1:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:08:50.51 ID:3iKMEwHU0
・ミリマスの横山奈緒と北沢志保メインのSSです。
・10年後くらいのお話で、2人がコタツを囲んでお酒を飲んだりします。
・志保ハッピーバースデー!
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:10:45.46 ID:3iKMEwHU0
奈緒さんの背中をさすっているときだった。
「昔を思い出すなぁ」
しみじみとした声。なにがですか、と聞き返すも、返答は便器への盛大な嘔吐。冬の静かな夜、吐瀉物をぶちまける音がトイレに響く。
3:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:11:18.13 ID:3iKMEwHU0
「飲み過ぎなんですよ」
「久し振りに会うたんやから、飲むやろ。そして、多少は、飲み過ぎるやろ」
「まぁ、気持ちはわかりますけどね……」
何故なら、私も同じだったから。お酒は割と好きなのだ。
4:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:12:52.65 ID:3iKMEwHU0
ただ、奈緒さんがお酒に弱いのは、ちょっと意外だった。
いや、ひょっとすると平均的くらいなのかもしれないけれど、序盤から軽快に飛ばすものだから安心していつも通りのペースで飲んでしまった。
私にも責任の一端はある。とはいえ、ついてきたのは自業自得、窘めるくらいはしておきたい。
「あんまり強くないんですから、自分の限界は弁えてくださいよ。酔いつぶれたりしちゃダメです。一応、女の子……女性なんですから」
5:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:13:36.39 ID:3iKMEwHU0
「はいはい、若いですよ。まだいけます」
奈緒さんの背中を撫でる。せやろか、とこちらをみて、またウッと口に掌を当てた。
私に向かって吐かれるのはご免被りたいので、頭を便座の方へ向けさせていただく。
オェェッと嘔吐。無言で水を流す。飲み過ぎだし、食べ過ぎなのだ。
6:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:14:14.57 ID:3iKMEwHU0
「あの頃は楽しかったなぁ」
懐かしむように奈緒さんが言う。
ぼんやりとした言葉は、きっと私と同じように昔を思い返しているんだろう。
7:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:15:03.48 ID:3iKMEwHU0
ペットボトルを渡すと、さき部屋いっといてええよ、と言われた。
眠り込むまではいかなそうだし、お言葉に甘える。ここ寒いし。
洗面所からダイニングを抜けて、奥の部屋へ。ワンルームではあるけれど、広めで住みやすそうだ。
思っていたより片付いていて、こざっぱりしている。
8:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:15:29.92 ID:3iKMEwHU0
コタツ布団を捲り、中を覗き込む。中央から伸びるコードを見つけた。
のろのろ四つん這いで回り込み、ぱちりとスイッチをいれる。
すぐには明るくならない。コートを脱いで、空いているスタンドにかけさせてもらった。
さむいさむい、と広い面からコタツに入り、足を伸ばした。
9:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:16:13.18 ID:3iKMEwHU0
「お、電源わかった?」
奈緒さんがペットボトルの水を飲みながら、向かいに潜り込む。顔色は大分良くなっていた。
さっむいなぁ、と言いながら、中で私の足にぶつかってくる。
余裕が出てきた証拠だろう。無視して足を引っ込める。
10:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:16:40.53 ID:3iKMEwHU0
「あっ、そや、エミリーといえば……」
奈緒さんがだらしない姿勢でリモコンへ手を伸ばす。
ぴっと音を立てて、壁掛けテレビの電源が点いた。何度かザッピングして、目当ての番組に辿り着く。
11:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:17:12.30 ID:3iKMEwHU0
二人でしばし、コーナーが終わるまでぼうっと眺めた。
出来上がったお皿が焼き上がるのは来週らしい。きっと素敵なものに仕上がっているだろう。
「癒されるなぁ。エミリーはめっちゃ変わったけどなにも変わっとらんわ」
12:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:17:38.75 ID:3iKMEwHU0
奈緒さんはポツポツと指折りしながら、誰々はやめて、誰々はこんな仕事、と繰り返す。
思っていたよりもこの手の仕事をやめてしまった人もいた。
10年経っているのだから、当たり前かもしれない。
指折り数えていた奈緒さんは、むむっと眉を寄せる。突然、両手をあわせてぱちんと鳴らした。
13:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:18:20.85 ID:3iKMEwHU0
「うわはは、衣装、赤っ! めっちゃアイドルしとるやん!」
私達のはじめての単独ライブ――『HAPPY PERFORM@NCE』だ。
場所は中野サンプラザ。今はもうない。
偶々通りかかった時に建設中のフェンスがあって、改装でもしてるのかな、と思っていたら、気づいたときには全然違う建物になっていたのだ。
14:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:19:16.75 ID:3iKMEwHU0
「奈緒さんこそ、ふとももをあんなに露わにして……」
「やばいよなぁ。今やったら大根が2本生えてるからつまみ出されるで」
「……30越えると痩せるのも大変だと聞きますけど。そろそろ対策しておいた方がいいのでは」
「ま、まだ大丈夫、あと2年あるから!
