118:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:24:47.37 ID:SYS+AFC90
「はぁ……はぁ……」
こんなに感情が昂ぶっている自分に内心驚いている。
どこまでも自分にとって淡泊であるはずの結果に、許し難いものがあるなんて考えもしなかった。
119:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:27:54.69 ID:SYS+AFC90
あたしは夕美ちゃんを助けたかっただけなんだ。
真実を明らかにすれば夕美ちゃんが置かれた不当な境遇はきっと洗われて、問題なくアイドルを続けられるはずだった。
これじゃあ何のために、あたしはいたんだ――どうして、夕美ちゃんは辛い思いをしなければならなかったのか!?
120:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:29:42.47 ID:SYS+AFC90
どうして皆、そうやって分かったフリをして、勝手なレッテルを貼るんだ。
その場にガックリと膝をついた。
視界に映る芝が滲んで揺れる。ブチブチと握りしめると爪の間に土が入って、それも構わず次々に引っ掴んだ。
121:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:32:21.72 ID:SYS+AFC90
甘い匂い――キンモクセイの香りだ。
研究を進める中で、飽きるほどに散々嗅いだはずなのに、あたしのささくれだった心は不思議なほどにその温かな匂いで安らいでいく。
「あ、うぁ……」
122:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:33:25.40 ID:SYS+AFC90
――――――
――――
123:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:35:21.84 ID:SYS+AFC90
『しょうがないですよ。志希ちゃんはワガママの言わない、手のかからない子だったのでしょう?』
『うん! 志希ちゃん、この間初めて私にワガママを言ってくれたんだよっ』
124:名無しNIPPER
2019/04/29(月) 02:36:55.66 ID:SYS+AFC90
『えぇと、そ、そうやって自分の意志を他人に依存させるのは良くないと思いますっ! って志希ちゃんが言ってました!』
『なるほどなぁ、ウーム、さすが我が娘……うおっ、辛ぁ!!』
『タバスコ入りのジャスミンティーです。この子の好みかと思ったのですが……』
125:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:40:28.81 ID:SYS+AFC90
『志希ちゃん……まだ正直、私もどうしたらいいのか、よく分かってないんだ』
『でも、今のポッカリ空いた気持ちのまま続けても、誰かに迷惑をかけちゃうかも』
『なんて……他人のせいにするのはズルい、だよね? でも……』
126:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:43:04.15 ID:SYS+AFC90
――――。
寒さで目を覚ましたけれど、陽はもう昇っていた。
時間を確認しようとスマホを取り出すと、プロデューサーからの着信がたくさん表示されている。
127:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:45:50.97 ID:SYS+AFC90
もういいや、どうにでもなれ。
このまま目を閉じていれば、この悲しみも忘れられるかも知れない。
あるいは――。
128:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:47:24.06 ID:SYS+AFC90
起き上がって、そのそばに近づく。
昨日は暗くてよく見えなかったドギツい真っピンクが、小さいながらもその存在感を無遠慮に主張している。
でも、本来キンモクセイは秋の花。
129:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 02:51:18.86 ID:SYS+AFC90
振り返って丘の下を見ると、お爺さんが空き缶を持って立っていた。
手の中にあるのは、空になったあの缶ビールだ。
「……管理人さん?」
130:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 03:04:03.55 ID:SYS+AFC90
「……え」
どっこいしょ、っとお爺ちゃんは芝生の上に腰を下ろした。
131:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 03:05:51.67 ID:SYS+AFC90
「アイドルは、それを咲かせることができるからすごい、とあの子はよく言っていました」
立ち上がってお尻をポンポンと叩き、お爺ちゃんはあたしの方へ歩み寄ってくる。
「いつか皆を笑顔にできるその子を、私は笑顔にしてみせたいのだとも……ところで、妙ですな」
132:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 03:08:59.30 ID:SYS+AFC90
――!?
「え、黄色?」
「まさに謙虚と言いますか、しかし、確かな存在感を放っている……
133:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 03:12:18.26 ID:SYS+AFC90
「あの子がここを忘れることなどありません」
お爺ちゃんはニッコリと笑いかけた。
「もちろん、このキンモクセイもね」
134:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 03:21:59.49 ID:SYS+AFC90
「……ありがとう」
謝る以外で人に頭を下げることは、たぶん初めてかも知れなかった。
あたしはお爺ちゃんとキンモクセイに、一旦別れを告げる。
135:名無しNIPPER[sage]
2019/04/29(月) 03:24:15.21 ID:h7H+XLyEo
読ませるねえ
おかげで寝不足だよこんちくしょう
136:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/29(月) 03:24:26.88 ID:SYS+AFC90
Mr.Childrenの『ほころび』という曲を基に書きました。
途中、同曲の歌詞を所々引用しています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
137:名無しNIPPER[sage]
2019/04/29(月) 10:42:44.14 ID:akNQUIpfo
乙
いいSSだ、感動的だな
138:名無しNIPPER[sage]
2019/04/29(月) 18:27:16.17 ID:ltXa8fsro
武内Pと楓さんのfanfareの人?
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