12: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:08:40.81 ID:BEFLqt5g0
近くの喫茶店へ並んで入る。お客さんからもあまり見られない隅っこの席で、男の話を聞いていった。
「芸能事務所のプロデューサー?」
「ええ。…俺は、そこにあるCGプロダクションで、プロデューサーとして働いているんです」
「…ああ、あそこの。…で、そのプロデューサー様が、日陰者のアタシに何の用っスか?」
「…単刀直入に言います。俺はあなたを、アイドルとしてスカウトする為に、お声かけをしました」
アイドル? スカウト? へぇ、それはまあ、たいそうなことで。で、私がアイドルに……って。
「……アイドル!? アタシが!? いやいやいやいやいや! 無理! 無理っスよ〜!」
「まあとりあえず、これだけでも」
苦笑いしながら、彼が懐から何かを取り出し、手渡してきた。長方形のそれは、目の前の男が、芸能事務所の人間だと示す名刺だった。事務所の電話番号から個人用のメールアドレスまで、右下にびっしりと連絡先が書かれている
「あ、こりゃご丁寧にどうも……って、いやいやいや、連絡はしないっスよ? だってアタシ、アイドルなんて向いてないんで!」
体の前で両手を振って、思いっきり拒否の態度を示す。私がアイドルに…って、自分で言うのもアレだけれど、目の前の人が的外れなことを言っているような気がして。
「ははぁん、アナタ、さてはその目、かなり節穴っスね〜?」
冗談のように自分には無理と、言ってやった。それから、少し言い方がキツくなってしまった、しまったと、気分が落ち込んでいるからってそれを会ったばかりの他人にそれをぶつけるなんて、と後悔をする。
けれど、目の前の人は、そんなことは全く気にしていないとばかりに、口を開いた。
「俺は」
真剣な面持ちで、彼はアタシに向かって言う。
「俺は本気です。」
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