っていうか私の話はええからテレビの方を……うわー、やめてぇ! 横山奈緒をアップにせんといてぇ!」
15:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:20:18.56 ID:3iKMEwHU0
それからも節々で盛り上がったり、悲鳴をあげたり、賑やかな時間が続く。
何度目かのMCが入り、落ち着いた。奈緒さんが渇いた笑いを漏らす。
「いやぁ、それにしても、凄まじいな……自分でみよう言い出したけども、ここまでとは思わんかったで」
「同感です。稽古より疲れましたよ……」
16:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:20:47.71 ID:3iKMEwHU0
ディスクを入れ替え、MCが続く。話題にあがった静香のサプライズ登場が始まっていた。
過労で出演が見送られると発表されたのだけど、這ってでも出るって聞かなかったもんな。
……静香とは色々と衝突してやりあったなぁ、なんて思い出す。
今でなら、お互い子どもだったんだろうな、なんて総括出来ちゃうけれど、そんな答えが通じるような年齢でも気性でもないし。
17:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:21:13.78 ID:3iKMEwHU0
「――いいえ、今まで一度も。奈緒さんがはじめてです」
携帯の番号やメールアドレス、住む家もすべて変えた。
765プロの誰かと会うのは、本当に久し振りのことだった。
18:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:21:52.76 ID:3iKMEwHU0
「カッとなってすまんな。少なくともこっち側はしとらん。プロデューサーさんもビリケンさんに誓ってたし」
「……それなら、こっちの事務所の方針かもしれませんね」
ありえる。私はそういうのに、一切口を出さないから。
ぺきりとプルタブの音。
19:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:22:22.99 ID:3iKMEwHU0
春が見えてきつつはあったけれど、まだ冬の色合いが濃い季節だった。
そうだ、ちょうど今頃だった。昼は偶に暖かい時があるけれど、夜はめっきり冷えるから、着るものに困る。
その日も散々迷って、暑い分には脱げばいいかとコートとマフラーをしていった。
いつもの電車に乗って、いつもの道を歩いて、あぁやっぱり暑かったなぁ、なんて少し後悔しながらコンビニに寄った。
20:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:22:48.48 ID:3iKMEwHU0
「あの頃765プロはアイドル事務所やったし、移籍の判断はおかしくなかったんやと思う。
……でも、あれを切っ掛けにか、所属しとる人の年齢があがったからかは知らんけど、
765プロもより広い方向へ舵を切った。それを待つわけには、いかんかったんか?」
それは外側からみていても、わかった。
21:名無しNIPPER[saga]
2018/01/18(木) 21:23:31.28 ID:3iKMEwHU0
「その後やな。『志保ちゃんのこと、あまり怒らないであげて』……そう言うたんや」
掌で抱えていた缶が、しんと冷たく感じた。
体はコタツでぽかぽかしているのに、指の先は冷たい。
私は缶から手を離して、コタツの中へそっと差し入れる。
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