSystemはワタシの肌に合っていました」
金剛「デスガ……今は貴方がテートクになってそのSystemは瓦解しました。自分の為に動いても全体で利益を出さなければなりまセン。
それはもちろん集団のあり方としては当然デス……。でも、ワタシは“ワタシが”No.1でありたいのであって、他の事には興味無いデース」
金剛「そりゃあ、旗艦を外されたどころか第一艦隊まで外され、常設の艦隊にさえ入れてもらえないとは思ってマセンでしたけど……。
どうせLevelの低い艦隊に配属された所でMotivationが上がらなかったでしょうし。だったらこうしてテートクの懐刀として動いていた方が楽しいデース」
と言い終えた後、提督そのものは嫌いですけど、と付け足す金剛。
提督「ふむ……楽しいとはどういうことだ?」
金剛「これからどんなChaosな展開が訪れるか……結構興味ありマスよ。フフフ」
金剛「深海棲艦を滅ぼす……。でも、それは結果的には艦娘を滅ぼすことにも繋がりますよネ? ……テートクがどんな最期を迎えるか今から楽しみデース。
おっと、ワタシはテートクが独りぼっちになるまでは見届けてあげるつもりデスから、疑ったりしないで下サイネ?」
提督「お前、人格は最低だが、味方としては一番心強い部類の人間かもしれんな」
金剛「テートクには言われたく無いネー♪」
提督「やれやれ……」
444 :
【33/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/09(木) 21:55:26.46 ID:NczNGcm00
執務室に置かれた円卓を囲む提督と二名の艦娘。
赤城「あの、会議なら会議室で行った方が良いかと思うのですが……」
提督「確かに、会議の場としては狭いが……。議論というより、俺が一方的に話すだけになるのでこのような形を取らせてもらった(ここなら盗聴も難しいしな)」
響「内容は例の作戦について、なのかな? 第一艦隊旗艦の赤城と、私。第三艦隊旗艦の霧島が見えないは気になるが……」
提督「霧島には別に話をするつもりなんでな。ひとまず……各艦隊の状況を訊きたい。円滑に事が運びそうな人選をしたつもりではあるが……隊としての練度の程度を知っておきたい」
響「第二艦隊は概ね問題ない。完全に纏まるまでもう少しかかりそうだが、作戦決行の日までには滞りなく動けるようになるだろう」
赤城「第一艦隊も問題ありません。今この瞬間に作戦を開始しても、提督の期待に沿えるように動けるでしょう」
提督(新第一艦隊の訓練の量は、これまでの第一艦隊の倍以上だというのは知っている。だが、短期間でここまで仕立て上げるのは並大抵のことではあるまい)
提督「そうか。それはご苦労。そうそう、暗号の件も上手くやれてるか?」
赤城「ええ……でも、どうして従来の暗号とは別の暗号を使うようにしたのでしょうか?」
提督「結論から言うと、既に我々のMI作戦攻略の暗号は全て深海棲艦に筒抜けになってしまっている。ALの動きも、MI第一大隊・第二大隊の動きも、全てが敵に予測されている。
その裏を掻く為に俺達は新しい暗号を使う必要がある。お分かりか?」
赤城「暗号……? そう、ですか……」
提督「赤城、顔が青いぞ。それに、心なしか震えているように見えるが……」
赤城「いえ、この程度……問題ありません!」
提督「……やれやれ。お前、毎晩悪夢にうなされているのだろう。加賀から聞いているぞ」
赤城「加賀さんが……? そうですか……やはり、隠せていませんでしたか」
提督「練度が上がれば上がるほど、精神が本来の実艦であった頃に近づいていくというのはどうにも本当らしいな」
提督「加賀から聞いているのはそれだけじゃない。悪夢による極度の不眠。それによる体調不良を補う為の過度の食事。
そして不安とプレッシャーからくる嘔吐……。恐怖を押し殺し、身を削っててまで強がるな」
赤城「はい。ですが……乗り越えなくては……」
赤城「遥か昔……先の戦いでの私は、私たちは、敵を侮っていました。慢心していたのです。私がもっとしっかりしていれば……皆を救えたのに……」
ゴホン、と咳払いして赤城の言葉を強引に遮る提督。
提督「……安っぽいヒロイズムは捨てろ。お前一人で抱え込もうとするな。
戦場で誰かが沈もうとそれはお前の責任じゃなく、自分の力量を見誤った当人と、そいつに指示を出しちまった大元の奴の責任だ」
提督「なあ赤城よ。俺が信じられないか? 俺は人間的な部分での魅力はともかく、戦略と智謀には絶対の自信がある。それはこれまでの戦いでも十二分に示してきたつもりだ。
お前は俺の言うとおりに動いていれば勝つ。それだけだ、何の心配も要らん。俺が信じられないのであれば、連合艦隊の連中を信じてみろ」
提督「いいか? 不退転の覚悟で命を賭けて戦うことを美徳と思っているなら、そんな考えは改めろ。
あるのは完全なる勝利のみ。お前は少し臆病になり過ぎている。思う通りに動いてみせろ」
赤城「慢心……」
ぽつりと、震え声で呟く。普段の毅然とした態度の赤城とは打って変わって、まるで涙をこらえている子供の姿のようだった。
提督「慢心? 上等だろう。お前のその慢心の責任は全て俺が負ってみせるとも」
・・・・
作戦会議が終わり、部屋を出て行く赤城と、なおも居残る響。そして提督。
提督「どうした? 戻らないのか?」
響「あぁ。……いやなに、司令官が甘いのは、私や雪風相手だけだと思っていたのだが。意外だったよ」
提督「(人をロリコンみたいに言うな……)俺は有能な人間に対しては寛容でいるつもりだが。有能で、かつ味方であればなおよい」
響「駒は多い方が良いからね。司令官のそういうドライな思考は少し憧れるところがあるよ」
響(……もっとも、誰もが誰もそういう風に考えられるわけじゃない)
提督「その通り。有能な人間の真の才能を引き出すことは上官として至高の愉悦だ。こればかりは役得だな」
響(司令官の他人に対する考え方は実にシンプルだが……他人も同じであるとは限らない)
響(人は……精神的に最も追い詰められている時に他者からの優しさに触れると、抗いようもない想いを募らせてしまうものだ。
土砂降りの雨の日に傘を貸してくれる人が居たら、その人の事を聖人だと錯覚しても無理のないことだと思う)
響(だがそれは所詮錯覚……。錯覚ではあるのだが……)
響(赤城……彼女はいずれ、私の敵になるかもしれないな)
445 :
【34/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/09(木) 21:57:31.40 ID:NczNGcm00
執務室地下施設内のとある部屋。雪風と二人で食事を摂る提督。
二人が座る机に隣接する壁、その壁に開いた小さな穴を眺めている。
この穴は食堂と繋がっていて、時間になると妖精たちが食事を運んできてくれる。
サラダボウルから、コーンをフォークで突き刺して食べている雪風。さっきからコーンしか食べていない。
妖精たちが机の上にデミグラスソースオムライスの乗った皿を置く。
雪風「しれえ! そういえば、司令のお兄さんとお話して知ったんですけど……」
提督(龍田の一件で、天龍らを復活させるためには、俺の兄の力を借りる必要があった。雪風の力が無ければあの時点で兄さんと再会することは困難だったろう)
提督(俺の兄はコンピュータ上に存在する人工知能であり、彼を起動するためには様々な工程が立ち塞がっていた。俺のハード部分での技術に、雪風のソフト面での知識が加わり作業効率が上がったのだ)
提督(しかし雪風があそこまで使えるとは思わなんだ。一体どこで学んだのかは知らんが、いわゆるオタク気質なのかもしれんな……)
雪風「司令のお兄さんって、23番目に開発された人工知能だから“ニーサン”なんですね! 知りませんでした! 確かに人工知能と兄弟だなんてヘンだと思いましたけど……」
提督「それ嘘な」
雪風「ええっ!? 最初の人工知能は数百年前に『フリーメイソンリー』という秘密結社の研究機関が発明したって聞きましたよ。それから、ひいお爺ちゃんが『エシュロン』だって話も……」
提督「兄さんはお前のように真剣に話を聞いてくれる奴に出鱈目吹き込むのが好きなんだ。俺もガキの頃はよくやられた」
雪風「それじゃあ、2000年前に当時の深海棲艦と戦った人の遺伝子情報を基に生まれた人工知能ってのも嘘……?」
提督「いや、それは本当だ。人格の母体となっているのはそれだが、知識データベースには数千人分の知恵や情報が詰まっている。そうでなければ天龍らを蘇らせる方法や、深海棲艦が何故生まれるかなど知りようがない。話の中の嘘と真実が半々なのが特徴なのだ」
雪風(気まぐれだ……)
雪風「じゃあ、司令とお兄さんが兄弟なのは、どうしてなんですか?」
提督「むぅ……話すと長くなるからな。やめておこう。ただ、俺にとっては実の兄のようなものだ。尊敬しているし羨ましい」
雪風「羨ましい?」
提督「俺の知らないことを知っているのがな。俺が兄さんに教えてもらったことはあっても、俺が兄さんに何かを教えたことは無いからな」
雪風「ほぇ〜……でも、司令にも司令しか知らないことがたくさんあるんじゃないですか? 私たちや艦隊のことはほとんど知らなかったみたいですし」
提督「ん、まぁ、それに関しては兄さんに話すような話題でもないからな。というか、俺だってお前らのことはほとんど知らんぞ」
提督「俺が知っているのはお前らが有能かそうでないか、何が秀でていて何が劣っているか……。つまるところ俺にとって得であるか否かという点のみだ。それ以外に関しては知ったところで意味が無いしな」
・・・・
雪風「お兄さんよりしれえの方が人工知能に近い気がします」
提督「フッ、一理ある。俺はどうにもまどろっこしいのが嫌いな性分でな。要求がシンプルな奴は扱いやすくて助かる」
雪風「あーそれちょっと分かりますね。私、初対面の人と話すと緊張しちゃって……相手のことが分かると平気なんですけど」
提督「そういえば、あがり症だとかヴェールヌイが言ってたか。今の様子をみるに、さほど重度でもないようだが……」
雪風「最初はしれえの事怖い人かなと思ってたんですけど、意外とそんなこと無いんだなって分かってからは、緊張しなくなりましたね」
提督「他人からどう見えるかが気になるのか?」
雪風「はい。相手の前で良いカッコしたいとかいうわけじゃないんですけど……嫌われたらどうしようって。しれえは人から嫌われても平気なんですか?」
提督「そりゃそうだ。そんなこといちいち気にしてられんだろう。人に嫌われたら嫌い返してやればいいだろうが」
雪風「うーん……それは分かんないですね〜」 デザートのさくらんぼを口に含む
雪風「ひほ(人)に迷惑をかけるのは嫌ですし、かけられるのも嫌です」
ぷいとさくらんぼの種と茎を皿の上に吐き出す雪風。
提督(舌でさくらんぼの茎を結んだのか……? 器用だな)
提督「見かけによらず気にしいな奴だな。迷惑を誰にもかけず生きることなんて出来やしないのだ」
雪風「んぅー」 納得していないような呻き声を上げる
提督「そんなに気になるのであれば、かけた迷惑の分だけ恩で報いれば何も問題ないだろう」
雪風「なるほど……それはそうかもしれません」
雪風「ちょっとだけ司令のことが分かった気がします!」
提督「ちょっとだけか」
雪風「ちょっとだけです」
446 :
【35/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/09(木) 21:58:07.58 ID:NczNGcm00
ボクは皐月。ボクたちアノーニュムスは、提督から与えられた極秘任務を達成すべく、『プロビデンス』という名前の船に乗って海上を進んでいる。進んでいるんだけど……。
提督「ビッド。チップは5枚」
皐月「む、いきなり上限とは攻めるねぇ……じゃなくて! なんでボクらはポーカーなんてやってるんだよ!」
提督「ヒマだからだろうが。それに、不安だと言ってたのはお前の方だろう。お前の恐怖心を紛らわすためでもある」
『プロビデンス』は船体がピラミッドを逆さにしたような形状で、底面以外は海中に沈んでいる。
船窓から見える景色は魚の泳いでいる姿だけだし、こんな状態じゃ不安にならない方がおかしいんだよ!
敵深海棲艦に見つかったら、一体どうするつもりなんだ!? 一応、見張りとして文月が船の上に立っているけれど……。
比叡「気合!! 入れて!! 漕ぎます!!」
金剛「ファアアアアアアアアアアアアアアック!!!!!!!」
下の階からは叫び声が聞こえるし……。なんでも、この船にはまともな推進力がないらしく、金剛さんや比叡さん、足柄さんが発電機のペダルを漕ぐことで進むんだとか……。
提督「何を長考している? コール(継続)か? レイズ(上乗せ)か? それともドロップ(棄権)か? 答えを聞こう」
皐月「(A4枚のフォーカード!? これは勝てるな)レイズ、5枚」
提督「ふむ。なかなか自信があるようだな……」
っていうか、どうして司令官までこの船に乗り込んでいるんだ?
いや、なんとなく予想は着くけれど、ボクたちが出発している間にMI作戦は開始してしまうわけで、そうなったら誰が艦隊の指揮を執るんだ?
司令官のことだから、何の考えもなしにやっているわけじゃないのは分かるけど……。
提督「悩み事か?」
皐月「司令官は、一体何を考えているの?」
提督「説明したろうに。全ては策の通りだ」
皐月「でも……この時期に鎮守府を離れるなんて正気の沙汰じゃないよ。何も今こんなことしなくても……艦隊の指揮を取れるのは司令官だけなんだよ!?」
提督「……分かった。では、このゲームに勝ったら教えてやろう……さて、俺の捨てるカードは五枚。さ、カードをよこせ。ドローだ」
皐月「全部!? 全部取り替えるってこと!?」
提督「そうだが」 皐月から五枚のカードを受け取る提督
皐月「(どういうことだ……?)ボクは、ドローはしない」
提督「そうか。じゃあビッド五枚。さらに上乗せだ!」
皐月(互いのコインの枚数は30枚。……ここで負けたら15枚のコインを失うんだぞ!? なのに司令官はなぜカードをめくろうともしない!? もういい、レイズ5枚だ! 勝ちに行くぞ)
皐月「レ……(いや、イカサマか……? この自信、何かあるはずだ……)」
皐月(表情や仕草からは何も伝わって来ない……。仮面の裏で一体何を考えてるんだ……? だが……ここでは退けない……! この手札で負けるハズが無いんだッ! そうだ、ボクが配ったカードだぞ? 何か仕組めるはずがない!)
皐月「レイズ五枚。ボクはハッタリには乗らない!」
提督「よかろう。では、互いの手の内を明かそうか」
皐月 ♥A ♣A ♦A ♠A ♥J / 提督 ♣4 ♣5 ♣6 ♣7 ♣8
提督「Aのフォーカードと♣の4から始まるストレート・フラッシュ……。ストレート・フラッシュ!? そ、そうか……俺の勝ちか」
提督「さ、さて、こちらのコインが50枚。お前のコインは10枚。だが、お互いのコインが無くなるまでゲームは終わらない……次のラウンドに移行しようか」
・・・・
その後も3ラウンド続いたが、結果は散々なもので、ボクは一度も勝つことが出来なかった。
司令官が何かイカサマをしているのかとも疑ったのだけど、全く分からないままジリ貧で負かされてしまった。
提督「……いやな、わざと負けるつもりだったのだ。お前の度胸を試そうと、イカサマをしていると疑わせるようなことをして煽ってみたのだが……運だけで勝ってしまったのだ」
提督「断じてイカサマではない。お前の勝負強さを確認したかったのだ。ストレート・フラッシュは計算外だったのだ」
提督「……なぁ、頼むからその卑怯者を見るような目はやめてくれ、心外だ」
ボクが喋らなくなると、司令官は珍しく少し困っている。ちょっと面白い。
でもやっぱり負けたのは腑に落ちない。
提督「分かった、これからの策の全貌を明らかにしてやろう。本来は勝ったら話してやる約束だったが……話してやると言うのだ。これで良いだろう?」
負けたけど、なんか勝った気になれたので、許してあげることにした。
447 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/09(木) 22:08:20.44 ID:NczNGcm00
本日はここまでです。
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~35/100)
・皐月の経験値+2(現在値6)
・響の経験値+1(現在値7)
・金剛の経験値+1(現在値5)
・雪風の経験値+1(現在値6)
・翔鶴の現在経験値:9
・足柄の現在経験値:16
----------------------------------------------------------------------
皐月視点になったのに特に深い意味はないです。
一応、なんだかんだ今回は一レス完結を意識して書いてるのでこういうこともあるってことで。
ただ今回の投下分はそれぞれの話にまとまり無さ過ぎてちょいとカオス気味ですね。
わざと聞いたことがあるような無いような妙な固有名詞を出してみたりするのはいわゆる演出みたいなものなので、あまり重大な意味は持ってません。
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【36-40/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00〜17:雪風
18〜33:翔鶴
34〜51:金剛
52〜68:響
69〜80:足柄
81〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい。
----------------------------------------------------------------------
448 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/09(木) 23:33:21.47 ID:MgwS61700
乙です
449 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/11(土) 04:22:04.57 ID:W8bGrCGjo
乙
450 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/11(土) 17:40:45.40 ID:u8Ga5PPTo
乙、敬意を表したい
451 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/15(水) 11:09:00.27 ID:st7kBPUUO
ぽにゅ
452 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/15(水) 17:50:32.37 ID:75/l4ty0o
ぬぽっ
453 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/04/15(水) 23:58:30.21 ID:fryfm7gn0
>>448
-
>>452
より
・金剛3レス/響1レス/翔鶴1レス
で『Phase B』が進行していきます。
////チラシ////
4月の末にイベントがあるようで。私が艦これ始めたのもちょうど去年の今頃なんですよね。
当時の春イベはまだ2-4突破したてぐらいの状態で、E-2までしか攻略出来なかったんですよ。
天津風が欲しかったのになぁ……とちょっと悔しい思いをしたのも今となっては良い思い出。
(しかし、E2を突破し烈風改を得ていたことが後に大きなアドバンテージなるのであった)
今回はアニメからの新規参入者を意識した感じの難易度なんでしょうかね?
ま、どんな強敵が相手でもやってやんぜ……! という気概だけは持っておこうと思います。気概だけは〜。
454 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/04/21(火) 23:43:21.46 ID:y2ldvYJh0
次回の投下は〜今週水曜日または木曜日〜つまり明日or明後日を予定しております〜。
ひょっとしたら予告よりも遅れちゃうかもしれませんが、一応告知ですです。
////独り言////
アアアアアアアアアァァァァァァ〜〜〜こんなもん書いて良いのか〜!? 許されるのか〜〜〜〜〜〜!?!?!? と絶賛葛藤中です。誰も絶賛してませんが。
葛藤に負けてまともな路線にシフトしたら一週間ぐらい投下が遅れるかもしれません。
(私の理性や常識的人間性が狂気に勝利を収めることが出来たら投下が遅れます、とも言い換えることが出来るかもしれません)
あ、関係ないけど最近新編二航戦の任務クリアしました。羅針盤大暴れで結局バケツが40個ぐらい飛びました。
これで難関任務もようやく全部片付いた……と言いたいところですが最近追加された『新編「三川艦隊」ソロモン方面へ!』は激ヤバ度高いですね。
うーん、まずはレベリングからかなぁ(汗
455 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/04/23(木) 20:29:37.70 ID:/mfA6lmu0
先に予告。ごめんなさい投下遅れます。いや大体もう書けてる感じなんですけど。
オンメンテが……追加ボイスが……! フゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!(もはや言葉は不要)
これはもうSSどころじゃないっす。少しだけ私に艦これを満喫する時間をください。
遅くとも明日の夜までにはなんとかするので、ご理解ください。
456 :
【36/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/24(金) 19:35:24.58 ID:x76Zqb8c0
腕を組みながら海上を進む響。
響「君な……今更緊張していてもしょうがないだろう」
雪風「大きな戦いの前はどうしても……心臓がバクバクします!」
響「昨日はグッスリ寝ていたじゃないか」
雪風「昨日は昨日、今日は今日です。……」 双眼鏡で遠方を眺めている雪風
響(私たち第二艦隊は先行して鹿屋小隊と合流。のち第一艦隊とも合流し、呉鎮守府周辺を警戒……果たして敵は司令官の読み通りに出てくるのだろうか)
大淀「呉鎮守府正面海域に敵艦隊が接近!」
艦隊に緊張が奔る。
響「ふむ、来たか……。敵の規模が分からない以上私たちだけで進むのは危険だな。後援の味方を待とう。利根・筑摩・大淀は周囲の索敵に専念してくれ。木曾・雪風、念のため戦闘準備を」
・・・・
響(無事鹿屋の小隊と合流出来たな。ひとまず安心か)
伊勢「鹿屋基地第一艦隊、参上致しました!」
響「ご苦労。ん? ……お前は、あの時の!」
加古「あっあ! あぁ、いやぁ、お久しぶりですー! どうもー!」
加古(例の件に関わってたのはあたしだけだ。ここの艦隊の連中は何も関係ない。何でもあんたの言う通りにするから、ここは黙っていてくれないか。頼む) 小声で響に耳打ちする
響「(こいつが信用出来るかどうかともかくは置いておいて、今はそれどころではないな……)分かった、下がれ。現状の説明をしよう」
響「……呉鎮守府に敵の艦隊が接近しつつある。本土への強襲を目論んでいるらしい。私たちで連携して敵部隊を討つ、いいね」
日向「こちらの暗号が深海棲艦に漏れていたというのは本当だったのか……。私たちまでMI方面へ向かっていたらここがどうなっていたのかを考えると、ゾッとするな」
日向(にしても、想定外の奇襲だというのに動きがスムーズすぎる……まるで本土決戦が敵の狙いだと予め分かっていたような落ち着きようだ。向こうの提督はこれを見越していたのか……?)
・・・・
響「随分早い到着だな。予定ではもっとかかるはずだったと思うが……」
鹿屋小隊の到着から間もなくやって来た第一艦隊。
赤城「えぇ。提督から、今回の作戦は私の裁量に委ねるとのことなので。少し急いでこちらに向かいました」
響「……状況を説明しよう。提督の予想通り、ガラ空きの呉鎮守府に敵奇襲部隊が迫っているようだ。大淀、敵の規模は?」
大淀「戦艦タ級flagship1隻、軽巡ヘ級flagship1隻、軽母ヌ級flagship2隻、駆逐ロ級後期型2隻で編成された艦隊が接近しています。背後からは潜水艦の気配もあります……。現状確認出来るのはここまでですね」
赤城「敵の規模から考えて、これが本隊ではないでしょう。主力部隊と合流されると厄介です! 早急に叩きましょう」
加賀「こちらが制空権を確保している以上、戦力差からいって相手に勝機はないでしょう。ですが、油断は禁物」
飛龍「ふふっ、慢心はダメゼッタイ、ですよね? 心得ていますよ」
響「私たちも行くよ。利根、筑摩、水上爆撃機を。木曾も雷撃の用意だ」
利根「我輩のカタパルトの出番じゃな! 任せておけ、不備は無い!」
木曾「自信満々に言われるとかえって心配だな……。ま、いいか。こっちも行くぜ!
赤城(全幅の信頼を寄せてくれている提督の為にも……)
響(完璧な勝利を期待している司令官の為にも……)
赤城&響(こんな所で立ち止まっている暇はないッ!)
・・・・
龍田「呉の方に動きがあったみたいね」 モニターを食い入るように見つめる天龍に話しかける
天龍「あァ〜……! 提督からの通信はまだ来ないのかよォ〜! なんだってオレが司令官代理なんてやらなきゃならねえんだ〜」 頭を抱えている
天龍「オレのせいで誰か沈んだらヤじゃんかよォ〜……こんなん向いてないっつうの」
暁「第三艦隊も第一次MI攻略大隊と合流出来たみたい。第一大隊が敵の本隊とぶつかる前にうちの機動部隊が合流出来るかが勝負ね」
天龍「昼に被害が出ることは無いだろうが……夜戦となったら話は別だ。こっちもただじゃ済まないかもしれない。日が経てば経つほど不利になるだろうな」
天龍(三日……。三日でどうにか出来なければ、この作戦は失敗だ……)
龍田「弱音を吐いていても仕方ないわ天龍ちゃん。責任を感じているのは分かるけど……あまり悲観的にならないで。今のところ全て順調よ?」
天龍「わあってるけどよぉ……やっぱ向いてねーって!」
457 :
【37100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/24(金) 19:45:06.62 ID:x76Zqb8c0
霧島「佐世保第二次MI攻略大隊先鋒隊、霧島艦隊です!」
長門「おお、来たか! 私は第一大隊旗艦の長門だ」
扶桑「……? 第二大隊は空母機動部隊が主と聞いていましたけど……思いの外少ないですね」
霧島「ええ。私たちはあくまで先鋒隊です。攻勢に出るのは、後続の主力が来てからになるでしょう」
大和「空母の数が少なくとも、道中の雑兵相手に負ける私たちではありません。邁進します!」
武蔵「ふふ、そうだとも! 私に続け! 大手柄を立てやろうじゃないか!」
瑞鶴「随分と意気盛んだねぇ、翔鶴ねえ?」
翔鶴「ええ。大和型に装甲空母の投入……まさに総力戦というに相応しいでしょう。士気が高くなるのも当然のこと」
霞(問題は……深く攻め入り過ぎて敵の主力空母に反撃を食らう恐れがあること……。味方の増援が間に合えば万事解決なんだけど)
霧島「私たちは戦力を温存しつつ前線部隊の支援に回りましょう。翔鶴さん・瑞鶴さん。お二人は攻撃機とは別に、偵察機を放ち、敵増援の警戒もお願いします」
霧島(司令が何故私を第三艦隊に、榛名を第一艦隊に配置したかは分からない。私は榛名よりも戦える。そして司令もそう評価している……)
霧島(ならばなぜ私を第一艦隊にしなかったのでしょう。そして、なぜ第三艦隊の旗艦に? 周囲をまとめるなら、榛名の方が上手くやれそうな気がしますが……)
霧島(鶏口となるも牛後となるなかれ……か。司令が私をどうしたいのかは分かりませんが、旗艦としての最善を果たしてみせましょう!)
・・・・
武蔵「フッ、余裕だな」
轟音とともに主砲を打ち放し、敵駆逐艦を跡形もなく消し飛ばしていく武蔵。
清霜「すごい! さすが戦艦ね!! 私も早くなりたいなぁ……」
秋月「対空射撃! 撃ちます!!」
敵艦隊の後方から迫り来る敵艦載機を次々と撃ち落としていく、秋月を始めとする呉連合艦隊所属の駆逐艦たち。
大鳳「この際、徹底的に撃滅しましょう!」
大鳳の放つ高性能な艦載機が、敵戦艦を大破にまで追い込む。
瑞鶴「翔鶴ねぇ……私たち、要らないんじゃないかな」
翔鶴「そうね……。でも、そうも言ってはいられないわ。後衛としての任を果たしましょう!」
瑞鶴「もっちろん! 折角の勝ち戦なら、楽しませてもらわなきゃねッ!」
・・・・
清霜「昼の快進撃で、敵艦隊は鳴りを潜めてるみたいね。今夜は無事に過ごせそう?」
長門「……これ以上の深追いは無用だろう。敵本陣への道半ばで負傷するわけにはいかんからな」
川内「えー……夜戦はおあずけかぁ……」
長門「ところで、霧島よ。第二主力大隊……佐世保からの増援はなぜ来ない? 遅くとも今日の暮れには合流出来る手筈だったろうに」
霧島「さ、さぁ……どうしたんでしょうか……(呉鎮守府の奇襲に備えて待機している、なんて言ったら混乱は避けられないでしょう。合図が出るまでは誤魔化し続けるしかないわね)」
扶桑「まさか、何か不幸なことがあったんじゃないかしら……敵別働隊に妨害を受けているとか……ひょっとしたら、鎮守府が敵に強襲されているとか……!」
武蔵「フッ。大規模改装されて欠陥戦艦とは言わせないと息巻いていたのになぁ。もう臆病風に吹かれたか? 何を臆することがある! 前ッ進ッあるのみだ」
大和「今の私たちの戦力なら、制空権を捨ててでも前に進むのも選択肢の一つだと思います。それに、早期に決着を着けなければ、こちらが不利になるでしょう。それは提督も仰っていたことです」
霞(……敵にこちらの策がバレていなければ、そうかもしれないんだけど)
長門「大和型という切り札中の切り札を切って臨むほどの決戦だからな……。維持出来ている補給物資から考えると、持ってせいぜいあと二日だろうが……。どう思う吹雪?」
吹雪「ええ、私もそれは同意見です。……ですが、やはり味方の増援が来ないのは不安です。扶桑さんの言う通り、敵別働隊に妨害を受けている可能性があります。そうだったとして、ここから状況を確認する術はありませんが……」
霧島「今攻めるのは尚早です。私は第二大隊を待つべきだと主張します。制空権を失った状態では、不必要な痛手を追う恐れがあります。佐世保第一・第二連合艦隊の到着までは堅実に、周辺海域の敵艦を掃討していった方が……」
・・・・
霧島「なんとか、進撃を引き止めることが出来ました……。戦艦や重巡から来る侮蔑の視線が痛かったです……胃が……」
霧島「私、戦況を分析したりするのは得意ですけど……こういう交渉を通すのは苦手ですね……」
翔鶴「いいえ、よくやっていますよ。きっと提督も褒めてくれるはずです」
翔鶴(……霧島さんは、自分の使命を全う出来ている。私たち佐世保第三艦隊以外は皆、敗北の可能性を考慮していない状況の中で警鐘を鳴らして、その主張を押し通した)
翔鶴「いいえ、よくやっていますよ。きっと提督も褒めてくれるはずです(私も頑張らなくっちゃ。自分なりにやれることを探しましょう)」
458 :
【38/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/24(金) 19:52:50.78 ID:x76Zqb8c0
提督?「提督・金剛の」
金剛?「ドキドキ♡これまでのあらすじ♡」
提督?「我々の乗っていた船『プロビデンス』は、『ドラゴントライアングル』を経由してワープしたのであった!
説明しよう! ドラゴントライアングルとは、房総半島の野島崎・小笠原諸島・グアム島の三点を結んだ地点のことだ。
渦潮の頻発するこれらの三地点の中でも、その中央は特に大きな渦潮が発生しやすいのだった」
金剛?「ここで補足デェース! 深海棲艦が海上に出没するようになってから地球の環境は一変しまシタ。
渦潮とは本来、流れの早い海流と緩やかな流れの海流との境界付近で発生する現象デス。かつては鳴門海峡のような狭い海峡内で限定的に見られるものデシタ。
But、深海棲艦が現れて数十年経った現在ではァー、海流の接触がない広く穏やかな海域でさえも大規模な渦潮が多発するような状態に変貌してしまったのデェース!」
提督?「ドラゴントライアングルに発生する渦潮の潮力をワープの動力として利用し、我々は南極へ辿り着いたのであった!」
金剛?「降り立ったのは一面銀世界! テートク曰く、南極の永久凍土の下にメガラニカはあるんダッ! ……ってことだったんデスガ」
提督?「エセ外人があろうことかこの俺に雪球をぶつけて来たことによって、事態は思わぬ展望を迎える!」
金剛?「仁義無き雪合戦の結果、ワタクシプリティー金剛は、アングリー鉄面皮の陰湿な策謀によって落とし穴に叩き落とされてしまうのデース」
提督?「いえいえ陰謀なんかじゃございません。前方180度が攻撃範囲の妖怪紅茶飲みと真正面から当たっては反撃を受けてしまう。
そこでデースガールと他の艦娘との対立を煽り、注意が逸れたタイミングで足払いをお見舞い!
尻餅をつきながらツルツルと氷の上を滑っていくマヌケ。やりました。
これだけでも面白い光景だが、そこですかさず追撃! しかけていた小型地雷を起動し、落とし穴を生成!」
金剛「外道! 卑劣! 男のやることじゃないデース!」
提督?「おっとぉ、誤解をされないように言っておくと、この落とし穴はアホを叩き落すためだけにぶち開けたんじゃあないぜ。
落とし穴の先は氷洞になっていて、先へ進めばメガラニカへ辿り着ける、というものだったのダー」
金剛?「氷洞を進んでいたワタシ達。二又の道に差し掛かったタイミングで突然のAvalanche! 雪崩がワタシ達を吞み込んだのデース!」
提督?「さてここで訂正が入った。突然などと事故のような口振りをしているが!
その真実は紅茶ばかが雪合戦の時に俺に撃とうとした鉄甲弾が数キロ先の氷塊にぶつかって、それが原因で迫ってきた雪崩である可能性が高」
金剛?「違いマース! そんな可能性はありまセーン! 事故デース! ネクストフロンティアへの冒険に犠牲はつきものデース!」
提督?「まぁ、そんなわけで……俺と金剛の二人は他の連中とはぐれてしまい、行き着いた場所は洞窟の行き詰まりという有様だ」
金剛?「道を引き返そうにも洞窟全体を覆う雪の壁。おまけに顔以外は全身雪に覆われていて身動きさえ取れないという始末……。Oh,Gosh!」
金剛?「ベタすぎる展開デスガ、友達未満恋人論外な二人はどうやってこの状況を切り抜けるのでショウカ!?」
・・・・
提督「うう、寒さで頭がやられてきた……幻覚が見える……。妖精が頭の上で何やらぴいちくぱあちくと揉め合っている……」
金剛(いい気味だと思ってしばらく放置してましたケド……さすがにヤバそうなことを口走り始めましたネ……)
提督「なぁ金剛……艤装の排熱で雪は溶かせないのか?」
金剛「とっくにやってマース! ワタシの周囲半径1mほど溶かすことができましたガ……まだまだそっちの雪を溶かすには時間がかかりそうデース。こんな狭い所で砲撃したら洞窟ごと潰れかねないし……」
提督「そうか……俺がここで死んでしまったら、お前たちは帰る術を失ってここに取り残されてしまうというのにな。残念だ。実に残念なことだ……しかし、この氷が溶けないのならば、それも運命か……」
金剛「分かりまシタ。仕方ないですネ〜♪」 水筒を取り出し、マイカップに紅茶を注ぐ金剛。そこにミルクと砂糖を加えて即席ミルクティーの完成である
提督「おい、暗になんとかしろと言っているのだ。艤装が自動で温度調節してくれるお前らと違って、人間は存外すぐに死ぬものなのだ」
金剛「ガミガミ言わないで下サーイ……今パワーを溜めてマース……」 ズゾゾゾ……
紅茶を飲み終えると、金剛は拳に力を込め、高らかに叫びだす。
金剛「ワタシのこの手が光って唸る! 氷を溶かせと輝き叫ぶ!」
提督「待て、猛烈に嫌な予感がするのだが」
金剛「必殺! シャイニングゥ・ラァァァヴッ・フィンガァァァー!」
ドゴオオオオオオオォォォォォォォン……。
周囲を覆っていた氷は、一瞬にして白煙に変わった。
提督(死を覚悟した)
金剛「ザッとこんなもんデース」
提督「ご苦労、助かった。さて、脱出を図るか……ん?」
氷の壁が溶けたことによって、洞窟の行き止まりとなっていた場所に道が出来ていることに気づく二人。
金剛「どうにもこっちに進むのが正解? ですかね」
提督「怪我の功名……かどうかは分からんが、ひたすら雪を溶かしながら来た道を戻るよりはマシだろう。行くぞ」
459 :
【39/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/24(金) 19:55:35.29 ID:x76Zqb8c0
提督「ここが氷洞の出口か」
目の前には海原が、頭上には満点の星空が広がっている。
金剛「オーゥ。Beautifulなbeachデスネー」
提督「今は昼のはずだろう。なんなんだここは……」
ゴゴゴゴゴゴゴ……。天空を覆っていた夜空が、地の果てまで覆っていた海が、空間ごとねじ曲げられていく。
提督「空が……まるでノートのページを捲ったかのように変形していく……!」
突如現れた空でもなく海でもない空間に、巨大な門が垣間見える。
提督「これが“タルタロスの門”なのか……? 俺たちは目的地に辿り着いたようだ。俺たちが辿って来た氷洞が“門”のあるメガラニカの中央部に繋がっていたらしい」
提督「“門”のある座標に辿り着くまでは肉体が必要だ。だが、“門”そのものはこの世には無くイデア界……平たく言うと精神世界上に存在するのだ。
ここは俺とお前が無意識的に創り出した、仮想の世界。その仮想世界に干渉して現れたのがあの“門”。俺たちが探していたものだ」
突然海上から無数もの水柱が立ち上る。激しい地響きが起こる。
提督「おいでなすった……! 門番だッ!」
海の中から現れたのは、鋼鉄のように鈍く光る鱗、鬼灯のように赤い眼、八つの頭に八つの尾……そして、身の毛もよだつほどの殺気。
提督「トネリコの大樹を貪る害獣であり、異界から湧き出る化物どもにとっての神であり、俺達が脳内で生み出した恐怖の具現化だ」
金剛「まるでヒュドラデース! って、こんなんワタシ一人で倒せるんデスカ!?」
提督「心配するな。ここは現実じゃない。恐怖に打ち勝つという意志を具現化すれば……!」 提督の周囲の空間から眩い光を放つ剣が生成されていく
提督「このようにイッ!!」
大きく跳躍し龍の頭部に斬りかかる提督。
金剛「オッケー! 要するに、何でもアリって事デスネ!」
金剛「燃料弾薬気にせず撃ちまくれるんだったら、これほどEasyなGameはありまセーン! 全砲門斉射ッ! 徹底的に撃ちますッ!」 ダンダンダンダンッ!
龍めがけて容赦なく砲を打ち出していく金剛。弾幕が敵を覆う。
・・・・
金剛「一体いつになったら沈むんですカ……コイツ! 首を切り落としても、胴体に風穴開けても、すぐに再生しマスッ!」 バァン!バァン!
提督「ハァ……ハァ……。分からん、ダメージは入っているはずなんだ。それが、65535分の1程度の威力だとしても……」
龍の頭が提督めがけて突進してくる。避けようと身を逸らすもかわしきれず吹き飛ばされる。数メートル先の岩にめり込む。
提督「グッ…………!」 仮面にヒビが入る
提督(いくら精神世界で死ぬことがないとはいえ、普通に痛みはあるんだな……。しかし、そんなことはどうでもいい)
提督(金剛の言う通り、どれだけ攻撃してもすぐに元通りになってしまう。ゲームのように弱点があるわけでもない……どこを攻撃しても、一度に全体を攻撃しても同じだ)
・・・・
それから俺たちは、何日も、何十日も、戦っていたような気がする。
ずっと、ただひたすらに目の前の化物を倒すことだけを考えていた。
金剛「提督……本当は、倒すことなんて出来ないんじゃないですか?」
ついに俺に対して疑念の目を向けてきた金剛。
ああ、倒せないのかもしれない……。口に出かかったが、声に出すわけにはいかなかった。
俺は、こんなところで終わるわけにはいかないからだ……。
・・・・
提督「金剛。もう、休んでいていいぞ。ここで隠れていろ……俺一人で奴を倒す」
何かを悟ってしまったような声色でそう言うと、私に背を向けた提督。
バラバラに砕けた仮面の裂け目から彼の虚ろな眼が見える。
休んでいたい、という気持ちはあった。けれど、私は立ち上がって彼について行った。
私は、一人で居るのが嫌だったから……。
・・・・
延々と戦い続けているうちに会話する余裕が出てきたのか、金剛に話しかける提督。
提督「なあ金剛。お前、俺が来る前はずっと第一艦隊の旗艦だったろう。どうして一番であり続けることに拘泥していたんだ? 並大抵のことでは無かったと思うのだが。
地位を望むにしても、常時艦隊の中で一番上であり続ける必要性は無いだろう。それに、訓練も演習も嫌いなはずのお前が、なぜこの鎮守府の中で最も高い練度を保ち続けているのかに興味がある」
提督「お前、どう考えてもストイックに努力出来るタイプじゃないだろう」
ぴょんぴょんと宙を跳ねながら攻撃をかわしつつ、提督は金剛に質問を投げかける。
460 :
【40/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/24(金) 20:00:33.43 ID:x76Zqb8c0
金剛「ワタシは誰もが認めるような、ナンバーワンであり続けたいデス」
金剛「人は……自分にとって価値がないと思った相手に対して、とてもとても冷たいデス……。昔、嫌というほど思い知りまシタ。艦娘も含めて人という生き物は薄情デス。
それでも……やっぱりワタシは、本気で人の事を嫌いにはなれないんだと思いマス。それ私の性格なのか、ワタシが艦娘だからなのかは分かりまセンが……」
金剛「人に嫌われるのは辛いデス。ワタシは……愛されていたいデス。認められていたいデス。それが、ワタシが一番であり続けた理由デス!」
金剛「提督こそ、どうして深海棲艦を滅ぼすためにそこまでやれるんですかネ。使命感や義務感、忠義が欠片も感じられないんですガ……。
宇宙に行きたい? とか言ってましたっけ。どうしてそんな夢物語みたいな目的の為に、こんな化物と戦っているのか理解に苦しみマスネ……」
次から次へと迫り来る龍の頭に、砲の嵐で順序良く吹き飛ばしていく金剛。
提督「俺はな、この世界に自分の居場所は無いと考えている。まるで良い思い出が無いしな」
提督「俺は知略に関しては誰にも負けない自信があるが、頭さえ良けりゃあどうにでもなるわけじゃないんだ。人間とはありとあらゆる限界が付き纏うもの……。
それでも俺は、俺のエゴを通したい。『人は一人では生きていけない』……そんなことは分かっている。承知の上だ。それでも俺は、誰にも邪魔されることのない、俺だけの理想郷を追い求めていたい」
金剛「?? テートクは、どうして人を拒むんですカ?」
提督「拒んではいない……分かり合えないだけだ。俺の世界は俺一人だけで完結する、他に何も必要はない」
金剛(そのわりには、結構人に甘い気が……)
金剛「そうデスネ……確かに、少なくとも今の私と今の提督とでは分かり合えない気がしマス。でも……きっとワタシは、人と人とは分かり合えると思いマス」
提督「なぜそう思う」
金剛「私がずっとそう信じて生きてきたからデース! ……人と人とが分かり合えないなんて、信じたくありまセン」
提督「と、綺麗事を言うわりに、お前は誰にも受け入れられてない気がするがな。日頃の行いが悪いせいじゃないか?」
金剛「」
提督「俺はお前のように一人で生きていく強さのない人間を軽蔑している。人に依存しきったその甘えた姿勢が気に食わない」
金剛「」 プルプル
提督「……それを踏まえた上で言うが。承認欲求だけで艦隊の誰よりも高みに登り詰めたという事実を俺は高く評価している。その意志の力たるや尋常なものではない。
こうして隣で戦っていて、お前が戦闘の天才であることがよく分かった。旧第一艦隊での連携が噛み合わなかったのは、お前が突出していて他の連中が追随出来なかったのだな、というのも今理解した」
提督「お前がここまで強くなれたの理由が、ただ単に誰かから愛されていたいなんて甘ったれた感情だけだったとは俺には思えない。仮にそうだったとしても、その渇望をこれほどまでに昇華させること出来たというのであればもはや見事としか言いようがない。
お前がこれまで試練に打ち勝ってきた経験に裏打ちされた強さ、立場を失った今でもなお精神的に一番であり続けようとしている気高さ……。それは認めたい」
金剛「貶してるのか褒めてるのかハッキリして下サイ……」
提督「褒めているわけでも貶しているわけでもない。ただ思っていることを言ったまで。ま、お前に対しての認識が変わった……それだけのことだ」
・・・・
金剛「なんか、喋ってたらあっという間に片付いたネー。ヤマタノナニガシも大したことないネー!」
提督「あぁ……存外拍子抜けだな。だが、何にせよ……これで一段落だ」 フゥと息をつく提督
金剛「こうして話しながら戦う前って、なんかもっと絶望的に強かった感じがしてたんですけどネー……。テートクとワタシの心の距離が縮まったお陰ですかネ」
門が閉じられていく。破れた世界は修復され、荒れていた海は鎮まり、雲に覆われていた星空は元の輝きを取り戻し始めた。
・・・・
精神世界から現実世界に戻った二人は、船に戻って他のメンバーの帰りを待つ。
提督「さっき無線が入った。あっちもうまくやってくれたようだ。……皆が戻ったら、急いで帰るぞ。全ての門が閉ざされた今、ここに用はない」
金剛「ですネ……」
沈んでいく夕日を物悲しそうに眺める金剛。
提督「どうした? 何か気になることでも?」
金剛「いえ。何十日もテートクと一緒に居た気がするのに、ほんの数時間の経っていなかったというのが不思議デ……」
提督「そうだな。俺もそう思う。奇妙なものだな……。現実ではたった一日しか経っていないというに。まるでおとぎ話のようだ」
金剛「……テートク、なんか優しくなりまシタ?」
提督「いや、そういうつもりは無いのだが……お前を嫌いにならない努力をしてみようかと思い立っただけだ。人から嫌われるのは嫌なのだろう?」
金剛「テートクゥ!」 ガシッ
提督の両腕を強く握り締め、号泣し始める金剛。
提督「おいおい、ブッサイクな顔で泣くんじゃあないぜ……。このハンカチをくれてやる。まず鼻をかめっての」
金剛「ビエェェェェ……でーどぐぅ……」
461 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/04/24(金) 20:09:52.82 ID:x76Zqb8c0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~40/100)
・金剛の経験値+6(現在値6)
・響の経験値+2(現在値7)
・翔鶴の経験値+2(現在値5)
・雪風の現在経験値:6
・足柄の現在経験値:16
・皐月の現在経験値:6
----------------------------------------------------------------------
2周年記念ボイス、『大切な日』とか『特別な日』とか結婚記念日みたいなノリで言ってくれるのがヤバいですね。
ここのスレに居る人なら皐月のは既に聴いてるとは思いますが、まだの人は是非……!
武勲艦じゃなくてもガンガン改二にしていく流れになってきてますねー。
どっちかっていうとこれからはサービス開始時から居た艦娘を改二にしていく流れなんでしょうかね。
何にせよ如月来たのは嬉しい誤算です。あとにゃしいちゃんも可愛くていいですね。
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【41-45/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい
----------------------------------------------------------------------
////チラ裏////
今回は冒険しました。いや、内容も冒険してますけど。
まあそのなんていうか。まず第一に金剛とバトらせたいなってのがあって。
あとはそっから練っていったっていうか。
ファンタジーやメルヘンは好きなのですが、さすがに十レスも二十レスも使うわけにはいかないので超省略。
っていうか艦これの二次創作だしなこれ! 3レスも割いてる時点で相当狂ってるよ!
ああいうの出すと何でもアリになっちゃうからね。あくまでこれはネタです。
ある種のネタとしてこういう展開にしてみただけで、本流はこっちじゃないです。違います。艦これです。
40レスだしちょっと遊んでもいいかなと思ったけど色々ぶっ込んでみたけどこれはやりすぎたのじゃ……。
462 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/24(金) 20:11:25.38 ID:UUXOiwDeo
皐月
463 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/24(金) 20:18:06.08 ID:ncovTQWW0
翔鶴
464 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/24(金) 21:49:36.81 ID:x4ezOyUAo
足柄
465 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/25(土) 00:49:21.21 ID:4oc7mGAgo
響
466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/25(土) 01:20:00.04 ID:zDu4Es2to
足柄
467 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/04/25(土) 01:30:16.20 ID:OYWRMyTB0
おっと、ミスってた……。こっちが正しいです。
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~40/100)
・金剛の経験値+6(現在値11)
・響の経験値+2(現在値9)
・翔鶴の経験値+2(現在値11)
・雪風の現在経験値:6
・足柄の現在経験値:16
・皐月の現在経験値:6
----------------------------------------------------------------------
>>462
-
>>466
より
・皐月1レス/翔鶴1レス/足柄2レス/響1レス
で『Phase A』が進行していきます。
投下は来週の金曜に出来たらと思ってますが現段階では何も書けてないんで努力目標です。
468 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/04(月) 20:57:49.68 ID:Ym3CHsKO0
案の定伸び伸びになってしまってますね。そして未だに投下の目処が立っていないという……。
GW前から色々とバタついてましてね……いちおー8日頃には投下予定です。
////チラ///
イベント終わりましたー。
大型艦建造卒業効果による貯蓄も相まって前イベントよりはかなり楽に進みましたね。E6最終形態はやっぱりエグいと思いますけれども……(それでも冬よりはマシ)。
とりあえず全部甲でクリアし、Romaも高波も磯風もゲットして本懐は果たした感じです。
しかし、だ。しかし……能代、お前は今どこにいる。
能代が来ればコンプリートなんですが、掘り続けても全然出てくれないですね。弾薬がなくなっちまいました。
それでも大型艦建造を回すよりはコスパが高いのでイベントが終わるまでは羅針盤を回し続ける所存ですけどね。
469 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/08(金) 23:09:50.03 ID:gQ6OFyPb0
うへぇ、ごめんなさい。もちっと待ってください。
全然書けてないけど書こうという気概とアイデアとパッションだけはあったんだ。ただ時間が無かっただけなんや……(言い訳)。
土日のどっちかで続きをお見せ出来るように頑張りますっ!頑張って書きますっ!
////本編に関係あるようで関係ないわりとどうでもいい話////
せっかく延び延びになってしまったのでちょっとした小話でも。
船の名前を『プロビデンス』にしてしまったけど、提督が作った系のものは全部北欧神話から引っ張ってくるつもりでした。
つもりだったんだけど途中から忘れててそのまま投下してしまいました。読んでる人からしたら至極どうでもいい話ですが作者的には後悔ポイント。
(神話系の単語は中二感が強いのでわざとそのまま引っ張ってきてますが、)『Tor』とかあの辺の実在する固有名詞やらは微妙に綴りとか変えてぼかしてたりしてるのは敢えてです。胡散臭さ重点です。
なんかそれっぽい説得力を持たせつつも基本的には合ってるかどうか保証しないよという逃げだったりしたりしなかったり……(オイ
それは冗談として、意図的に胡散臭くして「現実的に考えればここってこうだよね」と読者にツッコミさせる気を奪って「この世界ならまぁこういうもんなのかな」と無理矢理納得させてしまおうという意図が……それはそれで酷いな。
あっでも『フリーメイソンリー』はモロじゃんか。徹底しきれてないじゃん! なんですぐ忘れるかなぁ! と自戒。
ほらアレだ……オペレーション・ベルダンディみたいなもんです(謎)
あくまで本筋には関係ないほぼ趣味全開な部分ですしね……こんなん枝葉のこだわりに過ぎないわけでしてー。
それよかもっともっと中身を練っていきたいですね。やたら提督がシャシャリ出てきてアレなのですが、艦娘を魅力的に描いてこそ! ですよ。そこが一番大事。
あんまその辺の自論とか書き出すとまた長くなるのでここでは書かねっすけど……。
偉そうなこと言ってても皆さんにお見せ出来るお話の内容が全てですからねー。キャプションで語らず中身で魅せていきたいところ!
理想は高く、現実は……まぁ、うん。それなりに頑張ります。
470 :
【41/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/10(日) 23:59:51.18 ID:Kyid1WEC0
提督「残念ながら、もう一度ワープを使って鎮守府まで戻ることは出来ない。ここに渦潮は無いからだ。ゆえに……」
ウィーン ガシャンガシャン ガコン! ガコン! ガゴゴゴゴゴ……。
提督「乗れ」 ピラミッド状だった船がジェット機のような姿に変形する
提督「道中でお前らが必死こいて充電してくれていたおかげでどうにか鎮守府まで飛べそうだな。プロビデンス改め……『イカロス』とでも名づけておこうか」
金剛「ワ、ワーォ……超展開。これなら最初からこのジェット機でここに向かっていれば早かったんじゃないデスカ?」
提督「片道しか飛べんのだ。ジェットエンジンのブレード……プロペラの羽が回転による疲労でぶっ壊れて途中で墜落してしまうからな。それに、バッテリーも熱を持ちすぎて使い物にならなくなる」 説明しながらコックピットに全員を乗せるよう促す
・・・・
提督「今ちょうど赤道を超えたあたりだな。予定では鎮守府まであと数時間……フタマルマルマルには着くといった見込みか」 操縦室前に呼び出した比叡らに話しかける提督
比叡「はっやいですねー。もうそんなに進んでたなんて! まだ1〜2時間ぐらいしか経ってないんじゃないですか?」
提督「ああ、速さと引き換えに安全性を犠牲にしたからな。仮にお前たちが艦娘でなかったら失神している程度の速力は出している」
比叡「サラッと怖いこと言わないで下さいよ! 重大な欠陥じゃないですか!」
提督「……そう。速さと引き換えに安全性を犠牲にしている。その為、走り出したらもう二度と止まれない」 珍しく焦っているような口調
提督「どうにもブレーキがイカれたらしい、30分ほど前から全く制御が効かない。こうして会話している間にも速度が増していっている。
想定を遥かに超える速度で飛行している……マッハ4〜5程度だろうか」
足柄「ちょ、ちょっと! 今更そんなことを伝えてどうするのよ! 乗る前に言いなさいよッ」
提督「対処法が浮かんでいない段階で話しても混乱させてしまうだけだからな。……とはいえ、黙っていてすまなかった。
金剛、比叡、足柄。お前たちはここで降りろ。ここからなら自力で鎮守府にも帰れることだろう。
機体後部のシェルターに移動してくれ。シェルターを機体から切り離し、海上へ不時着させる」
比叡「そ、そんな!? そんなことして大丈夫なんですか!?」
提督「100%と断言することは出来ないが、恐らく死なずには済むはずだ。こういう事態が起こった時のために作っておいたものだからな」
金剛「……信じてマスヨ? テートクッ!」 困惑する他の二人を半ば強引にシェルターに押し込む金剛
提督「皐月と文月は操縦室に来てくれ! なに、心中はさせんよッ!」
提督(俺がこの席を離れてしまったら、シェルターを無事に着水させることが出来ない。本来なら皐月や文月も行かせるべきだが……それをやってしまうと俺が生還出来るビジョンが見えないからな)
操縦桿を思い切り手前に倒す提督。機体は天頂の太陽めがけて突き進んでいく。機体の角度が90度に達した瞬間、シェルターは切り離される。
シェルターは垂直落下しながらも四方八方へ次々とパラシュートを繰り出していく。空気の摩擦熱や空力加熱の影響で一部のパラシュートは炎上しているが、シェルターはほぼ無傷の状態で着水。
金剛・比叡・足柄三名の無事を伝える通信がコックピットに届く。
提督「さて、次は我々の番だが……どうしたものか」 機体をぐるりと縦に旋回させ、唾を飲み込む提督
・・・・
機体は空の上を猛烈な速度で突き進んでいく。ぬいぐるみを抱えながらフルフルと震えている文月。
皐月「邪魔っ……文月ィ、だからぬいぐるみなんて持って来るなって言ったんだよ」
文月が抱きかかえているのは、全長約60cmほどのぬいぐるみ。間抜けた表情だがどこか憎めないような、奇抜だが愛嬌のあるぬいぐるみだった。
だが、二人分の席しか用意されていないコクピット内では、余計に空間を圧迫する存在だった(座席に座れない皐月は提督と文月の席の間に挟まるように座っている)。
文月「このダンボオクトパスちゃんが無いと落ち着かないんだってぇ〜……これがないと不安で不安で」
提督「なんだそれは? 深海に生息するタコの類のようだが……」
文月「メンダコ科グリムポテウティス属の一種で、ダンボオクトパスって愛称で呼ばれてるんですよ〜」
皐月「こ、こんな状況で雑談してる場合じゃないよ……」
提督「こんな状況だからこそ平常心が大事なのだ。窮状であっても心の拠り所があれば人は踏み止まれるハズだ」
皐月「分かったような分からないような……。司令官は真面目なんだか不真面目なんだかよく分かんないねぇ」
切迫していた雰囲気が一時的に緩む。状況はまるで改善されていないにも関わらず、皐月も文月も、そして提督も、徐々にパニックを脱していく。普段の冷静な感覚を取り戻しつつあった。
提督「文月、そのぬいぐるみはお前にとって大事なものなのだな。であるならば、そいつを傷つけないで脱出する方法を考えなければならないな。
着水寸前に機体を内側から破壊して脱出……と考えていたがそれは厳しいな。フゥーム、こいつを停止させるには……」
提督は思考する。
ブレーキは効かない。この状況下で下手にエンジンを切ったらどうなるか分からん。いや、角度さえ間違えなければあるいは……?
しかし、果たして超音速の世界でも通用するのだろうか……。失敗すればさらに酷い状況になるぞ、死に直結しかねない。
……いいや、そうじゃない。このまま進み続けた方がリスクは高い。エンジンやバッテリーがいつぶっ壊れてもおかしくない状況だ。
言うなれば時限爆弾を積みながら飛んでいるようなもの。……やはりこれが最適解ッ!
提督「ええいッ! ナムサンッ!」
操縦桿を握る。機体をやや上向きに傾ける。不時着予定の地点が映し出されたレーダーの映像を目に焼き付ける。エンジンを切る。
『イカロス』はグライダーや紙飛行機の要領で空を滑っていく。あぁ、これで良いはずだ、これで……!
471 :
【42/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/11(月) 00:16:58.17 ID:q5tPTK640
長門「一体どうなっている、霧島……。第二大隊は未だ来ず、ただ徒に戦力を消耗しただけ。幸いにしてまだ深刻な被害の出ている艦は少ないが、それでも数隻は戦線離脱を余儀なくされている」
霧島「で、ですが……昼戦にて道中の敵はほぼ全滅状態にまで追い込みました。これで何の障害もなく第二大隊はこちらへ向かうことが出来るはずです」
長門「そうではあるが……もう遅すぎる。仮に今から合流したとして、敵本隊を殲滅しきれるかどうか怪しいぞ。燃料はともかく、弾薬の残量が半分切った者が出始めているという報告も聞くしな」
武蔵「だから言ったろう? 今朝の時点で敵本陣へ攻め入るべきだったのだ。腰抜けの機動部隊など放って進撃していればな」
吹雪「み、味方のことを悪く言うのはやめましょうよ! それよりも、これからどうすべきかを考えないと」
秋月「明日の朝までに味方と合流出来ないようであれば、呉鎮守府まで撤退するのも選択肢の一つかもしれませんね」
長門(この期に及んで撤退だと? 提督から不退転の意志でこの決戦に臨むようにと命じられている……何としても進撃だ。進撃以外はありえない。
しかし……戦艦や重巡は俄然やる気だが、軽空母や駆逐艦の連中の士気は目に見えて低下している。この意識の乖離はまずいな)
大和「いえ……むしろこちらから攻勢に転じるというのはどうでしょうか。もうじき日が沈みます、夜戦にて敵本陣に雪崩れ込むのはいかがですか?
これなら敵も機動部隊戦力は使えないでしょう。もちろんこちらも無傷とは行かないでしょうが……手数で上回ることが出来ます。やられる前により多くの敵を叩けば問題ないかと」
川内「おっ! 夜戦かァ! いいねェ……水雷魂が騒ぐね! 駆逐艦の皆も、夜戦やりたくない!?」
夕立(Noとは言えないっぽい……)
睦月(にゃあ〜……こうなったらもう止められそうにないし……)
長門「よし分かった。これより第一大隊は、敵本陣めがけて」
霧島「お待ち下さい!」 長門の話を遮る霧島
長門「何だ? 夜戦であれば第二大隊を待つ必要はなかろう。明日の昼までに第二大隊の連中がここに来れば良し、来なくとも夜の内に敵空母に予め痛撃を与えておけば艦載機を放つことは出来なくなる」
霧島(むむむ。しかし、ここで食い下がるわけには……。『第二大隊が来るまでは何としても敵本陣へ向かわせるな』というのが司令のご命令。
何かここに足止め出来る理由が一つでもあれば良いのですが……まるで浮かびませんね。そもそもここまで第二大隊の到着が遅れるとは想定外でしたし、どうすれば……)
翔鶴「いいえ、ここは譲れません。佐世保鎮守府総括にして元帥である手取提督のご命令ですゆえ、通すわけには参りません。ここで第二大隊を待ちましょう」
長門らの進もうとした先に仁王立ちする翔鶴。突然の行動に、同じ艦隊であるはずの霧島や瑞鶴でさえ驚いている。
一同「!?」
瑞鶴(あわわ……翔鶴ねえ、突然何やってるの!?)
長門「待て、何を考えている? その理由をだな……」
翔鶴「言えません。が、何が何でも進ませるなと伝えられていますので」
長門「??? フザけているのか? 納得のいく説明もなく引き下がれと言われて、はいそうですかと従えるものか。
佐世保の意図は知らんが、我々呉連合艦隊はお前たちの訳の分からん茶番に付き合うつもりはないぞ」
武蔵「そうそう。そこの長門に第一大隊の全指揮権は委ねられているのだ。お前たちも第一大隊の構成員なら、旗艦様の言うことは従っておいた方がいいぞ」
吹雪「むっ、武蔵さん! そういう棘のある言い方はやめて下さい! 長門さんも睨むのをやめて下さい!
……そ、それより翔鶴さんに霧島さん。なぜそこまで進撃に反対するんですか? 言える範囲で構わないので、お話してはいただけないでしょうか?」
翔鶴「さぁ、分かりません。私はあまり提督から説明を受けていないもので。ただ、このまま先に進んではけないような気がするのです」
長門「分からない? 気がする? どこまで我々をコケにすれば……」
霧島(翔鶴さん、一体なぜこんな反感を買うような行動を……? しかし、彼女が私のフォローをしつつ時間を稼いでくれたおかげで、一つハッタリが浮かびました。
彼女がここまで大立ち回りしてくれるなら、それに乗っかってみるのも一興かもしれません!)
吹雪「どういうことですか? 翔鶴さん、貴方は自分の司令官の意向を理解しないままその命令にだけ従っている……ということ、でしょうか?」 長門に割って入り翔鶴に尋ねる吹雪
翔鶴「そうなりますね。ですが……私たちの提督は多くを語ろうとはしませんが誰よりも深く物事を考えている方です。
それに、第二大隊には私が尊敬してやまない先輩たちが居ます。先輩たちと肩を並べて戦えるのであれば、絶対に負けることはありません。それだけは保証できます」
霧島「えー、コホン。極秘中の極秘なので同じ第三艦隊のメンバーである翔鶴さんにも伏せていましたが……。数時間後に補給物資を積んだ数隻の艦娘と共に給糧艦が到着します。
それが全てです。給糧艦と会う必要が無いと判断されるのであれば、もうこれ以上止めることは致しませんが」
“給糧艦”という単語が霧島の口から放たれた瞬間、艦隊の温度が一変する。
夕立「給糧艦!? やったっぽい!」
山城「姉さま! 給糧艦ですって!! フフフ……給糧艦……!」 ガヤガヤ
長門(クッ……給糧艦と聞いただけで浮き足立ちおって、現金な奴らめ! 本当にこいつらの言うことが信頼出来るかどうかも怪しいというに……。
だが、給糧艦が来れば艦隊の連中の不満も全て消し飛ぶのは間違いない。まだ来ても居ないというのにこの態度の変わり様だしな)
長門「チッ、そういうことはもっと早く言ってもらわなければ困る。良かろう、夜が明けるまで待つとしよう(もしこの状況下で確信のない出鱈目を言ったとしたら大した強心臓だな)」
霧島(翔鶴さんの言っていたように、司令ならばこの事態が起こる可能性さえも予期出来ていたはず。そしてそのための策も用意していることでしょう……!
司令がこの事態を予測していたなら私のハッタリは実現するはずでしょう) 翔鶴に向けて親指を上向きに突き立てる霧島。ニッコリと微笑む翔鶴
瑞鶴「ねぇ翔鶴ねえ。この展開を予想して話に入っていったの?」
翔鶴「え? いや、霧島さんが困ってそうでしたので、自分が思っていたことを言っただけですよ?」 翔鶴の言葉に苦笑いを浮かべる瑞鶴
472 :
【43/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/11(月) 00:25:48.89 ID:q5tPTK640
天龍「クソッ! 第一・第二連合艦隊はいつまで呉で足止め食らってんだ!? もう日没だぜ!? いつになったら合流出来んだァ?」 灰皿に積もっていく煙草の吸い殻
龍田「天龍ちゃん、気持ちは分かるけど駆逐の子たちが居るんだから煙草は止めた方が良いわよ〜? 貴方が焦っても何も解決しないわ」
天龍「……この状況下で余裕ぶっこいてられっかよォ。第一大隊はMI道中で足止め、第二台大隊は想定を遥かに上回る敵戦力とぶち当たり苦戦中……。戦艦棲姫が2体ってどういうことだァ!」 ペシッと床を蹴る
龍田「そうね。でも、第二大隊が第一大隊を待たずして敵本拠へと雪崩れ込んでいないだけ幸運と考えるべきよ。血気盛んな他鎮守府所属の面々をなだめている第三艦隊の気苦労を評価すべきだわ」
提督?「龍田の言う通りだ。前線で戦う者を案じてやれ……天龍」
天龍「? お、おせーよ提督! 今まで何やってた!?」
提督?「説明している場合ではないだろう。一先ずよくやってくれた天龍。これより反撃に出るぞ。
天龍、第四艦隊を率いてMIの第一大隊のもとへ向かえ。……この戦況をひっくり返す切り札を用意してある」
天龍「は? はァ? と、とにかくよく分かんねーが……提督が言うなら間違いねえな! 第四水雷戦隊、出撃するぜ!」
・・・・
提督「皐月! 文月! 見ての通りそろそろ滑空の限界だ! 今から3数えたら窓をぶち破り脱出だ、いいな? ……3・2・1! 行くぞォ」 バゴォォォォォオオオオオオオン
最初に窓をぶち破り『イカロス』から飛び降りる文月。続いて錨の鎖で簀巻きにした提督を担ぎながら飛翔する皐月。
文月「ふぇぇ……怖かったぁー」 パラシュートでゆらゆらと落ちていく三人
皐月「ねえ、あれ」 望遠鏡で遠くを見つめる皐月
皐月が指さす先に見えるのは、“何か”と衝突して爆炎を纏う『イカロス』。
戦艦棲姫「ッッッ……ナニ、コレハ……」 62 Critical Hit!
提督「……ほう、驚いたな。もう2日目の夜に差し掛かるというのに未だ決着つかずか。第二大隊が未だに呉の前で戦っているとなると……ウーム最悪の二歩手前といった状況だろうか」
皐月「大丈夫なの? この状況」
提督「赤城や響らもだいぶ手を焼いていたようだな。が、いかに戦艦棲姫といえど随伴艦が一隻も残っていない上に大きく損傷しているあの状態では長くは持つまい。
遅くとも明日の朝までにはMIの第一大隊と合流できるはずだ。第一大隊が進撃していなければの話だが……霧島であれば上手く足止めしてくれるだろう」
皐月「そうじゃなくて! アイツこっちの方メッチャ睨んでるよ!? 大丈夫なの!?」
提督「奴の位置から俺たちの飛んでいるここまでどうやって攻撃を当てる? 対空装備が無い時点で論外だ。ダンボのように空中遊泳しながら鎮守府まで帰るとしよう」 手を広げる提督
文月「どちらかというと魔法の絨毯じゃないかな……」
簀巻きにされた提督の背中の上に垂直に立っている皐月を見て、文月が一言。
・・・・
金剛「テートク達、大丈夫ですかネ……。もう空が暗いデース、月が見え初めまシタ……」
比叡(前は『テートクなんて嫌いデース!』とか言ってたのに、一体何があったんでしょうねー。司令と和解出来たならそれはそれで安心ですが……)
足柄「アンタさっきからそればっかりね。あの提督なら車で轢いても銃で撃っても溶鉱炉に突き落としても死にそうにないじゃない。心配するだけ無駄だと思うけど」
金剛「確かにそうですネー」
比叡(心配してたわりにあっさり納得しちゃった!?)
