雨が降ればいいのに
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1:名無しNIPPER[saga]
2018/06/04(月) 22:32:21.67 ID:zAvML4irO
雨の日は君に会えるから好きだった。

最初は偶然。
中二の梅雨のことだった。夕立に打たれた俺は、帰り道にある神社に駆け込んだ。
そこには先客がいて、雨に濡れてしまったせいか、彼女の制服は濡れてしまっていた。
薄暗い時間とはいえ、下着が透けて見えそうなのにガキながら見ちゃいけないと思ったのか、視線は終始逸らしていた。今思うと、惜しいことをしたものだ。
なんとなく気まずいけど無言なのも辛くて、俺は彼女の方を向くことなく、自己紹介を交わした。彼女は俺を藤くんと呼び、俺は彼女を悠里さんと呼んだ。
少し大人びた話し方をする彼女は終始敬語で話しかけてきて、それにつられて俺もそういう話し方をした。
ガキのくせに、子どもっぽくは見られたくなかったんだと思う。
「藤くんは、南中の生徒ですか?」
その問いかけを耳にして、先程一瞬だけ見た彼女の制服がうちの学校のものではないことに気がついた。他校の、それも女子生徒と話す機会なんて今までに全くなくて、それがより一層、俺を緊張させる原因になった。
「悠里さんは?」と問い返す事でもできたら話を広げることができたんだろうけど、そんな社交性は生憎持ち合わせていなかった。おかげで俺は、自分のことは幾らか話すことができたが、彼女のことを知ることはほとんどできなかった。
ただ彼女の問いかけに相槌を打つか、そうなんですね、と感嘆することしかできなかった。

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2:名無しNIPPER[saga]
2018/06/04(月) 22:33:24.01 ID:zAvML4irO
二回目は故意だった。
最初の日から数日が経ち、今度は雨降りで部活が中止になった日のことだった。
以前より早い時間、それに朝から雨の日だ。まさか彼女はいるまいという気持ちと、いてほしいという気持ちが入り乱れていた。
それを例えるなら、ファンタジーに憧れる子どもの気持ちというか。
彼女と知り合ったシチュエーションが、漫画の世界の出来事のような気がして、浮かれていたのかもしれない。現実に魔法使いも天使も悪魔も神様もいなくても、どこかで自分が主人公になれる物語を探していた。こういうのを厨二病って言うのかな。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[saga]
2018/06/04(月) 22:34:59.45 ID:zAvML4irO
その言葉の真意を聞けるほどの勇気は俺にはなかった。
ただ、ロクに会話もできなかった前回で呆れられることなく、再び会うことができたということが嬉しくてたまらなかった。
この出会いを運命と呼んでいいのであれば、俺はなんと幸運な星の下に生まれてきたんだろう。
「藤くんは、部活帰りですか?」
「あ、いえ、今日は雨でお休みでした。悠里さんは何かやってるんですか?」
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[saga]
2018/06/04(月) 22:36:14.09 ID:zAvML4irO
出会ってから一ヶ月ほどで、彼女は私服で神社に来るようになった。
梅雨も明けてしまい、毎日のように会っていた悠里さんとも週一回、会うか会わないかくらいになった頃だ。ちょうど夏休みの始まる時期だったし、学校もないのにわざわざ出てきてくれているんだろうか。
曰く、「藤くんと会うためにおめかししてるんだよ」とのこと。そんなことを彼女に言われて喜ばない男はいないだろう。
毎度毎度ジャージ姿なのが恥ずかしくなったけど、私服を着た方が彼女の美貌との釣り合わなさを痛感させられそうな気がして、俺は部活で揃えたジャージを着続けた。
その期間の話も特別面白いことはない、今日の部活はこうだった、だとか、悠里さんは夏休みに特に予定はない、だとか。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[sage saga]
2018/06/04(月) 23:05:59.28 ID:mZD3qGYf0
いちいち描写がいいね
一行空けた方がいいかも?
オリかな?


6:名無しNIPPER[saga]
2018/06/04(月) 23:44:42.12 ID:zAvML4irO
>>5
了解です、ご指摘ありがとうございます。
オリジナル作品です。


7:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 00:28:35.45 ID:lfpzaq0oO
「ちょっと、考えさせてもらってもいいですか?」

その言葉だけで、俺の頭はいっぱいになった。

考えるってことは、花火大会に行くような決まった相手はいないということだろう。少なくとも、俺がスタート地点に立ててすらいないというわけではないんじゃないか。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 00:29:09.40 ID:lfpzaq0oO
「浴衣、似合ってますね」

初めて会った頃ではとても口にできなかったような言葉も、どうにか伝えることができた。少しは成長したのかもしれない。

ありがとう、と返されて、彼女は炭酸ジュースを手渡してくれた。
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 00:29:47.85 ID:lfpzaq0oO
これ以上踏み込んでいいのか、踏み込むべきでないのか。

その冷静な判断が、俺は出来なかった。いや、したくなかったと言うべきかもしれない。落ち着こうとすれば落ち着こうとするほど、今を逃せば彼女と近づける機会が無くなる気がした。

