荒木比奈「ジャスト・リブ・モア」
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12: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:08:40.81 ID:BEFLqt5g0

近くの喫茶店へ並んで入る。お客さんからもあまり見られない隅っこの席で、男の話を聞いていった。

「芸能事務所のプロデューサー?」

以下略 AAS



13: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:09:12.03 ID:BEFLqt5g0

「荒木さん。俺はあなたをアイドルになってもらいたいと、心の底から思っています」

真っ直ぐ私の方を見ながら、彼は言葉を紡ぐ。私は彼の視線の耐えられず、うつむきながら、また反論する。

以下略 AAS



14: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:09:45.32 ID:BEFLqt5g0

「アタシが…」

私は自分の事を、社会の片隅で、コッソリ生きていくのが性に合っている人間だと思っていた。漫画を描いて、食べて、寝てれば幸せな生き物なのだと、そう思っていた。

以下略 AAS



15: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:10:17.53 ID:BEFLqt5g0

チクタクと、時計の秒針の音をBGMに、私は昨日投げかけられた言葉を思い返していた。

『比奈にもいつか、きっと夢が見つかるって!』

以下略 AAS



16: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:10:50.39 ID:BEFLqt5g0

彼…プロデューサーさんと別れる前に、アタシは一つ条件を出した。それは、「アイドルするのは、今描いてる32ページを終わらせてから」というもの。プロデューサーさんは「終わったら連絡して欲しい」とだけ言って、もう一枚名刺を渡してきた。もうもらいましたよと指摘すると、恥ずかしそうに懐にしまった。

そして今は、ペン入れの真っ最中。驚くほどに筆は乗り、過去でも一、二を争うほど作業スピードがいい。

以下略 AAS



17: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:11:24.59 ID:BEFLqt5g0

◆◇◆

「と、まあ、こんなところっスね」

以下略 AAS



18: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:12:09.29 ID:BEFLqt5g0

午後11時30分。鍋もケーキも食べ終わって、後片付けも(「主役は座ってて」と主に二人が)した。二人はもう寝ている。明日がオフの私と違って、二人には仕事があるし、このままぐっすりとしてもらおう。本当はまだまだおしゃべりがしたかったけど、しょうがないよね。

私は一人起きて、スマホの画面を眺めていた。

以下略 AAS



19: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:13:09.34 ID:BEFLqt5g0

風が冷たい。でも体は熱い。大慌ててで電話に出る。

「も、もしもし!」

以下略 AAS



20: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:13:40.84 ID:BEFLqt5g0

疲れていながらも、彼の声は落ち着いていた。それに対して、私は巡り合わせのような、ご都合主義のようなこの状況で、心臓がバクバクしていた。だって、さっきまで思っていた人から電話がかかってくるなんて思っても見なかったことだし。

「で、でPさんは何の用っスか?」

以下略 AAS



21: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:14:24.05 ID:BEFLqt5g0

『…誕生日、おめでとう!』




22: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:14:51.04 ID:BEFLqt5g0

「…………あ……ハイ………」

『日付が変わる前に、言えて良かったよ』

以下略 AAS



23: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:15:32.79 ID:BEFLqt5g0

それから私は、二人には話していない所まで彼にお話した。将来に対して抱えていた不安、夢がなかった事による焦燥、出会えてから見つかった目標。支離滅裂で、所々跳んじゃうけど、思いが止まらずあふれ出る。

「アイドルとして楽しい日々を送ることも出来て…だから…アタシ、Pさんには感謝しかないんスよ」

以下略 AAS



24: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:16:02.29 ID:BEFLqt5g0

『うん…うん、そっか』

私達は、もっともっとお話をした。この一年の、二人で過ごした時間の話。話していると、全てが懐かしくて新しくて、出来ることならもう一度、なんてことも思ってしまう。

以下略 AAS



25: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:16:38.46 ID:BEFLqt5g0

◆◇◆

比奈との通話が終わり暗くなったディスプレイを一瞥し、スマホを懐にしまう。それから、仕事用に椅子に座り直した。

以下略 AAS



26: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:17:37.23 ID:BEFLqt5g0

僕には、夢がなかった。正しく言えば、子供の頃からの夢に破れ、やりたいことが見つからなかったのだ。

成り行きでプロデューサーになった後、夢破れた自分を恥じ、過去に決別しようと思った。無理に一人称を変え、髪型を変え、口調を変え、自分を変えようとした。その全てが中途半端に終わった。我ながら情けなかった。

以下略 AAS



27: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:18:14.41 ID:BEFLqt5g0

それに、感謝しかないのはこっちだって同じだ。夢破れて何も無かった自分に、夢をくれたのは比奈なんだ。

「荒木比奈のプロデュース」という夢をくれたのは、他でもない、交差点で出会った彼女なんだ。あのときから、僕の人生は再スタートを切ったんだ。比奈みたいに弱い自分と向き合いたいと、心の底で思えるようになった。だから、お礼を言うのはこっちの方なんだ。

以下略 AAS



28: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:18:40.95 ID:BEFLqt5g0

◆◇◆

私は、ベランダで後悔をしていた。急にあんな事を言い出して、引かれてないかと言うこと。懸念していたはずなのに、なんだ、私は浮かれていたのか。浮かれていたな、うん。

以下略 AAS



29: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:19:37.77 ID:BEFLqt5g0

ここまでです、ありがとうございました。荒木比奈さん、誕生日おめでとうございます。総選挙はどうぞ皆様、よろしくお願いします。

「もう何もかも終わったんだな。通りで安らかな気分な訳だ」
「ああ、貴虎。あんたはもう十分すぎるほど苦しんだ。あんたが背負っていたのは、一人で引き受けるには重過ぎる荷物だったしな」
以下略 AAS



30: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:37:35.25 ID:BEFLqt5g0
元ネタは
モーターサイクルとセントエルモの火です


31:名無しNIPPER[sage]
2018/04/09(月) 23:13:25.83 ID:M+WjP53qO



32:名無しNIPPER[sage]
2018/12/06(木) 22:31:42.72 ID:d+bib89Ho

虹色ドリーマーの3人のお互いに落ち着いて話せる相手感が好き


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