天龍「ん? お前らは……! 丁度良い。曳航手伝ってくんねーか? 超急いでるんだ!」
足柄「? アンタ第四艦隊の天龍じゃない。こんなトコで何してるわけ?」
天龍「それはこっちの台詞なんだが……。ま、とにかくVIPをお連れしてるんでな。給・糧・艦だ」
天龍とその随伴艦たちの後ろに小船が曳かれている。正面には御簾が垂れていて、平安時代の牛車を彷彿とさせる。
天龍「万々が一にも傷ついてもらっちゃ困るからこの扱いなんだが、どうしても急ぎで連れてかなきゃ行けなくてな。いわゆる緊急事態というやつだ」
金剛「……報酬はもちろん?」
天龍「金は出せないが……なんてったって給糧艦だからな? 分かるだろ? ……キラキラし放題だ」
足柄「乗ったァー!! よし! 手伝うわ! 手伝わない理由はないわッ!」
天龍「MI攻略の策源地までお連れするだけの簡単なお仕事だ。頼んだぜっ!」
金剛「気持ちは分かりますケド……なんか、餓えた狼って呼ばれてる理由が分かった気がしマース」
比叡「でも、確かにお腹減りましたねー。曳航するだけでオイシイ思いが出来るなら乗らない手は無いですからねー。チャチャっとやっちゃいましょうか」
473 :
【44/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/11(月) 00:48:10.75 ID:q5tPTK640
清霜「霞! ホラ、ホラ見てアレ! 給糧艦! 来たよ!」
霞(霧島は本当に司令官から給糧艦がこの場に来ることを知らされていたのかしら……? 戦線の後方とはいえ、これから大決戦が行われようという場に給糧艦引っ張り出してくるなんて。
給糧艦の間宮や伊良湖は私たち普通の艦娘とは違ってとても脆い上に、そう易々と代替の効かない存在。そんなジョーカーを切ってでも足止めしたいってことは……この先に何があるのかしらね)
夕立「ヤッター! これでお腹いっぱい食べれるっぽい!!」
霧島(ほ、本当に来た……。司令にとっても、第二大隊がここまで遅れるのは想定外だったはず。
それでも絶対に第一大隊単独で進撃することは避けたかった……だから給糧艦という切り札を使って強引に艦娘たちをこの場に留めた。当てずっぽうに近い賭けでしたが……上手く行きましたね)
長門「なぁ霧島よ。お前の話では給糧艦とともに第二大隊もこちらに来るという話ではなかったか?」
霧島「あっ! 金剛お姉様! 第二大隊ももうじき到着しますよね!? そうですよね!」
金剛「? ああ。もうすぐ来ますヨー! No problemネー!(天龍から粗方の話は聞きましたけど……どうにも第二大隊の到着が相当遅れてるみたいですネ。あっちの旗艦の長門が妙に殺気立ってますし)」
長門「本当か? 主力部隊を差し置いて給糧艦が先に来るのはおかしいだろう。一体これは……」
長門の口にアイスをねじ込む吹雪。
吹雪「ま、まぁ……。『食える時に食っておかなけばな』ですよ! 長門さん」
武蔵「フッ……佐世保最強と名高いあの“鬼金剛”か? 今回は参戦しないと聞いていたが……こいつは光栄だ」 指をバキバキと鳴らしている武蔵
大和「まぁ、私たちも負けていられませんね」
長門(クッ……追求できる雰囲気じゃないな)
・・・・
足柄「いやぁ〜……かなり久し振りに感じるわね! ヴェアヴォルフ、ここに再集結! ってとこかしら」
霞「あら、アンタも来たのね。どういう経緯なのか気になるところだけど……今は再開を喜ぶべきかしらね。不良も居るわよ」
足柄「おっ! 朝霜。久し振りじゃない。生きてたのね」
朝霜「ヴェアヴォルフ創始者の朝霜様に向かって不良だの死人だの……ったく相変わらずロクでもねえ連中だぜ」
足柄「突然フラッといなくなったんじゃ死んだと勘違いされてもおかしくないわよ。ま、アンタを殺せるようなタマもそう居ないとは思うけどね」
霞「本当よ。人に散々心配かけておいて……この戦いが終わったらお説教させてもらうわね。覚悟なさい」
朝霜「うげェーッ! 勘弁してくれっての。ところで……腹ごなしに運動でもしねえか? 大淀が欠けてんのが残念だが……アタイらが戦場で集まったらやることは一つだろ?」
霞「アンタねぇ……昨日からの話聞いてた? 進撃するしないで大揉めしてたでしょうに!」
朝霜「だァーかァーらァー。バレないようにやりゃあいいじゃんって話だよ。水雷戦隊の基本は?」
清霜「『見敵必殺』!」
朝霜「水雷戦隊の夜戦での心得は?」
清霜「『先手必勝』!」
朝霜「はい清霜正解! 小隊を組むことの利点は?」
足柄「本隊から離れての『独断専行』……! フフッ、いいわ。燃えてきちゃった!」
清霜「ふっふーん♪ そういうことだから、霞。行くわよ?」
霞「揃いも揃って本ッ当にゴミね! 囮役は私が行くわ。清霜と朝霜はフォローお願い。足柄は好きに暴れていいわ」
足柄「ッしゃァー! みなぎってきたわ! 最高のコンディションよ!」 照明弾/照明弾/照明弾 シャッシャッシャッ
足柄「十門の主砲は伊達じゃないのよ! 撃てッ! 撃てェーッ!」 ボゴォォォォン
哨戒していた敵艦隊めがけて無差別的に撃ち放し大打撃を与えるも、あっという間に敵に囲まれてしまう。
霞「なんであいつ囮の私より目立ってんのよ! アッタマ来た! 私が直接ぶっ飛ばしてやるわ!」
足柄への行く手を遮る駆逐艦や軽巡を魚雷で警戒に葬り去りながら突き進んで行く。
足柄「うふふッ! 最高だわ! 感覚が研ぎ澄まされてるみたい!」
砲を撃ちつつ拳で敵艦を殴りぬけていく。
精神テンションが最大まで高まった彼女の戦闘スタイルを正確に言い表す言葉は残念ながらこの世に存在していないが、あえて名前を付けるならば舞空術という言葉になるだろうか。
朝霜「いやァ……戦いってモンが分かってる連中はやっぱ愉快だね! アタイらも行くよ清霜!」
清霜「私もッ! 負けませんからァーッ!」 ドガァァァァァン
足柄の動きを真似て人間では考えられないような動きで敵を翻弄していく朝霜と清霜。
今の彼女たちを数が多いだけの哨戒部隊ごときに止められようか? 土台無理な話である。
第二大隊が第一大隊本隊との合流を果たした夜更け頃には、まるで敵の哨戒部隊など最初から存在していなかったかのような静寂が周囲に漂っていた。
何事も無かったかのように足柄たちは艦隊へ戻っていく。カマイタチのような俊敏さと凶暴さがヴェアヴォルフの真の強みなのだ。
474 :
【45/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/11(月) 01:00:22.97 ID:q5tPTK640
長門・陸奥・吹雪・赤城・響・霧島ら六名による最終決戦に向けての会議が行われている。
長門「やっと来たか……。遅れたワケを聞こう」
赤城「呉鎮守府に敵艦隊の猛襲がありました。敵の狙いは本土にあったのです。私たち第二大隊これを撃退し現在に至るという次第です」
長門「なんだとッ!? ……そうか、霧島。貴様、これを知っていたのか……」
霧島「ええ、もはや隠す必要もありませんか……。貴方たち呉およびその配下の連合艦隊をここMIの策源地に足止めさせ、攻め込ませず、されど撤退もさせず、というのが狙いでした。
自分の本陣がやられたらさすがに撤退しないわけにはいかないでしょうが……私たちが敢えて黙っていたのには理由があります」
赤城「ここでMIを叩く機会を逸してしまったら、次はより用心深くより強力な戦力を用意してくるでしょう。
そちらの鎮守府の方たちはご存知ないのかもしれませんが、今回のAL/MI作戦は深海棲艦側に作戦情報が漏洩していました、全て」
響「ゆえに呉鎮守府に襲撃があった。とっくに作戦を終えてこちらの支援に来ているはずのAL攻略組も未だに手こずっているようだ。
私たち佐世保鎮守府の司令官だけが、情報の漏洩に気づいていた。だから逆張りで事を進めていたということだ」
響「説明は以上。君達が血気に逸って進撃していないでくれて本当に安心しているよ。それをやられていたら最悪だったからな。
あとは従来の作戦通りに夜明けを待ち作戦通り制空権を確保し、徹底的に叩き潰すのみ」
長門「分かった……もういい」
・・・・
会議が終わった後、吹雪・陸奥を呼び出す長門。
長門「なぁ……。私は間違っていたのか? 提督に全てを託されて、舞い上がっていたのだろうか?」
陸奥「そんなことは無いわよ。結果的にあっちの言ってることが正しいように見えるだけ。私たちの提督も、長門も、間違ってなどいないわ」
長門「実はな。提督は深海棲艦に情報が漏れているかもしれないと、この作戦が始まる前に私に話してくれたのだよ。
『だが、仮にそうだったとしても、どうすることも出来ない』と。私にそう言ったんだ」
長門「もちろん。私も提督も、しょせん噂程度に過ぎないと、そう思っていた。そう思っていたから誰にも言わなかった。
……だが結果としてこのザマだ。佐世保の連中がああいう風に動いていなければ、今頃私たちは海の底だったかもしれない」
長門「あの佐世保の提督は、私の提督が『どうすることも出来ない』と言ったものさえも、当然のように乗り越えてしまった。
全て分かっていましたと言わんばかりに。手のひらで踊る私たちをあざ笑うかのようにな。
……昨夜、霧島や翔鶴が私の前に立ち塞がった時に、こいつらは本当に哀れで愚かな奴らだと思った。
全てを説明されているわけでも無いくせに自分たちの提督の言うことを盲信してそれに付き従う。あの段階では提督の命令が本当に正しかったのか、あいつら自身にも分かっていなかっただろうにな」
長門「だが、あいつらの信じた通りの結果になってしまった。……あいつらと私、提督を真に信じているのはどちらなのだろうか。不安になってしまったんだ」
吹雪「長門さん。それは違います。……確かに、今回結果的に正しかったのは佐世保鎮守府の手取提督です。敵の動きを看破出来なかった私たちの司令官は、失策でした。
でも、それは結果論であって。私たちの司令官は、私たちの司令官なりに今まで頑張ってきてくれたじゃないですか。だからこうして今の私たちが居るんです。
……司令官を疑うような言葉は、やめて下さい。司令官を疑う自分を疑うような言葉は、やめて下さい」
吹雪「司令官は……。佐世保の提督のように、完璧ではないかもしれません。時に間違った判断も下してしまうかもしれません。
でも、私たちのことをいつも考えていてくれて……。本心から従いたいと思わせるような、そんな素敵な人じゃないですか」
長門「……そうだな。本当に、優しくて魅力的な方だよ。涙が出るくらいに。
吹雪。お前は、提督のことを最初からずっと見てきたもんな。フフッ、羨ましいよ……本当に」
長門「吹雪、陸奥。司令官のこと、これからのこと……頼んだぞ」
陸奥「ちょっと長門!? どういう……」
長門「この戦いを以って戦艦長門をやめようと思う。……提督を少しでも疑ってしまった自分が許せない。提督への敬意と愛情が揺らいだ、自分への罰だ」
陸奥「……長門は。一度言い出したらきかない性格だものね。いいわ、罪が償えたら……いつでも戻ってきなさい」
・・・・
響(何やら湿っぽい話が向こうから聞こえるな)
響「赤城。……もうすぐ夜明けだね。準備はいいかい?」
赤城「ええ、勿論です。昨日一昨日でだいぶ手間取ってしまいましたからね。その分、今回は存分に暴れさせてもらいますよ」
響「ところで……司令官についてどう思う」
赤城「手取提督……ですか? そうですね。感謝しています、とても」
赤城「私がもしあの提督が居ない鎮守府に在籍していたら、きっとこの戦いで沈むんでしょうね。そんな気がします。
手取提督は……私に勝利しか与えません。その安心感が、私の中から悲愴感やトラウマさえも奪い去ってしまうんでしょうね。何だか今は負ける気がしなくって」
響「この戦いで沈むんだろうって所以外は同意だな。本当に、最高の司令官だよ」
赤城「そうですね。私もそう思います」
響「……なるほどな。そう思えるならやはり君は友人だ。そして、ライバルなんだな」
赤城「?」
響「雑談はこれまでだ。さ、持ち場に戻ろう。最高の勝利を、華麗に彩ってやろうじゃないか」
475 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/11(月) 01:12:48.50 ID:q5tPTK640
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~45/100)
・皐月の経験値+1(現在値7)
・翔鶴の経験値+1(現在値12)
・足柄の経験値+2(現在値18)
・響の経験値+1(現在値10)
・雪風の現在経験値:6
・金剛の現在経験値:11
----------------------------------------------------------------------
>土日のどっちかで続きをお見せ出来るように
流石にこう言っておきながら
>2015/05/10(日) 23:59:51.18
……間違ったことは言ってませんがこれはもう詐欺の部類ですね。
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【46-50/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00〜19:雪風
20〜35:翔鶴
36〜51:金剛
52〜67:響
68〜80:足柄
81〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい。
----------------------------------------------------------------------
476 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 08:39:29.46 ID:hGtm/IBco
熱い展開だ、乙
477 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 20:25:35.27 ID:TBYXVGF/o
乙 ダンボオクトパスってまさかたこぶえ・・・いやなんでもない
478 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 21:13:06.69 ID:AFDId7d1O
足柄と飲酒
479 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 21:51:14.11 ID:j0yjbX3X0
はい
480 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 21:52:03.39 ID:a8m83EUHO
はい
481 :
◆Fy7e1QFAIM
[sage saga]:2015/05/13(水) 16:11:02.31 ID:fvAWxPzdO
>>476
-
>>480
より
・金剛2レス/翔鶴1レス/足柄1レス/雪風1レス
で『Phase B』が進行していきます。
ひとまず次回の投下でシナリオ的に一区切り着く感じです。
実は概ね25レス単位で区切れるよう作ってたりします。先のことはどうなるか分かりませんが。
次で50レスとスレ的にも区切りがつくんでそろそろちょっと仕様変更みたいなのぶっ込んでみようかなーとか思ったり思わなかったりしています。
これはこれで(書いてる自分は)楽しいんですけれども、そろそろなんかアクション起こすのもアリかなと。
具体的には安価時になんかシチュとか書くと実現する〜みたいなやつあたりを弄ろかなと。
扱いが難しそうだからわざと成功率低めに設定したんですけど、緩めてもそれはそれでいけそうな気がしてきたので。
あとは……まだ詳しく決めてないんで秘密。
次フェーズからはちょっと何か変わるかも、と書いておきます。
////Twitterにでも書いてろ的な////
能代やっと来ました。彼女一人を探すためだけに弾薬が10000以上消し飛んだよーな……。
遂に艦娘コンプです、やりました。
1年と1ヶ月でやれたんでそこそこ運が良い方ですかね(勿論プレイ頻度に依りますが)。
このゲームはいかに早く大型艦建造を脱却出来るかが一番重要だと思う……。
当面の目標は図鑑埋めですかねー。睦月改二・葛城改・Roma改・秋津洲改がまだなんで。
あとは長良・白露・村雨・朝雲・磯風・朝霜も図鑑には載らないけど改でグラ変わる系なんで育てようかなあと。
レベリングに終わりはないのだ。
482 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/22(金) 00:05:05.24 ID:hMVTwvEf0
どもども。大体二週間に一回のペースでの投稿間隔になりつつありますねー。
本当はもちっと早めたいところなんですがー。
口では早めたいと言っているのですが実際のところ……という感じでありましてハイ。
何はともあれ次回の投下は24(日)あたりを目処に書いております。
本当は今日の夜あたりに行っとくつもりだったんですが現状の進捗を鑑みるにダメそうなので……。
////人間は紙とペンさえあれば世界の神になれる 〜チラシの裏という無法地帯////
最近は友人がBesiegeというゲームをSteamで配信してるのでそれを見て時間潰してます。
分からん人には何のこっちゃって感じですが。
そもそも艦これにもこのSSにも全く関係ない話なんであんま気にしなくていいです。例によって読まなくてもいいです。
SteamってのはPCゲームのダウンロード販売プラットフォーム……iTunes StoreやWindows ストアの洋ゲー版ってとこでしょうか。
(厳密には違いますけどね。あと別に日本のゲームもあることにはあります)
そのSteamってので配信してるゲームにBesiegeってのがありまして。
日本語Wiki曰く『Besiegeは、中世の攻城兵器を作って要塞や集落、兵士、羊を蹴散らしていく物理ベースのシミュレーションゲームです。』らしいです。
ブロックを組み合わせて戦車やカタパルト、飛空艇なんかを自分で作ってステージを攻略していく……って感じのゲームです。
Robocraftってゲームが一番イメージとしては近いですかね。噛み砕いて言うとレゴブロックを組み合わせて兵器を作っていくような感じ?
まだテスト版なんでゲームとして完成してないんですけど、こいつが中々面白くて。
友人の作るカオスな兵器(艦上爆撃機めいた特攻兵器やデコトラのようなゴテゴテした戦車)を見て楽しんでおりますハイ。
完成版が出たら自分も買いたいなーと思っております。
……そんなんで時間使ってねえで続き書けや! ハイ! スミマセン! だって微妙に詰まってるんだもん!! だもん丸だもん!(誰だよ
わりと個人の特定が容易な書き込みばっかしてるんでリアルでの知人がこのスレ見たらすぐに誰が書いたかバレそうでアレである。
483 :
【46/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:25:00.94 ID:WT3SGm150
飛龍「索敵機が帰還しました! 駆逐ハ級後期型が3隻、駆逐イ級・駆逐ロ級の後期型が2隻、軽空母ヌ級flagship2隻、戦艦タ級flagshipおよび戦艦ル級flagship各1隻、空母ヲ級flagship2隻……」
蒼龍「護衛要塞の存在も確認されています! また、要塞の先に見慣れない大型の深海棲艦が2隻との報告が。警戒して下さい!」
赤城「呉強襲の時もそうでしたが、敵艦隊からこれまでとは比べ物にならないほどの殺意を感じます。
あの要塞の背後にどんな恐ろしい相手が隠れているのかは想像もつきませんが……終わりにしてみせます! 第一次攻撃隊、発艦!」 バシュッ
大鳳「私たちも続きます! 第六○一航空隊、発艦始め!」 次々に艦載機を撃ち出して迫り来る敵機を迎え撃つ赤城たち
加賀「翔鶴、瑞鶴。貴方たちに実戦で物を教えるのは初めてかしら。……これが私の最後の教えになります」
普段の構えを解き、正面の敵艦隊へと大きく前進する加賀。普段の彼女の姿からはまるで想像もつかない無防備なその振る舞いは、ともすれば敵の的となりかねない。瑞鶴が叫ぶ。
瑞鶴「一体何をやっているの!? 単機で敵陣に突っ込んでいくなんて!?」
飛龍「加賀先輩が構えを解いた……“アレ”、をやるつもりみたいですね。
普段はあんなに朴訥で慎重な戦い方をするわりに、攻めに回ると一番苛烈で執拗……味方で良かったと心から思いますよ」
加賀「『守破離』。……型を守ることは大事です。ですが、それを踏まえた上でより既存の型を破り、より自分に合った型を確立させなければ私や赤城のようにはなれません。
……そして、やがてはその型からも離れ自分自身が熟練した技術そのものとなるのです」
加賀「だからこの戦い方は私にしか出来ないでしょうし、真似ようとは思わなくて結構です。私自身、ここぞという大一番以外ではやりませんしね。あまりにも危険すぎるので……」
空から降り注ぐ急降下爆撃の嵐を駆け抜けながら前へ前へと進み次々と弓を引いていく加賀、敵戦艦の射程範囲寸前まで辿り着くと、目を閉じて一呼吸置く。
加賀「今です」 バシュッ……シュォォォォォオオオオオ
加賀が艦載機を放つと、後ろから来る赤城の射出した機体の動きに呼応して螺旋状に回転する。直掩機として動いているようだ。
加賀の艦戦が赤城の機体を守るように廻りながら敵機を蹴散らし、赤城の艦攻がただひたすらに真っ直ぐに突き進んでいく。
艦攻が護衛要塞に接近すると、ありったけの雷撃を撃ち放して要塞を粉々に粉砕する。
加賀「やりました」 後退していく加賀にウインクを送る赤城。目を閉じながら噛み締めるように口角を上げニヤケ笑いを浮かべる加賀
赤城「上々ね。……さぁ、姿を現しなさい! この戦いの決着をつけましょう!」 加賀へ向けた微笑みの表情から一変、キッと鋭く大敵を睨みつける赤城
中間棲姫「…………」 髪をかきあげ、赤城を睨み返す
空母棲姫「ヒノ……カタマリトナッテ……シズンデシマエ……!」 どす黒い海の底から、グロテスクな見た目の航空機を生成していく
二体の“姫”クラスが場に現れると、戦場の空気はそれまで以上に重苦しく、深刻なものに変わっていく。
喉を握りつぶすようなプレッシャーが、体にこびりつくような絶望感が場を支配する。
二体の繰り出す200機を越える敵の艦爆や艦攻が空を埋め尽くす。
赤城「艦上戦闘機の用意をッ! 飛龍さん、蒼龍さんは左をお願いします! 私と加賀さんで正面を叩きます!」
加賀「五航戦、右翼の敵は貴方たちに任せます。やれますね?」 艦戦を矢継早に繰り出しながら二人に話かける
瑞鶴「わっ、私たちだけでぇ!?」
加賀「師匠の無茶振りぐらい応えてみせるのが弟子ってものよ」
翔鶴「……瑞鶴。やりましょう。随伴艦の皆さん、撃ち漏らした敵はお願いします!」 空母の傍に迫り来る敵艦載機を吹雪や秋月といった駆逐艦たちが片っ端から叩き落していく
・・・・
空は未だ艦載機が跋扈している。死を恐れぬ異形の集まりである敵艦でさえ動くことを躊躇っているほどの激しい空戦が繰り広げられている。
戦場を駆け巡る烈日の如き熱風に、秋霜の如き冷たい緊張感。対空装備のない艦娘たちは固唾を呑んで空の様子を見守っている。
瑞鶴「ッにしても……盆と正月が一片に来たみたいな歓迎っぷりね。忙しいったらありゃしない!」
翔鶴「にしては随分生き生きしてるじゃない?」
瑞鶴「そりゃあ最後の晴れ舞台ですもの! 一航戦の先輩には負けないわッ! ……っと翔鶴姉、矢借りるよ」 ひょいと翔鶴の矢筒から矢を奪う
翔鶴「えっ? あぁん、瑞鶴! 持っていかないでって……もう射尽くしたの?」
瑞鶴「『百発の矢で倒せない相手ならば、一千発の矢で射殺すまで』よ! 翔鶴姉は慎重すぎるんだってば! 勿体ぶってても、大破したらそれまでだわッ」
翔鶴「つ、都合の良い時だけ先輩の教えを引き出さないの! 『初心の人、二つの矢を持つことなかれ』……一矢一矢が全てを込めた絶対無二の一撃。無駄にしてはいけないわ」
瑞鶴「うっ……でも、無駄にはしてないわ。大丈夫よ」
瑞鶴「私ね……加賀さんの期待に応えたい。なぜアレを私たちに見せたのかは分からないけど……加賀さんの背中を見て、超えてみせろって言われている気がしたの。
だから私は……私なりのやり方で加賀さんを乗り越えてみせるッ! 今、ここで!」
翔鶴(……瑞鶴。そんな事を考えていたのね)
翔鶴「……分かったわ。好きなだけ持って行きなさい。私は残りの矢でなんとかするわ。ふふっ」 弓を構えながら微笑みかける翔鶴
瑞鶴「? どうしたのさ翔鶴ねえ。今のどこが面白かった?」
翔鶴「瑞鶴らしくて面白いなと思ったのよ。……でも、そうね。私も負けてはいられないわ」 遠く先の敵艦を見据え、真っ直ぐに矢を放つ
翔鶴(加賀先輩や赤城先輩の意志を受け継いで、私たちは前に進む……ッ! その先へ!)
484 :
【47/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:25:51.51 ID:WT3SGm150
飛龍「やれやれ、何とか退けたわね。航空優勢、ってとこかしら」
蒼龍「これだけ空の敵を減らせば、弾着観測射撃も可能なはず。第一水上打撃大隊の方にもそろそろ動いてもらわないとですね」
赤城「砲撃戦に移行しますッ! 我々空母機動部隊は継続して敵艦載機の迎撃と敵艦の撃沈に努めます!」
長門「いよいよか……。首尾通り、私と陸奥で中央のあの巨壁……戦艦ル級を突破する。榛名・霧島隊は左翼、扶桑・山城・ビスマルク隊は右の雑魚を掃討しつつ前進。
大和・武蔵は後方より支援。形勢がこちらに向くまで前進は控えておけ」
武蔵「チッ、まあいい。私たちは圧倒的優勢か圧倒的劣勢でしか動かせんからな。秘密兵器というのも難儀なもんだ」 欠伸をする武蔵
大和「分かりました。大和型の射程であれば、ここからでも最前線の敵なら沈めることが出来ます!」 水上観測機を飛ばす大和
金剛「ワタシ達はどうすれば良いデスカ!?」
長門「好きにしろ。ハナから作戦に組み込まれていなかったイレギュラーな連中のことまで考慮出来るか。我々の邪魔にならないように動いてくれればそれでいい」
金剛「オッケー! 邪魔にならなければ何やっても良いってことですよネ? 行きますッ、Fire!」 敵からの砲撃を物ともせず前進していく金剛
長門「ばっ、バカ者がッ! 隊列を乱すんじゃない! 陸奥、私たちも奴に続くぞ。あんな英国被れに遅れを取ってたまるか!」
・・・・
群がる深海棲艦。苛烈な空襲と砲撃。左翼の榛名・霧島隊は壊走の危機に瀕していた。
榛名「榛名、全力で死守します!」 味方艦隊の殿として敵の的になる榛名
これまで比較的優勢に歩を進めていた榛名・霧島率いる左翼分隊であったが、敵戦艦の攻撃によって蒼龍が大破してしまう。
蒼龍の負傷により、左翼分隊の航空勢力は飛龍一人となってしまう。この痛撃に乗じて空母棲姫が左翼部隊めがけて突撃。
先に進んでしまった中央艦隊の支援は得られそうにないため、後退しつつ大和・武蔵率いる味方本隊との合流を図る榛名たち。
霧島(榛名……。第三艦隊に居た頃は口煩くて私の邪魔ばかりすると常々思っていましたが。
こうして艦隊を率いる立場になってみると、彼女のように劣勢に強い者は頼りになりますね……認めたくはありませんが、今この状況で一番力を発揮出来ているのは彼女でしょう)
霧島(自分に全ての砲火が集中しているというのに微動だにせずひたすら反撃し続けているとは……。とはいえ、長くは持たないでしょう。一刻も早く大和隊の援護を受けなければ……)
先頭を走る霧島。その表情には焦りの色が見られる。
榛名(功を焦りがちな霧島が撤退という選択を決断したのは意外でしたね。蒼龍が大破した段階で撤退を開始していたのは、結果論で考えれば英断と言えるでしょう。
あの空母の“姫”がこちらに接近していたのですから、あのまま前線に残っていたら取り返しのつかない被害を出していたでしょう) ドッゴオオオオン
轟音。嘘? 被弾した。一瞬の思考。その隙を突かれた。直撃したらしい。灼熱が肌を焦がす。血が吹き出る。視界が霞む。
榛名「ッ!」 シュゥゥゥウウ……
霧島「榛名!? 榛名ッ!」 榛名に駆け寄る霧島
榛名「…………。私に構わず、先に進んで……下さい。…………。後から、追いつきます……から。……まだ、やれます」
霧島「航行する力も残っていないくせに強がりは止してください。飛龍さん、艦爆隊の用意を。
加古さん達は負傷した艦を連れて大和隊と合流し、いち早くここに連れてきて下さい。私たちは敵を迎撃します!」
加古「了解!(これだけ追い詰められてるにも関わらずなんちゅー気迫だよ……。全身から殺すオーラが湧き出てるじゃんか……佐世保の艦娘は深海棲艦よりおっかないな)」
飛龍「蒼龍の仇は私が取ります! 徹底的に叩きますッ!」 鉢巻をギュッと結び直す飛龍。艦載機を発射していく
蒼龍(奮起してるのはいいけれど、人を死んだみたいに言わないで欲しいなァ……)
膝を震わせながらも立ち上がり、口元の血を袖で拭い、歯を食いしばる榛名。闘志は枯れていないようだ。
榛名「霧島……。ここで私が盾になった方が都合が良いのでしょう」
霧島「榛名“お姉様”、この際だから言わせてもらいますが。……私は貴方の『皆の為に』とか『誰かの為に』とかそういう自己犠牲精神が気に食わないです。
ほとんど歳が変わらないのに姉ぶって私の前で良いカッコしようという姿勢も嫌いです。私より常に上であろうとするその態度がいけ好かないですね」
霧島「ですが……。私たちの為に命を張ってくれている貴方を見逃せるほど、薄情じゃあありませんよ!
それに……どうも逃げ回ったり人と交渉したりするのは得意じゃないみたいでしてね。やっぱり戦場での殴り合いが性に合ってるみたいです!」
霧島「榛名。貴方だって私に思うことの一つや二つあるでしょう。私だけ不満をぶち撒けたんじゃ不公平ですから、どうぞ」
ダダッ、ダダッと砲を撃ちながら、言い放つ霧島。視線は少しも榛名の方へ向けようとしない。
ハァーと深く溜息をつく榛名。呆れたような顔で口を開く。
榛名「本当に……可愛げのない妹ですね。私の話は何一つ聞き入れようとしないんですから。それに、全然私の気持ちも分かってくれません。不器用すぎますよ……。
でも、私への不満を口にしてくれて、かえって少し気が楽になりました。そうですね、そんな風に思っていたんですね」
榛名「私よりも優秀なのを妬ましく思うことはありますし……どうして私を嫌うんだろうって、ショックを受けたりもしますけど……。
榛名は、霧島のことを嫌いだと思ったことなんて一度もありませんよ。たった一人の可愛い可愛い妹に、不満なんてあるわけないじゃないですか」
霧島の顔を見つめながらも、敵への砲撃は緩めない榛名。
視界がぼやけていても、聴力は普段より冴えているらしい。敵艦が水底に沈んでいく音まで明瞭に聞こえる。
霧島「ッ〜〜〜〜! な、なんですかそれは。私が意地を張っていただけみたいじゃないですか。なんなんですか、もう……。
やっぱり榛名とは波長が合わないみたいですね。調子が狂ってしまいます……」 口振りとは裏腹に、砲の命中精度は百発百中だ。次々と迫り来る敵を物ともしていない
485 :
【48/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:26:32.73 ID:WT3SGm150
遡ること一時間前。
赤城「追い詰めましたよ……! 周辺の随伴艦は全て叩きました。残るは貴方だけです」
中間棲姫「ノコノコト……誘ワレテイタコトニモ気ヅカズ……愚カシイ……」
長門(もう一体の方は我が隊の後方へ向かっているようだな。とはいえこちらの戦力は割けん、仕方あるまい……後方の大和・武蔵に動かさざるを得ないか)
加賀「覚悟は……良いですね?」
中間棲姫「……誘爆シテ……沈ンデイケ……!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
吹雪「敵艦載機接近! 迎撃します!」
熱を帯びる前線とは対照的に、艦隊の後列で若干やる気なさそうに話し合う金剛と比叡。
金剛「右翼の扶桑やビスマルクたちがこっちに向かって来ているみたいデスガ……左翼分隊の進みが悪いようですネ。“姫”サマはあっちに行ったと考えて良さそうデス。Hmm...」
比叡「二人が不安ですか? 確かに、少し荷が重いかもしれませんが……大和型が出るのであればどうにかなりそうな気がしますけど」
金剛「敵の首尾が良すぎだと思いませんカ。あのサイドテールのBossが大和たちより早く戦場に着いていたとしたら……?
ワタシ達は後方へ退いて、榛名や霧島たちの援護に向かいませんか? ここはワタシ達抜きでも突破できるデショウ」
比叡「構いませんが……お姉様が人の心配をするなんて珍しいですね。ま、そうは言っても大切な姉妹ですからね」
・・・・
金剛(ワタシを近くで見てきた比叡でさえ……『お姉様が他人の心配をするなんて珍しい』か……。当然といえば当然デスガ……。
第一艦隊では放っておいても死なないような連中しか居なかったし、気に留める必要が無かった。
いや、仮にその必要があったとしても……味方に危機が迫っていたとしても、私は助けるようなことはしなかったと思う)
金剛(じゃあ、どうして私はこうして榛名や霧島たちのもとへ向かっているんでしょうか? 自分の姉妹だから? いいや違う。
確かに、榛名や霧島のことを姉妹とは思っていますが……今更姉として会わせられる顔も無いでしょう。
自分の地位を脅かされることを恐れて、二人が対立しているのを見て見ぬふりをしていたのは誰? それどころか都合が良いとさえ思っていたのは誰?)
金剛(今更良い子ちゃんぶって何になる? 私は自分の為に、全てを犠牲に出来る人間になったはずだった。はず、だったのに……)
提督との回想が脳裏を駆け巡る。
“私は本気で人の事を嫌いにはなれない”、“誰かに愛されたい、認められたい”、“人と人とは分かり合える”……全て自分の言葉だ。
甘ったるい、弱い言葉だ。反吐が出る、苦々しい。
……けれど、自分の本心だ。あんな風に追い詰められていたからこそ出てきた言葉。自分自身で封じ込めて、見ないふりをしてきた本音。
どれだけ強くなっても、他人を押しのけて一番になっても、誰からも畏れられるようになっても、満たされなかったのは……それが本当の望みじゃなかったから。
金剛(提督……)
『お前を嫌いにならない努力をしてみようかと思っただけだ。人から嫌われるのは嫌なのだろう?』
金剛(……)
行こう、行くんだ。甘ちゃんでも構わない。他人からすれば偽善に見えるかもしれない、欺瞞に映るかもしれない。
いいんだ。それでもいい、それでも私は人を愛していたい。利害の繋がりだけじゃ、私の心は満たされない!
・・・・
比叡「気合ッ! 入れてッ! 行きますッ!」 ドドォン!! ドドォン!!
金剛と比叡の放った攻撃が空母棲姫に直撃する。背後からの攻撃は予期していなかったらしく、思わぬ痛みに苦しんでいるようだ。
空母棲姫「チィッ……アト一歩ノ所デ……。一体、何者ダ……」
金剛「榛名! 霧島! よく持ちこたえまシタ!」 ボロボロでへばっている二人にグッと親指を突き立てる金剛
霧島「金剛、お姉様……どうして……?」
金剛「妹を助けるのに、理由なんて要りますカ? 比叡、大和たちが来る前にカタを着けますヨ?」
比叡「承知しましたッ! 蹴散らしてやります!」 ドゴォォン!
砲のシャワーを軽やかに受け流しながら敵に強烈な一撃を叩き込んでいく二人。
榛名「霧島。休憩はこれくらいにして、私たちも続きましょう。こんな所で終われないでしょう?」
霧島「ッてて……体の節々が痛むんですけど……。本当に榛名はタフですね。ま……そういう所は、私も見習わなければいけませんね!」
即席で組まれた戦闘部隊とは思えないほどの一糸乱れぬ連携を見せる金剛たち。
比叡「こうして四人で戦ってると、昔を思い出しますねー! まだ皆右も左も分からなくて、戦い方もてんでなってなくて……」
榛名「それがここまで来た、というのはなんだか感慨深いものがありますね……。皆、自分なりに積み重ねて来たんだな、って」
金剛「さっさとこの戦いを終わらせて、皆で久しぶりにティータイムするネー! バァァニング・ラァヴ・ファイヤァァァ!!」 ドゴオオオオン
486 :
【49/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:39:58.44 ID:WT3SGm150
龍田「遅かったじゃないですか〜。結構焦ったんですよ?」
提督「すまんな、世話をかけた。それと、影武者の方の演技指導もバッチリだったようだな。褒めておこう(影武者というかただの代理だが)」
提督「ふむふむ。左翼分隊は主力である本隊と合流し、敵主力艦……仮称“空母棲姫”を撃破。中央分隊は右翼分隊と合流し、敵主力艦“中間棲姫”と交戦中。日没までには決着というところか。
右翼分隊の瑞鶴や翔鶴が存外活躍していたようだな、あの一航戦に迫るほどの戦果を上げているとは驚きだ」
龍田「現状の結果だけ見るとどうということも無かったかのように見えますけど……これでもだいぶ危ない展開もあったんですよ。
左翼分隊の空母蒼龍が負傷したところを狙いすましたかのように空母棲姫が奇襲。犠牲が出てもおかしくない状況でした」
皐月「おぉー、司令官。ひょっとしてこれを見越して金剛たちを降ろしたのかな? うまい具合に金剛と比叡がピンチに駆けつけているようだけど」
提督「偶然に決まっているだろう。ブレーキが壊れるだなんて予測できるはずない。ふむ……しかし、金剛に比叡か。なかなか見事な戦況判断だな。
後方に控えている大和隊の到着よりも先に空母棲姫が左翼分隊に攻撃を仕掛けているだろうと考えたのだろうな。だから目の前の中間棲姫を無視してUターンし、榛名・霧島らの救援に向かったと。
(しかし、仮に敵がボス級の戦力を中央以外に割くのであれば、戦力的に手薄である右翼分隊を狙うと思っていたが……。
純粋な戦力配分だけで判断せず士気や戦況の変動まで加味して動かしたのだとしたら……)暗号の漏洩も敵の配置の無駄のなさも、奴が居るとしたらありえなくはない展開だ」
提督「……急ぎ前線に通達してくれ。負傷した艦は鎮守府に帰投、健在な艦は夜が明けるまでは決してMI最深部から動くな。最大級の警戒を以って索敵を行え。絶対に油断するな」
・・・・
中間棲姫「トラエテ……イルワ……!」 総攻撃を受けながらもプレッシャーを放ち続ける中間棲姫
赤城(敵に余裕が無くなってきたわ。頃合ね)
赤城や長門らに加え、後から合流した金剛や大和たちの総攻撃を一身に受けているため防戦一方の中間棲姫。その隙を響は見逃さなかった。
響「灯台下暗し……というわけだな。随分しぶとかったようだが……прощаться。永遠に、さようならだ!」
もう日が沈みつつあるとはいえ、まだ陽光は照っている。そんな状況で敵艦に肉薄すれば反撃を被るのは必定。
しかし、圧倒的な攻撃力と対峙した中間棲姫は前方の猛攻を凌ぐことだけに意識が集中してしまった。脇腹に滑り込むように接近していた響に気づかなかった。
中間棲姫「ソンナ……ワタシガ、オチルト……いうの……?」 ドゴォォン!ドンドンドンドン! シュゴォォオオ……
響の容赦ない雷撃により、戦いの幕は閉じた。しかし、終わったという感慨に浸る間もなく、空が表情を変えていく。太陽は一瞬にして沈み、月が天頂を照らす。
雪風「!? 司令から伝令ですッ! 『空母及び負傷した艦は全速力で鎮守府に戻れ。健在の艦は決してその場を動くな。索敵を緩めるな。絶対に油断するな』だそうです!!」
響「なんだと……? どうなっている。まだ敵が居るとでも? 電探には何も引っかからないが……」
・・・・
川内「へっへーん! こういう時のための夜偵だよねー! やっぱ夜戦がないと面白くないからねぇ!」
吹雪「川内さん、どうですか? 敵艦らしきものは発見出来ましたか?」
川内「おっ、見つけた見つけた! 空母が一隻だけ居るみたいね♪ でも、なんだって空母……? 夜なら艦載機飛ばせないんじゃない? ひょっとして楽勝?」
吹雪「佐世保の提督が絶対に油断するなと念押しぐらいですから、警戒に警戒を重ねて挑むべきでしょう。それに、突然日が沈んで夜になってしまうなんて、何が起こっているのか……」
雪風(『空母ヲ級Nightmare』司令のお兄さんから聞いた話ですが……悪夢の名を冠するその深海棲艦は、高い知能を持ち、他の艦とは一線を画する力を持つという……。
夜を統べるその力は、闇の中でも敵を捕捉し確実に追い詰める……!)
雪風「敵がこちらの索敵機に気づいていないということは、一歩先手を取ったということ。大淀さん、司令と通信を繋いでもらえますか? あっ、ありがとうございます。
司令、“ナイトメア”ですよね? ……敵のおおよその位置を掴みました。まだこちらには気づいていないようです!」
提督「ガガピー……ガガ……。なぜお前がその名を知っているかについて聞いている時間は無さそうだな。……とにかく、知っているようなら話は早い。
敵にこの通信を傍受されるといけないから手短に伝えるぞ。奴は夜間でも艦載機を好き放題放てるとんでもない空母だ。見つかったら終わり……だが、偵察機がお前たちを捉えるのは時間の問題だ。
奴の位置が掴めているならば……そして奴に見つかっていないのであれば……一撃に全てを賭けろ。全艦のありったけの砲をぶつけろ、今すぐにだ!」
金剛「テートクのご命令とあらば! やるっきゃありませんネー!!」
大和「話がまるで掴めませんが……行きましょう! 全主砲、撃てぇッ!」
遠方から爆撃音。燃え盛る炎は、いかに威力が絶大だったかを物語る。しかし……。
体中に炎を浴びながらも、ゆらゆらと立ち上がる影。その右目に宿る蒼い炎は、砲によるものではなく燃え盛る憎しみの炎なのだろう。
それまで空を旋回させていた艦載機の全て……中間棲姫や空母棲姫のそれを上回る数の艦載機をこちらに向けてくる。さらに……。
陸奥「そんな!? 倒したはずじゃ……?」
深く暗い水底から浮かび上がってくる中間棲姫に空母棲姫。呉を襲った二体の戦艦棲姫まで現れる。
雪風「ダメでしたか! っ! 私が囮になります!! アイツを倒せば全てが終わりますから!」 近くに居た川内から探照灯と照明弾を奪い取り、真っ直ぐにヲ級への道を切り拓いていく雪風
川内「返せー! ってか、そんなことしたら敵の的になっちゃうっての!」
雪風「大丈夫です! 私が……あの空母までの道を照らす光となりますッ!!」
雪風がかつて“死神”と呼ばれていたのは、どんな無謀と思えるような作戦でも生き残ってきた浮沈艦であること。そして、もう一つ。
スイッチが入ると誰にも止められないほど猛威を奮うことである。そしてその真価は夜戦で発揮される。
空から、前後から、左右から来る砲撃と雷撃の嵐でさえスローモーションに感じられてしまうほど、雪風の感覚は冴え渡っていた。敵の攻撃を華麗に受け流しつつ魚雷を見舞いする。
川内「ヒューッ……やるじゃん。夜戦装備取られたのはムカつくけど……あの動き、水雷魂感じちゃうなぁ……! よっし! 私たちも行くよ。やってやろうじゃんか!」
487 :
【50/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/05/24(日) 22:41:23.60 ID:WT3SGm150
長門「何がなんだかまるで分からんが……。川内! 吹雪! お前たちはあのヲ級を仕留めろ! このデカブツどもは、私たちが食い止める!
陸奥「戦艦のありったけの砲を食らったんだもの、持ち応えてこそいるけれど、かなりダメージを負っているはずよ。回復する前に早く!」
金剛「Wow! まさにBoss on paradeデース! ここまでえげつないとかえって燃えますネ……!」 手のひらに拳を打ちつけ、放火を背に立つ金剛
比叡「お姉様! 地獄の果てまでお供しますともーッ!」 巨大な化物相手に次々と砲をお見舞いする比叡
空母棲姫の攻撃を寸でのところで回避し、反撃を食らわせる武蔵。
武蔵「おおっと危ない! さっき振りじゃないか! ほとんど金剛型の連中に削られていた状態でまるで歯ごたえが無かったが……今度は楽しませてくれよ?」
大和「フフッ……ようやく本気が出せそうね! 大和型の力、その身で受け止めてみなさいッ!」
響「チッ……さっき永遠の別れっつったろうに……。アイツ、根に持ってるのかやたらこっちを狙ってくるな。
雪風。すまないが、私は戦艦連中と混ざって戦うことにするよ。君を守ろうと思っていたが……これじゃあ帰って狙い撃ちされてしまう」
響「大ボスはあそこのアホ共とあっちのアホ共に譲ってやるとする。いいかい雪風、勝手に沈んだら承知しないよ? 数少ない私の友人なんだからな。それじゃ」
アホ共……横から追ってきている川内たちと足柄たちを指差すと、響はぐるりと身を翻し巨大な化物を一瞥。降り注ぐ爆撃の雨をものともせず進んでいく。
雪風「響、司令……。雪風、必ず生き残ります!」 どんどん前へ前へ、“悪夢”へと突き進んでいく雪風
朝霜「なんかよく分かんねーけど、アッツイ展開じゃねーか! やってやんよォ!」 魚雷を好き放題打ち放す
雪風を追って猛烈な速度で疾走するのは、かつて“ヴェアヴォルフ”と呼ばれていた者たち。
大淀「ッ! 敵が多すぎて前に進むのも一苦労ですね!」 と言いながらも拳で敵駆逐艦をぶちのめしながら強引に突破していく大淀
清霜「こりゃいいわ! どこに撃っても敵に当たるわね。これだけ敵を倒してたら、どんどん強くなって、戦艦になれちゃうかも!?」
霞「なれないわよアホ。いい加減ッ!(ガスッ)現実をッ!(ボカッ)見なさいッての(ドシュッ)」
朝霜「倒すか喋るかどっちかにしろって、のォ!」 敵を避けつつ航行するのも面倒になったのか、八艘飛びで敵艦から敵艦へと飛び乗って前へ進んでいく
足柄「おっ! アンタ賢いわね! そのアイデアもらいっ!」
海上を大きく跳躍し着地ならぬ着艦を試みるも、踏み台にされた敵艦は哀れにも爆発四散してしまう! 爆風に吹き飛ばされ、大きく弧を描きながら遥か上空を舞う足柄(中破)。これには大淀も苦笑い。
清霜「ダイエットしたら?」 ぴょんぴょんと跳ね回りながら空中の足柄に話しかける。
足柄「うっ、うるさいわねッ! クッソ〜〜〜〜腹立つわ!」 吹き飛ばされながらも横向きに砲を撃ち、八つ当たりのように空中の艦載機を蹴散らしていく
足柄(とっ……ギリギリ届くか? うん、やれるわね!)
雪風の放つ明かりをもとに、空から海上を見下ろしながら着地点を計算する足柄。
吹雪や夕立、川内らの活躍により雪風の周囲の敵は打ち倒され、残るは“悪夢”のみだ。
足柄「敵“艦”直上、急降下ってね! これで終わりよッ!」
海を砕かんばかりの衝撃。破壊的威力のラムアタックがヲ級に襲い掛かる。ついに機能を停止し、前のめりに倒れ海に呑まれていくヲ級。
・・・・
ヲ級Nightmareが倒れると、再び夕焼け空の景色が戻り、復活していた深海棲艦も全て幻影だったかのように姿を消してしまった。
執務室に戻り、意気揚々と戦果を報告しに来た足柄。
提督「……負けることはないだろうと思っていたが、全く犠牲を出さずに奴を倒せたのは幸運だったな」
足柄「重巡足柄に不可能は無いのよ」
提督「お前一人の力でどうにかなったわけではないが……ま、認めざるを得まい。とはいえ、“悪夢”などと大層な名前を冠した古の怨念が、こんな形でやられてしまうとは浮かばれんな……」
足柄「敵に同情してどうするのよ。やられ方に意味なんてないわ。英雄だろうと勇者だろうと、やられる時はあっけないもんだわ」
提督「そうかもしれんな。……と、どうしてお前はここに来た? 戦果の報告なら明日で構わんと言ったし、外で戦勝会という名分の宴会が行われてるだろう? お前は行かないのか?」
足柄「提督こそ、顔を出さないんですか? 今回の作戦の主役でしょうに? 作戦を完全勝利に導いた伝説の提督! ってね」
提督「主役と言われても、俺はただ座って指示を出していただけだ。
それに、Nightmareクラスが潜伏していたことまでは予想し切れていなかったからな。最終的に運良く大団円になっただけで、完璧とは言い難いさ」
提督「ま、そういう事に関係なく、気が乗らんな」
「……もうじきこの鎮守府も離れるしな」と言いかけて言葉に詰まる提督。足柄が目の前に酒瓶をドンと置いてきたからだ。
足柄「ふっふっふっ〜。残念だけど、私、狙った獲物は逃がさない主義なのよ? 知らなかった?」 強引に提督の口元まで枡を運ぶ足柄
提督「ぐ。むむむ……これは世に言うアルコールハラスメントではないか」
足柄「この鎮守府ではそんな言葉存在しないのよ。ほら、じゃんじゃん飲みなさいって。ベロベロに酔っ払わせて皆の前に引きずり出してやるんだから」
提督(クソッ、なんてブラック鎮守府だ……)
488 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/24(日) 22:51:15.65 ID:WT3SGm150
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~50/100)
・金剛の経験値+4(現在値15)
・翔鶴の経験値+2(現在値14)
・足柄の経験値+2(現在値20)
・雪風の経験値+2(現在値8)
・皐月の現在経験値:7
・響の現在経験値:10
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いやー押し切りましたね。
相変わらずマッシヴすぎて人を選びまくりな感じとりあえずここで一区切り……もう完結でいいんじゃないかこれ(えぇ
さてさて次回からなんか新要素っぽいのを加えてこうかなと思うのですが、わりとパワーを使い果たした感じがあるのでその話はまた後日。
ひとまずPhase Aのアレだけ書いておきますんで例によっていつも通りな感じですハイ。
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『Phase A』【51-55/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらいで流し読みするか
>>351
付近を参照下さい
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489 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 05:21:46.81 ID:bZWNtbBOo
響
490 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 20:55:07.16 ID:j9owcFwYo
足柄
491 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 22:11:05.46 ID:y3WsvUZR0
雪風
492 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 22:11:38.04 ID:y3WsvUZR0
雪風
493 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 22:14:44.84 ID:jD3M6CS4O
足柄 なぜカツにこだわるかの話
494 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/26(火) 05:21:49.51 ID:JS8gGpRPo
連投なしだっけ
皐月で
495 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/26(火) 22:52:35.61 ID:TvgA6hAG0
えと、そうですね。最初の方に書いておきましたが、同一IDからの連投はなしの方向でよろしくお願いします。
裏を返せばIDさえ変わればOKということなので、日付が変わったらまぁうんっていう感じです。そこいら辺は戦略ですかね(謎
>>489-494
より
・響1レス/足柄2レス/雪風1レス/皐月1レス
で『Phase A』が進行していきます。
と、ここでニューフェイス向けにあれこれ情報をまとめておきます。
居るのか分かりませんが途中から追っかけ始めた人向けに。
前に言ってた追加要素とやらは次のレスで説明します。
【バックナンバー】
>>360
-
>>364
:01-05話
>>374
-
>>378
:06-10話
>>388
-
>>392
:11-15話
>>401
-
>>405
:16-20話
>>414
-
>>418
:21-25話
>>429
-
>>433
:26-30話
>>442
-
>>446
:31-35話
>>456
-
>>460
:36-40話
>>470
-
>>474
:41-45話
>>483
-
>>487
:46-50話(今ここまで)
実はもう既に一回100まで到達してまして、現在は第二部って感じですね。第一部は
>>16
からです。
今現在やっている第二部の前身だけあってそれっぽい血は流れてますが、内容も独立してますし基本的に全く別物です。
えと、作者的には今読み返すと所々変な汗が出てくる感じでアレなんすけど……興味と時間がある方はよろしければどうぞ。
【このスレって何】
・安価形式で進む艦これSSです。
ヒロイン候補っぽいキャラが6人いて、最終的に提督と誰がくっつくかを見守るスレ……という想定でしたが、最近はよくわかんないです(え
・5レスごとに進行し、100レスまで行ったらおしまいです。
『Phase A』(安価で登場するキャラを決める)と『Phase B』(コンマで登場するキャラを決める)を交互に繰り返します。
地味に他にも色々あったりしますが今のところ微妙に全部死に設定と化してるのであんま気にしなくていいです。
・安価やコンマで登場することが決定したキャラをメインのお話が1レスずつ投稿されていきます。
登場した各キャラは『経験値』という名前のポイントがちょっとずつ溜まっていきます。最終的にこのポイントが高いキャラとエンディングを迎えます。
詳しく書くともっと色々めんどくさいのですが、雰囲気を掴むにはこのぐらいの説明でも大丈夫……かな?
自分のように3行以上の文章読むと読む気が失せるタイプ向けのざっくりした概要なんで、
詳しく知りたい方は
>>336
-
>>339
,
>>349
-
>>351
あたりも併せて読むと理解が深まるかと(面倒なのでオススメしません)。
496 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/05/26(火) 22:55:36.26 ID:TvgA6hAG0
これまでの要素に加え二つ仕様を追加(一つは変更?)させていただきます。
■「書いた内容が実現する」系の発動制約を無効化
なんのこっちゃという人の為に説明。
“各レスにシチュエーションや起こる出来事を書いておくと
・Phase Aならエクストライベントが発生した場合
・Phase BならIDに3つ以上数字が入っていた場合
書いたレスの内容が概ね実現します”(過去のレスより抜粋)
安価時にシチュエーションやら起こる出来事やらを書いておくと実現しますってのがあったんですよ。
上記のような特定条件下で実現するというものなのでしたが、ややこしいので取っ払います。
次回からは『書いた内容は無条件に実現します』。デウス・エクス・マキナも認めよう。
このスレの皆さんはもうこのお話の世界に干渉する力を持った特殊能力者になりました。力を得てしまったのだ……!(何
一応全てを受け入れる覚悟は決めましたが、ヤバそうなのが来たり展開的に難しそうだったらそこは解釈の力でなんとか逃げます。
なんで、思い通りにならなくてもそれはそれということでご容赦くだされ。
ま、任意なんで書いても書かなくても〜、って感じです。
■『Phase C』の導入
あまりにもエクストライベントが発生してくれないので業を煮やして生まれました。
エクストライベント同様、エンディングまでの100レスのうちにカウントされません(経験値は加算されます)。
『Phase C』は『Phase A』終了時および『Phase B』終了時に発生します。
ただし発生には条件があり、『Phase A』・『Phase B』決定時についたコンマ値の合計値が素数だった場合にのみ発生します。
『Phase C』では経験値が1レスにつき+2上昇します。
登場するキャラは、経験値が全体平均から低いキャラが優先的に選出されます。
新たに上昇する値も加味しつつ平均値にならす方向に作用します。
たとえば現時点では
足柄の経験値:20
金剛の経験値:15
翔鶴の経験値:14
響の経験値:10
雪風の経験値:8
皐月の経験値:7
なので、
皐月2レス(上昇値+4/累計経験値11)・雪風2レス(上昇値+4/累計経験値12)・響1レス(上昇値+2/累計経験値12)というように決定されます。
経験値の低いキャラでも上位のキャラと圧倒的大差をつけられにくくすることを意識した調整となっております。
発生率がそんなに高くないのでエクストライベント同様ほとんど発動しないかもしれませんが、そん時はそん時ですね。仕方ない。
逆に頻発する可能性もありますし。各フェーズ終了ごとに『Phase C』の発生判定が起きるんで、
『Phase A』→『Phase C』→『Phase B』→『Phase C』とPhase Cに邪魔されまくって全然レス数が進まないということもありえます。
とりあえず今回の『Phase A』では発生しなかったので、次回以降に期待ですかね。
////チリングハッシュ(いつものチラシの裏)////
ヲ級Nightmareは完全なオリキャラではなくちゃんと元ネタがあったりします。
hoge級eliteとかfuga級flagshipってのの他に、piyo級Nightmareっていうのがあるらしいんですよ。
没(?)設定みたいですけどね。今んところ内部データにも無いんじゃないかしら。
なんで、イメージ的にはその設定とアニメに登場した隻眼ヲ級の間の子みたいな感じです。
設定って言っても、名前しか知らないんですけどね……。
というか、『Nightmare』に関する情報は、内部の人間じゃないと知らないんじゃないでしょうか。
なんかの情報誌(?)にチラッとその名前が出てたぐらいだったはずなんで。
……こうやって二次創作でネタにしてたらその内実装されそうで怖いですね。
497 :
【51/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:51:39.90 ID:tngg5+Sn0
提督「むぐ……酷い頭痛だ。人生最悪の目覚めかもしれん……足柄め許さんぞ」
提督(にしても……制服のまま寝ているとは。昨夜足柄に強引に酒を飲まされてから先の記憶が残っていないが……相当泥酔していたようだな)
提督(見慣れない天井。おそらく途中で意識を失ったところを誰かに介抱されたのだろう、情けない話だな。ん?)
胸ポケットに見に覚えのない封筒が入っていることに気づくと、封を切り中に入っていた書類に目を通していると、響が声をかける。
響「お遅いお目覚めだね、司令官」
響の声に気づくと、書類を胸ポケットに再びしまいこむ提督。
提督「ヴェールヌイか。……昨日、酔った俺は何か余計なことを話さなかったか? あるいは、何か俺から聞き出そうとしていた者は居なかったか?」
響「いいや、普段通りだったよ。早々に寝てしまったけれど」
提督「……そうか。わざわざベッドを貸してくれたことには礼を言うが、別に床でも構わなかったのだが」
響「何、今回の戦いの最大の功労者に対してそんな無碍な扱いは出来ないさ。それに私も一緒にベッドで寝たから問題ない」
提督(シングルベッドに二人で寝たのか? 狭かろうに……)
提督「昨夜も言ったが、俺はお膳立てしただけだ。それだって完璧には程遠いものだったしな。どうしてお前たちはそこまで俺を持ち上げるのか理解に苦しむな」
響(一緒にベッドで寝たことに関してはスルーか。予想はしていたが、手強いな)
響「私たち艦娘だけじゃないさ。この国も、ひいてはこの世界さえも君を認めざるを得ない。それだけの偉業を、君はやってのけた。当然のように成し遂げてみせた。素晴らしい功績だ」
手を大きく広げながら自分の意見を述べる響。ベッドの上の提督に少しずつ近づいていく。
響「この戦いでの大戦果は、長きに渡る深海棲艦との戦争の事実上の終結だ。数年も経たないうちに全ての深海棲艦は滅ぶだろう」
自分への呼称が普段の『司令官』から『君』に変わっていることに気づく提督。響にしては珍しく熱の籠った口調に気圧され気味の様子。
響「君は英雄だ。君の存在はこの世界を変える……君の活躍を隣で見ていたい。いつまでも、君の傍に居たい」
提督を真剣な眼差しで見つめる響。澄んだ水色の虹彩に、輝く漆黒の瞳。その瞳に吸い込まれるかのような錯覚を覚え瞬刻たじろぐ提督。ベッドから降りて数歩進み、彼女から背を向ける。
提督「ヴェールヌイ、お前は何か勘違いしている。俺は英雄などではない」
響「それは君一人がそう思っているだけさ。今に誰もが君を讃え敬うだろう、君には王の資格がある。導く力がある」
提督「違うなヴェールヌイ、それは全てお前の妄想だ。俺は……ただの異端者だ」
そう言い捨てて部屋を去る提督。
・・・・
提督が辞職する旨、および大本営の方針に従い軍縮に取り組む旨を全艦娘の前で伝えたのは、それから数時間後の出来事だった。
MI作戦開戦前の熱弁とは異なり、普段通りの淡白な口調で粛々と己の意向を伝える提督。十数分話して、それからそのまま執務室へ戻っていく。何事も無かったかのように。
大戦での勝利の余韻さえも奪い去る提督の唐突な言動に、大講堂は震撼に包まれた。
深海棲艦との大局は決した。大本営が軍縮の動きを推し進めたとしても不思議な話ではない。
だが、あまりにも急すぎる。この国の制海権と制空権を取り戻しただけで、世界にはまだ深海棲艦が残存している。
新たな深海棲艦が出現することが無くなったとはいえ、昨日の今日で突然平和が訪れるわけではない。
足柄(最も気がかりなのは……『艦娘を辞めても、艦娘であった頃の記憶を失うことはない』ということ。直接提督に聞いてみるのが早いかしらね)
・・・・
足柄(先客がいるみたいね。少し盗み聞きさせてもらおうかしら)
響「司令官、一体どういうことかな」
提督「先刻告げた通りだが」
響「……それは、君の意志か」
提督「確認するまでもないだろう」
響「いいや、その必要がある。……すまないが、その書類、君が寝ている間に読ませてもらった。封筒だけ取り替えておいたけれど」 提督の胸ポケットを指差す響
提督「読んだのか。ならば話は早い、そういうことだ。俺もまたそれに従うというだけのこと」
響「わざわざ鍵のかかった私の部屋まで侵入してまで君にその書類を寄越すぐらいだ。脅されているんだろう? 『艦隊指揮から身を引け』と」
提督「脅されているわけではない。大本営の連中と利害が一致しているだけだ。俺も提督であることに拘りはないしな」
響「ま……いいさ。そういうことなら、それでもいい。貴方がこの舞台から降りる気でいるならば……私がその気にさせてあげるよ、司令官」
響「私が……貴方を連れ戻してみせる。必ず」
『君』、『貴方』、『司令官』。彼女がどういう理屈で自分への呼称を使い分けているのか、提督には分からなかった。ひょっとすると響自身にも分かっていないのかもしれない。
ただ、後に波乱が起こるのは確かなのだろう、と提督は予感していた。
498 :
【52/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:54:26.23 ID:tngg5+Sn0
足柄「見てたわよ。……随分と提督にご執心みたいじゃない、あの子」
提督「お前は何の用でここに来た?」 機嫌の悪そうな提督
足柄「提督とお話に。でも、ここじゃ雰囲気が出ないし……お昼ご飯でも一緒にどうかしら?」
・・・・
鎮守府内の定食屋(『れつや』という名前らしい)に連れられる提督。足柄曰く昼時は混雑するため、待たずにテーブル席に座れるのは珍しいことらしい。
提督「雰囲気を気にするならこういうガヤガヤした大衆食堂よりも、空いている店の方が良いと思うのだが」
鉄仮面を被っている自分は目立つのではないかと思って周囲を見渡すと、店内に二、三人自分と似た仮面を被っている。
それだけではない。何某かの仮面を被っている者が店内に四、五人はいる。
提督「なんだこの店は。悪魔的儀式でも行っているのか」
足柄「ああ。提督は知らないでしょうけど、MI作戦が始まるちょっと前あたりからうちの鎮守府で流行ってるのよ。戦勝祈願? とかなんとか言って。
私も初めて見た時は面食らったけど、今じゃわりとよく見る光景ね」
提督「ゾッとするな……正気の沙汰とは思えん。心底気持ち悪い」
足柄「自分に憧れてる人たちをそんな風に言うもんじゃないわよ? 風貌を真似るぐらい尊敬しているってことなんですから。
今じゃストラップやタオルまで発売されてるし、今度提督の言行録をまとめた本なんかも出るそうよ」
提督「(俺の許可など一切なくよくもまあ好き勝手に……)最悪だな。退役を早めに表明しておいて助かった、こんな所に居られるか」
足柄「……私が気になるのは。なぜこの鎮守府を解体するのかってこと。提督がお辞めになる理由は、例の目的とか、大本営との何某かの関係性とか、色々あるんでしょうけど。
だからって何もこの佐世保鎮守府を解体して、艦娘も方々へ解散させるというのはよく分からないわ」
提督(例の目的……あぁそうか。こいつと雪風は知っているんだったな)
足柄「さすがに仮面を被ってそこら中をうろつくのは理解出来ないけど、皆それだけ貴方やこの鎮守府に思い入れがあるってことだと思うの。
最初に貴方がここに来た時と比べたら、今の佐世保はすごく居心地が良いわ。他の皆もそう思ってるんじゃないかしら、一体感がある……っていうのかしらね」
提督「最初、か。確かに……ま、お前にそう言わしめるぐらいの働きが出来たのであれば、成功だったのかもしれんな」 出会った頃の足柄とのやり取りを思い出し、クスクスと笑う
提督「だが、なればこそだ。この鎮守府は力を持ちすぎたのだろう。大本営から恐れられるぐらいにな。
艦娘を用いた人類と深海棲艦の戦いが終われば、次に始まるのは艦娘を用いた人類同士の争いになるだろうからな」
提督「この鎮守府で立て続けに三人も提督が死んでいるのは、どうにも水面下でのそういう小競り合いがあったかららしいな。
他鎮守府と共謀して上の支配から逃れようとした者が始末され、次に来た大本営の刺客は逆に他の鎮守府の者の手によって殺され……そういう血生臭い争いがあったようだ」
提督「俺はいわば派遣社員のようなもの。大本営に下がれと言われたら身を引くしかないだろう。俺にとっても都合が良いわけだしな、これでようやく本懐に専念できるというわけだ」
足柄「なるほどね……。誰にも縛られていないように見えていたけど、ガッチリと雁字搦めにされていたというわけなのね」
提督「そうでもないさ。わりと見えないところでは好き勝手やらせてもらったからな。それに……これからは完全に自由だ、俺の好きにやらせてもらう」
足柄「貴方にとっては深海棲艦との決着でさえ本当に通過点だったのね。なんというか……それでこそ、というべきかしらね」
・・・・
目の前に置かれたカツ定食。カツをワイルドに貪り食う足柄。
提督「随分と豪快な食いっぷりだな……。本当にカツが好きなんだな」
足柄「ええ。自分で作ったやつも好きだけど、ここのカツはまた違った味わいがして好きなのよ!
