18:5/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:47:21.80 ID:ldlfMP+C0
経験も浅く、心に余裕が持てなくて自分のことで精一杯になっても何らおかしくはないというのに、細部まで思い返せるほど冷静だったのだろうか。新人揃い踏みの中でそうであったとしたら、異質に映ってしまっても道理である。
「緊張からか、呂律が回っていない方、身体の動きが不自然な方――ああ、遅れそうになったのかオーディションが始まっても肩で息をしていた方もいましたね」
「それで、審査員の方々はどういう反応だった? 審査する時の雰囲気というか」
「特に咎めるでもなく、思っていたよりも……その、和やか、だったかと」
「うん。まあ、新人をわざわざ起用したいなんて案件だ、大抵のことは大目に見るつもりだったんだろう。むしろその初々しさが決め手になったりしてな」
「……そこまで読んでいた上で、何も教えないまま私に行かせたのですか?」
「こういう場合はむしろ教えないから良いと思うけど……ごめん。俺がまだ千夜のことをわかっていないせいだ」
つい謝罪の言葉が漏れてしまい、遅れて頭を下げる。
ちとせも含めいきなり戦果を上げてこいなどと高望みはしてはいないが、彼女らに向いている仕事を取ってくることもまた、プロデューサーとして果たすべき仕事だ。
2人のユニットデビューはきっちりとしたお膳立てを元に成り立っている。上手くいけば一気に注目を集められるが、だからこそ無名の新人として、独力で1から積み上げていく段階を今のうちに経験しておいてもらいたいのだ。
「お前が謝る必要はありません……頭を上げなさい」
文句の1つでも頂戴する覚悟だったが、千夜にその気はないようだ。
言われるがまま頭を上げると、千夜は千夜で謝罪を受けることになるのが予想外だったのか、決まり悪そうにしている。
「お前も、苦労しているのでしょう。お嬢さまの戯れに乗せられ、私などをアイドルに仕立て上げねばならないのですから」
「まあ、それが仕事だから」
「無から有は生み出せない。価値のない者がその価値を評価されにいくなどと、土台が間違っているのです」
「そうかなあ。俺は千夜に価値が無いなんて思わないよ? だって――」
初めて千夜と出会った時のことを思い出す。
ちとせと出会った翌日、久し振りに使う人数が増えそうな自室を整頓しようとばたばたしていた時、いきなり現れたのが千夜だった。
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