4: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 15:48:37.73 ID:LgMjPCNT0
『ええ、そう、掘るんですよ』
だけど、たった一人にとっては違っていた。
このお話の主役である彼女は、率先して壁に穴を掘り続けていた少女はウットリと、
まるで恋をしているかのようにその頬を緩めて周囲へと笑いかけたのだ。
『だって、壁はまだそこにあるんだから』
「だって、壁はまだそこにあるんだから……かぁ」
思わずふぅっと息を吐いた。
重ねた台詞は全く別の物に聞こえた。
舞台に送られる拍手がまばらに響き、長い出し物が終わったことを私に告げる――
そんな中で、最低限このレベルの演技が求められているという事実を再確認して肩が重い。
「雪歩ちゃんってば、普段と違い過ぎるって」
ついそんなことを漏らしてしまったけども、
きっと他に誰もいない部屋じゃ少しぐらいの泣き言は許されるよ。
……私はプレイヤーの再生を停止すると、パソコンの電源を落として椅子からベッドに移動する。
そうして枕に乗せた頭で考えるのは、どうしてこの役が自分に回ってきたのかという、
今更どうにもできない自らの境遇についてだった。
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