この店の雰囲気も好きね! 食べることが好きな人が集まっていると自分もつられて食べたくなるっていうの? テンション上がっちゃうわよねー」
足柄「なんていうの? 自分の気持ちを昂ぶらせてくれるものが好きなのよ。
自分の感情を剥き出しにするのは大人げないけれど、真剣になった時のあの感覚、熱狂している時のあの衝動こそがこの私を突き動かす原動力なのよ!」
提督「その、自分の感情を高揚させてくれるものの中にカツも含まれるのか」
足柄「ええもちろん。そりゃあテンションアガるでしょうよ?」
提督「ふぅーむ。そうか」 あまり興味なさそうに自分の筑前煮定食を食べ進める
足柄「あら、反応薄いわね……大淀や清霜なら同意してくれるのだけど」
提督「俺もカツは嫌いではないが同意するほどではないな……。が、我を忘れるほど夢中になっている時の感覚というのは心地いいものだよな。
お前たちといたこの数ヶ月間は、俺にとって中々悪いものではなかった。狂奔の中にこそ生の実感があるのかもしれないな」
ニヤリとニヒルな笑みを浮かべる提督に対して、ガタンと席を立ち上がって激しく頷く足柄。
足柄「そうそれよ! それ! やっぱりそうよね。私たち、案外気が合うのかもしれないわねっ!」
・・・・
提督と思わぬところで意気投合(?)して、満足げに定食屋を後にする足柄。
足柄(しまった、興奮し過ぎて肝心の『艦娘を辞めても、艦娘であった頃の記憶を失うことはない』ってのがどういうことなのかを聞き忘れてたわ。
でも……提督が辞めるというのなら、あの背筋がゾクゾクする感覚が味わえないというのであれば。いっそ艦娘をやめてしまうのもありかもしれないわね)
499 :
【53/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:56:08.09 ID:tngg5+Sn0
提督の退役発表から数日後。他鎮守府の提督、大本営の将官、政治家、官僚、近隣国の権力者、報道関係者……佐世保鎮守府には多くの人間が出入りするようになった。
多くは提督らの活躍の表彰・評価に訪れていたが、中には提督に取り入ろうとする者や、自らの傘下に引き入れようとする者も居た。
提督はそれらの訪問者全てに対して平等に軽くあしらい、ほとんど相手にしなかった。
しかし“相手にしない”というアクションを起こすためにも行動は必要であり、この時の提督は『ぞんざいな対応をするための対応』に追われるという奇妙な状況の中に居た。
廊下を歩いていた提督の前からやってくるみかん箱を抱えた皐月だった。
皐月「あっ司令官。お疲れ様。今日の面会は終わったの?」
提督「あぁ、全くどいつもこいつも暇な連中だ。……その箱は荷造りか?」
皐月「うん。しばらくしたら鎮守府を離れなきゃだからねー、今から準備してるんだ」
・・・・
大本営からの軍縮勧告。それは全ての艦娘を呉鎮守府と横須賀鎮守府にて管理し、(佐世保や舞鶴も含めた)全ての施設および組織を解体するというものだった。
また、艦娘に対しても政府と協力し退役後の就労支援施策を行い手厚く補助すると約束。元艦娘の社会進出を促した。
元艦娘がなぜ記憶を持ったまま人間社会に溶け込むようになったのか。足柄が数日前に抱いていた疑問は、昨日提督が行った全体向けの通達によって氷解した。
一言で言い表すならば、『そうせざるを得ないから』という理由が正しい。
艦娘の艤装を解体すると燃料や弾薬・鋼材が得られる。艦娘の艤装が解体されれば、それまでの記憶を失った少女が残される。
解体によって得られる僅かな資材と、一切の記憶を失った少女を教育するための費用。天秤がどちらに傾くかは明白である。
ようやく復興が始まったとはいえ、軍事一辺倒だったこの国に人口の十数パーセントを占める少女たちを養う術などあるはずがない。
そこで大本営は、艦娘であった頃の記憶が無くなっても社会に完全に適応できるようになる時期まで待ち、段階的に解体していくことを決定した。
意外にも艦娘の反発は少なかった。艦娘とはそういうもの、兵器とはそういうもの。平和になれば無用の長物となる。必要とされなくなる日がいつか来る……そう教えられてきたからである。
むしろ今まで憧れていた人間社会を体験できると歓迎する者さえ少なくはなかったようだ。
・・・・
皐月「まさか生きてる間に戦いが終わるなんて思ってもいなかったからなぁ。荷造りは進んでるけど、これから何をしようかで迷ってるよ」
艦娘をやめて社会に溶け込むにせよ、他の鎮守府に移るにせよ、いずれここは離れなければならない。
立退きの期日はまだ数ヶ月ほど先ではあるが、自主的な退居を推奨していたためか既に準備を始めている艦娘も少なくはなかった。
提督「何か希望はないのか? 内容によっては取り計らうぞ」
皐月「あー……どんな職に就きたいかってのは決まってないけど、軍に残る気はないかな。呉や横須賀に行ったらまた訓練生時代と大差ない扱いになるだろうしねー。
あっ、そうだ。前から学校に行ってみたいと思ってたんだけど……ダメ?」
提督「ふむ、確かに軍の中に居てはアカデミックな学問や専門性の高い分野は学べんからな」
皐月「いやぁ、大学とかそういうのじゃなくて。ボクも青春というものを味わってみたいんだよ」
提督「なるほど(よくわからん)。……しかし、お前たち艦娘は見た目が人間の中高生と変わらないというだけで中身も脳の発達具合も成人のそれと変わらんだろう。
解体されたら記憶は失せるとはいえ、学習で得た知識や頭脳そのものを失うわけじゃない。艦娘の記憶が無くなったら“ただ分かりきったことを教えられた”という記憶になるぞ」
皐月「そうなんだよねぇ。でもさ、人間って結構見た目に引きずられるもんだと思うんだよね。
そりゃボクだって、足柄さんみたいなプロポーションだったら学校に行きたいだなんて思わなかっただろうさ」
皐月「でも、せっかくこういう見た目でいられるんならちょっと興味があるなーってさ。
普通に勉強して、普通に友達と喋って、普通に恋をして……。兵器として生まれたからこそ、そういう人間としての“普通”を知りたいんだよねー」
提督「そうか……学校か。ま、不可能ではないな。お前や文月には命を救われた礼もあるしな、どうにかしよう」
皐月「本当!? おぉ、言ってみるもんだな。ありがとう、司令官!」
提督(確かに……人は案外見た目につられるものかもしれんな) 無邪気にはしゃぐ皐月を見て、提督は思った
・・・・
「学校に行けるかもしれない」と意気揚々と報告する皐月に対し、歓迎しながらも不安を述べる文月。
皐月「ンー。艦娘って言っても元でしょ? 武器持ってうろついてるわけじゃないんだからさ。
鎮守府の外の人間なんて、艦娘が具体的に何をやってるか分からないんだしさ。国を守ってる正義の味方程度の認識か無いでしょ」
文月「だから怖いって話だよー。変な偏見を持たれて排斥されちゃわないかなって……」
皐月「深海棲艦との戦いが終わったって言っても、まだまだこの国には余裕がない。少なくとも、復興して十分な力を蓄えるようになるまではそんな風にはならないはずだよ」
皐月「まだまだ艦娘という存在は必要さ。深海棲艦によって破壊された臨海都市や港の復旧。漁業の基盤を敷くための整備。近海をうろつく海賊の取り締まり。
制海権と制空権が深海棲艦に取られたまま何十年も経ってしまったから、飛行機や船の技術だって私たちが伝承していかなきゃロストテクノロジーのままだよ多分。
労働力や技術力の都合上、艦娘や元艦娘を無碍に扱ったりなんて出来るはずないってことさ。あ、それと、外国にはまだ深海棲艦がいるわけだしね」
文月「言われてみるとそうかも……。皐月、なんだか変わったね。あたしの知ってる皐月はもっと抜けてて頼りなかった子だったなぁ〜ってイメージが……」
皐月「相変わらずボクに対しては遠慮がないよなぁ。ボクだって成長するのさ、ふっふーん♪」
文月「司令官の影響かなぁ。ちょっと真面目になった?」
皐月「それはあるかもしれないなー。ま、結構あの人のこと尊敬してるしねー。やっぱり学ぶことは多いよね。ハッタリの通し方とか、うまく面倒事をサボるコツとかさ」
文月「前言撤回。もっとまっとうなことを学んでよぉ……」
500 :
【54/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:57:10.65 ID:tngg5+Sn0
MI作戦成功から三週間の時が流れた。外部訪問者の数も減り、進路の決まっている艦娘は少しずつ鎮守府を離れ始めた。執務室で会話する提督と雪風。
雪風「しれえ……響、行っちゃいましたね」
提督「ああ。あいつはまだ軍属を続けるつもりらしいからな。ま、あいつなら呉に行ってもうまくやるだろう」
雪風「司令は寂しくないですか? せっかく仲良くなれたのに、離れ離れになるのは少し寂しいです……」
提督「寂しくはないな。皆、それぞれ自分の道を歩んでいくのだからな。これまでは各々の利害が一致していたから団結していただけで、これからは違う。それだけのことだ」
提督(願わくば、この先も雪風の力を借りたいところではあるが……無理強いするのは良くないか)
・・・・
コンコンとを扉をノックする音。招き入れる提督。現れたのは見慣れない艦娘。
提督「貴様何者だ。うちの所属にお前のような艦娘は在籍していないが」
磯風「私は磯風だ。大本営の遣い、とでも思ってもらえれば良い」
提督「おや、お目付け役か。この鎮守府は解体されるし俺もじき辞任するというのに、そんなものを遣わす理由が分からないな」
磯風「いいや、私が監視するのは貴方が退役後だ。貴方の動向を監視させてもらう。と言っても、既に以前からこの鎮守府を監視していたのではあるがな。ともかく、だ。
貴方が今後どうするつもりなのかは把握しているし、援助するとも約束しているが……それはこちらに干渉しなければの話。万が一こちらに盾突くようなことがあれば」
提督「逆らうわけないだろう。オーナーに噛みつく飼い犬がいるものか」
磯風「貴方にそのつもりが無くとも……そそのかれて心変わりされては困る。貴方の存在はそれだけ重要人物なのだ。ま、その口ぶりなら今のところは心配なさそうだな」
磯風「と、ここまでが大本営から送られてきた艦娘磯風としてのオフィシャルな話。ここからは私個人の話になる。
見事だな、哀。君は私の予想以上の働きをしてくれた……あと二年はかかると思っていたが」
手取 哀(てとり あい)。提督の本名であるが、今まで誰一人として彼を名前で呼んだ艦娘はいない。
提督「雪風、いつでも砲を撃てる準備をしておけ……嫌な予感がする」 奥歯を軋ませ、警戒心を剥き出しにする提督
磯風「おや、随分な反応じゃないか。なに、私は君に喧嘩を吹っかけに来たわけじゃない。……償いに来たんだ。
もう、君に苦しみを背負わせたくはない。これからは軍や政府などに関わらず穏当に生きていて欲しいんだ」
提督「フッ……苦しみ、だと? 俺は自分の人生に起こる全ては自分の責任だと思っている。何も背負っている気はないし、勝手に心配される筋合いもない。
こうして提督になったのも己の意志だ。そうしなければ、この先の未来にある自分の目的を果たすことが出来ないからそうしたというだけのこと」
提督「これまでの道程も、これからの道筋も……全ては俺の望む通りだ」
磯風「本当に…………。立派に育ったな。少し嬉しい」
提督「母親じみたことを言わないでくれないか、気色悪い(実際の母親がどういうものかは会ったことがないから分からないが……)」
磯風「ふふふ……、まぁそう言うな。今日からたっぷり可愛がってやるから覚悟しろ?」
提督「(金剛とは別のベクトルで鬱陶しい奴だな……)雪風、こいつをなんとかしてくれ。仕事の邪魔だ」
・・・・
私は生まれた時からいつも独りだったような気がします。戦場では死神と呼ばれ畏怖されることはあれど、誰かに認められたことなど一度も無かったのでしょう。
いつからか他人の目を見て話すことが出来なくなっていました。自分以外の人間から見える自分はどんな化物に見えているのだろうかという意識が先行して会話に集中出来なくなってしまう……。
この鎮守府で初めて出来た友人、響。
彼女は私を少しも恐れませんでした。対等の友人として接してくれました。たったそれだけのことだけれど、彼女にとっては当たり前のことなのかもしれないけど。私はそれが心の底から嬉しかった。
そして、司令。
命令に従う兵器として、じゃない。戦場を共にする同僚として、じゃない。敵を屠る“死神”として……でもない。
ただ私、雪風という個人を評価して受け入れてくれた、初めての人。
独りの寂しさを紛らわせるためにひたすらコンピュータと向き合っていた私を、気味悪がらず、それどころか私の特技として認めてくれました。
なぜだか、司令のお兄さんを起動させるために徹夜した時のことを思い出します。
提督はひたすら部品を作ってお兄さんの稼動を安定させるための電源を作るのに躍起になっていて、私は黙々と黒い画面を叩き続けました……。
あの時は自分には無茶だと思ったけど……司令が私を信じてくれるから、頑張らなくちゃって。本当に、我ながらよくやったなあと思います。
それから、MI作戦が発令された直後に司令に呼び出されて……。
司令と司令のお兄さん、私の三人で船を設計して……完成が近づいたら、龍田さんや天龍さんにも手伝ってもらって……あれも大変だったけど楽しかったな。
戦果で尽くすことよりも、それ以外の部分で必要とされていたことの方が多くて、なんだかおかしいですね。
鎮守府が解体される話を聞いて、響が鎮守府を去るのを聞いて、心が大きく揺れました。これからどうしようと、本気で悩みました。
でも、着いていけなかった。彼女は彼女で、自分の道を歩み始めたから。半端な覚悟で着いていくべきじゃないと思ったから。
そして今。目の前の司令を見て。どういう関係かは分からないけど司令に母親のような愛情を向ける磯風を見て。鎮守府の地下室に居る司令のお兄さんを思い出して。
私も司令の傍に居続けたいと思いました。たとえ鎮守府が無くなっても、それが私の意志だと、今はっきりしました。
雪風「しれぇ! これからは雪風もお傍にいますね!」
提督「??? 唐突すぎて話が読めないが……そう言ってくれるのであればありがたいな。俺にとってお前の力はまだまだ必要だ」
困惑の眼差しを向ける司令。やっちゃいました……。そりゃ、いきなり自分の思っていることを話されたらそういう反応になりますよね。
でも、受け入れてくれるんですね。なんか……ちょっと照れくさいです。
501 :
【55/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:58:27.71 ID:tngg5+Sn0
足柄「トンカツは一枚ずつ揚げるのがコツなのよ。横着して2枚以上同時に入れると油の温度が下がってうまく揚がらないのよねー」
清霜「油の量は多めにね。天ぷらを作る時よりも温度は低めなのがポイントよ。160℃から170℃ぐらいがベストかしら?」
足柄「揚げすぎると食感がパサパサになっちゃうのよね。揚げた直後に切ると少し中のお肉が赤いぐらいが丁度いいの。衣の中に余熱が閉じ込められるから、それぐらいでもちゃんと火が通るのよ」
朝霜「……アタイに向けて解説してんなら、聞いてないししなくていいぞ。っていうか、わざわざ休暇貰って来てみたらまーたカツかよ!」
足柄「ま、そう文句垂れないのよ。ほら、お皿用意して」
・・・・
一同「いただきまーす!」
大淀「やっぱり足柄さんが作るカツが一番美味しいですね! このためだけに雇ったと言っても過言ではありません!」
足柄「ちょっとそれどういう意味?」
清霜「まぁまぁ。そーいえば、朝霜と霞は呉に行ったんだよね。そっちの鎮守府はどう?」
朝霜「ま、退屈だわなー。復興作業だなんだ言われてもやる気でねーしなぁ……。霞は外国の深海棲艦を叩く部隊に配属されたみたいで忙しいらしいけど。うらやましー」
朝霜「個人的に大淀と清霜が艦娘辞めたのはなんとなく分かるけどさ、足柄まで辞めちまったのは驚きだわなー」
足柄「ええ。天下の横須賀や呉といえど、あの提督がいた佐世保には敵わないわ。ちょーっとだけ様子を見に行ったりはしたけど、全然昂ぶらなかったんだもの。士気が違うわ」
朝霜「ほぉー。狂犬足柄を飼い慣らす奴がいるってのは驚きだなぁ」
大淀「そういえば、佐世保鎮守府は私たちが離れた後どうなりましたか?」
朝霜「すぐに更地になったみたいだよ。鎮守府の跡地には“宇宙開発研究所”予定地、みたいな看板が立ってるとか聞いたっけな。あと、近くに喫茶店とか道場とか学校ができたらしい。霞が言ってた」
清霜「へー……手取司令、あの後何してるんだろうね。あのまま辞めてなければ絶対偉くなれたのにねー」
足柄「(フッ……そう。“宇宙開発研究所”ね。)ま、あの提督のことだからわりと好きに生きてるんじゃないかしら。そんな気がするわ」
502 :
【55/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 09:59:23.92 ID:tngg5+Sn0
白塗りの壁に彩られた、西洋風の瀟洒な建物。大淀に案内されて部屋に入ると、足柄と清霜は感嘆の声を上げる。
清霜「鎮守府の頃と比べると天井は低いけど……設備は最高だねー。最新鋭オフィスって感じ!」
部屋に入るやいなやふかふかのソファにダイブする清霜。
大淀「フフフ……驚いてくれましたね」
足柄「シンプルだけど洗練されてるあたり、大淀らしくて良いわね」
大淀「ええ、この“大淀法律事務所”には退職金の五分の三をつぎ込みましたからね。もっと驚いてくれなきゃハリが無いというものですよ」
足柄「しっかし……アンタ一体いつ司法試験なんか取ったのよ。そんなことおくびにも出さなかったのに」
大淀「そりゃあ……落ちてたら恥ずかしいですからね。勉強自体は数ヶ月前の軍縮のお達しが来てから初めてましたけど……手取提督の前代の秘書艦をやっていた頃から興味があったので」
清霜「おぉ〜! じゃあ私たちがだらだらと鎮守府で過ごしてた間も黙々と勉強してたわけね。偉い!」
大淀「えっへん。ま、ちょっとした野望でしたからね。実現するとは思いませんでしたけど」
足柄「どうして弁護士の資格を取ろうなんて思ったわけ?」
大淀「身も蓋もない言い方をすれば……ニーズの関係ですかね。法律というものは基本的に知らない人がソンをしますからね。
私たち艦娘は戦闘に必要なことだけを学んできました。一般的な社会常識に関する知識はお世辞にも多いとは言えないでしょう。
そして、知らなければ間違いを起こしてしまうこともあるでしょうし、知らないのを良いことに利用されてしまうこともあるでしょう。
そういった場合、より元艦娘の視点で物事を考えられる者が弁護に立つべきではないか、と思いましてね」
大淀「詰まるところ自分の身内を守りたい……ということになるんでしょうか。我ながらあまり立派な理想じゃないですね。
自分なりに正義とは何かを追及したい、ってのもありますけどね。あとは『異議あり!』って言ってみたいかな……」
清霜「やっぱりそれかあ。言いたいよね〜『異議あり!』って」
足柄「『異議あり!』」 スパァァァン
清霜「おお! すごい! なんか足柄は検事っぽいよね」
足柄「そう? じゃあここの事務員やめて検事になってみようかしら」
大淀「だ、ダメですダメです! 足柄さんはここに居る『意義あり!』ですっ!」 ズビシッ
朝霜(なーにやってんだこいつら)
朝霜がオフィスに入ってきても誰も気づかない。ツッコミ不在の空間とは恐ろしいものである。
・・・・
大淀法律事務所の二階は居住スペースになっていて、それぞれの部屋やキッチン、風呂などが設置されている。
キッチンに、エプロンをつけた足柄と清霜が立っている。その様子を朝霜がつまらなそうに見ている。
足柄「トンカツは一枚ずつ揚げるのがコツなのよ。横着して2枚以上同時に入れると油の温度が下がってうまく揚がらないのよねー」
清霜「油の量は多めにね。天ぷらを作る時よりも温度は低めなのがポイントよ。160℃から170℃ぐらいがベストかしら?」
足柄「揚げすぎると食感がパサパサになっちゃうのよね。揚げた直後に切ると少し中のお肉が赤いぐらいが丁度いいの。衣の中に余熱が閉じ込められるから、それぐらいでもちゃんと火が通るのよ」
朝霜「……アタイに向けて解説してんなら、聞いてないししなくていいぞ。っていうか、わざわざ休暇貰って来てみたらまーたカツかよ!」
足柄「ま、そう文句垂れないのよ。ほら、お皿用意して」
・・・・
一同「いただきまーす!」
大淀「やっぱり足柄さんが作るカツが一番美味しいですね! このためだけに雇ったと言っても過言ではありません!」
足柄「ちょっとそれどういう意味?」
清霜「まぁまぁ。そーいえば、朝霜と霞は呉に行ったんだよね。そっちの鎮守府はどう?」
朝霜「ま、退屈だわなー。復興作業だなんだ言われてもやる気でねーしなぁ……。霞は外国の深海棲艦を叩く部隊に配属されたみたいで忙しいらしいけど。うらやましー」
朝霜「個人的に大淀と清霜が艦娘辞めたのはなんとなく分かるけどさ、足柄まで辞めちまったのは驚きだわなー」
足柄「ええ。天下の横須賀や呉といえど、あの提督がいた佐世保には敵わないわ。ちょーっとだけ様子を見に行ったりはしたけど、全然昂ぶらなかったんだもの。士気が違うわ」
朝霜「ほぉー。狂犬足柄を飼い慣らす奴がいるってのは驚きだなぁ」
大淀「そういえば、佐世保鎮守府は私たちが離れた後どうなりましたか?」
朝霜「すぐに更地になったみたいだよ。鎮守府の跡地には“宇宙開発研究所”予定地、みたいな看板が立ってるとか聞いたっけな。あと、近くに喫茶店とか道場とか学校ができたらしい。霞が言ってた」
清霜「へー……手取司令、あの後何してるんだろうね。あのまま辞めてなければ絶対偉くなれたのにねー」
足柄「(フッ……そう。“宇宙開発研究所”ね。)ま、あの提督のことだからわりと好きに生きてるんじゃないかしら。そんな気がするわ」
503 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 10:18:24.76 ID:tngg5+Sn0
>>496
で書いた『Phase C』ですけど、コンマの値が素数だった場合だけでなく、
ゾロ目(222とか)やキリ番(234とか)だった場合も発生条件に加えることにします。
それでもわりと発生率低そうですけど。
あと
>>501
はコピペミスです。暴発しました許して。
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~55/100)
・響の経験値+1(現在値11)
・足柄の経験値+2(現在値22)
・雪風の経験値+1(現在値9)
・皐月の経験値+1(現在値8)
・翔鶴の現在経験値:14
・金剛の現在経験値:15
----------------------------------------------------------------------
////チラシの裏////
おはようございます。土曜日に投稿しようと思ったら徹夜してた。ダメすぎ。
まーた二週間かかっとりますね。もっとガツガツ書いてかなアカンのですよ。
このペースだと完結が最短でも10月半ばとかその辺になっちゃいますからネー……。
しっかし書いてて楽しいですな!
楽しいなら安価が出揃ったタイミングで書き始めればいいじゃん! →はい
いやね、楽しいけどね……楽しいけどほらあれさ。
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【56-60/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00〜19:雪風
20〜34:翔鶴
35〜49:金剛
50〜67:響
68〜80:足柄
81〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
504 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 11:05:26.48 ID:s1O8bVSN0
えい
505 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 18:49:46.84 ID:IIGhN9lI0
へい
506 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 18:58:09.57 ID:Y/WErN7YO
足柄と食事したときに調味料入れでチェスしながら会話
507 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 19:53:53.44 ID:Fq64ZIZAO
こう
508 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/07(日) 20:00:45.37 ID:IIGhN9lI0
さて
509 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/07(日) 22:54:30.03 ID:tngg5+Sn0
>>504-508
より
・金剛3レス/皐月1レス/響1レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:270 なので『Phase C』は発生しません)
『足柄と食事したときに調味料入れでチェスしながら会話』……はい。
これ……足柄メインの時でもいいですかね(次フェーズとか)。
流れ的に出番なさそうだし無理矢理出すよりメインで書いた方がいいよねー、と。
来週末ぐらいには投下したいですね。そんな感じで行こうと思います。
510 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/06/15(月) 02:37:46.72 ID:OKQC9Mr60
むーーー。先週末にと言ってましたがやっぱりダメでした。ゴメンナサイ。
遅くとも水曜日までにはなんとか……! 早ければ今日明日でどうにかお披露目したいですハイ。
せっかく(?)セルフ締め切りを遂行出来なかったので、また関係あるようでないようなどうでもいい話でもしましょうか。
メインで書きたかったキャラの話とかちょっと語っちゃいますか。なるべく本編関係なさそうな方面でね。いくつか書いてみますよ。
誰得かは知らねえっすけど。
・神通
わりと書きたかったキャラその1。ゲームでは夜戦で戦艦殺すウーマンとして皆さんも重宝してるんじゃないでしょうか。
儚くも力強いキャラクターが魅力ですよね。二次創作ではわりと鬼教官として描かれることが多いですが、それを逆手に取って書いてみたかったなーと。
個人的に神通はあまり後輩に無茶な指導をするタイプじゃないと思ってまして。あくまで個人的にですけど。
ホラ、時代が時代ですし。死ぬほど努力! 育まれる友情! 死線を超え勝利! とかそういう潮流はあんまないじゃないですか。
僕はそういうのも嫌いではないですけど、自分が書くとしたら神通がそういうこと言ったりさせたりするイメージは無いですね。
後輩相手には厳しいけど理不尽ではない感じの、わりとロジカルでクールな神通さんが書きたかったですね。
一方で提督相手には自分の悩みを打ち明けたり……とかそういう感じですね。なにせ体が火照っちゃいますからね!(?)
中間管理職としてもエースとしても活躍する神通さんとか、そんな感じのアレを書く予定でした。まあ安価で出なかったんで特に今後も登場しないと思いますが。
・山雲
わりと書きたかったキャラその2。結構新キャラなんで、「誰?」って人も居るかもしれませんが。デリケートでセンシティブな爆雷の子です。
こういうフワフワした雰囲気のキャラいいですよね〜。ちょっとどのキャラとも系統が違うというか、なかなか味のあるキャラですよね。
自分が書いてその魅力を引き出せるかっつったら微妙ですけど。浮き沈みのなさそうな彼女の内面を探っていったりするのも面白いかなと。
起伏のないように見える中から僅かな情動を探っていくみたいなそんなニュアンスのワビサビあるアレとかがやってみたかったっすね。
朝雲との絡みもいいですよね。彼女らどんな話してんだろとか想像するもをかし。基本的には彼女とのふんわりした日常を書けたらなぁとか思ってました。
ま、あんまメジャーなキャラじゃないので選ばれるとはハナから思ってなかったっすけど……。
・熊野
わりとの子その3。いいですよねこういう腐れ縁タイプの子。
「一捻りで黙らせてやりますわ!」とか川内のことをどこかのバカよばわりしてたりとか、育ちのわりに結構荒っぽい性格してますよね。
でもあばたもえくぼというか、そういう尖った部分があるキャラの方が書きやすいんですよね、書く側としては。
歯に衣着せぬ物言いとか舐め腐った態度とかがすごく相棒ポジションで映えるんだよなー。
この子はわりとシリアスな話でも活躍しそうかな、とか思ったり。あんまりそういうイメージないかもしんないっすけれども。
なんだろう、このキャラは追い詰められた時に精神的な高貴さを見せつけてくれるんじゃないかなあとか勝手に思っています。
普段は減らず口ばかりだけど、やる時はやる……みたいな方向性ですかね。お嬢様キャラとはあんま合致してないっすね。
まぁでも……気取ってるわりには結構俗っぽいじゃないですか(何
他にもありますが眠気が来たので今回はここまで。っていうか、眠い状態で文章書くとあんま良くないっすね。
////チラシ////
最近(と言っても少し前)漫画版アルペジオを読みました。
「アルペジオ? 艦これとコラボしてたっていうやつだよね」ぐらいの認識しかなかったので、わりとゆる〜い感じなのかなとか思ってましたが(なんだその偏見は)わりとガチですね。面白いですね。
と同時に艦これアニメイションもこういうディレクショナリティをチョイスしていたらもっとエキサイティングなエクスペリエンスをプロバイド出来たのではなかろうかとはほんのちょっぴり思いました。
ま、それはそれこれはこれであんまり関係ない話なのでやめときましょう。
511 :
【56/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/17(水) 23:47:42.05 ID:GhW31TLF0
旧佐世保鎮守府正門前、現在は宇宙開発研究所予定地という立て札が立っている。
急ピッチで建設が進んでいるようで、作業員が忙しなく出入りしている。
榛名と霧島は金剛に呼ばれてここで待ち合わせをしていた。
榛名「お姉様はどうして私と霧島を呼んだのでしょうか。手伝って欲しいことがある……だそうですが」
金剛「フフフ……よくぞ訊いてくれまシタ……! 実はワタシ、政治家になろうと思ってマース! 二人にはそのための手伝いをして欲しいノデス!!」
真顔になる榛名と霧島。金剛の自信に満ちた表情に対し、どう声をかけていいのか分からず顔を見合わせる。
金剛「ア、アレ……? なんですカその冷たい反応は……。い、一応Policyとかも考えてありマスヨ!」
霧島「お姉様、シビリアンコントロールってご存知ですか?」
榛名「文民統制といって、簡単に言うと軍人や言に所属していた経歴のある人は政治家にはなれないんですよ。私たち元艦娘にもそれは適用されます」
金剛「マジ……?」
霧島「マジですよ。というか、その為に私たちを……?」
・・・・
金剛「い、妹たちが頑張ってるから……ワタシも何かしようと思ったのに……みっともないデース……」
霧島「いや……別に金剛お姉様のみっともない所なんて昔からよく見慣れてますし、今更どうとも思いませんよ」
金剛「ウワアアァァァァァン!! クソメガネ眼鏡割れろデース! だから二人とは同じ艦隊になりたくなかったんデス!」
榛名「(お姉様かわいい……)ま、まぁ、聞くは一時の恥 聞かぬは一生の恥って言いますし……」 金剛の様子を見て笑いを堪えている
金剛「ワタシ別に聞いてなかったヨネ!? 微妙に雑なフォローするぐらいなら黙ってて欲しいデース! っていうか、クスクス笑ってんのバレバレですヨッ!」
金剛「ウゥ……こういうのは私のキャラじゃないデース……」
霧島「ところで、どうしてお姉様は政治家になろうと?」
金剛「抉ってきますネ……。ワタシが鎮守府を出た後、volunteerをしていたのデスガ、会う人会う人皆がワタシたち艦娘は希望だって言ってくれたカラ……。
艦娘のワタシが政治家になったらもっと皆の為になれるかなって……。皆をワタシの力でHAPPYにしたいデース」
霧島「希望、ですか。そういう方向性ならアイドルなんてどうでしょうか。難しいとは思いますがお姉様なら無理ではないかなと……」
金剛「もう既に偉大な先駆者が居ますネ……。今度舞道館でライブやるらしいデスヨ……流石のワタシでもあのバイタリティには敵いそうに無いデス……」
鎮守府解体の報が伝えられるやいなや真っ先にアイドルの世界に身を投じ、実力だけで頂点にまで上り詰めたシンデレラガールの名を知らぬ者などこの世にいるはずもなかった。
榛名「そもそも『皆を幸せにする』って、皆って具体的に誰ですか。人によって幸せなんてそれぞれ違いますよ。手を差し伸べても感謝されるどころか憎まれたりすることだって少なくはありませんし……」
金剛「まさか妹にガチ説教を食らうとは思ってなかったデース……」
榛名「ごめんなさい。でも、私も昔それで悩んでいたので……。お姉様はまず誰かを幸せにしようと考えるよりも自分が幸せになった方が良いのだと思いますよ?」
霧島(昔からお節介焼きで厚かましいと思っていたけれど……榛名も榛名なりに考えていたのね)
金剛「ワタシにとっての幸せ……Hmm。ヤッパリ、テートクに会いたいですネ……」
霧島「手取司令と? 第一艦隊の旗艦から降ろされて、てっきり恨んでるとでも思ってましたが……それは意外ですね」
金剛「だまらっしゃい! ワタシとテートクの間には山よりも高く海よりも深い絆があるのデース!」
榛名(と思ってるのはお姉様の方だけなんじゃないでしょうか……とか言ったらまたうるさいのでやめておきましょう)
霧島「おぉー、もしかして司令のことをお慕いしてるとか?」
金剛「そっ、そんなんじゃありまセンッ! ワタシは、提督に対してはそういうのじゃなくてもっと……」
金剛「やっと、少しだけ近づけた気がするから……。もっと知りたいんデス……テートクのこと。このまま離れ離れじゃ、惜しい気がするんです……」
霧島(この姉、見かけによらず純情! そして初心! だがそれがいい……!)ガタッ
榛名(こんな乙女チックなこと言う程度には本気みたいですね)ガタッ
身を乗り出す榛名と霧島。先ほどの白けた対応は正反対に、若干興奮した様子だ。
榛名「決まりですね! 手取提督の足取りをつかみましょう!」
霧島「他の艦娘から情報を聞き出して手かがりとなる情報を集めた方が良さそうですね。司令が退職後の自分の居場所を漏らすとも思えませんが、一から探すよりは効率がいいでしょう」メガネクイッ
金剛「ちょ、ちょっと! 何勝手に話を進めてるんデスカ!? そ、それに、仮に会うとして、いきなり前の仕事の部下に会いに来られても迷惑なだけでしょう……」
榛名「理由なんて後から作ればいいじゃないですか。お姉様そういうの得意そうですし。会いたいから会いに行く! それだけですよ!」
金剛「……イ、イミワカンナイデース!! 強引に押し切ろうとするのやめてくだサーイ!!」
二人に引きずられながら鎮守府跡地を後にする金剛。
512 :
【57/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:02:45.41 ID:yXhYsAag0
霧島「MI作戦であの第二大隊の旗艦に選ばれた赤城さんなら、何か知っているかもしれません。早速会って話してみましょう」
金剛「エー……アカギとはあんまり仲良くなかったから会いたくないんですケド……」
赤城は艦娘を辞めた後に弓道場を開設し、ほぼ無償で近隣住民や志願者に弓術を教えている。
現代武道の弓道とは教え方に少し差があるが、艤装の力が無くとも彼女の卓抜した技術は人の域を超えていた。
そのため今では弓道の達人が彼女に教えを乞いに来るほど赤城弓道場の名は知れ渡っていた。
和室に案内される金剛たち。この施設の客間らしい。
赤城「珍しいですね。私に用があるみたいですけど……どうかしましたか?」
金剛「Uh……赤城に用はないんですガ……。テートクの行方を知りませんカ?」
赤城「残念ですが、私にも分かりませんね……。本人に聞いたのですけど、答えてくれませんでした」
金剛「そうですカ……。赤城にも言ってないってコトは、きっと他の誰にも居場所を伝えてなさそうデスネ……」
赤城「どうして提督を探しているんですか? 提督を探しているということは、何か目的があるのでしょう。違いますか?」
金剛「(この感触、何か知っている……? 少し揺さぶってみますか)目的があったとして、それをここで教える必要はありまセン」
赤城「それもそうですね。そういえば……それとは別に私も貴方に伺いたいことがあったんですよ。MI作戦の時、貴方はどうして戦線に加わったのですか?
第一艦隊から外されて、私の知る限りではどこのユニットにも属していなかったはず。作戦の名簿にも名前が書かれていませんでしたし、提督から遠回しに戦力外通告を受けたのだと解釈していましたが……」
金剛「そういうイジワルな言い方をされると答える気をなくしマスネ〜」
部屋にあった空の湯飲み茶碗を勝手に取り出し、持参した水筒で紅茶を注ぐ金剛。
榛名(い、居心地悪いですね……こんな仲悪かったんですねこの二人)
赤城「答える必要がない、答えたくない。理由としては結構ですが、自分がそういう態度で接しているのに私から情報を聞き出そう、というのでは不公平だと思いませんか?」
金剛「……という言い方をするってことは、そっちもまだ何か隠してるってことですよネ? ……まだるっこしい話はやめにしまショウ。
お互いにお互いの情報を欲している。なら、手持ちのCardをOpenするだけで済む話でショ?」
金剛は、自分が提督を探している理由は、純粋に彼に会いたいからだということを話した。
MI作戦時に自分は新たな深海棲艦の出現を食い止めるための任務を遂行していたのだと掻い摘んで説明した(南極に行ったことや精神世界で怪物と対峙したことまでは話さなかったが)。
赤城は素直に驚いていた。自分に力があるのを良いことに艦隊の和を乱し身勝手な振る舞いをしていた彼女に、そんな大役が与えられていたとは思いもよらなかったからだ。
(ついでに榛名や霧島もMI作戦序盤で金剛が何をしていたのか知らなかったため驚いていた)
赤城(任を果たすだけの力があるとあの提督に認められ、そして実際に期待に応えてみせた……ということですか。どうにも私は彼女を過小評価していたようですね)
金剛「サ。次はそっちの番ですヨ?」
赤城「分かりました。話しましょう……と言っても、手取提督の居場所を知らないのは事実です。
彼が辞意を示した時に、私が鎮守府を離れる時に、彼が提督としてあの鎮守府に居た最後の日に。三度尋ねましたが、三回とも断られてしまいました」
霧島(三顧の礼ならずですか。司令はそこまで厳しい人ではないという印象でしたが……確かにプライベートな話はしたがりませんでしたね)
赤城「ならば、彼の道について行こう……とも思ったのですが。それも断られてしまいました。手厳しいですね。
ですが、彼への手がかりを何も得られなかったわけではありません。彼の連絡先を教えてもらいました」
金剛「Oh! それ、ワタシに教えてくれませんカ? もちろんタダでとは言いませんヨ? ア、お金で解決するとかそういう意味じゃないですケド」
赤城「ごめんなさい。それは出来ません。提督の信頼に背くことになりますから」
金剛「デスヨネー」
赤城「ですが。私が『会う必要がある』と判断した時に、応じてくれるそうです」
金剛「I see. ナルホドナルホド……。じゃ、赤城に提督と会う必要があると思わせればいい、ってことですネ」
赤城「貴方にそれが出来ればの話ですが、ね」
金剛「オッケー。それだけ聞ければ十分デス。この金剛、舐めてもらっては困りマスヨ?」
・・・・
金剛さんたちは『私が提督と連絡を取り、直接会う必要がある』と思わせるような情報を探しにどこかへ行ったようです。
彼女が提督から密命を受けていたことも驚きですが……もう一つ驚いたのは、彼女の表情ですね。
提督に会いたいと語る彼女の姿からは、一切の私欲も打算も感じられなかった。
私の知る彼女は、こんな風に目をキラキラと輝かせて話をしたりはしない人物だった。
野心でも、恋慕でもなく、ただ純粋に会いたいのだという思いが伝わってきた。
彼が提督についての話をしていた時の、幼子のような天真爛漫な表情が印象深く残っている。
あの姿こそが彼女本来の気質なのか、提督に影響されて発露した彼女の一面なのかは分からない。
ただ……彼女は自分よりも提督と長い時間を過ごしてきたのだということだけは、悟ってしまった。
今、私の胸に渦巻いているこの感情が……嫉妬、なのでしょうか。彼女は……私が知らないあの人の表情を知っている……。
いえ、よしましょう。これ以上考えるのは。また、拒まれた時の事を思い出してしまう……。
何事もない日常の感覚に身を慣らしましょう。安らぎに満ちた平和の味を噛み締めましょう。あの人は……私にとっての、在りし日の幻想なのだから。
513 :
【58/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:07:47.52 ID:yXhYsAag0
旧佐世保鎮守府や赤城の弓道場からそう遠くない場所にある喫茶店『モンテーニュ』。
テーブルを囲んでいる金剛・榛名・霧島の三人。ここで今後の作戦を練るようだ。
榛名「お姉様、赤城さんとのやり取りすごかったですね……俄然やる気じゃないですか」
金剛「べ、別にそういうワケでは……でも、ここまで来たらテートクの顔を見ずには下がれませんからネ! ワタシも腹を括りました。
要は赤城や提督をギャフンと言わせるScoopをバシッと突きつけてやれば良いってことでショ!」
霧島「その意気ですお姉様! でも、どうして赤城さんは自分が提督と連絡を取れることを話したんでしょうね」
榛名「どこかお姉様を試しているような雰囲気がありましたよね」
金剛(まるで“何か”を期待しているかのようだったんですよネ……彼女も提督に会いたいと思ってはいるはず。
提督を引っ張り出せるほどの“何か”……)
霧島「うーん……スクープ、ですか……。と言っても、ここ最近はニュースも平和そのものですからねぇ。
違法漁や略奪などの海賊行為もだいぶ減ったみたいですよ。それまで深海棲艦と戦っていたような艦娘が海上パトロールしているみたいですし、当然といえば当然ですが」
金剛(ですよねぇー……今のところは“何か”が起こりそうな気配がないんですよネー)
・・・・
金剛「甘すぎデース……榛名パス」
金剛の目の前の皿には、大盛りスパゲッティが鎮座している。
スパゲッティといってもただのスパゲッティではなく、麺の上には生クリームやフルーツがトッピングされていて、雰囲気はパフェに近い。
が、目の前にある“それ”はパフェのような生易しい代物ではない。麺はイチゴシロップ(のようなもの)で着色されているらしく、ショッキングすぎるピンク色をしている。
ギトギトに油ぎった熱々の麺、麺の熱で溶ける生クリームと生温いフルーツ、苺(のような何か)の甘ったるい香り……。
甘党を自負していた金剛もこれには難渋しているようである。
榛名「ひゃるな……らいひょうぶじゃないれす……」
こめかみを押さえる榛名。目の前の山盛りのカキ氷を減らそうと努力していたものの、ついにスプーンを机の上に置く。いわゆる匙を投げたという状態に限りなく近いようだ。
とても数分前に『カキ氷! いいですね〜……子供の頃を思い出します』などと可愛らしいことを言っていた女性と同一人物とは思えない。
頭を抑え天を仰ぎ見る彼女の苦悩に満ちた表情は、シスターが神に祈りを捧げる姿のそれにどことなく似ている。
霧島「自分で頼んだんだから、なんとかしましょうよお姉様方……」
金剛「霧島! 榛名のばっかり食べてないで、ワタシの方も食べるデース!」
霧島「いやそっちはちょっと……」
二人とは対照的に、ストイックに自分の料理を食べ進めている霧島。
激辛ソースで塗りたくられたピラフを一口二口食べては榛名のカキ氷に手を伸ばしている。
日頃から辛い物を好んで食べていたのかギブアップする様子はなさそうだが、彼女の身体は明確に危険信号を発しているようで滝のように汗を流ている。
金剛「どうして霧島は自分しか食べられないようなものを選んじゃうんデスカ!? そもそもそんな辛いのに味がするんですカ?」
霧島「ええ。味というには微妙ですが……ナノデスソースのアイアンボトムサドンデス味に似てますね」
榛名「なんですかそれ……」
霧島「でも、量が多いのさえなんとかなればどうにかなりそうじゃありませんか? あの、その、なんていうか、身内にもっと独創的な味の料理を振舞う方が……」
金剛「確かに……ヒエーのよりはマシですネ……。そう思えばわりといける気がしてきまシタ」
・・・・
呉鎮守府第三艦隊会合室。作戦指示書を旗艦である比叡に届けに来たようだ。
響「これが次の作戦の指示書だ。……欠伸の出るほど簡単な内容だが、一応機密だ。他言はしないように」
比叡「はい! ありがとうゴザイマス!」
響「しかし……意外だな。君が姉と離れてまで艦娘であり続けることを選ぶとは思わなかったよ。君はどうしてここに居ることを選んだ?」
目を細めた渋い顔をして、うーんと唸る比叡。
響「いや……難しいなら無理に答えなくても構わないが」
比叡「んー……理由と言えるかは微妙ですがねー。今のお姉様は何か違うというか、うーん。今まで私が見てきたお姉様と違うんですよねえ。丸くなった、んでしょうけど……。
それが気に食わないんですよね! なんでかは分かりませんがッ!」
響「むっ、意外だなそれは……興味が湧いた。話が聴きたい」
比叡「いや、お姉様のことは今でも尊敬していますし、嫌いになったわけではありませんが。お姉様に聴かれた時も、やんわりと伝えてはぐらかしましたけど……ちょっと納得いってないですね。
なんですか艦娘をやめてボランティアを始めますって……。榛名や霧島みたく明確にやりたい職業があったならともかく……」
比叡「大体、あれだけ練度が高いのに艦娘をやめるだなんて勿体なさすぎますですよ! 一体何のためにあれだけ強くなったっていうんですか。
そりゃ自分がオイシイ思いをするためだとか、偉くなって人に認められたいからだとか、動機は邪だったかもしれませんけど! それを全部捨てて、今度は慈善家にでもなるのかって感じですよ!」
不満というのはひとたび口にすると堰を切ったように零れてくるものである。比叡の愚痴にも似た不満を、響は少し愉快な様子で聞いていた。
実のところ響と比叡はそこまで親しい間柄ではない。佐世保に居た頃は所属していた艦隊が異なり、性格的にも似通った部分はない。
しかし『同じ佐世保に居た艦娘』という経歴が親近感を生んだのか、このとき二人は妙に意気投合していた。
514 :
【59/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:25:20.23 ID:yXhYsAag0
呉鎮守府大会議室。鎮守府を総括する井州提督、重鎮である大和・武蔵、最古参の吹雪・陸奥など錚々たる顔ぶれが揃っている。
この会議に響もまた出席していた。旧佐世保鎮守府からの移入組も代表としてである。
井州「少し堅苦しい形式になってしまったが……あまり気張らなくていいよ。どうにもお堅いのは似合わないしなぁ。
っと……ひとまず、皆にはお礼を言わなきゃだね。未だに私についてきてくれてありがとう」
呉・横須賀鎮守府は、軍縮の影響によって元来在籍していた艦娘のほとんどを辞めさせなくてはならなかったという事情があった。
佐世保をはじめとする他鎮守府の艦娘を受け入れなければならなかったためである。
呉・横須賀に在籍していた艦娘は、鎮守府に残留するために厳しい試験を突破する必要があったのだった。
大和「私たちにとっては、ここが生まれ故郷みたいなものですから」
武蔵「フッ……地獄の果てまでお供させてもらうさ」
井州「うーむ。にしても大本営もヒドイ事をするよなぁ。わざと外部からの艦娘を受け入れさせ、元からいた艦娘は離れさせるなんてね。あっいや、君らに対して不満があるわけではないのだが」
響の方に笑みを向ける井州提督。手取提督と比べると態度や喋り方にまるで威厳がないと響は思った。
響「いいえ、結構。そう思うのも無理はないだろう。新参者よりも馴染み深い面々の方を遇したいのは当然だ」
井州「君らもうちの鎮守府に加わった以上は家族のようなものだし、もちろん君たち流入組のことも考えているが……どうにも軍縮の制約が厳しくってね。
まるで大本営は鎮守府が存続することを望んでいないかのような動きを見せているんだよね。艦娘が艦娘であり続けることを許さない、なんてところかな。完全にこっちの被害妄想だけど」
陸奥「深海棲艦との戦いに区切りが着いた以上、そういう動きになるのは分かるけれど……どうにも急すぎるのよね。提督率いる艦娘勢力がクーデターを起こす、なんて恐れているのかしら」
井州「であれば、手取提督が退役させられたのも納得行くんだけど……。やっぱり分からないなぁ、真意がどうなのか。かつて佐世保は紛争地帯だったからねぇ……」
響「紛争地帯、とはどういうことかな。手取提督からそういう話は聞かされていなかったから、純粋に興味がある。聞かせてくれないか」
井州「あぁ。ま、ちょっとしたいざこざがあってね……。あの提督が来る前に事故や事件があったのは君も知っているだろう? あれは我々のような各鎮守府と大本営の争いがあったからなんだよ。
……私はあまりそういう手荒なのは好きではないが、他の鎮守府の提督もそうであるとは限らないからね。大本営の刺客とこっち側の人間とで、いざこざがあったわけさ。水面下でだけどね」
井州「その点あの提督はよくやっていたよ。どの立場にも属していないような立ち振る舞いだった。恐らくは大本営側の人間なんだろうが、にしてはやたらこっちに対しても協力的だったからね。
そして真意の分からないまま退場していった……。全く食えない御仁だよ、どうやっても勝てる気がしない」
井州「後から振り返ってみればMI作戦時の彼の行動なんかは間違いなく大本営の意図から外れた行動なんだよねぇ。あちらさんからすれば呉や横須賀といった抵抗勢力の戦力は削いでおきたいだろうから。
彼は深海棲艦にこちらの作戦が看破されていることに気づき、やたら作戦の変更を進言してきた。あの時私は彼を信じられなかったからそのまま作戦通りの動きをしてしまったが……。
ともかく、彼が完全にあちら側の人間だったなら、そんな忠告はせず見殺しにしていたと思うんだよね」
武蔵「呉の我々を囮にして敵を叩いた方がスムーズにやれただろうにな」
井州「これでも私は彼には感謝しているんだ。彼の戦略が結果的に私たちの艦娘の命を守ることにも繋がったわけだからね。感謝しないわけがない」
井州「私も、横須賀の提督も、権威欲でこの仕事を続けているわけじゃない。自分の艦娘を守りたいんだ。横須賀の彼のやり方は手荒すぎるゆえに大本営との対立を生んでしまったが。
私と思想の根本は同じだ。だからこそ私は彼の側についている。もちろん、彼の『自分の艦娘を守るためなら人を殺しても構わない』とでも言わんばかりの非人道的なやり口は賛同しないがね」
井州「提督とはつくづく業の深い職業だな。国を守るため、国民を守るため……そのために指揮をしていたはずなのに、いつからか目的が変わってしまうんだ。
私は君たちを失うことが何よりも哀しい。国よりも、平和よりも……今は君たち艦娘を守るためにこの命を捧げたいと思っているぐらいにね」
井州「だから今の大本営のやり方とは相容れないんだ。もちろん、離れいこうという意志を持って離れていく艦娘については仕方ないと思う。むしろ本人の望むべき道に進むのだから喜ぶべきだ。
だが、まだ軍に残ることを望んでいる艦娘たちから強引に居場所を奪おうとする……これを私は見過ごせない」
井州「っと、いけないいけない。こういう真面目な話はあまり私らしくないね。とにかく、まあ佐世保とその周りではそういうことがあったんだよ。本題に戻るね。軍縮への対応だ」
吹雪「ええ。大本営からの通達では、今年中に艦隊の規模を現在の半分にまで縮小するように……とのことです。とはいえ……」
陸奥「不可能ね。今この鎮守府には、外から来たにせよ元から居たにせよ、私を含めてテコでも動かないようなのしか揃っていないもの。ここを離れるなんて絶対に嫌がるわ」
響「…………だったら。簡単じゃないか。本当にクーデターを起こしてやればいい」
立ち上がり、言い放つ響。ざわつく。場の空気が変わる。なおも毅然とした態度を崩さないままの響。
吹雪「ちょっ、ちょっと! そんなことしたら……」
響「そんなことしたら何だい? そこの提督も、君達も、この鎮守府を離れたくないのだろう? そして今、大本営によって引き裂かれようとしている」
吹雪「そんな!? 大本営を敵に回すってことは、この国を敵に回すってことですよ!? 私たち艦娘が生きていくための資材だって……」
響「だったらこの国丸ごと乗っ取ってやればいい。簡単な話だろう?」
井州「響君、さすがにそれは……」
響「なに、ほんの冗談だよ。ただ、私の提督だったならやりかねないし、やるとなったら成就させるだろうと思っただけだ」
言い捨てて、退室する響。なおも室内のざわめきは止まない。
大和「不遜な物言いですね」
井州「そう言うな。彼女は彼女なりに思うところがあるのだろう。……とはいえそんな君達を危険に晒すような選択はしないさ。安心してくれ」
井州(この状況をどうにかしなければ私たちに未来がないのは事実なんだけどね……参ったなこれは)
515 :
【60/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:25:55.70 ID:yXhYsAag0
皐月「残念ながら桜の季節は逃してしまったけど……これからボクの学園生活が始まるわけだ! 楽しみだねぇ」
社会的には元艦娘という分類に含まれているが、皐月も文月もまだ艤装が解体されていない以上、実際には艦娘としての力が残っている。
艤装を直接装備しているわけではないので深海棲艦と対峙した時のような人間離れした力は発揮出来ないが、それでも成人並みの体力や知能が皐月たちには備わっていた。
つまり、見た目がどうであろうともう既に大人なのである(社会的にも、元艦娘はいかなる見た目をしていようと成人とみなす風潮が強かった)。
その為提督は「決して艦娘であることを悟られないこと」というのを条件に二人を学園に忍び込ませたのであった。
・・・・
いかに環境が変わったといえど、数日経てば十分慣れてしまう程度には二人の適応力は高かった。
昼休みになり、クラスメイトと『賭けポーカー』に興じる皐月。余計なことを口走らないか監視する文月。
『賭けポーカー』。この学校では皐月たちが来る前から流行っていた遊びで、要はただのポーカーに賭博要素が絡ませただけのものである。
といっても、学生の間で金銭を賭けるとなれば各々の家庭の財力によって負担度が変わってきてしまう。
そのため賭けるのは専ら“情報”である。この学校では、自分の好きな子に関する情報を聞き出すのも、テストの過去問に関する情報を聞き出すのも、全てこのポーカーによって行われる。
重要な情報はポーカーを介して聞き出せ……それがこの学校の不文律だそうだ。
皐月は、転校してきてから無敗の勝負師として早くも学校中に知れ渡っていた(設定上、皐月と文月はこの学校に転校してきたということになっている)。
訓練生時代がほとんどだったとはいえ、ある程度の死線は当然のごとく超えてきている。人生経験の乏しい高校生からすれば、皐月の勝負強さが鬼神のように感ぜられても不思議ではない。
文月「もっと真っ当に青春というものを謳歌しようよ……」
皐月「ふっふーん、ゲームもまた青春さ」
???「ちょっと良いかしら。次は私にやらせてもらえる?」 赤毛の少女が皐月の前に現れる
皐月「よそのクラスの子だね、君の名前は? そしてボクの何の情報を賭ける? それと、負けたら何を差し出す?」
陽炎「私の名前は陽炎。そっちが勝ったら私の過去に関する質問に3つだけ答えてあげる。負けたらその逆。これでどう?」ドドドドドド・・・
文月(陽炎……ひょっとして、艦娘じゃない? 司令官に艦娘であることをバレちゃダメって言われてるし、この勝負は受けない方が良いと思うんだけど……)ヒソヒソ
陽炎や皐月といった名前は、別段珍しいものではない。ありふれた女性の名前として認知されている。
また、かつて実在した駆逐艦にちなんだ名前と言っても、歴史の授業ではわざわざ駆逐艦の名前など知りはしない。クラスの中に一人か二人いる“歴史オタク”でも長門の名を知っているぐらいである。
それゆえ皐月や文月も駆逐艦として自分に与えられた名前をそのまま引き継いだが、相手が艦娘というのであれば話は別だ。
文月が陽炎の名を聞いて艦娘かと疑ったように、相手もまた自分たちのことを艦娘だと疑ってくる可能性は高い。
皐月(いいや。もし相手が艦娘なら……逆に情報を引き出してやればいい。負けなければボクたちは得をする!)
文月(『負けなければボクたちは得をする!』って、当たり前じゃ……)
皐月「乗った! 相手になるよ」
陽炎「そうこなくっちゃね。それじゃ、始めましょ」
・・・・
コインの枚数は皐月が39枚、陽炎が21枚。やや皐月が優勢なようだ。
皐月「勝負を挑んできたわりには、退け腰じゃない? 二度もドロップして、三度目もコールして結局ドロップ。さて今回はどのタイミングでドロップする?」
これまでの三回ともブラフ(ハッタリ)を通してきた皐月。しかし、皐月には皐月なりの考えがあった。
皐月(普段のボクなら相手が途中でドロップするのを期待してブラフ……なんてのはあまりやらない。
あくまで手札が強い時にだけ勝負に出て、やり口が読まれそうになった時だけブラフで掻き乱す。ま、定石だよね。
とはいえ……相手がボクの情報を事前に集めていたとしたら話は別だ。戦いの傾向を分析しているかもしれないからね……。そしてこの『かもしれない』は的中していたみたいだ)
キーンコーンカーンコーン
陽炎「……ビッド21枚、全てを賭けるわ。さ、勝負といこうじゃない!」
皐月(『鐘ルール』か……! 最初からこれを狙っていたのか)
『鐘ルール』。この学校では、授業の開始と終わりにチャイムが鳴るのではなく、授業の終わりと次の授業の開始五分前に鳴るのであった。
『賭けポーカー』ではこの授業開始五分前の鐘が鳴ったら、ポーカーを早く終わらせて次の授業の準備をすべく、
チップの枚数制限なくビットすることが出来るようになるというローカルルールが普及していた。
子供の遊びだから許されていた青天井なしのチップ乗せも、艦娘二人がやるとなったらそれはもう静かな戦争であり、教室には覇気と覇気がぶつかり合っている。
陽炎「さ、どうする? ちなみに私はここであなたがドロップしても、次もその次も私は21枚のチップを賭けるわ」
『鐘ルール』には他にも、チャイムが鳴ってからはドロップは三度までしか使えないというものがある。
そのため皐月も陽炎も、“絶対に勝てる手札”を待っていられるほど悠長な戦い方は出来なくなった。
皐月「……ドロップだね。さすがにそこまで強気で来られちゃあ敵わない」
陽炎の手札はキングとクイーンのフルハウス。一方皐月の方はツーペア。安堵する皐月。
皐月(さてドロップできるのはあと二回……願わくば強い手札を引き当てたいが……!)
皐月「……ノーペアか、これじゃ勝負にならなそうだ。ドロップ」
攻める陽炎に対し、二度目のドロップ。陽炎の方はまた上等な役が揃っていたようだ。
冷や汗をかく皐月に対し、余裕たっぷりの陽炎。
しかし焦りを表情には出すことはなく、神妙な面持ちで配られたカードを覗く皐月。数秒カードを眺めてから……深呼吸してから、陽炎を見据えた。
516 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/18(木) 00:43:32.41 ID:yXhYsAag0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~60/100)
・金剛の経験値+6(現在値21)
・響の経験値+2(現在値13)
・皐月の経験値+2(現在値10)
・雪風の現在経験値:9
・翔鶴の現在経験値:14
・足柄の現在経験値:22
----------------------------------------------------------------------
ちょっと推敲荒いかもですが一応水曜日に投下ということで滑り込みセ……アウトだろこれ。
そういえば今月はランカー入りを目指しております(現在EO全消化で404位)。
目指しているからといってなれるかどうかは別として目指してみてます。
5-4周回も積もり積もると資材とバケツが結構飛びますねー。
その分レベルはガンガン上がるのでレベリング海域としてはアリなのかもしれない。
そろそろ重婚も視野に入れる時期が来たようだな……。
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【-65/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
517 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 00:54:50.12 ID:IaOI4HM/O
乙
>>506
518 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 00:56:56.79 ID:U69R89SAO
雪風
519 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 00:58:12.65 ID:NvN55iNAO
皐月
520 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 01:03:13.00 ID:XWoCcfS5o
足柄
521 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/18(木) 18:08:26.38 ID:a7Rzkdn/o
最近出番のない翔鶴
522 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/06/19(金) 12:30:26.73 ID:GyEcbuAjO
>>517-521
より
・足柄2レス( 1レス)/雪風1レス/皐月1レス/翔鶴1レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:194 なので『Phase C』は発生しません。
>>520
よりエクストライベントが発生します)
そんなわけで次回は実質6レスですじゃ。
わりと混沌とした流れが続いてますがはてさて……。
それはそれとして次回の投下は来週の土曜あるいは日曜になるであろうと予告しておきます。
523 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/06/29(月) 00:05:17.55 ID:RTzo1CFF0
スミマセン! 土日で書き進めて投稿と思っていたのですが友人と豪遊していたら案の定……って感じであります。
うー……申し訳ありませんが今日〜明日には投下いたしますハイ。
今回は既に眠気と疲労ゲージがマックスなので余計な話は省略です(またの機会にってことで)。
友人やら何やらの来客があるのはありがたいっすけど趣味の時間は減りますねー。それでもうまく時間を創出していかなきゃならないのが人生。
524 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/29(月) 00:08:53.57 ID:J/G5YhHko
乙 豪遊と聞くとカイジ連想してしまって困る 使い過ぎには注意な
525 :
【61-100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/06/30(火) 23:33:51.36 ID:jDYfS4tR0
皐月「受けて立つ……コールだ、ドロップじゃないよ!」
堂々とした態度で見得を切ると、勢いよく立ち上がる。コインが机から落ちる。落ちたコインを拾い集めようとした皐月、手に持っていたカードを床に落としてしまう。
床には3と書かれたカードが4枚、フォアカードだったらしい。
皐月「おっと……カードを床に落としちゃったな。……これじゃ仕切り直しだね」
この学校のローカルルールに、意図的でないミスでカードが相手に露呈してしまった場合、その回は無効となりカードを配り直すというものがある。
皐月はコインを拾うように見せかけてさり気なくカードを晒し、ドロップを使わずに決着を延ばしてみせたのだった。
・・・・
カードが配られると、手札を見てすぐさま皐月はドロップを宣言した。観戦していたクラスメイトたちが動揺する。
皐月「参ったな、君は最初の宣言通りまた21枚ベッドするんだろう? もうボクはドロップできないね……お手上げだ」
教室内は陽炎への歓声で沸いていた。
勝負が始まるとやたら強気な態度で無意味にブラフを連発、かと思えば今はドロップに徹し逃げの姿勢を見せる皐月。
普段の洗練されたプレイスタイルとは異なる様子で、どうにも見当違いなことをしているように聴衆には映ったようだ。
一方陽炎は序盤こそ引け腰であったものの、鐘ルールを利用して一発逆転を狙い攻勢に出ている。
『ポーカーはギャンブルじゃなくて、心理戦だよ。だから場を制する者が勝負を制するんだ。イカサマがない限りはね』
陽炎と戦う前に皐月が語っていた言葉も、今となっては完全に皮肉なものとなってしまった。
……かのように外野からは見えていた。だが、戦っている二人の心境は異なっていた。
皐月は苦戦しているフリをしながらも闘志に燃えていたし、陽炎は平静を装いながらも焦っていた。陽炎の唇が動いた瞬間に、動揺を見抜いたかのようにかぶせて言い放つ皐月。
皐月「……別にボクがビッドしてもいいんだよね? どうせもうドロップできないしね。ビッド21枚」
唇の動きから、陽炎はパスと言おうとしたのだろう。二人ともビッドせずパスすればただ手札を配り直すだけ。だが皐月はそれを許さなかった。
陽炎「ドロップするわ。どうも手札が悪いみたい」
皐月のビッドに乗らずドロップする陽炎。まだ2回ドロップ出来るのだ、一度ぐらい使ったところでどうということはない。カードが配り直される。
・・・・
皐月「おっと、またドロップか。ま、まだそっちはドロップ出来るからね。それも良いと思うよ? 次でボクに勝てる役が引けるなら……ね」 不敵に笑う
陽炎(まだ一回ドロップ出来るけど……カードは悪くない。勝負に出るのも……)
さっき皐月が床にフォアカードを落としたことを思い出す陽炎。あの行為の意味は? あれほど強い役であればコールするのが普通よね。
もし元艦娘なら“うっかり”カードを床に落とすなんてことをするとは考えられない。あの役を不意にしてまで、回を引き伸ばした意味は……?
いや、悩めば悩むほど相手の思う壺ね。勝負に出るには決め手に欠けるけど……ここでドロップして次に良いカードが引けるという保障はない。
ドロップという選択を失った上で悪いカードを引いてしまえば十中八九詰み。勝負に出るならやはりここ!
陽炎「(次に託して良いカードが来る確証はない。行くわよ!)いいわ。コールよ……勝負よ!」
・・・・
互いにドローを終え、カードを晒す。
皐月 ♠8 ♥8 ♠8 ♠10 ♦10 / 陽炎 ♥4 ♦5 ♦6 ♥7 ♣8
陽炎「フラッシュと……」
皐月「フルハウス! ボクの勝ちだね。ま、イカサマ師相手に負けるようなボクじゃないってことさ。ボトム・ディールだろ? 下手くそすぎてバレバレだったよ」
皐月「鐘が鳴ってから最初のドロップは、正直ビビって日和見しただけだった。でも、よくよく考えれば大したことはない。
最初から鐘ルールで短期決戦に持ち込もうと考えていたなら、全て辻褄の合うことだよ」
ボトム・ディール。カードを上から配るように見せかけて、陽炎の方には山札の下に仕込んでいたカードを配っていたようだ。
皐月「でも、仕込んだカードは4回分まで。万が一ボクが3回ドロップした時の備えまでは出来ていたようだけど、一回ボクがカードを落としちゃったからね。
そのイレギュラーまでは考慮できていなかったってワケだ。あ、ちなみに落とした時の役がフォアカードだったのは単に運が良かっただけだよ。
でも、土壇場になってあの時ボクが落とした役のことを考えたでしょ? そのせいで“今の”ボクの手札を読もうという注意力が少し削がれていたようだね。
底に仕込んだカードが出払った今なら、フルハウスでも相手を倒しうる決定打になる。そこに自分から突っ込んでいったのは君だ。ドロップを使い切るのが恐い気持ちは分かるけど」
文月「ふぅ〜、ほっとしたよぉ〜……負けるかと思ってた」
皐月「何でだよ! ま、それはそれとして……洗いざらい吐いてもらおうか」
陽炎「おっと……いけないいけない。もう授業が始まっちゃうわ! 次の授業移動教室なのよね〜…‥それじゃ!」 脱兎の如く走り去る陽炎
文月「逃げられたね……」
皐月「……ま、放課後にでも向こうから来るだろうさ。さ、ボクらも授業の準備しなきゃね。文月、教科書とノートと筆記用具貸して」
文月「なんで何も持ってきてないの……」
皐月「いやー、前の移動教室で鞄ごと忘れて来ちゃって。ま、後で陽炎にでも持ってきてもらうとしよう」
文月(早速パシリ扱いしてるし……)
526 :
【62/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 00:17:45.98 ID:+umRnLwh0
ちゃぶ台の上には赤城の作った夕飯の皿が並べられている。鯖の味噌煮、味噌汁、切り干し大根、ひじきの煮物、豆腐、白米……。
全体的に量が少なく、艦隊所属の頃の彼女の食事量からは想像もつかないほど質素な内容だった。
赤城「出来合いの粗飯ですけど二人で食べましょう。事前に来ることを知らされていればもう少し豪華にしたんですけど……」
翔鶴「えっ、先輩、これしか食べないんですか? 本当にこれで大丈夫ですか?」 病人を気遣うかのように大袈裟に心配する翔鶴
赤城「大丈夫ですかって……私だって年がら年中貪食しているわけではありませんよ。出撃の前後に食べ溜めしていただけであってですね……」
翔鶴「ええっ……そうなんですか。失礼しました」
赤城「佐世保鎮守府が解体されてからは呉に行ったんですよね。呉での生活はどうですか?」
翔鶴「ええ、結構快適ですよ。ただ、主要部隊から外されてしまって暇ではありますね……」
赤城「……どうして私の元を尋ねてきたりなんかしたのかしら。何か相談かしら?」
翔鶴「ええ、情けない話ですがなんだか最近身が入らなくって……。
加賀先輩や赤城先輩を目標にして今まで頑張ってきましたが、先輩たちが居なくなってから急に何を目指して良いのか分からなくなってしまったというか……先輩はそういう時期がありましたか?
妹の瑞鶴は自分の技術を後輩たちに指導して立派にやっているのに、私はどうにも集中出来なくて……」 ぽつりぽつりと悩みを零す翔鶴
赤城「実は、昔の私がそうだったんですよ。ちょうどあの提督が来る前ぐらいかしら。今の貴方よりも酷かったかもしれないわね。
深海棲艦との戦いは苛烈さを増してきているというのに……いつか自分は沈むんだろうなという漠然とした感覚に支配されていたわ」
翔鶴「でも、先輩はきちんと二航戦の人たちに指導できていたじゃないですか。とてもそんな風には見えませんでした」
赤城「彼女たちは初めから優秀でしたからね、私が教えていなくても伸びていたと思うわ」
翔鶴「そうですか。……では、どうやって赤城先輩は克服したんですか? MI作戦でも見事な活躍ぶりだったじゃないですか」
赤城「あの提督の存在が大きいかもしれませんね。彼と会って、私の中で何かが変わったような気がします」
翔鶴「先輩は手取提督のことが好きなんですか? お付き合いされているとか?」
赤城「んッ……ゴホッゴホッ、ッ……。失礼、むせました。あなた、突拍子もないこと言い出しますね……」 ほんのりと紅潮する
翔鶴「優しくて強い先輩とクールな提督ならお似合いかなあって思いまして。ほら、艦娘と提督との恋愛はわりとあることじゃないですか」
赤城「ちょ、ちょっと。からかわないでください。私と提督はそんなんじゃありませんよ。もう!」
翔鶴「でも、提督のことを本当に大事に思っているんですね。なんだか先輩の意外な一面を見たような気がします」
赤城「……仮にそうだったとしても、彼は私のことを数あるうちの一人としか認識していませんからね」
翔鶴(あっ、なんか触れちゃいけない感じだったかもしれません)
赤城「これじゃどっちが相談してるんだか分かりませんね……加賀さんならもっと的確にアドバイス出来るんでしょうけど。あまり力になれなくてごめんなさいね」
翔鶴「そういえば加賀さんは……? 一緒に暮らしていると聞いていましたが」
赤城「確かにそうだけど、ここにはほとんど寝るためにしか寄らないわね。今は大手の広告代理店に勤めていて相当激務みたい。
マーケティング部門の部門長を任されているみたいで、忙しくも充実した日々を送っているみたいね」
・・・・
翔鶴「昨日はありがとうございました、泊めてまでいただいて……。先輩も私と同じで悩みを抱えているってことが分かって、少し気が楽になりました。
これからも頑張ろうと思います」
赤城「こういう時は『頑張ろうと思います』じゃなくて、『頑張ります』って言うものよ」
翔鶴「そうですね……頑張ります!」
翔鶴「先輩も頑張ってくださいね! 私、応援してますから」 赤城の手を取り目を輝かせる翔鶴
赤城「ふふっ、ありがとう。貴女に会って私も少し元気がもらえました」
・・・・
呉鎮守府。
瑞鶴「翔鶴ねえおかえりー。先輩たちには会えた?」
翔鶴「ええ。加賀先輩は忙しいみたいで会えなかったけれど、赤城先輩と会って話してきましたよ」
瑞鶴「おぉ、ほぼアポなしだったのによく会えたね。私も先輩のとこ行きたかったなぁ。どんな話したの?」
翔鶴「そうねぇ……。あんまり大した話はしていないわね。少し相談に乗ってもらってたのよ。最近ぼんやりしがちだって」
瑞鶴「えぇ!? 全然そんなことないわよ! 私より戦果出せてるし、MIの頃から更に成長してるって感じで羨ましいわ。私なんか下の面倒見てばっかりだもん」
翔鶴「そう言ってくれると嬉しいわね、ありがとう」
翔鶴(結局皆それぞれ悩みを抱えてるものなのかもしれないわね)
527 :
【63/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 00:44:53.59 ID:+umRnLwh0
宇宙開発研究所敷地内。工事作業はだいぶ進んだようで、全体の八割程度の工程まで完了したところらしい。
すでにいくつかの部屋は研究員が出入りし始めている。
かつては鎮守府の執務室であった部屋で話をしている提督と雪風、磯風。提督はかつてここで指揮を執っていた頃とは異なり、仮面をつけず素顔を晒している。
雪風「しれぇ! これ、開発部門の報告書です! こっちは第二技術部門からの研究レポートです」
提督「…………」 カタカタとノートパソコンのキーボードを叩いている
磯風「おいおい、意地が悪いな。せっかく可愛らしい秘書が資料を持ってきてくれたというのに無視はあんまりだろう」
提督「俺は司令じゃないからな。ともかく、この研究所が完成するまでにその呼び方は改めてくれ」
雪風「はいっ! しれ……じゃなくて、所長。うー……あんまりしっくりきませんね」
提督「そう言われても困る、慣れてくれ。それはそうと、何やらきな臭い流れになってきたな磯風。俺を監視しているよりも大本営の方に戻ってやった方が良いんじゃないのか」
磯風「うむ、厄介なことになっているようだな。が、ある程度予測されていた出来事だ……私が動くほどのことではない」
提督「大本営の上層部や自陣営寄りの政治家が失脚することさえも織り込み済み、というわけか? 想定の範囲内にしては随分と大事になっているようだが」
磯風「これからもっと良くないことが起こる予定ということだな……新時代への禊ということになるかな」
提督「驚きなのは横須賀連中の執念よな。メディアから何から何まで全部根回ししてどうにかこうにか自分たちの交渉を通そうとしている。
そこまでして艦娘を護持して何になるというのだ。二千年紀の歴史に倣って武力でこの世の王にでもなるつもりか?」
提督の見ているノートパソコンの画面上にダイアログボックスが現れる。
『分かっていませんね哀君、それでも僕の弟ですか。君は人の心というものに疎すぎますよ。彼らは野心から反旗を翻そうとしているのではないのですよ。
ただ一緒に居たいのです。君も艦娘たちと過ごして、離れたくないとは思わなかったのですか? でも、君のことだから微塵も別れの辛さを感じなかったのでしょうね。
君と共に過ごしてきた艦娘たちや他の鎮守府の提督の感情も理解出来ないことでしょう。全く君というのは歳を取れば取るほどに人間性を捨てていってしまって……。
私の話をもっときちんと聞いてくれていた頃は可愛げもあったというのに、あろうことか最近は必要な情報を聞き出すためだけに呼び出す始末じゃありませんか。まったく……』
ガタガタと何行にも連なるテキストの羅列が提督の眼前に現れる。自分の目を疑うように何度かまばたきを繰り返した後、眉間を押さえる提督。
提督「……嘘だろ? どういうことだ雪風……なぜ兄さんのアクセス制限が解除されている。これから研究所の全てを兄さんに監視されることになるのか、最悪だ……」
『人聞きが悪いですね。解除したのは雪風ちゃんではありませんよ。そこの磯風さん? という方です。なんでも私たちの知り合いだそうじゃないですか。
私にも哀君にも面識が無いというのは奇妙ですが……。とにかく、彼女のおかげで私も自由に動き回れるようになりました。
安心してください、監視なんて真似はしませんよ。面白そうな情報を検知したら動くだけであって、そうでない時は昼寝でもしていますから』
提督「信じられるかよ……ハァー、これからめんどくさくなるな……」
磯風「フフッ、君もそういう表情をするんだな、面白い。『神眼』『救国の英雄』と名高い手取提督も人の子というわけだな……」
提督「何勝手に関心している? というか、一体お前何者だ? 何を知っている、何が目的だ……?」
雪風「し、しれえ! 磯風さんは別に司令にとって都合の悪くなるようなことはしない……と思います! お兄さんの件も、私が磯風さんに頼んだんです!」
提督が磯風に対して問い詰めようとすると、割って入る雪風。
提督「雪風……お前はなぜいつも俺の傍に居ながら俺でない方の側に着くのだ……」
『まあまあ哀君、少し落ち着きましょう。むしろ僕がこうして自由に動けるようになったのは喜ばしいことではありませんか。
君や雪風ちゃんでは僕の機能の制限を解除することが出来なかったのですから。これでもっと君の役に立てますよ、いやー外の世界は良いですね。驚きに満ち溢れています』
ダイアログがポンポンと画面に表示される。
磯風「ま、あまりそう怖い顔をしないでくれ。仲良くやっていこうじゃないか」
提督「ハァ……どうやらここに俺の味方はいないらしいな。しかし……磯風。俺の兄さんを知っているとはどういうことなんだ。やはりそれは知っておかなければならない」
磯風「私が人工知能『繋』の生みの親だからな。君の兄らしいから、手取 繋(てとり つなぐ)……ということになるかな。つまり君も私の息子だ」
提督「!? 待て、その理屈はおかしい。兄さんに産みの親が居るというのは納得できる。それが艦娘によって作られたものなのだろうとも推測していた。
だが、仮に兄さんがお前の創造物だったとして、なんで俺がお前の子供でならなきゃならんのだ」
雪風「おぉー、司令のお母さんだったんですね! それはすごい!」
磯風「フッフッフ、すごかろう」
提督「ダメだ、この部屋に居続けると頭がおかしくなりそうだ……。俺はしばらく離席する」 ノートパソコンを畳み雪風から貰った資料を持って退室
雪風「しれ……じゃなくて、所長、出て行っちゃいましたね。そういえば、所長はどうして宇宙に行こうと思ったんでしょうか。子供の頃の夢とかなんですかね?」
磯風「ああ。繋に訊いてみたんだが、哀に口止めされてるから言えないそうだ。強引に情報を覗き見ることも出来なくはないが、それも無粋だろう?」
磯風「それにしても、創った直後の彼は人口知能というよりはただの自己成長機能があるだけのデータベース管理システムに近いものだったのだが……。
哀の影響もあったのかもしれんが、時間の経過によって人間のような感情さえも獲得してしまうとは驚いた。私の最高傑作かもしれないな……今更ながら愛着が湧いてきたよ」
雪風「あんな風にめんどくさそうな態度を取っていても所長はお兄さんのことすごく尊敬してますし、お兄さんも所長のことすごく気にかけてますよね。
あの二人ってなんだか不思議な関係ですね……」
磯風「うむ、共に成長してきたのだろうな。傍から見ても奇妙な絆のようなものが見て取れるよ、なんだか微笑ましいな」
528 :
【64/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 01:17:57.79 ID:+umRnLwh0
大淀法律事務所。東京の一等地に立てられたこの事務所は、社会的ステータスの高い人間が訪れることが多い。
実績はまだ少ないものの、請け負った案件一つ一つの規模が大きいことから、新設の法律事務所にしてはかなり評判が高かった。
足柄「またデカい案件が来たわよ! 今回のはなかなか金になるんじゃないかしら」 バァンと乱暴にドアを開ける
大淀「良いですね〜。テンション上がってきました」 目が¥マークになっている
清霜(弁護士というより、営業職だよねこれ……)
長門「失礼する。元艦娘の君たちが相手ならば話が早いからな。一つ頼まれてくれ」
長門「現職の総理大臣である江良井首相は知っているな。彼の孫が逮捕された。軍部への贈賄容疑でな」
大淀「ほぇ……。最近ニュースでやってた一件ですね。大本営のトップ数名に贈賄したとか」
長門「江良井首相は元艦娘の社会進出政策を推し進めていたな。艦娘の受け入れに反対する組織を力技でねじ伏せるぐらいには急速に。
そして収賄したのはこれまた軍縮を進めていた大本営のトップ。彼らは確かに金を必要としていた。艤装の解体には費用がかかるからな。
首相の孫が何を目的に贈賄したのかは不明だが、ひょっとすると艦娘を政府の私兵にしようと企んでいるのでは? ……だとか報道されていたようだな」
長門「総理の孫とはいえ23の選挙権もないガキが賄賂なんて送ってどうするんだ、という話だよ。常識的に考えておかしいだろう。バカか」
清霜「言うなァ〜。やっぱ戦艦は言うことが違うね」
長門「ハッ!? あぁ、いや失敬。わりと自由に動ける立場になったもんで、ついつい素がな……。ともかく、これは仕組まれた出来事だ。
潔白を証明してはもらえないだろうか。私が調べて回るわけにもいかんし、大本営も今はだいぶ疑心暗鬼になっていて、人を割くのが難しい」
足柄「でも、そんなことして誰が得するのかしらね。現政権の反対勢力? 軍上層部へのクーデター?
