白雪千夜「私の魔法使い」
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19:5/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:48:39.05 ID:ldlfMP+C0
『お嬢さまよりここへ行けと言われました。だから来た。それだけです』

 お嬢さまというのがちとせを指していることに気付くまで話が噛み合わないまま、それでも本心ではないがアイドルにはなろうという謎の押し売りをする彼女に感じるものがあった。

 今こそ離れているが、中にはアイドルになる気がなかったはずの少女たちの活躍もちひろ越しに聞き及んでいる。
 スカウトやオーディションでの採用基準として、本人のやる気は関係ないというのも我ながらどうかと思っているが、とにかく千夜には惹かれるものがあったのだ。

たとえちとせの差し金でなかったとしても、千夜のことは是非ともアイドルにしていたように思う。勘の働くままにスカウトをし続けていたかつての自分であれば、それだけの価値はある、と見据えて。

「――あんな自己アピール、初めて聞いたよ。なりたいのかなりたくないのかどっちなんだー、ってね。……ぷっ」

 千夜との出会いを回想していたら笑えてきてしまい、今度はにやけているだろう顔をパソコンの陰へ隠すために頭を下げる。もちろん意図はバレバレだ。

「な、何を笑って、くっ……お前ぇぇええ!」

 プロデューサーのデスクへと詰め寄る千夜。少しでも距離を取ろうとするも、椅子を半回転させて背を向けるのがせいぜいだった。

「いや、やっぱ駄目だよあれは。ああでも今度オーディションで同じ風に言ってみたら、案外受かるかもよ? 俺みたいな審査員だったらな、くくっ」

「今すぐ忘れなさい、聞いているのですか!」

「ははは、面白いなー千夜は。面白い上に可愛いときた、こんな子に価値がないなんてそれこそ笑っちゃうね」

「馬鹿にしてますね? 馬鹿にしてるでしょう。……少しは見直してもいいかと思えば、これか」

「え、千夜? 待った。目がマジなやつだ! 助けてちとせー!」

「喚いても無駄です。だいたいお嬢さまは今――」

 と、そこへ都合良くドアが開き、タイミングを計ったようにブロンドの少女がにこにこしながら入ってきた。
 突然の主人の来訪に、千夜も目を丸くしている。

「2人とも、私がいない間に随分仲良くなっちゃって。どんな魔法をかけたの?」

「お嬢さま!? これは、違います! ……いつからお戻りになられていたのですか」

「駄目だったって先に連絡くれてたからな。そろそろ戻ってきてもおかしくない時間だったし、いや助かったよ」

 千夜から恨めし気な視線が送られてくるのを流しつつ、賭けに勝ってこの場を収めてくれたちとせに感謝するしかなかった。

「ごめんね千夜ちゃん、何か飲みたいんだけど淹れてくれる?」

「かしこまりました。コーヒーでよろしいですよね、少々お待ちください」

 すっかり給湯室の番人――ただしちとせ専用の――となった千夜は、手際よく準備を開始している。
 千夜と入れ替わりにちとせがこちらへ近づいてきた。というよりは、そのために千夜を給湯室へ追いやったに違いない。

「……やり過ぎたかな」



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