吊り橋効果ではないけれど、雰囲気に乗せてしまえば彼女も勘違いしてくれるんじゃないかと、そう思っていた。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 00:58:48.03 ID:lfpzaq0oO
花火大会が終わってからも、俺たちの関係は変わらなかった。

相変わらず雨の日になれば神社に集まり、そうでなければ変わらぬ日常を過ごす。

あの花火大会が夢だったんじゃないかってくらい、何も変わらなかった。数少ない変化といえば、悠里さんは9月になっても私服で神社に来るようになった。
以下略 AAS



11:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 01:00:08.19 ID:lfpzaq0oO
その場で即答することができなかったのは、悠里さんと俺の不安定な関係のせいだった。

もし俺が悠里さんに既にフラれているのであれば、キッパリ断ち切って諦めようと思った。そして彼女、珠理ちゃんと新しく青春すれば良い。

けれど、告白された時点ではどうにもそうは思えなかった。せめてもう一度、悠里さんに会わねばと思った。
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[sage]
2018/06/05(火) 01:00:35.07 ID:lfpzaq0oO
今晩はここまでの更新です。


13:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 12:47:11.35 ID:lfpzaq0oO
所詮おりでは無理だったかという諦念と、その表情が何を意味するかわからない戸惑いで、俺は何も言い返せなかった。

ただ、失恋をしたという痛みだけが俺の胸を責めた。人生で初めて感じる痛みだった。

どんな子なんですか、とか。藤くんはかっこよくなったから、とか。
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 12:58:40.47 ID:lfpzaq0oO
翌日、俺は珠理ちゃんに告白の了承を伝えた。特に感慨はなかったけれど、悠里さんのことを気にしなければ断る理由もない。

彼女がいる生活、っていうものがどんなものかと思いはしたけど、特に大きな変化はなかった。ただ、雨の日になっても神社に行かなくなっただけだ。

部活が休みになると、俺は珠理ちゃんtp並んで歩いた。繋いだ手からは何も感じることはなかったけど、こういう落ち着いた気持ちが幸せだと言われたら、そんな気もしてしまう。
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[sage saga]
2018/06/05(火) 22:08:11.59 ID:994S4Ppm0
>>5です
見やすくなってますな
頑張って


16:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 22:54:32.84 ID:lfpzaq0oO
そうやって斜に構えた中学三年の一年を挟み、高校生になる頃には、もう背伸びなんてしなくなっていた。

俺には俺に見合った程度の幸せがあって、それがきっと現状なのだろう。

同じ学校に進学した彼女に不満はないし、将来に対して漠然とした不安はあっても具体的な不足も特に無い。それはつまり、幸せってことだろう?
以下略 AAS



17:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 23:03:43.91 ID:lfpzaq0oO
うちの学校のサッカー部は、三年が引退するまでは一年はなかなかボールを触らせてもらえない。

先輩たちの練習中は基本的にフットワーク系のトレーニングがメインで、グラウンドが空いてる時間だけボールを触らせてもらえる。さして強くもない学校なのに、そういうところはきっちり縦社会だった。

多くはない一年生の中で、高橋と俺は頭一つ抜けた存在だった。二人とも、中学時代に市の選抜チームで知り合い、元々顔見知りでもあった。
以下略 AAS



18:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 23:10:22.88 ID:lfpzaq0oO
俺たちは二人とも、そのまま上級生チームに正式に加えられ、気がつけば大会のメンバーにも登録されていた。何人かの先輩方を蹴落としての選出に申し訳なさもあったけど、これが俺の能力に見合った評価だというのなら受け入れよう。

「藤、今年から勝ちに行くぜ」

メンバー発表の日の帰り道、高橋からそう声をかけられた。
以下略 AAS



19:名無しNIPPER[saga]
2018/06/05(火) 23:15:49.81 ID:lfpzaq0oO
いざ大会が始まると、高橋の目論見通りと言うべきか、うちの学校は快進撃を続けた。

高橋に巻き込まれて、中二の夏以来の自主練に取り組んだおかげか、これまでより体がキレている。

俺たち二人は一年ながらもスタメンで試合に出続け、時にはゴールを決め、アシストをした。
以下略 AAS



20:名無しNIPPER[saga]
2018/06/06(水) 01:48:21.31 ID:7tzj79fiO
「藤くん、サッカー上手いんだって?」

と声をかけられる機会も増えた。少しスクールカーストで上位に上がったおかげか、サッカー部でない先輩にも少しずつ覚えられてきた。

けれど、そういうのは所詮一時的なものだ。勘違いをするようなことはしなかったし、高橋も告白を断り続けていた。どのみち、大会で負けてしまえばそういうこともなくなるだろう。
以下略 AAS



21:名無しNIPPER[saga]
2018/06/06(水) 02:00:23.54 ID:7tzj79fiO
誰かに弱音を吐きたかった。聞いて欲しかった。

でも、こんなことを言える相手は他にはいない。高橋は一生懸命頑張っているし、評価されることがモチベーションになっている。

あいつに「期待されるのが辛い」なんて言っても、きっと分かってはもらえないだろう。
以下略 AAS



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