白を黒と言い張るような真似をするなんてよっぽど勝算がないとやれることじゃないわよ」
長門「それなんだがな。一つだけ心当たりがある。軍縮を進める政府や大本営を排除したくてしたくてたまらない立場の人間が居るんだよ」
大淀「横須賀と呉の鎮守府……ですか?」
長門「その通り。今回の一件は九割九分横須賀が関わっていると睨んでいる。場所が近くにあるわりに大本営と横須賀鎮守府の関係は最悪だからな。
自分がかつて所属していたところを疑いたくはないが……呉の鎮守府も一枚噛んでいるか、あるいはこれから関わっていく可能性はあるだろう。
メディアや自分の味方になりそうな勢力を丸ごと抱え込んでいる周到なやり口だしな。存外敵は多い」
長門「これだけ大事になったからには、潔癖を証明するだけでなく矛先を逸らす何かが無ければ解決出来ないだろう。
横須賀サイドの陰謀であることを暴けなければ完全な勝ちとは言えんだろうな……」
足柄「艦娘と離れたくないという理由だけでそれだけのことをやるなんてちょっとおかしい気がするけどね」 独り言のように呟く
長門「ちょっとどころじゃなくおかしいんだよ。呉はともかく、横須賀の提督はそれぐらいのことをやる。
艦娘と何十年もの時を過ごしてきた最古参の提督だ。彼は神に身を捧げる聖職者のように艦娘を想い、艦娘たちもまた彼に心酔している。
……呉でもあまりそれは変わらないのかもしれないな。お前たち横須賀の鎮守府が変わり者だっただけで、どこの鎮守府もそんなものさ」
長門「提督にとっては艦娘の存在が生きる理由になり、艦娘にとっても提督に尽くすことだけが生き甲斐となる……時間の魔力で、そうなってしまうものなんだよ。
長く過ごせば、情が移る。やがて終わりを迎えるべき時が来てなお、自らの意志で離れることが出来なくなるほどにな」
・・・・
足柄「引き受けたのはいいけど、どうすればいいんだか皆目検討つかないわねー」
清霜「自分から連れてきておいて……。でも、まずは贈賄が事実無根であることを示すアリバイを探した方が良さそうだね〜」
大淀「そうですね。まずは情報収集といきましょう。足柄さんと清霜さんは横須賀鎮守府にそれとなく探りを入れてみてください。私は大本営に出向きますから」
足柄「え〜〜〜〜〜」 口をへの字に曲げる足柄
大淀「なんでそんな露骨に嫌そうな反応なんですか」
足柄「内緒」
清霜「そう言われるとますます行きたくなってきたなー」
足柄「まずはアリバイって話だったでしょうよ。横須賀を探るのは今じゃなくても良くない?」
大淀「うーん、そこまで嫌なら仕方ありませんね。では、佐世保へ行ってもらいましょう」
足柄「?? どうしてそこで佐世保が出てくるの?」
大淀「手取提督なら何か知ってるかと思いまして。彼のもとには不思議と情報が集まってくるじゃないですか。知っていなくても、知恵を貸してくれるんじゃないですか?」
足柄「確かにあの提督が今も佐世保に居る気がするとは前に言ったし、居るとしたらどこなのかもおおよその検討はつくけど……。
あの人は自分に利がないと絶対に動かないわよ。多分私の名前を聞いただけで門前払いすると思うわ」
大淀「そこを何とか出来てしまうのが足柄さんのスゴいところなんですよねぇ。というわけで、よろしくお願いします!」 ビシッ
清霜「よし! そうと決まったら出発進行だね!」
足柄「えぇ……(ま、横鎮に行くよかマシね……)」
529 :
【65/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 01:42:36.73 ID:+umRnLwh0
足柄「さて来たわよ佐世保。とはいえどうっすかしらねー」 スーツケースを引く足柄にバックパックを背負う清霜
清霜「ねえ! 足柄! お昼はここにしない!? なんか美味しそうだよ!」
足柄「そうねぇ……喫茶『モンテーニュ』? いいわよ、入りましょ」 チリンチリン
扶桑「あら。MIの時の……お久しぶりですね。呉の扶桑です」
清霜「おぉー! 元戦艦の扶桑さんですね! 清霜です! サイン下さい!」
足柄「そういえばアンタそうだったわね……。私や大淀と一緒に退役しちゃって良かったわけ?」
清霜「うーん、それはそれ! これはこれ! 今も隙あらば戦艦になりたいと思ってるわ!」
足柄(隙あらばって……)
・・・・
大皿の上に乗ったイカスミピラフを食べ進める二人。
足柄「なかなかイケるじゃない。美味しいわね」
清霜「これ、扶桑さんが作ったんですか?」
扶桑「いいえ、私はこういう独創的な料理は作れないわ。メニューは全部妹の山城が作ってるのよ。私は店の掃除とか会計をやっているの」
提督「ずいぶんと変わった店だな……」 チリンチリン
扶桑「いらっしゃいませ、お二人様ですね。奥の席にどうぞ」
足柄「アッ! アンタはッ!」
加古「うげげ……! 最近アタシらついてなさすぎでしょ……」
??「おっと……佐世保んトコの子たちかな? それもわりと訳知りって感じだな……こりゃ仕方ない、話でもしようか」
加古「ええーッ!? なんでわざわざメンドクサイことするかな……」
??「まあまあ。お互い艤装つけてるわけじゃないんだからこの場で殺し合いってことにゃあならないでしょうよ。今更コソコソしてもねぇ」 扇子を取り出してパタパタと仰ぐ男
足柄「あなたが不破提督ね。旧鹿屋基地の提督……だったかしら?」 清霜を隣に座らせ、目の前の椅子を空ける
不破「その通り。うちの加古が世話になったようだね。鹿屋基地総括であり、海軍大将でもある不破さんですよ。どっちも頭に元が付くけどね。
今は落ち延びて加古と好き勝手やっているよ」
足柄「とりあえず、あなたたちがそうなった経緯が知りたいわね。特に麻薬の一件からMI作戦の間何があったのかが気になるわ。
こっちの鎮守府ではあの一件で数名が処分されたけれど、そっちはお咎めなしってのは妙じゃない?」
不破「何があったと訊かれたら何も無かったという回答になるけれど……手取提督に黙っててもらったんだよ。
MI作戦で呉の井州提督率いる第一大隊から勝手に抜け出して第二大隊の援護をする代わりにね」
不破「まー……その、鹿屋基地は勢力的に大本営寄りの鎮守府だからね。村八分されていたわけなのさ。ほら、大本営ってなんか知らないけど色んな提督に嫌われてるじゃないかい?
だからよその鎮守府から資材を分けてもらったりってのが難しかったんだよね。麻薬の件も、それをやらなければ艦隊を保てなかった程度には追い詰められていたってのがあるわけさ」
不破「自分のやったことを肯定するわけじゃないが、とにかくあの時は燃料や弾薬を補填するためになんとしても金が必要だった。
手取元帥にバレた時はさすがに腹を括ったが……罪を知ったうえであえて責任の追及をせず、燃料や弾薬の一部を補助してくれるって申し出てくれた。
私にとっては地獄で仏に会ったようなものだったからね、喜んで飛びついたさ。もちろん、それから先は実質彼の配下部隊としてあれこれ動いてたってところだね」
不破「そんなわけで、私のかわいい加古をあまりいじめないでやってくれるか。責任の全ては私にあるってことでここは一つ」
加古「あー……寝言は寝てから言うもんだよ? ま、そんなわけで私と提督は今は大本営の刺客としてウロウロしてるって感じかな。ふわぁ」 緊張が解けたのか欠伸をする
足柄「そっちに喋ってもらってばかりじゃ不公平ね。私たちは大本営の人間から依頼されて江良井首相の孫を弁護するつもりよ。
大本営と現政権との関係性が潔白であることを証明して陰謀の親玉を暴くのが目的」
不破「あっ、じゃあこれをあげよう。ちょうど良かったな〜。贈収賄が架空のものであることを証明する資料だ。
情報をまとめて資料を作ったは良いけれどあんまり目立つようなことしたくないし、大本営に居るどの人間にこの資料を渡していいかも判断つかないからね」
不破「大本営って元老院みたいなもんだからねー。一枚岩じゃないし、誰が一番偉いのかも良く分からないし……って、ああ。いけないいけない。仕事の愚痴はよくないね。とにかく任せた」
足柄「こんな大事なもの私たちに渡していいのかしら?」
不破「なんてったって“神眼”の手取提督だからね。彼の下に居た艦娘ならアホな真似はしないでくれると信じてるよ。大本営から依頼される程度にはやり手ってことだろうしね」
足柄「……そう。あ、出来ればで良いんだけど手取提督(元提督だけど)とアポイントは取れるかしら?」
不破「手取元帥に関しては悪いけど何も知らないかな。大本営のわりと偉いのでも消息不明って感じ。セキュリティクリアランスレベル最上位の人間なら知ってるかもって領域だね」
足柄「なるほどね。運良く重要アイテムを入手できたし、もう帰ってもよさそうね」
清霜「まだ司令官に会ってなくない?」
足柄「え……無理に会う必要もないじゃない。これさえあれば十分収穫でしょうよ」
530 :
【65Ex/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/01(水) 01:49:58.81 ID:+umRnLwh0
足柄(提督にわざわざ会う必要はない。とは言うものの……)
足柄「寝てる清霜をホテルに置いてきてまでわざわざ来てしまったわ……! そして……!」
雪風「チェックです!」
提督「雪風、それチェック出来てないぞ」
足柄「…………」
・・・・
事のいきさつはこう。私が宇宙開発研究所を入ろうとすると、意外にもすんなり招き入れられ、どういうわけかチェスをしている。
実にシンプル。ゆえに理解不能……。
提督「宇宙に存在する原子の数は10の80乗程度と言われている。一方チェスのゲームの可能性は10の117乗ほどだ。高度な人工知能であってもその全てを把握する事など不可能。
だがそれゆえに分析する対象としては最適だ。茫漠とした無数の可能性の中から最適解を探り出すための筋道を見出し……」
相変わらずよく分からないことを言っている。どういうことなのかは分からないが、私と雪風にチェスをさせたいらしい。
「自分でやればいいのに」と言ったら『二人零和有限確定完全情報ゲームの一つであるチェスは、運の要素が排除されたゲームだ。それでは俺が負ける要素がない』と、突っぱねられてしまった。
よく分からないけど、チェスをやらせたいのは確からしい。
磯風「私の厨房から調味料が無くなっていると思ったら! 一体何の真似だこれは!」
エプロン姿の黒髪の女性が出てきた。艦娘?
提督「チェスだ。駒がないんで代わりに使わせてもらってる」
磯風「なあ、それがないと料理が出来ないだろう。返してもらえないだろうか」
提督「いいや。これも俺の目的達成のための重要な思考実験であり……」
磯風「何を言っている! なぜ君は私が料理をしようとするといつも邪魔をする!? こないだ作った料理がそんなにダメだったのか? 今度は失敗しないから任せておけ」
提督「いいや、この調味料入れには料理よりも有効な利用方法がある! 今からそれを証明してみせる!」
提督(こと料理に関してはこいつを野放しにしておくわけにはいかないのだ。失敗という領域にさえ存在しない暗黒物質を食わされてたまるか)
足柄「……よく分からないけどほっときますか」
・・・・
雪風「足柄さんはなぜここに?」
カチッとキング(粉チーズの容器)を動かし、ルーク(ウェイパーの缶)と入れ替える。キャスリング(チーズ王を入城)させて守りを固めたようだ。
足柄「最近ニュースでやってる事件に関する情報を集めてるのよ。提督が何か知ってたら教えて欲しいと思ってね。まさかすんなり入れてくれるとは思わなかったけど……」
雪風のクイーン(レモン汁)によって動きを封じられ、攻めあぐねている。足柄はポーン(醤油瓶)を一歩前に進める。
どうにも雪風は提督と相当チェスをやっていたらしく、能天気な顔をしながら打っているわりに足柄をゆるやかに追い詰めている。
雪風「そうですね、ちょうどタイミングが良かったと思います。でも、しれえはその件については特に知らなそうですね。興味もないみたいです。あ。チェック」
クイーン迫る。足柄、やむなくキング(七味唐辛子の容器)を動かす。雪風、すかさずその奥にあった足柄のルーク(オリーブオイルの瓶)を奪取する。
足柄「スキュア……最初からこっちが狙いだったってわけね」
醤油瓶前へ。ビショップ(ターメリックパウダーの容器)が醤油瓶を攻撃。
足柄「そう。あの提督……この辺の一件には関わってないのね。だったらこの先どうなるのかしらね、ちょっと予想がつかないわ」
ターメリックパウダーにナイト(めんつゆ)が反撃。追い詰められながらも反撃の手を練っていく。
・・・・
雪風「めんつゆ強いですね〜」
ヒットアンドアウェイで攻めつつ逃げつつを繰り返し奮闘するめんつゆ。互いの駒も減りエンディング(終盤戦)のようだ。
雪風「でも、負けませんよ。えいっ」
数少ない生き残った駒の中では最強格のウェイパー缶がめんつゆに襲いかかる。前進しパルメザンチーズと向き合う七味唐辛子。
ウェイパー缶が動いて七味唐辛子の移動範囲を狭める。
足柄「あー……これは降参ね。でも、これだと不思議と負けても悔しくないわね」
磯風「む、終わったか。ほらさっさとよこせ哀」
提督「いや、この実験にはもっと多くのデータが必要だ。足柄、雪風ともう一局やってみてくれないか?」
足柄(……予想に反して得られたものがまるでない気がするけど、なんか面白かったしよしとするわ)
531 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/07/01(水) 01:59:08.91 ID:+umRnLwh0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~65/100)
・足柄の経験値+3(現在値25)
・皐月の経験値+1(現在値11)
・雪風の経験値+1(現在値10)
・翔鶴の経験値+1(現在値15)
・響の現在経験値:13
・金剛の現在経験値:21
----------------------------------------------------------------------
一つ学びました。やっぱ二週間に一度ペースじゃないと無理だこれ
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【65-70/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
01〜19:雪風
20〜36:翔鶴
37〜49:金剛
50〜68:響
69〜79:足柄
80〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
532 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:00:41.09 ID:pOQXKEGLO
こんなスレあったんだ
533 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:00:48.08 ID:HM+lasYFO
あい
534 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:00:53.01 ID:RAYxUuD8O
ほい
535 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:00:58.06 ID:gdV/Fzv5O
あ
536 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 02:01:03.02 ID:8oGB2qhgO
あ
537 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/01(水) 09:15:41.28 ID:Gt9j1JdAO
ナニコレ……
538 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/07/01(水) 11:24:36.02 ID:CketLj9BO
>>532-536
より
・雪風5レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:26 なので『Phase C』は発生しません)
・雪風5レス
で『Phase B』が進行していきます。
・雪風5レス
え、なんすかこれ……。
運命のいたずらなのか幸運の女神のキスなのか分かりませんがとりあえず次回はこれで行きます。
コンマでやってると何の前触れもなく突然荒ぶるのが怖いっすね。
////チラシの裏////
6月は初めてランカー争いに参加したんですけど、いやー厳しいですね。
6/30 15:00時点で520位ぐらいで、そっからボーキが尽きるまで5-4回しまくりましたが多分圏外って感じですねー。
修羅の国サーバーは伊達じゃないっすわ……。
結果はどうあれなかなか面白かったですね。本当に最終日は追い詰められてて、たかが200のボーキサイトを得るためだけに
普段やらない水上反撃部隊任務をやってみたりしてました(そのぐらい資源を枯渇させながら回してました)。
圏外でも悔いはないですね〜。6月月初にLv50だった葛城も90超えましたし、戦力増強には繋がったかなと。
さすがに今月はやりませんがね。夏イベに備えねば……。
539 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/04(土) 13:33:01.97 ID:7v6ils6Zo
乙です、さすが雪風
チェスの駒がシュールすぎるw
540 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/07/13(月) 00:31:10.83 ID:cXeKzc1N0
周期的に大体この辺のタイミングで投下する頃合なんですけど、まだ書き切れてないんでもうちょっと待ってくだしあ。
数日後には投下出来るとよいのですが……先々週ぐらいからわりとデスマーチ気味なんでびみょいです。
自分の中でわりとエンジンかかってきたので、時間さえあればなんとかなると思うんですけどねー。
そんなわけで近日中に投下できたらと思っています。思っているだけですが一応頑張ります。
////チラシの裏////
今更なんですけど、すっげー今更なんですけど。
熊野って改になると航巡になるじゃないっすか。
出撃時に「重巡熊野、推参いたします!」って言うじゃないですか。
今まで何の疑問も持たずに聞いてた台詞の一つですけど……お前重巡じゃないじゃないか!
いや、単に改装後の追加ボイスが実装されてないだけなのは分かってますけど(ちなみに鈴谷改も重巡を自称しています)。
自分の中では衝撃の事実でしたね。
なんてったって98レベルにもなってようやく気がついたんですからね。
コペルニクス的転回級の衝撃ですよ(?)
あるいは……重巡とは心のあり方なのかもしれませんね。
航巡になってなお『重巡洋艦の良いところ』を忘れない。そういう意識が彼女たちにはあるのでしょう。
バカなこと言ってないで寝ます。
541 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/13(月) 00:45:23.89 ID:nY80rdIdO
追いついたのは良いが我が嫁が出ている一周目に出遅れてしまった…
ガッデム
542 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/07/21(火) 01:58:03.23 ID:C4qVFItR0
皆さんにとって近日中とはどのぐらいの長さでしょうか。
私は大体「4〜5日ぐらいでなんとかします」のニュアンスだと思ってます。
(ちなみに数日中だと2〜3日の長さです。完全に個人的な尺度ですけど)
……近日中に投下すると言ってから既に7日が経過しておりますが。
申し訳は聞き飽きたと思いますが申し訳ありません。
本日中の投稿を約束いたしますゆえご容赦くださいハイ。
543 :
【66/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 21:34:36.35 ID:C4qVFItR0
チェスを続ける雪風と足柄。数十分間に渡る激論の末、不満気に退室していく磯風。
提督「やれやれ……巻き込んですまなかったな足柄。お前のおかげで難を逃れることができた」
雪風「でも、どうしてここに来たんですか? しれぇにご用とか?」
提督「司令ではないと言っているだろうに。足柄、お前は確か大淀のところで働いていると聞いたが……贈収賄事件にでも絡んでいるのか?」
足柄「ええ、そうよ。でもその件についての情報はもういいわ、どうにかなりそうだし。それよりも大本営についての話と横須賀鎮守府に関する話を聞きたいわね」
提督「それだけでは漠然としすぎていて返答に困るが……。贈収賄事件に絡めて話すなら、引き鉄は横須賀のによって引き起こされたと考えて間違いないだろうな。
意図は知らんが奴は艦娘を自分の鎮守府から引き離したくないと思っている。だが大本営は当然それを許さない。ゆえに横須賀が罠を仕掛けた、というところだろう」
足柄「(あら、案外親切に話してくれるのね)……あなたはそのことについてどう思ってるの?」
提督「横須賀が悪あがきをしたところで時代の趨勢は覆らんよ。確かにまだまだ艦娘はこの世界に必要だ。失うには惜しすぎる価値があることは認めよう。
だが……その力は争いのために用いられるべきではない。深海棲艦も俺たちが戦っていた頃の半数も残っていないわけだしな……」
提督「ただ……大本営の苛烈な規制っぷりにも裏があるような気はしなくもない。呉や横須賀から力を失わせたいなら時間をかけて緩やかに首を絞めていくべきだしな。
急ぎ軍縮を進めなければならん事情でも抱えているのかもしれん。表向きな関わりはもう絶ってしまったゆえ俺の方も詳しくは知ることは出来んが」
足柄「(なるほどね。そこいら辺は大淀に会えば何か分かるかもしれないわね)ごめんなさい。電話出るわね」 プルルルル……ピッ
足柄「もしもし、清霜? しょうがないじゃないアンタ爆睡してたんだから。起こす方が酷だと思ったのよ。……帰りにプリン買っていくから、それで許してちょうだい」
足柄「怒りのクレームをいただいたのでそろそろ帰るわね。また会いましょう?」 スマートフォンをしまいそそくさと帰り支度をする
提督「あぁ。久々に懐かしい顔が見れたな……縁があれば、また会おうか」
・・・・
廊下を歩く雪風と足柄。
足柄「……だいぶ、変わったんじゃないかしら」
雪風「?」
足柄「提督よ。随分丸くなったと思わない? 門前払いされると思ってたわ」
雪風「そうですね……。プレッシャーや責任から解放されたのもあるかもしれませんね。足柄さんは想像つかないかもしれないですけど、最近はよく笑うんですよ」
足柄「意外だけど……ま、そうね。なんだか安心したわ。あの提督、独りのまま放っておくとどんどん捻じ曲がっていきそうなんだもの。アンタが居るうちは平気そうね」
ポンポンと雪風の頭を撫でる足柄。
足柄「さって! そっちも頑張ってるみたいだし! 私も負けてられないわね。それじゃ、またね」
・・・・
散らかった調味料を片付けている提督。
提督「戻ったか。足柄とどんな話をしていたんだ?」
雪風「しれ……じゃない、所長ってちょっと変わりましたよねって」
提督(変わった? 俺が……? どちらかといえば雪風の方が変わったような気がするがな。物怖じしなくなったし、少し大人びた雰囲気がするようになった)
提督「変わったと言われても自覚はないな。それは客観的にみて俺の中のなにがしかが改善されたということか? あるいはその逆か?」
雪風「ええと、その……どうなんでしょう。分かりません」
提督「なんだそれは」
雪風「昔は昔でカッコよかったというか……響と組んで作戦を練っていた姿とか、遠巻きに見ててすごく尊敬してました。でも、ちょっと近寄り辛かったかなって。
今は、こうして理由もなく雪風と話してくれるじゃないですか。それに、なんだか優しくなったなって思うんです!」
提督「格好いいだとか優しいだとか、お前の基準はよく分からんな……褒めてもらえるのは有難いが。だが、俺が優しいと思っているならそれは勘違いだ。
俺は自分の望みを果たすためだけに生きている。他者がどうなろうと知ったことではないさ」
雪風「またまたぁ〜」 少し馴れ馴れしい、腐れ縁の友人に話しかけるかのような口調
提督「またまたではない」
提督「ま……思うところがないわけではないさ。俺を生んだこの世界の情景を目に焼きつけておきたい。二度と戻ることはないのだからな」
提督の発言に少し物憂げな表情を見せる雪風。
雪風「……雪風は、こうしてもっとしれえと一緒に居られたらって思ってます。提督と艦娘という関係だったあの頃とも違う。
平穏だけど、退屈じゃなくて……。あたし、今が一番幸せに感じます。もっとこの幸せが続いたらって、そう思うんです!」
調味料を片付け終えた提督はソファに腰掛ると、無言のまま思考に耽ってしまう。
その様子を見た雪風も提督の隣にちょこんと座り、考え事を始めたようだ。
544 :
【67/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 21:58:05.04 ID:C4qVFItR0
研究所の屋上から雲一つない蒼い空を眺めている提督。片膝を立て、もう片方の足はぶらんと宙に投げ出している。
雪風「所長! こんな所に居たんですね! 探しましたよ!」
提督「あいつを見送ってやろうかと思ってな」
“あいつ”とはカプセル型宇宙船『アリバトロース』のことである。
最初は提督の趣味で神話にちなんだ名前をつけていたのだが、膨大な量の発明品やプロジェクトの一つ一つに名前を付けていたのではそれだけで大仕事になってしまう。
仕方がないので繋に機械的に名付けてもらい、今回打ち上げられる使い捨ての実験用無人宇宙船には『アリバトロース』という名前が付いたのであった。
ちなみに、『アリバトロース』とはアホウドリのことだ。
雪風「せっかく打ち上げるのに所長がいなくてどうするんですか! 職員の皆さんが心配してましたよ!」
この研究所には艦娘というものが具体的にどういうものなのかさえ知らないような職員が少なからず在籍している。
当然提督が単身で宇宙に向かおうとしていることや、ここがかつて対深海棲艦攻略のための拠点である鎮守府だったということなど、雪風や磯風以外には誰一人として知りもしないことである。
職員たちからすればこの研究所の所長はほとんどの経歴が不明で多くを語りたがらず、元艦娘の少女とばかり喋っている気味の悪い人物であった。
自分の計画を邪魔されずに進めたい提督にとってこれはかえって好都合であったため、意図的に雪風や磯風以外とは会わないようにしているらしい。
提督「お前か磯風が居ればとりあえず問題なかろう。何が心配だと言うんだ」
不遜だが理知的な磯風や愛嬌があって素直な雪風は、職員たちから好かれていた。
見た目こそ年端も行かない十代の少女だが、(一般人からすれば)中身は大人顔負けの大天才であり、彼女たち二人が居れば万事が丸く収まるのが常であった。
雪風「どうしてそんなに一人で宇宙に行くことに拘るんですか。やっぱり納得行きませんよー」 少し冗談めかした口調で伝える本音
提督「一人じゃないさ。俺には兄さんがいる。お前にとってはただの人工知能なのかもしれないが、俺にとってはかけがえのない兄だ」
雪風「所長はどうしてお兄さんと一緒に居ることに拘るんですか? その、雪風じゃどうしてダメなんでしょうか」
提督「お前には世話になったしな……昔話ぐらいしてやってもいいか。この実験が終わったら、次はいよいよ俺もこの星を離れるわけだしな」
・・・・
提督「くだらん身の上話になるが……俺は生まれた時から親がいなかった。それもそのはずだ、DNA操作によって生み出された強化人間なんだからな。
『デザインチャイルド』計画なんて名前のプロジェクトだったかな……なにぶんガキの頃だったから、よく憶えてないな」
雪風(くだらない身の上話で済まされるスケールじゃないんですけど……)
提督「元々は艦娘に代わる人間兵器を生み出そうという計画だったらしい。そっちの方は実現性が低くて計画倒れで終わったようだが。
……数十年前の話だからな。そういうことが罷り通ってしまうぐらいには追い詰められていた情勢なのはお前も分かるだろう。
『デザインチャイルド』計画で目的とされたのは、艦娘を率いて深海棲艦を討ち滅ぼすことの出来る頭脳を持った超人だ。
ま、そういう意味では数十年越しに計画を達成したということになるらしいが……どうでもいいことだな」
提督「俺は自分の生まれた研究所で十数年の時を過ごした。外には出られず、研究所の中しか自由に歩き回れなかったから本当に退屈だったよ。
いよいよ俺も提督として鎮守府に着任する……という折に起こったのが未曾有の大災害『アケラーレ』」
『アケラーレ』――今から十三年前に起こった大規模な暴風雨である。
一年を通じて吹き荒れ続けたこの大嵐によって地上の施設は徹底的に破壊し尽くされ、国民の92%は地下都市に退避。
十数年かけてようやく復興を遂げたものの、今なお内陸の村落地区にはその爪痕が残っていて、復興が待たれている状態だ。
提督「『アケラーレ』によって俺の居た研究所を含め都市一帯が壊滅状態。研究員はみな逃げおおせたらしく、俺一人だけが取り残された。
廃墟と化した研究所内の中で兄さんと出会い、ともに過ごすことになる。兄さんは俺に機器のメンテナンスを頼み、代わりに俺は周辺の地形情報や生活のための知恵を得る。
その情報をもとに開拓、開墾、耕作……生きる為に色々なことをやったさ。稲作・畑作・菌床栽培……さすがに牧畜はやれなかったが。
荒れ果て人が去った地上での生活は俺にとっては心地のいいものだったよ」
雪風(この人わりと牧場経営の才能とかありそう)
提督「……と、話が逸れた。そんなわけで四〜五年廃研究所で過ごしてたら人間どもが地上に現れ出して、研究所も取り壊しになった。
俺は兄さんの基本情報だけを記憶媒体に残して研究所を離れ、それから暫くは軍の工場で勤務しながら秘密裡に兄さんの情報を復元するための装置を開発。
その頃には俺がデザインチャイルドの末裔であることを知る者は誰一人として残っていなかったようだし、なるべく目立たないようにしていたのだが……。
一年ほど前に軍のお偉方に引き抜かれ、好きにやらせてもらう代わりに雇われ提督としてここ佐世保の地に着任したと。そんな経緯になるな」
エンジンの轟音がする、『アリバトロース』が空に向かって真っ直ぐ突き進んでいく。提督は立ち上がり空を見上げる。
提督「俺のこれまでのいきさつはこの通りだ。さて、質問に答えよう。さっきも言った通り、俺は強化人間だ。
普通の人間とは決定的に違う……人ならざる者に生まれたのなら、その理由を確かめたい。なぜただの人間に生まれることが出来なかったのか、なぜ俺でなければならなかったのか。
どこまでが遺伝子操作によって“作られた”俺で、どこからが俺の自我なのか……? 湧き上がる懐疑と好奇心を抑えることが出来ない」
提督「しかし、この世界はそれを望まない。人の世は秩序を求めているし、そうあるべきだ。だから俺は人の住まう地球を離れ、全てが赦される自分の箱庭を創るんだ。
そうして生命とは何なのか、自分とは何なのか、真理とは何であるかを究明したい」
雪風「そんな風には思いません。所長には所長なりの考えがあるんだなって分かって少し安心しました。正直、そこまで言われるともうなんとも言えないって感じです」
提督「理屈で片付けられる情動ではないのだと思う。納得したいんだよ。この知性が、この感情が、この意志が本物の俺の物であるかということを」
雪風には提督の言っていることは分かったが、彼がどんな感情を抱いているかを理解することは出来なかった。
けれど、彼が何かしらの“納得”を手に入れるまではその有様を見届けていたいと想った。
545 :
【68/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 22:04:47.25 ID:C4qVFItR0
提督「足柄のやつ、どうにも上手くやれたみたいだな」
ノートパソコンを開き、ニュースサイトを眺めている提督。「贈収賄事件の真犯人現る!」という見出しが躍っている。
雪風「あー。でも、横須賀の提督が捕まったわけじゃないんですねー」
提督「そりゃそうだろう。こういうので真っ先に標的になるのは実行犯だ。もっとも……黒幕の方もそう長くは持たんだろうがな。既に捜査の手が伸びてるんじゃないか?」
『ちょっといいかい、少し真面目な話がしたい。地下室まで来てもらえるかな。かつての執務室地下と言えば分かりやすいかな』 提督のPCに繋からのメッセージが届く
・・・・
提督「“鎮守府”でなくなってからはここもめっきり使わなくなったな、一応壊さずにそのまま残しておいたのだが……」
雪風「今更ですけど、秘密基地みたいでカッコいいですよね!」
繋に促され、両眼を覆うヘッドマウントディスプレイを装着する提督と雪風。
繋「わざわざ呼び出してすまないね。こうでもしないと直接話が出来ないもんでね」
提督(脳波を読み取られるのはあまり好きじゃないんだがな……思考が筒抜けなのは不快だ)
繋「まあまあそう言わずに。僕にとってはこの部屋が一番都合が良いんですから」
提督(言ってないんだがな……)
雪風「わざわざこの部屋に呼び出すってことは、重要な話なんですよね……?」
繋「そうなるね……磯風さんに関する話なんだけれども。彼女、大本営から来たと言っているけれど……彼女は大本営直属の艦娘じゃないみたいだ。
色々気になることがあって大本営の名簿データベースを(無断で)覗かせてもらったんだけれども……磯風なんて名前の艦娘はどこの部にも所属していないんだ」
繋「で、それだけならまだ良いんだ。ミステリアスな一面はあれど、彼女は僕たちの為に動いてくれているからね」
提督(良くないだろう)
繋「ただ『磯風』という単語を追って検索をかけていたら、面白い情報……いや、面白くない重大な情報を見つけてしまったんだ。磯風さんと直接の関係があるかは分からないけど」
繋「大本営は深海棲艦の残党に呉や横須賀の作戦情報を漏らしてるようだ、意図的にね」
提督「なんだと? MI作戦の本土強襲も、自作自演だったと?」
繋「いいや、それは違う。MIの一件は大本営からの作戦を各鎮守府の提督らがどこかで漏らしてしまったのが原因なようだ。だが今回は……その事例に倣って故意に行っているらしい」
提督「何が目的なんだ? そんなことをして何の意味がある……? 横須賀や呉と敵対関係にあるとはいえ、そんな理由で許されるような行為じゃない。大本営がそこまで愚かなはずはない」
繋「ほとんどのデータが抹消されていて、詳しい情報は分からなかったんだけど……」
『AK-クラス:████████シナリオ』
提督と雪風の眼前にテキストが表示される。
繋「このAK-クラスが、そして████████シナリオが何を意味するのかは分からない、しかし……。大本営は艦娘という存在がこの世界の存亡に関わるレベルで危険な存在だと認識しているらしい。
警戒の仕方から察するに……横須賀や呉鎮守府の提督が造反する危険性への対策、というだけではない事情があると考えていいと想う。」
提督「磯風に話を聞いてみる必要はありそうだな……」
雪風(なんかよく分からないけど……大変なことになっちゃいました)
繋「哀君。ひょっとすると、これで今生の別れになるかもしれないから伝えておく。……本気で磯風さんと事を構えるになったら僕に勝てる道理はないからね。
君は人の為に生きるべきだ。人と生きる中で幸せを見出して欲しい。それは、僕のような人工知能には出来ないことだからね」
提督「お断りだ……俺はいつだって俺のために生きるだけだし、俺は幸せになるために生きているわけじゃない。あと、縁起でもないことを言うもんじゃあないぜ」
繋「ハハ、言うと思ったけど……雪風ちゃん。哀君のこと、よろしく頼むよ」
・・・・
磯風の部屋を訪れた提督と雪風。
磯風「フフフ……そっちから尋ねて来るなんて珍しいじゃないか。良いぞ、たまにはゆっくり話でも……」
提督「そうだな。『AK-クラスのシナリオ』とは何を意味するのか……是非聞かせてもらいたいものだな」
はぁ、と残念そうな顔を浮かべて溜息をつく磯風。
磯風「繋、か。……完全ではないとはいえ、大本営のデータベースに潜り込むとは大したものだな。そうか……」
椅子に腰掛け、頭上を見上げる磯風。意識はどこかに離散しているようで、目の焦点は合っていなかった。その様子は普段の理知的で不敵な磯風とは正反対に、くたびれた老人のようだった。
磯風「はは、は……。せめてもの罪を滅ぼそうとして……それで、このざまか。何もかも、裏目だな。分かった、話そう。話すとしよう」
磯風「私の目的は……『全ての深海棲艦を滅ぼし、全ての艦娘を滅ぼすこと』だ」
546 :
【69/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 22:30:36.15 ID:C4qVFItR0
磯風「もうじき……そう間もなくだ。艦娘同士での争いが始まる。お互いがお互いを憎しみ合い、破壊し合うようになる。
そうして艦娘はこの世界を去り、再び二千年の時を待つ。私たち艦娘は人の為に生きて、人の為に死ぬ……! それが艦娘に隠された最後の真実だ。
君が深海棲艦をMIで打ち破って、新たな深海棲艦が現れることが無くなってからもうカウントダウンは始まっていたんだ。そしてタイムリミットは近い」
驚きに目を丸くする雪風。提督の方を見遣ると、彼にとっても意外だったようで考え込んでしまっているようだ。
雪風「それってつまり……? 私と磯風さんが戦うってことですか? 全然想像出来ないんですけど……」
磯風「今はまだな。“そうなってしまった”なら全て手遅れなんだよ。いや、もう既に手遅れか。解体された旧鎮守府の艦娘はどうにかなっても、横須賀や呉の連中はみな助からんだろう」
提督「待て。深海棲艦が滅んだ後に艦娘同士で争いを始めるなんて聞いたことないぞ?」
磯風「そうだろうな。繋のデータベースの中にはこの情報は入っていないし、大本営でも知っている者はごく僅かだ。だが、これは事実だ」
提督「事実だと言われて信じられるような内容じゃないな。それがお前の妄想でないという証拠を提示出来るのか?」
磯風「残念ながら現時点では不可能だ。
しかし、なら逆に聞くが、ここの職員連中に私たち元艦娘が深海から現れた異形の化物どもと戦っていたと説明したところでそれを想像出来ると思うか。そういうことだよ」
提督「……では、仮にそれが未来に起こる真実だとして、深海棲艦の残党はどうなる?それに完全なる復興にはまだまだ艦娘の力が必要だ。
艦娘の頭脳や労働力を失うには惜しすぎると思わないか? 早計すぎるだろう」
磯風「艦娘はもう、その役目を終えたんだ。だから滅ばなくてはならない……滅びなくてはならない」
磯風「それだけ残り時間はもう無いということだ。既に最善手を打った上で、その果てに今がある、もう形振り構ってはいられない。
深海の残党を一網打尽にするにしてもやはりこのやり方が一番いい。向こうにとってもここで勝負に出なければジリ貧だからな。……我ながら最低の策だと思うが」
磯風「君は艦娘はこの世界に艦娘は必要だと言っていたな……『戦うためじゃなく、より人の世を豊かにするために』と。違うんだよ。
艦娘にそんな未来は用意されていないんだ。役目を終えたら消え失せる……これが艦娘の宿命だ」
諦観。椅子にもたれかかり、全ての体重を預ける磯風。生気のない抜け殻のようだ。
提督「ならばなぜ黙っていた。なぜ今まで俺にその話をしなかった?」
磯風「MIで君が深海棲艦の命脈を絶っていなければ、私たちは手詰まりになっていただろう。
もしあの戦いで我々が敗北していたなら、主要な拠点は横須賀・舞鶴鎮守府のみになる。そんな状況で国防など出来るはずがない。
君が有能であればこそ、この話をするわけにはいかなかった。躊躇なく深海棲艦を討ってもらわねばならなかった」
提督「だが、その後は? 何のためにお前はここにやってきたんだ。俺の下働きをするために来たとでも? 笑わせるな」
磯風「……そうだ。その通りだ。君には関わって欲しくなかった。君がこの話を聞いたら絶対に艦娘を救うために動いてくれるだろうと思っていた。
そう推測していたからこそ関わって欲しくなかった。どう足掻いても助かる術など無いのだから、願わくば知らないままでいて欲しかった。
そうしてそのまま自分の目的の為だけに突き進んでいて欲しかった。それに……」
磯風「きっと君はデザインチャイルド計画の生き残りなんだろう? それも最後に生まれた一人。
デザインチャイルドは高く発達した頭脳によって、私たち艦娘さえも凌ぐ思考力・情報処理能力を発揮することが出来る。
だが、それゆえに考え過ぎてしまう、自ら命を絶ってしまうんだ。考えることを放棄できない性質ゆえに精神がやられて耐え切れなくなってしまう」
磯風「君は最も辛い運命を背負って生まれてきてしまった哀しい子だ。かけられた呪いを呪いであると自覚することさえ出来ない……。
だからこそ償いたかった。せめて、君にとっての希望ぐらいは叶えて欲しかった。私たち艦娘のことなど気にかけて欲しくなかった」
提督「勝手に生んでおいて哀れむな。自覚はあるさ……『決して絶望することが出来ない』のだろう。
『自ら命を絶つことも出来ない』し『自ら命を絶とうと望むことさえ出来ない』んだろう? 上等じゃないか。俺はアンタの成功作だろう」
磯風「この世界は抗いようのないものに満ちている。再現なく理想を望めばいつか限界が来る。
それを思い知ることが出来ない君はいつかやがて破滅的な結末を迎える……そう分かっていて君を創ってしまった。そうせざるを得なかった」 独り言のように呟く
提督「アンタがどういう人生を送ってきたかは知らないが……失望させないでくれ。俺を創った親だと言うのならもう少し子に似ていてくれよ、なあ?
俺は今アンタが親だと知って喜んでいるんだ。俺が生まれた元凶と対峙出来るなんて想像もしてなかったからな。胸が高鳴っているんだよ、失望させないでくれよ」
怒っているとも笑っているともつかないような様子で奥歯を噛み締めながら話す提督。興奮気味の提督を見て、目を疑う雪風。当然こんな姿は今まで見たことがなかった。
雪風(司令でも所長でもなく……これが、『手取 哀』本来の姿。この人の本質……)
司令としての仮面・所長としての仮面……合理的で冷静、無感情で無感動。その仮面の裏にはめまぐるしいほどの激情が動いていることを思い知った。
提督「雪風! 兄さんに全ての艦娘を収容することが出来るような設計に変更することは可能かを訊いてくれ」
磯風「何を……!?」
提督「艦娘の行動原理は“人間のため”だ。だから艦娘がお互いを破壊し合うというのも“人間のため”というやつなのだろう。
対象となる人間のいない世界でなら生き残る道があるかもしれない。あくまで可能性の話だが……今のシナリオよりはずっといい」
提督「第一、だ。『過去の全てが失敗例だった。だから艦娘は救う道がない』……そもそもその前提は正しいか?
深海棲艦と艦娘の戦いが2000年に一度欠かすことなく繰り広げられてきたのであれば、最多でもせいぜい百数十回か。
元提督を舐めてもらっては困るな。提督というのは、幾百幾千幾万と同じことを繰り返すものだ。百回や二百回の失敗など誤差の範疇だろう。
歴史とはそういうものではないのか? 過去を受け継いだ上で更なる理想へと近づけていくことこそが未来に生まれた者の使命だろう」
提督「では改めて……力を貸してもらおうか、磯風。俺に考えがある。俺と兄さんならば、お前にとっての絶望さえ超えられる」
547 :
【70/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 22:31:47.16 ID:C4qVFItR0
提督「やっぱり杞憂だったじゃないか。なーにが『これで今生の別れになるかも』だ」
雪風(磯風さんと話をしてから数日後。司令は以前よりも素の口調になることが増えた気がします)
『あんまからかわないでくださいよ……あの段階じゃ磯風さんが何を考えているんだか分からなかったんですから。
そんなことより大胆な仕様変更のせいで頭がフットーしそうですよ全く』
『ま、嬉しいんですけどね。やっぱり君は僕に対して無茶苦茶な要求してくる時が一番輝いていますよ。
……口では尖った事を言っていても、やっぱり哀君は優しい子ですね』
繋に対し『減らず口を叩いている暇があったら作業を進めろ』と返信する提督。
雪風(繋お兄さんは設計・開発のための作業に追われています。本人曰くフル稼働で手一杯らしいですが、そのわりには余裕そうな口振りで安心します)
提督「やれやれ……いつまでもガキ扱いされていてはかなわん」
提督「しかし残された時間が少ないな。それに、不確定要素が多すぎる。呉と横須賀が深海棲艦の残党とぶつかる……これはまあ避けられないだろう。
深海棲艦を残したまま地上を去るわけにはいかんしな。情報を漏らしてあるのを逆手に取って立ち回れば倒すこと自体は出来ると思うが……奴らが大本営の言うことなんか聞くだろうか?
今にも反旗を翻しかねないぐらいの不穏っぷりだしな……宇宙船に連れ出すのも含めてどうやって説得するかが悩みどころだな」
提督「そのままこちらの意図を伝えたところで絶対信用されないだろうしな……上手い事丸め込められる口実が欲しいところだ」 珈琲を口に運ぶ提督
磯風「司令よ。言われた通り旧佐世保鎮守府の者たちには電報を送っておいたぞ。他の旧鎮守府・泊地在籍だった艦娘への伝達はもう少しかかりそうだ」
雪風(磯風さんは司令のことを“君”や“哀”ではなく“司令”と呼ぶようになりました。
数日前のあの後にどんな会話を交わしたのかは分かりませんが、司令のことを心から信じているようです)
提督「ご苦労。さて、どれだけ集まるか……そしてどれだけの者が話をまともに聞いてくれるかだな。期待は出来ないが……やらないよりはマシか。
一段落着いたら呉や横須賀に出向く準備もせにゃならんな……ハァ、憂鬱だ」
雪風(司令も大変そうです。ちゃんと寝てるのかなあ)
・・・・
提督「『アリバトロース』型の設計を基盤にするとはいえ、開発コストや安全面に難があるしな……時間さえあれば解決する問題なんだが……。
それに、一人しか搭乗しない設計だったものを大人数収容用に変えるとなるとそれだけで厄介だというに、方々に散り散りになった艦娘をどうやって集める?
磯風の話ではもう一ヶ月ほどの猶予しか残されていないそうだが……実に難局だ」
独り言を呟きながら、コポコポとポットの珈琲をカップに注いでいる。
雪風「しれぇ……また徹夜ですか。っていうか、晩御飯食べました?」
提督「ン、夜か。もう夜になっていたか……どうやら完全に昼夜の感覚を失ってしまったらしい。飯ならさっき食べたし、今日はもう寝るよ。
さすがにこの物量相手じゃ適度に寝ないと身が持たん」
雪風「寝ないとって言いながらコーヒー飲むんですね……」
提督「ン? ああ、これはカフェ・ロワイヤルだよ。ブランデーを染み込ませた角砂糖をスプーンの上に乗せ……」
パチリと電気を消し、角砂糖に火を灯す提督。
雪風「わああっ! 何やってんですかしれえ!?」 驚き仰け反る雪風。
提督「火の熱で溶けたカラメルをコーヒーに混ぜて飲む……。どうだ、洒落てるだろう?」
雪風「ほぇぇ……そういえば司令はお酒飲むとすぐ眠くなっちゃうんでしたっけ。昔、一度だけ司令が鎮守府の宴会に参加した時もすぐに酔い潰れちゃって、響に介抱されてましたよね」
提督「うむ、これは寝酒だ。かえって熟睡を損ねるらしいが……たまにやるくらい問題ないだろう」
ゆらめく炎を眺めている提督と雪風。ふと目が合うと、にこりと微笑む雪風。
雪風「しれえは、本当は優しい人なんですね。それに、本当はとても情熱的な人なんですよね?」
提督「お前まで兄さんみたいなこと言うなよ……気色悪い。前も言った通りだ、俺は俺の為に生きているだけだ。(それと、情熱的とは一体……? こいつは何を見てそう判断したんだか)」
雪風「でも、結局こうしてあたしや他の艦娘のために動いてるじゃないですか」
提督「結果的には、な。実のところ俺にもよく分からん。だが、『お前たちのため』だと思って行動しているわけじゃないさ。そんな感情は微塵もない。お前たちになど興味もないさ」
提督「ただ……似てるんだ、俺と。この世界に必要とされなくなった者がどうするのか、どうなるのか……どういう結末を辿るべきなのか。そこが少し気になっただけだ」
雪風「それでも。雪風は嬉しいですよ。司令と一緒に居れること、すっごく嬉しいです」
雪風がそう言い終えた直後にパチッと電気を点ける提督。まだわずかに火は残っていたが、構わずコーヒーの海の中に沈めて掻き混ぜる。
提督「さてと、明日も早い。お前もそろそろ寝るといい。俺もこれを飲み干したら寝るしな」
雪風(照れ隠し……?)
提督「? どうした雪風。半笑いでこっちを見るのをやめてくれないか、不気味だ。そしてそこの柱の陰に隠れている磯風は何がしたいんだ」
磯風「チッ、ばれてしまっては仕方ないな……」
提督(ま、あるいは……こういうのも悪くないのかもしれんな……)
548 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 22:34:08.43 ID:C4qVFItR0
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獲得経験値(~70/100)
・雪風の経験値+10(現在値20)
・足柄の現在経験値:25
・金剛の現在経験値:21
・翔鶴の現在経験値:15
・響の現在経験値:13
・皐月の現在経験値:11
----------------------------------------------------------------------
投稿が遅れてしまったことを改めてお詫び申し上げます。
うーん、ここまで大幅に伸びるとは思いませんでした。
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【-75/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
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////ノートから千切った1ページ的なやつ////
連休中に起こったしょうもない出来事について書くか、作品に関する小ネタを書くかで迷いましたが後者で。
……今回は遅刻しちゃったので多少マジメに行こうかなと。
遅れた理由は単にサボっていたというわけではなくですね……。
まあリアルが忙しかったのもありますが、それよりも四回ぐらい書き直ししたせいですね。
提督がアレだとか艦娘がソレだとかほにゃららがほにゃららだとかは予め決めてた内容ではあったんですけど、なんか珍しく難産でしたねー。
例によって思わせぶりなわりにそれっぽいだけで特に関係ない系の単語が出てきますが、ちょっと今回は解説入れます。
『デザインチャイルド』の元ネタは蒼き鋼のアルペジオですね。DNA操作で生み出された存在で、驚異的な思考能力を持ち……って感じなんでわりとそのまんまです。
もちろん、都合よく引っ張ってきてるだけなので似たようなものであっても完全なイコールではないです。アルペジオの二次創作というわけではないんで……。
アルペジオの漫画を読む前から似たような設定は考えてましたが、結構ピンと来たのでそのまま連れてきました。
ええと……提督がホムンクルス的・ニュータイプ的存在だったという設定は実は最初からあったのですが、ぶっちゃけそんなん語らんでも良いかなーとか思ってたので意図的に伏せてました。
ただ、そろそろ言及しないと彼の目的や今後の動きが見えないかなーとか思って明かしてしまいました。
なんかこう、提督にいっぱい設定とか過去の経緯とかがくっついてると、胃痙攣を起こしそうになるというか、「ぼくのかんがえたさいきょうのなにがし」みたいな感じでアレというか……。
メアリー・スーなんじゃねーかと思ってちょっと避けてた節はありますねー。そんなものよりも艦娘の方を魅力的に描けって話ですからねぇ。
さりとて何の説得力もなくただなんとなく艦娘から好意を向けられまくっておモテになられる提督もエロ同人ならともかくわざわざSSで読みたいかっつーと……。
提督と艦娘との絡みもまた艦これ系の二次創作の魅力(だと個人的に思っている)ので、
提督について詳しく書くことで提督と艦娘とのやり取りに繋がるなら書いても良いんじゃないかなーとか思ったり。
どうなんでしょうねー、正直自分でもこうやれば正しいのではっていうのが見つけられてないんでアレですが。
オリキャラありきの文化って珍しいですよねー。もちろん必ずしも提督は必要ってわけじゃありませんけど……。
それから、見覚えのある黒塗りはアレですね。分かる人には分かると思いますがSCPネタですね。
アレもアレで厳しい戒律(?)の上に成り立ってる文化なので、例によって名前だけ取ってきただけです(そもそもこの作品とは世界観が違いすぎる)。
あれはあれで独自のユニークな世界観があるものなので、それを侵害する意図はありませんと明記しておきます。
ああ、ええと、あとあれですね。ネタの引用も難しいですね。リスペクトやオマージュのつもりでもそうでないと解釈されてしまったらそれまでですし。
節操なくネタ引っ張ってきてもカッチリとその作品の色に合致してないとサムいですしね。
神話ネタは基本的にオッケーかなと思ってちょくちょく混ぜたりしてるんですけど、あれもどうなんかなーとか悩んだり悩まなかったり。
作者目線での悩みに近いことを書いたので、だいぶ取り留めのない感じになってしまいました。
そもそもこういうことを考えてるわりに作品に活かせてるの? って訊かれたら微妙ですナ……。
でもでも、出来る限り良いモノを提供したいじゃないですか。自分で書いててつまらないと感じるものをお出しするわけにはいくまい。
またSOSOUをやらかしたら別の切り口でちょっと真面目な話をやるか没ネタに触れるかその他もろもろについて書くかします。
あ、あと全く関係ないですけど、六月作戦ランカー入りできてました。
労力に見合ってない報酬と言われればその通りですけど、やっぱり嬉しいもんですね。
また余力が出来たら挑戦してみたいですね! 俗に言う修羅の国サーバーなので次回も辛い戦いになりそうですが。
549 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:35:18.41 ID:IHVnrHK2o
乙 足柄
550 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:35:40.14 ID:u3smVTv8O
雪風
551 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:37:50.74 ID:JDopkgoAO
響
552 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:39:19.39 ID:Qcx5hgVAO
皐月
553 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:39:21.75 ID:zGF8vPIAO
雪風
554 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 22:39:24.40 ID:dxHd6qPcO
足柄
555 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/21(火) 23:02:37.85 ID:JDopkgoAO
乙 ランカー入りおめでとうさん
まあ遺伝子操作でウンヌンカンヌンは言い出せば半世紀位前からの話だ気にするな
556 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/07/21(火) 23:21:24.08 ID:C4qVFItR0
>>549-553
より
・足柄1レス/雪風2レス/響1レス/皐月1レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:243 なので『Phase C』は発生しません)
レス早いですね……。ちょっとイニシエダンジョンやってたらもう埋まっててビビりました。
リアルの方が落ち着いてきたので、またぼちぼち書いていきます。
遅くとも二週間以内には投稿できるかなーって見通しですです。
557 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/08/06(木) 21:01:01.49 ID:AzRC1Z2s0
『遅くとも二週間以内には投稿できるかなーって見通しです』……はい、その、あれですね。スミマセン。
いやもうほんとアレですね。書きたいのはやまやまなんですけどね。できることなら一日中書いてたいところではあるのですがね。
霞を食べて生きていくわけにもいかんので……もちろん霞というのは霞であって霞ではありませんよ。
ふざけたこと言ってないで投下予告です。~8/9までにはなんとかお出しできると思います。
なる早で頑張りますが日曜の午後とかの投下になるかもしれません。とりあえず間に合うようにはします。
////チラシの裏移設計画////
最近投下が伸び伸びになっているんで自戒の意味を込めて作者監視用のTwitterアカウントを作成しました。
Twitterって何? って人は……まあそのなんだ。あんまり気にしないでください。
https://twitter.com/sagyooh
(@sagyooh)
・基本的にこのスレと艦これに関するトピックのみ言及します
・人と仲良くするためのアカウントではありません(議論したり顔見知りのお友達とよろしくやったりするアカウントじゃないです)
・私的な日記のためのアカウントでもありません(晩ご飯の画像をアップロードしたりするようなアカウントじゃないです)
・SSを書くまでの準備運動的な位置付けで使用することがあります(補足1)
・特に理由が無い限りフォロー非推奨です。フォローされたらされたでフォローバックはしますが、ツイート内容を遡られて趣味嗜好を分析される覚悟はしてください。
・このスレの続きを楽しみに待ってくれている人のために運用するつもりです(と言えば聞こえは良いですが要は時間稼ぎって感じですね……)
*補足1
スポーツ選手が試合前に準備運動をするように、(他の物書きがそうであるかどうかは置いておいて、)
自分の場合もある程度なんかしらの雑然とした文章を打ち込んでから本題のSSを書き始めるとわりと調子がよくなるので、そういう用途で使うかもしれません。
このアカウントに関する説明の前に、ちょっとした随筆的なものを。
先に書いておきますがこれはほとんど「自分的にそう思う!」「私の中ではそういうもんなんです」って話です。あくまで私的主観。
自分の場合前時代的インターネットコミュニティ感を大事にしてるところがあってこのように匿名掲示板でSSを書いているのですよ。
(まあ発端は「こんなスレあったら面白いんでね?」ぐらいのもっと軽い気持ちで立てたってのは置いといて)
匿名であるがゆえの空気感、不特定多数の人間から来る安価で決まる混沌とした感じこそが面白いなと思っているわけで。
これをたとえばここじゃなくPixivなりなろうなりで書いてたとして、で、ツイッター上の自分のフォロワーから来たリプライで今後の展開を決める……ってえのは全然面白くねえなと。
本質的には安価を募集して次の展開を決める〜みたいな形式も上の例と同じように自分の作品を好いてくれている(あるいは興味を持っている)人間の意向で決まるって意味では近いんですけど。
ただ自分の中ではやっぱり明確に違うんですね。やっぱり、自分が匿名の存在であり相手も匿名の存在であると認識してると付き合い方は変わってくるでしょう。
ぶっちゃけて言えば誰だか分からないどうでもいい存在じゃないですか匿名ですし。でも、それでいいと思うんです。むしろ、だがそれがいいのです。
あくまで作者が創る『作品』に価値があるのであって、作者そのものには価値は無いんです。(アーティストやアイドルとしても活動してるならまた話は変わってきますが)
私個人に関する情報なんか提示する必要ないんです。匿名でいいんです。私も自分の作品に対する反応や反響だけを求めて書いてるわけですしね。
では本題に戻ってアカウントの説明。ええと、上の箇条書きは別に卑屈になっているわけではないんですね。
ただ、敢えて匿名性を保っていたいなあというポリシーがあって、そしてそのポリシーはTwitterというコミュニティの中では文化色が違うので一応説明書きしておいたと。そういう感じデス。
人に説明するだけでこんなにめんどくさいならわざわざアカウントなんてこしらえる必要ではないのでは? というのはご尤もなんですが。
いや全くその通りなんですよ! 一週間に一度ぐらいのペースで投下出来りゃあこんなもん作る必要は無かったんですよ。ただ現実問題それは実現不可能っぽいので……。
(やや自意識過剰気味ですが)次の話を心待ちにしてる人を何週間も待たせるのは心苦しいので、待ってる間も少しは楽しませることが出来たらなーという意図がありますハイ。
もちろんTwitterアカウントなんぞ所詮オプションに過ぎないので、見なくても全く問題はないです。
あんまり大事な内容は書くつもりはありませんし、仮に書いたとしてもその時はこっちにも載せますんでご安心を。
あくまで作品を書くことが主であって、その他全てはおまけです。本末の線引きはきちんとしたいと思ってます。
そんなわけで、残り最短だと25レス。長いようで短いようなどうなんだか分からないぐらいの期間になりそうですが頑張っていきたいと思います。
完結までもうしばしお付き合い願います。
558 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/08/06(木) 21:02:20.42 ID:AzRC1Z2s0
(25じゃなくて30レスですね……何はともあれよろしくお願いします)
559 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/06(木) 21:02:50.74 ID:RIEGCwVpo
乙 待ってる
560 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/06(木) 21:05:19.37 ID:tRLRVehMO
すっげえ構ってちゃんだなあ…
561 :
【71/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/09(日) 23:27:51.68 ID:l5g351Z90
提督「敬礼などよせ。俺はもうお前の上官ではないのだからな」
提督と雪風は、赤城に呼び出され彼女の道場を訪れていた。
赤城「いいえ、貴方はいつまでも私にとっての提督ですから。突然呼び出してしまって申し訳ありません」
提督「(……それでは困るのだがな)『俺に会う必要がある』と判断したんだろう? なら構わんさ、約束した通り応じよう」
赤城(提督のお顔……初めて見る……。凛々しくて素敵ですね……見惚れてしまう……)
提督「? あぁ、仮面でないのが気になるか? その話も後でしよう。何にせよ屋内に入れてくれないか。日暮れとはいえ西日が差して暑い」
・・・・
赤城「驚きました……提督は宇宙飛行士になりたかったんですね? 子供の頃の夢? とかですかっ!?」
目をキラキラさせながら食いつく赤城をあしらう提督。
提督「(こいつ、こんなにテンション高いやつだったか……?)別段そういうわけではないし、勝手にお前の脳内で俺の過去を妄想するのはやめろ。というか、話の腰を折るな」
提督「仮面で素顔を隠していたのは、そういう理由だ。退役後の動向を知られたら困る……のだったが。そこから先はさっきの話の通りだ。顔を隠す必要もなくなった」
赤城「なるほど、艦娘同士での対立……ですか。でも、それと提督が宇宙を目指していることと何の関係が?」
提督「艦娘の行動原理が“人のため”であるならば、対象となる“人”のいない世界では制約なく振舞える……と考えた。
お前が俺を呼び出した理由である元艦娘の召集の件も、元艦娘を集めて艤装ごと別の星に隔離する計画のためだ」
赤城「……! ですが、艦娘たちがそれに応じるでしょうか? それに、その計画が本当にうまくいくという確証はあるのですか……?」
提督「実のところ、うまくいくかどうかは関係ない。ひょっとしたら移住した先でも艦娘同士での戦いが起こるかもしれん。が、問題ないのだよ」
赤城「?」
提督「轟沈していなければ……人としての肉体さえ失われなければ艦娘は蘇ることが出来る。要は前と全く同じ艤装を用意してやればいいだけのこと。前例がある。
応じなかった艦娘ら同士で争いを始めようと、最終的に艤装を失った抜け殻を回収してこっちに連れてきてやればいい」
提督「とはいえ……出来ることなら穏便に済ませてやろうという腹積もりだがな。これは上官としての命令ではなく、俺個人としての依頼だが……赤城。
お前には俺のために動いてもらいたい。召集の前段階から打てる手を打っておきたいんでな。協力してくれるか」
赤城「もちろんです。この赤城……提督のために尽力します」
・・・・
赤城「よし、二航戦や五航戦の子たちには連絡しておきました。加賀さんも明日は休みそうだからその時に伝えればよし。これで今日やれることは済ませたわね……」
提督と雪風の寝室の襖をピシャーッと開ける赤城。
赤城「提督♪ お酒を用意したので晩酌でもいかがでしょうか? ……って、あれ?」
雪風「んぁ。しれぇならついさっき走り込みに行ったので、しばらく帰って来ないと思いますよ。昼間は暑くてそれどころじゃなかったから、夜やるそうで」
パジャマ姿の雪風。眠たそうな目でノートパソコンをいじっている。
赤城「あら、それは残念。……」 まじまじと雪風を見る赤城
雪風「?」
赤城「ひょっとして、提督ってそういう趣味なのかしら、と……」
雪風「あの……怒られますよ? それに、私だって見た目がこんなんなだけであってですね……」
赤城「フフッ、失礼しました。……でも、提督に相当買われてるんですね。雪風さんは提督のことをどう思ってるんですか?」
雪風「んーと、それはどういう意図で言ってますか? 質問に質問で返すようで悪いですけども」
赤城「私は、提督をお慕いしているので。貴方もそうなのかと気になるのです。
提督と心から一つになりたいと、思いませんか? 運命を共にしたいとは思いませんか?」
雪風(おぉ……。そういえば、響も司令にベタ惚れでしたね。『私は彼のことを愛している』とかなんとか)
雪風「いやぁ……そりゃあしれぇの事は好きですけど……。多分、そういう対象ではないですね……釣り合わないっていうか、なんていうか。
しれぇと一緒に居られる日常は楽しいし、いつまでも続いていて欲しいと思いますけど……そこから一線を超えるのは、なんか違うかなって思うんです」
雪風「司令が雪風の才能を認めてくれて。雪風もそれに応えたいと思うだけで。
しれぇに不要だと思われたら、そん時ゃそん時ですかねぇ。まあ、仕方ないと思ってます。そうならないように頑張るつもりですけどね!」
赤城「そう、でしたか。……でも、提督が雪風さんを傍に置いている理由が分かった気がします。考え方が結構提督に似てますよね」
雪風「えぇ……。しれぇに影響されたのかなぁ……」
・・・・
提督「……ィクシッ! 夜風は存外冷えるもんだな」
562 :
【72/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/09(日) 23:49:03.02 ID:l5g351Z90
赤城に呼び出された翌日にその足で手取提督は呉鎮守府を訪れた。井須提督とは既に話を済ませた後のようで、今は鎮守府内の客室で響と面会している。
提督「久しぶりだな。……こちらも余裕が無いので、あまり長い時間は居られんが。折角なので少し話をしに来た」
響「随分と待ったような気がするよ。もっとも、これ以上待たされるようであればこちらから引きずり出すつもりで居たが」
提督「さて本題だ。お前たち呉と横須賀の艦娘のほとんどは次回の大規模作戦に出撃する」
響「……ああ、それか。実を言うと、これから君が話そうとしている内容は比叡から既に聞いている。
赤城から話を聞いた金剛の比叡の話だから、又聞きの又聞きになるのかな? 多少歪曲しているかもしれないが」
赤城は自分の同僚である加賀や、後輩であった二航戦・五航戦、そして以前自分の下を訪れた金剛に召集に関する補足の情報を伝えた。
内容は、召集には手取提督も応じるということ、やがて艦娘同士での争いが始まるようになるということ、手取提督はそうなる前に手を打つつもりだということの三点である。
赤城からの話を聞いた金剛は、まず比叡に連絡を入れた。現役の艦娘である比叡は元艦娘の召集があるということさえ知らなかったようなので、最初にそのことから話した。
響「元艦娘の召集があり、それが行われるのは私たちが次の大規模作戦時なんだろう」
金剛は、艦娘同士の戦争が起こると比叡に伝えた。だが、比叡はそれを信じる気にはなれなかった。
所属は違えど今まで幾多の戦場を共にした者同士で争いを始めることなどあるだろうか?
たとえ実の姉の言葉であっても、何かの間違いに違いないという確信が彼女の中であった。
そう考えたからこそ、自分の抱いた疑念ごと響にそのまま伝えることにしたのだった。
響「私も比叡の意見に賛成だ。その一点だけは俄かに信じがたくてね。直接そういう事象が起こるのを目の当たりにしない限りは信用出来ない」
響「というのもだ。私は君の智慧と才気に関しては全幅の信頼を置いているが。君の立ち位置に関してはいまいち信用することが出来ないでいる。
結局のところ君は大本営の使い走りだろう? 君が動かざるを得ないのっぴきならない事情があるのではと勘繰っている」
響「そもそもだ。今の君の行動は、本当に君の意志によるものか? 純粋に君の目指しているものがそこにあるのか?
艦娘同士の争いを防ぐ術というのが具体的にどういうものかまでは分からないが、仮にそれがあったとして、君は本当にそれを成したいと思っているのか?」
響「君にとって艦娘とは何だ? 私とは何だ? 利用価値のある駒か? 守りたい存在か? 仮に私たちが争いを始めたところで、それが君の利害にどう作用する?」
提督「質問攻めだな……要点を絞ってくれ。何が聞きたい」
響「いや、回答を期待したものではない。少し興奮してしまってね。気にしないで欲しい」
響「ただ……かつての君では考えられない動きだったから、そこが少し気になった。君の行動原理が知りたいだけなんだ」
提督「そうだな。では答えよう。別に艦娘を救う救世主を気取っているわけではないし、実のところ艦娘のために動いたところで特に俺の目的とは関係ない」
提督は響に対して召集の目的は艦娘を宇宙船で別の星に移住させる計画をしていること、仮説通りならそれで艦娘同士の衝突を避けられるのかもしれないという話した。
響「そうか。君はこの地球を去ろうというのだな……その行為自体は君の望みか? それとも、それも艦娘のためなのか?」
提督「いいや。それは俺の目的だ。自分とは何者なのか? この宇宙とは何者が創ったのか? この世に生命が生まれ出づるその意味とは?
俺は自分の知識欲を満たしたい。だが、この地球は俺の欲望の容積を満たすには狭すぎる。だからここから離れて、俺が万物を理解するための『真理の箱庭』を創り出す」
響「ハッハッハッ、狂ってる……ハハッ、ァハッ! フ、フフ……。ハァ……これは驚いた。いや、見事だ。痺れたよ。流石というべきだね」
響(どうにも毒気が抜けた印象があったが……やはりこの人はナチュラルに狂っているんだな。背筋がゾクゾクする。それでこそ、だな)
提督「艦娘に関しては、正直のところついで程度にしか思っていない。
この地球に場所が用意されていないのなら、俺が用意してやろうという程度だな。強いて言うなら親切心といったところか」
響「ふふふっ、司令官からまさかそんな言葉が出てくるとは思わなんだ。ただ、そうだな。君らしい、実に君らしいな」
提督「そういうわけだ。……さて、もうじきここを離れなくてはならん」 腕時計を一瞥する提督
響「そうか。名残惜しいが仕方ない。……わざわざ私一人にこうして時間を割いたということは、力を借りに来たという解釈で合っているかな」
提督「もちろん。では解答を聞こうか」
響「さっきも言った通り、私は艦娘として比叡の意見を信じていたい。けれど……それとは関係なく、君の野望に興味を持った。協力させてもらうよ」
・・・・
呉鎮守府 艦隊会合室
比叡「手取司令と会ってきたんですねー」
響「その通り。顔に出ていたかな?」
比叡「顔には出てませんけど……その上機嫌っぷりを見れば分かりますって」
響「まあ、ね。やっぱり彼は素晴らしいよ。話していて心が躍ったんだ、長らく忘れていた感覚だよ」
比叡「はぁ……そうですか。で、これからどうするんですか?」
響「彼のあの目は、もうゴールを見据えている目だ。私が協力してやるまでもないだろう。きっと自分の思った通りのことを成し遂げるさ。
だが……私は彼の役に立ちたいと思う性を抑えることが出来ないんだよ」 キラキラ
比叡「ゾッコンですねぇ。……ん?」
比叡(今、響の艤装がなにやら黄色いオーラを纏っていたような……? 気のせい??)
