1: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/07/07(土) 15:40:53.50 ID:LgMjPCNT0
【序幕 破顔】
その微笑みは狂気を孕んでいた。
人が浮かべて見せる表情のうちで、最も恐ろしいのは笑顔だと聞いた覚えがある。
そんな事をふと思い出してしまうぐらいには、だ。
画面の中に映る少女は、デジタルデータで記録されていたその少女は、私の心を怯えさせて、
思わず羽織っていた毛布に指をかけさせる程には見る者を圧倒したのだった。
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2: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:45:01.94 ID:LgMjPCNT0
自室の机で眺めてた、ノートパソコンの中で笑う少女。
けれど「きゃーっ、きゃっきゃっきゃっきゃっ」だとか
「ひぇー、ひぇっひぇっひぇっひぇっ」なんてわざとらしい演技はセットじゃない。
3: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:46:30.04 ID:LgMjPCNT0
『ご覧、ボクの言った通りだったじゃないか』と、
金物を鳴らした男装の麗人は用意されていた台詞を吐いた。
私は思い出したように手元の台本を確認すると、その台詞部分を指でなぞる。
4: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:48:37.73 ID:LgMjPCNT0
『ええ、そう、掘るんですよ』
だけど、たった一人にとっては違っていた。
5: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:50:02.87 ID:LgMjPCNT0
【一幕 いきさつ#1】
芸能事務所、765プロダクション所属アイドル候補生高山紗代子。
それが十七の私が持つ肩書き。
6: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:51:32.66 ID:LgMjPCNT0
だけど私は、すぐに自らの実力不足を痛感する羽目になってしまう。
受けるオーディションの結果は連戦連敗。
元々容姿に自信があるワケでも、特別ダンスや歌が得意でもない。
7: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:53:47.67 ID:LgMjPCNT0
……さて、そんな『39プロジェクト』オーディションとの出会いを経たことで、
私は晴れて765プロライブ劇場の一員となった。
何度もの不合格を経験した末に、
8: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:55:22.49 ID:LgMjPCNT0
だけどプロデューサーは、問いかけるような視線を浴びせる私達一同の顔を見回すと。
「いや、本格的なデビューはもうしばらく先の話になる。
難しく考えることじゃないさ。これはまぁ、レッスンの次のステップだよ」
9: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:56:42.93 ID:LgMjPCNT0
【一幕 いきさつ#2】
とはいえプロデューサーの言った通り、
その不安や恐れを払拭するために用意されたのが劇場と言う名の舞台だった。
10: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:58:53.77 ID:LgMjPCNT0
「大事なのは舞台に立ったって経験なの」と、
メンバーの中では唯一本格的な演劇経験を持つ琴葉さんは言う。
――彼女は高校で演劇部所属なのだ。
11: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:00:52.42 ID:LgMjPCNT0
実際、隣に座るエレナちゃんなんかはいまいち理解してないようで。
「つまり当たって砕けろチャレンジの、チリも積もって大和晴れだネ!」
12: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:02:54.62 ID:LgMjPCNT0
「そういえば、紗代子はどう?」
「えっ」
13: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:04:42.31 ID:LgMjPCNT0
「――不安はあまり感じてません。
だって、この五人が力を合わせれば、壊せない壁なんて無いと思いますから!」
私は震える指を握り拳。自分には武者震いだって言い聞かせて、
14: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:06:31.25 ID:LgMjPCNT0
===
だけどそうして、私たちの実習チームは着実に経験を重ねて行った。
初めこそ勝手が分からないから手間取ることもあったけれど、
15: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:09:54.56 ID:LgMjPCNT0
【一幕 いきさつ#3】
さて、そんな風に私たちのチームが少しは物になった頃だ。
五人はいつかのようにプロデューサーに呼び出されてレッスンルームに揃っていた。
16: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:11:39.03 ID:LgMjPCNT0
「こちら、劇団唐変木の木無塚さん。君たちの演技レッスンを
何度か指導しているから見知っているとは思うけども、今日は大切な話があって来てもらった」
「どうも、無理やり叩き起こされてきた休日出勤の木無塚です。
17: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:13:00.77 ID:LgMjPCNT0
本を手にした木無塚さんが言う。
「これは昔、まだ765に劇場なんて無かった頃に書いた話でね。
主演はこの山師が売り出そうとしてた男嫌いのお嬢さん――」
18: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:14:09.81 ID:LgMjPCNT0
「あてがきですか〜? お手紙を出すときに書いておく、相手の住所と名前のことですよ〜」
難なく答えているけども、先の文脈から察するに、
今話してるあてがきとは全く別の物だろうな。
19: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:15:50.30 ID:LgMjPCNT0
「塚さん、塚さん。アナタ、褒められてるんじゃなくて気味悪がられてるんですよ」
「なにっ!? どうしてそんな反応をされなきゃならんのだ。
こっちはね、今回の直しの為に五人のプロフィールから何から読み返してイメージを膨らませたってのに」
20: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:17:28.18 ID:LgMjPCNT0
「……少し見苦しいところをお見せしたね。それで、先ほどの質問を答えようか」
仕切り直すような咳払いを一つ。
身の置き所を探すような口ぶりで木無塚さんは断ると、改めて私たち五人と向き合った。
21: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:18:35.42 ID:LgMjPCNT0
【二幕 壁を掘る人#1】
どうして私が? そう思った。
琴葉さんじゃないの? とも思った。
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