1:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 00:58:42.04 ID:y2wSW8Jko
司会者さんが私の名前を呼ぶ。舞台袖でもはっきりと聞こえてくる歓声。
マイクを受け取る手は少しだけ震えていた。私はそれを包み隠すように両手でそっとマイクを持ち上げる。
「お〜っほっほっほ!」
高らかに笑いながらステージへと上がっていくと歓声は一段と大きくなった。熱気に一瞬飲み込まれかける。
けれど最前列で手を振る友人たちを見つけ、少し落ち着きを取り戻した。
観客に手を振りながら進んでいきステージの中央に到着した私は一度会場を見回した。
こんなにも大勢の人たちに応援されている。興奮が全身を電流となって駆け巡っていった。
呼吸を整える。よし、大丈夫。
「ふふっ。みなさま、応援ありがとうございます。
わたくし、二階堂千鶴は、セレブの名にかけて、ミスコンテストで優勝することを誓いますわ!」
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2:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:01:40.30 ID:y2wSW8Jko
いつからか、誰かが私のことをセレブと呼び始めた。
それは違う、そう答えることは簡単だったかもしれないけれど、私はそうしなかった。
誰もが憧れの目で私のことを見てくれた。それが私には嬉しかった。
3:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:07:55.89 ID:y2wSW8Jko
「みなさま、ありがとうございます! お〜っほっほっほ……ゴホッ、ケホッ!」
その後のアピールタイムでは私が必死に考えてきたセレブトークを披露した。
司会者さんの質問に何度かボロが出そうになったけど、どうにか答えきることができた。
4:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:09:41.68 ID:y2wSW8Jko
「優勝は……二階堂千鶴さんです!」
私の名前が呼ばれた。そう理解するまで少し時間がかかってしまった。
5:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:14:17.90 ID:y2wSW8Jko
それからしばらくして、私は友人たちと食堂で祝勝会を開いていた。
「ふぅ……。宣言通り優勝できて、一安心ですわね」
6:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:16:03.96 ID:y2wSW8Jko
「ゴホッ。あら、貴方は……?」
スーツの男性はがばっと頭を下げ、両手を突きだしてきた。いきなり現れて頭を下げられ、何がなんだかわからない。
もしかしてファンというものなのかしら。それともまさか、告白とか?
7:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:18:03.19 ID:y2wSW8Jko
「はい! どうか、うちの事務所の、アイドルになってもらえませんか?」
「お、お待ちくださいな。急にそんなこと言われましても……」
8:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:22:04.75 ID:y2wSW8Jko
「えっと、あの……。あ、アイドル……でしたか? それは一体、どんなことをするのでしょう?」
逸る気持ちを必死に抑え、私はそう聞いた。
9:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:23:16.13 ID:y2wSW8Jko
「セレブの中の……セレブ……!」
芸能人、人気アイドルになれば本当にセレブになることも夢ではない。
高級住宅街に住んで休みの日は海外旅行。食事も服も、最高級品をいつだって買うことができる。
10:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:25:31.30 ID:y2wSW8Jko
「ええ。この二階堂千鶴、喜んで引き受けさせていただきますわ!」
そう言うとプロデューサーの顔がぱぁっと明るくなり、もう一度深く頭を下げた。
11:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:26:59.19 ID:y2wSW8Jko
「えっと……二階堂さんが空いている日はありますか?」
「そうですわね……次の土曜日でしたらお昼から空いていますわよ」
12:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:30:59.21 ID:y2wSW8Jko
「はい。ここが二階堂さんの活動の拠点になる劇場です」
なかなか立派な建物の写真。劇場ということはここでライブとかを行なうのかしら。場所も家からそう遠くないし、問題なく通える範囲だ。
13:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:35:47.62 ID:y2wSW8Jko
それから友人たちとプロデューサーのことや765プロの話題で盛り上がり、しばらくして解散となった。
帰り道、電車に揺られている間も歩いている時もずっとアイドルとなった自分の姿を想像していたら、いつの間にか家の玄関まで辿り着いていた。
「ただいまー!」
14:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:38:36.37 ID:y2wSW8Jko
「ほ、本当か? お〜いっ母さん! 千鶴、優勝したって! 優勝!」
「ふふ、はいはい。そんな大声出さなくっても聞こえてますよ」
15:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:50:55.09 ID:y2wSW8Jko
「千鶴もカレー大盛りにする?」
「う、うん」
16:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 01:52:01.51 ID:y2wSW8Jko
「よし。だったら今日は優勝記念じゃなくて、千鶴がアイドルになった記念日だな!」
全てを話し終えたとき、お父さんは膝をパンと叩いてそう言った。
17:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 02:01:17.24 ID:y2wSW8Jko
「家のことなら心配するな。俺も母さんもいる」
「ふふ、お兄ちゃんのときもこんなことがありましたねぇ」
18:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 02:03:40.31 ID:y2wSW8Jko
「そ、それはちょっと難しい、かも。大学で私のことをセレブだと思っている人がいるって前に話したじゃない?
プロデューサーも私のことをセレブだと思ってるかもしれなくて」
少しだけ嘘をついているけど間違ったことは言っていない。それを聞いたお父さんはハッとした顔をして私を見る。
19:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 02:05:37.60 ID:y2wSW8Jko
「そう? でも大変だと思うわよ? 自分のことを隠してやっていくなんて」
「それは……大丈夫! 大学でもバレたことないんだから!」
20:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 02:07:25.37 ID:y2wSW8Jko
「ここが……765LIVETHEATER……」
時刻は三時三十分。家にいても落ち着かず予定よりずっと早く来てしまった。
21:名無しNIPPER[sage]
2017/10/21(土) 02:15:40.20 ID:y2wSW8Jko
「あっ……ああ!? プロデューサーさんでしたの! なんだ……てっきり不審者と間違われたのかと」
「あはは……すみません、誤解させてしまったみたいで。それよりよく一目で俺だと分かりましたね」
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