13: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:13:16.57 ID:FpkFq5Eu0
「うん。私はそれを聞いてね、羨ましくって――でも手を伸ばせばわたしにも届きそうに思えた。
でも本当に手を伸ばしていいのかな? 志貴と一緒にいる時はこんな事考えないけど、一人になると昔のわたしが訴える。
アルクェイド・ブリュンスタッドは無駄なものを持ってはならない、余分は事をしてはならない。それは個体としての機能を落とす事に他ならない――って」
「おまえ……」
14: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:14:08.03 ID:FpkFq5Eu0
いったい誰に何を言われたのか。
うつむき加減で不敵に笑い始める。
というか二人の知り合いが教会にいたとか今初めて知った。
「今のところ埋葬機関としての仕事はありませんし、期せずしてあなたと奇妙な友好関係を築けたわたしが監視役として最適なのだから黙ってろとは言ってるんですがね。
15: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:14:49.54 ID:FpkFq5Eu0
「学校は確かに楽しいものですが……楽しいから通っているかというと、少し違いますね」
そんな俺も知りたかったけど知るのが怖い問いかけに、先輩は穏やかな表情で答えた。
「私が学校に通っているのは……憧れ……心残り……そういったものです」
16: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:16:17.83 ID:FpkFq5Eu0
「――――――――――」
沈黙が流れる。
17: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:16:52.95 ID:FpkFq5Eu0
辛い過去――などという生ぬるい表現では済まない事をまざまざと思い返しながら、先輩は今の自分の生き方を語ってくれた。
それもこれまで幾度となく争ってきた自分に、何の打算も無く、一人の友人として。
これに謝るのは間違っている。
先輩はそんなつもりで胸の内を明かしたわけではない。
18: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:18:25.48 ID:FpkFq5Eu0
※ ※ ※
「はじめまして、アシスタントティーチャーのアル美です!
19: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:19:08.91 ID:FpkFq5Eu0
「ぐお……っ」
「遠野くん……!?」
あまりの絶望に頭を抱える勢いが止まらず、机に額を叩きつけるように突っ伏してしまう。
20: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:19:52.03 ID:FpkFq5Eu0
「し、質問です! アル美先生はおいくつなんでしょうか!」
「好きなブランドは何ですか!」
「誕生日はいつでしょうか!」
21: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:20:35.78 ID:FpkFq5Eu0
……大丈夫だよな。
俺とアルクェイドが知り合いだって気づかれていないよな?
「それで好みのタイプだけど、ふふ」
22: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:21:19.10 ID:FpkFq5Eu0
あれ? 弓塚まで地獄に落ちたような表情だ。
何で前の席に座っている弓塚の表情がわかるかというと、さっきからテンポが早いメトロノームにように教壇に立つアルクェイドと俺を交互に見ているからだ。
首をあまりに酷使しているせいか顔が真っ青だけど、大丈夫なんだろうか?
「えへへ。まだまだ語りたい事はいっぱいあるけど、これ以上は怒られちゃうからそろそろ授業を始めます」
23: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:22:03.98 ID:FpkFq5Eu0
※ ※ ※
「はい。それじゃあ87ページ二段落目からの英文を――」
24: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:22:48.23 ID:FpkFq5Eu0
早押しクイズのように今か今かと手を挙げようとしていた男子たちを制止すると、アルクェイドは座席表を手に取る。
「先生が授業をするうえでやりたかった事の一つにね、これがあるんだ。
今日は〇×日だから、出席番号〇×番!」
25: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:23:40.65 ID:FpkFq5Eu0
「ねえねえ、そこの貴方。名前は大野……絆琉《はんる》で合ってる?」
「アル美先生。わたしの名前は絆琉《ほたる》って読んでしまうんです」
「ご、ごめんなさい絆琉ちゃん。間違えちゃって」
26: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:24:37.06 ID:FpkFq5Eu0
ヤケになったアイツは唐突に俺を名指しした。
待て待て、おまえ生徒はフルネーム呼びで“くん”か“ちゃん”を付けていたよな?
なんで急に下の名前だけで呼び捨てにしてんだ!
「あっはっは。アル美先生が日本人の名前にキレた」
27: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:25:22.70 ID:FpkFq5Eu0
※ ※ ※
「――という事があったんですよ」
28: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:26:09.36 ID:FpkFq5Eu0
「……まあいいとして、何でエチオピアなんだよ」
「国籍なんてどこでもいいでしょ? 最初はパキスタンにしようかと思ったけど、シエルってば国籍をインドにしてなかったから。
それで昨日志貴が食べてたドロワットを思い出してエチオピアにしたの」
29: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:26:50.14 ID:FpkFq5Eu0
何となく……昨日のメシアンでの会話が関係あるんだと考えてたけど……そっか……カレーの方だったか。
あまりに突飛な返答に、頭が追いつかずに処理落ちしてしまっている。
ここは一つ落ち着くために深呼吸でもしよう。
30: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:27:58.55 ID:FpkFq5Eu0
「わたしね、志貴と一緒にいるのがすごく好きなの。
でも志貴が人生で一番多く過ごしている学校という場所を良く知らない。
そこでの志貴をもっと知りたいと思ったの」
「――――――――――」
31: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:28:42.83 ID:FpkFq5Eu0
「前々から気になっていた学校という場所を、人がたくさんいる普段の状態でもっと見たかったのもある。
今日一日は新鮮な事ばかりで、たくさん笑って、困って、考えさせられた。
大勢の人に自分の考えを伝えるにはどうすればいいかなんて、ここに来なければ考える事は無かったと思う」
アルクェイドは楽しそうに――――幸せそうに笑う。
32: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:29:45.72 ID:FpkFq5Eu0
最後まで読んでいただきありがとうございました。
旧月姫ではアルクェイドとネロ教授が特に好きでした。
リメイク版ではアルクェイド、シエル先輩、秋葉さまが好きです。
33:名無しNIPPER[sage]
2021/09/28(火) 00:42:52.23 ID:cD62eDrto
乙
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