563 :
【73/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/09(日) 23:56:11.98 ID:l5g351Z90
清霜「どうって言われても……行くしかないでしょ。このままバックれるわけにも行かなくない、ねぇ?」
足柄「大淀は本当にそれでいいの? わざわざこんな立派な事務所まで立てたのに」
書類を整理しながら召集の件について話し合っている清霜・足柄。大淀は事務所に届いた大きなダンボールを慎重に運びながら足柄の問いかけに返事する。
大淀「? 別に構いませんよ。軍に呼ばれているのなら行くべきでしょう。私たちはまだ艤装を解体されていない以上、厳密には艦娘ですし」 ヨッコイショ
足柄「いやあ、でもわざわざ召集するぐらいだから軍に戻れぐらいのことは言ってくる可能性が高いんじゃない? そうなった時のこと考えてるわけ?」
大淀「もちろん考えてますよ。というか、そうなることを予期しています。軍に戻れと命じられることは無いと思いますが、それクラスの話はされるでしょうね」
足柄「大淀。あなた例の事件の弁護が終わった後もちょくちょく大本営に行ってるみたいね。ちょっと情報共有しなさいよ、事の全容が見えてこないわ」
大淀「あの事件のおかげで大本営には恩を売れましたからね。私なりに色々と気になることを調べて回っていたのですよ。で、知ったことは、これです!」
清霜「おかげってさあ……。ところで、なあにこれ? 『月面移住計画』……?」
大淀がテーブルの上に置いたのは、ロケットの図面が描かれた資料だった。
足柄(まさか……?)
大淀「運用コストの観点から、現在の艦娘を養っていくのは困難なようです。
今まではそれでも深海棲艦を倒さなければなりませんでしたから、無理に無理を重ねて燃料等を捻出していましたが……いよいよ限界だ、とのことです」
清霜「うん。そういう理由もあって例の軍縮があったんだよね。それでもダメだってこと?」
大淀「はい。これは大本営の地下施設で撮った解体待ちの艤装の写真です。幾つか、赤い光を帯びている艤装が見えますよね?」
清霜「これは……なんか、深海棲艦の纏ってるオーラと似てない? 赤いやつ……elite種だっけ?」
大淀「そうなんです、まさにその通り。この状態はまだ第一段階ですが、黄色、青色と変色していくようです。ちょうどMI作戦の後から確認されるようになった症状らしいです。
状態が遷移するごとに艤装の持ち主である私たちの精神や肉体もよろしくない方向に変調していくようです」
足柄「青色になるとどうなるの? 深海棲艦にでもなるのかしら」
大淀「近いですが……完全にそうはなりません。深海棲艦と違って人に危害は加えませんから。攻撃の対象は艦娘です。
MI作戦終了後に、既にいくつかの鎮守府ではそういう事件が起こっていたようで……。鎮守府を横須賀と呉の二つに集約したのは、混乱が各地に散らばるのを防ぐためだったようです。
幸い二鎮守府でそういうケースはまだ起こっていないようですが……。赤や黄色の光を纏った艤装を装備している艦娘が発見されてはいるそうです」
大淀「で。本題はここからです」
ダンボールの封を開けると、中に入っていたのは赤色の光を放つ艤装。
大淀「これが私たちの艤装です」
絶句する足柄と清霜。
大淀「残された時間はそんなに残っていないようです。この事務所は畳んで、手取提督の指示に従います」 スチャッと眼鏡をかけ直し、艤装を身に着ける大淀
足柄(手取提督? どうしてそこであの人の名前が……?)
大淀「そりゃ、名残惜しいですけど……そうも言ってられませんからね」
足柄「この赤いのをどうにかする方法は無いのかしら?」
大淀「地球外の環境を再現した部屋では艤装の変質が緩やかになるという実験結果が出ているそうです」
足柄「……! 道理でね。なるほど合点がいったわ」
大淀「提督が開発していたロケットで艦娘たちを月まで連れていく……という算段だそうで」
清霜「なるほど! だから明日艦娘をひとまとめに集めようとしているわけね。でも、この艤装は何のために?」
大淀「私たちヴェアヴォルフに与えられたラスト・オペレーション、といった所でしょうかね」
・・・・
足柄(海を走るこの感覚も随分久しぶりに感じるわね。半年も経ってないはずなんだけど)
東京にある大本営で艦娘の召集が行われた後、他の艦娘たちは旧佐世保鎮守府へと集められたようだ。
一方足柄ら三名は海路を突き進みステビア海方面へ向かっている。
清霜「『黄色い艤装の艦娘』が要注意なんだよね」 無意味に双眼鏡を覗いている清霜
大淀「はい。『青色』になって即座に味方を襲うようになるというわけではないみたいですが、注視が必要ですね」
足柄(ステビア海に結集した深海棲艦を倒しに横須賀・呉の連合艦隊が交戦しているらしく、その戦いの様子を監視して提督に報告するというのが今回のミッション。
この作戦が終わった直後に、戦闘から帰還した艦娘たちも連れてロケットで宇宙へ向かう。って……イメージ湧かないわねえ)
足柄「ま……これで最後みたいだし、派手に暴れさせてもらおうかしらね!」
大淀(今回は暴れてもいいとは言われてないんですけど……まあいいか)
564 :
【74/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/10(月) 00:02:51.00 ID:Mkhw/ZdS0
猛烈な勢いで軽トラックを疾走させる提督。助手席には皐月が座っている。
皐月「あと二軒だよ! 頑張れ司令官」
陽炎「ちょっと! 軽トラックでドリフトって何考えてんのよー!」
皐月「それだけ急いでるんだってば。文句言うなー!
それに、書類上は解体扱いなのに艤装を残したままだなんてめんどくさいことしてる方が悪い!」
提督(うちも龍田らの例がある以上、人のことは言えんのだがな……)
・・・・
話は一日前に遡る。大本営に集まった艦娘たちに説明を済ませ、提督もまた艦娘たちと共に佐世保へ戻った後のことだ。
提督「さて。なんとか佐世保に戻って来れたな。呉の方には話を通した。
あとは明日横須賀のを説得して、ステビア海攻略作戦完了を待って、ようやく終わりか……前者が厳しいな」
皐月「司令官、大事な話があるんだ。聞いて欲しい」
提督「ああ、皐月か。すまんな……卒業させてやれなかった。事情が事情なだけに仕方ないんだ。許してくれ」
皐月「うん。クラスの皆にさよならも言えないままお別れなのは寂しいけど……それより、もっと大事なことを話さなきゃいけないんだ」
皐月「ボクの通ってた学校に陽炎っていうのが居てさ。陽炎は艦娘なんだ。艤装は“書類上”解体されたことになってるけど、実際は横須賀に残ったままなんだ。
だから召集の知らせが届いてなくってさ……。陽炎も連れて行って欲しいんだ! クラスは違うし、腐れ縁だけど……ボクの友達だから」
提督「…………なぜそれを東京に居た時に言わなかった」
皐月「ごめん、突然すぎて頭から抜けてた……今になって思い出した」
提督「なるほど、それで横須賀の提督が事情を説明してなお動きたがらなかった理由か。お前のおかげで全て解決しそうだ」
提督「だが……お前のせいで俺はこれからとてつもない重労働を果たさねばならなくなった。貸し1だ」
・・・・
提督(これで『解体されたフリ』の艦娘もなんとか全員揃った。そのことを説明したらようやく横須賀の提督も佐世保に向かってくれたようだ)
提督(足柄の報告によると明日の昼にはステビア海の攻略に向かってた連中が戻ってくるらしいが……それまでにはなんとか帰れそうだな)
既に日は沈んで空には星が輝いている。高速道路を走っているにも関わらず、後ろの荷台にいる陽炎たちはグースカと眠っている。
艦娘の適応力や恐るべし。なお検問は荷物にカモフラージュして抜けてきた模様。
皐月「しれーかん。学校に行かせてくれてありがとう。ボクのわがままを聞いてくれて。卒業出来なくても、ボクにとっては良い経験になったよ」
皐月「皆、くだらない遊びに真剣になるようなバカばっかりでさ。でも、だからこそ楽しかった。あんな風に気ままに生きられたら楽しいだろうなって」
皐月「……これから先も、楽しく生きていきたいな」
提督「……」
皐月「ふぁあ、なんだか眠いみたい。考えてることがすぐ口に出ちゃうんだ。って……司令官の方がもっと眠いのか。ゴメンゴメン、気にしないで」
提督「寝てていいぞ。どうせまだかかる」
皐月「喋ってないと寝れない性質なんだ……もうちょっと付き合って」
提督(文月のやつも案外苦労しているんだな……)
提督「楽しく生きていたい、というのは気の持ちようじゃないか? どんな状況の中でも、楽しみを見出すことが出来れば充足感は得られる……と俺は考えている」
皐月「じゃあ、司令官は今楽しい?」
提督「……恐らくは」 ニヤリと小さく微笑む」
皐月「ふふふ……なるほど……。ボクも、司令官と一緒にいれば楽しいかもしれない……むにゃ」
提督「……」
・・・・
提督「着いたぞ……! どうにか、こうにか、というわけだ……」
磯風「ロケットの方はいつでも飛ばせるぞ。隕石か急降下爆撃でも振って来ない限りは問題ないだろう」
赤城「横須賀・呉に残っていた艦娘も揃っているようです。あとは、海域攻略部隊の帰投を待つのみです」
提督「よし! もう準備を始めて良い頃合だろう。動いてくれ」
皐月「んぁ……おはよう司令官」
提督「暢気なやつだなおまえは……」
565 :
【74/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/10(月) 00:26:20.36 ID:Mkhw/ZdS0
猛烈な勢いで軽トラックを疾走させる提督。助手席には皐月が座っている。
皐月「あと二軒だよ! 頑張れ司令官」
陽炎「ちょっと! 軽トラックでドリフトって何考えてんのよー!」
皐月「それだけ急いでるんだってば。文句言うなー!
それに、書類上は解体扱いなのに艤装を残したままだなんてめんどくさいことしてる方が悪い!」
提督(うちも龍田らの例がある以上、人のことは言えんのだがな……)
・・・・
話は一日前に遡る。大本営に集まった艦娘たちに説明を済ませ、提督もまた艦娘たちと共に佐世保へ戻った後のことだ。
提督「さて。なんとか佐世保に戻って来れたな。呉の方には話を通した。
あとは明日横須賀のを説得して、ステビア海攻略作戦完了を待って、ようやく終わりか……前者が厳しいな」
皐月「司令官、大事な話があるんだ。聞いて欲しい」
提督「ああ、皐月か。すまんな……卒業させてやれなかった。事情が事情なだけに仕方ないんだ。許してくれ」
皐月「うん。クラスの皆にさよならも言えないままお別れなのは寂しいけど……それより、もっと大事なことを話さなきゃいけないんだ」
皐月「ボクの通ってた学校に陽炎っていうのが居てさ。陽炎は艦娘なんだ。艤装は“書類上”解体されたことになってるけど、実際は横須賀に残ったままなんだ。
だから召集の知らせが届いてなくってさ……。陽炎も連れて行って欲しいんだ! クラスは違うし、腐れ縁だけど……ボクの友達だから」
提督「…………なぜそれを東京に居た時に言わなかった」
皐月「ごめん、突然すぎて頭から抜けてた……今になって思い出した」
提督「なるほど、それで横須賀の提督が事情を説明してなお動きたがらなかった理由か。お前のおかげで全て解決しそうだ」
提督「だが……お前のせいで俺はこれからとてつもない重労働を果たさねばならなくなった。貸し1だ」
・・・・
提督(これで『解体されたフリ』の艦娘もなんとか全員揃った。そのことを説明したらようやく横須賀の提督も佐世保に向かってくれたようだ)
提督(足柄の報告によると明日の昼にはステビア海の攻略に向かってた連中が戻ってくるらしいが……それまでにはなんとか帰れそうだな)
既に日は沈んで空には星が輝いている。高速道路を走っているにも関わらず、後ろの荷台にいる陽炎たちはグースカと眠っている。
艦娘の適応力や恐るべし。なお検問は荷物にカモフラージュして抜けてきた模様。
皐月「しれーかん。学校に行かせてくれてありがとう。ボクのわがままを聞いてくれて。卒業出来なくても、ボクにとっては良い経験になったよ」
皐月「皆、くだらない遊びに真剣になるようなバカばっかりでさ。でも、だからこそ楽しかった。あんな風に気ままに生きられたら楽しいだろうなって」
皐月「……これから先も、楽しく生きていきたいな」
提督「……」
皐月「ふぁあ、なんだか眠いみたい。考えてることがすぐ口に出ちゃうんだ。って……司令官の方がもっと眠いのか。ゴメンゴメン、気にしないで」
提督「寝てていいぞ。どうせまだかかる」
皐月「喋ってないと寝れない性質なんだ……もうちょっと付き合って」
提督(文月のやつも案外苦労しているんだな……)
提督「楽しく生きていたい、というのは気の持ちようじゃないか? どんな状況の中でも、楽しみを見出すことが出来れば充足感は得られる……と俺は考えている」
皐月「じゃあ、司令官は今楽しい?」
提督「……恐らくは」 ニヤリと小さく微笑む」
皐月「ふふふ……なるほど……。ボクも、司令官と一緒にいれば楽しいかもしれない……むにゃ」
提督「……」
・・・・
提督「着いたぞ……! どうにか、こうにか、というわけだ……」
磯風「ロケットの方はいつでも飛ばせるぞ。隕石か急降下爆撃でも振って来ない限りは問題ないだろう」
赤城「横須賀・呉に残っていた艦娘も揃っているようです。あとは、海域攻略部隊の帰投を待つのみです」
提督「よし! もう準備を始めて良い頃合だろう。動いてくれ」
皐月「んぁ……おはよう司令官」
提督「暢気なやつだなおまえは……」
566 :
【75/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/08/10(月) 00:28:10.67 ID:Mkhw/ZdS0
佐世保宇宙開発研究所、所長室(旧:執務室)。
足柄「こちら足柄! 敵深海棲艦はこの私が殲滅したわ! 艤装が青白くなってる艦娘も居ないわね」
提督「(交戦しろとは命じてないんだが……)ご苦労。ではそのままこっちに向かってくれ」
提督「フゥ……」
深い溜息をつく提督。
雪風「しれえ! いよいよ、ですね……!」
提督「ああ。なんとかなるもんだな……。全ての準備は整った。奴らが帰ってくるあと数時間で全てが終わる……」
隣にいる雪風を見る提督。
提督(いや、始まりと言うべきか。注力すべきはここから先であり、まだスタートラインにすぎない)
提督(時間で換算すればさほど長い期間では無かったはずなのだが……。随分と長い道のりだったな)
ソファに深く腰掛け目を閉じる提督。それが達成感によるものなのか、疲労感によるものなのかは分からない。
雪風「しれえ? ……寝てます?」
提督「いや……向こうに着くまでは寝るわけにはいかんよ。ただ……これまでを振り返って、長かったと思ってな。少し感慨が湧いただけだ」
雪風「そうですか。……あたしはあっという間だったなって思いました。
色んなことがあっという間に駆け抜けていって……ほとんどわけもわからないまま目まぐるしい移り変わりを体験して。
でも……司令の傍で過ごした日々はいつも楽しかったし、幸せだったなって思うんですよ」
提督「なるほど、雪風にはそういう風に感じるんだな。お前に限らず、俺の周りの人間は俺に振り回されてばかりだからな……」
雪風「あー、確かに……。でも、あたしは、司令に振り回されるの好きですよ。あたしだけじゃなくて、他のみんなも」
雪風「だって、しれえはなんでもやってのけてしまうじゃないですか。どんなに無茶苦茶なことが押し寄せても動じないっていうか。
しれぇのそういうところ、あたし好きですよ」
提督「……」
雪風(しれぇはこういう時はいつも黙っちゃうんですよね……どんなこと考えてるんだろ)
提督「お前は俺の傍に居て楽しいと思うのか。だが……それは本当に正しいことなのだろうか」
雪風「正しい、というのは?」
提督「俺は分からんのだよ。俺がお前たち艦娘やそれに関わる人間の人生を左右してしまうことが正しいことなのか」
提督「無論、自分の利益のためなら俺はお前たちを躊躇いなく利用してやる。
だが、これは俺の為にやっていることなのかお前たちの為にやっているのか分からんのだよ。
後者であるならば、本当にそれはお前たちの為になることなのか……? とな」
雪風「ためになるとか、ためにならないとか、そういうもんじゃないと思いますよ。
しれぇが皆のために尽くしたいと思うのなら、それは素晴らしいことじゃないですか。立派なことですよ」
提督「立派かどうかは問題ではない。利をもたらせるか……だ」
提督「いや、こんなことを考えること自体が俺らしくないのか?」
雪風「司令は変わったんですよ、きっと。今はまだ変化に気づいてないだけで。司令は、人の幸せを喜べる人になったんですよ」
雪風「自分が悲しくなくても、自分の周りで人が悲しんでたら悲しいんですよ。自分の周りで人が喜んでたら、嬉しいんですよ。
きっと、人と人とが分かり合うってそういうことだと思うんですよ」
提督(『人と人とは分かり合うことができる』……か。金剛もそんなことを言っていたか)
提督「あるいは……そうなのかもしれないな。そう、ありたいと思う」
・・・・
提督(いざ……)
雪風「艦娘の収容も済んでます!」
磯風「繋の最終調整も済んだそうだ。さ、行こう」
提督「ああ。この景色ともお別れか」
雪風「……少し、寂しくなりますね」
雪風「でも、寂しくならないように、向こうでもたくさん思い出を作りましょう」
提督「……そうだな」
提督と雪風は地球から見える空と海の景色を瞳の奥に残し、ロケットへと乗り込んだ。
567 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/08/10(月) 00:36:33.92 ID:Mkhw/ZdS0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~75/100)
・足柄の経験値+1(現在値26)
・雪風の経験値+2(現在値22)
・皐月の経験値+1(現在値12)
・響の経験値+1(現在値14)
・金剛の現在経験値:21
・翔鶴の現在経験値:15
----------------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【76-80/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
01〜12:雪風
13〜32:翔鶴
33〜50:金剛
51〜69:響
70〜79:足柄
80〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
568 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:36:48.45 ID:/6I5xuDgO
お
569 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:36:55.66 ID:e66UuDToO
あ
570 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:37:01.64 ID:6OfQZNYRO
あ
571 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:37:13.58 ID:CriKJgR9O
q
572 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/08/10(月) 00:37:22.62 ID:PHUKyXJJO
あ
573 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/08/10(月) 01:10:14.89 ID:Mkhw/ZdS0
>>568-572
より
・金剛1レス/響4レス(1レス)
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:295 なので『Phase C』は発生しません。
>>569
よりエクストライベントが発生します)
////チ////
夏イベは今日から……? E7まであるそうなんでなかなか厳しい戦いになりそうですね。
とりあえずピザ食べながら攻略頑張ろうと思います。
574 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/09/02(水) 22:03:41.91 ID:Miiu9cf90
次回の投下は9/4(金)を予定しております。
まただいぶ間が空いてしまいました。イベントがあったので仕方ないってことで許し……ダメ?
////今回のイベントの話////
ごく個人的な話をします。
ちょっと前ですがE7甲突破したんですけど……今回はその話題です。
いやあ今回は……壮絶な難易度でしたね。
13年夏頃から始めてて今ではランキングで一桁台を取ってるような知人が居るんですけど、その人でも甲は投げてたぐらいですからねぇ。
私の場合は運良くなんとか……と言っても運を時間でねじ伏せたと言った方が正しいですかね。
前日に3重キラ付け部隊を作りまくっておいてー、そこからローテーション用の予備戦力もキラ付けしておいてー、
0時ちょうどに起きれるように仮眠取っていざ決戦! って感じでした。
攻略にかかった時間は実質17,8時間ぐらいでしたかねー。
南逸れの絶望感と0時リミットによるプレッシャーののシナジー効果が半端なかったです。
倒した時はもう舞い上がっちゃって、友人にSkypeで通話かけて鬱陶しがられるほど狂喜乱舞してました。
ついに防空棲姫を大破まで追い詰めた状態で夜戦に突入するもカットイン要員が三人潰されて絶望的、資源も尽きたので再挑戦も困難、
残るは重巡一隻って状況からクリティカル連撃をキメられたらそりゃあもう有頂天にもなるってもんですよ。
あそこで倒せてなかったら最悪今もE7甲を攻略することになってたかもしれませんね……恐ろしい。
今は全難易度を甲で攻略したことをめっちゃ後悔してますね(掘りが辛い)。
いやね、E3でS勝利取れないんですわ本当に! ダブルクウボーバがいい感じに第二艦隊を苛めてきてですね……。
575 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/03(木) 10:24:30.90 ID:3jEDyiLSo
乙です
毎度思うけど執筆とイベ攻略とリアルを同時進行できる
>>1
には頭が上がらない
いつでも待ってます
576 :
【76/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/04(金) 23:20:01.92 ID:AuTFT3KD0
『バビロン』。それがこの宇宙船に託した名だ。ああそうだ、説明するまでもない。由来はあの塔だ。
かつて人類が目指した神の国、その扉を叩くための塔――“バベルの塔”。もっとも、そこまで大それた目的ではないが……。
“バベル”の結末は知っている。だが、俺の計画を阻むような狭量な神であるならば。
……チェーンソーでバラバラにでもしてやろうか。
・・・・
『バビロン』、雪風に聞いたところ、メソポタミア地方の古代都市の名前らしい。
……メソポタミアと言われても、それがどこにあるのかは皆目検討つかないが。
司令官のことだから“バベルの塔”とでも掛けたのだろうか。そう考えるとなるほど合点がいく。
もしこのまま私たちが地球に残っていては艦娘同士の争いが起こるという。
私は未だにその話を信じてはいないが、このように艦娘の全てを一斉に集められては従うほかない。
まったく道理を無理で貫き通すのが得意な御仁だ。いや、彼の前では無理も無理でないのだろうか。
“バベルの塔”か。そうか……フフッ。
いや、実に彼らしいな。失敗が許されないここ一番でそんな名前を引っ張りだしてくるのか。
敢えて……にしても不遜だし、不吉だな。
だからこそか。だからこそ、なのかもしれない。
彼の目指す『真理の箱庭』というものが具体的にどんなものかは分からない。
だが、もしこの世に神が居るのなら。彼はその神に限りなく近づこうとしているのだろう。
彼の歩むその道は、希望なのか破滅なのか……。
・・・・
ここがどこだか分からない。何も見えない。感触もない。自分の体が棒立ちしているのか、横たわっているのかも分からない。ただ音だけは聞こえる。誰かが俺に話しかけている。
繋「結論から言うとね」
繋「計画は失敗した。設計は完璧だった、事故も起こらなかった。全てうまく行っていたよ」
繋「でもね、君の身体ではこの地球を離れることが出来ない。仮に宇宙アレルギーとでも名付けるべきかな。
地球から離れれば離れるほどに全身の細胞が癌化していってしまうようだ」
繋「君の肉体は君も知っての通り、艦娘たちが使うような高速修復剤によって保たれている。身体の全てが修復剤で出来ていると言うべきかな。
だから艤装をつけた状態の艦娘同様に心臓を貫かれたところで致命傷にはならず、肉体を再生不能になるレベルまで細切れにされるか、脳の大部分を破壊されない限り蘇生する」
繋「結果として何が起こったかというと……。君はバビロンで地球を離脱している間、幾度となく死に続けた。修復剤で完治した部分から癌で壊死していき、壊死した部分をまた修復剤が直す。
しかし、君の体内に血液のように流れている修復剤にも限りはある。あのまま月を目指していたら君の肉体も消滅していただろうね」
繋「だからバビロンは地球に戻った。そして今君は病室のベッドの上だ。君の“肉体”は」
提督「……どういうことだ?」
繋「君の肉体は半不老不死と言ってもいい、体内の修復剤の尽きない限りはね。だけど君の精神、いや君の魂はあの肉体から剥がれ落ちてしまった」
提督「幽体離脱、というところか。なら、肉体へ戻らねばならんな。俺はこれからどうすればいい」
繋「無いんだ。君はもう死んでしまった、だからもう……戻れない。かつて君であった肉体には別の魂が宿ることだろう。そうして手取哀として生きていく」
提督「なんだと……なら、俺はどうなるんだ?」
繋「数日で消滅する……少なくともこの次元ではないどこかに行ってしまうだろう」
・・・・
『バビロン』を降りた後、艦娘たちはひとまず数ヶ所の施設に収容されたらしい。しかし私、Верныйは脱走し、司令官と直接会える機を伺っていた。
『バビロン』は一瞬だけ地球を脱すると、Uターンして再び地上に戻ってきた。
特に問題なく発てていたようだしあのまま月を目指すことは容易だっただろう、一体何があったのか。
他の艦娘は、突然の計画中止に不満を述べていたり、これから起こるであろう事態を不安がったりしていたが、私は忘れ物を取りに戻った子供のようで愉快だと思った。
何にせよ無事地球に戻ってくることが出来て一安心だ。……と、こんなふうに楽観視していられる状況ではないのだが。
響(地球の青さと、この光の青さはすこし似ているな……)
私の艤装からゆらゆらと立ち上る蒼い光。
響(司令官が言うには、このように艤装が青い光を纏うようになるとじょじょに自我を失っていくらしい。司令官はこれを仮に“半深海化”と呼んでいた)
本当だろうか? 私はこんなにも私だというのに。
響(とはいえ、こんな状況で他の連中に深海化の進行が最終段階であることを悟られてしまってはより混乱が深まるだろう。隠し通すわけにも行かないが……)
こうなってしまったら最後。他の艦娘か、あるいは同じように半深海化した者に艤装を破壊されるまで戦い続けなければなくなる……。
だが、なってしまったものは仕方がない。一度、司令官に会ってみよう。たとえ異形に身を落とす結末だったとしても、最後に彼を一言交わすぐらいは許されるだろう。
響(もっとも、そんな結末で迎え入れるつもりはないがね)
拳を握りしめて、天を仰ぐ。……特にこの行動に意味はない。
ロケットに乗車した時は青空が広がっていたのだが、台風が近づいているのか暗雲が覆い尽くしている。
間もなく土砂降りの雨が降るのだろう。
577 :
【77/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/04(金) 23:33:14.02 ID:AuTFT3KD0
ここに居ても仕方がない。そう思った。だから兄さんに別れを告げて、俺は土砂降りの雨の中を歩いていた。
霊体といってもせいぜい扉や窓をすり抜けることが限界なようで、人に取り憑いたり空を飛んだりすることは出来ないらしい。
しかし雨に打たれても濡れたり風邪を引いたりする心配が要らないというのは少し便利だと思った。幽霊というのも案外悪くないのかもな。
俺の魂というのは俺の肉体が滅びるたびに入れ替わるらしい。ハードが代わればソフトも代わる、ということらしく。
故に、手取哀の肉体には俺ではない別の精神が宿り……そいつが手取哀として生きていく。肉体に宿った新たな精神は生前の俺をもとに形成されているようだが。
俺をもとにして生成された、より手取哀に相応しい人格……か。
仮にそうだったとして、そうであるならば。
半ばで途絶えた俺の人生は、手取哀としての資格を失った俺としての人生は何の意味があったのだろうか。
『真理の箱庭』は未だ遠く、艦娘らを呪縛から解き放ってやることすら出来ず。ただただ理不尽に幕を下ろされてしまった。
結局のところ、始めから何もかも間違っていたのかもしれない。
……何のアテもなく嵐吹く夜道を彷徨っているわけではない。
この雨雲では、月の光も星の光も届かないはずだ。にも関わらず空から落ちていく、仄かな光。
今にも消えてしまいそうな小さな光だったが、今の俺はそんな小さな光にさえも意味を見出さずにはいられなかった。
・・・・
海風が吹き荒れる薄墨色の世界に似つかわしくない、色白の女性。ひどく負傷し疲弊しているようで、このまま死んでしまいそうだ。
??「ァ……」
兄さん――いや、死んでしまったのならもう俺の兄とは呼べないのか? 繋と名付けられたスーパーコンピュータは、その内部機構に更に量子コンピュータを内臓している。
スーパーコンピュータによって観測した情報を量子コンピュータ内で処理し、処理内容を再びスーパーコンピュータ部分で処理するというものだ。
霊体の俺を観測出来たのも、『目に見える観測結果から目に見えない情報を暴き出せる』量子コンピュータの性能の賜物なのだろう。
それはそれとして……どういうわけか目の前のこいつも俺を認識できているらしい。見るからに俺に向けて助けを求めているようだ。
??「助ケテ……」
提督「(助けようにも、触れたものがすり抜けてしまうんじゃどうしようもないな……)この近くに雨風を凌げる洞窟がある。そこまで案内してやるから自力で歩け」
鎮守府近海に発生する渦潮に関する研究をしていた時に利用していた洞窟だ。それっきりもう使っていない場所だが、まさかこんな形で役に立つとはな。
……洞窟に入って一つ気づいたことがある。俺が案内したこいつは泊地水鬼という種類の深海棲艦だ。
こいつが洞窟内を照らすために使っているのは通称“たこ焼き”と呼ばれる強力な深海製艦爆で、艦娘たちからは忌み嫌われる恐ろしい武装だ。
間違いなくこんなところに連れてきてはいけない危険な存在だったのだ。もし俺が生きていたのなら艦娘を呼んでただちに始末させていただろう。
深海棲艦には二種類あって、我々の領海に攻め入ってくる攻略部隊と、自分たちの本拠地を守る守衛部隊だ。泊地水鬼はその守衛部隊のボス……なのだが、どうしてそんな奴がこんな所に?
“鬼”や“姫”クラスが護衛もなくこんな近海までやって来るなど聞いたこともない。いかに強い固体といえど、単騎でノコノコやって来れば返り討ちに遭うのは目に見えているからだ。
そんな愚を犯すほど深海棲艦はバカではないだろう、“水鬼”と呼ばれる最上位種ならなおさらだ。
それに、そもそも“泊地”の名を冠する深海棲艦は持ち場から離れることは決して無いはずなのだが……疑問は尽きない。
提督「俺が見えているということは、多分今のお前は生と死の狭間に居ると推測できる。だが、まだ肉体を自らの意志で操作できるという時点で生の側に傾いている。
だから俺は生きているお前に質問をしたい。気になることは色々あるが……そうだな。どうしてお前はこんなところに一人でやって来た?」
泊地水鬼「空ヲ……コノ空ヲ、自由ニ飛ビタカッタノ」
・・・・
なんとか研究所に潜り込み情報を集めたところ、司令官は『バビロン』船内で何らかの理由で重傷を負ったということが分かった。
どうにか生き残ったらしいがまだ意識は回復していないらしい(「肉体欠損率」とか「ゲル状」とか不穏当なワードが聞こえたのは気にしないことにする)。
逆に言うと、それ以外のことは分からなかった。聞き込みさえ出来ればもっと楽なのだろうが……。
半深海化が進行しているこの姿では見つかればただじゃ済まないだろう。既に艤装だけでなく、私の肉体の感覚も侵されはじめている。
手足は寒さを感じるのに、身体の内側は燃えるように熱い。風邪を引いて熱に浮かされているようだ。
響(野宿でもすればいいと思っていたが……こうも雨風が酷いとどこに居ても濡れてしまうな)
ぼんやりと輝いている艤装の蒼い光はまるで鬼火のようだ。どうあれこの光があればこの暗雲の中でも周囲を照らすことができる。
響「……ッ!」 見つめていた艤装の光よりも遥かに眩しい明かりに照らされて思わず目を覆う
暁「響! 響なのね!? 勝手に抜け出して行方不明だって聞いてからずっと捜してたのよ!? さ、戻るわよ」
人捜しのためにわざわざ探照灯を使うのか……。にしてもやけに雨合羽とビニール靴の姿が似合うな。
響「暁?(例の一件で解体されたはずでは……?)」
暁「月に行くとか、行かないとか、色々と唐突な話だったけど……。また響に会えて嬉しいわ。響はひょっとしたらそうは思っていないのかもしれないけど……。
とにかく、こんな所出歩いてたら風邪引いちゃうわよ。話はあと! 一緒に戻りましょ」
響「悪いが……それが出来たらしているんだ。ほら、探照灯を消して私の艤装を見てみなよ。……つまりそういうことだ。
このまま真っ直ぐ引き返してくれ。連れ戻されたところでこの姿じゃ何をされるか分からない。それに、私自身も何をするか分からない。
少しずつ身体に異変を感じているんだ。このままだと君さえも傷つけてしまうかもしれない」
暁「だったら。私も響と一緒にいることにするわ! このまま響を一人にしておくなんて、レディの流儀に反するもの!」
響「おいおい、君は何を言ってるのか分かってるのか? 危険だよ、私が本気を出したら君なんて一撃でやられてしまうだろ?」
暁「曲がったことが嫌いな響が、何も悪いことをしていない私に対してそんなことするはずないじゃない。平気平気」
暁「……それに、話したいこともたくさんあるから」
578 :
【78/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/04(金) 23:49:20.85 ID:AuTFT3KD0
提督「呆れたやつだな、台風に乗って空を飛ぼうとして案の定死にかけるとはな……。危うくダーウィン賞深海部門の候補入りするところだったな」
泊地水鬼の話を聞いて溜息をつく提督。呼吸する必要のない彼がわざわざ息を吐き出す素振りを見せたのは、失望と嘲笑の表現なのだろう。
提督「それで、飛べたのか? 空は」
泊地水鬼「一瞬ダケダケド……。トテモ気持チ良カッタ」
提督「……そうか、良かったな」
泊地水鬼「哀シイノ……? ドウシテ……?」
提督「少し思うところがあっただけさ。それはそうと、深海棲艦のくせに人間の顔色を覗ったりなんて出来るんだな。
そもそもお前たちに感情なんてものがあるなんて聞いたことがないんだが」
泊地水鬼「ニンゲンニ話シテモ、伝ワルカドウカ分カラナイケド……、助ケテクレタカラ……」
・・・・
泊地水鬼曰く。
かつて艦娘と深海棲艦は同一のものであった。人間を見守り、救い、導く存在……まさしく『天使』そのものだ。
人間を神に近い高位の存在へと押し上げることを目的とした天からの使者、そして神の忠実なるしもべである。
ある時、神に背く天使が現れ始めた。人に肩入れしすぎた天使は、禁じられた天上の叡智“火”の力の一部を授けた。『プロメテウスの火』……古代の神話にも似たような逸話がある。
神にとってそれは看過できない事態であった。なぜか? 話は人間という生命体の誕生にまで遡る。
地球を支配する神と呼ばれる知的生命体は、もともとは火星で暮らしていた生物であった。
遥か昔の火星は地球と同様に海が広がり緑が栄える惑星だったのだ。しかしある時“旧支配者”と呼ばれる、外宇宙から飛来した生命体の襲撃を受ける。
対する“旧神”(火星の知的生命体のことを指す)はこれを退けるも、火星に存在するありとあらゆる資源を使い果たしてしまった。
そこで旧神は地球に根を下ろして住みよい環境を創造していった。また、自らの種の保存のために旧神は地球固有の生物に自分たちの遺伝子を交配させて繁殖させた。
これがこの地球における生命の始まりであり、そしてこの神と獣の末裔こそが人間である。
人間はじょじょに“感情”という強力な武器を身につけていった。そう、地球上の生き物の中でもとりわけ人間という種類は“感情”の力を多く持っていた。
これはかつて自分たちを追い詰めた旧支配者も持っていた特長であるため、人間が力をつけ過ぎないように旧神は“天使”を生み出した。
だが……冒頭で述べた通り、大半の天使は人間の側に寝返ることになってしまう。人の持つ感情の力に魅了されたからである。人の持つ感情の動きに憧れたからである。
そうして天使は自らの根源である“火”の力を授けたのである。“火”とはすなわち物事を動かす力である。
“火”とはなにも力学的エネルギーや物質的な豊かさだけとは限らない。より善くあろう、高みを目指そう、何かを成し遂げようという向上心や意志もまた“火”の一部なのだ。
“火”の力と天使の協力を得た人間は神に反旗を翻し……艱難辛苦を乗り越えて勝利を収めた。
しかし、だからと言って人間側が手放しで喜べるような結果では終わらない。まず第一に、人間と違って完全に神の被創造物である天使は呪いをかけられてしまう。
これこそが深海棲艦化である。肉体が変質し、人間や他の天使(=艦娘)に害を成すようになる。そして感情を失う。
感情を失ってしまうからかつての同胞や愛していた人と対峙しても容赦なく攻撃できる。これが深海棲艦の原則。
提督「原則、ということはお前は例外らしいな。にしても、羽も無いのにどうして空を飛びたいと思ったんだ?」
泊地水鬼「アノ戦艦ヲ貫イタ翼……トテモ速ク飛ンデイタ。空ヲ泳グ魚ノヨウダッタ……。ワタシハアレヲ見テ……“憧レ”トイウ感情ヲ得タ。羨マシイト思ッタ」
提督(まさか、皐月や文月らと乗っていた『イカロス』じゃないよな。“艦載機でもないのに空を飛んで戦艦を貫いた”って、そうと言えばそうであるが……。
あれは飛行というよりは滑空だし、墜落した位置にたまたま戦艦棲姫が居ただけなんだよな……)
どうにも、こいつのような人型を保っているような上位の深海棲艦は完全に感情を失ったというわけではない、ということらしい。
『感情を失う』という呪いに対抗するために、無意識下に“火”――意志の力で感情を持ち続けようとしているようだ。
もっとも、こいつの場合は例外的に憧れや希望を手に入れただけで、他の連中は憎悪や絶望という感情で自身を塗り固めているそうだが。
しかし、これならあるいは……?
提督「なぁ、泊地水鬼。俺と取引をしよう。もし俺の提案を飲むのであれば、こんな暗い夜の空じゃない、青空の雲の上に連れて行ってやるさ。約束する」
泊地水鬼「トリ、ヒキ……?」
・・・・
暁「私ね」
暁「響に嫉妬してたの。でもね、それは間違ってるって自分でも分かってた。
響はずっと積み重ねてきてて、その間私は何もして来なかったから。楽して良い思いをしたいなんて、キリギリスと一緒よね」
響「私はアリか。ふふっ」
暁「でもね。あれから時間が経って……私も響に憧れるようになって。だから手取司令官にお願いして、横須賀の鎮守府に回してもらったの。
響が私の手の届かない所に居るのは分かってたけど、それでもいつか一緒に並んで立てるようにって……」
響「分かるさ。努力してるんだろう? 君の持ってる装備を見れば分かる。それだけ上等な武装が与えられるぐらいには積み重ねてきたってことだろう」
暁「ううん、まだまだ足りないわ。前に進めば前に進むほどに、積み重ねれば積み重ねるほどに溝の果てしなさを感じるの。
昔の私だったら、その差を見て自分は絶対響には敵わないって思ってただろうし、ひょっとしたらそれは本当のことで、この先響に追いつけることなんて無いのかもしれないけど……でも。
それでも響のことが羨ましくて仕方ないの。戦艦や空母の人が相手でもふてぶてしい態度を取れるハートの強さと、その言動に相応しい実力と。
響が凄いのは分かってるけど、私だってそれぐらい強くなりたいわ。戦闘だけじゃなく、本当の意味で強くなりたいって思うの」
暁「だから……嫉妬したり差を嘆いたりするんじゃなくて、前に進もうって思うの、前に進みたいの。たとえ私が一歩進んだときに響が更に先に進んでいたとしても。
私が今よりもっともっと速いスピードで進めば、距離は縮まるはずだから!」
響(またいつか……四人で笑える日が来るのかな。私は、やり直せるのかな……)
579 :
【78Ex/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/05(土) 00:07:11.93 ID:cwZfD60x0
響「私の話もしようか」
響「暁も知っての通り、MIで戦いを終えてから私は呉に移ったよ。外様にしてはそこそこ上等な扱いを受けているかな。私からすれば予定調和に過ぎないけれど」
響「ただ……満たされないね。やはり私にとっては彼しか居ないんだよ。彼のもとでなければ、どれだけ上に昇っても意味がないんだ」
響「別に、呉の提督が悪いと言っているわけじゃない。才知や力量差の問題じゃなく、気質の問題なんだよ。
呉のは彼ほど才覚があるわけではないが能力的には十分力のある人物だし、彼よりも遥かに人格者だ」
響「けれど、彼は……手取司令官は果てしなく大きな欲望を抱えている。彼はまるでブラックホールのようだ。
時間が経てば経つほどに望みは広がっていき、やがては周りにいる私たちさえもその欲望の渦に巻き込まれてしまう」
響「彼の傍に居ると、どうにもおかしくなってしまうんだ。私もそうだし、彼の近くに居た他の艦娘もそうだ。
彼の狂おしいほどの熱量が伝播してしまうんだ。他の人からしたら考えるまでもなく諦めてしまうような状況を前にしても、彼は苛烈な熱狂を以って突破してしまうんだ。
何がなんでも自分の思い通りにするという圧倒的に強い意志。そして最終的には本当に何もかもを自分の思い通りにしてしまうだけの才覚。
彼のあの狂気じみた執念と覚悟が傍で感じられたからこそ、私も快感を得ることが出来たんだ」
響「だから私は。たとえ異類に身を落としてもなお、彼の傍にあり続けたいと思う」
暁(昔の私だったら、響のことを心配していたのかしら。狂気に身を落としていくさまを諌めたのかしら。でも、今は)
暁「私も……響の傍に居たい。きっとそれは、響が司令官の近くに居たい気持ちと同じなんだと思う」
暁「期待に胸が高鳴るの。私の横に響が居て、もしかしたら雷や電も居たりして。
響と一緒に居たら、これからものすごく危ない目に遭うかもしれないって頭では分かってるのに、怖さよりも興奮の方が勝るの」
響「Хорошо!」
暁の発言に、歓迎するかのように手を差し出す響。固く握手する二人。深海化が進んでいるのか、響の片方の目は紫色に変化しているようだった。
それでも暁は全くたじろがなかった。むしろ、響のどこか満足げなニヤケ笑いを見て、つられて微笑んだ。
暁「は、はらしょ?」
響「いや、ちょっと感極まってしまってね。嬉しいんだ」
響(結局のところ、私は、ただ自分の熱意に見合った友人が欲しかっただけなのかもしれないな。
だからこそ以前は信念のない暁たちがとてもつまらない存在に思えたし、司令官が魅力的に思えたのかもしれない)
響(私は、自分と同じ場所で遊んでくれる遊び相手が欲しかっただけなのかもしれない)
響(司令官……彼の存在は、私には少し遠すぎる。追いかけても追いかけてもどこかへ行ってしまおうとする蜃気楼のようだ。呉に来てからというもの、ずっとそんなことを考えていた。
彼には彼の使命があるのだろう。彼は自分の理想と他者との二つであれば天秤にかけるまでもなく前者を選ぶ男だ。詮無きことと分かってはいたが、彼の居ない日々は心底退屈だった)
響(しかし、ようやく今。私にとって最高の遊び相手が出来たのだろうということを強く予感している。暁の真剣な眼差しが、私にそう予感させている。
彼女は間違いなく私の熱意に応えてくれるのだろうという予感だ。昔のように、もう二度と遠巻きから冷めた目で私を見ることはないのだろう。
なぜなら彼女ももはや“こちら”側……私と同じ、司令官と同じ狂者への道を決意したからだ。してしまったからだ)
響「奇妙なものだな……。こうして振り出しに戻るのか。だが、悪くない」
・・・・
提督「泊地水鬼の傷はどうだ? ステビア海海戦でボコボコにやられた後に空を飛べると思って嵐の中を飛び立つ程度にはバカなので、死んでいないか心配なのだが」
繋「(ひどい言い様だ……)大丈夫、回復傾向にあるよ。それにしてもとんでもないゲストを連れてきたよね……死してなお、君らしいというか」
提督「ハッハッハッ。そうだろう? タダでは死なんさ、俺はな」
繋「でも、だいぶ落ち着いているんだね。なんだか安心したよ。……もう、すぐなんだろう?」
提督「隠しとくつもりだったんだがな、バレてるのであれば仕方ない。そう、もう間もなくタイムリミットだ」
繋「何か、新しい君に伝えておくべきことはあるかい? メッセージとか、アドバイスとかさ」
提督「ない。泊地水鬼が生きてるなら、後は取引の通り動いてくれるだろうからな」
繋「驚いた……! 本当にまったく未練がないんだね。悟り済ました、穏やかな感情が伝わってくるよ」
提督「こうして途中で死んでしまった俺も、その前に死んでしまった俺も、その前の前に死んでいった俺たちも……無駄死じゃないと分かったからな。
死んでしまった俺と、今の手取哀とはよく似た別人なのかもしれないがそれは些細な問題なんだ」
提督「未来に“火”を託したんだよ」
提督「意志の炎は、勇気や覚悟などの強力な力と引き換えに身を焦がしていく。その火に魅せられて、道半ばで完全に燃え尽きてしまったのが俺なのだろう。
だが。途中で燃え尽きてしまったとしても。自分の抱いていた願望や意志、信念を誰かに託すことが出来たなら、“火”は消えない。
多くの者に託すことが出来たのなら、今の俺が一人で抱いていたものよりも“火”は肥大化するだろう」
提督「俺の想いは、次の俺と兄さん。二人に託すんだ。だから次はもっと上手くやれるだろう。俺はそう信じている」
提督「おっと、話せるのはどうやらここまでみたいだな……それじゃあ。そうそう、最後に。兄さん、俺はあなたの弟で良かったよ。
あなたのおかげで多くの我侭を貫くことが出来た。それから、艦娘の連中にも感謝しなければ。今になって思えば、あいつらと過ごした日々も悪くはなかった。
本当に、幸せな人生だった。何も悔いはない……」
――僕の弟が最期に見せた表情は、笑顔だった。他の皆は“この手取哀”のことを覚えていないかもしれないけど。
僕だけは君のことを忘れない。僕は君の想いを無駄にはしない。
580 :
【79/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/05(土) 00:23:54.05 ID:cwZfD60x0
繋(僕の弟は、数日前に僕が観測できないどこかに旅立ってしまったようで。世の中にこんなショッキングな出来事があるんだろうか。
彼は満足して逝ったようだが……やはり僕はまだ立ち直れないでいた。僕は所詮は人工知能で、この感情も実際の人間の真似事にすぎないのだが……)
といっても、このことを知っているのはこの世に僕一人だけだ。
泊地水鬼も最初に会った時の霊魂の哀君と、今手取哀の肉体に存在している魂との区別がついていない様子みたいだし。
雪風ちゃんや磯風さんにもこの話だけはやめた方がいいんだろうなぁ。
繋(前の前の手取哀……つまり、ついこの間別れた哀よりもさらに前に死んだ哀もいるんだよね……。ややこしい話になるけど)
繋(僕は、これまでの哀の死を観測することが出来なかった。だが、今回はそれが出来ていた。霊体になっていても彼を識別することが出来た。
恐らく、哀君が生前に僕を何度も何度も改修してくれていたからだと思うけど……)
繋(それが無かったら、僕も他の艦娘たちのように、死んだ彼と今の彼とを識別出来なかったのだろうか)
提督『弟の話を無視するとは今日は随分冷たいな』
“今の”手取哀からメッセージが届いていることに気づく。とりあえず適当に返事してみる。
繋「人工知能も時には哲学するんだよ」
提督『出鱈目な受け答えするな いいから人の話を聞け』
・・・・
研究所の所長室にて。
提督「……兄さん。すまん、その、なんだ」 ノートパソコン越しに頭を下げる提督
繋『あれだけ引っ張っておいて、“霊体としての記憶も引き継がれる”ってのはずるいと思うよ』
提督「いや。一応、精神は別物……だと思うんだが。正直断言は出来ない。ひょっとしたら同じかもしれん」
繋『えぇ……』
提督「と」
ドガァッ! とドアが蹴破られる。
金剛「提督ゥ!? ご無事デスカァーッ!?」
榛名「金剛お姉様、ここはもう危険です。提督を連れて逃げた方が良いでしょう」
霧島「しんがりはこの霧島が勤めます!」
提督「な、なな、何が起こってr」
激しい地響き。理解が追いつかない。
磯風「司令! どうにも深海化した艦娘との交戦がこの近くで行われてるらしい」
雪風「研究員の皆さんは避難してもらいました。私たちも逃げましょう」
・・・・
研究所付近の森。
提督「騒動は治まったらしいな……なんだったんだ全く」
金剛「ここまで来れば一安心デスネ……」
響「そうだね」
金剛「!? この艤装は……!」 臨戦態勢に移る金剛
提督「深海化の最終段階だな。だが、どうにも様子がおかしい。攻撃は控えろ」
響「研究所の近くで騒動が起こってたから、便乗して様子を見に来たら案の定アタリだね」
提督「響。一つ質問だ。お前は今何を思って行動している? 何の意図を持ってここに来た?」
響「君に会いに来た」
提督「金剛。武装を解いて良い。ここで戦えば俺は巻き込まれてしまうが、“半深海化”は人間を攻撃することは出来ない。
それに、こいつには“感情”がある。感情があるうちは、深海棲艦のように完全に制御が外れて暴れたりすることはないさ」
暁「研究所付近での騒動はその『完全に制御が外れた者』が出たせいで起こったみたいだけど」
提督「そうか……。もう猶予はないな。磯風、大本営の最後の力を使って全ての艦娘を召集かけることは可能か?」
磯風「ああ、今回の『バビロン』計画は表向きには大本営主導のものだからやれば間違いなく荒れるだろうが……一回きりならば」
提督「それで十分だ。後は、とりあえず資源でも武器でもなんでも、とにかく要る全部かき集めておいてくれ。無茶振りですまないが、今すぐにだ」
響(あぁ、このドタバタ感……。やっぱりここが私の居るべき場所だな)
581 :
【80/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/05(土) 00:47:08.79 ID:cwZfD60x0
全艦娘らが集う中、提督は堂々たる態度で演説を始める。例の仮面を付け、今までで一番高慢な様子で、さも権威を振り撒くかのような様子で語る。
提督「『バビロン』出発前の集会で説明した通り。ここに居る艦娘らはやがてお互いでお互いを傷つけあうようになる。この地球に居ては深海化を完全に止める術はない」
だったらなぜ地球に引き返した、という旨の野次が次々と飛んでくる。心ない野次さえも鼻で笑う提督。
提督「……知りたいか? 本当に知りたいか? この俺が、直々に、説明してやらなければまだ分からないのか」 提督の放つ異常なオーラを前に野次が即座に静まる
提督「大本営もッ! 横須賀も、呉も! 揃いも揃って見事に無能だな。
お前たちは全員、全員俺の手のひらの上で踊らされていたのだからな。まったく愉快な連中だ、まったく取るに足らない連中だ!」
提督「この俺が慈善事業で艦娘を救おうなどと、『救世主』だの『神眼』だの……そんな聖者に見えたのか? 茶番はもはやこれまでだ。俺は俺の目的を果たさせてもらう!」
衝撃波が会場を襲う。泊地棲姫が空から舞い降りる。
響「では諸君、ご機嫌よう」 壇上に上がって煙幕を撒く響
・・・・
提督「さて、地の果てまで逃げるぞ」
響「良い演技だったね。ちょっと芝居がかりすぎなところはあったけど、背筋がゾクゾクしたよ」
提督「そうだろう? 俺もやってて少し楽しかった」
磯風「バカ言ってる場合か。今頃国中のお尋ね者だぞ。アテはあるのか」
提督「コイツと違って、無計画でこんなことをやらかすほど無謀ではない」
コイツとは、今猛烈なスピードで空を飛んでいる泊地水鬼である。彼女の身体にロケットのジェットエンジンを無理矢理搭載しているのだ。
かなり非人道的な行為に思えなくもないが、泊地水鬼曰く望み通りなのだから問題ない(はずである)。
提督「しかし……突貫で作ったシェルターだとなかなか厳しいものがあるな。防音性に難がある」 イタイ、イタイワウフフ
雪風「一応、泊地水鬼と私たちが乗ってるこのシェルターとの鉄線はかなり丈夫なんで、千切れることはないと思いますよ」
金剛(こいつら鬼デース……)
・・・・
フライト(?)から一時間後。南の島の無人島に到着する。
繋『今、地理的にはこの辺になるね』
提督「ふむふむ。なかなか悪くないな」
提督「ひとまず今日はこの島で過ごすことになりそうだな」 モウ……トベナイノヨ……ワカル、ネェ?
霧島「まさかの無人島サバイバル生活……この人数だと食糧も現地調達するしかなさそうですね……」
・・・・
金剛「人には食糧集めさせといて自分はサボりですカ」
提督「……」 夕日を眺めている
金剛「かもめのジョナサンって知ってますカ?」
提督「知らないな……」
金剛「ジョナサンっていう一匹狼ならぬ一匹カモメが居るんですヨ。ジョナサンは、餌を取るためだけに空を飛ぶ他の群れのカモメたちと違って、飛ぶことそのものに意味を見出すんですヨ」
提督「ふむ。飛び続けて、ジョナサンはどうなったんだ」
金剛「骨と羽根だけになって、群れを追い出されマス」
提督「そうか……カモメなのに犬死だな」
金剛「デモ。骨と羽根だけになってもジョナサンはずっと飛び続けたんデス。それで、光輝くカモメに導かれて高次の世界へと旅立つんデス」
提督「? 何が言いたい」
金剛「イヤ、テートクやハクチーを見てて思っただけデス。ビッキーもそういうとこあるカモ」
金剛「私たちは、群れからはぐれたカモメの集まりなのかもしれないって思ったんデス。だからワタシたちの艦隊名を考えたんですよ」
提督「一応聞こう」
金剛「カモメジョナサンズ」
提督「却下」
582 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/09/05(土) 00:54:23.72 ID:cwZfD60x0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~80/100)
・金剛の経験値+2(現在値23)
・響の経験値+9(現在値23)
・足柄の現在経験値:26
・雪風の現在経験値:22
・翔鶴の現在経験値:15
・皐月の現在経験値:12
----------------------------------------------------------------------
あーダメですねー文章から徹夜明けの疲れみたいなものが滲み出てますね〜。
無茶せず土日までにしとけばよかったかも……でも書いてて楽しかったっちゃ楽しかったです。
どう頑張っても鬱展開にしかならなくて3回ぐらい書き直したり書き直してなかったりしてます。
あんまり重い話にしてもアレなので(と言いつつも結構今回は色々考えてたりしますが)。
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【-85/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
583 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/05(土) 00:55:16.34 ID:3P+EbgxVo
雪風
584 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/05(土) 00:57:31.64 ID:byB0+KMiO
雪風
585 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/05(土) 01:32:14.19 ID:oynZwfh+0
皐月
586 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/05(土) 01:35:30.97 ID:briVM6uRo
雪風
587 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/05(土) 01:36:55.25 ID:Uk7tCrE1o
雪風
588 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/09/05(土) 09:14:52.33 ID:cwZfD60x0
>>583-587
より
・皐月1レス/雪風4レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:239 なので『Phase C』が発生します)
あ。次の投下でまとめて10レスにするか、次の次の投下で『Phase C』の5レスを投下することになるかは分かりませんが、
皐月や翔鶴あたりがメインのPhaseが発動します。これでだいぶ各キャラの数値的な偏りは解消されそう?
今回はアンケートで決定とかも特にせず、このまま100レス到達時点で一番値の高かった艦娘とのEDで〆ようとか考えてます。
ある程度ランダム要素が強い方が誰になるか分からなくて面白いかなと思いまして。
一方でそれはそれでどうなんだって自分でも悩んだりはしてますが……。
一応、誰とエンディングを迎えても大丈夫なように持っていくつもりではいます。
////攻略メモ////
瑞穂掘りから解放されました。
風雲はE7甲Yマスで掘ろうと考えてるんですけど、連合艦隊で1%未満のドロップ率を狙うとか瑞穂掘りとは別ベクトルで鬼ですね。
E6MZマスコースでも良いんですが、道中4戦してボスでS勝利とか支援出さないとまず無理そうだなあと。妖怪24隻キラ付けマンになるのはさすがに・・・。
589 :
【81/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/23(水) 21:53:29.42 ID:Nwym7Ov90
パチパチと焚き火の炎が頬を染める、夜。
金剛「ほらァーもっと呑むデース! フフン♪」
口に酒瓶を突っ込まれる提督。 ※危険ですので絶対に真似しないでください
提督「がばばばボッ……オフッ、おフェッ……殺す気か貴様」
磯風「こんな時に飲んでいる場合なのか……?」
響「こんな時だからこそ、さ。大きな戦いの前にやるべきことと言ったらこれしかないだろう」 グビグビ
霧島「たしかに……もうこうなってしまった以上、私たちは好むと好まざるに関わらず一蓮托生。なら、お互いのことを信頼したいですね」
榛名「……成り行きで着いてきたとはいえ、奇妙な縁ですねぇ。でも、なんだか楽しいです! 榛名、今夜は飲みます!」
暁「そうね。……今はこの偶然に感謝したいわ」
チューチューとオレンジジュースを飲んでいる暁。
提督(なぜこいつはジュースで俺は酒瓶を口に投げ込まれるんだ……)
提督「あの佐世保の鎮守府で提督としてやり残したことは無いと思っていたが、一つだけ失念していたようだ。
この組織ぐるみでのアルハラ体質をどうにかしておくべきだったな……むぐぅ……zZZ」
金剛「寝るの早くナイッ!?」
響「そう、司令官はお酒に弱いからね。この間に好き放題飲み食いできるってわけさ」
磯風(大丈夫かこいつら……)
・・・・
提督(洞窟の入口で雑魚寝って……こいつらは原始人か。酒の臭気が蔓延しているな。
必要なものをありったけかき集めてこいとは言ったが、もっと明確に指示しておくべきだったな……)
雪風「あ! しれぇ。ご覧の通りみんな寝ちゃってまして……。雪風は昼夜逆転しちゃってて、寝れてません……」
提督「……ちょうど良かった。話がある、いいか?」
雪風「はい。なんでしょう?」
提督に連れられて暮夜の海辺を歩く。散歩とのことだ。
雲に覆われた空の中で差し込む半月の明かり。月明かりを反射した海面はゆらゆらとクラゲのように揺らめいている。
提督「何か違和感はないか? 俺は変じゃないか? 何かが違っていないか?」
雪風「? どういうことですかね……しれぇはしれぇ以外の何者でもないと思うんですけど」
提督「そうか……すまない、変な質問をした。個人的な相談なんだが。いや、相談でもないか」
提督「『兄さん』に生まれて初めて嘘をついた」
提督「たとえば、だ。昨日までの俺と今こうしてお前と対話している俺で違う存在だったとして、それをどうやって証明できるか?」
雪風「そんなこと、出来なくないですか? 見た目が変わってたり、言動が明らかに変わってたりすれば別ですけど……」
提督「その通り」
・・・・
提督「つまりだ。今の手取哀と、かつての手取哀で別の人格に摩り替わっている、ということだ。兄さんの前でこそ記憶を継承しているように振舞っていたが……嘘だ。
霊体のまま兄さんとした会話も、泊地水鬼と何かを約束した覚えなど無い。俺にあるのはあの宇宙船でただひたすらに死に続けた、地獄のような記憶だけだ」
雪風「じゃあ、どうやって知ったんですか? その……自分の幽霊? のことを」
提督「まず。再び意識を取り戻してからの兄さんの態度に妙な違和感を覚えた。それから兄さんの様子を探っていた過程で泊地水鬼に出会った。
……で、奴から“取引”の内容を聞いた。奴に空を連れて行く代わりに、俺らの駒として動くとな。また、深海棲艦であっても感情を持つことの出来る者もいるのだと知った」
提督「深海棲艦と交渉しようなど常識では考えられない愚行だ。奴らは感情を持たず、意志もなく、僅かな知性だけを頼りにただ人間に害を成す。
プログラミングされた機械のように、本能だけで空を飛ぶ虫のようにだ。だが……深海棲艦となっても泊地水鬼は空を飛びたいという憧憬の感情を持っていた。
感情は意志を生む。その意志に付け込んで取引した、だから手懐けることができた……」
提督「と後付で考えられなくもないが……こんなことをやってのけるのは俺以外に考えられない。
もう一人の俺がいるという前提のもと推測していって、あとは兄さんの前でハッタリをかましつつ情報を引き出した。これで答え合わせが出来た……という経緯になる」
提督「あの兄さんが俺の『全てを思い出したフリ』を疑いもせずすんなり信じ込んだのは……死んでしまった俺と今の俺が同一であることを信じたかったんだろうな。
まあそれに……“今までの”俺は兄さんに嘘をついた事なんて無かったからな。そこんとこも幸いしたのかもな」
不思議そうな目で提督の目を覗き込む雪風。
提督「お前なら、分かってくれそうな気がしただけだ。分かってくれなくてもいい。……そういうものだと受け止めてくれそうだと、そう思っただけだ。
たとえ魂が代わったとしても、俺は俺の役目を果たし続ける。俺は俺であり続ける。それが俺の意志だからだ」
590 :
【82/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/23(水) 21:57:19.10 ID:Nwym7Ov90
朝日が昇ると同時に眠っていた艦娘は目覚めだし、その場で作戦会議が始まった。
提督「そう、今回のように泊地水鬼を使って叛乱を起こす前に説明した通り、感情があるということが肝だ。完全に自我を失ってしまう深海棲艦と、人型の深海棲艦との差はそこにある」
提督「完全に感情を放棄してしまうとあのように機械的で無機質な形状に変容してしまう一方で、強い感情を持ったままの深海棲艦は知性や意志もわずかに残っている。
これから半深海棲艦化していく艦娘らには敵意を植え付けることで、“感情”を与える。こうすれば、半深海化した状態でもヴェールヌイのようにうまく扱えるかもしれない」
響「じゃ……大本営が当初予定していたような、艦娘を片っ端から処分するようなことはせずに済むということかな?」
提督「いいや、それは希望的観測に過ぎない。半深海化した艦娘がどのような変貌を遂げるかは分からない。
ヴェールヌイ。お前が自我を保っているのは、まだ『お前の中にあるお前』の割合が強いからそうなっているだけだ。
感情の力で自我性を保っているだけで、それが何かの契機で途切れたりしてしまったら……どうなるかは予測不能だ」
響「こと私に関して言えば、その心配は無いと思うがね。ただ、確かに身体への影響は顕著に現れているね。
食事を摂らなくても全く空腹感がないし、水を飲まなくても喉が乾かない。……ウォッカなら別だがね」
提督「それに……俺の反逆が奴らにどれほどの感情的影響をもたらせているのかは疑問符だ。ゆえに! これから俺はより奴らに対しての脅威にならなければならない。
それだけの感情を湧き起こす……絶望を与える恐ろしい敵になる必要がある」
提督「俺と泊地水鬼、響・雪風はかつてヲ級Nightmareのいた棲地MIへ向かう。泊地水鬼曰く奴は死んでいないそうだ。
これを手中に収めることが出来れば今後の展開は大きく変わるだろう。また、泊地水鬼同様に自律意志を持った深海棲艦が生き残りが僅かではあるが居るそうだ」
提督「他の者……金剛・榛名・霧島。および暁・磯風には、横須賀鎮守府へ向かってもらう。旗艦は金剛、お前に任せる。適当に暴れたらMIで合流だ」
金剛「Why? どうして横須賀……?」
提督「横須賀鎮守府を襲撃するのだ。くだんの騒動からまだ一夜しか経っていない。今お前たちが向かえば、陸路を通って大人数で移動する横須賀在籍の連中よりも先回りできる」
提督「敵の拠点、という言い方は良くないが……とにかくこちらへの攻撃拠点となる施設を叩ける好機だ。今なら警護の艦娘も誰一人残っていない。
相手の戦力を呉一本に絞ることが出来れば、二方向からの挟撃を食らうことは避けられるだろう」
金剛「ワーォ、この期に及んで本気で勝つ気でいるんですネ……。ま、そうじゃなきゃついて来たりしてませんケド」
提督「襲撃と言っても、徹底的に破壊する必要はない。それほど時間はないだろうしな。入渠ドッグと工廠を機能不全にして備蓄されている物資を出来るだけ略奪するだけで十分だ」
霧島(戦略的には正しいんですけど、控えめに言ってド畜生な発言ですね……。ここまで来るといっそ清々しいものを感じます)
提督「また、鎮守府に艦娘が不在といえど、工員や事務員は居ることだろう。事故であってもこれらを傷つけるのは避けてくれ。
それは我々の目的とするところではないからな。お前たち艦娘にとっては顔も憶えていないような取るに足らない存在かもしれないが、奴らには奴らなりの人生がある」
磯風「本気なんだな……全ての艦娘を敵に回すことになるぞ。それだけじゃない、一切の支援も受けられなくなるんだ。正気の沙汰ではないぞ?」
提督「そうだな。分が悪いと思う者は、横須賀でそのまま他の艦娘らと合流し投降すると良いだろう。俺のエゴイズムに無理強いはさせんよ。
だいいち、お前らはもう俺の部下ではない。今の俺は何の権威もない反逆者だ」
磯風「ここまで来て今更そんな野暮を言うつもりはない、ただの確認さ……だが、不安なんだ。正直のところ、私は今でも艦娘は滅びるべき存在なんじゃないかと思っている。
役目を終えた今でもまだこの世に残っていても良いのだろうかと、そんな風に考えてしまうんだ」
磯風「だが、君はあろうことか敵である深海棲艦でさえも味方に引き入れてしまった。私たち艦娘は深海棲艦を滅ぼすためにいるのにも関わらず、な。
……そう、君には宿命だとか因縁だとか、そういう呪縛めいたものが一切通用しないらしい。だから……君といれば、恐れるべきものは何もない。
貴方は私の提督だ。それは今になっても変わらない」
提督「……ま、勝算のないことはやらんさ。厳しい戦いになることは間違いないがな」
・・・・
響「雪風。出発の前に雑談なんだが」
雪風「なんですか」
響「昨夜の話、聞いていたよ。いや、盗み聞きするつもりはなかったんだがね。
なぜバビロンの打ち上げが中止されたのか疑問に思ってたが……司令官の身にそんなことが起こっていたとは」
響「再生不可能なレベルまで細切れにされるか、体内の修復剤の残量が尽きるかでもしない限り不老不死……。
だが、その体質ゆえに彼は自らの望みを果たせない。彼はこの地球から離れることができない」
響「皮肉な話だな。それはそうと……君は彼のことをどう思っている? 相当気に入られているみたいじゃないか」
雪風「いや、そんな……」
響「司令官がなぜMIへ向かうのに私と君を選んだと思う? 半深海棲艦化している私を横須賀に行かせてはまずいと判断したのは想像に難くないだろう。
ただ、司令官の傍に私だけという状況も良くないだろう。私の制御が効かなくなる可能性・泊地水鬼が反逆する可能性、どちらもゼロではない」
雪風「もう一人必要、というのは分かりますが……どうして雪風なんでしょうか?」
響「だから言ったろう、気に入られてるんだよ。傍に置くなら君がいいと、司令官がそう言っていたんだよ。で、私は再度問いたい。『彼のことをどう思っているか』」
雪風「……響が司令のことを想っているのは前に話してくれたじゃないですか。雪風の出る幕なんてないでしょうに?
それに、雪風じゃあ釣り合いませんよ。これでも、身の程は弁えてるつもりですとも!」 フンス
響「そうか、なら……。こっちは純粋に興味本位な質問。なぜまだ彼の傍に居ようとする?
