白雪千夜「私の魔法使い」
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20:5/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:49:39.13 ID:ldlfMP+C0
 ちとせの手前、仕方なく引き下がっただけだとすれば、千夜の内心たるや淹れたてのコーヒーよりも熱く煮えたぎったりはしていないだろうか。

「ううん、あなたのやり方でいい。……千夜ちゃんってあんな風に怒るんだね」

「ケンカとかしたことないの?」

「ないよ。私の僕ちゃんになってからは特に、ね」

「……ちとせの言う事なら何でも受け入れそうだもんなあ」

「あっ、でも私しか知らない千夜ちゃんはまだまだいっぱいいるんだから、いろんなあの子を引き出してあげて? 本当はもっと可愛いんだから♪」

「努力します……まずは嫌われないように」

「あは、大丈夫だよ。あの子もきっと、あなたと同じ」

「え? それって」

 話は終わりとばかりにブロンドが優雅に翻る。そのままちとせの特等席へ変貌している赤くなったソファへ、座り心地を誤魔化すためにもたらされた高級そうなクッションを添えて腰を下ろすと、程なく千夜が主人にコーヒーを運んできた。

 以前はちひろによくそうしてもらったな、と懐かしみながら中断していた仕事を片付けるためパソコンへ向き直ること数分、またも誰かが近付いてくる気配を感じてそちらへ顔を上げる。

「……どうぞ」

 それは千夜だった。1人分のコーヒーを携え、邪魔にならないようにパソコンのモニターを眺めながらぶっきらぼうに言う。

「お前もお前の仕事をしているようですし、もののついでです。それともコーヒーは苦手でしたか」

「そんなことはないけど……」

 これまたちとせ色に塗り替えられた食器類で、千夜から何かを差し出されたことは一度たりともなかった。
 どういう心境の変化だろうか、はたまたそのコーヒーには何か仕掛けが? と一瞬脳裏をよぎり、反応できないでいる。

 いや、これはちとせがさっきくれたヒントの通りなのかもしれない。千夜もまた、プロデューサーとの距離を測りかねているのだ。
 仏頂面の奥に隠れた少女の一面を垣間見れて、つい笑みがこぼれる。

「なんだその顔は……心外だ。気が変わった」

「えっ、あっ、ちょっと! 違うんだ、飲みます頂きます!」

「くすっ。あらあら」

 2人を見やるちとせが思わずこぼした苦笑いは、口に含まれたコーヒーの苦みのせいではなく、だけれどそれは千夜のコーヒーのせいであった。






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