40:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:16:45.92 ID:uyzFntxd0
「なに速攻で諦めてんだよお前、今できることを探せよ!」
「で、でも……」
41:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:18:44.14 ID:uyzFntxd0
「だ、だけど、それじゃあ辰野君に迷惑が……」
「うるせぇ! お前がサンタになるんだよ!」
42:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:19:46.51 ID:uyzFntxd0
なんて馬鹿なことを考えているうちに、駅前商店街を抜けて、大きな国道へ出た。
それでも目的地まではまだまだ遠い。ペダルをもっと強く踏み込む。
43:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:20:39.03 ID:uyzFntxd0
「はぁ、はぁ……ちょっと、遅れちまったな……」
肩で息をして、冷たい空気を肺に取り込みながら、百貨店の入り口で豊橋を降ろす。汗だくの額を北風が撫でていく。
44:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:21:33.86 ID:uyzFntxd0
ここでお目当ての物が見つかればいいけど、果たして……と思いながら、百貨店の入り口近くに備えられたベンチに座り込む。
太ももがパンパンだった。座った瞬間に「もう無理っすよ〜!」と俺の豚足が悲鳴を上げる。弱音を吐くんじゃねーよ馬鹿野郎、と叱咤するけど、残り僅かな体力、暗くなってしまった道を思うと、気が重たい。
45:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:22:28.76 ID:uyzFntxd0
「よかった、あったよ、買えたっ」
豊橋は嬉しそうにそう言った。それなら重畳。ふぅ、と息を吐き出してから俺も言葉を返す。
46:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:23:05.21 ID:uyzFntxd0
「豊橋、あれっ」
「……あれ?」
47:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:24:24.20 ID:uyzFntxd0
「タクシー使えば余裕のよっちゃんだろ!」
「え、でも、辰野君は自転車だから……」
48:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:25:20.09 ID:uyzFntxd0
「た、辰野君っ!」
タクシーに踵を返そうとしたところで、豊橋に声をかけられた。珍しく大きな声だったから、ちょっとびっくりした。
49:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:26:36.47 ID:uyzFntxd0
「どういたしまして。そんじゃな、豊橋」
「う、うんっ。また、学校で」
50:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:27:54.81 ID:uyzFntxd0
◇
51:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:28:41.36 ID:uyzFntxd0
久しぶりにブラック・チェリー号に跨り、やけにペダルが重く感じたのはきっと冬の乾燥でチェーンオイルが渇いたからに違いない、なんて思いつつ、学び舎へ到着する。道行く廊下で友人知人とすれ違えば「あけおめ」「ことよろ」の挨拶を交わして、教室にたどりつく。
そこでもまた「あけおめ」「ことよろ」合戦をしつつ、廊下側から数えて二番目の列の一番後ろから二列目の席へ到着、すると。
52:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:29:43.81 ID:uyzFntxd0
「おー。おはよう、アンドあけおめー」
「あ、あけまして、おめでとう……」
53:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:30:31.84 ID:uyzFntxd0
「えっと、すごく、喜んでくれたよ」
妙にたどたどしく豊橋は言った。本当かよ、デブに鞭打った割に微妙で気を遣ってるとかないよな。
54:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:31:23.59 ID:uyzFntxd0
そうこうしているうちに始業のチャイムが鳴り、生徒たちが自分の席につく。程なくして几帳面な性格をしている担任の先生がやってきて、新年に関するありがたいお言葉や訓示をのたまう。
それから、こう言った。
55:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:32:33.53 ID:uyzFntxd0
ともあれ、先生が事前に用意しておいたくじを引き、これからしばらく運命を共にする席へと生徒たちは案内される。
くじを引くのは五十音順。先生が出席簿を片手に、「じゃあまずは飯田からだな」と生徒を呼びつける。
56:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:33:26.22 ID:uyzFntxd0
くじには窓際から二番目の列の最前席を示す番号が書かれていた。俺は天を仰いだ。オージーザス。神よ、私の何が気に入らなかったと申しますか? このお腹か?
がっくりとうなだれた俺を置いて、時間は進んでいく。豊橋がくじを引く時だけは厳粛な神社で初詣をしているような空気になったけれど、つつがなく、滞りなくくじ引きは終わった。
57:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:35:58.31 ID:uyzFntxd0
そして右隣の窓際最前列に視線を移せば、
「……よろしくね、辰野君」
58:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:37:11.56 ID:uyzFntxd0
新年だから心機一転、環境を変えよう。そういうのに相応しくないような結果な気がしないでもない。
でも、俺のウエストは去年より三センチ大きくなったし、バイトの時給もちょっと上がったし、席が前になって頭が良くなりそうだったし、友達も増えたし――
59:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:38:29.82 ID:uyzFntxd0
だから俺は笑いながら言葉を返すことにする。
「バーロー、話しやすい友達が近くて、コミュ障の俺には大助かりだわよ」
60:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/24(木) 06:40:07.39 ID:uyzFntxd0
参考にしました
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