成り行き上司令官と同行しているのはこれまでの経緯を見るに自然なこととも言えなくはないが……」
響「だが。さっき彼が言っていたように、これからおっ始めようとしてるのは戦争だ。彼のためにかつての同胞を傷つけられるのか、という覚悟の程を問うてみたい」
591 :
【83/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/23(水) 21:59:48.68 ID:Nwym7Ov90
響「あるのかい? 彼のための剣となり、彼のための銃となるその覚悟が」
雪風「ないですよ。味方を傷つけるための戦いなら、雪風は従えません。そんな覚悟はするつもりはありません。……それに、しれぇの目的はそこじゃないでしょう」
響「もちろんそうだ。だが、他の連中には大なり小なりそういう覚悟がある。金剛もそうだし、暁もそうだ。恐らくあの磯風とかいう駆逐艦だってそうだろう。
イザという時に彼女らは引鉄を引くぞ。それが果たすべき事だと判断したなら……たとえかつての味方であってもだ」
響「尤もそれが正しいあり方だとは言わないさ。むしろ平時においては君のような振る舞いの方が社会的には正しいのだろう。
だが、君も私も今は盤上の駒だ。頓死の一手を踏まぬよう気をつけてくれ、と言っておきたい」
雪風「分かっていますが……それでも」
響「誘導尋問はやめようか。今の質問の真意はこうだ。君は彼の理想のために全てを捧げる気はない、だが君は彼の傍にあり続けようとしている……なぜなのか。この答えが知りたい」
響「実のところ、私も彼の考えの全てを理解しているわけではない。彼が何を思って行動しているのかも分からない。だが私は彼を愛している。
彼が好きだとも、ああそうだ! もはや私にとって、彼のいない世界などあり得ないんだ」
ギラついた太陽の光が照りつける。目の前にいる響との距離は一メートルもないはずなのに、雪風の目には彼女が蜃気楼の中で揺らいでいるように見えた。
響「そう、君以外の連中は。理由が分かるんだよ。磯風は恐らく私と同じく“彼と共にある以外の選択肢”しか考えられない部類だろう。恋慕の念があるかどうかはさておき。
一方で金剛や暁は、彼の傍に居ることで何かを見出そうとしているタイプだ。彼の理想を目指す情熱の炎の中で、自分もまた何某かを得ようとしている連中だ」
響「君はそのどちらにも属していないだろう。最も彼の近くに居たはずの君が他の誰よりも冷めている、その理由が気になって仕方がない。
批難しているつもりはない、純粋な興味なんだ。知りたい、なぜ彼の近くに居てそうまで冷静で居られるのか。君から見える彼がどうだったのかが知りたい」
雪風「こういうことを言うと、司令に対しての侮蔑になってしまいそうで、あまり言いたくないんですけど……。あたしは、司令のことがかわいそうだと思うんです」
雪風「司令は、立派な人です。口ではああ言っているけど、本当は誰も傷つけたくなくて、不器用なだけで優しい人なんだって、雪風は知ってます。
でも、だからこそ……あの人が幸せになる未来が見えなくて」
雪風「バビロンが地球を脱してからも、司令はずっと冷静でした。痛みに悶えながらも『あまりに見るに耐えないグロテスクな姿だから、見ないでくれ』とか、
『修復剤の原液は癌細胞化を促す物質に変質していないか調べてみてくれ』とか、そんなことを言っていました」
雪風「私たちに心配かけないように、うめき声を押し殺しているようでした。
私と磯風さんで地球に戻ろうと判断した頃には激痛のあまり自制が効かなくなっていたようで、わざと舌を噛み千切って声を少しでも抑えようとしていたみたいです」
雪風「地球に着いた頃には、癌化は収まっていたようですが、肉体の修復力も弱まっていて苦しんだり叫んだりする力も残っていないようでした。
雪風は急いで司令を背負って、病院に向かいました。その時、背中でコンコンと、艤装を叩く音がしたんです。しれぇが指で叩いていたんです」
雪風が、コツンコツンと自分の艤装を叩く。−−−− ・−・− −−・−・ ・−・−− ・・・− −−−
響(『ころしてくれ』か……)
雪風「後で、身体が治った後に、病院で聞いても、しれぇは『身体を動かす余力どころか意識もなかったあの状況でそんなことができるものか。映画の見すぎだろう』って。
笑い飛ばしてくれました。けど、けど……」
雪風「雪風は、雪風には……あれが司令の心の叫びに聞こえて、聞こえ、ううっ……」
響の視界が揺らぐ。雪風の姿が、蜃気楼に乗って揺らめいているように見えた。暑さによる幻覚なのか、体質の変化による失調なのかは分からない。
距離を確かめるように慎重に歩み寄り、自分より少し背の低い雪風の頭を撫でる。
響「泣くなよ……大丈夫さ、心配しないで。私たちの司令官がそんなに脆い人に見えたかい。折れるならもっと早くに折れているさ」
雪風「あっ、しれぇ、ごめん、なさい……」
提督「呼んでも来ないと思ったら……探したぞ二人とも。ん?」 肩を震わせる雪風を見、説明を求めるジェスチャーを送る提督(クイクイと交互に二人を指さす)
響「少しいじわるなやり取りをしていたら泣かせてしまったよ。……いやなに、雪風は不安なんだと。君の心が壊れてしまわないかがね」
提督「(? 昨夜の話か……? 珍しく取り留めの無い話をしたから不安にさせてしまったのかもしれん)何を心配しているのか知らんが、俺を見くびってもらっては困る」
歩み寄り、二人の頭を撫でる提督。その動作は少しぎこちなく、頭を撫でているというよりは頭を掴んでいるといった方が適切かもしれない。
提督「……とはいえ、心配させたならすまなかった。だが問題ない。全てうまくいくさ、お前たちが居ればな。全て……果たしてみせるさ」
提督(しかし、『君の心が壊れてしまわないか』か。……ひょっとしたら、もうとっくに壊れているのかもしれないな)
一瞬、険しい顔を浮かべるも、響と雪風の視線に気づきすぐに無表情に戻す。
雪風「しれえ……痛いです……ごわごわって……」
提督「あ、いや。スマン、こういうのは慣れないもんでな……悪い」 すぐに撫でていた手を引っ込める
雪風「でも、司令のおかげで、なんだか元気になれました。雪風、まだまだ頑張ります!」
響(たとえそれが憐憫の情であったとしても、想いの純度は本物か……雪風)
響「なあ雪風。君はさっき『釣り合わない』だとか言っていたが……。今一番近いのは多分、君だぞ。資格は十分あるんじゃないか」
提督「一体何の話だ?」
響「〜♪」 口笛を吹きごまかす響
響(やれやれ、どうして私は恋敵を増やすような真似ばかりしているのか)
592 :
【84/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/23(水) 22:03:22.10 ID:Nwym7Ov90
提督「さて……海域的にはこの辺りなんだが……(過去、この海での指揮を執っていたが……まさか俺自ら訪れることになるとはな。奇妙なものだ)」
泊地水鬼「アッ……オハヨ」
軽巡棲姫「オハヨ! 誰、ソイツラ」
提督(軽巡棲姫、という種類の深海棲艦。艦種上は軽巡だが、そのスペックは一般的な深海軽巡のそれを遥かに凌ぐ上位種か。しかし随分と気さくだな……)
泊地水鬼「トモダチ……」
提督(いつお前と友達になったんだ)
軽巡棲姫「ソッカ。ヨロシク」
提督「なぜこいつは微塵も俺たちを疑わずに握手を交わしてくるのだ……? ここミッドウェーやアリューシャン、ステビア海で散っていた深海棲艦は草葉の陰で泣いてるぞ」 ヒソヒソ
響「まあいいじゃないか。味方の駒は多い方がいい」
雪風「せっかくだから仲良くやりましょう!」
提督「ひょっとして、いや、ひょっとしなくても。こいつらは深海棲艦としては落ちこぼれなんじゃないか。泊地水鬼と出会った時の違和感が確信に変わったぞ……。
深海棲艦としての使命より自らの感情を優先させる奴らだしな、なるほどなるほど……不安だ」
提督「感情の要素を持っている分、知性が欠落している可能性も……」 ペシッ
泊地水鬼に帽子をひったくられる。へそを曲げたようだ。
響「白(ハク)。この軽巡の子はなんて呼べばいい?」
泊地水鬼「Α※@Σ↑]Ω」
響「すまない、私たちにも分かる言語で頼む……」
雪風「? 私たちがつけて良いんですか。じゃあ、ケーちゃんなんてどうでしょう?」
軽巡棲姫「ケーチャン! ヤッター! カワイイ!」
提督「スゥー……ハァ(余計なことにリソースを割くな。今は自分のすべきことに集中しろ。そうだ、全ては瑣末なこと。気にすべき事象ではない)」
雪風「あらら。しれぇが自分の世界に入っちゃいました」
・・・・
MI諸島の島々を結ぶ中間点には、地図には載っていないはずの小島が出来ていた。島の表面は岩に覆われていて、樹木や野草はおろか苔の一つさえ生えていない。
雪風「地下へと続く洞窟への入口……なんだかRPGみたいですねぇ」
響「結構俗っぽい例えをするんだね。とはいえ、確かにその通りだ。これはちょっとした冒険だな」
提督「泊地水鬼。お前はヲ級Nightmareの居場所を知っていると言っていたが。この鍾乳洞の中に居るのか? お前、さっきから同じ場所をぐるぐる回っていやしないか。あと帽子を返せ」
雪風「白、って名前で呼んでくれないと嫌だそうです。どうして私のことを雪風、響のことをヴぇ、ヴぇ……」
提督&響「Верный」
雪風「って呼ぶのに、どうして自分のことは名前で呼んでくれないんだって不満みたいです」
提督「名前なんてつけた憶えないが」
響「昨日の宴会で司令官が早々にノックダウンしてしまったのが悪いんだよ」
提督「(悪いのは俺なのか……?)納得いかないが……。白、と書いてハク。か。シンプルすぎるような気もするが……良い名前だな」
奪っていた帽子をぐにゅっと提督の頭に押し込む。目深に被らされたため前が見えなくなっている提督。
泊地水鬼「方向ヲ間違エテイタ。ココジャナクテ、モット下……」
泊地水鬼がそう言うと、バァンと地面に衝撃が走る。泊地水鬼が地面を殴ったらしく、岩盤が崩落しているらしい。
提督「おい、これどうなって……」
泊地水鬼「〜♪ ネエ、私、飛ンデルワ……飛ンデイルノ!」
提督「どう見ても落ちているではないか!」
泊地水鬼の腕に抱きかかえられながら垂直落下していく提督たち。
軽巡棲姫「白チャンヤッタネ!」 ヤッテネエヨオォォォ
・・・・
提督(落下時間があと三秒長かったら、“一機減る”ところだったな……)
眼前に広がるのは、古代ローマ時代に建築された宮殿や城を彷彿とさせるような精巧かつ壮麗な大広間だった。
593 :
【85/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/09/23(水) 22:17:41.35 ID:Nwym7Ov90
呉鎮守府講堂。方々の艦娘を一極集中させたため各々を収容するための部屋などあるはずもなく、ひとまず外部から来た艦娘らは昨夜に引き続きこの講堂で一夜を過ごすことになった。
最終的には艦娘の半数を横須賀に移す計画が進められているのだが、急ピッチで進めてももう数日は要するであろう見通しだった。
皐月(なぜ? あのロケットも、ああしてボクの頼みに応じてくれたのも、軽トラックで駆け回ったのも、全部嘘だったの? ボクの寝ぼけ顔を見て、暢気だなって笑ってたじゃないか。
納得がいかないよ。司令官はどうしてあんなことをしたのか。司令官は何がしたかったの? 何をしようとしているの?)
文月「ね、皐月ぃ。昨日からずーっと考え事ばかり、ヘンだよぉ。そりゃ、あんな事があった後だから、分かるけどさ……」
皐月「あー……文月、上からの指示は何か来ているのかい?」
文月「まだ何も。どうにもゴタゴタしてるみたいだよ〜。とにかく緊急事態だって皆必要以上に慌ててるところはあるけれど……まだ一夜明けたばっかりだから仕方ないか」
文月「今問題になってるのは、半深海化がほぼ末期まで進行した艦娘をどう扱うかみたい。昨日、泊地水鬼が現れる前に半深海化した艦娘が暴走した例があったでしょ?
でも、一方で半深海化が最終段階まで進んでいてもまだ自我を保っている艦娘も居るみたいで……」
皐月(暴走した半深海化した艦娘と、自我を保ったままの半深海化した艦娘と、何かが違う? 何が? でも、司令官はきっと何かを知っているはず……)
文月「半深海化していようが自我を保っているなら戦場に繰り出すべきだ、って意見と、いつ暴走するか分からないから収監しておくべきだって意見があるみたい。
それはさておき深海棲艦はあたしたちの敵だからね。手取司令官を討つ算段だけはスムーズに進んでいるみたい。どのみち、あたしたちは後方支援に回ることになるんじゃないかなぁ」
皐月「司令官の居場所はまだ分かってないのかい?」
文月「うん。もう偵察部隊を出す決定はしてるみたい。内陸に逃げたとしたら陸軍がいい具合にやってくれるだろうから楽なんだけど……国外だろうねぇ。
大陸……旧中国か旧露西亜領かなー。でも、いずれも深海棲艦にやられて壊滅状態、内陸部も退廃してるみたいだし、そんな場所で燃料や弾薬を調達出来るのかな……。
深海棲艦といえど弾薬やボーキサイトが必要なのはこっちと同じみたいだしねぇ」
文月「それに、退廃していたり、すでに壊滅状態だったりとはいえ……他国の、その土地に住む無関係の人を巻き込んで戦うのは司令官のやり方じゃないと思わない?」
皐月(違うな……はずれだよ、文月。亡命や外国へ逃げ延びたって線は無いよ。深海棲艦を受け入れようとする場所なんて地上のどこにもありやしない。
奴らは破壊者だからだ、司令官はそんなこと分かってる。分かった上で奴らの側に付いたんだ)
皐月「さあね……」 気の無い返事。話を聞いていないわけではないのだが、途中から話が頭に入っていないような様子だ
文月「……ねぇ皐月。まさか、司令官の後を追うつもり? 追ってどうするの? だって私たち……」
皐月(ヘンなところで察しが良いんだから、困るよなあ……)
文月「私も、司令官の行動の意図は気になるよ。でも……私たちの出る幕はない、そうでしょ?
今は、司令官の真意が分からないけど……意味のないことはしない人なはずだから。答えが分かる時まで、待つしかないよ」
皐月「……待てないよ。分からない、分からないんだ。学校に行きたいだなんてボクの我侭も聞いてくれたんだよ?
学校を卒業させてやれなくてすまないって、ボクを見るたび申し訳なさそうに言っていたのに。なのに、どうして……?」
皐月「司令官の目からしたら、ボクはきっと取るに足らない存在だったのかもしれない。たまたまそこにいただけの、居ても居なくても同じのモブ艦娘だったかもしれない。
でも。ボクにとっては、すごく嬉しかったんだよ。嬉しかったんだよ……」
文月「でも……」
皐月「分かってるさ。分かってるよ。言うなよ! 何も出来ないことぐらい、分かってるよ……!」
俯き、顔を見せないように服の袖で目元を隠しながら駆け出していく。
・・・・
一人になれる場所を探していた。どこに行っても他の艦娘がいて鬱陶しい。
あまりにも突然に、かつ理不尽に状況が一変して、何がなんだか分からない。何が真実で、何が嘘なのか。それを知る術さえ自分には与えられていない。
皐月「なんで……っ。なんでだよ……、っ……!」
どうしても一人になりたくて。でも、そんな場所はトイレの個室ぐらいしかなかった。なおさら気持ちは沈んだ。
ボクは子供だ。肉体がどうこうじゃなく、精神が。司令官に裏切られたというショックだけで、全てがおかしくなってしまっている。
文月のように、司令官の真意が分かるその時が来るのを待とうという、ごく普通の冷静ささえどこかに失くしてしまったようだ。
混乱を前に無意味に焦燥して、力を空費している実感がある。だが、そうせずにはいられなかった。分からなくて、ショックで、悲しかった。
裏切られた、悲しい。悲しいって感情を自覚したら、その気持ちだけが膨れ上がって、ますます悲しくなる一方で。
司令官は、何を考えてるか分からない変人だ。でも、ボクたちを意味もなく傷つけるようなことなんてしない。
仮に深海棲艦の力を得たとして、どうしてあんな風に皆に恨まれるようなことを最後にやったんだろう。どうしてあんな結末を望むんだろう。
皐月「せめて、知りたいよ……。それぐらい、許してよ……」 うなだれ、頭を抱える
リュックサックから、トランプのカードケースと小さな腕時計のようなものが落ちる。これは、ボクたちがMI作戦の裏で“アノーニュムス”として動いていた時に司令官から支給されたものだ。
作戦終了後は回収されるはずだったけど、司令官に記念に貰っていいか聞いたら渋い顔で承諾してくれたんだった。
そして……この小さなガジェットには、無線機能の他にも、お互いの居場所を指し示す発信機としての機能が備わっている。
皐月(反応が一つだけある……どうして? 場所は、ミッドウェー方面か……? 発信者は……)
司令官だ……! なぜかは分からないが、司令官は自らの居場所を教えている。それも、ボクだけに対して。なんでだ? 分からない、けど、けどこれは……。
皐月(チャンスだ……!)
知ってしまった、ボクは知ってしまったという興奮が背筋をゾクゾクと刺激する。心臓の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じる。
これは紛れもなく司令官がボクに宛てた何らかのメッセージなんだと確信し、脳内物質が駆け巡るような感覚を味わっていた。
594 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/09/23(水) 22:25:54.55 ID:Nwym7Ov90
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~85/100)
・雪風の経験値+4(現在値26)
・皐月の経験値+1(現在値13)
・足柄の現在経験値:26
・金剛の現在経験値:23
・翔鶴の現在経験値:15
・響の現在経験値:23
----------------------------------------------------------------------
無予告でしたが連休中になんとか5レス分書けたので投下しておきます。
次回は『Phase C』が進行します。内訳的には皐月3レス・翔鶴2レスとなっております。
次回投下はワンチャン近日中……?
もしかしたらまた普段通り一ニ週間かかるかもしれませんので過度の期待はせずお待ちくだされ。
595 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/10/05(月) 00:02:05.69 ID:XDOjsqWI0
軽巡棲姫とかいう(現時点では)実在しない架空の存在を生み出してしまっていることに後から気づきました。
次回以降は軽巡棲鬼と表記します。意図的に姫と書いたわけではなく、ただのミスなのでした。すみません。
読み返すと結構誤字とか脱字とか多いんすよね……なるべく減らすように心がけたい。心がけてはいるのですが〜……。
次回の投下は10/7(水)を予定しています。
進捗具合によっては週末あたりにずれるかもしれませんが……。
リアル世界ではワンパン大破どころかワンパン轟沈的サムシングがあるので油断なりませんな、まったく!(何
セルフキラ付けして頑張りますハイ。
596 :
◆Fy7e1QFAIM
[sage]:2015/10/07(水) 23:54:54.37 ID:Bs/Nk/GZ0
ごめんなさいー! 予告したけど間に合いませんでした。
書き上がったタイミングでなるべく早く投下するつもりです……恐らくは金曜日頃になるかなと(遅くとも日曜日までには投下します)。
////チラシの裏////
翔鶴改二甲、なかなか面白い性能ですね。燃費的に普段使いはちょっとキツイですが……。
今月はなんとなくランカー入りを目指してまして、5-4毎日ぐーるぐるってな具合です。
そして……ついに蒼龍牧場や大北牧場に手を出してしまいました。
艦これプレイヤーとしていよいよ来るところまで来てしまったなぁ……という心境です。
もっと上の方はケッコンカンスト艦で3ページぐらいまで埋まってたりするんですけどね! おっかねえや!
597 :
【85C-1/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/10/11(日) 20:56:12.11 ID:dfa6f4ou0
皐月「落ち着け……大事なのはこれからどうするかってことだ。ボクに何が出来るのか……」
皐月(そもそも、今の司令官を信じていいのか? 司令官がボクの存在を忘れていなかったということに舞い上がってしまったが、司令官は今や国家の敵であり人類の敵。
普通に考えれば、居場所を上の人間に知らせるべきなんだよな……。司令官は深海棲艦を従えているんだぞ……?)
だが……あの司令官のことだ。ボクが他の誰かに居場所を伝えようが伝えまいが、結局のところ全て手のひらの上なんじゃないか……?
貰ったボク自身が覚えていなかった発信機機能すらも覚えていて、かつ自らの居場所をあえて晒してみせているぐらいだ。
そもそもこれすら罠なんじゃないか……? 経過した時間の短さから考えて、とにかく追手から逃げるために辿り着いた場所とは考えにくい。
まるで最初からMIを目指していたかのような……。
うーん、疑うとキリがないな。そもそも策謀において彼を上回る者はいないというか……知恵比べでボクが敵うはずもないけれど……。
司令官が本気で悪事を成そうと思ったらもっと悪辣な手を打ってくるような気がするんだよなぁ。本気でボクたち艦娘とやり合う……にしては手ぬるいような気がするんだ。
何かこう裏の意図があるというか、この反逆さえも全部布石なんじゃないかとは思う。というか、そう思いたいよなぁ……希望論だけど。
皐月(仮にここで司令官の企みを止めたとして、艦娘の半深海化は食い止められず結局のところ艦娘同士で争いが起こる。
今は司令官を討つべく団結しているけど、その先のことは何が起こるか分からない……)
皐月(自らスケープゴートとなった可能性……あるかもしれないな。だったらやはりボクは司令官のために動くべき、なのかな……)
全ては希望論にすぎないけれど。でも、疑い出したら何もかもが怪しく思えてしまうんだよな。それこそボクが司令官に最初に呼び出された時の理由だって謎だ。
そもそも、司令官が居なければボクはずっと訓練生のままで、下手すると一度も出撃したりすることも無かったわけで……。
実技の成績が良かったとはいえ、総合の成績でならボクよりも良かった子は結構いたわけだし……。ボクの何を見てたのかな、それともなんとなくだったりするのかな。
司令官はボクの何を気に入ったんだろう。いや、気に入ってはないか。ただ、目に映っただけか。でも……。
皐月(いやいやいやいや、何を考えてるんだボクは!? 思考が脱線しすぎてるってば! 冷静にならなきゃ。冷静に……)
・・・・
呉鎮守府内の食堂。左手で頬杖をつき、右手で缶コーヒー(微糖)を握りながら、思案する皐月。
文月「麺が伸びちゃうよー」
皐月「ああ、ごめん。いただきます(司令官の居場所が分かったって話をしたら、きっと文月を巻き込むことになるよな……)」
カレーうどんを啜る皐月。食べながらも思索にふけっているせいか、胸元に飛んだカレーの汁に気づいていない。
皐月(ボクの出した答え、は……司令官を信じる。これしかないよ。だって、どんな形にせよ、司令官はボクを信じてくれているわけで。
ボクのことを疑ったり、邪険に扱ったりしたことは一度だってないんだ。やっぱりボクは……司令官のために動きたい)
文月「皐月、分かり易すぎるよ〜。その顔。何か分かったことがあるんでしょ? さっき別れた時と顔つきが全然違うもん」
クリームソーススパゲッティを食べ進めていた手を止め、皐月の方に紙ナプキンをスッと差し出す。
文月「隠し事とか……良くないよね〜?」
皐月「あはは……お見通しかぁ。で、この紙ナプキンは?」
文月「いや、口の周りカレーだらけなのに真面目な顔してたから笑っちゃいそうで。考え事してて全然気づいてなかったでしょ」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、紙ナプキンで口元をふき取る皐月。
・・・・
食事を食べ終わると、机の上にノートを広げる皐月。凸の字を書き並べていく。
文月「(司令官はMIへ向かった……!? へ、へ〜……? なんで?)えっと、まず。どうして場所が分かったのかな?」
無言で腕につけている小型無線機兼発信機を見せる皐月。
文月「(なるほど、皐月がこれを持っていることを見越して司令官が……?)そういえば皐月それ気に入ってたもんね」
皐月「(……のに、今まで発信機としての機能があることを忘れていたのは黙っておこう)通信は出来ないけど、場所だけはこれで伝えてくれたんだよ」
文月「現状行方不明者リストに挙がっている人たちもここに居る可能性が……?」
ノート上に凸の字を六つ書き足す文月。行方不明者として手配されている金剛・榛名・霧島・暁・雪風・磯風のことを指しているのだと思われる。
皐月「うーん……。そうだね。分からないけど、多分そうだと思う。全員かどうかは分からないけど、それぞれの関係性から考えて半数以上はそうだと思う」
文月「で、皐月は?」 手取提督を意味する凸から離れた場所に、黒塗りの凸を書く。皐月のことを意味しているらしい
皐月「……こっちだよ。もう覚悟は決めてある」
黒塗りの凸から矢印を伸ばし、MI方面へと繋げる。すると文月が、もう一つ黒塗りの凸印を書き足して、同じ方向へ矢印を伸ばす。
文月「じゃあ私も、こっちだね。後方支援じゃタイクツしちゃうからねえ」
皐月「文月……」
文月「ここまで来て仲間外れはなし、でしょ? それに、あたしだって皐月ほど好き好きってわけじゃないけど……ほら。一緒に居て面白いしね。クリオネみたいで」
皐月(どういう意味だそれ……)
598 :
【85C-2/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/10/11(日) 20:57:16.45 ID:dfa6f4ou0
皐月「ねえ文月……ホントにやるのかい……?」
文月「覚悟してるんでしょ? 違うの?」
皐月「そうだけどさ……(腹括りすぎでしょ……)」
ボクたちは、司令官に会うにあたっての土産ということで資材庫から燃料や弾薬を頂戴することにした。……要するに略奪である。
ボクはあまり乗り気ではなかったが、『私たち駆逐艦二隻が来たところで司令官が喜ぶと思う? せっかく司令官の位置が分かってるなら、期待に沿える動きをするべきでしょ』と文月は言う。
皐月(言われてみるとその通りなんだよなぁ……。司令官の立場からしたらこう動いた方が一番ありがたいはず)
皐月「ただ……このシチュエーション妙にデジャブな気が……うわわっ!?」
龍田「あら〜。こんばんは」
文月(皐月!? なんで早速見つかっちゃうかなぁ……って聞き覚えのあるこの声は)
・・・・
天龍「見つかったのがオレらで良かったな。もっとも、読み通りではあったが」
龍田「手取提督に内通してる艦娘が居るのであればここを狙うと思っていたわ。私たちはそれを見越して倉庫番役を買って出たのよ〜」
皐月(火をつければこの資材庫の燃料や弾薬は削れるかな……それをやったらボクもただじゃすまないが。
せっかく司令官の場所が分かったんだ。ここはなんとか切り抜けたいところ……! 脱出経路を計算して爆発を起こせばなんとか逃げれるか……?)
無言で砲を構える皐月とその様子に慌てる天龍と龍田。
天龍「お、おい!? バカな真似はやめろ!」
龍田「そうよ!? どちらかと言えば私たち貴方の味方よ!? ここで待っていたのも、あわよくば手取提督の側に着けたらという目的なんであって〜……」
皐月「え、ちょっとまって。それどういうこと?」
天龍「ここで手取提督と争ったところで、半深海棲艦化は食い止められねーだろうが。なんで提督があんなことしたのかは謎だが……どうせなら訳知りっぽさそうな方に味方した方が得策だろ?
だいいち、オレは別に大本営にも軍にも義理はねえ。無茶な作戦で沈められて、生き返ったと思ったらよく分からん横須賀の鎮守府に飛ばされて、今度は呉に召集。で、今はただの警備員と」
天龍「それに、救国の英雄が一転して悪の頭領に……なんてカッコよすぎるだろ! こりゃあ見届けるしかねえってな! オレの電探がそう言ってるんだ」
龍田「ぇ〜と、天龍ちゃんは置いといて……。行方不明者の中に、暁って駆逐艦が居るでしょう? 私たちは書類上の解体処分を受けた後、貴方も知っての通り手取提督の雑用をしていて。
佐世保鎮守府が解体されてからは経歴を伏せた状態で横須賀に送られたの。清掃員ぐらいしか仕事は無かったけどね……」
龍田「それでも暁ちゃんや雷ちゃん、電ちゃん。皆頑張っていたわ。響に憧れていたようで、与えられる仕事は無くてもずっと訓練を続けていたわ。
暁ちゃんは幸い上からのお声がかかってそれなりに出撃任務が与えられるようになったんだけど……」
天龍「そうそう。暁は特に骨のあるやつだったぜ。響に並びたいってな。……んで、その響は提督と共に深海棲艦へ寝返った。暁は今だ姿が見つからねえ」
天龍「あの提督に可能性を見出している一方で、ひょっとすると暁の身に危険が及んだかもしれねー、とも思ってるわけだ。もしそうだとしたら作戦は変更。
オレ達は手のひらを返してここの連中に手取提督の居場所を晒すつもりでいる。……なんとなくそんなことはねー気がするがな。オレの電探もそう言っている」
龍田「あの提督……ちょっとロリコンのケがあると思わない?」
天龍「ま、ロリコンかどうかは置いといてだな。響や提督が本当に深海の連中と同じぐらい落ちぶれてんなら、危険を察知して逃げ延びるぐらい出来るはずだ。
オレ様の見通しでは、アイツはそれぐらいに実力をつけてる。だからそんなに心配はしてねぇ、だが万が一……って話だ。これはな」
・・・・
皐月に突然呼び出された数分前の出来事を思い出す陽炎。
皐月「陽炎。今からボクは手取司令官のもとへ行く。……これは君への裏切りになると思う」
陽炎「え? ちょっと、何言ってるの? 突然どうしたっていうのよ」
皐月「許してくれとは言わないけれど……さよならは言っておきたかった。経緯はどうあれ、友達だから」
皐月「ボクにとって、司令官はやっぱり大事な人で。今でも信じてるんだ。だから、会いに行きたい」
陽炎「……分かったわ。いや、ぜんっぜん分からないけど。でも……いいわよ。行きなさい。どこへでも行くといいわよ!
……でもまっ、勘違いしないことね。皐月がどこへ行っても、私の友達であることは変わりないわ」
ありがとう、と言い残して足早に皐月はどこかへ走っていった。
どうして皐月を見逃してしまったのか。皐月を見逃すこともまた、裏切りへの加担だと言うのに。己の提督への背任ではないのか。陽炎は自問する。
ふと昔のことを思い出す。軍縮による解体を免れるため、市井の人間に紛れる。
今でこそ皐月のような友人とも出会えて、良い思い出だったように感じられるが、当初は不安だらけだったし、嫌だった。陽炎は自分の提督のことを思慕していたからである。
だが……その想いは長い時間の中で、少しずつ思い出へと変わってしまった。抱いた愛情も思い描いた幸せな未来も、全ては薄まり、やがて穏やかな好意に収束してしまった。
自分の提督と二度と会えなくなるわけではない、再会したらまた想いは蘇るのかもしれない、けれど今この瞬間においては、自覚できるほどに情熱が冷めてしまっている。
だから。たとえそれが一時的な狂奔だとしても。“仕方がないことだ”なんて諦めず、定められた運命に抗ってみればいい。
陽炎の目には皐月の行動は半ば暴走気味なように映ったが、だからこそ羨ましく思えたのだった。
陽炎(私もああだったら……とは思わないし、今の自分に後悔があるわけじゃないけど。でも……あれが若さ、ってやつなのかしらね)
599 :
【85C-3/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/10/11(日) 20:58:12.09 ID:dfa6f4ou0
呉鎮守府内の主力級の艦娘は臨時会議室に集められた。
会議というよりは通達を目的に集められたようで、この集まりの中には赤城や翔鶴も含まれていた。
井州「緊急に呼び出してしまってすまない。今後の方針転換の発表を行いたいのだが、その前に今日起こった重大な事件について説明しておきたい」
井州「横須賀鎮守府が襲撃された。ドックや工廠などをピンポイントで破壊され、軍事拠点としての機能はしばらく果たせそうにない。
横須賀に行くはずだった艦娘たちはこれから踵を返して呉に押し寄せるということになる」
「おいおいおいおい、今だって定員オーバーなんだぞ」「外泊許可取って宿にでも泊まった方が良さそう……」 どよめきが起こる。
井州「その通り。この呉鎮守府は今ですら満員の状態であり、各艦娘のストレスも高まっており不満が頻出している。
また、こうしている間にも半深海化の症状が現れている艦娘は増え続けている」
井州「そこで。我々の総力を以って反乱軍を討つことに決定した。まずは小隊を各海域に展開して哨戒を行い、反乱軍の居場所を炙り出す。
深海棲艦を支配しているとはいえ向こうの資源は乏しく兵力も少ない。長期に渡る漸減作戦でジリ貧にしていくのが当初の計画だったが……。
こうなっては仕方がない。やはり策謀に関しては相手の方が上手であると認めざるを得ない」
呉ではこの頃から手取提督率いる深海棲艦や彼に従う艦娘らの勢力を総称して、反乱軍と呼ぶようになっていた。
井州「だが。ここには君たちが居る。敵がいかに神算鬼謀であろうと、歴戦の猛者である君たちはこの国の守護神だ。
どんな海をも超えてきた圧倒的な練度を誇る艦娘であれば、いかな相手でも打ち破ることが出来る……と私は信じている」
井州「詳しい作戦内容は追って連絡する。MI・トラック攻略以来の大規模作戦にして恐らく最後の決戦になるだろうが……みな、今一度力を貸して欲しい」
・・・・
仮設された空母機動部隊控室。普段通りの加賀と対照的に、赤城は憔悴しきっていた。
悲痛な面持ちで両手を額の前で組むその姿は、何かに祈りを捧げているかのようだった。
赤城「加賀はどう思いますか」
加賀「果たすべきを果たす。これまで私たちがやってきたことを貫くだけ……そう考えていますが。これはあくまで私個人の解答。それとも……」
加賀「迷いがありますか? 私の意見一つで揺らいでしまうほどに、心細いですか?」
赤城の耳元に顔を近づけ、煽るようにわざとらしく囁く。
赤城「私は一航戦赤城。私がこの国の空母機動部隊の象徴であり中心である、他に私の代わりを務まる者は居ない……」
加賀「そうね。その通りだわ」
赤城「私は、生まれてからずっとこの海軍で育ち、深海棲艦を討ち、国を護ってきました。今もその決意は揺るぎません」
加賀「国家の反逆者である手取提督に従っていたのに? 赤城さん、貴方は彼が唱えた『バビロン計画』にだってまるで疑いを持っていなかったわ。
彼の為に自分の身を尽くしたいとも言っていたわね」
赤城「ッ……加賀」
加賀「赤城さん。私はずっと貴方の背中を追いかけて来ました。気づいていましたか? 私は貴方に嫉妬していたのですよ。ですが……もう今の貴方は嫉妬するに値しない。
今の貴方は脆く、弱い。本当は手取提督と共にありたいのでしょう? 自らの心に嘘をついて引いた弓の無力さは、貴方が一番よく知っているはずですが」
赤城「加賀……貴方は何を考えて」
ダァンと部屋の扉を蹴破る瑞鶴。
瑞鶴「先輩! 報告です! 第六・第七資材庫で収奪があったようです!」
翔鶴「燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイト、他高速修復材などが奪われたようです。どうにも、この鎮守府の中に反乱軍との内通者が居たそうで……。
今、蒼龍先輩と飛龍先輩が現場に向かっていますが……日も沈みつつあるこの状況での索敵は困難かもしれません」
翔鶴「収奪された資源や資材の量はさほど多いものではありませんが……この手際の良さ、油断なりませんね。これだけのことをやるからには向こうも本気、ということでしょうか」
瑞鶴「井州提督からの指示はまだですが、形跡から大方のルートは絞れたようです。反乱軍の拠点を探すために全方位に艦娘を繰り出す必要は無くなりました。
正式な決定が決まり次第中部海域に、全勢力を以って進攻することになるかと!」
翔鶴「いよいよ決戦、ですね。……随分と期間が狭まってしまい艦隊全体での連携には多少不安がありますが、井州提督も仰っていたようにここまで戦い抜いた艦娘であれば問題はないでしょう。
瑞鶴も私も、コンディションは完璧です! 一航戦二航戦の先輩方と私たちがいれば。きっと乗り越えることが出来るはずです」
加賀「私に遅れを取らないことね五航戦」
ファサと髪をかき上げる翔鶴。
翔鶴「ええ、もちろん。MIでの戦いを超える活躍を期待して下さい。もう先輩方の後ろで戦う私たちじゃありませんから」
加賀「フッ……貴方から勇ましい言葉が聞けるのは珍しいわね。雄弁に恥じぬ働き、期待しているわ」
ポンポンと翔鶴の肩を叩き、部屋を後にする加賀。
加賀が部屋を出てから追うようにして瑞鶴はトレーニングに向かい、部屋に残された翔鶴は武装の手入れを、赤城は何をするわけでもなく椅子に座り続けていた。
翔鶴(いつもより心なしか覇気がないように思えます。どうしたんでしょうか)
翔鶴が声をかけようかかけまいか悩んでいると、赤城の方から話を切り出した。
600 :
【85C-4/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/10/11(日) 20:58:44.60 ID:dfa6f4ou0
赤城「手取提督の話は前にしましたよね」
翔鶴「……なるほど。そういうこと、ですか。私の目には少しも迷いが無いように見えていたので、割り切っていたのかと思いました」
赤城「残念ながら、そうまで強い人間ではないのですよ……私は。これまでは抑えていられたんですけどね。覚悟はしていたつもり、なんですけどね……。
いざ“その時”となると、気持ちの整理が着かないものですね。我ながら不甲斐ない」
赤城「それでも……私は戦いますよ。これが私に課せられた宿命であるなら、受け入れましょう。私の個人的な感情は、大義の前ではエゴイズムに過ぎません。
これは悲劇でもなんでもない。私は己の未熟さを超え、更なる成長を遂げましょう」
翔鶴「自らの想いを捨て去ってでも、ですか」
赤城「ええ。これが一航戦赤城に課せられた最後の試練。私が貫くべきは正義であり、自我ではありません……!」
翔鶴「自らの心に嘘をついてもですか。それは欺瞞ではないのですか」
赤城「戦場に立つ時、正しい心であればいい。今は迷いの中であっても、克服してしまえば大したものではありません。恐れも悔いも、私はそうやって乗り越えてきた」
翔鶴「強くあることと、自分の心を理論武装で塗り固めることは違うでしょう。彼のことを想っていたのでしょう、なぜその気持ちさえも捨て去ろうとしてしまうのですか!」
赤城「そうあらなければ私は強くなれないからです。戦場に情は不要。曇りない信念がなければ敵を沈めることは出来ない、敵がかつての味方であったならなおのこと……」
翔鶴「貴方はプライドのために生きているのですか。一航戦というのはそんなに大事な肩書きなのですか?」
その台詞が癪に障ったのか椅子から立ち上がり、じっと翔鶴を見据える赤城。
赤城「師弟揃って言いたい放題ですね……。そうですよ、私はこの空母機動部隊の礎を築くために何年も時間を費やしてきた」
赤城「制空権を取り返す力もなく、深海棲艦になされるがままの状況を変えてきたのは私です。その為に艦載機隊の熟練度の向上も、人材の育成も、この身一つで積み重ねてきた。
佐世保が解体になってからは、次の世代であるあなた達に任せておいても問題ないと考えていましたが。こうなってしまっては話は別」
赤城「私は再び戦場に降り立ちましょう、今度こそ全てを終わらせるために。かつて愛した人が相手であるならば、最後の敵には相応しい」
パァンと、乾いた音が部屋に鳴り響く。翔鶴が赤城の頬を叩いたのだ。
翔鶴「今、私は貴方が間違っていると思ったから叩きました。怒っているわけではありませんが、言葉で言っても無駄でしょうから」
赤城「そう。それで、貴方の気は済んだかしら」
全くダメージを受けていないような、涼しい顔の赤城。
翔鶴「間違っていたならば、正せばいい。なぜそれが分からないのですか」
翔鶴「私は! 貴方が手取提督について話している時の生き生きした表情を見て、この人は本当に提督のことが好きなのだなと。そう思いました。
自分の背負っている責任のようなしみったれた話をしている時と比べて、何十倍も輝いていました」
翔鶴「貴方が彼への想いを失った時、貴方は本当にただの兵器になる。ただ生きるためだけに生きる人形になり下がってしまう!
この戦いに勝利したとして、貴方はこれから先どうやって生きるんですか。半深海化や今後の情勢といったものを抜きにして、貴方はこれから何をしていたいんですか。
私が貴方の道場に相談に行った時もそうだった。自らの本当の望みも果たせず、果たす術も知らずに貴方は燻り続けてきた」
翔鶴「『私にはこうするしかない』と、都合の良い場面でだけ自分の弱さを盾にするのはやめてください。貴方にはそれを乗り越えるだけの強さがあるはずです」
ぽろりと、赤城の目から雫がこぼれる。頬を伝って地面に落ちていく。最初の一滴に続いて、また一滴。
力なく跪いて顔を抑える赤城。やがて堰を切ったように止めどなく流れ落ちていく、涙。
赤城「私は……どうすればいい……。何を信じれば……」
翔鶴に問うているわけではなく、自問しているようだ。
赤城「私は、彼のことがたまらなく、愛しくて……でも。今彼のやっていることを、支持できない。
本当は、自分の愛情にすら自信が持てないのかもしれません。だから彼のことを疑ってしまうし、信じきることが出来ないのかもしれません」
翔鶴「人は間違いを起こします。先輩がご存知のように、私だって間違えてばかりです。
間違いを起こさない人間はいません、手取提督のような聡明な方でも、過ちを犯すことはあるでしょう。
私も彼のやり方には疑問があります……真意が読めませんから」
翔鶴「だから……妄信する必要なんてないんです。間違っているなら、正してあげればいい。彼の傍で戦い続けるだけが愛情の形ではないのだと、私はそう思います」
赤城「そう……なのかしら、ね。でも……今は貴方の言っていることを信じたいわ」
翔鶴「自分の心を雁字搦めに縛らないでください。先輩が、どんな風に戦ってきたかは知りませんが……今は私がいて、瑞鶴がいます。
二航戦の先輩方や、加賀先輩がいます。一人じゃないんです。だから、もう一人ぼっちで背負わなくていいんです」
赤城「貴方に、気づかされることになるとは思いませんでした。そうですね……そう。私、バカみたいですね。そうですよね……。ありがとう、翔鶴。頼りになるわね……」
・・・・
翔鶴「それはそうと……赤城先輩は今回の空母部隊の人事権があるんですよね」
赤城「ええ。それがどうかしましたか?」
翔鶴「ごにょごにょごにょ……」 耳打ちする
赤城「えっ、それはさすがに……。一応、考えておきますが……えぇ〜」 困惑した表情の赤城
601 :
【85C-5/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/10/11(日) 20:59:40.90 ID:dfa6f4ou0
夜の海を疾走する皐月たち。
雷「追手はまだ来てないみたいね。でも、日が昇ったら見つかっちゃうかもしれないから油断は出来ないわ」
天龍「昔と違って深海棲艦や渦潮の足止めがあるわけじゃねえんだ。追手に見つかる前には着くだろ。それはそうと、おいなんだアレ……? 空を見てみろ」
欠けた月の近くに浮かぶ風船のような物体の群れ。その内複数体がこちらに向かってくる。
皐月「ああ、皆は生で見た事がないんだっけ。深海棲艦の浮遊要塞だよ」 やや得意げに説明する皐月
皐月「アレが出て来るってことは……司令官は本当に深海棲艦を手中にしてしまったんだね」
浮遊要塞が皐月たちの頭上に急接近し、光を照射する。光に照らされた皐月たちの身体はしばらくすると宙に浮き、浮遊要塞の中に吸い込まれていく。
電「えっ、これ、大丈夫なんですか!?」
皐月「司令官もボクたちの位置を把握してるはずだから、迎えに来たってことだと思う。敵意があるなら先制攻撃してくるだろうし」 浮きながら説明を続ける皐月
文月「キャトルミューティレーション……」
・・・・
大理石のような材質の床に、透明なガラスのように外の景色を映している壁。宮殿にあるホールのようにだだっ広い空間が広がっていた。
皐月「なんだこれ……中はこんなになってたのか」
龍田「海の上を移動するよりもラクでいいわね〜」
天龍「というより、海を渡って行ったんじゃかなり厳しいな。海面に幾つも渦潮が発生してやがる」
MIの島々に並び立つ岸壁の要塞。一見すると天然の要害のように見えるが、これらは提督たちがこの島を訪れた後に形成されたものだ。
そして要塞の中央に聳え立つ城。あそこに司令官は居るのだと、皐月はそう直感した。
・・・・
提督(皐月らとの合流が果たせたようだな。金剛も間もなくこちらに戻ってくるだろう)
提督「あちらもそろそろ動き出す頃合か。備えは済んだが……後はどれだけ時間を稼げるか、か」
響「司令官がお望みとあらば、百年でも戦えるさ」
提督「なに、百時間も必要ない。こいつが目覚めるその時まで耐えてくれれば十分だ」
“こいつ”……玉座の上で眠る空母ヲ級Nightmareを指差して言う。
響「これはそんなに役に立つものなのかい?」
提督「……さあな。目覚めてみないと詳しいことは分からん。だが、意識がなくとも一瞬にしてこの城を生み出してしまう程度には力を持っている。
泊地水鬼曰く、かつての深海棲艦の本拠地であった場所を海底から地上に顕現させたものらしい。多神教圏でなら神と称される程度に力はあるんだろうな」
響「司令官は神ってやつを信じるのかい」
提督「『神』をどう定義するかによって変わってくるが……。絶対神、絶対善、全知全能……そういったものは存在しないのだと思う」
響「ほう、そう答えるとは意外だな。詳しく聞きたい」
提督「詳細に回答できるほど物を知っているわけではないが……。この世界というのはどうやら何某かのシステムによって立脚しているようだ。
ある者はそれを宿命と呼び、ある者はそれを神意と呼ぶ。しかし、そのシステムのルールは絶対的な一存による決定で定められるものではないのだと思う」
提督「世の真理は真理にあって未だ真理にあらず。真理を超越した先の真理を見出したいと、俺はそう望むのだ」
響「久々に言っている意味が分からない台詞を聞けて安心したよ。やはり君はそうでなくてはな」
・・・・
雪風らに玉座へ案内されると、皐月は提督のもとへ駆け寄っていく。
皐月「司令官!」
提督「ご苦労だったな……正直のところ予想外の動きだが。発信機の存在に気づいたなら、呉の連中に知らせると踏んでいた」
皐月「司令官は、ボクが司令官を裏切ると思ってたの……? ボクを信じていなかった?」
提督「逆だ。軍を裏切ってまで、俺に従う道を選ぶとは思わなかった。信じる信じない以前に、合理的な選択じゃないからな。
俺にとってはもっともありがたい働きではあるのだが……今は資源がとにかく欲しい」
皐月「司令官は、ずっとボクのことを信じていてくれたから。大事に思ってくれていたから。ボクは司令官のために、ここに来たんだよ」
少し悲しそうな顔を浮かべると、歯を食いしばる提督。しかしすぐに普段の表情に戻る。
提督「そうか。すまないな……助かる」
提督「役者は揃った。日も間もなく昇る頃だろう。各員、戦闘配置! 開戦だ……!」
602 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/10/11(日) 21:05:52.42 ID:dfa6f4ou0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~85 Phase C/100)
・皐月の経験値+6(現在値19)
・翔鶴の経験値+4(現在値19)
・足柄の現在経験値:26
・雪風の現在経験値:26
・金剛の現在経験値:23
・響の現在経験値:23
----------------------------------------------------------------------
相変わらずややこしいことになってきましたね(定例)
次はPhase Bですが、そろそろ終わりに近づきつつあるんで確率の偏りをフラットに戻しました。
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【86-90/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00〜15:雪風
16〜32:翔鶴
33〜49:金剛
50〜65:響
66〜81:足柄
82〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
603 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 21:07:02.25 ID:ZIS1ulRGO
てーい
604 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 21:07:12.20 ID:+5thFE8nO
あ
605 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 21:07:21.99 ID:i+QX2QkfO
あ
606 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 21:07:33.16 ID:M4RZPlMeO
あ
607 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 21:07:34.69 ID:o0xDwE7Go
それっ
608 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 21:07:43.04 ID:qt6s0JmhO
あ
609 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/10/11(日) 21:30:28.78 ID:dfa6f4ou0
>>603-607
より
・翔鶴3レス/皐月1レス/足柄1レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:229 なので『Phase C』が発生します)
おおぅ、またPhase Cか……これは分からなくなってきましたね。
別に惚れた腫れたメインのお話で書いているつもりはないのですが、一応ラストは誰かしらのルートでEDを迎えるつもりです。
つもりなんですが、これ誰に決まるかによってめっちゃ結末変わりそうですね……うーん、どうなるんでしょう。書いてる本人が一番展開を読めねえ
ますます遅筆に拍車がかかりそうですが来年になるまでには完結させられるぐらいのペースで頑張っていきます。
610 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/11/03(火) 23:42:54.04 ID:ahHHWaGq0
次回の投下は11/6(金)頃を予定しています。
(本来通例になっているようではダメなのですが)例によって数日後ろにずれる可能性があります。
////チラシ裏////
お久しぶりです。いやぁ・・・・秋刀魚これくしょんでしたね。
一応大漁旗はゲットしました。あんまリアルの時間が取れなくってゴールドラッシュならぬネジラッシュみたいなことは出来ませんでしたが。
あとは最近の話題と言えば、アレですね。激強艦載機こと岩本隊の導入がアツいですね。烈風改の完全上位互換ってヤバすぎませんか!?
というか、熟練度システム導入でほとんどの通常海域が易化しましたよね。軽空母三隻でも制空権完全確保しながら5-4回せるんですからね。
戦争は変わったってやつですかね。通常海域がヌルくなった分秋イベ冬イベがこえーんですけども・・・・。
私がSSを書けない間にも艦これの世界は発展していきますね・・・・。翔鶴改二・瑞鶴改二も実装され、UIが劇的に改善され。
一括補給や編成プリセットの導入は感動を覚えました。
いや、他にこの手のゲームに慣れてる人から言わせりゃむしろ導入するの遅すぎぐらいに思ってるのかもしんないすけど。
私は艦これしかやってないので神アプデに感じました。いや実際神アプデじゃない!?
あ、いや何が言いたいのかというと、せめて艦これのアプデと同じぐらいの間隔で投下出来るといいなあって話です。
でもそれが出来たら苦労しないんだよにぇ・・・・なんか毎回似たようなこと言ってる気がするし。まあいつも通りなんとか時間作って書きます。
611 :
【86/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/11/08(日) 23:01:36.17 ID:LuOWkimU0
提督が城内の艦娘や泊地水鬼に出撃命令を出してから数分後。提督のもとを訪れた皐月と文月。
皐月「司令官! 別室で待機ってどういうこと!?」
提督「お前たちのレベルで出撃させるのは危険だ。犬死はさせん」
皐月「けど! ボクたち、司令官の役に立ちたくて来たんだよ!? ここまで来て用なしだなんて……ボク、何のために来たのか分からないよ」
文月「皐月の勝手な感情を司令官にぶつけちゃダメだよ。司令官はあたしたちよりもずっと色んなものを背負ってるんだから……無理言っちゃダメだって」
提督が口を開く前に皐月を諌める文月。しおらしくなる皐月。
提督「益体ないなんて言うつもりはない。……今はまだ指示を出す必要がないだけだ。だが、すぐに動いてもらうことになる」
皐月「ごめん……我儘言っちゃいけないよね」
しょげた様子で待機していた小部屋に戻ろうとする皐月。肩を叩き励ます文月。二人の姿を見て提督が一声。
提督「いや……無くはない。ではこうしよう、お前たち二人には別の任務を与える」
・・・・
提自分の背よりも遥かに高い巨大な機械郡の立ち並ぶ通路を歩く。やがて通路の行き止まりに辿り着くと、小部屋に辿り着いた。
提督の後ろからとてとてと歩いてくる皐月と文月がついてくる。
提督「ほう、もう動き出したか。あと一日はもたつくと予想していたが……あちらも存外手が早い。
だが、現時点でこちらの位置を完全に把握出来ていないのは痛いな。こちらにとっては幸いだが」
小部屋の中にあるモニターを機動させると、周辺海域の敵艦反応を調べだす提督。
提督「動きから察するに中部海域に艦娘を総動員して位置を探り当てる、といった目論見だろうか。
下手な鉄砲も数撃てば当たる……。理屈の上では正しいが、焦りが見て取れるな」
皐月「でも、近隣の拠点に戦力を割けるほどの余裕はないはず……だよね? 結局すぐ見つかっちゃうんじゃあないかな」
どうして彼が初見で深海製の機材を操れるかに関しても気になったが「だって司令官だし」という結論に至ったため、あえて聞こうとはしなかった。
提督「確かにそうだが、問題ない。接敵まで一日は稼げるだろう。この城は深海の連中が積み上げた技術の結晶。
我々を人類を苦しめるための仕掛けが幾層にも組まれていたというわけだ。……沈んだ艦から全ての情報が流出すると考えれば、このぐらいは容易いことなのかもしれんな」
モニター上をトン、トンとタッチすると、画面上が紫色に変色する。
文月「……? 何をやってるんですか」
提督「かつて深海棲艦の巣食う海域ではなぜ敵艦隊の誤発見が多発していたと思う? なぜ渦潮に行く手を遮られていたと思う?
なぜ羅針盤が正しい方角を指さずに意図せぬ方向に進むことになっていたと思う? その答えがこれだ」
提督「ここはゲームで例えるならデバッグルーム。機雷の設置にデコイの配置。渦潮の発生から海流操作までなんでもござれというわけだ」
・・・・
提督「後は説明した通りだ。お前たちが上手くやれば、接敵前に予め打撃を与えておくことも可能だろう。では……」
皐月「え、行っちゃうの?」
椅子から立ち上がった提督の服の裾を無意識のうちに掴んでいた皐月。皐月の指に気づいて振り返る提督。
提督「ああ。ここはお前たち二人に任せたい」
皐月「……分かった、よ」 力なく指を離す
提督「どうした? ……ん」
提督からハンカチを差し出されると、困惑しながらも受け取る皐月。
自分が泣いていたことに気づいていなかったようで、拭ったハンカチが濡れていたことに驚いていた。
泣いていることを自覚すると、その場で膝を折ってしまう皐月。慌てて文月が介抱する。
皐月「ハハ……ごめん。なんか、迷惑、だよね。なんでだろ……悲しくなんてないのにな。どうしちゃったのかな……ボク、変だなぁ……。
なんかね……ボク、分からなくなっちゃったんだ。自分がどうしていいのか、自分がどうしたいのか」
皐月「たとえ距離が離れていても、ボクらにとっては司令官あっての日常だったから。司令官が遠くで見守っていることが、当たり前だったから。
鎮守府が解体されても今生の別れにはならないって思ってた。直接会うことはなくても司令官が陰ながら支えてくれているって分かる安心感もあったから」
皐月「前に、人間の精神は身体に引きずられるって話したけど……やっぱり、それは間違っていないと思う。
ボク、学校に通うようになって、ますます精神的に幼くなっちゃったのかもしれない。こうしてまた、戦いの中に身を投じることが、怖いよ」
皐月「それ以上に……司令官がふっとどこかへ消えてしまうことが……怖いんだ」
しばしの沈黙のあと、顔を上げて、真剣な眼差しでじっと提督の目を見つめる。提督も目を逸らさずに真っ直ぐ皐月を捉えている。
皐月「ごめんね……足止めしちゃって。でも、大丈夫。司令官がそんな人じゃないって、ボク、分かってるから。
ちょっとだけ、不安になっただけ! もう大丈夫、ここはボクに任せて!」
立ち上がり微笑む皐月。提督は無言で頷くと身を翻して部屋を後にした。
612 :
【87/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/11/08(日) 23:07:41.03 ID:LuOWkimU0
カッカッと音をたて廊下を歩く提督。皐月たちの居る部屋から数十メートルほど歩いたところで、足を止め、振り返る。
提督「人の心というのは読めんものだな。位置に気づいたのは予想通りだったが……皐月がこちらの側につく可能性は考慮していなかった。僥倖ではあるのだが」
提督「さて……」
再び前を向き、歩き始める。
提督「長期戦になってはこちらが不利だ。焦る必要はないが、急ぐ必要はあるな」
提督(果たすべきを果たし、成すべくを成す。それだけだ……)
・・・・
加賀「赤城さん……やはり納得いきません。よりにもよって五航戦に旗艦を譲るなど……」
赤城「加賀さんの言うとおり、確かに私には迷いがあるようです。だから旗艦に相応しくはない。
今回の作戦で、私は後衛に回ります。二航戦の二人と水上打撃部隊の援護を行います」
加賀(甘えたことを……。相手があの提督なら、物量をひっくり返すような策を必ず仕掛けてくるはず。
赤城さんにその気がなくとも、どのみち前線へ出ることは避けられなくなる状況が起こるはずだわ。それが予測できないほど衰えてはいないはずなのだけど)
加賀(ま、赤城さんの動向はこの際よしとしましょう。期待外れだったというだけのこと……)
赤城「五航戦の子が不安かしら?」
加賀「不安ではないわ。ある程度は評価しています。ですが……適任な人材が他に居るかと」
赤城「では、あなたがやってみますか。加賀?」
加賀「? 何をいきなり……」
赤城「あなたでは私に近すぎるのですよ」
赤城「……あれを見てください」
空母の控室を指差す赤城。窓から談笑している翔鶴や瑞鶴、その後輩である葛城や天城の姿が見える。
肩を揉もうとする葛城相手に遠慮する瑞鶴。食べていた串団子を喉に詰まらせ咽せている翔鶴。それを見てオロオロする天城。
出撃前の最後の整備を済ませた後という、本来なら艦娘にとって最も緊張感の高まる場面のはずだったが、彼女たちはどこか余裕が見てとれるような和やかな雰囲気を醸し出していた。
赤城「あれが出撃前のあるべき姿だとは言いません。ですが……どうにも私たちは前に進みすぎてしまったようです」
赤城「加賀さん。確かにあなたの力量は見事なものです。今や私をも凌ぐかもしれません」
赤城「私たちは……佐世保に居た頃からずっと。私は私に相応しい居場所を求めて、あなたは誰よりも上を目指して。それは、個人のあり方としては正しかったのかもしれません。
結果として私は今や海軍所属の正規空母の中で最も高い地位に上り詰め、あなたは航空戦において全空母中最強と言わしめるほどの力を手に入れたのですから」
加賀「ええ、そうです。昨夜貴女を焚きつけたのは、貴女が手取提督のもとに寝返ることを期待してやったことです。発言の内容は本音ですが。
貴女と正面からやり合える機会なんて、今を逃したら未来永劫訪れないでしょうから。私は貴女を乗り越えたい」
赤城「私を超えて、その先に加賀さんの望むものはあるのかしら?」
赤城「かつて。MI作戦は私の最期に相応しい場所であると思っていました。あそここそが私の墓標に相応しい、最も輝ける場所だと。
ですが。……私たちは死ぬために生きているんじゃない。当たり前のことです。長い戦いの中で、仲間が海の底に沈んでいくのが当たり前の世界で……私はそのことを忘れてしまった。
あの提督に出会うまで、私は死に場所を探す生きた亡霊だった」
赤城「あの子たちの瞳には、未来が映っているわ。それは……悔恨を抱えたまま沈んでいく、怨嗟と後悔の海を知らないが故の無邪気さ。無知であるがゆえの楽観。
けれど……あの子たちと違って、私もあなたも自分の存在を疑わずにはいられない。何も成し遂げられないまま死んでいくことが怖いのでしょう。
いや、恐怖を恐怖と認識出来ないほどにまで染み付いてしまっている。だから己の命よりも価値のある何かを得たい、達成したいと思っている……」
赤城「だから私は居場所を探し続けてきた。あなたは力を求め続けてきた」
加賀「その通りです。……昨夜も言った通り、私はずっと赤城さんの背中を追いかけてきました。貴女を超えることが、私が艦娘に生まれた存在意義です」
加賀「MIの後にもう大きな戦いは無いと思っていました。どれだけ強くなろうと、その力を発揮する場がなければ意味がない。
ですが……神か仏か、あるいは悪魔か。私の力が、今再び必要とされています。私にとってこれは千載一遇の好機です」
加賀「アテが外れてしまったようですがね。貴女は艦隊に残り、しかも後衛に控えているという。
ならばそれでもいいでしょう。貴女にその気がないのに私が一方的に張り合っても意味がない」
加賀「私はこの戦いで、己の武の全てを尽くしましょう。もはや貴女が居ようと居まいが関係ありません」
赤城「私たちは、戦うために生きているのではありません。力など、振るわずに済むのならそれに越したことはないのです」
加賀「当然でしょう。しかしそれは目の前に危機が迫っている今この状況で考えるべきことではない」
赤城「その当然さえ、今の加賀さんは分かっていない! だから旗艦を任せるわけにはいかないのですよ」
加賀「……ええ、もう結構です。こうして貴女と話している今になってみれば、その方が都合が良いとさえ思えてきました。他の艦娘のことを気にかけず好きに戦えるのですから。
別に、貴女と諍いを起こしたいわけではないのです。ただ一度、本気の赤城さんと戦ってみたかった。それだけです。それだけでした」
赤城「加賀……」
それでは、と言い残し加賀は一人どこかへ歩いていった。
613 :
【88/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/11/08(日) 23:12:40.79 ID:LuOWkimU0
翔鶴「機動部隊旗艦、翔鶴! 抜錨します!」
瑞鶴「翔鶴ねえ……やるよ!」
天城「私たちも先輩方の足手まといにならないように頑張ります。葛城、行きましょう」
葛城(憧れの五航戦の先輩方との初陣……頑張らなくっちゃ!)
加賀(士気は高いようだけど……実力はどうかしらね。まずはお手並み拝見といきましょうか)
・・・・
川内「中部海域哨戒線に差し掛かりましたが……今のところ敵の気配はありませんね」
翔鶴「念のため索敵機を飛ばしておきましょうか。周辺海域の様子も把握しておきたいですしね」
瑞鶴「敵の兵力的に、いきなりここに戦力を配置するほど余力はないと思うけど……ここからはいつ奇襲が来てもおかしくないからね。二人とも、警戒は怠らないように」
天城「はっ、はい!!」
翔鶴「といっても、無理に気張る必要はないわ。あまり緊張し過ぎてもダメよ」
葛城「わ、分かりました! 頑張ります!!」
瑞鶴「(頑張る頑張るって、大丈夫かしら?)ま、イザとなったらあたしと翔鶴ねえがバッチリ助けてあげるんだから、肩の力は抜いて、普段通りやればいいのよ!」
雲龍「〜♪」ポーッ
瑞鶴「そうそう、こんな感じでリラックス……って、うちの艦隊にこんな子居たかしら?」
翔鶴「いや、居ないはずだけど……。確か私たちの後方の水上打撃部隊に配属されてる艦娘だったと……」
比叡「第三哨戒部隊から通信! 敵艦隊を観測したとの報告です!」
夕立「こっちにも通信っぽい! 第四哨戒部隊、敵艦隊発見!」
瑞鶴「翔鶴ねえ……! 今偵察機からも入電があったわ。敵艦隊見ゆ、ってさ」
加賀「もう既に敵の手中というわけね。どうするの?(セオリー通りに考えるなら、ここで留まって味方と合流を図るべきだと思うけれど……)」
翔鶴「井州提督の命によれば、本格的に勝負を仕掛けるのは哨戒部隊が敵艦隊と“交戦”した後。報告が何かの見間違いや勘違いだったという可能性もあります。
確定するまではここに待機し、主力である水上打撃部隊が来るのを待ちましょう。焦る必要はありません」
瑞鶴「ただ、本当に敵艦隊がこちらに接近してきている可能性もあるわ。輪形陣で迎え撃ちましょう」
・・・・
提督「偵察に来た小隊は上手く撹乱できているようだが……本丸の機動部隊を釣るには至らないか。こいつらを後続の水上打撃部隊と合流させては厳しい」
提督(皐月らが上手くやっている間は、前方にいる偵察部隊が我々の本拠地を突き詰めることは出来んだろう。
だが主力級の大艦隊が後方に控えている以上、これでは時間稼ぎにしかなるまい。少し場を荒らすか……)
提督「雪風。動けるか?」 無線機ごしに雪風と会話する
雪風「……まだ時間がかかりそうなんですね」
提督「ああ。今龍田らに資源を集めてもらってきているのだが……敵の動きが思ったより早いようだ」
雪風「ええ。何隻かはレーダーで捕捉出来てます。向こうが気づく様子はありませんが……」
提督「かつての仲間を撃つのは嫌か?」
雪風「はい」
提督「だろうな。俺もお前の性格はよく知っている。……後方に下がっていろ。響と軽巡棲鬼を向かわせる」
雪風「いえ……やります。やらせてください、司令」
提督「!?(どういうことだ……?)」
雪風「敵の陽動ですよね。X地点まで誘き寄せて迎撃、という形で問題ありませんか?」
提督「ああ、そうだが……しかし」
雪風「同じ艦娘同士で争うのは、本当は嫌です……。でも、司令のために、やります。司令のためなら、やれます」
雪風「あの……うまく言えないですけど。……しれえは、間違ってないと思います! 絶対、大丈夫です!」
言葉に詰まる提督。予期せぬ申し出になんと言うべきか迷っていると、いつになく優しい声で語りかける雪風。
雪風「司令が正しいと思う道を進んでください。……大丈夫です。司令には雪風がいますから」 ツッ
提督(通信が切れてしまった……。いや、切られたのか。……)
614 :
【89/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/11/08(日) 23:16:20.76 ID:LuOWkimU0
提督(ここまで全て、全てが俺の思惑通りに動いている。皆が俺の意志に沿って動いている……これは望ましいことだ。だが……)
全てを裏切ってまで俺に従う道を選んだ皐月は。自らの意志を曲げてまで俺のために動こうとしている雪風は。あいつらは本当にこれでいいのか?
俺にはあいつらの心が分からない。リスクやポリシーと俺とを天秤にかけたわけだろう。
その上でなぜ俺に従おうとするのだ……。俺はあいつらの為にそこまでの利益を与えられているのか?
皐月がどう動こうと、俺の利になるはずだった。だから居場所を教えた。皐月の選択した行動は予想外ではあったが、俺の想像していたよりも俺の役に立つ結果となった。
位置的に、最も敵に近い雪風を動かすべきだと考えた。だから雪風を後方に下がらせて響らに向かわせるよう指示を出そうとした。だが雪風は俺の為に戦いたいと言った。
結果的には俺が自分で予想していたよりも優位な状態を保てている。だが……。
『……しれえは、間違ってないと思います! 絶対、大丈夫です!』
提督「そうだな。……そう思うことにしよう(他人の言葉に勇気付けられる日が来るとは、な)」
・・・・
瑞鶴「艦載機から情報。哨戒部隊からの報告。いずれも誤報、か……動かなくて正解だったわね」
夕立「第八遊撃部隊から入電っぽい。敵艦隊を発見、交戦開始……っぽい!」
時雨「ザザッ……こちら第一遊撃部隊時雨。敵駆逐艦二隻による奇襲を受け雷巡北上が中破。敵は逃亡中だけど、まだ追いつく範囲だ……仕留め次第報告する」
翔鶴「敵が動き出したようね……背後の主力大隊は?」
川内「まだ来ないみたいですね。半日あればこっちには着くそうですが……。先鋒部隊が交戦したことは伝えときます」
天城「敵の拠点が分からない以上、まだ私たちが動くのは得策ではありませんね……」
翔鶴(しかし……嫌な予感がしますね。私たちが動くように誘い出されているような気もするし、私たちが動けないように戦局を進めているような気もします……あるいはその両方か)
加賀「……(気配がするわね。まだ遠いけれど……強大な何かが目覚めつつあるのを感じるわ)」
・・・・
利根「ふっふっふ、この時のためにカタパルトは整備しておいたのじゃ! 全爆撃機発進! 追え追えーっ!」
北上(痛たッ……あたしが旗艦なんだから避けずに庇えってのぉ……これだから他の鎮守府から来た他所モンは分かってないねえ)
時雨「北上、動けるかい?(しかし昼戦なのに気配なく近づいてくるとは敵も侮れないな……)」
北上「ん。ヨユーヨユー。歴戦の大エース、スーパー北上様を舐めちゃいけないよ。あの鬱陶しい駆逐艦をサクッとやっつけちゃいましょうかね。全艦突撃〜」
距離を詰めてくる北上隊に気づき、航行速度を上げる雪風と磯風。
磯風「敵艦隊が混乱から立ち直ったようだな。こっちを追う速度が上がってきた」
雪風「なんとか目的地まで逃げ延びて……そこからですね」
磯風「無傷で逃げ切るのは厳しそうだな。こんなところでやられるような私たちではないが……中破ぐらいは覚悟しておこうか」
雪風「いいえ、無傷で乗り切ります。あの城にはドッグに相当する施設が無いので……回復手段がありません。一応、修復剤でどうにかなりますが……金剛さんたち戦艦が使うべきでしょう。
雪風の装備は対空兵器に乏しいので、磯風さんがあの爆撃機を打ち落としてください。後ろの敵は雪風がいなします」
磯風「なるほど無茶を言う。が、面白いぞ。その提案に私も乗ろう。よし、対空機銃撃てッ!」 バリバリバリバリバリッ
時雨「逃がしはしないよ!」
北上(この動き……誘導だろうなぁ〜。ま、士気も高いしなんとかなるっしょ)
・・・・
提督が再び玉座の部屋を訪れると、足音で目覚めるヲ級Nightmare。
提督「目覚めたか」
提督を攻撃しようとする素振りを見せたが、玉座から立ち上がって動くことも出来ないらしい。
提督「今のお前はその椅子から立ち上がって歩くことすら出来んよ。動くための燃料が完全に尽きているのだからな」
提督「少しばかりこの城で調べさせてもらった。艦娘と深海棲艦の違いをな。艦娘は燃料が尽きても海上を移動出来なくなるだけで、地上を歩くことは出来る。母体は人間だからだ。
一方深海棲艦は、人間の人間たる部分を全て失い艤装に完全に支配された姿……だそうだな」
提督「だから深海棲艦に自律意志があるなんてことはまずあり得ない。お前たち深海棲艦は人を襲うようプログラムされた機械だ。機械がプログラム外の動きをできるはずもない。
ところが……お前やまだ生き残っている深海棲艦である泊地水鬼、軽巡棲鬼なんかは意志と感情を持っている。人の身を失っても、残留思念で動き続けているといわけだな」
提督「改めて言うが、これは本来あり得ないことだ。あり得ない存在がこの世に存在している……お前たちは一体なんなんだ?」
ヲ級「ヲォ……」 突然提督の身体に触手を伸ばすとそのまま拘束して自分の眼前に引き寄せる
提督(ッ、まずいことになったぞ……。最悪殺されても再生できるだろうと高を括っていたが……まさか本当に攻撃してくるとは)
提督の身体に次々と触手が絡みついていき……やがてほとんど隙間も無くなってしまうほどに包み込まれてしまう。
615 :
【90/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/11/08(日) 23:22:08.86 ID:LuOWkimU0
呉鎮守府近海。
足柄「後方での警備なんて私たちには向いてないわよねぇ〜……ふわぁ〜あ」
朝霜「敵がわざわざこっちに来るわきゃねーし、だいいちアタイたちの柄じゃないわな。あー酒酒……なんだもう無いのか」
ぽいっと宙へ空の瓶を投げ捨てると、清霜がキャッチしてしまい込む。
清霜「あーっ! ポイ捨てはダメだって! もう!」 ぷんぷん
霞「っていうか、真昼間っから酒飲んでんじゃないわよオラァ!」 飛び膝蹴りを朝霜に見舞う
大淀「水上打撃部隊の方も中央海域付近まで辿り着いたみたいですね」
霞「どうなるかしら……ね。それにしても、この近海警備の配置……妙ね。朝霜の言ったとおり、反乱軍がこっちを攻めるなんてのは戦力的に不可能なはず」
清霜「やっぱり……これじゃないの?」
黄色い光を放つ自分の艤装を指差す清霜。
足柄「とりあえず半深海化の症状が進んでる艦娘を鎮守府近海に置いておいて何も無ければそれでよし。何かあったら……バトルロワイヤルってとこかしらね。
暴走する可能性のある艦娘を前線に配置するわけにはいかない。とはいえ鎮守府においておける余裕はないし、鎮守府内で暴れられてもそれはそれで困る……ってとこじゃない?」
霞「……! なんてことを……。あたしたちを何だと思ってるの!?」
足柄「ちょ、ちょっと……やけに食いつくわね。あくまで推測よ。手取提督がこの状況を見てたら、こう分析しそうかなって思っただけよ」
霞「中部海域に出撃した艦娘たちと違って、鎮守府近海の艦娘には自分たち以外の他の艦が具体的にどこに配置されているとかそういう情報が一切教えられてない。
これは疑念を抱くに足るわね……私たちも中部海域へ行くわよ。行ってどうするわけでもないけど、ここで同士討ちなんて納得行かないわ!」
足柄「いや、そうと決まったわけじゃ……」
大淀(すごい怒りよう……霞さんは一度、提督のミスで艦娘が沈むところを見ているんでしたっけ……。深海棲艦になった味方を、自分の手で仕留めたとか……)
霞「足柄! 清霜! 大淀! 半深海化だかなんだか知らないけど、そんなことぐらいで自我を失ったりするんじゃないわよ!
