白雪千夜「私の魔法使い」
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21: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:50:40.89 ID:ldlfMP+C0
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 終わりなき探究の末、千夜の機嫌が良好であるかどうかを見極められつつあった。
 といっても、ちとせとの合同レッスンがある日しか拝めないので、機嫌の良い理由は明白である。

「お嬢さま。そろそろ参りましょう」

「あーん、もうそんな時間? じゃあ行ってくるね、魔法使いさん♪」

「行ってらっしゃい。無理はしないようにな」

 コツコツとちとせ好みに居心地を改良されてしまったからか、ちとせと千夜が2人揃っている時に限り、事務所に滞在している時間が長くなってきている。

 たまに事務所内の施設を巡っているようだが、やはりこの部屋でくつろいでいることが多い。まだ半分くらいは何にも染まらずにいられている部屋も、いつしか塗り替えられてしまいそうだ。

 なおこれ以上侵攻する場合は力仕事と相成りそうなため、自らの手でちとせの居城へと改装する日も遠くない。

「まあ、他にアイドルもいないしな……」

「誰がいないんですか、プロデューサーさん?」

 独白を聞き返され慌てて声の主を確認すると、資料を抱えたちひろがデスクに座るところだった。

「ちひろさん? い、いつの間に」

「ちとせちゃんと千夜ちゃんとすれ違いに入りましたから、驚かせちゃいました?」

「そんなことないですけど、ははは」

 本日はかつてプロデュースしていたアイドルたちの近況報告、並びにアイドル活動が上手くいっていない者へのフォロー案、といったアフターケアをちひろを介して行う手筈になっている。

 後を任せている同僚のプロデューサーからすれば、回りくどいことこの上ないだろう。
 しかし彼女たちへの負い目もあり、会いに行くこともかなわない状態で自らプロデュースする状態にはない。

「寂しいんですよね、本当は」

「……」

 出来ることなら、かつての賑わいを取り戻したいと思っている。ちとせと千夜もその中の一員に加えて、まとめて面倒を見てやりたい。

 そうしていくだけの自信が、なくなってしまった。なんとか輝かせようと必死になってきたプロデューサーは、その輝きを失う星々の姿を目の当たりにすることを恐れるようになっていたのだ。

「……逃げ出した俺が望んでいいことじゃないですから」

「あんなに必死になっていたプロデューサーさんを、誰も責めたりなんてしませんよ。それぐらいわかっていらっしゃいますよね」

「だとしても、合わせる顔が……」

「では、少々強引になりますが、合わせてきてください。はいこれ」

 自然な流れでデスク越しに渡されたそれを、うっかり手に取ってしまった。



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