一ノ瀬志希「ほころび」
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133:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 03:12:18.26 ID:SYS+AFC90
「あの子がここを忘れることなどありません」

 お爺ちゃんはニッコリと笑いかけた。

「もちろん、このキンモクセイもね」


 あたしは、もう一度出来損ないのキンモクセイを見つめた。

「あはは……」

 改めて見ると、なんて中途半端な色合いだろう。
 しかしその花は、モノクロでしか視界に映さないあたしに、目を覚ませと生意気にも叱りつけるようにも見えて――。


「はははは」

 夕美ちゃんに破壊され、ボロボロになった心から、ほつれた糸が垂れていた。
 それを何となしに引っ張ったら最後、それはするりするりと伸びていく。

 一体何がおかしいのか、自分でも分からないくらい、どんどん顔がほころんでいくのが止まらない。

「な、はは、あははは」

 そうか、夕美ちゃん――。


 ほころびはまた広がって、何かが顔を出した。
 そこにいたのはキミだった。

 笑ってるキミ。



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