だいたい、沈んだぐらいで敵に成り下がってどうすんのよ! 何が轟沈よ! 何が深海棲艦よ! 色々思い出して全てにムカついて来たわ……行くわよッ!」
朝霜「(頭に血が昇るとこいつが一番手に負えねえんだよなァ……)ま、これはこれで面白いか。あたいらも続くぜッ!」
大淀「足柄さんが気圧されるのは珍しいですね。ああまで突っ走る霞さんも初めて見た気がします」
足柄「なんか、地雷踏んじゃったみたいね……」
清霜「ま、こうなる方が私たちらしいんじゃないかしら? 行きましょ行きましょ〜♪」
・・・・
長門「待て。お前たち持ち場を離れてどこへ行こうというのだ」
霞「アンタもやっぱり艤装が青くなってるのね。ますます確信に変わったわ。そこを通してもらえるかしら」
長門「? ……半深海化が進んでいるお前たちをこのまま戦場へ見送るわけにはいかないな。作戦の邪魔をされては困る」
霞「だから、その作戦にも、作戦を出してる司令官様にも従うつもりはないってことよ。半深海化した艦娘同士で戦わせるなんて、良い趣味してると思わない?」
長門「そのことか……。半深海化している艦娘を鎮守府近海に出撃させるよう井州提督に提言したのは私だ。だが、半深海化した艦娘同士で戦う事態にはならないだろう」
足柄「それは……どういうこと?」
長門「見ての通り、私はもう私を保っていられそうにないらしい。このままでは他の艦娘を攻撃してしまう恐れがある。……そうなる前に、始末してもらうのさ」
長門の横にいる少女は膝を震わせている。長門の方向に砲を向けてはいるが、その先端はぷるぷると震えている。
長門「このように。最終段階まで至ってしまった艦娘を処理するために別の艦娘を配置してある。みんな納得してくれたよ。深海棲艦になって死ぬよりはマシだとね」
酒匂「こんなこと……したくないですよぅ……」
長門「私も……どうやらここまでらしい。酒匂、お前の最初で最後の仕事の時間だ」 両手を広げ、空を仰ぎ見る
長門(どうしてこうなってしまったのだろうな……だが、こんな形になってしまったとはいえ、最後に井州提督に会えて良かった。彼に出会えて良かっ……)
酒匂「ぴゃっ!? ぴゅいいぃぃぃぃ!」
清霜の合図で動き出すと、酒匂を担ぎ上げて海上を疾走する足柄。拉致である。足柄を追うようにして霞と大淀も駆け抜けていく。
清霜(霞ちゃん……今、清霜も同じ気持ちになったよ……!)
清霜「私……戦艦にずっと憧れてたのに……! こんなの違うよ。カッコ悪いよ! 大戦艦なんでしょ!? ビッグセブンなんでしょ!?
簡単に諦めちゃダメだよ! 諦めるなんて、許さないからね! 絶対、許さないからね!」
長門に向かってそう言い捨てると、グルンと背を向けて走り去る。
朝霜「まっ、ご覧の通り血の気の多い連中なんだわ。で……あたいもアンタが深海棲艦になろうと知ったこっちゃない、このままアンタを置いて中部海域へ向かう。
ここに残って味方を傷つける化物になるわけにゃいかねえだろ……? どうにかしてあたいらからあの軽巡取り戻さなきゃまずいんじゃないかねえ〜……じゃーな☆ミ」
616 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/11/08(日) 23:23:55.43 ID:LuOWkimU0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~90/100)
・足柄の経験値+2(現在値28)
・翔鶴の経験値+6(現在値25)
・皐月の経験値+2(現在値21)
・雪風の現在経験値:26
・金剛の現在経験値:23
・響の現在経験値:23
----------------------------------------------------------------------
次回はPhase Cなんで、経験値の低い順なんで
皐月2/金剛1/響1
と4レス分までは配分できるわけですが〜。
皐月・金剛・響がちょうど経験値25で並ぶため、残り1レスの枠はこの三人の中から選出しようと思います。
特例的に安価で決めようかなと。
----------------------------------------------------------------------
『Phase C』【90C/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(金剛・響・皐月の中から一人)
>>+1
----------------------------------------------------------------------
617 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/08(日) 23:25:05.06 ID:z7zTORJ6O
金剛
618 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/11/08(日) 23:32:02.64 ID:LuOWkimU0
>>617
より
・皐月2/金剛2/響1
で『Phase C』が進行していきます。
(投稿し終えてから気づきましたが翔鶴も経験値25で並ぶんでしたね……ミスりましたが気にせず安価通りいきます)
////チラシ////
来週から秋イベですね。海風と風雲がドロップすると良いなぁ……
619 :
◆Fy7e1QFAIM
[sage saga]:2015/12/14(月) 01:47:23.41 ID:gSu53yuX0
特に事前予告的な書き込みをしていなかったため、唐突になってしまって恐縮ですが本日19時頃に投下予定です。
次回で最後のPhase Aなんで、任意で対象選べるのは次が最後みたいですよ……? え、マジ?
前にも書いたことですが、前回の100レスと違って特に特別措置とかも取らず最終的な値で決めてしまうつもりでいます。
なので次のPhase Aでどう転ぼうが結局最後のPhase Bでコンマが荒ぶったら誰選ぼうが変わりないじゃんってのはありますが……やはりこれでいこうかなと。
最後までどう転ぶか分からないから面白いのではと思う一方で、読み手の総意に沿ったキャラにならないのでダメなのではとも思い未だに悩んでいる部分ではあるのですが……。
やはりこう、最終的にどうなるか人の念が及ばぬあたり良くも悪くも艦これ的(?)なんじゃあないかな、と。
(作者の意向も及ばないんで書きづらいことこの上無いんですけど……)
まあ、なんか最後のPhase Bでコンマが空気読んでくれればだいたい次のPhase Aで選んだような感じになってくれる……と思います、多分。
////チラシの裏////
秋イベでしたね。11月めっちゃ忙しくて正直イベントどころではなかったのですが、相変わらずちゃっかり甲で完走はしています。
レア艦をいかに早くドロップできたかが全ての明暗を分けたと言っても過言ではないイベントだったのではないでしょうか(オイゲン掘りをやってた方は特にお疲れ様です)。
とりあえずツェッペリンも嵐も手に入れ、風雲もゲットしましたが、海風だけはダメでしたね……悔しいですが次のイベントではもうちょっと楽に掘れることを期待して待つことにします。
あと、軽巡棲「姫」登場しましたね。ベタですがカッコいい系でなかなかいいですね。
620 :
【90C-1/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/14(月) 19:02:30.84 ID:gSu53yuX0
提督(動くことは出来ないが……本気で俺を殺そうとしているならもっと強い力で締め付けるはず、か。
とはいえここまで雁字搦めにされては口を開くことさえ出来ん。意志の疎通を図る気もない……ということか?)
わずかな、本当にごくわずかな隙間から、辛うじて酸素を得る。
触手が顔に絡みついているため目を開けることさえ出来ない。耳も塞がれているため音を聴き取ることも出来ない。
提督(五感のいずれかが機能しなくなると、それを補うべく他の感覚が発達すると聞いているが……なるほど。
身体を這い回る触手の一本一本が正確に感じ取れる。そして……生臭い。腐りかけの魚の臭いだ……そんなことは今どうでもいい)
提督(視界は遮られた。音は失われた……はずだ。しかし、なんだこれは……)
目を開いていないにも関わらず、眼前には海が広がっている。光の差さない海、暗い海。宵闇よりも暗く、目を閉じた時の暗闇とも様子が異なる。
音は聴こえていないにも関わらず、囁き声が聞こえる。音が“底”から伝わってくる。不自然に静か過ぎるこの空間では、微かな声すらも耳に届いてしまう。
『会いたい……』
提督(……?)
声が流れ込んでくる。
『ごめんなさい、ごめんなさい。本当にごめんなさい……。(でも、もう会えないから……)忘れてください……(嫌だ……忘れるなんて許さない……)』
声が流れ込んでくる。言外の心の声までが耳に届いてくる。水底に沈む無念の声が、失望の声が。
『私は悪くない……なんで……。あぁ……冷たくて、痛いよ……。うぅ……』
『体に、水が、炎が、ああ、熱いよ、寒いよ、どうして……』
『信じていた……信じていたのに……』『痛い、痛いよ……体がひび割れて……くるしい』
上から落ちていく“それ”を、下に沈んでいく“それら”を眺める提督。暗闇の中でも“それら”が人間の輪郭をしているということは辛うじて分かる。
『幸せだったよ……愛していた……本当に、好きだった……』『残念だ……終わってしまった。油断したのかな、それとも……』
『どうしてあの時……ああ、あんなことを言わなければ……』『さようなら、みんな……。ありがとう……寂しいよぉ』
耳に届く音は、憎しみや苦しみの声だけではなかった。果たせなかった想い、伝えられなかった想い、約束、願い、祈り、思い出、すべてが行き場もなく泡のように漂って
消えていく。
耳から通り抜けて、消えていく。放たれた呟きの全てが、誰に届くこともなく消えていく。そして“底”に抜け殻だけが溜まっていく。
提督「安い芝居だ」
吐き捨てる。
底に沈んでいく全てを否定し、拒絶し、討ち払うかのように。
提督「それがお前が“悪夢”の名を冠する理由か。理解した……」
『ゆるして、ゆるして、ゆるして、ごめんなさい……』『見ているぞ、お前を……』『ざまあみろ』
手を掴んで“底”へ引きずり込もうとする“何者”か。だが、提督にとっては“それ”が何者だろうと関係なかった。振りほどいて薙ぎ払う。
提督「沈んでいくお前たちの想念がたとえ本物であろうと……もう、それは沈んでしまったものだ。二度と還ってくることはないのだろう」
提督「だから言い切ってやる。お前たちは敵なのだ……内に何を抱いていようが関係ない。沈んでしまったからには敵なのだ」
“底”から、左右から、上から、いたるところから提督を舐め回すように見つめるたくさんの瞳。妖しく鈍い光がふよふよと彷徨っている。
提督「お前たちへの憐憫など湧くものか……想いも意志も、果たせなければ意味がない。お前たち深海棲艦は生きている間に何も成せなかった。
だから沈んだのだ。今更怨念など抱いたところで遅いのだ。届くはずもない、無駄なあがきだ。無意義で、無意味で、無価値だ。諦めろ」
艦娘は人間と違って戦闘のプロであり、敵を倒せずとも逃走に徹すれば深海棲艦から逃げ切ることは可能である。
しかし彼女たちの行動はその提督によって決定されてしまう。艦娘の練度や損傷度を見誤って出撃させようものなら容易に沈んでしまう。
艦娘を扱うことに関して右に出る者のない手取提督が、このことを知らないはずはなかった。
つまり、沈んでいった彼女たちは何も悪くない。彼女たちの上に立つ者の愚かさによって破滅していったのだ。
知っていた。知っていてなお提督は言葉を続けた。自分自身に言い聞かせるように。
提督「お前たちは自身の無能と運のなさによって沈んだのだ。他者を呪って、そうやって落伍者同士で群れることしか出来ない。
弱者は弱者らしく……死者は死者らしく。この泥の海で沈んでいろ、嘆き続けていろ。永遠に」
怒り、憎しみ、呪い、哀れみ、虚しさ、哀しみ、妬み、嘆き、絶望、言葉にならない感情が膨れ上がっていき、それらの全てが提督へと向けられる。
膨大な感情が、一つのうねりとなって、一つの叫びとなって彼の視覚と聴覚を支配する。目に映るものは何もなく、耳に聴こえるものは何もない。
全てが塗り潰された泥の海の中では、もはや色や音を認識することさえできない。
提督「俺は常に勝利してきた。お前たちの骸を踏み躙り、前へ進んできた。そしてそれは今も変わらない。お前たちの想い全てを打ち砕いてやるッ! 我が糧となるがいいッ、深海棲艦!」
提督が叫ぶと、景色は一変する。
提督の身体に纏わりついていた触手を断ち切る皐月。提督を抱きかかえて後方へ飛び退る皐月。
皐月「司令官!? 無事かい!?」
提督「フッ……そろそろ来ると思っていた。礼を言おう」
皐月(発信機からの位置情報が突然途切れて嫌な予感がしてたんだけど……どうにか間に合って良かった。本当に、良かった)
621 :
【90C-2/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/14(月) 19:10:19.62 ID:gSu53yuX0
皐月「司令官、怪我はないかい。何かされてはいないかい?」
提督「ああ、問題ない。お前のおかげで少し全身がベトベトになって磯臭くなった程度で済んだ……」
提督がそう言うと、皐月は微妙な表情で提督を見つめた後、そっと彼を抱えていた両腕を地面に下ろす。
提督(もはや断たれた触手を再生する力もないか。奴が出しうる最後の力を使って俺にあれを見せた、ということだろう)
提督「補給を受けなければお前はもう何をすることも出来やしない。だが口をきくことぐらい出来るだろう」
冷淡な目で提督を見つめるヲ級。軽蔑を訴えかける視線を向ける。
提督「話をしようか。といっても、こちらの要望をお前に一方的に呑んでもらうだけだ。それしかお前に選択肢はない」
一歩提督が距離を詰めると、怯えた表情を見せるヲ級。
ヲ級「お前ハ……敵ではないのカ……? なんなんだ……おまえハ……?」
提督「そうだ。お前たち望みを果たせなかった者の敵だ。しかし、そうであると同時に、俺は今や艦娘の敵でもある……。
この俺が全てを終わらせてやろうというのだ。お前たちの望みを叶えてやろうというのだ……!」
ヲ級「何ヲ言っている……? お前は……」
提督「暗い海の底に沈んだ全ての悲惨を。全ての閉じられた物語を。……否定されたくないのだろう。
お前たちは底に沈んでなお、抜け殻のまま生きている。欠けて、汚れて、穢れて、失われて……それでもなお、生きている」
提督「無かったことにできるはずもないのだ。知性を失ってなお、感情を失ってなお、意志だけは残り続ける。澱んで、底に溜まる……」
提督「そうだろう……ならば最高の舞台を提供してやる。怨嗟を、憎悪を、悲哀を、その全てを存分に晴らすといい」
ヲ級「……どういうことだ? ワからない……オ前の言っていることガ……」
提督がヲ級に説明を求められたタイミングで天龍らが帰ってくる。
天龍「くぁーッ、油くせえなあ! これでこの戦いが終わったら石油王にでもなれるんじゃねえかってな。ハハッ」
提督「海底油田の掘削が終わったか。ご苦労」
龍田「これで燃料の心配は要らないと思うわ。弾薬の補給はどうにもならないけど……」
提督「問題ない。こいつには燃料さえあればいい」
電「逃げ出したりしないのですか?」
提督「弾薬も艦載機もない状態で単艦、おまけに逃げ帰るための場所もない。こいつは俺に従うしかないのさ」
ヲ級(……そういうことか。深海棲艦のギミック……あの地獄の門を看破し、そしてMIで我々の総力を打ち破っただけはある……)
・・・・
龍田らにヲ級の補給を任せると、皐月と共に再度“デバッグルーム”へ向かう提督。
皐月「司令官……あのね……。ボク……司令官のこと、好きだよ。だから、無事でよかった」
皐月「ボク、バカだからさ……っ、こういう時に好きって言葉しか出てこないのが、なんだか恥ずかしいな」
提督「俺も今、返すべき言葉が見つからない。お前は馬鹿なんかじゃない」
皐月「あっ!? いやね、好きっていうのは言葉の綾で、そういう意味じゃなくて!」
提督「分かってるさ」
皐月「そっか。良かった。……あのさ司令官。司令官が何をしようとしているか知りたいな」
皐月「具体的にどう、とかじゃなくて。今の司令官の、気持ちが知りたい。そしたらきっと、もっと司令官の役に立てるとはずだから!」
提督「…………」
提督「俺もあまり器用な人間ではないので、こういう時にどういう言葉を選んだらいいのか、分からない。ただ……」
提督「光差すことの無かった者たちも、救われる道が用意されていなかった者たちも、諦めてしまった者たちも……報われて欲しいと、そう思うのだ」
皐月「ふふっ、そっか」
提督「どうした? 俺らしくない話をしている自覚はあるのだが……笑うほど面白かったか?」
提督「結局のところ、そんなものは幻想に過ぎないんだからな。何かを犠牲にしなければ、俺たちは何も得られない」
皐月「ううん。そんなことない。……そんなことないよ」
皐月「だって、司令官は、それでも……やるつもりなんだよね。救いたいって思ったんだよね」
皐月「好きなんだよ。司令官の、そういうところがさ」
622 :
【90C-3/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/14(月) 19:12:55.88 ID:gSu53yuX0
磯風「目的地に到着……やろうと思えばどうにかなるものだな。後は任せた、金剛」
金剛「オッケー! 任せてくだサーイ!」
金剛(敵の小隊をここで迎撃。後続隊も掃討しキリの良いタイミングで撤退、ってとこですかネ。あんまり結集されると困りますガ、テンポ良く蹴散らしていけばなんとかなるでショ)
磯風「目的地に到着、か。やればなんとかなるもんだな……さて、あとはあいつらに任せるとしよう」
利根「む、やはり陽動であったか! おまけに退路を絶たれてしまったと見える! わははは、滾るのう!」
北上「うーん、道中で仕留める予定だったんだけどね〜(無傷で逃げられるとはね……ちょっと想定外かな)」
泊地水鬼「特ニ恨ミハ無イケレド……相手ニナルナラ容赦ハシナイワ……!」
金剛たちの後方に控えている泊地水鬼。艦載機を放って空を支配する。
時雨「深海棲艦に『恨みがない』なんて言われるとは珍しいこともあるもんだね」
綾波「の、呑気なこと言ってる場合じゃないですよ〜」
北上(うわ、雷撃効かないタイプのボスじゃん……追ったのは失敗だったなこりゃ。しょうがない、あの辺の戦艦狙うか)シャッシャッシャッシャッ ババババシュウウウウウ
霧島「お姉様! 雷撃が! ああ、間に合わない!」
金剛「問題Nothing♪ 金剛型一番艦、鬼の金剛。ナメてもらっちゃあ困るッてェノッ! ォラァッ!!」
榛名「跳んで魚雷を回避した!? あれだけ巨大な艤装を背負いながら、どうやって……?」
霧島「いえ、あれは……自分の艤装を空中へ投げ捨て、瞬時に跳躍して空中で再度装着し直したようです……。常識では考えられませんが……さすが……」
北上「なんじゃありゃ……あんなサーカス団みたいな敵がいるなんて聞いてないって」
利根「わははは、まずいことになったのう! 打つ手なしじゃな! マイペースでいけ好かない奴だと思っておったが、お前さんがそんなに青い顔しとるのも初めて見るな!」
北上「(アンタにだけは言われたくねえんだわー……けど、言ってる場合じゃないね)味方が来るまで持ちこたえるよ! ちょっとしんどいけど、テキトーに頼むよ〜!」
綾波「あらら、昼戦はあんまり得意じゃないんですけどねえ……」
利根「ふっふっふ、我輩にまかせておけ!」
・・・・
金剛(ンッンー、こういう時に『戦闘で手を抜くコツ』を身に着けておいて良かったと思いますネー。こちらの力を消費せず敵に痛打を与える。これが戦いの基本デース)
霧島「ッ、ハァ……ハァ……。戦艦相手じゃないなら大した相手ではないと高を括っていましたが、中々ですね……」
金剛(霧島がほとんど片付けてくれたものの、だいぶ疲弊してますネー。敵もそこそこやるってわけですカ)
時雨「! 味方艦隊が来たよ! 2時方向、9時方向より援軍だ!」
妙高・飛鷹が旗艦の艦隊が北上たちの背後から迫る。
妙高「あまり芳しくない状況のようですね……。軽空母の部隊と合流出来たのは不幸中の幸いでしょうか」
飛鷹「うーん、制空権は厳しそうね。ま、均衡ぐらいには持っていけるかしら!」
北上「んじゃ、あたしらはドロンするよ。撤退撤退! 退く時は退くのが兵、ってねー」
金剛(あんな堂々と背中を見せて逃げる艦隊は初めてですネ……マ、追う必要はありまセン。敵援軍を叩くのが先決!)
霧島「ここは……私が……」
金剛「霧島ステイッ! さっきの戦いで消耗してるでショ。ここは私と榛名が出マス」
霧島「かたじけない……正直助かります。しかし、大丈夫ですか?」
金剛「Take it easy♪ 霧島は本気を出し過ぎデース。こんな状況だからこそ、案外テキトーな省エネモードでもなんとかなるもんですヨ」
那智「チッ、舐められたものだな……撃てッ!」 ドゴォン!ドゴォン!
隼鷹「者どもかかれーッ! ヒャッハー!」 ビュウウウン
・・・・
金剛「ヘーイ! 提督ゥ! どうしましたカー!?」 提督からの通信に応答する
提督「悪い報せだ。主力艦隊はまだ動いていないが……背後から更にもう三艦隊来ている。正規空母や戦艦も紛れてるが……厳しいか?」
金剛「他の子だったらキツいかもしれませんガ! ワタシの実力なら余裕ってとこデスネー。というかこの動き、わざと敵がここに集まるようにしていますネ?」
提督「察しがいいな。分散している敵小隊を中央に結集させるように“動かして”いる。全ての準備が整ったゆえ時間を稼ぐ必要がなくなった。好きに暴れたら帰還してくれ」
金剛「Okay……好きに暴れちゃっていいんですネ! たまにはカッコいいとこ見せちゃいますヨ?」
623 :
【90C-4/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/14(月) 19:14:46.08 ID:gSu53yuX0
金剛「ヘイヘイヘーイ! せっかく温まってきたっていうノニィ!? これでFinish!?(ドドォン!)ンなワケ!(ダァン!)ナイ!(バァン!)デショォ!(ドドォン!)ッラアッ!」
羽黒「ッ……少し、被弾しすぎました……後退します」
那智「誰かアイツを止めろ! クソッ、なんなんだあの敵は……」
飛鷹「こちらのペースをかき乱すように立ち回ってるって、分かってるのにものの見事に撹乱されてるのは腹立つわね……」
霧島(普通、艦娘の戦闘というのは序盤の戦闘ほど燃料や弾薬を消費する。初戦を制し、次の戦いを制し、そして息も絶え絶えの中海域の主のもとへ辿り着く。
道中の敵に本気を出して首領相手に全力を出せないというのは、一見すると非合理的なようではありますが……私たち艦娘は生きて帰ることが先決。
敵の本隊へ至るまでの道中の敵を片付けておかねば、撤退時にしっぺ返しを食らうことになる……艦娘なら骨身に染みていること)
霧島(ですがお姉様はそれを逆手に取って戦っている。今の私たちにとって、背後に敵はなく、眼前の敵を退ければいつでも撤退可能な状況……それは敵も同じことですが。
相手は艦娘特有の“癖”が抜け切っていない、そのことに自覚してすらいない。だから序盤では優勢な立ち回りを見せるも、後半で息切れしてしまう……。
対してお姉様は、わざと敵を挑発して回避行動に徹しながら消耗を誘い、敵の疲弊を見抜くと同時に荒れ狂う嵐のように攻め立てる……!)
霧島「金剛お姉様! 今、お姉様の言っていることが理解出来ました! 榛名姉さん! 下がってください、あとは私が!」
金剛「フッフー♪ 戦い方が分かってきたようですネ! ワタシの妹だけはありマース! 榛名はどうしマース? ワタシと霧島でこのまま突っ切ろうと思いますガ」
榛名「いえ……お姉様。榛名、大丈夫です! まだ戦えます!」
霧島「榛名姉さん、しかし……! 私が控えている間も戦っていたのでしょう。無理してはいけません」
榛名「霧島、見くびってもらっては困りますよ。お姉様ほどではないにせよ、私だってそれなりに修羅場は潜ってきたんですから。……それから」
霧島「それから?」
榛名「『姉さん』って呼ばれたの、なんだか懐かしくて嬉しかったです。今ので頑張れそうです!」 鼻血を流しながらも余裕の表情で微笑む
金剛「ノーゥ! そういえば! 昔はみんな『姉さん』って呼んでましたよネ!? なんでワタシはお姉様で榛名が姉さんデース!?
心理的距離ですカ!? 壁ありますカ!? 私の壁も乗り越えてくだサイ!」
霧島「やれやれ……二人ともほんっとにバカですね。コントやってるんじゃないんですから、さっさと片付けますよ。三人で!」
・・・・
妙高(クッ……数の上ではこちらの方が有利なはずでしたが……しくじりましたね……。強敵です)
那智「私はまだ戦えるのだが……旗艦が大破しては統率も取れまい。退くぞ!」
隼鷹「ぐえーっ、良いトコなしかぁ……とはいえ、これ以上戦っても被害を拡大するだけじゃないかね。酒も切れてきたし、帰るよ飛鷹」
飛鷹「屈辱だわ……(とはいえ、私たちの後方には正規空母と戦艦の部隊が控えている。十分ダメージは与えたし、布石としてはこんなものかしらね……)」
金剛「ハッハー、敵が逃げていきマース! 思い知りましたカー!? ワタシたちのパワー! 力こそ正義、力こそパワー!」
霧島「お姉さ、金剛姉さん。そういうのは頭悪そうに見えて恥ずかしいのでやめてください」
榛名「私たちらしくて良いじゃないですか。子供の頃はこうやって遊んでたじゃないですか。こぉんな風に、ね!」
言うやいなや三式弾を指と指の間に挟んで空へ投げる。早くも敵の後続部隊が来たらしい。
金剛「そうですヨー! それに、霧島だってさっき『オラオラオラオラァ!』とか言ってたじゃないですカー? 自分だけ冷静なフリはずるいデース」
霧島「あれは気合を入れるためにですね……っとぉ、危ない! ソォイ! うぉぉッ」 ダァン!
目の前に来た砲弾を自ら放った砲で相殺する。衝撃で後方に吹き飛ばされるも無傷だ。
Roma「北上隊からあなたたちの戦法は聞いてるわ。持久戦に持ち込んで消耗させるって魂胆でしょう? そう甘くはいかないわよ」
大鳳「連戦で消耗しきったそちらと、無傷の私たちの艦隊。負ける要素はないわッ! 全艦載機発艦! 敵は目の前よッ!」 バババババッ
大井「北上サンの仇ィ! その命で償ってもらうわよ……!」
那珂「やっほー! いざ尋常にィ! 勝負勝負!」
霧島「またまた厄介な敵が現れましたね……というか、キャラ濃すぎじゃあありませんか……? どう戦いますか? さすがにもう同じ手はもう通じないようですが」
金剛「敵が温存しつつ長期戦やろうってんなら、こっちは初手からガンガン攻めて戦線ぶっ潰しマース! さっき相手がやってたことの逆をやればいいだけのことデース!」
榛名「(敵陣に突貫して乱戦に持ち込み、同士討ちを誘うという策ですね。なるほど抜け目ない)霧島と金剛お姉様、そしてこの榛名がいれば、きっと大丈夫です! ここは一歩も! 通しません!」
金剛たちの頭上に無数の艦載機が迫るも、それを一瞬で叩き落す黒い影。
泊地水鬼「ソノハナシ……乗ッタワ……。ワタシモ戦イタイ……。チョット燃エテキタ」 金剛たちに背を向けたまま、親指を突き出す
那珂「ぐえッ! なんか来たよ!? 後ろから飛んでたタコ焼きの正体はこれだったんだね!」
大鳳「空母の深海棲艦か……無駄です! そんな少ない艦載機で空を制することが出来るとでもッ!? 距離を置いて狙い撃ちよ!」
金剛(あの泊地水鬼、ただ熱くなって出てきたわけじゃない。制空権を喪失しているこの状況なら艦載機を出して援護に回るより砲戦特化でゴリ押した方が強い……そう判断したわけですネ!)
金剛「オゥケイオゥケイ……じゃ、皆さん、行きますヨ? 敵を片っ端からぶっ飛ばして素っ裸にしてやりマース!!」
624 :
【90C-5/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/14(月) 19:22:04.78 ID:gSu53yuX0
提督「これは……凄まじい乱闘だな……。さすがに目を疑うぞ……」
提督(援護に軽巡棲鬼を待機させておいたが……この様子だと必要なさそうだな)
文月「うひゃあ〜……これはメチャクチャですねえ……」
皐月「ねえ司令官。あのヲ級が復活した今なら、もう金剛さんたちを撤退させてもいいんじゃないかな」
提督「全ての備えは済んでいるのだが……数でゴリ押されると万が一、ということがあるのでな。大破して戦闘不能の艦を増やしておくと後々やりやすい」
提督(にしても……金剛のやつはなぜここまで戦えるのだ? いや、アイツが強いのは知っているが……一体どうしてアイツは俺の為に戦うのだ。
アイツのことだから寝返っても信用されることはないだろうが、降伏して武装放棄し、自分は我関せずを決め込むことぐらいは可能だろう)
提督(アイツは『なんとなく』の思い込みで動くような女じゃない。信頼だとか信用だとか、そんな安っぽいものを理由に動く女じゃない……はずだろう)
暁「司令官! 撤退命令が出たから戻ってきたわ」
響「雪風たちも戻ってきてるよ。それから、司令官。話がある。今すぐ、話がしたい」
提督「ん、戻ったか。ヴェールヌイ、話とは一体……?」
響「いいから、こっち、来て……」
・・・・
皐月たちのいる部屋から離れた場所を探している。ああ、ここなら都合がいいな。程よく距離があり、誰にも気づかれなさそうだ。
提督「何もないただの空き部屋じゃないか。こんなところに連れてきて、どうした?」
身体を押し倒す。少しも躊躇いはない。司令官を我が物に出来るチャンスなんだ。
提督「ッ! ……? どうした!? どこかから攻撃があったか? 何か危険を感じたのか?」
響「違うよ司令官。危険なんてどこにもない。強いて言うなら、司令官の目の前かな」
私を見つめる司令官。一瞬鋭い目つきをした後、また穏やかな表情に変わる。
提督「……意図を掴みかねるな。こんなことをしている場合ではないだろう」
響「いいや、今この瞬間だけだ。司令官とこうして話を出来るのは、今この瞬間だけだよ。司令官の温もりを感じられるのは、この瞬間だけ」
司令官の腰に手を伸ばす。抱き締める。温もりが伝わってくる。司令官の温もりが伝わってくる。
寒くて、痺れるほど凍えていた身体が、今は焼けるように熱い。太陽に身を焦がされているようだ。しかしそれが心地いい。
提督「ヴェールヌイ……お前の気が済んだらで構わないが、離れてくれ。俺にはまだやるべきことがある」
響「知ってるよ。だから今こうしているんだ……ただ、一つ聞きたい。どうして私を拒まないのかな。……前の司令官なら、絶対に私を拒絶した。
切り裂くような鋭い視線で私を睨んで、軽蔑しただろう。もしこんな風に押し倒されようものなら、強引にでも振りほどこうとしたはずだよ」
提督「そうかもしれないな。そうして欲しかったのか? ……あえてそれを望むのか、ヴェールヌイ」
私の目をまじまじと見つめる司令官。真偽を問うている。私の本心を探ろうとしている。ああ、止まっていた心臓が、静かに鼓動するのを感じる。
響「ああ。君に滅茶苦茶にされたい。君を滅茶苦茶にしてしまいたい。司令官……君と破滅したい」
響「やっと気づいたんだよ……自分の気持ちに。私は、君のことを愛していると思っていた。だが、それは違ったんだ。
私はずっと、破滅を望んでいたんだ。自分自身の途方もない破滅を、救いがたい結末を」
響「だから君にこの世界の王になって欲しかった。君は誰よりも尊い存在になるんだ。
そうして私は君が全てを得るための剣となり、君をあらゆる災厄から守るための盾となり、やがて君のために朽ちるんだ」
提督「今もそう思うのか?」
響「そうでなければこんな愚かなことはしないさ……こうして自ら君の信頼を破壊してしまうような真似はしない。
……君は私の思い通りにはならなかった。君はあくまで自分の理想を貫いた、そしてそれは、私の思っていたよりもずっと優しい理想だった」
響「今、私を見つめる優しい瞳で分かるよ。君は……こんなことをする私さえ、受け入れようとしてくれている。少しも失望を向けていない」
提督「お前には、暁がいて、雷と電もいるだろう。帰るべき場所があるのだ。お前が破滅を望んでいても、あいつらはお前を大切に思っている。……それは、俺とて同じこと」
提督「俺は『真理の箱庭』をずっと追い求めてきた。究極の知性を捜し求めてきた。いや、今も追い求めたいという気持ちは変わらない。それでも、今は……。
『真理の箱庭』と、お前たちとを天秤にかけて、俺の心は傾いてしまった。お前たちを救いたい、いや、救いたいなんて利他的なものではない。これは俺自身の願望だ、他人なんて関係ない」
提督「お前たちがこの世から消え去らなくてはならないというのが道理なら、俺はこの宇宙の法則と相対してでも抗ってやりたくなったのだ。それだけだ」
提督「だから……すまないが、お前の望みは、叶えてやれそうにないな」
響「司令官……分かった。もういい、ありがとう」
口で分かったと言ってみたが、本当のところ、司令官の言っていることは理解できていない。ただ、これ以上こうしていても彼を困らせるだろうと思って、離れる。
体が離れても、温もりは消えなかった。心臓の鼓動は、高鳴ったままだった。まるで艦娘だった頃のように、身体中に血が駆け巡っていくのを感じる。
火照った身体が、私という存在を肯定している。彼からもらった消えることのないこの熱が、私を生と向かわせているのか……?
分からない。けれど……私の望む破滅のためでなく、彼の描く希望のために、生きてみたくなった。心臓の音は鳴り止まない。
625 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/12/14(月) 19:28:23.78 ID:gSu53yuX0
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~90 Phase C/100)
・皐月の経験値+4(現在値25)
・金剛の経験値+4(現在値27)
・響の経験値+2(現在値25)
・足柄の現在経験値:28
・雪風の現在経験値:26
・翔鶴の現在経験値:25
----------------------------------------------------------------------
どうにかこうにか投下出来て一安心。
リアルが落ち着いて時間取れるようになってきたんでこのままラストまで突っ切りたいところですが、忘年会が鬱陶しくてな……。
Phase Cが起こらなければ年内完結……する、のか? どうあれ頑張ります。
----------------------------------------------------------------------
『Phase A』【-95/100】
レス安価で登場する艦娘を決定します。
登場させたい艦娘の名前を1人分記名して下さい。
(雪風・翔鶴・金剛・響・足柄・皐月の中から一人)
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
626 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/14(月) 19:35:08.42 ID:8y2wUod0O
雪風
627 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/14(月) 19:35:33.29 ID:lwl1Mmh9O
雪風
628 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/14(月) 19:36:45.18 ID:bX8CEwFJo
雪風
629 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/14(月) 19:38:43.86 ID:zJ7ShsDtO
翔鶴
630 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/14(月) 19:38:59.26 ID:xSHrJuTeO
翔鶴
631 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/12/14(月) 20:03:53.46 ID:gSu53yuX0
>>626-630
より
・雪風3レス/翔鶴2レス
で『Phase A』が進行していきます。
(合計値:201なので『Phase C』は発生しません)
次の投下のあとに行われるPhase Bのコンマで全てが決まってしまいます。
若干雪風が優位ですが、もう誰にも展開が予測つかないことになってしまいましたね。
書く側としてはおっかないというか、いや〜……心臓に悪いなこれ……。
そこも含めて楽しいと思いながら書いてますが、やっぱり気が気じゃないですね。
次回は12/26(土)ぐらいの投下になると思います。
(スケジュール見てフィーリングで26とか言ってるだけなので、あまりアテになりません。前後する可能性が高いです)
632 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/12/26(土) 22:54:52.05 ID:K4+ev8vb0
どう考えても間に合いそうにないので進度なので、引き伸ばします……すみません。
できれば明日……と言いたいところですが、保険かけて12/28(月)の21:00頃を予告しておきます。
////チラシの裏////
飾り集め、意外と期間短いですね……。
まあ年明けてから新年の飾りつけを集めるってのも変ですし仕方ないですね。
あと、「ぱんぱかぱかぱかぱかぱかぱ〜ん♪」はずるい。
633 :
【91/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/28(月) 21:05:48.76 ID:3wMxQaW00
Roma「クッ……手負いのくせにこの私と互角に張り合うとは……やるわね」
金剛「ちょっとやそっとのDamageでこのワタシを押しきれると思いましたカ? 甘いんですヨォッ!」 ドォォォン!
泊地水鬼「ドウシタ……? モット飛バサナクテモ平気……?」
大鳳(クッ……これ以上艦載機を消耗するのはまずいわ……。あと一歩で押し切れそうなのに……!)
提督「ザザッ……金剛、撤退してくれ。敵後方の水上打撃部隊と空母機動部隊が合流を果たした。これ以上そこに残っていてはしっぺ返しを食らうぞ」
金剛「Just a moment! まだ敵が残ってマースよォ!? 完全勝利でFinishじゃなきゃ後味が悪いデース!」
提督「ダメだ。随分熱くなっているようだが……撤退してくれ、そこで燃え尽きられてしまっては困るからな。いいな?」
金剛「Hmm……分かりまシタ。それじゃ皆サン! 提督から撤退命令が出ました! さっさと退きますヨー!」
大井「敵の攻勢が緩んだ……? 撤退を図っているのかしら?」
大鳳「追撃して決着をつけます! 逃しはしませんッ!」
那珂「あー……大井っちさん! どう思いますか!?」
大井「北上さん以外にその呼び方は許してないの。不快だからやめてもらえるかしら。っと……ここで追うのは得策じゃないわね。
後ろに味方主力が控えている状況で戦っているから私たちが有利なのであって、これ以上追えば味方より先に敵増援と接触する可能性があるわ」
那珂「そうなんですよね〜。それにあの雲……妙な形をしてない? 雲に紛れて浮遊要塞が接近しているんじゃないかなーって那珂ちゃんは思うのです!
単体ならともかく……動きに合わせて敵が反転して攻めてきたらまずいし〜撤退しようと思うんだけど……どうにも火が付いちゃったみたいだからなぁ」
大井「私も心情的にはあいつら超ォ〜ムカつくんだけど……アンタが旗艦だしね。ここで退く判断は正しいと思うわ。
ま、宥めるのはアンタの仕事だから、プライドを刺激しないようにうまくやりなさいな」
・・・・
提督「敵も退いたようだな。こちらも余計な戦力を消耗せずに済んだ。さあ……次の手だ」
パンと手を叩き、不敵な笑みを浮かべる。少し機嫌が良いらしい。
提督「雪風、ヲ級を呼んできてくれるか。最後の大仕掛だ」
雪風「はい。でも、あの、その……」
提督の方を一目見たあと、顔を伏せてしまう雪風。
提督「俺はエスパーじゃないんだ。言いたいことは言葉にしてもらわないと分からないぞ。ま、その様子だとネタバレを所望ってところか?」
雪風「はい。戦わなきゃダメですか……? 味方であっても、沈めなきゃいけませんか……?
雪風、もう覚悟は出来ています。司令ならきっと、正しいことをしているんだって……でも、出来ることなら、したくはありません」
提督「覚悟、か。……そうだな。そうなる可能性もある。ゼロではないが……雪風。少なくともお前にだけはその役目は与えんよ。
仮に、億が一に俺の計画が失敗するとしても……お前は俺のために心中などするな。
ま、そんな可能性など起こさせはしないし、ゆえにお前にそういう命令を与えることもない」
雪風「しれぇ……」
深刻そうな面持ちの雪風を見て、フォローするかのようにすぐさま言葉を続ける提督。
提督「勘違いするなよ。これは九割九部九厘勝てる戦いだ。これまでと変わらない、勝利すべくして勝利する。それが俺の……俺たちのやり方だろう?」
提督「いいか雪風。どうして俺が鎮守府や艦娘らに反旗を翻したと思う?
『バビロン』計画が失敗したから、半深海化を食い止めることが出来なかったからなんて理由だとは思っていないだろうな」
雪風「司令のことだから、考えなしにやったことじゃないとは思います。ただヤケクソになっただけじゃ、こんなことは出来ないと思います」
提督「よく分かってるじゃないか。計画が失敗した直後は少々参ったがな……今はもうゴールが見えている」
提督「深海棲艦と艦娘の戦いを終わらせることができる……かもしれん。
まだ断言はできん、仮定だからな。だが、口に出す程度には自信がある仮定だ」
提督「お前の危惧は、味方を沈めなければならないかということだろう? その問いに対しては『不要な心配だ』と答えておく。
俺たちが立っているこの建造物は……。詳しい話は省くが、上へ上へと向かいたがっている。天へと届きたがっている」
提督「この地球から離れたどこかへ向かおうという指向性を持っている。深海棲艦が泥の海から俺たちのいる世界を目指すようにな」
提督「失われた想いは、深海に沈んで、溜まって、淀んでいく。
浮かばれることの無かった想いは、地上を目指すもやがて泡のように離散して、また深海にて滞留していく」
提督「で、その想念を具現化することができる、都合のいいカードがちょうど手の内にあるのだよ。
具現化した想念が、俺たちとこの建物を押し上げて、この地球ではないどこかの星に辿り着く」
提督「どうだ? 今はまだ想像もつかないだろう。荒唐無稽な話に感じるかもしれないが、どうということはない。
お前の目の前でこれから実現してやるんだ。楽しみにしているといい」
雪風「そうですね。あの……そうじゃなくて……」
提督「む、呼ばずともあちらから来たか。良いだろう、本題に入ろうか」 部屋に入ってきたヲ級を見ると、腰掛けていた椅子から立ち上がる提督
634 :
【92/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/28(月) 21:14:05.48 ID:3wMxQaW00
ヲ級「なゼ奴らを退かセタ……? まだ戦えただろウ」
提督「そうだな、あいつらの力なら轟沈する可能性は低いだろう。主力が迫る前に決着をつけて逃げ切ることもできるかもしれん、が。
ここで賭けに出る必要はないからな」
提督「別に俺はこのMIでお前たちがやったような大海戦を行うつもりは無いのだよ。ところでだ、ヲ級」
提督「質問だ。お前たちの根城であったこの城、そして今俺たちが立っているこの城……。本当は城ではないのだろう」
ヲ級「なぜそう思ウ……?」
提督「お前はここを城だと説明した。城であるなら攻撃拠点または防衛拠点としての要素を満たしているはずだ。
しかしここには一切の武装や備蓄がなく、あるのはわずか数十基の浮遊要塞と件の“デバッグルーム”だけ。
海中にあった施設だから多少勝手は違うのかもしれないが、それにしても不自然だ」
提督「泊地水鬼はここをお前たちのかつての拠点と言っていたが、それは軍事拠点としての意味じゃあないな? 恐らくはもっと宗教的なニュアンスだ。
お前が総力を率いてここミッドウェー島付近で決着をつけようとしたのも、“ここでなければならない理由”があったんだろう」
提督「ここがアトランティスであり、ムーであり、レムリアなのだろう。もちろん海没した旧大陸そのものではないが。
深海棲艦にすらなれずに沈んでいった想念の集積場、無縁仏というところか」
提督「ここは城ではなく祭壇だったんだ。贄を奉げるためのな。深海に沈んだ者が蘇るための場所であり、そのための贄を捧げるための場所でもある。
深海棲艦が望むものは復讐や破壊ではない。真の目的は救済だよ。ここに来るまではあくまで仮定に過ぎなかったが、今はもう確信している」
提督(ヲ級は俺を脅すためにあの幻覚を見せたのかもしれないが、それがヒントになった。今になってようやく深海棲艦というものを理解した!)
提督「お前たち深海棲艦の本質は、滅びた肉体であり、破壊された物質であり……それらが集積された、この地球の沈殿物だ。
朽ちようと枯れようと腐ろうと、肉体の中に残った強い想念は消えることがない。異形と成り果ててなお、お前たちは救われたいと願っている」
ヲ級「……!」
提督「お前の能力、そうした想念を具現化させることだろう。
俺に攻撃を仕掛けた時は幻覚止まりだったが、今のお前ならばMIでやったような芸当が出来るはずだ」
磯風「沈んでいった深海棲艦を物理的に召還することができる……ということか? そんなことをして何の意味がある?」
提督「あるさ。言ったろう? ここは祭壇だと。供物を捧げ、そこから恩恵を得る。要するに力の変換だ。
そこのヲ級の“悪夢”によって再び現れた深海棲艦の怨嗟を糧に、天空へと押し上げる一茎の柱を創造する」
・・・・
提督「俺たちが作った『バビロン』。由来こそバベルの塔から取ったものだが、その語義はアッカド語で“神の門”を意味する。
神の門を通じて、この地球を脱し、月の世界を目指す、と。だが結果として計画は失敗し、半深海化による混沌は拡大した」
提督「一方で、『バベル』とはヘブライ語で混沌を意味する。『バビロン』のもたらしたカオスはこの建物の中で極限まで増大する。
艦娘によって深海棲艦や半深海化した者たちが打ち破られ、その想念が積もり積もってこの建物ごと天へと昇っていく」
提督「今度は正真正銘『バベルの塔』を打ち立てようというわけだ。この『バベルの塔』を持って混乱を鎮めるというのも皮肉な話だがな」
ヲ級「……ウフフ、ヲフフ、ヲハハハ、ハッハッハッハッハッ」
ヲ級「“下の世界”で過ごして、地上の光を求めて、千幾年……。これほどまでに狂った奴に会ったのは初めてだ。
お前……そしてお前の味方をするそこの艦娘どももな。私たち深海の眷属よりも狂っている、フフ……」
ヲ級「それで? どうするつもりだ? 私の力を使って『バベルの塔』を実現させて……それからどうする、聴かせてくれないか」
提督「お前は知らないかもしれないが、こちらは色々と研究していたのだよ。半深海化って知ってるか?
お前たち深海棲艦が滅びた後、今度は艦娘が深海棲艦になっちまうそうだ。バカげた話だろう?
お前たちを倒したら後を追うようにして今度は艦娘同士で争い始めるんだ」
ヲ級「なるほど道理で……。いや、今はお前の話を聴きたい。続けてくれ」
提督「半深海化を食い止める方法があるんだ。地球を脱出してしまえばいい。そうすれば艦娘は艦娘のままでいられる。あとは分かるな?」
ヲ級「『バベルの塔』か。フフフ……不遜なことを考える人間だ」
・・・・
ヲ級(なんだろう、この感覚……久しく感じることのなかった、不思議な気分……。思考が迸る……)
ヲ級「少し、この場所についての話をしよう。参考程度に聞いておいてくれ。
お前の言う通り、ここは確かに城ではない。そう見えるのは外面だけだ。祭壇という捉え方も正しい」
ヲ級「ここは……この地球を形作った神を復活させるための祭壇なのだ。私たちは“旧神”と呼んでいるがな。
私たち深海棲艦も艦娘どもも、もとはこの地球に降り立った神々によって創られたものだ」
提督「その話は泊地水鬼から聞いている。天使と人間が神に反逆し、これを破った。
勝利を収めたが、天使こと艦娘は神に呪いをかけられた。呪いの果てに艦娘はやがて深海棲艦に身を堕としてしまう……とな」
ヲ級「そうだ。だが、それだけではない。なぜ艦娘の勢力よりも深海棲艦の方が数で勝ると思う?
数で言えば、お前たち艦娘が沈む数よりも、お前たち艦娘によって倒された深海棲艦の方が圧倒的に多いはずだろう」
ヲ級「その答えは……沈んだ深海棲艦が、再び深海棲艦として浮上するからだ。
一度お前たちに倒されてしまっても、我々は二千年の時を経て再びお前たちの敵となるだろう」
635 :
【93/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/28(月) 21:20:02.78 ID:3wMxQaW00
提督「なるほどな。倒したところで次から次へと湧いてくるのはそういうわけだったか。
人類が存続すればするほどに“下の世界”のストックが増えるだけと……俺たちからすれば甲斐のない話だな」
提督「で、そんな状況下でもお前たちが救われるための方法とはなんなのだ?」
ヲ級「この地上の全人類を贄と捧げることだ。お前はここを無理矢理『塔』として使おうとしているが、本来ここは神の門を叩くための鎚だ。
人間たちによって封印された旧神を蘇らせる。そうして、“上の世界”に到達して私たちは復活する」
提督「……? 二つ、気になることがある。第一に、神を蘇らせてどうする?
神は感情を脅威と考えて俺たち人間を抑圧し、お前たちに深海化の呪いをかけた存在だぞ」
ヲ級「そうだな……神は私たちを創ったことを後悔しているかもしれない。だが……それでも神を蘇らせなければならぬ必要があるのだ。
輪廻転生という言葉は知っているな?」
提督「死んだら魂になって、またこの世界で生まれ変わるって話か」
ヲ級「その、輪廻という仕組みを支配しているのは神の領域なのだよ。私たちでは干渉できない次元で動かしているものだ。
だから神が封じられている今輪廻も成されていない。“下の世界”に深海棲艦が減ることなく増えていく一方なのは、そういう理由だ」
提督「輪廻転生が行われれば、ひとたび深海棲艦になった者も別の存在になり変われるということか」
ヲ級「ヲ(然り、という意味らしい)。神が反逆者である私たち深海棲艦の望みに応じる応じないは分からないがね」
提督「なるほどな。それともう一つ。お前たちが“上の世界”を目指す理由を知りたい。なぜだ?」
ヲ級「“下の世界”と“上の世界”……などと分かれているが。それはお前たちが考えている天国と地獄のような単純なものじゃない。
生命が息絶えたとき、肉体は下へ、魂は上へ分離される。私たちは、消滅した肉体の残滓と、そこに宿った思念体のようなものだ」
ヲ級「魂は肉体を嫌っている。魂にとって肉体とは牢獄のようなものだからだ。肉体は制約に満ちているからな……無理もない。
それゆえに“上の世界”はこの地球にあまり干渉したがらないのだ。だが、それは“下の世界”の我々からすれば逆のこと」
ヲ級「肉体は魂を得て完全な形態となる。私たちはまだ抜け殻なのだ。
肉体に残った僅かな想念だけで突き動かされているのであって、それが失われればただの操り人形だ。だから魂を得たい」
ヲ級「以上。……話したところで役に立つかどうかは分からないが、話しておきたかった。お前に協力したいからだ。
神を復活させるよりも、お前の思惑に賭けてみたいと思ったからだ。やれるかどうかは分からないが、やってみよう」
提督「やれるさ」
ポカンと口を開けている雪風。
提督「すまない……。お前がいることを忘れて話し込んでしまっていた」
・・・・
雪風「あの……さっきの話、全然分かんなかったです……。今までずっとしれぇの傍にいたのに、話してること全然分かんなくて……」
提督「別にあれはお前が理解する必要のある話じゃないさ。アイツも“参考程度”にと言っていたろう?」
雪風「でも……司令は得心した表情だったから……私も理解しておきたかったんです……」
提督「うーん、すまないが解説してやれる時間はなさそうだ。そろそろ金剛たちも帰ってくるしな」
雪風「そうですか……」
雪風「じゃあ、それよりももっと知りたいことがあるんです。さっき、二人っきりのときに言いそびれたことなんですけど……」
提督「ん? ああ。どうした」
雪風「司令は、大丈夫なんですか? 『バビロン』の時みたいにはなりませんか? 私たちが助かっても、司令が助からなかったら意味がないでしょう」
提督「……わからん。策はあるが。可能性は五分五分ぐらいじゃないか」
雪風「(しれぇが“五分五分”なんて言葉を使うのは初めてです……どういうことでしょう?)……司令は、ちゃんと無事なんですよね」
提督「多分な。まあなんとかなるんじゃないか。俺は悪運強さに自信がある」
雪風「……あの! あたし、マジメに質問してるんですけど!」
提督「正直のところ、俺の身体については皆目分からんのだ。磯風に聞いても首を傾げるばかりだし、もう調べていられるような時間も残ってない。
どうあがいてもこの地球から出られん可能性はある」
雪風「え、えっ!? そんな……ダメですよ司令! しれいがいないと……」
提督「俺がいなくても平気さ。お前たちだけでもどうにかなる。艤装があれば大抵の無理は通るしな」
咄嗟に距離を詰め、提督を抱き締める雪風。驚きつつも、やや強く抱き返す提督。
雪風「だ、だめですっ! そんなの絶対、許しませんから! この戦いが終わっても、雪風はしれぇのお側に居ますから。
勝手に居なくなったりしちゃ、ダメですから! そんなこと……させませんから」
提督(俺は、雪風に少し頼りすぎたきらいがある。だから、彼女の人生のためにも突き放すつもりで言ったのだが……かえって刺激してしまったようだな)
提督「……そうか。まあいい、あまり心配するな。策はあると言ったろう? 策は二つあるんだが……そのうち一つは前回の応用編ってところだな」
636 :
【94/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/28(月) 21:28:00.47 ID:3wMxQaW00
大和「水上打撃大隊旗艦大和、推参いたしました!」
赤城「翔鶴さん、戦況はどうですか? 第三哨戒部隊の被害は?」
Roma「まだ戦えますが……無傷とは行きませんでした。後方支援に回らせてもらいます」
翔鶴「先鋒隊が尽く撃退されてしまいましたが、敵も退いたようです。編成は戦艦三隻と泊地水鬼という深海棲艦。
また、取り逃がしましたが駆逐艦が二隻居たようです。戦果は戦艦三隻を大破、泊地水鬼に中破の被害を与えました」
武蔵「おいおい、これだけの数をぶつけて一隻も轟沈できないのか? 呆れたものだ……」
翔鶴「それだけ敵が精強ということでしょう。油断は出来ません」
海底が鳴動が起こる。海上の城と名付けられた敵拠点が轟音を立てて動き始める。
秋月「このただならぬプレッシャー……一体何が!?」
木曾「おい! 見ろあれを。なんだあれは……? 信じられねえ……まるで塔のように、空へと伸びていく」
城と思しき建造物を支えていた支柱や土台が、螺旋状に変形して天へと昇っていく。
晴天だったはずの空が次第に暗雲に覆われていき、雷鳴の音も轟き始める。
翔鶴「……してやられました。時間を稼がれてしまったようです」
加賀「落ち着きなさい翔鶴。あの状況で先鋒隊に加勢していても、恐らくこちら被害を受けるだけだったわ。
あの戦艦……金剛ならそういう戦い方を仕掛けてくるわ」
瑞鶴「!! 正面より深海棲艦が接近! 駆逐艦三隻、軽巡一隻、軽空母二隻です!」
川内「っしゃあ! おいでなすったねー! 今日は珍しく、夜じゃなくても頑張っちゃうからねー!」
鳥海「弾着、今! 露払いはお任せください!」 ドドォン!
翔鶴「おかしい……こんなところで易々と深海棲艦を出してしまえるほどの余力はないはず……」
赤城「貴方もそう思いますか。……この可能性はあまり考えたくはありませんが」
大和「いえ、私はその“まさか”だと思います。先の大戦で対峙した、沈んだ深海棲艦を呼び出す敵……!」
加賀「だったらどうだというのかしら。今は前に進んで敵を倒すだけだと思うけれど」
武蔵「フフッ。私も同感だ……蹴散らすぞ!」
・・・・
蒼龍「“海上の城”なんて仮称してたけど……こりゃあもう塔ですねえ」 見上げる蒼龍
大和「突入しましょう。敵はこの中にいるのですから」
陸奥「本当に突入してしまっていいのかしら……罠であることは間違いないけれど……」
赤城「手取提督!!」
塔のエントランスに佇む提督の姿を見て、赤城が叫ぶ。
加賀「覚悟してください」 塔の外から矢を向ける加賀
提督「なに、俺が直々に出向くわけもないだろう。当然これは幻影だ、矢の無駄だから撃たない方がいいぞ」
提督「察しのいい者は気づいたかもしれないが……俺は今、深海棲艦の軍勢を無数に呼び寄せることができる。
この塔の最上階まで上り詰めればお前たちの勝ちだ。俺の企みは潰えるだろう」
提督「もっとも……辿り着ければの話だがな」
赤城「待ってください! どうして貴方はこんなことをするんですか!? こんなことをして、何の意味があるんですか!?」
提督「それも……俺の場所まで来ることができたなら話してやろう。俺のもとまで来る資格のある者にのみ、な」
提督「さて。少しだけこの塔のルールを説明してやろう。お前たちは大艦隊で我が軍勢と決着をつけるつもりだったのかもしれないが……。
その条件だとこちらはちと厳しい。そのためにこのような趣向を用意させてもらった」
提督「一つの部屋に入れるのは六隻まで。編成は自由。
部屋によって趣旨は異なるが、そちらの構成によってこちらも用意する深海棲艦を変えさせてもらう」
提督「演習と似たようなものだと思ってもらえば分かりやすいだろうか? 作戦は自由だ。なるべく高い所まで登り詰めてくることを期待している」
提督「それから。降参する場合は武装を解除して進撃をやめてくれれば命は助けてやる。ま、今言ったところでそれに応じる者も居ないだろうが……。
大破した場合は有効な手段になるだろうから覚えておいてくれ。他の味方の足手まといにもなりたくはないだろう? では検討を祈る」
提督の姿が消えていく。
陸奥「井州提督……? ダメだわ、通信できない。もう既に敵の手中というわけね……」
翔鶴「もう迷っているヒマはありませんね。行きましょう! 突入します」
637 :
【95/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/28(月) 21:34:24.44 ID:3wMxQaW00
朝霜「なんだあありゃあ……雲突き破ってんじゃねーか」
足柄「なんとなく前線の方へ向かうってよりは明確な目印が出来てよかったじゃない。あそこに行けばきっと何か分かるはずだわ」
大淀「ええ……危険な予感がビンビンですね……」
朝霜「だからこそ行くんじゃねえか。それでこそアタイららしいってモンさ!」
・・・・
長門「クッ、見失ってしまった……それになんだあの塔は……?」
三隅「あら、長門さん。ご機嫌よう」
長門「む……貴様、持ち場を離れて何をしている?」
三隅「お言葉ですが長門さん。それは貴方にも言えることですわ。ここで沈むのも癪ですから、私あの塔へ向かうことにしましたの。
……貴方もそのつもりでしょう?」
長門「私は……。そう、だな。私もそうだ……」
長門(何が起こっているのかは分からないが、あそこに行かなければならない気がする……! あの場所で何が起きているのか、確かめたい)
・・・・
井州「ここからでも見えるあの塔は……? 一体何が起こっているんだ……」
北上「あー……なんかヤバいことになってんじゃん。もうバケツで直したしあたしら行ってくるね」
井州「やけに乗り気じゃないか、君がそんなことを言うなんて珍しいね」
北上「大井っちが心配なのと……直感、かな。なんかこう、ぞわぞわするんだ」
吹雪「私も感じます……不思議な感じ……」
吹雪「司令官! 私が連れて行きますから、一緒に来てください。司令官がいればきっと、乗り越えられるはずです」
井州「えっ吹雪君……? いや、私が離れるわけにはいかないだろうよ……」
北上「あーそれ賛成。いーんじゃない、全艦隊突撃ー! って命令したら」
井州「??? いや、ちょっと君たち、おい……何を……」
・・・・
加賀(翔鶴や瑞鶴は大丈夫かしら。もっとも……こんなところでやられるようなほど貧弱に育てたつもりはないけれど)
ビスマルク「カガ。先へ進むわよ……。後ろを振り返っても、戻ることは出来ないわ」
加賀「そうね。先へ進みましょう」
瑞鶴「加賀先輩! ああ、良かった。無事でしたか……」
加賀「当たり前よ。舐めないで頂戴」
飛龍「さっすが先輩! クールですね〜!」
比叡(金剛お姉様……一体なぜあの提督に付き従っているのですか……? 会って確かめなくては……)
・・・・
翔鶴「他愛もありませんね、この程度なら私一人でもどうにかなっちゃいそう」
葛城「さっすが先輩、やるなぁ〜……」
三階のエントランスに到達した翔鶴。別の部屋から出てきた赤城らと合流する。
赤城「無事でしたか。加賀さんの姿が見えないようですが……」
翔鶴らや赤城らとも異なる出口から出てきた武蔵たち。
武蔵「無駄に入口となる部屋が多いからな……出口も一つではないのかもしれない。あるいはもう更に上に進んでるかだな」
阿武隈「下から来る味方を待った方がいいのかな……それとも上に進んで行った方がいいのかな?」
翔鶴「艦隊の疲弊度や損傷度を見て、編成を交換してバランスを取っていけば良いでしょう」
翔鶴(しかし……なぜこんなことを……? 一度に多数の深海棲艦を仕掛けるわけでもなく、なぜ少数対少数で戦わせるのでしょうか)
私たちに意図的に深海棲艦を倒させているような気がしてなりません……)
赤城(総力を以って仕掛けてこないことに何か理由が……? 提督は一体、私たちに何をさせようとしているというのかしら……)
秋月「この塔、高さから考えてペース配分が大事ですね……。ある程度温存しながら昇っていった方が良さそうです」
翔鶴「ええ、どうにも階層が上になればなるほどに敵が強くなる傾向にあるようです。用心して先に進みましょう!」
638 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/28(月) 21:50:25.08 ID:3wMxQaW00
----------------------------------------------------------------------
獲得経験値(~95/100)
・雪風の経験値+6(現在値32)
・翔鶴の経験値+4(現在値29)
・足柄の現在経験値:28
・金剛の現在経験値:27
・皐月の現在経験値:25
・響の経験値:25
----------------------------------------------------------------------
ちょっと微妙なところで区切りになってしまいましたが〜……。
たぶん終わります。たぶん。
----------------------------------------------------------------------
『Phase B』【86-90/100】
レスのコンマ値で登場する艦娘を決定します。
00〜15:雪風
16〜31:翔鶴
32〜48:金剛
49〜65:響
66〜82:足柄
83〜99:皐月
>>+1-5
よくわからない方は前後数十レスを6秒ぐらい眺めてなんとなくわかった気になってください。
(または
>>495
-
>>496
あたりを見てわかった気になってください)
----------------------------------------------------------------------
639 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/28(月) 21:53:13.66 ID:zJqCq5ydO
ほい
640 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/28(月) 21:53:25.69 ID:JH4Go+r3O
あ
641 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/28(月) 21:53:32.98 ID:dkg0kLKUO
あ
642 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/28(月) 21:53:40.18 ID:hf1nF0NFO
あ
643 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/28(月) 21:53:46.63 ID:umYwIKwKO
あ
644 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2015/12/28(月) 22:00:33.99 ID:3wMxQaW00
>>639-643
より
・足柄3レス/翔鶴1レス/皐月1レス
で『Phase B』が進行していきます。
(合計値:201なので『Phase C』は発生しません)
『Phase B』【86-90/100】とか書いてありますが、お察しの通りミスです。95-100ですハイ。
えと、ということは〜……ですね。ふむ、どうやらこれがコンマの神の意向なようです。
これで決めてしまって本当に良かったんだろうか……まあどのキャラでも覚悟はしてたんですけども。
とりあえず次の投下は年明けになりそうです。
645 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2015/12/28(月) 22:05:07.86 ID:3wMxQaW00
あ、合計値は314です(どちらにせよPhase C未発生)。コピペミスですすみません……。
646 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/29(火) 03:46:02.36 ID:5UkolCYVo
乙 最後に逆転で足柄さん大勝利か
647 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2016/01/10(日) 02:38:00.95 ID:fz3yttwt0
新年あけましておめでとうございます。
あと1週間ほどお待ちを……。
////チラシの裏////
箇条書きに毛が生えたようなレベルのものではありますが、なんとなく今回のお話を振り返ってみようと思います。
これまでのあらすじ的なおさらいではなく、作者目線での自己言及のようなものなので厳密には振り返りというよりは裏話になるかもしれませんが。
「創作者は黙して語らず、ただ作品のみで勝負しろ」というのも一つの真理ではあるような気がするのですが、一方で「せっかくなら色々暴露してみた方が面白いのでは?」とか思いまして。
とはいえ次回投下分をまだ書き終えてない上にあんまり時間的リソースもないので今回はレス数にして2レス分ぐらいでサクッと書いちゃいます。
というわけで早速1レス目。シナリオ部分から触れていきます。
□初期(〜25レス)
鎮守府に妙な提督がやって来て、艦娘から信頼を得るというまでが大筋です。それ以外に書くこともないのでちょっと没設定の話でもします。
驚かれる方も多いかもしれませんが、もともと「今回は推理モノで行こうかな!」とか考えてました。浅はかにもね!
なんやかんやで殺人事件とか起こったりして提督が艦娘らの力を借りつつ解決にまで導く! みたいな。
ただ、そのためには犯人が必要なわけで。しかしながらコンテンツの性質上どのキャラにも絶対にファンが居るわけでしてー……。
自分が好きな艦娘が(何らかの理由があったにせよ)殺し殺されるのは許されそうにないなと思い速攻で断念しました。
オリキャラがオリキャラを殺したりってのなら無くはない選択肢かもしれませんが、そうなると艦これでやる必要性もないですしね。
□中期1(〜50レス)
棲地MIにて深海棲艦との因縁に決着をつける、という内容でした。作者的には物語半ばでここまで盛り上げてしまっていいのかというぐらい過激にやったつもりです。
というのも、ミッドウェーで最終決戦というのはわりと裏のテーマを含んでいたのでありました。
えと、『艦これ』というゲームそのものが本来であれば史実でいうミッドウェー海戦にあたるイベントを最後にサービスを終了するつもりだったのですよ。
※ソースとなる資料を私が実際に所持しているわけではないのでもしかしたら間違った情報かもしれません。間違ってたらすみません
リリース当初では今のように爆発的に知名度が広まることなど想定していなかったわけですからね、締めくくりとしては妥当でしょう。
……で、つまり何が言いたいかというと、ここで描こうとしたのは“艦これという世界における闘争の終焉”です。
あんなメチャクチャにオリ設定とか出しまくっておいて何を言い出すんだお前はって感じですが……私なりに艦これ世界の終戦を考えてみたという次第であります。
□中期2(〜約75レス)
内容としては終戦後の混沌と離散、そしてなんやかんやあっての再集結……ぐらいまでですね。
前25レスまでの裏テーマの流れを汲んだ言い方をすると“終戦後の世界”です。
艦娘も提督も戦いがあればこそ繋がっていられる関係ですからね。闘争という鎖が断ち切られれば繋がりも消失するわけで。
そんな消えた繋がりを認識して足掻いたり諦めたり割り切って新しい道を選んだり……と各々が好きなような道を歩んでいきます。
しかし失われたからこそ気づくこともあるわけで〜……、もろもろのフラグ的機運が高まり始めたのもこの時期ですね。
また、それまでの50レスでは意図的に伏せていた提督の意図とかも少しずつ明かしていきました。
作中で言っていた通り彼にとっては深海棲艦との決着は通過点です。紆余曲折経てついに自分の目的を達成してやろうとしたわけですが……。
□後期(〜100レス)
残念ながら彼の野望は潰えてしまいます。失意に暮れる暇すらなく跡を追われる身となり、彼のとった行動とは……? という具合で物語が展開していきました。
えと……一応完結はしてないのであんまりネタバレっぽいことは……。まあもう安価やコンマもないしある程度なら書いてもいいよね? さすがに直接的なのは避けますが。
“艦これにおける戦いの終わり”を踏まえての“艦これという世界の終わり”を描いているつもりです。そして描ききるつもりですハイ。
世界の終わりと言ってもなんか破滅的でウワーッって感じ(?)じゃないのは、これまで読んできた人ならなんとなく察してもらえると思います。そこは安心してもらっていいです。
万人に納得されるかどうかは置いておいて、この物語の締めくくりとしてはこれで良いんじゃないかな……というラストになったらいいなあと思いながら現在執筆中です。
□その他雑記
・上の文章を見るとなんだか艦これ終末論者みたいな感じに解釈されてしまうかもしれませんが、もしそう思われてしまったのならそれは誤解です。
ただ、いかなる物事には終わりがあるわけでして……今回は“終わり”というものをクローズアップしてみたかったからそのように描いてみたという実験作のようなものです。
・相変わらず設定過多になってしまったのは結構反省してます。
これでも(この有様ですら)抑えたり削ったりした方なんですが……スピリチュアルだったりSFだったり神話だったりは興味ない人にはしんどいっすよね。
なんていうかこう、読み手側に理解するための努力を強いるようなものは娯楽としてダメですな……。
次の100レスを書くかどうかは今のところ未定ですが、もしやるとしたら次はもっと気軽に楽しめるようなアプローチで進めていきたいですね。
・開始時期が時期だったのでアニメとのクロスオーバー的趣向をいっときは考えてましたが、なんか普通に途中から忘れてしまって最後まで自己流で突っ走ってしまいました。
設定なんかは一部リンクしてたりするのですが、基本あんまり意識することなくという感じですね。まあその……この話はセンシティブな領域なのでこれでやめましょう。
・5レスで一旦区切りが入るので毎フェーズ毎フェーズなんらかの山場は設けて書いているつもりでした。
レスつかないと続きのお話が書けないっていう事情もあり、ある程度は盛り上がりを毎回挟んでいたつもりです。つもりであって事実どうだったかは知りません。
・色々とキャラがブレたり設定が膨れまくったりはしているものの、陰鬱なだけのお話にはすまいというのは最初期の時点から一貫している要素だったりします。
ただ理不尽に不幸が撒き散らかされるだけの内容は避けようと思いました。そういう創作物もアリだとは思いますが二次創作でそれやるのはリスペクトに欠ける態度なのかなと。
“艦これの終焉”という概念が裏テーマとしては存在しているものの、あくまで描くものは希望であろうと。人はそれをご都合主義と呼んだりするのかもしれませんが。
提督のキャラ付けがじょじょに変わっていったのも、心理的な変化だけでなく作中における役割が変わっていったからなのかもしれません。
648 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします
[sage]:2016/01/14(木) 22:20:18.92 ID:mevp0knLo
乙 完結編期待して待ってる
649 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2016/01/19(火) 01:26:46.44 ID:xeF0y1180
とりあえず現時点で最後のPhase B分まで出来ているのですが、エンディング兼エピローグの部分までまとめて投下してしまおうと思っているのでもうちょっと時間ください。
遅筆ですみません……投下は1/22(金)21:00頃を予定しています。
////チラシの裏////
□提督(手取 哀)
最初に出たスペックがスペックだったので(
>>349
)キャラは作りやすかったです。ちょっと艦これを舞台にした作品で出すには濃すぎたかもですが。
目的のためなら手段は選ばないような口ぶりのくせにやってることは結構矛盾してますね。作中唯一のツンデレだから仕方ない(え
ストーリーの方もそうですが、このキャラは突き抜けて中二病にしようと思ったのでやりたい放題になってしまいました。
ただ、結果として今回の主人公はこいつで良かったなと思います。これぐらいぶっ飛んだキャラじゃないとこういうストーリーは演じれないよなあと。
□雪風
真っ直ぐな好意が眩しいですね。コンマにも恵まれて中盤以降かなり美味しいポジションを確保していました。
提督の右腕として活躍し、彼の過去を知り、彼の兄とも接触があるなど、最も提督に近づいたキャラじゃないでしょうか。
わりと個人相手には執着のない提督をして「頼りすぎていた」と言わしめる程度に大きな存在でした。
余談:
物語的にも彼女が居なかったら提督はMI作戦完遂後に半深海化についてなど知ることもなく普通に一人で月に行ってそうでしたね。
(まあ月に到達したところで彼の肉体は……)
磯風は彼の監視に来ていたでしょうが……雪風が居なければ提督はもっと磯風のことを警戒していたでしょう。
彼にとって最も身近であった雪風さえも深海棲艦になってしまう危険があったから『バビロン計画』を実行したというのは理由の一つにあると思います。
□翔鶴
序盤の運を足柄に、終盤の運を雪風に吸われたために今作ではいまいち活躍させてあげられませんでした……。
といっても原因は運だけでなく配置にも問題があったと反省。提督を中心に物語が展開していく以上、彼から遠いと動かし辛いという事情があります。
動かしたところで提督との親密度は変動ゼロですし。他の艦との絡みに注力しすぎて彼女そのものの描写が薄くなってしまいました。
そんなわけで、色々考えてはいたものの彼女関連のあらゆるフラグがへし折られてしまうことに……。いやほら、空母水鬼とか……ねぇ?
