10:2/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:36:48.92 ID:ldlfMP+C0
「そうだなあ。言うだけあって、人を魅了する素質が備わり過ぎてて怖い。俺は今、とんでもない逸材を世に放とうとしてしまってるんじゃないだろうかって、そう思うよ」
「急に頭が悪くなったような物言いですね。言わんとすることだけは、まあ、伝わりますが」
「もっと具体的に褒めてほしいんだけどなぁ。お前は人を魅了するって昔から言われてるから、なんだか新鮮味がないし」
11: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:37:51.57 ID:ldlfMP+C0
3/27
レッスン場へ足を運ぶと、ちょうど小休憩の頃合いの千夜が静かに休んでいた。
ちとせには用事があるとのことで、1人でレッスンに臨む千夜を見ていてほしいと頼まれている。頼まれずともそうするつもりではあったのだが。
12:3/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:39:35.08 ID:ldlfMP+C0
しばらくレッスンを見学し、ちとせに何と報告したものか悩みながら、彩りが変わりつつある己の城へ一旦戻ることにすると、中からちとせとちひろの談笑する声が響いていた。
今日は来ないものと考えていた分、面食らいながら入室する。
13:3/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:41:18.79 ID:ldlfMP+C0
「……」
「優しいね、魔法使いさんは。ちひろさんの言ってた通り」
「ん? って、やっぱり俺のことちひろさんから聞いてたのか!?」
14:3/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:42:04.19 ID:ldlfMP+C0
「私は私のために今を楽しみたい。ただ、それ以上に千夜ちゃんが輝いてる姿を見たくなったの。静寂に包まれた月光浴もいいけど、舞踏会でスポットライトを浴びるなんて素敵じゃない♪ あなたには期待してるんだから」
「……責任重大だな」
ちとせが千夜に寄り添う形で、千夜は孤独から救われた。在りし日の面影を無くそうと、千夜がちとせに忠義を尽くす理由はもう聞くまでもない。
15: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:43:22.20 ID:ldlfMP+C0
4/27
窓を開けると薄桃色を忘れ去った暖かな緑色の風が流れ込んだ。過ごしやすい時期になり、何かをスタートさせるにはうってつけの気候である。
風にたなびくちとせの長く綺麗なブロンドが落ち着くまで待ってから、赤に侵食されつつある自分の城でプロデューサーは2人の少女に宣告する。
16:4/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:44:37.43 ID:ldlfMP+C0
ちとせはいつか千夜を僕ではなくしたいと思っているようだが、今の千夜にその役目を奪ってしまうのは酷というものだ。
その課題はさておき、2人が2人らしく、それでいてどちらも輝かせるにはどうするべきか。
「ちとせの魅力を誰よりも引き出せるのは、千夜の他に俺は知らない。千夜の魅力を誰よりも引き出せるのは、やっぱりちとせしか知らない。2人のことを知らしめるのに、これ以上相応しい相手がいるか?」
17: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:45:33.92 ID:ldlfMP+C0
5/27
ユニット曲や衣装の打ち合わせ、LIVE会場の手配、その他にもプロデューサーとしてなすべき仕事を片付けるためデスクでパソコンに向かい根を詰めていると、ドアの開く音が聞こえてきた。
18:5/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:47:21.80 ID:ldlfMP+C0
経験も浅く、心に余裕が持てなくて自分のことで精一杯になっても何らおかしくはないというのに、細部まで思い返せるほど冷静だったのだろうか。新人揃い踏みの中でそうであったとしたら、異質に映ってしまっても道理である。
「緊張からか、呂律が回っていない方、身体の動きが不自然な方――ああ、遅れそうになったのかオーディションが始まっても肩で息をしていた方もいましたね」
「それで、審査員の方々はどういう反応だった? 審査する時の雰囲気というか」
19:5/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:48:39.05 ID:ldlfMP+C0
『お嬢さまよりここへ行けと言われました。だから来た。それだけです』
お嬢さまというのがちとせを指していることに気付くまで話が噛み合わないまま、それでも本心ではないがアイドルにはなろうという謎の押し売りをする彼女に感じるものがあった。
今こそ離れているが、中にはアイドルになる気がなかったはずの少女たちの活躍もちひろ越しに聞き及んでいる。
20:5/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:49:39.13 ID:ldlfMP+C0
ちとせの手前、仕方なく引き下がっただけだとすれば、千夜の内心たるや淹れたてのコーヒーよりも熱く煮えたぎったりはしていないだろうか。
「ううん、あなたのやり方でいい。……千夜ちゃんってあんな風に怒るんだね」
「ケンカとかしたことないの?」
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