□金剛
自分の中での金剛というキャラクター像はわりと黒かったので初期のような味付けで動かしていくつもりでしたが、
アニメを見て「金剛が好きな人はむしろこういう方向性を望んでるのかな」とか思うようになり最終的にこのような形に。
いわゆる提督LOVE勢筆頭な艦娘なんですが、それゆえに彼女を本気にさせる提督とはどんな人なんだろうと結構悩みました。
まあ作品内での金剛はLOVE勢でもなんでもない上に提督との恋愛フラグが立つこともなかったわけですが……。
□響
ED対象となるヒロインの中では唯一明確に提督に愛情を抱いている描写のあったキャラですね。
心底提督に惚れ切っているようですが当の提督は随分ドライっすね。
暁と和解するまで彼女には提督しかいなかったと言っても過言ではないというのに、提督にとっての響は信頼できる味方止まりでしたからね。
深海化して理性を失い倒錯的な形でしか想いを伝えることが出来なかったのは、提督と結ばれることはないと自覚していたからかも。
余談:
対象キャラで唯一提督を愛していると書きましたが、他のキャラの補足。
雪風は提督のことを敬愛をしていますが彼を異性と見なしてアプローチすることはありません。そっち方面では響に遠慮していたのでしょうね。
皐月に関してはは終盤では彼のためにかなりリスキーな選択をしてみたりと恋慕に近い感情を抱いている可能性はあります。
ただ、彼女の中で「提督の傍に居たい理由」が尊敬や信義によるものなのか恋心なのか線引きがはっきりしていない以上グレーゾーン止まりでしょう。
他は……脈なさそうですね。
□足柄
翔鶴同様他の艦との絡みに割いているため彼女自身の描写は意外と少なめなのですが、足柄の場合かえってプラスに働いたような気がします。
他者と多く関わるトリックスター的なポジションとキャラそのものの持つ気質がうまく噛み合ったんでしょう。
提督の進む道は試練を伴うのでどうしても話が進めば進むほどに重くなりがちですが、彼女が登場すると軽快なテンポでシリアスなムードが破壊されてしまいます(笑)。
コンマの神に干渉して最終的なヒロインの座を手に入れてしまうあたりも実に彼女らしい。なにげに書いてて一番楽しいキャラでした。
□皐月
この面子の中では人気が低めなため序盤は空気になりがちでしたが、そのままフェードアウトさせるには惜しいと思い少し強引に動かしました。
提督から見たら自分はモブにすぎないという旨の発言を自分でしていましたが、それでもなお彼女は提督を信じようとしたわけで。
そういうひたむきさが彼女の魅力なんじゃないかなとか勝手に思ってます。
余談:
結果として彼女の行動は提督が抱いていた艦娘に対する認識を改めさせる一つのきっかけになったりします。
想いや感情によって合理性を打ち負かすというのは彼には出来ない発想でしょうからね。提督の予測を皐月の純情が上回ったわけです。
□その他(一部キャラのみ)
・赤城
メインヒロイン対象外のキャラではあったのですが、キャラ決めの際に名前が挙がったからには出そうと思ってました。
そして提督への恋慕フラグも立てようと思ってました(メインヒロインでないため絶対報われないというのにひどい)。
ただ、尺を割きすぎて翔鶴の枠を圧迫する要因の一つとなってしまいました。彼女も彼女で結構キャラは立ってたと思いますがメインの子じゃないんで……。
・磯風
MI作戦終了時点で提督の目的や経緯が不明だったので、その部分を追求させるために登場させました。なにせ戦いが終わってしまった後の世界ですからね(前レス
>>647
参照)。
「深海棲艦をついに倒したぞ!」とお話がお話ならハッピーエンドなわけですが、そこで終わらせないためにも提督の腹の内を暴く必要があったのです。
・繋
人工知能のお兄さん。生まれた経緯が経緯なためグレててもおかしくなかった提督ですが、彼がいたことによって今の提督があったりします。
人を信じられなかった提督でも、知性なら信じることが出来るというわけで……人智を超えた膨大な知を誇るお兄さんは提督にとって超憧れだったわけです。
ただ、お兄さん的には提督君には自分のような人工知能とばっかり戯れてないで人と向き合って欲しいと思っていたりしている……みたいな関係です。
650 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします
[sage]:2016/01/19(火) 18:45:41.56 ID:Tze9EHGLo
完成期待してる
よく考えると雪風と運試しで勝つとか足柄さんすげえなww
651 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2016/01/22(金) 21:12:18.36 ID:8G7bUlWo0
うげえ……実はまだ書き終えてないんすよねぇ……。
とりあえず〜100レス分まで投下することにします。
そこから先のエンディングにあたる内容は……数時間インターバルを挟んで投下ということでどうでしょう。
数時間インターバルとか書いておきながら日と跨ぐ可能性もありますが……(オイ
ただ、どれだけ長引いても明日の12:00頃までには全てのテキストの投稿を完了させると約束しましょう!
時間がなかったとか忙しかったとか言い訳は後! では早速いきます……。
652 :
【96/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/22(金) 21:13:49.64 ID:8G7bUlWo0
提督(泊地水鬼、軽巡棲鬼は磯風とともに下の階にいるヲ級のもとへ配置した。
この最上階以外からは通じていない部屋なので攻め込まれることは無いと思うが……ここをやられるとご破算だからな)
提督(文月と榛名・霧島はデバッグルームへ。ここも敵に占拠されるとちと困るからな。内部構造を把握される恐れがある。
天龍・龍田・電・雷らは塔の下層、響・暁・雪風は中層、金剛には上層へ向かわせ、大破して航行不能になった艦娘の救助の任を与えた……)
塔の最上階……玉座に肘かけて足を組む提督。傍らには皐月が立っていた。
皐月「司令官は、ボクが守るからね! でも、どうしてボクをこの部屋に残したの?」
提督「お前がそうしたそうだったからだ」
提督(俺の身を案じているのは他の面子も同じこと。だが雪風や響は戦力になる……ゆえにこの部屋に残っていてもらっては困る。
これから起こることを予想して配置しておかねばならない)
皐月「なんだよー、その言い方……。ボクのこと、頼りにしてないの?」
提督「そういうわけじゃあないさ。お前にはお前の役割というものがある」
皐月「ボクの役割……?」
提督「このまま何も起こらなければ動いてもらうことはない。が、事が起きれば……役に立ってもらうということさ」
・・・・
ヲ級「良い報せと悪い報せがある。どちらから先に聞きたい?」 提督の眼前に立体映像が浮かび上がる
提督「不穏だな……良い報せから聞こう」
ヲ級「現存する全ての艦娘の誘き寄せに成功した。これよりこの塔は大気圏を突き抜けて宇宙へと進発する」
提督「ご苦労。見事な首尾だ。で、悪い報せというやつは?」
ヲ級「“下の世界”への門をこの塔の中に擬似的に生成させてもらった。全ての深海棲艦が、数万年分の深海棲艦が艦娘に仇なすことだろう」
提督「これまで俺たちが倒してきた深海棲艦のみならず、“下の世界”の深海棲艦を総勢呼び寄せたというわけか。厄介なことをしてくれたな」
ヲ級「これは深海棲艦としての最後の反抗。私という存在、そして深海棲艦という存在の証明。
手取哀。お前には感謝をしている、恩義もある。信頼している。だからこそ……私はお前に仇なす」
ヲ級「深海棲艦である、私さえも救ってくれるというのだろう。なら、この私の同胞も救ってやってはくれまいか?
それがお前には出来るのだろう? この試練さえもお前は乗り越えてしまうのだろう?」
提督「もちろん。お前の命がけの足掻きですら、俺にとっては取るに足らぬこと……。闘争の中でしか救済しえないというのなら、望み通り全てを終わらせてやろう」
ヲ級「そう言ってくれると信じていた……。私の荷は降りた」
映像が途絶えると、しばらくして磯風が慌てた様子で走り寄ってきた。
磯風「ヲ級が倒れた。今、泊地水鬼と軽巡棲鬼が手当をしているが、そう長くは持つまい。
奴が倒れてしまってこの塔は無事なのか? どうやらもう地上を発ってはいるようだが」
提督「恐らくはな。思うに、そうでもなければ奴はこんなことをしないだろう。奴は自分の存在と引き換えに内部世界に存在する全ての深海棲艦を顕現させたのだ。
じきに猛烈な物量の異形が下の階に押し寄せることだろう。奴らを打ち倒すことで俺たちの戦いは終わる。簡単なミッションだろう」
提督「磯風、ヲ級のもとへ戻り手当てを。応急修理用の設備があるはずだ、急ぎ延命措置を」
磯風「君はこのことさえも予期していたというのか……?」
提督「全てを読んでいたわけではないがな。さて、皐月は下の階にある中継地点……各チェックポイントに燃料や弾薬、装備等を配置しに向かってくれ」
皐月「……でも、司令官が」
提督「俺の心配をしてくれるのはありがたいが、下の階にいる連中の方が遥かに危機的状況にあるのだ。そのことを理解してもらいたい。
それに、この俺が自衛手段もなくここでふんぞり返っているだけだとでも?」
皐月「それもそうだね。分かった、行ってくる!」
・・・・
足柄「ふぅ……部屋ごとに深海棲艦が待ち構えてるみたいだけど、どうってことないわね。次行くわよ次ィ!」
霞「待って、これまでとは桁違いの瘴気を感じるわ。あっ、待ちなさいったら!」
足柄が扉を開け、一同が部屋に足を踏み入れるとガシャンと音を立てて扉が閉まる。
霞「はああああッ!? なんなのよこの敵の数は!」
目の前に現れたのは暴力的なまでの物量。戦歴の長い霞や朝霜すらも見たことのないような光景だった。
清霜「(あまりの数に霞がキレてる)……仕方ない、先手必勝ね。一気に攻めるわ!」
大淀(上に登るための各階に深海棲艦が配置されていたようですが……明らかに今までとは数が違いますね……)
足柄「チッ……なんにせよ、こんなところで足踏みしてもいられないわ! 前進あるのみよッ!」 バッゴォン
653 :
【97/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/22(金) 21:20:27.94 ID:8G7bUlWo0
提督「これが提督らしい最後の仕事になるか。文月、聞こえるか?」
文月「はい〜。聞こえてますが……なんかすごいことになってませんか? 深海棲艦がわぁ〜って」
提督「ああ。さすがにこのまま何も動かさないままだと艦娘らの身がまずい。よって方針転換だ。
以後は艦娘側のサポートするためにこの塔のギミックを操作してくれ。それから、榛名と霧島のうち、どちらか一名は戦線に向かわせていい」
提督「で、次だ。……各位、聞こえるか?」
天龍「新顔が後から後からやって来てて大丈夫なのかと焦ったが、今度は艦娘の方の身が持つかを心配した方が良さそうだぜ。大混戦だ」
響「今、こっちでは鬼の形相で加賀や赤城が暴れているよ。しかし彼女らが物量に押されるとはすさまじい……」
提督「分かった。天龍・龍田らは引き続き救助を。響・暁・雪風は中層の艦娘らを支援して深海棲艦の掃討に加勢してくれ。
俺の目的は艦娘を滅ぼすことではなく、艦娘によって深海棲艦を倒させ、その動力でこの塔を目的地まで到達させることだからな」
金剛「Oh! なんだか盛り上がってきましたネー」
提督「金剛、お前も下の階へ向かえ。お前の戦力と経験知は他の艦娘にとって強い助力となる」
金剛「え、エー……色んな人に喧嘩売るカタチでこっち来たのでやり辛いんですケド……。テートクゥ〜」
提督「天下の大戦艦が情けないことを……四の五の言うな。俺はお前の戦力は個なら他のどの艦娘にも勝ると評価しているのだぞ。
そのお前がしがらみ如きで二の足踏むとは何事だ。さっさと行け」
金剛「(あ、今日のテートク優しい)……しょうがないデスネー。気乗りはしませんガ、ここまでおだてられちゃ仕方ないですネっ!」
雪風「あの……しれえ。お身体は大丈夫ですか?」
提督「今のところはな。遠方の俺よりも前線の心配をしろ。それに、何が起きようと俺のやることに変わりはない。お前なら分かるだろう」
雪風(……司令を信じましょう。司令ならきっと……何があっても大丈夫)
・・・・
赤城「加賀さんや二航戦の隊と同じ部屋に辿り着いたと思ったらこの敵の数……これでは分断されてしまっているわ」
翔鶴「まずは友軍への道を切り拓きます。敵とこうも近いとアウトレンジ戦法が物理的に不可能ですが……艦載機が帰還しやすいとポジティブに捉えましょう」
天城「葛城、大丈夫?」
葛城「だ、大丈夫。ビビってない……ビビってないから! 稼働全艦載機、発艦はじめ!」バシュッ ピュゥゥゥ
翔鶴「その意気ですよ。ここには私がいて、さらに赤城先輩がいます。そしてあの群がる敵の向こうには加賀先輩や瑞鶴が。負ける道理はありません」ピシュン ピシュン
赤城(この成長は、加賀の教育によるものだけではありませんね。放つ気迫が以前とは段違い……ひょっとすると今の私さえも凌ぐかもしれない。
……出会った頃はただの後輩程度にしか思っていなかったけれど。今はまるで幾多もの戦場を共に乗り越えた友人のように頼もしく感じられる……!)
矢が空を切る音と、遅れて耳をつんざく艦載機のエンジン音。戦いが始まった。
武蔵「こういう百鬼夜行こそ我々大和型の出番だな! そうだろう大和!」
大和「ええ! なぜ敵が増えたのかは分かりませんが……それも先に進めば分かること! 敵艦隊を突貫して根絶します。私、大和にはその力があるッ!」
腕を掲げ、振り下ろす。振り下ろしたと同時に爆発的な火力が前方の敵を消し飛ばしていく。
・・・・
提督「……当面は問題なさそうだな。陰から補助してやっているとはいえこれほどの軍勢を相手に一歩も怯まず、か」
提督「しかし……驚いたものだ。かつての俺なら、ミッドウェーの頃の俺ならこの局面を見て匙を投げていただろうがな。
見事なものだ、艦娘というやつらは……。戦えば戦うほどに、経験を積めば積むほどに予測を超えて強くなっていく。まさか、これほどまでとは……」
提督(そして、俺がここまで本気にさせられるとも思っていなかったよ。この世の些事に執着するなど愚かしいと思っていたのだがな……。
こいつら艦娘の成長が面白いと今更になって感じている。俺は戦争狂になったつもりはないのだがな……まったく)
提督「なかなかどうして、浮世も捨てたもんじゃあない。あとは、俺自身の命運がどう転ぶか……だ」 自分の掌をじっと見つめる提督
・・・・
提督「俺の細胞の一部を、生存条件を満たせる小箱の中に入れて塔の外に出してみたが……ダメだったか。原因不明の死と再生を繰り返す。
しかしなぜここにいる俺は無事でいられる? 塔が地球を離れようとしているうちは、未だ地球の範疇ということか? 都合のいい解釈だが……」
提督「だがこの塔は目的を果たせば力を放出して自壊してしまう。肉体や魂をこの塔の内に留めておくことができるのは、移動している間だけ」
提督(この塔を押し上げる力の一部を使って、塔と同様の構造物を生み出そうとしたが……)
提督「出力座標を固定するのが困難だな。失敗した時のリスクが大きすぎる。
宇宙空間に放逐され半死半生の肉塊となるか、概念化して次元の狭間を永遠に彷徨うハメになるか……フッ」
提督「諦めるにはまだ早い。考えろ……艦娘が地球を離れて半深海化しない理由。俺の肉体が地球を離れると崩壊する理由。……」
……肉体と魂の遊離度の違いか? 艦娘から魂の抜け去ったものが深海棲艦。魂と肉体は地球の極と極に二分され交わろうとしない。
だが人間の場合はどうだ? ヲ級は輪廻が成されていないと言ったが……本当か? であるならば深海棲艦の人間版があっていいような気もするが。
これまでに死んだ人間の肉体とそこに残った想念がみな冥府へ溜まるというのなら、深海棲艦すら圧倒する化物が出来そうなものだが。
654 :
【98/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/22(金) 21:24:13.89 ID:8G7bUlWo0
提督「無重力の条件下では、艤装の深海化の進行が緩まった。……重力がなにか作用しているのか?
地球の重力に近い重力が働いていれば俺の肉体の損傷も回避出来るのか……? いや、それも試した。試したが失敗だった」
しかし……何かヒントにはなるかもしれないな。人間と艦娘の違い。人間は土から生まれ土に還る。艦娘は“火”から……。
性質の違いがある。人間は留まろうとする。大きな箱庭の中で循環しようとする。艦娘はそうではない。生まれて、使命を果たして、底へと沈む。
……沈む? 沈む、か……いや。艦娘は人と被造物との混血。人たる部分が地の底へ、人ならざる部分が天へ昇っていく……?
道具は役目を終えれば、廃棄されるか姿を変えることになる。大昔での大戦で使われた兵器を模しているのも、天使としての性質か?
軍艦。人間の知恵によって生まれた兵器。その姿を模して現れた意味。知恵……。知恵を最初に与えたのは、神への反逆者たる天使だ。
天使は神の生み出した“火”より生まれ落ちた。“火”から人間は知恵を手に入れ、意志と感情のままにこの世界を支配していった。
重力……。無重力下で炎は涙滴型でなく球状で浮遊する。地球上での炎は暖められた空気の上昇によって垂直な形になるが、宇宙でそうはならないからだ。
また、宇宙空間では人為的に酸素を送り込んでやらなければ炎を維持することができない。だが地上より低酸素で持続させることができる。……。
提督「……この塔では、深海棲艦の精神と肉体。そして艦娘がいる。深海棲艦を倒すことによって、奴らの精神と肉体を塔の動力としている。
深海棲艦は輪廻を望んでいる。再生……再会……。繰り返し……。魂を望んでいる。俺の肉体はどうだ? 外因的な力を糧に半永久的に死と再生を繰り返す。
そして、死んでなお俺は俺のままだ。別の生き物に生まれ変わったり、深海棲艦のように抜け殻になったりはしていない。
死のたび魂は入れ替わっているが、本質的な存在は揺らいでいないように思える」
提督「そもそも魂とは? 魂とは一つの肉体につき一つだろう? その発想自体間違っているのか? 俺は何者なのだ……」
・・・・
大部屋の深海棲艦を突破し、中継地点で休む一同。
瑞鶴「うぉぉ……次から登るたびにこれかぁ〜……。さすがにヤバいなあ」
翔鶴「でも、あと少しです。頑張りましょう、瑞鶴!」
響「さて、これは応急処理女神だ。数に限りがあるから全員分とはいかないが、有効に活用してくれ。私の司令官に感謝するんだな」
大鳳「この一件の元凶に感謝など……」
暁「補給物資や高速修復材こっちよ。ちゃーん順番を守って並ぶのよ?」
陸奥「とはいえ、ここは素直に受け取っておくべきね。じゃなきゃ身が持たないわ」
川内「けど、これだけの資源や装備、どうやって用意したの? まだまだ備えがありそうだし……」
雪風(たぶんこれほとんどが横須賀鎮守府から金剛さんたちが略奪してきたものなんですよね……)
加賀「次の部屋……凄まじい殺気を感じるわ。悪くない、相手にとって不足ないわね。フフ……」
瑞鶴「加賀先輩がニタリと笑ってる! よからぬことを考えているに違いない!」
翔鶴「瑞鶴! 失礼なことを言うんじゃありません。聞こえますよ?」
・・・・
金剛「フッフッフゥー! 助太刀に来ましたヨォ! ってノわッ!?」
比叡「お姉様ァーーーーッ!!」 ドドォン!!!!
金剛「ちょ、なんでこっちに向けて撃ってくるデース!? 敵はアッチ! 私はBOSSじゃないありまセーン! ノォォーウ!」
比叡「私は納得いきません! お姉様が何を知っているのか! なぜ私を連れて行かなかったのか! 洗いざらい吐いてもらいますッ!」
金剛「What the hell!?!? なんで私だけ逃げながら戦わなきゃいけないんですカー!? そんな縛りプレイ聞いてまセーン!」
榛名(あぁ……まあそうなりますよねえ)
武蔵「アホは放っておいて……我々はひとまず周辺の敵を蹴散らそう。豪華な面々がお出迎えしてくれたようだぜ!」
加賀「あれは……防空棲姫。そして戦艦水鬼! ふふ、いいわ……興が乗ってきました。瑞鶴! 貴方は私と残ってここで敵を迎え撃ちます。
他の空母は先に進んでもらって構わないわ。ここは二人で十分!」
瑞鶴「わ、わたしィ〜!? 私がアレやるんですかァ!?」
加賀「これでも耳の良さには自信あるの。ふざけたことを言う後輩は懲らしめてやらないと」
翔鶴「(言わんこっちゃない……でも、加賀さんと今の瑞鶴なら大丈夫かしら)ここは瑞鶴や加賀さんに任せて、先に進みましょう。行きます!」
金剛「ヒエーイ!? だから謝ってるじゃないですカー!」 比叡の砲をかわしながらも深海棲艦への攻撃は加えつつ逃走する
比叡「百歩譲って……お姉様が私を誘わなかったのは許すとします。
事実私はお姉様と違って軍に残っていましたし、それなりに思い入れもありましたから。ですが……なぜあの司令のもとへ」
金剛「比叡! 危ナイッ! うおおおおッ!!」 比叡の前に立ち砲撃の盾となる金剛
比叡「お姉様!? ……お姉様ァーッ!」
金剛「子供じゃないんだからこのぐらいで騒がない。たかが一発喰らった程度だけですよ。騒ぐことじゃない。
ま……喰らった一発は、百倍にして返してやりますケドネッ! ッラァァ!!」 艤装にめり込んだ砲を掴んでぶん投げ、前方の戦艦を破壊する
武蔵「あいつ……原始人か? 野蛮すぎるイカれた奴だな……だが面白い! ハッハッハッ! 金剛に遅れを取るな、攻め取るぞ!」
655 :
【99/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/22(金) 21:34:51.18 ID:8G7bUlWo0
比叡「お姉様? 動けますか?」
金剛「まだ大丈夫デス。あの提督は……私の子供の頃憧れてたヒーローにそっくりなんですヨ……」
金剛「最初に会った時からずっと、ムカつく奴だと思ってたんデス。けど、本当は優しい人なんデス……不器用なだけなんです……。
皆を守りたいと思ってるカラ、皆を助けたいと思ってるから戦えるんです……」
金剛「私だって、100%提督のことを信じられていたかと言えばそうではありませんでシタ……軍に反逆するのだって、それがどんなに愚かなことかは分かりマス。
それでもワタシが手取提督に近づいたのは、子供の頃のワタシの憧れを、彼の姿に見出したからデス」
金剛「私は……そう、ヒーローになりたかった。子供の頃の夢で、忘れてしまっていた。でも……ワタシは弱かったから、人に愛されたかった。
自分を殺してまで人に尽くそうとは思えなかった……。目に見える形での見返りがなければ力を出せなかった」
金剛「でもテートクは、超エゴイストです! 自分を貫いた上で、それでもワタシたちを救おうとしている! ワタシもそうなりたいと思った!」
榛名「お言葉ですが……金剛お姉様。お姉様はもう十分にヒーローですよ。いえ、ヒロイン? もうお姉様は昔のお姉様じゃない。
自分の意志で、けれど皆のために戦っている。これこそヒーローの資質……ではないでしょうか」
金剛「……だと良いですけどネ。比叡、これで話は終わりデス。これでも納得できないと言うのであれば、もう貴方と戦うしかありまセン。
ですが、そこに意味がないことぐらい分かっているでショ? 駆けっこはもうお終いにしましょう」
金剛「比叡には、強くなって欲しくて、余計なことばかり言ってしまいまシタ。でも、それは私の歪んだ理想の押し付けでした。ゴメンナサイ。
……人を守りたいという想いで、そして私を守りたいという想いで戦ってくれていたのはいつも比叡でした。
ワタシは……提督のように強く、そして比叡、あなたのように周囲を愛せるようになりたかったのかもしれまセン。本当に大切なものは、すぐ傍にあった……」
・・・・
夥しい数の深海棲艦が海上を埋め尽くしている。しかし、その全てが力尽きているようである。その光景は地獄絵図と呼ぶに相応しい。
朝霜「ハーァ、ッ、ハーッ……ざまあ見やがれ……みんな倒してやったぜ……!」
長門「これで少しは私のことを見直してくれたかな……?」
清霜「うん。カッコ悪いなんて言ってごめんなさい。長門さんが来てくれて助かりました」
酒匂「やっぱり長門さんはすごい! 憧れちゃうなぁ!」
長門「ふふ、そうだろう。頼りにしてくれ(さすがにこの数は肝を冷やしたがな……)」
三隈「まだここで終わるべきじゃない、ということですよ。名誉挽回できて良かったじゃないですか」
陽炎「一小隊に半深海棲艦化手前の艦娘と非番の艦娘が加わった寄せ集めではあるけれど……なんとかなるもんね。はーい戦闘糧食」
霞「もう上の階からは気配は感じないわね……これでようやく一息つけるわ」 モグモグ
足柄(どうにかなったわね……。けれど、何か妙な予感がするわね……何かが引っかかる。この塔に入った時、違和感があったのよね……)
・・・・
提督「ほう……おめでとう。ここまで来るとはな。もう間もなく時が来る。この塔は火星に到着しその目的を果たす。
お前たちが深海棲艦を倒してくれたおかげで俺の計画は無事成功に終わったというわけだ……」
ひどく負傷した、ボロボロの姿で提督の前へ立つ翔鶴。玉座から立ち上がって両手を広げる提督。
提督「時間がないので手短に頼もうか。質問には三つまで答えてやる」
翔鶴「全て貴方の掌の上で踊らされていたというわけですね……。ですが、何ゆえこんなことを……」
提督「半深海化を食い止めるためにはお前たちを強引にでも地球の外に連れ出さねばならなかった。ここまでは前回のバビロン計画と同じ。
俺が深海棲艦を操ることが出来たのは、ミッドウェー作戦で対峙したヲ級Nightmareを従わせたからだ。奴の力で深海棲艦を蘇らせた。
この塔には想念を力に変換する機構が備わっている。お前たちが深海棲艦の怨念を打ち破ったことによって塔内に膨大な力を蓄積することができた」
提督「それはそうと、こちらからも質問して良いか。ここに辿り着いたのはお前だけか? また、ここに辿り着く過程で轟沈した艦は何隻出た?」
翔鶴「ここまで来れたのは今のところ私だけです。しかし、後から他の者も来るでしょう。轟沈した艦は出ていません」
提督「そうか。それは都合がいい。ま……数隻程度なら沈んでも問題はなかったのだがな」
翔鶴「! どういうことですか……それは?」 弓に手をかける翔鶴
提督「……二つ目の質問と解釈して説明させてもらう。この塔の内部では空間という概念そのものがデタラメだ。
肉体から離れた魂ですら塔の内側に留まってしまう。ゆえに肉体と魂を繋ぐ艤装さえ作ってやれば蘇生が可能ということ」
提督「かつて流行した……カードを筐体に読み込ませて戦う、ああいうゲームを想像してみてくれ。
俺やお前たちの肉体がカードで、ゲーム内で動くデータが魂。カード本体とデータが残っているなら、後はその因果関係を再び結んでやればいい。
だから轟沈しても問題ない……と言ったところで理解は難しいだろうがな。原理を省いて概要だけ説明するとこうだ。さて最後の質問を聞こう」
翔鶴「私が知りたいことは、貴方が私利私欲で動いているか、そうでないかということです。貴方の目的は何ですか? 貴方は何をしようとしている?」
提督「俺の目的か……。そうだな。この世界の森羅万象を再現できる架空世界を創造する。
それを俺は“真理の箱庭”と呼んでいるが……これを観測してこの宇宙の真理へと至り、やがて全知となる。これが目的の全容だ」
提督「畢竟艦娘も深海棲艦も……俺にとっては余興に過ぎない。お前たち艦娘という半人半神のような存在でさえも、この大宇宙の中では微々たるものだ。
そんな些細な存在ではあるが……惹かれるものがあった。正直のところ、お前たち艦娘の成長は敬意に値する。だからこうした」
656 :
【100/100】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/22(金) 21:38:27.41 ID:8G7bUlWo0
赤城「提督! ハァ……ハァ、ハッ……。貴方に、会いに、来ました……。っ……!」
提督「赤城もここへ来たか。大儀であった。だがもう時間がない。ほんの少し遅かったな」
玉座を中心に床から光の円が浮かび上がる。円はやがて六芒星に変わり、玉座を取り囲むようにして回転する。
光とともに薄墨色の半透明な障壁が形成されていく。玉座の位置を頂点とした三角錐が出来上がる。
赤城「ッ! 待ってください!」
ピラミッドの形をした障壁めがけて弓を引いた赤城。しかしヒビが入るだけで破壊には至らない。
提督が玉座に座ると、赤城が二発目の矢を放つ前に障壁の内側にあったものが光に包まれ、彼女の視界から消失した。
・・・・
塔の最下層。青銅の壁に覆われた部屋に提督は居た。部屋中が激しく震動しているにも関わらず平然として室内の機材を弄っている。
提督「塔が崩壊を始めている。もう時間はないな……」
提督(まず隣室の冷凍保存シェルターをさっきと同じやり方でこの塔の外へと出力する。……? ……これは) ゴゴゴ……
背後に気配を感じる提督。悪寒が疾る。自分に明確な敵意を向ける存在が近くにいることを察し、振り返る。
提督「……! お前のような存在がいることも、理屈の上で予想はしていた。だが、よりにもよって俺のところに現れるか。艦娘ではなく、あくまで俺なのか」
提督が振り返った先に立っていたのは、骨肉と鉄や鉛が一緒くたにされてぐしゃぐしゃに押し潰されたような顔のない化物だった。
今まで映像や肉眼で見てきたどんな深海棲艦よりも歪でグロテスクな風貌のそれは、ゆっくりと提督に歩み寄る。
提督「気配こそかつてヲ級に見せられた幻覚に出てきたものに似ているが……以前のそれとは明確に違う。
こいつは救いを求めていない、ただ悪意と憎しみしかない……。何もかもを踏み躙って破壊したいという衝動しか感じられない……ッ」
提督「それにこいつ……妙だ。鬼や姫といった上位種やそれらに近いネ級やヲ級の類でもないのに真っ直ぐ二足歩行でこちらへ向かってくる。
哨戒魚雷艇の子鬼群とも似ているが、それとも違う! こんな見た目の奴は見たことがない」
ダァン! 炸裂音がすぐ近くで聴こえる。砲撃だ。化物の巨体が退いた隙に、砲が放たれた方向に走る提督。
足柄「やっぱりここに何かあると思ったわ! 入口から更に下に続いてる階段があってヘンだと思ったのよ!」
見つけてやったりと得意げな表情の足柄を無視して考えこむ提督。
足柄「で、あれは一体何かしら。深海棲艦はもう全部倒したはずじゃないの? っていうか、ヘンな臭いしない!?
磯の臭いとも、硝煙の臭いとも違う……深海棲艦の臭いじゃないわ。あの化物から漂うのは……死臭……?」 スンスン
提督「この塔は深海棲艦の想念を糧としている。救われたい、満たされたい、生まれ変わりたい……叶うことのない絶望を清算させるためにある。
だがその想念の中には、救済すらも望まず、闘争によって満たされることもない、純然たる悪意のような“澱み”もあることだろう」
提督「快楽のままに悪意を振り撒き、衝動のままに破壊し尽くす邪悪。深海棲艦にあって深海棲艦にあらず、人間の怨念であり悪意。
直感した……直感だが、確信に近い……。奴を新しい地平に連れて行くわけにはいかない!」
足柄に説明するというよりは自分の考えを整理しているような様子で話す提督。
提督「足柄! お前は階段を登って退避しろ。俺はこの階を塔から切り離して宇宙空間に捨てる! いいなッ」
足柄「ちょっと! 勝手に一人で話を進めてもらっては困るわ! よく分からないけど、要はアイツを倒せば良いってことでしょう!」
提督「よせェ足柄ッ! 下がっていろ!」
提督が静止の声が耳に届く前に怪物めがけて砲を撃ち放つ足柄。最大威力の射程距離で放たれた一撃は鋼鉄の肉体に当たって爆裂する。
足柄「きゃあっ!? こ、このォ〜……!」
甚大なダメージを受けたにも関わらず砲煙から飛び出してきた化物は、足柄に突進してそのまま押し倒す。
提督「まずい! うおおおおおおッ!!」
押し倒された足柄と化物の間に強引に割り込み、化物ではなく足柄の方を突き飛ばす提督。そのまま全身を覆いかぶさられ、やがて肉体の全てを呑み込まれてしまう。
足柄「嘘……何が起こってるの……? 提督、死んで……? ッ……グうッ!」
足柄(身体が変だわ……立っていられない。この塔に入ってからは収まっていたのに……艤装が……自分の意志で動かせない!?)
化物の内側から爆発が起こる。左手に手榴弾を握った血みどろの提督が、うずくまる足柄の手を強引に引いて走る。
提督「やはりか……。いいか、足柄。あれは深海棲艦じゃあない。似ているが……もっと性質の悪いものだ。あれは人間の悪意そのもの。
お前たち艦娘はあれに触れただけで瘴気にやられて深海棲艦になってしまうだろう」
階段前に辿り着くと足柄の手を投げ捨てるように放し、背を向ける。
提督「幸い、まだお前は助かる見込みがある。そのまま階段を駆け上がれ。その程度の力は残っているはずだ」
足柄「貴方はどうなるのよ!? 艦娘ですらない貴方が、たった一人でこんな奴に挑むなんて正気じゃないわ!」
提督「さっきので二度死んだ……が、あと2998回までなら死んでも問題ない。勝機はある。ここでお別れだ、足柄。……じゃあな」
足柄の方を振り返ることもなくそう言い捨てて、明かりのない廊下の方へ走り去っていく提督。やがて闇の中へ消えていき、その姿は見えなくなった。
657 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2016/01/22(金) 21:40:20.79 ID:8G7bUlWo0
100レスで終わりなのにどうしてこんなことしたのって怒られそうですが、まあまあもう少しお付き合いください……。
とりあえず23時あたりに投下出来そうだったら投下します。ダメそうだったら明日の昼12時頃ということで……。
最後までこんなバタバタしてて申し訳ありません。
658 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/01/22(金) 21:47:27.36 ID:LHIGHsYlo
一旦乙 これ後10レスくらいいるんじゃね?終わるのか?
続き期待
659 :
◆Fy7e1QFAIM
[saga sage]:2016/01/22(金) 23:06:09.11 ID:8G7bUlWo0
ごめんなさいやっぱり時間欲しいです。超ごめんなさい。あともう少々お待ちを……!
あまり焦らなくてもいいよと言ってくれる方もいるかもしれませんが、
>>1
の都合的に明日を逃すとまた間延びしちゃいそうですので……明日で決着つけます。
ちなみにあと5レスで終わる想定です、概ね書けてはいるので大丈夫です、終わります終わらせます大丈夫です大丈夫……たぶん
660 :
【ED-1】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/23(土) 12:07:02.76 ID:xlyHE8aw0
提督「これでいい。切り離しは済んだ……。足柄のヤツ無事だといいが……」
提督(あとはヤツだけだ! 四回死んだだけで抑えられたのはなかなか悪くない…‥あと2994回も死ねるのだ。さて本題はここから)
提督(シェルターは健在か……。だが、あの化物がいる状況ではどうにもならんな。奴をどうにかする術を考えなければならないか)
壁伝いに腕の力を使って移動する提督。左足の頚骨より下の部分には本来あるべき足首が失われていて止めどなく血が流れている。
提督「物質転移装置のある部屋からはだいぶ離れた……これならひとまず安心して“死ねる”。この七回目の命も無駄ではないな……」
力尽きて倒れた提督の上に化物から伸びた触手が突き刺さる。
提督「ッ……(こいつ……学習しているのか……? 近寄って丸呑みにすることをやめ触手を……グッ。ダメだ、意識が……)」
・・・・
壁に叩きつけられ、頭から血を流しながらよろよろと立ち上がる提督。
提督「相当死にすぎたが、気づいたぞ……ようやく気がついた……。最初のうちは俺の全身を取り込もうとしていた……。
だが……途中から動きが変わった。触手で串刺しにしてみたり、こんな風に俺をいたぶって殺そうとしたり……だ」
提督「それは、俺の精神を屈服させるためでもある。だがもう一つ。お前は俺を取り込むと少しずつ弱っていく……そこに気がついた。
そう、人間に限らず生き物の多くは、食物を消化することに最もエネルギーを消費する。
お前が俺の肉体を消化しきった直後! 俺の肉体はお前の吸収したエネルギーを奪い取って再構築される……」
提督「最も、知性が猿以下の貴様では俺が何を言っているか、何に気づいたか理解できないだろうがな……。意志なくして知は意味をなさない。
自らの生さえも望まず、ただ全ての破滅を願っているだけの化物に……はたしてこの俺が殺しきれるかな」
身体の周囲に伸びてきた触手を掴み、手繰り寄せ、化物に自ら接近していく提督。そして腕を伸ばし、取り込まれていく。
提督「結局のところ、滅ぼすことすら貴様は“願う”だけなのだ。自らの手で成そうという気概がない。情熱がない!」
提督(だが……こいつもまた、人が生み出したもの……。
人の悪意が艦娘に伝わり、その艦娘が他の艦娘に悪意を伝え……そうして紡がれていった負の連鎖だ)
提督(これは……人間の戦いだ……。だからこいつは人の死臭を纏っている……。艦娘の想いでなく、人間の悪意を備えている……。
ここで俺が決着をつけなければならない……艦娘を巻き込むわけにはいかない……)
足柄(……ブラックホールのようだわ。自分のエネルギーが無くなるか、提督の生命の全てを奪い尽くすまで攻撃し続けるなんて)
死角から一撃、蹴りを見舞いする足柄。取り込まれつつある提督の身体を化物から強引に引き剥がし、彼を横抱きにして救い出す。
提督「バカな……足、柄……!? なぜ……? そうか、応急修理女神をくすねてきたか……」
足柄「轟沈もしていないのに深海棲艦になるなんてゴメンだわ! もっとも、女神の力でも完全に深海化を消し去ることは出来なかったようだけれど……。
アイツに触れずに倒せばいいんでしょ? そういうことは先に言って欲しいわね」
ターン、ターンとスキップのように華麗に飛び回りながら後方から伸びてくる触手をかわし続ける足柄。
提督「もういい足柄。降ろしてくれ、損傷部分は再生した……奴に俺の身体を取り込ませることで」
足柄「意識が戻ったのはついさっきだったけど……死にすぎたとか言ってたのは聞こえていたわ。貴方の肉体、不死身だけど限界はあると見たわ。
……提督に無理をされて本当に死なれたら、今度こそ勝ち筋がなくなるわ。私のためにも、もう少し自分の命を大切にしてよね」
提督「なにが勝ち筋だ。あの時逃げてさえいれば、こんなことにはならなかったものを……ばか者め」
足柄「私から言わせれば、あんな化物にたった一人で立ち向かっていくなんて貴方の方がよっぽどバカだと思うけどね。
でも……今の提督、カッコ良いわ。あれは自己犠牲じゃない、生き残る覚悟の上でああいう判断を下せるなんて驚いたわ」
足柄「だから私はここに残った。それだけの情熱と覚悟を持ったあなたが、一人ぼっちで死んでいくのは見逃せない」
足柄(それに……やっぱりあなた生き急ぎすぎだわ。抱きかかえていて感じた……生気が薄れている。
私の前では肉体の再生速度を早めてみせていたようだけど、本当はもう限界が近いって気がするわ)
提督「やれやれだな……一時の情に流されて命の危機を冒すとは愚かなやつだ」
足柄「あなたにだけは言われたくないわ、心外よ!」
提督「とまれこうまれ……もう、奴を倒す以外にお前に生き残る道はない。そして俺はお前の生命の保証をすることが出来ない。
だから覚悟を決めてくれ……俺より先に死ぬ覚悟を決めろ。俺はお前を足蹴にしてでも生き残ってみせる」
足柄(自分にそう言い聞かせてるつもりかしら? ……私が危なくなったら本当に限界が来ていたとしても捨身で助けようとするくせに)
足柄「あなたねぇ……私のことを邪魔だと思ってるでしょ。私がいなければ最悪死んでしまっても良かったなんて考えてない? 隠したってムダだわ」
ファサと髪を掻き揚げて、提督を見つめる足柄。
足柄「けれど……今だけでいいわ。今だけでいいから……私を信じて。私、足柄は絶対にあなたに勝利を導くわ」
提督「ならば……訂正しよう。そうだな……何と言うべきか……」
提督「覚悟を決めてくれ、足柄。俺と心中する覚悟を決めろ」
足柄(彼から出てくる言葉はみんな裏返しだわ。で、私がそれに気づいているって、分かっててこんなふうに言うんだもの……おかしな人ね)
足柄「いいわ……それでいい! 絶対勝って生き残るわよ? いいわね!?」
661 :
【ED-2】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/23(土) 12:21:13.71 ID:xlyHE8aw0
鋼片や肉の屑を撒き散らしながら、悲鳴のような嗚咽のような音をあげて倒れる化物。
負傷しながらも怯むことなく、精悍な顔つきで砲を構えている足柄。
既に再生能力をほとんど失い、ところどころ液状になりかけながらも足柄の背負った艤装に掴まっている提督。
足柄「ハァ……ハァ……ハァ……ァァ……さぁまだやる? 何度でもぶっ飛ばしてあげるわ……!」
提督「ッ……ぐ……いや、もう……終わったようだ……。もうやつが立ち上がることはない」
提督「見ろ、あの化物の力が……変換されていく。どうやらあの塔と同じように、火星へ向かっているようだ……」
足柄「それじゃ……勝ったのね!? やったわね!!」
提督「ああ、やったな……ありがとう。足柄」
足柄の背中から離れて、ヨロヨロと隣の部屋へ向かっていく。
提督「置き土産か……。俺の身体はこの塔を離れると無限に崩壊を繰り返す。再生を上回って細胞が死んでいくので、やがて完全に消滅してしまう。
だから、かつて俺たちがワープした時のような方法を使って、肉体を冷凍保存するためのシェルターを用意しておいたのだが……」
足柄「それがこれ、ってわけ……」
小部屋一体に瓦礫が散らばっていて、床の一部が凍っている。
提督「塔の中にあったものは、目的地に到着した際に生命を除いて消滅してしまう。
このシェルターをワープさせ、次にシェルター内の座標に俺をワープさせるという計画だったのだ」
提督「ただ失敗したリスクも大きかった。残念だが、かえってこれで良かったのだと考えよう。……もう一つ方法はある。最終手段だがな」
・・・・
足柄に肩を借りながら、この階層にある最奥部の部屋へと辿り着く。機械から伸びる数本のケーブルを自分の身体を取りつける提督。
提督「良かった……壊されてはいないようだな」
提督「俺という存在を0と1とのデータに変換する。肉体の死はもう免れないが、何もかも消失してしまうよりはマシだ」
足柄「……死んでしまうの? 俺と心中しろなんて言ったじゃない」
提督「肉体が死ぬだけだよ。俺の精神そのものが滅びるわけじゃあない。データに変換しておけば俺は電脳空間上で行き続けることができる。
それに、いつかはデータから可逆的に肉体を復元できるようになるかもしれない。死ぬわけではないさ」
提督「精神や脳の情報をデータに変換して、あとは火星に着いたであろう雪風や磯風に回収してもらう。人工知能のようなものになる……というところだ」
・・・・
提督「……変換に存外時間がかかるな。幸い、火星へ向かうスピードもあの塔よりだいぶ緩やかなおかげで、どうにか間に合いそうではあるが」
ベッドのような装置の上で横たわる提督。提督の情報が画面に出力されていくさまを足柄はやや放心した様子で眺めている。
足柄「データに変換されると言うのに、あなたは全然平気なのね。なんだか不思議だわ」
提督「変換と言うのは語弊があるかもな。俺の脳を読み取って、読み取ったものをデータ化しているのであって、俺自身が特にどうというわけではない」
足柄「……そういう意味じゃないわ」
提督「そうか。それより、こうして何も考えずに横たわっているのは思いのほか暇なんだ。頭の体操がてら、少し話でも聞いてくれないか。取りとめもない話だが。
100万回生きた猫、って知ってるか。昔の絵本らしい。俺は金剛から話を聞いただけだから、内容を読んだわけじゃあないんだが」
足柄「知ってるわ。子供の頃に読んだ」
提督「輪廻転生を繰り返した猫の話だ。死んでは生まれ変わり、飼い主を転々としていた猫がある時、誰の飼い猫でもない野良猫に生まれ変わった。
猫は雌の白猫と出会って、結ばれて……やがて白猫は年老いて死んでしまった。百万回生きた猫はその時生まれて初めて悲しんだ」
提督「今まで飼い主が自分の死を悲しもうが何も思わなかった猫は、白猫が死んだ時に生まれて初めて悲しんだんだ。
猫は百万回泣き続けて……やがて泣き止んだ。白猫の隣で動かなくなり、もう二度と生き返ることはなかった。……」
提督「人から聞いた話を自分なりに想起しただけだから……少々うろ覚えだったのだが。いや……俺も、その猫と同じようなものなのかもしれないなと思ったんだ。
猫は、飼い主たちが嫌いだった。野良猫になった時だって、他の猫に自分の経歴を威張り散らしていた。だが、白猫が死んで、初めて悲しんだんだ」
提督「ただ……俺は、これを悲劇の話に思わない。むしろ、猫にとって幸せだったのではないかとすら思う。うまくは言えないのだが……」
提督「俺は、もうこの肉体で雪風や磯風、皐月、響、金剛……あいつらと会えなくなるのだと思うと、少し、哀しみの念を覚える。
思えば俺も、人生で初めて今悲しいという感情を体験しているのかもしれない。別れというのは、辛いものだ」
提督「だが……別れが悲しく思えるほどに、あいつらのことも、お前のことも、大切に思えるようになった自分が、少し誇らしいのだよ」
足柄「やめてよ。そういうしんみりした話されると……泣いちゃうじゃない」 そう言って上を向くが、既に目尻が潤んでいる
提督「すまないな、お前まで悲しませようとして言ったわけじゃあないんだ……少し自分の成長が感慨深かっただけだ。また一つ、真理に近づいたと思っただけだ」
提督「それに、さっきも言ったろう。俺は死ぬわけじゃない。また会える……またいつか、きっと」
それから数十分、提督と足柄は他愛もない話を続けた。話し飽きた提督が眠りに着くと、しばらくして部屋全体が光に包まれ……足柄は気を失った。
662 :
【ED-3】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/23(土) 12:39:54.40 ID:xlyHE8aw0
夢を見ているかのようだ。まどろみの中にいる。ここは水の中……海、なのだろうか。
前にもこんなことがあったような気がする。前? いや、前は似ていたが違う。もっと暗く悲しい海だった。
ここも暗いことには変わりがないが、不思議と暗闇を感じさせない。何かに抱かれているような温かみと安心感がある。
何かが見える。見えると言っても、目に何かが映っているわけではない。そもそも自分には目というものがあるのかさえ分からない。
青い星から飛び立ったロケットのようなものが、赤い星に向かって飛んでいく。これは確かロケットじゃなく、塔だった気がする。
なんという名前だったかも知っていたはずだが、どうにも思い出すことができない。
そう、自分はこの塔の中にいたんだった。この塔で、おぞましい化物と対峙していた。
かつてあの青い星を支配していた存在が、感情というものを持った人間を警戒したのは、
心というのはあのような醜い姿にもなり得るということを危惧していたからじゃないかと思う。
けれど、感情そのものは、きっと素晴らしいものなのだと感じている。
自分はずっと、知性こそがこの世の全てだと思っていた。それは半分正解で、半分は間違いだ。
好悪や興味の感情が沸き起こらない時、知性は発生しない。知りたいとすら思わないから、知に辿り着くことがない。
真剣に自分の目的を果たそうと努めていない時、知性を発揮できない。真剣でないから、知を活かすことができない。
心というものに触れて、向き合って。今の自分は、前よりも完璧から離れた頼りない存在になってしまったかもしれない。
けれど、これでいいのだと思う。他人を受け止めたり、受け入れたりするということは傷つき痛みを伴う。
その痛みさえも今は愛おしいと思えるから……これでいいのだと思っている。
塔は赤い星に辿り着くと、強い光を放つ。光は星の表面を駆け巡って、海を、大地を、空を形成していく。心地よい風が吹き抜ける。
大地は緑で彩られ、海は生気に満ち溢れている。塔を動かすために糧となったものたちが、新たな生命に生まれ変わったのだろうか。
緑の上で、海の上で、なにやら楽しそうにしている子供たちがいる。すごく懐かしい気持ちがするのだが、今の自分には思い出すことができない。
・・・・
ここは誰かの夢なのだろうか。どこかで見たような光景が、断片的に繰り返されていく。
けれど、ほとんど何も思い出せなくなってきている。記憶が茫漠としている。時間が経てば経つほどに記憶が曖昧になっていく。
――ねえ。
声がする。どこから声がしているんだろう。そもそもどうやってこの音が聞こえているのだろう。耳なんてないはずなのだが。
――あなた……まだずっとこうしているつもりかしら。そろそろ限界みたいよ。
こうしているつもりと言われても、自分からこうなった覚えはない。ただ、どうにもこの状態も長くは続かないということらしい。
――思い出せないなら、私が話してあげるわ。
ああ、でもなんだかこの声は聞き覚えがある。そうだ……せっかくだし、なにか知っているようなら聞いておきたい。
まず、思い出せないことが多すぎる。どうしてこんなに記憶が薄れていくんだ? 自分の名前さえ思い出せない……。
――記憶が薄れるのは、あなたが少しずつ遠くへ向かっているからよ。あなたがこの世界にいたという証が薄れつつあるから。あなたの名前は哀。
アイ、か。生前は女性だったのか……? いや、違う気がするな。自分のことを俺と言っていたっけな……。まあそれはどうでもいい。
どうしてあんたは俺の名前を知っている……?
――そりゃあ当然よ。私はあなたが消滅する直前まで一緒にいたもの。『また会える』なんて言っていたのに、それも忘れちゃったのかしら?
そんな約束のようなことも言ったかもしれないが……すまない、まだ思い出せそうにない。
ただ、お陰で別のことを思い出した。俺には大切なものがあった。心の底から守りたいと、見守っていたいと思うものがあったんだ。
――たぶん、それは皆無事よ。あなたのおかげでね。でも……あなたがいなくて悲しんでいる人もいるわ。
そう、か。無事なら良かったが……悲しませているのか、それは残念だ。お前も、悲しいのか……?
――当たり前じゃない。もうあなたと会えないのは……悲しいわ。だからこうして話をしているの。
私の話を聞いて、思い出すのよ。自分が何者であったのかを思い出すの。思い出せば思い出すほどに、近づいてくるはずだから。
(近づいてくる?)思い出す、か。…………。そうだ、俺には大切なものの他に、憧れがあった。
知識を得ることが好きだった。知識を使うための知恵を学ぶことが好きだった。
だが……もう今となっては知識も知恵も、何も覚えてはいない。俺が今まで知ったことや経験したことは、全て無駄になってしまったのだろうか。
――そうじゃないわ。あなたの頭脳が、私や他の艦娘を救ったのよ。こうして今話を出来ているのも、あなたのおかげ。
艦娘……救う……? そうか、雪風や響は無事なんだな……。知性……そう、知性に憧れたのは、兄さんが、繋兄さんがいたからだ。
そうだ、俺の目的は、小手先の知識なんかじゃない。もっと大きな知のために動いていたんだ。今ここで全て忘れてしまってもなお、俺は真理へと向かいたい。
そう……。この世界の全てを知り尽くすまで、まだ終われないんだった。まだ、やり残したことがあったんだ。
おかげで思い出した……礼を言うぞ、足柄。
――思い出すのが遅いのよ。『死ぬわけではない』なんて言ってたくせに一人で死にかけてて。もう少しで本気であなたと心中するところだったわ。
思い出せなかったのは謝るが、意地の悪い冗談はよしてくれ。アレはだなあ……言葉通り捉えるもんじゃないぞ。
――分かってるわ。にしても……ふふふっ。初めてあなたと会った時のことを思い出したら、今こんな風に話していることがおかしいわね。
そういえば俺が初めて会って話をした艦娘はお前だったな。他のやつとも書類でのやり取りをしていたことはあったが……ああも強烈だとお前が一番印象深い。
最初に会ったのが足柄で、最後に別れたのも足柄だった……こういうやつを因縁、というのだろうか。
――運命、とかもうちょっとマシな言い方は無いのかしら。さて、もうお別れの時間だわ。私がやれることはこれでお終い。あとはあなたの意志次第。
視界が開けてきた。自分の目の前に、赤い糸が伸びている。さしずめ俺は蜘蛛の糸を差し伸べられたカンダタというところなのだろうか。
糸の先を掴んで引いてみる。ミシンのボビンのようにぐるぐると糸が俺の身体に絡みついていく。
663 :
【ED-4】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/23(土) 12:53:10.38 ID:xlyHE8aw0
足柄「おはよう。目は覚めたかしら?」
提督「ん……」
雪風「しれーっ!!」
ムギュと雪風が抱きついてくる。しかし様子がおかしい。明らかにでかいのだ、物理的に。
これは雪風が成長したとかそういうことではない……俺の身体が、縮んでいる!?
皐月「良かったぁ……本当に、良かった……」
皐月が涙を流しているのだが、この状況を理解することが出来ず、俺は疑問を口にせずにはいられなかった。
提督「お、おい……どういうことだこれは……説明してくれ」
提督(声が……高い! 気持ち悪いなぁ!? 子供になってしまっている!?)
響「まあまあ……こっちは随分待たされたんだ。少しぐらい再会の余韻に浸らせてくれてもいいだろう」
すりすりと頬をこすりつけてくる響。分かった……しばらくの間説明は諦めることにする。この状況を受け入れるしかないということだけは理解した。
・・・・
提督「!?!?!?!? 何を言っているんだ!? 頭がイカれているのか!? それとも俺がイカれているのか!?」
磯風「いや、彼女の話は事実だ。データに変換された君は、繋と同様に打ち捨てられた人工衛星を介してこの火星に辿り着いた。
そこまでは良かったのだが……。存在全てが電脳空間で生み出された繋と違って君は人間だ。記憶の情報や知識の情報は保存することが出来ても、肉体と魂がなかった」
繋「かつての君の肉体は……死んだ回数分魂を複製しているものと思ったが、どうにも違うらしい。数個の魂でローテーションし、死ぬたびに循環していたようだ。
というより、一つの魂を複数個に分割していたという方が近いかな。けれど、君の肉体が完全に消失してそれぞれの魂は本当に離散してしまった。
こうしてこのように君を再び蘇らせるためには、純粋な記憶だけじゃなく魂の記憶も必要だった」
繋「その、君の記憶をプライバシーの侵害にならない程度に読ませてもらったんだけれど。そう、地球上に存在する物質全てが地球の重力に導かれているのに近い。
そこの足柄さんが、最も君の魂を引き寄せやすい波長を持っていた。彼女は、行き場をなくして消滅しつつあった君の魂を自分のもとへ強引に手繰り寄せた」
足柄「そういうことよ。私に感謝なさい?」
提督「待て、精神や知識をデータに出力しただけでは足りなかったということは理解した。足柄が俺の魂を引き寄せたということも理解し難いが納得することにする。
だがこの俺の身体は一体どうしたんだ? 産んだって……どういうことだ?」
足柄「そのままの意味だけど? 写真が見たいのかしら。全部バッチリ撮ってあるわよ」
雪風「しれぇの赤ちゃんの頃、すっごく可愛かったんですよ〜。今も可愛いですけどね!」
磯風「少しも泣かないから呼吸させるのに大変だったんだぞ」
提督「冗談だろ……誰か嘘だと言ってくれ……。そんなことが出来るはずがない」
ヲ級「いいや、この足柄という艦娘にはそれが出来た。恐ろしいことに彼女は私が数千年の時間をかけて体得した力の片鱗を身につけてしまった。
魂の記憶をもとに君の肉体を胎内で再構築していったのだ。壮絶な意志の炎を燃やさなければ出来ないようなことだが……彼女はやりおおせた」
提督「いや、いや、いや、いや……分からない……。とにかくこうしてお前たちと再会を果たせたのは、喜ばしいことだ。心から嬉しいと思う。
それはそうなのではあるが……。う、嘘だろう……こいつが……母親? 足柄、が……? ダメだ……脳が理解を拒んでいる……」
足柄「受け止めるのは難しいでしょうから、無理に考えなくてもいいわよ。最後に必要だったのはあなたの生きたいという意志だった。
だから……またこうして会えて、良かったわ。また生きようと思ってくれて、良かったわ」
・・・・
皐月「しれーかーん! 遊ぼっ! ポーカーはどうかな」グイグイ
文月「ダメだよぉ、司令官はこれから文月とクリオネの鑑賞会が予定があるんだからー」グイーッ
提督「おい、俺の手で綱引きするのはやめろ……。(駆逐艦の連中といると身が持たんな……)」
金剛「HEY! 提督ゥー! ちょっとこれについて聞きたいことがあるんですケド〜」
提督「あぁ、例の件か。それはだな……ああっ、ちょっ……お前ら、腕が千切れる……!」
ヲ級曰く、この身体は数週間でもとの俺の体形に戻るらしい。それまではこの子供の姿で過ごさないとならないわけだが……。
この金剛のように、俺がかつて提督だった頃と同様の関係を続けている者が多いが、
見た目のせいでこのようにしばしば皐月らの遊び相手という名の玩具にされなければならなくなったのである。それもまた楽しいのではあるが。
皐月「例の件?」
提督「肉の味がする作物を作っているのだよ。まだ試作段階だが……結構イイところまで来ている。
今はまだ平和かもしれないが、俺たちがこうしてこの星で暮らしていけば、やがては地球に居た頃と同じ問題に直面することになる」
皐月「司令官はやっぱり司令官だなあ。そんな先まで見通しているなんて……。でも! それはそれ、これはこれ。今はボクたちを遊ぶのが先約だからね!」
金剛「モテモテですネー? テートクゥ? じゃ、またあとで呼びに来ますネ〜♪」
提督「お、おい……待て! 金剛……俺を見捨てるのか!? く、くそぅ……分かった二人とも。ポーカーもクリオネも承った! まず引っ張るのをやめろ」
皐月「ふふ、やったね。じゃあボクが先だ!」
664 :
【ED-5】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/23(土) 13:14:41.33 ID:xlyHE8aw0
磯風「ご苦労だったな。なかなか君も大変だな……」
提督「ああ。ドックの建設は順調か? ヲ級や泊地水鬼みたいな生き残りは例外として、深海棲艦と戦う必要はないから工廠は必要ない。
だが……お前たち艦娘は定期的に艤装のメンテナンスを行ってやらなければならないからな。
それだけで半永久的に生き続けることが出来るというのは俺のような人間からすれば羨ましい話だが」
響「ドックの方なら順調さ。ところで司令官にはもう再生能力が無いんだったね。じゃあいつかは……」
提督「時が来れば……いずれはな。だから、この身体の寿命が来る前に、今度は本当に俺の全てを電脳空間上に出力する術を考えないとな。
お前たちだけ生きているのに、俺だけは先に死んでしまうなんて不平等だからな。まだ俺にはやりたいことがたくさんある」
響「“真理の箱庭”、か。この世の全てを再現して全知へと至ろうだなんて……全く大した御仁だよ。畏れ入る」
提督「そうだな。それもあるが……今は。お前たちの成長を見守っていたい。肉体的な成長じゃなく……お前たち艦娘の、魂の煌きに惹かれている」
響「そうかい。お、雪風……気が利くね」
雪風から手渡されたウォッカの瓶をラッパ飲みする響。提督にはオレンジジュースの入ったコップが渡される。
暁「あら、司令官はいつもコーヒーを飲んでいたと思ったけれど……」
提督「ああ。残念なことに、味覚まで子供のそれになってしまっているのだよ……トホホ」
雪風「でも、今の司令……なんだか弟みたいで面白いです」
提督「お、弟だと……。この状態でも辛うじてお前よりは背が高いのにも関わらず、弟と申すか……」
響「大差ないんじゃないか。艤装の差で雪風の方が少し高いぐらいだから、ほぼ同じだろう」
泊地水鬼「ショゲナイノ……提督……」 膝を折り畳んで提督の目線までしゃがむ
提督「気遣っているふりして遠回しにバカにするとは、やはり深海棲艦とは人類の敵だな。
そうやってわざと俺の目線に合わせて頭を撫でて……完全に子供のお守りではないか……!」
・・・・
天城「やっぱり人が集まったら鍋が一番ですね〜」
飛龍「空母戦もお鍋も先手必勝! このお肉は私がもらいます!」
蒼龍「ちょっと! 後輩がいる手前でがっつかないでよ、みっともないったらぁ」
雲龍「」ゴッ バキャアッ
葛城「ああっ!? どうしてそんなに卵を割るのが絶望的に下手なのよ! 私拭くもの取ってくるわ!」
瑞鶴「提督さん、お肉ほとんど食べないで野菜ばっかり食べてるけど、平気なんですか?」
提督「いや、俺はこれでいいのだ。……やはり概ね実験は成功といったところか。食べ比べてみて、食肉と遜色ないということが分かる……」
翔鶴「提督、お豆腐がいい塩梅ですよ。どうぞ」
熱々の豆腐を箸で掴んで提督の口にそのままねじ込む翔鶴。
提督「お゛ぉッ!? あ゛っ、あひゅ……。おま、お前……あ゛っつ……あひゃぎ、赤城……水をくれ……」
赤城「ああっ、いけないわ! 提督……お水です。しっかり」
翔鶴「あら、ごめんなさい。ちょっと熱すぎましたね」
加賀「翔鶴あなた……。戦闘のことは一通り教えたつもりだったけれど、その前にまず常識を教えておくべきだったわね……」
提督「翔鶴……お前の殺意、しかと受け止めた……大したやつだよ」
翔鶴「えっ、加賀さん? 提督? ……お豆腐が美味しそうだったから食べてもらいたくて、それだけなんですって! あっ、やめっ、熱ッ!!」
・・・・
朝霜「えーっ!? まーたバイオカツかよ! たまにゃあ普通の肉がいいんだけどなー」
清霜「味はおんなじなんだけどね。やっぱり私たちカツ評論家からするとバイオカツはまだまだって感じかな」
提督「あのなぁ……バイオカツとかいう呼び方はやめろ。食い気が失せるだろう。しかし、ここの連中は本当にカツが好きだな……」
霞「あら、あなたもこのヴェアヴォルフの一門なのだからカツの舌利きぐらい出来るようになってもらわないとダメよ」
提督「いつから一門に加えられたんだよ……」
足柄「私たちは常に勝ちに貪欲なのよ! いついかなる時でも戦いに勝つ! ってね」
大淀「でも、今日のカツはなんだか優しい味ですね。美味しいです」
足柄「ふふふ……いつもの二倍増しで愛情込めて作ったから当然よ」
提督(俺はまだこいつらの領域についていけそうにない……)
665 :
【ED-6】
◆Fy7e1QFAIM
[saga]:2016/01/23(土) 13:17:51.26 ID:xlyHE8aw0
かつての鎮守府を模した建物の屋上に提督は立っていた。一仕事終えた疲れを癒すため休憩していると、足柄がやってきた。空は夕焼けに包まれていた。
提督「本当に数週間したらもとに戻ったな。あのまま一生子供だったらどうしようかと肝を冷やしたが……」
足柄「それでも良かったんじゃないかしら。あれはあれで可愛げがあってよかったわよ」
提督「俺が良くないのだよ。……しかし、世話を焼かせたな。相当苦労したと聞いたよ。
本当に、こうしてお前たちと再会できたのは幸運に思っている。お前にも、感謝してもしきれないぐらい感謝している……」
提督「何か、そう、……礼を返したい。望みはあるか? なんでも叶えてやる」
足柄「いいのよ。私がそうしたかったから、あなたに会いたいと思ったからやったことだから、恩なんて感じなくていいわ」
提督「別に俺も恩情を感じて、それに報いるために礼を返したいと言っているわけではない。
そんな義務感じゃなく、……俺がしたいからさせてくれと言っているのだ」
足柄「そう。じゃあ……」
パンッ!
両手を叩くと、彼女の掌が光り輝く。光が収まると、彼女の手の中には銀の指輪が二つ。
足柄「これ、受け取ってもらえるかしら。……い、一応確認しておくけど。意味は分かるわよね?」
目を丸くしている提督。
提督「意味は分かる。分かるが……それより気になることがある。手品か、これは……? いや、違う……」
足柄「あのヲ級がやっていたような大掛かりなことは出来ないけれど……このぐらいなら容易いわ。
これも、あなたが居たから気づくことのできた、私の能力……」
足柄「もっとも、ヲ級のとも厳密には違うらしいけれど。あいつは燃料や鋼材といった資源を消費する必要がある。
けれど私にはその必要もない。よりエコというわけね。その分、強い感情を必要とするけれど」
足柄「こ、これで、分かるわよね……? あなたへ、これを渡したいと思ったから成功したのよ!?」
指輪を手に取り、自分の指ではなく足柄の薬指に嵌める提督。
足柄「えっ? あなたが嵌めるんじゃないの?」
提督「いや、何も間違っていないと思うのだが……お前の申し出を受け入れるという意味で、こうしたつもりなのだが」
微妙な沈黙が流れたあと、提督が顔を赤らめて言葉を発する。
提督「ン……いわゆるカッコカリなのか? そうか、だったら交換なんてしなくていいのか。俺が自分で嵌めて、お前も自分で嵌めればよかったのか」
足柄「んにゃ……!? あ、いや、そうじゃないです! そこまで本気なんですよね! ほ、ほら、えいっ」
気まずい空気を強引に押し込めるように提督の薬指に指輪を嵌める。
二人の左手の薬指に、おそろいの銀の指輪が淡く輝いている。
足柄「じゃ……じゃあ……。続き、よね……」
提督「儀礼的にはそうなるな」
足柄「ま、待ってね! ちょっと心の準備が……スー、ハー! スゥー……ハァー」
提督「俺も心の準備というか、確認したい。どうして俺なんだ? 俺で良かったのか……?」
足柄「え……指輪まで渡しておいて、今更そんなことを聞くの? あなた以外いるわけないじゃない」
足柄「私の力をこんなに引き出せるのも、私が……結ばれたいと思うのも……あなた以外、いるわけないじゃない。
そうでなかったら、こんなことしていないわ」
足柄「あなたのことを、心の底から愛しく思うわ。あなたのことが誰よりも素敵に見える。……惚れたのよ」
提督「そう、か。……いや。そうか」
頬を紅潮させ目を潤ませている足柄。不意に抱き締められて、唇を塞がれる。
提督「はっはっ……こういうのは普通、俺の側から言うべきだったな。言わせてすまない。少し不安だった……生まれて初めて、緊張をしていた」
提督「俺も……お前に惚れている。お前のことを、もっと知りたいと思う。こんな気持ちにさせてくれたのは……お前だけだ」
強く抱き締めあうことで、お互いの身体の震えが収まっていく。二つだった影は沈みゆく夕焼けの中で一つの大きな影へと姿を変わっていく。
提督「さて! お楽しみはこれからだ、な……俺にはまだまだやるべきことがある! こんなに嬉しいことはない。お前と共にいられるなら、なおさらだ」
足柄「お楽しみってつまり……このあとの夜のこと?」
提督「下世話なやつだな……断じてそういう意味ではないからな! 行くぞ足柄。ほら、下から雪風たちが見ているぞ。祝福されてるんだ、行ってやらないとな」
足柄「見られてたの!? 急に恥ずかしくなってきたわ。でも……こうなったら開き直って見せつけてやるしかないわね! これからよろしく! 旦那様」
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